368,735,709,865セクにおいて、生体コアユニット損傷。修復は不可能と断定。全機能停止。休止状態に入る。
450,964,794,452,375,867,449,563セクにおいて、生体反応を感知。休止状態解除。生体サンプル4体を捕獲。
生体コアとの代替性。
サンプル1(雌成体)・・・37.2563%。不適格。
サンプル2(雌成体)・・・76.8536%。不適格。
サンプル3(雌幼体)・・・85.4638%。不適格。
サンプル4(雄幼体)・・・92.5732%。保留。
サンプル4を調整後、生体ユニットとして使用することを決定。サンプル1~3は教育用ユニットに改造。
450,964,794,452,376,867,984,609セクにおいて代替生体ユニット完成。全機能回復。教育ユニットは作業用ユニットに再改造。
ミッション再開。
第一話 伝説の復活
超空間ゲートの開発により、人類が外宇宙をその版図として幾星霜。
しかしその愚行は繰り返された。
居住可能惑星が発見されれば植民地として開発され、本星と職民星との間に摩擦が起こり、戦争が勃発する。地球での歴史がそのまま繰り返された。
繰り返される戦火は、星々を焼きつくし、本星との絆ともいえる超空間ゲートをも破壊した。そして人々は、自分たちがひとつの星から生まれた兄弟であることを忘れていった。
「いい女だよな」
「くそー、男のよさを教えてやりて-な」
「ばーか、相手にされるわけねーだろ」
「シルヴィア教授の頭脳は国家の財産。これを汚すものは反逆罪ってか」
「そーそー」
男たちの愚痴を聞き、ミリィはほくそ笑んだ。そして問題の彼女を見る。知的な眼鏡と高く結い上げられた金髪が彼女の美貌を引き立てている。
(ああ教授、野蛮な男なんて相手にしないで)
異種文明考古学の若き権威である彼女の恩師、シルヴィア教授だ。
異種文明考古学とは、耳慣れない言葉だが、簡単に言うと、「宇宙人の文明専門の考古学」である。人類が外宇宙に進出して幾星霜、しかし彼らは「隣人」を見つけられなかった。彼らが発見したのは、かつて「彼ら」がいた、という名残のみ。人類よりはるかに優れた文明を持ったものたちが、どこにいったのか、それを研究する学問が生まれたのは当然であろう。
人類とは異なる生態、文化、そして人類を超えた科学力をもった異星人を研究するには、科学、政治経済、文化、医学とすべてに通じた人材が求められた。そしてシルヴィアは20代の若さにて、その要件を満たしていた。
「ミリィ」
敬愛する教授が呼ぶ。
「は、はい」
「ここにきなさい。おもしろいものがあるわよ」
ツインテールを揺らし、急ぎかけよる。彼女の言う面白いものとは、地球のライオンに似た動物の線画だった。ライオンと違うのは額に眼があることである。
「!これはレオン人の紋章!」
レオン人とは、かつてこの宇宙に存在した異星人の一種である。当時宇宙に存在した、他の異星人と交戦し、『狂戦士』『悪魔』と恐れられた戦闘民族である。最近の研究では、十以上存在した異種文明が滅んだのは、彼らとの戦争が原因という説がある。
「ここはレオン人の遺跡なんですか?」
「おそらくね」
周りを見渡すミリィ。
「あんまり、悪魔の巣って感じはしませんね」
「悪魔なんていないわよ。彼らレオン人は額にある目のような器官を除けば、私たち人類と大してかわらない姿をしていたようよ」
「私たちと同じ姿してるんですか?」
大きな眼をさらに大きくするミリィ。
「ええ」
「じゃあ、レオン人はあたしたちとかわらない、人間だったんじゃ?」
勉強不足の教え子をにらむシルヴィア。もともとミリィは人類の先祖=宇宙人と信じているような娘である。おかしなロマンの芽は、摘み取っておいたほうがいいだろう。
「彼らレオン人は、優れた科学技術と、観念動力、いわゆる超能力を持った種族と考えられているわ。人類との相違点はほかには、男女の社会的役割があるわ」
「社会的役割?」
「彼らの男女の出生比率は1対12ぐらいだったようよ」
「女性のほうが多いですね」
「そう、そのため一夫多妻が当然だった」
「女性は男の所有物として扱われていたということですか?」
「そうね、でもそれだけじゃないわ。彼らが戦闘民族だったことは知ってるわね。彼らの社会はライオンの群れに似ているのよ。男も戦うけど、主力は女性たちだったようよ。そして男の仕事はむしろ指揮官だったみたいね」
「アマゾネスのハーレムですか~。変なの~」
「ふふ、そうね」
苦笑するシルヴィア。その笑顔が凍りつく。
「ぐわーーーーー!」
「な、なんだ、こいつは!ぐはあ!」
「ひ、ひとごろしい!」
作業員の断末魔が響いた。
「な、何よ、どこのコスプレ野郎よ!」
その殺戮の張本人は異様な姿をしていた。年齢はおそらく二十歳になっていまい。燃えるような金髪と浅黒い肌。針金を編みこんだような筋肉。精密なメカニックでできた腕輪や首飾りのような装身具。申し訳程度に局部を隠す毛皮。そして、中世の騎士が使ったような戦斧だった。
何よりも特徴的なのは、額に輝く目。それがルシファーのように美しく傲慢な顔を飾っていた。
シルヴィアだけがその姿を見て、思い出した。
「レオン人!」
その姿は、まさにレオン人の想像図通りの姿だった。
シルヴィアの声に殺戮者が反応した。額の目がまぶしく光る。
「!」
シルヴィアの衣服がはじけ飛び、一糸まとわぬ姿となる、白い肌にはしみひとつない。小さな胸が唯一のコンプレックスだ。彼女は、今、全裸でどことも知れぬ草原にいた。
幻覚よ。これは。
彼女の理性がそう告げる。
震えながら指差すその先には黄金の獣がいた。静かに彼女を見下ろす。
(綺麗・・・)
シルヴィアはその獣に魅入られた。ふらふらと引き寄せられる。頭の中で警告音がんあったときはすでに手遅れで。彼女は獣に食われてしまった。
「シ、シルヴィア先生・・」
ミリィは信じられないものを見ていた。
自分の目の前で、シルヴィアと殺戮者が濃厚なキスをしているのだ。
「わ、私の先生に触るなあ!」
飛び掛ろうとするミリィ。しかし指一本動かない。
ほうけた表情でシルヴィアが服を脱ぎ、四つんばいになる。
おとかが背後から刺し貫いた。
「ひぎいい!いたいい!いたいけど。いいのおお!私、壊れちゃううう!壊してええ!むちゃくちゃにしてええ!」
霞がかかった目で、よだれをたらしながら叫ぶシルヴィア。
ミリィは、裏切られたような、絶望の思いが抑えられなかった。
「いくの、いいの、いっちゃうのお!」
叫びを上げて達するシルヴィア。その彼女から離れて、涙を流し続けるミリィに男は額の目から光を放った。
そして、ミリィもまた、シルヴィアと同様に服を脱ぎ始めた。
プロフェッサー・シルヴィア誘拐。
これが後に、銀河最悪の海賊と呼ばれる、獅子王レオのおこした最初の事件だった。
< 続く >