第一話 「説明により崩れ始める」
「俺の日常を変える者……?」
まず、俺は話の展開についていくことができなかった。
急に俺の家にいる女性。そしてこの言葉。
頭の中を整理するのに5分弱かかった。
「大丈夫?頭」
「あ……あぁ」
とりあえず落ち着け、俺。
OK、頭の中がすっきりしてきた、ここまでの話の内容を整理しよう。
1、家に見知らぬ女性がいる
2、謎の言葉をつぶやいた
……、ってあれ?よくよく考えてみるとこれだけだぞ。
「うん、それだけだよ。難しく考えすぎなんだよ、薄は」
「あ、うん。ごめん。……じゃなくて!」
……?今なんか違和感があった気が、まぁそんなことよりも、二つしかないという事実よりも、重要なのはその中身。
「何で家にいるんだ!どうやって入ってきたんだ!」
大声で聞きたいことを聞く。だいぶヒステリーになっているがそこは気にしないでおく。
俺の大声も気にせず、女はさらっと答えた。
「何で入ってきたかって?それはあなたに会いたかったからよ。どうやって入ってきたかって?それは今から説明するわ。少し複雑だもの」
そんな答えを女は返してきた。
俺に会いたいから?
益々もって分からない。俺はこの女のことなんて知らないぞ。
「だからぁ、そういうのも含めて今から説明するんだって。ちゃんと人の話を聞いてよ」
……またさっきの違和感が。その違和感が何なのか、なんだかよく分からないが。
ずいぶん偉そうだな、この女。……まぁいい。説明してくれるならそれに越したことは無いからな。
「まず、簡単なことから話していくね。私の名前は崖屶(きりぎし・なた)。そのほかのプロフィールは、また後でね」
そういうと屶は俺に向かってウインクをした。
「でね、あなた今いろいろと頭の中が大変でしょ?一目惚れしやすくなったり、その女を従順に操りたいと思ったり」
屶がズバリ言う。
……なんで知ってるんだ?
「ふふ……、それはね、私が力を使ったからなの」
続けて屶はそういった。
力?使う?もう何が何やら、さっぱりだ。
「実はね、私は普通の人には使うことのできない能力、簡単に言ってしまえば私だけが使える能力ね、それがあるのよ」
屶が俺の眼を見据えながら言う。
「私が持ってる能力は簡単よ。人の記憶を変えること。それが私の能力。これを使えば、この家に入るのは『そこそこ』簡単だったわ」
そこそこ、を強調しながら屶は言った。
「あなたの家って貸家なのよね。しかも一人暮らし。だから大家さんの記憶を『私がこの家の住人』って変えれば簡単。
あとは、『鍵をなくしちゃいました』っていったら、大家さん、鍵をあけてくれたのよ」
気前よすぎるぞ大家さん!……まぁ、そのおかげで俺の家賃を少なめにしてくれてるんだけど。
「とまぁこんな感じに。ここまでは理解できた?」
「あぁ。要するに、お前は記憶を変える能力を使って大家さんの記憶を変え、この家に入った、と。そういうわけだな?」
「そーそー。話が分かるね、さっすが薄!」
屶が俺の背中をバンバンたたく。……少し痛いんですが。
……ってまてよ?人の記憶を変えることができるってことは、つまり、
人の記憶を読み取ることもできるってことか
「人の記憶を読み取ることもできるってことよ」
屶が俺が考えたときとちょうど同じときに言葉を発した。
……なるほど。さっきから俺の心と会話してるように感じた違和感はそれか。
……でも、それだけじゃ分からない部分がある。屶は俺の頭がおかしいのは自分の力を使ったせいだ、と言った。
だが、記憶を変えるだけじゃ、俺がそういう感情を持つことは無い、つまり、
こいつの能力は他にもあるってことか
「わたしの能力は他にもあるってことよ」
また俺の考えと同時に話す。……別に一緒に言うこと無いのに。
「ふふ、ごめんごめん。じゃぁ話すわね。私のもうひとつの能力。それは……」
と、突然俺の中で何か熱いものが生まれた、感じがした。
それは俺が一目ぼれしたときと同じで、歪んだ愛情。
この。
女を。
操りたい。
洗脳したい。
オカシタイ。
そんな思い。
……い、いや、まてまてまて。
「お前……俺に……何をした……」
「凄い凄い。私の感情を変える能力に勝ってるなんて」
「感情を……変える……能力……?」
「そう。この能力は人の感情を変えることができるのよ。これを使えば、あなたの女性に対する感情を換えることができる。あなたが急に一目惚れしたのも、その女を操りたいと思ったのも、私のせいなのよ。分かった?」
屶が再びクスリと笑う。
が、その笑いは前のように無邪気なものではなく、何かを手に入れた喜びに満ちた子供のような、そんな笑い方。
「ずっとね、あなたのことが好きだったの、薄。ずっと、あなたに抱いてほしかった。今だけでいいから、一度だけでいいから、ね?」
俺を上目図解で見つめるしぐさにドキリとした。
今まで気づかなかったが、屶って、結構かわいいのかも。
この感情は屶に変えられてるのか。それとも自分で変えたのか。
そんなことは、もうどうでもよくなってきた。
今は、屶を――抱きたい。
俺はそうと考えると、自分の服を脱いで、そして屶に迫った。
< 続く >