何気ない日常が プロローグ

プロローグ 「一人の女の登場で変わり始める」

 ――リストラ――
 そういう言葉がこの世にはある。
 それは社会人であれば誰もが恐れる言葉であり、社会人はその言葉に歯向かうように生きているのもまた事実である。
 が、ここでひとつ勘違いしないでほしいことがある。

 俺――蓮薄(はす・すすき)――はまだ学生だ。

「はぁ~、リストラねぇ」
 そう考えるとお先真っ暗だ。
 学生の本分は勉強。
 社会人の本分は仕事。
 これは大体の人に当てはまることで、事実、俺もこれを普通のこととして受け入れている。
 否、受け入れていたはずだった。

 あれはちょうど今から2年ほど前だったか。
 勉強くらいしかする気の無かった俺が衝撃を受けたのは。
 町ですれ違った女性に一目ぼれ。
 コンビニの女店員に一目ぼれ
 公園で遊んでた子供に一目ぼれ。
 と、あまりにも女性に惹かれることが多くなってきたのだ。……さすがに最後のはやばいが。
 こんなことは今までで始めてだった。
 育つ環境がそうだったせいか、俺の周りには女っ気が全然無かった。

 幼馴染の女の子などいなかったし、
 学校の中でも女子と話した記憶なんてほとんど無い。
 挙句進学する学校も男子校。
 ……ここまでくるともう恋愛なんて馬鹿馬鹿しくなってきたほどだった。

 それがいきなり一目ぼれなんて、……いや、むしろ今までのことがあったせいか、異常なまでにほれてしまったのか、
 まぁこのさい考えなんてものは関係ない。ここで重要なのは、俺は多くの女性に惚れてしまった、ということだ。
 それも、普通の恋愛感情ではなく――というか普通の恋愛感情が分からないので、一般的な恋愛というのに基づいて――歪んだ恋愛感情、というところである。

 俺の考える一般的な恋愛=お互いに愛し合う関係、であり、俺の今の恋愛感情=相手を一方的に俺の言うことをきく奴隷にする。というものである。

 相当ゆがんでいると思う。俺ですらそう思うのだから他のやつが聞いてもそう思うだろう。
 そんな思想が何故急に俺の頭に浮かんだのか、それはよく分からない。それを考えつつ、俺はうちへ帰ることにした。

 今日は平日。
 さっきも言ったが俺は学生だ。が、なぜか学校に行きたいと思わない。……まぁべつにいかなくても出席数は足りてるので単位が取れなくなることは無いが。
 さて、今日もうちでごろごろするか。
 そう思って家のドアを開けた。

「あ、お帰り、薄」
「あぁただいま」

 帰るなり早々俺に挨拶する女性。身長は俺と同じくらいで、髪は短く切ってある。
 目はわりとパッチリしていて、髪の色は淡い黄色。この人……誰だっけ?
 ……いや、その前に、俺はこんなやつ、しらねえぞ!?

「お……お前……だ、誰だ!」

 俺の家に白昼堂々といる女。
 出かける前に鍵はかけたから、入れるはずは無い。……考えられることとしては、ピッキングか!?
 そう考えてると、女はクスリと笑って、

「貴方にとっては初めまして、かな?薄君。あなたの人生を変える者です」

 そう、笑った。

< 続く >

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