prologue
世の中には、自分たちの知らないことが多い。
自分達が住んでいる。日本の中でも、裏では知らないことは意外とあるみたいで……。
これは、浅香 勇哉という見た目ごく普通な人が東京を舞台に、 夢闇という一人の少年と出会った事で、普通な生活から外れてしまう。
これもまた、そんな裏の世界の話だ。
序章 出会い
冷たい……。
薄暗い所があった。冷たい闇が続いている。
人影があった。
小さい小さい人影。
姿はよくみえない。
キィ…と音がした。
足音は徐々に近付いてきて、目の前でピタリと止んだ。
「勇哉…」
俺を呼ぶのは誰だ。
その夢はいつもそこで覚めてしまう。
いったいなんなんだ…。
浅香勇哉は時間通りに目を開いた。
壁にかけられた時計が示している時間はきっときっかり六時。ほんの数ヵ月前まではまだ薄暗かったこの時間も、最近はすっかり明るくなり、目を開く頃には部屋の中は白い光で満たされるようになっていた。
だが彼が目を開いたのはそのせいではない。昨夜寝てたのがどんなに遅くても、或いは早々に床にはいったとしても、浅香はきっちり同じ時間に目を開いた。目覚ましのベルの音を聞くこともなく。
階下から伝わる気配。
食器を重ねる音。パンを焼く香り
どこか遠くの国の開戦のニュースを、まるでスポーツ中継のように告げる興奮気味の声が微かに聞こえる。
いつもと変わらぬ朝。
浅香はその時がくるのを待っていた。
ベッドの中息を殺して待つことしばし、ゆっくりと階段を昇って来る足音の後、待ちわびたノックの音が浅香の耳に届く。
「勇哉、朝よ。起きなさい」
そして一日が始まる。
いつもと同じ一日が……。
「おはよう、お母さん」
浅香は身を起こしながら、カーテンを開ける母親に、にっこりと微笑みかけた。
朝食が出来たことを告げて母親は階下に下りていった。
「ゆーやっ!」
学校につき教室に入るといきなり親友が話しかけてきた。彼の名前は、菊地英斗。僕の親友の一人だ。
「英斗?」
「具合い悪そうだね。次、体育だけど、どうする?」
その言葉に勇哉は苦笑した。
どうしてわかってしまったんだろう。
この男は普段鈍いくせに、こういうところだけは何故か時々やたらと鋭い。
「今行けば昼休みまで寝られるし……先生には言っとくから……」
「ありがとう、英斗」
勇哉は親友に向かって礼を述べたが、申し出には首を振った。
「大丈夫。出るよ。それほどじゃないし。別に病気じゃないしね」
そう言った勇哉を英斗は心配そうに見つめた。
(病気じゃないから心配なんだよ)
病気なら薬や医者で治せる。
「あのね勇哉、……オレはいつでも勇哉の味方だからね」
親友が苦しむ理由を知ってる。だけど自分の力では助けられない。
彼が苦しんでいる理由は二年も前のこと。
でもオレは君が可哀想だなんて決して言わないから。
< つづく >