~序 章~
みなさん、こんにちはー。僕は健二といいます!
この前、近所の中国風骨董品のお店をぶらついてたら、奇妙な漢字が書いてある紙切れを見つけたんですよ。
それ以来、僕の人生が全て変わってしまいました~。
どう変わったか…。
まずはその紙切れの正体からお話しましょうか。
それを見つけたのは偶然。
店の主人も知らなかったんです。
なにせ、置いてあった古ぼけた棚の引き出しを開けたら、僕の手の位置が偶然引き出しの底板に当たってて、
「ん?」と何か張り付いてることに気が付いて、剥がしたらこの紙だったんです。
そこには、4文字熟語みたいな意味不明の4つの文字が書き込まれていました。
「何だろ…?」って思ってじっとその紙切れを見つめてたら、いきなり誰かに肩を叩かれたんです。
『おい、兄ちゃん、ずーっとそんなトコに突っ立って、どうかしたのかい?』
声の主は店の主人でした。
『あんたそこに3分以上もどっか遠く見つめるようにずーっと立ってたよ。どうかしたのかい?』
「え?そんなに長い時間立ってたんですか?僕…」
おかしい…何かおかしい…別に寝不足でも考え事してたわけでもなく、この紙切れを見つめてただけなのに。
「実は、さっきこの引き出しの裏に張り付いていた紙をみつけたんですよ。ほらこれ…」
店の主人は手渡された紙を興味深そうに見つめてたんです。
そしたら、急に目がうつろになって立ちすくんじゃった!
「あ、あの~…おじさん!?」
目の前で手を振り動かしても反応無し…。
今度はその主人の顔を覗き込むようにして…
「おじさん!ねえ、聞こえる?」
『はい…聞こえます』
(…は?…なんで急に丁寧語なんだ?このおじさん…)
「どうしたんですか?その紙の意味わかったんですか?」
『いえ…わかりません…』
その声には全く感情など感じられず、まるで機械のような口ぶりでした。
そんな機械のように無機質な返答しかしない店主にたじろいでいるうちに、約3分ほど経過…。
ハッと目覚めたかのように、店主の意識が戻りました。
「おじさん、どうかした?」
『ん?ワシがどうかしたか?』
まるで気付いていない様子。
(これは…もしや、一種の催眠状態ってやつ!?)
好奇心が先走りました。もう少し踏み込んで見ることに…。
「おじさん、この紙のこと分かった?」
『いやー、難解な熟語だね~分からんよ』
と、ややあきらめ気味…。
ここで引いてもらっては困るよ、おじさん。実験にならないじゃない!
「でも、ほらここの文字、○△☆の熟語に似てない?」(すごい適当なつなぎ方してる俺…)
『ん?どれどれ…』
また文字に集中する店主。
すると、やはり!予想的中!
さっきと同様、目がうつろになり、心ここにあらずの状態。
よし、ちょっとテスト開始!
「おじさん、聞こえますか?」
『はい、聞こえます…』
「おじさんの名前は?」
『徳山春夫です』
ほらほら、いい感じじゃない!
これって、皆さんなら使い方、色々想像できますよね!
僕も例に漏れず、様々なアイデア(もちろんムフフ系)が頭の中に急浮上していました。
そのためには様々な検証が大切!
とりあえずの実験対象が、こんなタヌキおやじというのが悲しいところだけど…。
これからのお楽しみのためには、我慢せねば!
あれから店主のおじさん相手に、いくつかの質問をして、反応を調べました。
いきなり聞いたら訝しがられるような、プライベートな質問にまで無機質にスラスラと答えてくれましたよ。
マジでものすごい催眠効果かもしれませんね!
なんとか騙し騙し、店主に3回催眠状態になってもらい、3回目の実験では、催眠状態が解けた後も効果が残るのかどうかの実験をしました。
要求したことは二つ。
目覚めた後、この古文書はもともと僕が持っていたものであり、この紙について全く関心がなくなること。
もう一つは、キーワード効果。
今後も”いいなり効果”を継続出来るかどうかの大事な実験。
「徳山春夫さん、これから目覚めた後も、僕が“落ちろ”と言うと、あなたは今のような何でもいいなり状態になります。いいですね?」
『はい、健二さんに“落ちろ”と言われたら、いつでもこの状態になります』
「オッケー。それから、いついかなるときでも、目覚めたときにはその前の言いなり状態の事は全て忘れています。いいですね?」
『はい、全て忘れます』
「それに、目覚めているときでも僕のすることは全く疑わないで下さい。息をするのと同じくらい当たり前のことです。僕のすることはどんなことでも“ごく当たり前”のことなんです」
『はい、健二さんのすることは、全て当たり前のことです』
この最後の効果は、後々何かの際に役立つかもしれないな…と思って加えたけど、考えてみれば、その都度修正してもいいんだよね。まぁ、後の手間が省けた…ということで。
目覚めた後の効果は、思惑通り!これからはこのお店と店主は僕の悪巧みの隠れ蓑になるかもねー。
とりあえず、ここまででこの古文書について分かったことは…
1. 書かれている言葉の意味を理解しようとして集中すると、催眠状態になる。
2. 催眠状態は約3分程で解ける。
3. 催眠状態の最中は、完全にいいなりになるようだ??(まだ言葉での質問しか試していないので)
4. キーワードさえ決めておけば、その後いつでも催眠状態に落とせる。
5. 催眠状態でないときでも、仕込んだ意識は持続していること。(持続期間は要観察だな)
と、まぁこんなところかな。
それから、当然のように古文書をカバンにしまい、腹が減っていたので、店の奥で出前の天丼を食べ(もちろん勘定はお店持ち)、昼寝をしながらこの古文書の活用法について考えていました。
僕が店主の前ですることは“当たり前”のことばかりですからね!
店主も、何も気にすることなく、店番続けていましたよ。さっきの一文、入れておいて正解!
さてと…あれこれ考えたことを、これから実践しましょうか。
…っとまぁ、それはこの後のお話で~。
< 第1話に続く >