スモールワールド 後編

後編

 ある日、目が覚めたらニュースでお兄様が死んでいた。それからどうしていいのか、僕には全然わからなかった。
 父さんと母さんは、お兄様が家を出て行ったときから精神病院に入院して面会もできない状態だし、相談できそうな親戚もうちにはいない。
 とりあえず、これは事件なんだから警察へ行くべきなんだろう。僕は震える指で学生服のボタンを留めて、近くの警察署へ向かった。
 警察職員一同に手厚い同情を受け、警視庁へと連れて行かれた。そこでも深く同情はされたけど、お兄様の遺体の引き渡しとか、葬儀のこととかは、政府や国連の偉い人たちが決めることだからと言われた。死因とか理由とかも、調べてる最中だって、全然教えてくれなかった。
 次は、とりあえず役所へ行けと言われた。それからが本当に長い一日の始まりだった。

 お兄様の死は家族のものじゃなく世界のもの。

 そういうことなんだと、さんざん役所や政治家のたらい回しに遭って、ようやく僕は理解した。
 世界葬にするにはまだまだ準備も時間も必要だから、そのうちに連絡しますと政府の人に言われて、僕はそれを一応のゴールだと思うことにした。
 ここに辿り着くまでに1週間かかった。僕のような中学生にできることはもう何もない。今後のことは自分一人で考えることにする。
 じつをいうと、お金ならいっぱいあった。前に一度、僕の家と隣んちに、お兄様がとんでもない大金を振り込んでくれているので、生活の心配はまるでない。
 心にぽっかりと空いた喪失感は相変わらずだけど、なんとか落ち着いたことだし、明日からは今までどおりの生活に戻ってみようと思う。

 学校のみんなは僕に同情的だった。
 まずは校長が僕の席まできて泣きながらお悔やみを述べ、クラスのみんなも僕の顔を見て「残念だ」と泣き崩れた。
 何人かがまだ立ち直れずに学校を休んでいるらしいし、後追い自殺した生徒も数名いるそうで、席はあちこち空いている。僕を見てお兄様を失った悲しみを思い出し、教室でいきなり飛び降りようとする女子もいて、ちょっとした騒ぎにもなった。
 娘がお兄様に抱かれたことがあることが自慢の担任の先生も、まだ自宅でふさぎ込んでるらしく、副担任の若い男性教師までもが、僕の肩を抱いて「どうしてこうなった」と泣くばかりで、結局その日は授業になんてならなかった。
 世界一悲しいのは、弟である僕だと思う。
 でも、この慌ただしかった数日で、僕はいろんな人に同情ばかりされてきたおかげで、嘆くことに白けつつもあった。
 放課後、誰もいない家に帰って、ラーメンを作って食べて、一息つく。
 テレビはあいかわらず過去のお兄様の勇姿を流し続けている。楽しそうに、いろんな女性を抱いているお兄様は本当に格好良い。
 そして僕は考える。
 世界中の誰もが、考えるのを避けていることを。

 お兄様は、どうして死ななければならなかったんだろう。

 お兄様は世界中から愛されていた。誰もがお兄様の味方だったし、お兄様の前ではどんな偉い人でも傅いた。敵なんて当然一人もいなかった。自殺なんてする人だと思えないし、する理由も思いつかない。お兄様を殺せる人も、殺したいと思う人だっていない。
 だったら、どうしてお兄様は僕らを置いていなくなったりしたんだろう。
 食器を洗いながら、そんなことを考えてたら、電話が鳴った。

「恭平くん、ごはんはもう食べたの?」

 隣の家のおばさんだった。なんだかとても懐かしい気がする。

「うん……食べたよ」
「そう。またいつでも食べにいらっしゃい。一人で食べてもさみしいでしょ?」
「ありがとうございます」

 お兄様のことではなく、僕のことを心配してくれる優しい言葉を聞いて、胸が温かくなった。
 そして、春海姉ちゃんのことを思い出す。
 お兄様のお世話係をやっていた彼女は、家に帰ってきてるんだろうか。それに、青梅ちゃんはどうしてるだろうか?
 明日は休みだし、隣んちにお邪魔してみよう。春海姉ちゃんなら、警察も役所も教えてくれなかったこと、知ってるかもしれない。
 そして、僕はお兄様の死の真相を探ることを始めようと思う。

 昼前にチャイムを鳴らすと、青梅ちゃんが僕を出迎えてくれた。

「恭平ちゃんだー」

 僕を見て、無邪気に笑ってくれる。
 この笑顔を見るのもとても久しぶりな気がして、思わず頭を撫でてやりたくなる。けど、6年生になった彼女に、そんな子ども扱いするようなスキンシップはどうかと思い、なんとか踏みとどまる。

「青梅ちゃん、元気だった?」
「元気だよー。恭平ちゃん、久しぶりだね」

 彼女は全然変わった様子もなくて、僕まで嬉しくなってしまう。この子の笑顔が僕は好きだ。

「春海姉ちゃんも、元気?」

 でも、お姉さんの名前を出すと、自慢の笑顔も曇りがかった。
 悪い予感がする。

「お姉ちゃん、ずっと部屋に閉じこもってて……なんか、変なの。お姉ちゃんじゃないみたい」

 僕は青梅ちゃんの許可をとり、階段を上がり、春海姉ちゃんの部屋をノックした。
 春海姉ちゃんは、ベッドの上でパジャマのまま背中を向けている。もう昼近くだというのに薄暗い部屋の中で、彼女は縮こまっていた。

「……誰?」

 気怠そうに、春海姉ちゃんが寝返りをうつ。パジャマ越しに胸が揺れて、僕は一瞬、そこに視線を吸い込まれてドキリとした。
 春海姉ちゃんは、僕の顔を見て驚くように目を丸くして、そしてすぐに弱々しく微笑んだ。

「なんだ……恭平くんか」

 彼女が僕を誰と勘違いしたのか、聞くまでもなかった。僕までなんだか、悲しくなった。
 しばらく会ってないうちに、なんだか春海姉ちゃんは大人っぽくなったような……でも、今は弱々しく、体を無造作に投げ出した格好が、どきりとするほど色っぽい。
 春海姉ちゃんは、お兄様のそばで、ずっと身の回りの世話をしていたという話だ。
 世話というのが、どういった行為を含むのかぐらい、僕でも知ってる。

「心配して来てくれたの?」

 ベッドの上に身を起こして、僕の方に向かって姿勢を変える。「大丈夫?」と聞いたら、「体は何ともないもん」と、髪をかき上げて笑った。
 パジャマの胸元が、危ない。

「ねえ、ドア閉めて。まぶしいから」
「う、うん」
「こっち座ったら?」

 カーテンを閉め切ったままだから、ドアを閉めると薄暗くなる。それに、春海姉ちゃんが座れと言った椅子は、彼女のすぐ近くで、なんだかドキドキが止まらなくなる。
 僕はなるべくそっちを見ないようにして、小さく座った。
 何から話すつもりだったのか、全部吹っ飛んでた。

「陽平さま、いなくなっちゃったね」

 ぽつりと春海姉ちゃんは言った。僕は黙って頷く。

「陽平さまね、私のことをとても愛してくれた。私よりもきれいな人や可愛い人もたくさんいたけど、一番愛してくれたのは私なの。私のこと好きだっておっしゃってくれたのよ。私は陽平さまにとって特別な女だった」

 僕たち兄弟と、春海姉ちゃんと青梅ちゃん姉妹は、小さい頃から仲が良かった。
 一緒に遊んだ楽しい思い出も、ちょっと苦い思い出も僕たちは共有している。
 お兄様たちが中学に上がったあたりから4人で遊ぶことはなくなったけど、青梅ちゃんとずっと仲良くしてきた僕にとっては、春海姉ちゃんは今もお姉ちゃんだった。

「毎朝、学校に行く車の中でも、私を可愛がってくれたよ。学校の友だちが見ている前でも、私のこと愛してくれたりした」
「……え?」

 僕が戸惑った顔見せると、春海姉ちゃんは目を細めて、僕の方を見た。

「可愛がるの意味、わかるよね?」

 顔が熱くなる。意味はわからないでもないので、逆に困ってしまう。春海姉ちゃんは、僕の反応をからかうように微笑んで、話を続けた。

「人前でそんなことされたら、普通は恥ずかしいよね。でも、私たちは違ったの。それが愛の印だってわかってたから。陽平さまは、みんなの見ている前で私を抱いて、私もみんなの前で陽平さまを求めて、見せつけてやったわ。なんか、そういうことしてたカップルって、私たちの生まれる前にはいっぱいいたのね。有名なミュージシャンとか。たぶん、それと同じなの。私たちはこんなに愛し合ってるって、だから恥ずかしい姿も見せつけたいって陽平さまは思ってたのね。彼がしたいこと、私はわかってたから、思いっきりいやらしいことをみんなの前で言ってやったわ。チンポ欲しいとか、マンコ嬉しいとかって」

 そんないやらしいことを、まくし立てるように語る春海姉ちゃんが、なんだか僕は意外で、恥ずかしい気がした。
 というよりも、何かおかしいと思った。マシンガンのようにいやらしいことを喋り続ける春海姉ちゃんが、少し変だと思った。
 青梅ちゃんも変だと言ってた。

「お風呂とかも一緒に入ってたし、寝るときも一緒だったのよ。毎日毎日、陽平さまとセックスして、チンポで膣の中に射精されたわ。陽平さまはまだ早いって妊娠させてくれなかったけど、私はいつか陽平さまの子どもを産むつもりだった。きっと、陽平さまもそれを望んでたと思うな。だってあんなに中出しされたら、私の子宮は陽平さまの精液でいつもいっぱいだし、いろんな人の前で精液だらけのマンコ見せつけながらフェラだってしたし───」

 それに、彼女はお兄様に特別に愛されたと言うけど、いつもテレビやネット配信でお兄様の活躍を見てきた僕にしてみれば、お兄様が誰にでもしてたことに変わりはないと思った。
 お兄様は、行きずりの人でもテレビに出ている人でも、自分の気に入った人は誰でも抱いていた。学校も自宅も、お兄様の選んだ美女でいっぱいだってニュースでも言っていた。
 それなのに、必死なくらい自分を特別だって言う春海姉ちゃんの言葉は、本当なんだろうかって、疑わしく思った。そうしたら、なんだか悲しくて、春海姉ちゃんがかわいそうに思えた。

 でも……お兄様と春海姉ちゃんのいやらしいことを想像して、興奮してきたのも事実だ。
 僕は、いつの間にか目の前で揺れる春海姉ちゃんのパジャマの胸元に、釘付けになっていた。
 彼女の口から告白されるお兄様とのいやらしい行為と、彼女の白く大きい谷間と、僕は彼女の異変に戸惑いながらも、その体におかしな感情を抱いている自分に気づいた。
 ダメだよ、そんなの。
 目を逸らそうと思って顔を上げると、春海姉ちゃんが告白を続けながら、指を唇に挟んで僕の顔をじっと見ていた。
 ドキリと心臓が跳ね上がる。

「……それでね、そのとき私は、テーブルの下で、アメリカの大統領さんもいる前で、陽平さまのおチンポを、こうやって舌で絡めて、しゃぶってあげたの」

 自分の指をお兄様に見立てて、春海姉ちゃんの舌が蠢く。僕に見せつけるように、指先を舌でチロチロして、チュポンと音を立ててキスをする。
 胸と股間が、キュウンとなった。

「私の話、もっと聞きたい?」

 濡らした指先を、僕の方に近づけてくる。

「……それとも、別の話にしよっか?」
「あっ…」

 そして、その指先で唇を撫でられた。ゾクゾクとして、思わず変な声が出てしまったけど、春海姉ちゃんは面白がって指をなぞらせる。

「気持ちいいでしょ?」

 僕は何も言えない。女の人にこんな触れられたことないし、どうしていいのかわからない。

「チンポ、勃った?」

 顔が熱くなる。露骨な言い方をして、春海姉ちゃんはクスリと笑う。
 僕は勃っていた。

「……私がいつも、陽平さまの前でどんな格好してたか、教えてあげる」

 そう言って春海姉ちゃんは僕の前に立ち、パジャマのパンツに手をかけた。そして、下着ごといっぺんに脱ぎ捨ててしまった。
 僕は慌てて目を逸らす。でも、ぱっちり見てしまった。春海姉ちゃんの白い腰と、そこだけ黒々と繁った逆三角。そして、その三角が矢印のように指す、ひとすじの割れ目も。
 僕が真っ赤になって顔を背けてるのを、春海姉ちゃんはじっと見下ろして、からかうように笑う。

「……ちゃんと見てよ、恭平くん」

 彼女は僕のお姉さんだ。その彼女の方からお願いされたから仕方ないんだと自分に言い聞かせ、僕は彼女の股間に目を向ける。
 きれいだ。
 同じようなもの、何度もお兄様のテレビやネットで見てきたけど、春海姉ちゃんのはその中でもきれいな方だと思う。
 変な言い方だけど、これは「美形」なんだと思った。

「生で見るの、初めて?」
「……うん」
「ウソばっかり。昔は青梅と一緒にお風呂入ってたでしょ」
「───っ」

 いきなり青梅ちゃんの名前を出されて、僕は途端に自分のしていることが恥ずかしくなり、顔を背ける。でも、春海姉ちゃんは僕の顔を両手で挟んで、引き戻す。

「大丈夫。青梅なら下でテレビでも観てるから気にしないでいいよ。私の部屋には誰も近づくなって言ってるし」
「で、でも」
「いいんだってば。青梅には黙っててあげるから。ね?」

 いつの間にか、僕と彼女は共犯ということになってるみたいだ。春海姉ちゃんはますます……妖艶、っていうのかな。そういう言い方が正しいのかわからないけど、すごく色っぽくて、挑発的な感じに見えて、逆らえなくなっていた。
 それに、僕はすごく興奮している。目の前にある女性器に。春海姉ちゃんの手で、引き寄せられる僕の眼前に迫るその女性器に。

「舐めて」

 ……頭がショートしそうだ。
 この人は、本当に僕の幼なじみのお姉さんなんだろうか。しっかり者で、ちょっと怒りんぼで、清潔感にあふれていたあの春海姉ちゃんで合ってるんだろうか。
 状況が僕を混乱させ、正しい判断を妨げる。今は彼女の言うとおり、ここを舐めるしかないんだと、僕は自分の中で芽生えつつある欲望を肯定する。

「あんっ…」

 舌は、驚くほど柔らかい薄い肉に触れた。その2枚の肉を分けて僕の舌が進むと、少しざらついてる中の肉は、大量の液体をこぼしてきて、僕の唇をベトベトにした。

「あっ、はぅんっ…はっ…あっ…あ、あ」

 汗に少し何かを足したような味。ややねっとりとした液体は僕の口の中を独特の匂いで満たした。
 女の人に触れるのも舐めるのも当然初めてだ。ここまでしてしまったのだから、もっと味わってみたいと、彼女のすべすべした太ももに触れ、舌を強く押し当てていた。

「あんっ、あんっ、あっ…そこ、もっと…あっ、いいっ、あん、んんっ、いいっ」

 今、僕にいやらしいところを舐めさせ、いやらしい声を出してるこの女性は、お隣の春海姉ちゃんだ。
 そのことを思い出すと、僕はますます興奮した。
 してはいけないことをしてるという興奮。万引きとか夜遊びとかして喜んでる同級生たちは、こんな気分なんだろうか。僕たちは、今、してはいけないことを楽しみ、興奮している。

「ね、チンポ勃ってる?」

 勃っている。さっきからずっと勃ってるし、パンツも濡れている。

「立って。早く、ここに立って」

 春海姉ちゃんに促され、僕は椅子から立ち上がる。入れ替わりに春海姉ちゃんが僕の前にしゃがみ、ジーンズのボタンを外しにかかる。
 そしてトランクスと一緒に下げられ、僕の下半身が丸出しにされた。慌てて僕は両手で隠す。

「なんで? なんで隠すの? 私の見せたんだからいいじゃない。手、どけて」

 責めるような視線で見上げられ、僕はおそるおそる両手をどけた。春海姉ちゃんは、「チンポだぁ」って、まるでオモチャでも買ってもらった子どもみたいに、嬉しそうに微笑んだ。パチパチと拍手までされた。

「ね、触りっこしよ。私のも触らせてあげるから、恭平くんのも触らせて?」

 有無を言わせない口調で、春海姉ちゃんは立ち上がって僕の手を掴み、自分の股間に導いてから、僕の股間に手を伸ばす。
 まるで握手するみたいに両手を交えて、僕らは互いの体に触れる。
 他人に触られるのはくすぐったくて、でもそのムズムズする感覚は、すぐに「気持ちいい」という感覚に変わっていった。
 春海姉ちゃんの手は、いつも僕がそうするように、シコシコと上下に揺すってくる。それを女の人にしてもらうというのは、じつに斬新な感覚で、僕は思わず声を出してしまった。
 そして春海姉ちゃんに笑われる。

「恭平くん、かわいい」

 顔がますます熱くなる。春海姉ちゃんは、頭がボーッとしかけてる僕を急かすように腰を突き出してくる。自分の手が彼女の股間にあることを思い出して、僕も指を動かしてみる。
 さっき舌でしたみたいに、指を中に入れると、春海姉ちゃんはまた色っぽい声を出して喜んでくれた。
 僕たちは、互いをイジり合う。
 しばらく会わなかった間に、僕の身長は彼女を追い越していたみたいで、髪を後ろで縛っただけの春海姉ちゃんは、僕の肩に顔を埋めて、気持ち良さそうな声を出して、僕のをシコシコとしてくれる。僕はその快感に歯を食いしばって、彼女の中に入っている指を、ズボズボと動かしている。
 春海姉ちゃんは、股間をどんどん僕のに近づけてきて、まるでオチンチンを中に入れようとしているみたいだった。
 でも、それはしちゃいけないと、僕は必死で踏みとどまる。

「ダ、ダメだよ、それは…春海姉ちゃん…」
「んっ、なんでぇ? いいじゃん、ここまでしたんだから」

 耳元で息を吹きかけるように囁かれ、僕の体はビクンと震える。

「ぼ、僕は……春海姉ちゃんと話をしにきたんだ。お兄様が亡くなったときの話を……」

 そうだよ。こんなことしに来たんじゃないだ。
 僕はお兄様のことが聞きたい。どうしてこんなことになったのか。お兄様の身に何が起こったのか。
 春海姉ちゃんなら、ずっとそばにいたから知ってるはず。

「わかんないよ、私だって……誰もそのとき、陽平さまのこと見てないんだもん」

 春海姉ちゃんは、シコシコを止めないまま、泣きそうな声を出す。

「陽平さまにたっぷり可愛がってもらって、寝てる間に、いなくなってたの。起きたら、あんなことになってて……私、泣いて、泣いて、泣いたの。もう陽平さまに愛してもらえない。あのチンポ、もう貰えないって。陽平さまのチンポ、私のチンポさまがいなくなっちゃったって、すごい悲しかった」

 シコシコ、シコシコ、速度が増していって、僕は悲鳴を上げそうになる。

「でも良かった、恭平くんが来てくれて。私、すぐわかったよ。陽平さまが連れてきてくれたんだよね? 自分の代わりにこのチンポを使えってことだよね? やっぱり、陽平さまは私のことよくわかってる。他の男じゃ死んでもイヤだけど、弟のならいいもん。私は陽平さまのおマンコだけど、恭平くんのチンポなら入れていいよ。嬉しい。私、本当に嬉しい!」
「あ、ダメ、出ちゃう…!」

 イキそうになる寸前、パッと手を放して、春海姉ちゃんは僕を睨みつけた。

「こんなところで出す気? 違うでしょ。出すならマンコの中に出して」

 怖じ気づいた僕は、あっさりベッドに押し倒された。そして春海姉ちゃんは僕の上に跨り、あっという間に、僕の自分の股間に飲み込んでしまった。

「あぁああぁぁッ!!」

 そして、ビクンビクンと体全体を痙攣させて大声を張り上げる。僕もその衝撃に引っ張られるみたいに、陰茎全体をギュウウウと絞られ、一瞬にして果ててしまった。

「あ…あぁ…春海姉ちゃん……」

 中に出してしまった。でも、その罪悪感よりもずっと、正直に言うと、僕はあまりの気持ちよさに感動していた。
 春海姉ちゃんは、僕の上で仰け反って体を震わせている。ヒクヒクと、痙攣するみたいに。

「くふっ…ふふっ…ふっ、はは、あははははっ」

 そして、むくりと僕の方に体を傾けて、愉快そうに笑い出した。

「思い出した……うん、思い出したわ。あはは。最初も、そう。この部屋で、私のマンコで、陽平さまも童貞捨てたの。おかしい。弟の童貞もここ。私のマンコの中。あははっ。あんたたち兄弟揃って、私のマンコの中に童貞捨ててったの。あはははっ。おかしい。あはははははッ!」

 ……春海姉ちゃんのこれは、『狂気』だと思う。
 父さんと母さんの入院している病院で、たまに目撃してしまう人間の別の一面。春海姉ちゃんは僕に『狂気』を剥き出しにしている。
 怖い。でも、僕の体は快感に正直で、春海姉ちゃんの中でカチカチに固いまま、ずっとこの中にいたいと思えるくらい、温かくて気持ちいいと、幸福感にも包まれていた。
 僕は、どうしようもない男だ。
 春海姉ちゃんを心配する一方で、もっと彼女の体の中にいたいと、快楽を求めている。
 そして、春海姉ちゃんが僕に求めているのも、そこだけだった。

「弟の童貞チンポも、私のものだ。私、すごい。あはは。陽平さまに世界一番愛されてる。ね? ね? そうでしょ? 気持ちいいでしょ? 陽平さまの愛した私のマンコ、気持ちいいでしょ?」

 気持ちいい。腰をグリグリと擦りつけられるに回されると、もう、気持ちいいことしか考えられなくなっていく。

「いいっ、いいっ、チンポいいっ、チンポいいっ! チンポ! チンポ!」

 ゆさゆさと春海姉ちゃんが体が揺れる。その動きにつられて、僕ももっと気持ち良くなりたくて、腰を揺する。

「もっと乱暴に、ゴンゴンって、突いてぇ!」

 乱暴に、ゴンゴンと僕は動かす。春海姉ちゃんは長い悲鳴を上げて、僕の肩を痛いくらいに握って、腰の動きを大きくする。

「ね、おっぱいも、見せてあげよっか? ずっと私のおっぱい、見てたよね。ここも触ったり、吸ったり、したいんでしょ?」

 僕はブンブンと首を振る。縦にだ。
 春海姉ちゃんはパジャマのボタンをはじき飛ばして上着をはだけ、僕の手をおっぱいに押し当てる。僕は、その柔らかさに感動しながら、やわやわと握る。

「もっと、ギュウってして! 痛くしていいのっ。乳首とかつねって、乱暴にして!」

 乱暴でいいんだ。春海姉ちゃんは、乱暴にされたいんだ。
 僕は初めての女性を、隣のお姉さんの体を、そしてお兄様の奴隷だった人の胸を、この手で乱暴に扱う。

「あうッ! そう、もっと、して、いいよ! 犯して! 私を、チンポで、犯して!」

 腰から下は蕩けそうなくらい気持ち良い。彼女を乱暴に揉みしだき、唇を吸う。まだ足りない、もっと貪りたいと、切実な衝動に駆られ、彼女の体に僕の跡を増やしていく。

「あひゃあっ、チンポ、チンポいいっ、陽平さまっ、陽平さまぁッ!」

 彼女の眼はうつろで、僕の方なんて見ていない。ひたすらに快楽を貪るその姿は、まるでただの動物みたいに恥も外聞もなく、僕の中の「優しい隣のお姉さん」の像はあっけなく崩壊した。
 でもそれが僕の興奮を冷ますことはない。むしろ壊れていく春海姉ちゃんの姿に、僕の中の男も目覚めていくみたいで、腰を激しく、手や口も乱暴に彼女の体を這い回った。
 僕たちは、セックスを貪りあう動物だった。

「イグッ、イク、イクッ! チンポでイクッ! イクよぉ~ッ!」

 口から泡を飛ばして、春海姉ちゃんがまた仰け反る。アソコの中がまたギュウウウと締まって、僕は我慢に我慢を重ねた射精を、そのまま開放する。
 ビクン、ビクンと彼女の体は僕の射精に合わせるように跳ねて、そのまま後ろにドスンとひっくり返った。僕たちはおかしな格好で足を絡ませあったまま、ベッドの上で荒い呼吸をする。
 気持ち良かった。死ぬかと思うくらい。
 そして───、自己嫌悪の波が襲いかかってくる。

「……ごめんなさい」

 僕は、誰かに向かって呟く。春海姉ちゃんか、青梅ちゃんか、お兄様か神様か誰かに。
 僕の足元で、むくりと春海姉ちゃんが身を起こす。まだ、どこか霞がかったような、焦点の合わない目で。

「謝ること、ないじゃん。ふふふ。とっても上手にできてた。恭平くん、えらいね。褒めてあげる」
「違うよ……僕は……」
「お掃除フェラしてあげよっか。陽平さまにもいつもしてあげてたんだ。私、これすっごい上手だから期待していいよ。ほら、ちょっと向こうにずれて」
「やめっ…春海姉ちゃん、僕……」
「んー、ちゅっ。ちゅぶっ、ずぶっ」
「あぁ…ッ!」

 春海姉ちゃんの口の中に、僕のが飲み込まれる。ぬめっとした舌の感触と、口の中に吸われる感触は、さっきまで入ってた彼女の中とは違った感覚で、射精したばかりの先端が強い刺激に痺れる。

「んにゅっ、ちゅっ、ぬぷっ…ふふっ、陽平さまのチンポと、同じ味するー。精液と、私のマンコ汁の味…チンポ…んく、んっ、ん、チンポ、んー、好きィ」

 腹ばいになった春海姉ちゃんの顔が僕の股間に埋まっている。突きだしたお尻を揺らして、すごくいやらしい光景と陰茎に感じる気持ちよさで、また僕は蕩けそうになっていく。こんなことをお兄様はやらせていたんだ。春海姉ちゃんだけじゃなくて、いろんな女の人に。
 でも、違うんだ。
 僕はこんなことしに来たんじゃない。お兄様の話がしたくて。春海姉ちゃんからお兄様の話が聞きたかっただけなんだ。僕は───。

「はぶっ、ぢゅう、はぁ、チンポ、チンポ、あぁ!」
「やめてったら、春海姉ちゃんッ!」

 僕は春海姉ちゃんを押しのける。
 僕のはすでに恥ずかしいほどにそそり立って、それがまた情けなくて、僕は涙が出てくる。

「やめようよ……春海姉ちゃん……もう、こんな…ひっく…」

 僕はみっともなく、ただ泣くだけだった。
 春海姉ちゃんは、目をうつろにしたまま、よだれをこぼして僕の股間を見ていた。

 最低だ。僕は最低だ。
 僕は、自分自身に失望する。
 春海姉ちゃんはお兄様のモノだった。プラモデルやフィギュアと同じく、お兄様の大事なモノだ。僕が手を出していいものじゃない。
 でも、求めてきたのは彼女だ。僕の……股間にあるものを、欲しがったのは彼女だ。
 エッチのときの春海姉ちゃんは、別人みたいで、でも、それがとてもいやらしくて、興奮した。
 あれがお兄様の好みだというなら、確かにそれを理解できなくはない趣味を、僕も持っているんだろう。春海姉ちゃんとのセックスを思い出すと、体が熱くて、切なくなる。いけないことなのに。

 お兄様が亡くなって2週間が経とうとしている。
 最近では世間も落ち着いてきて、テレビ番組も通常に戻りつつあった。高平アナウンサーの制服も乳首の穴がふさがって、ただのスクール水着に戻っていた。
 父さんと母さんの入院はまだまだ長くなりそうだ。家に帰ることを嫌がっていて、今日も面会を拒まれた。
 彼らはお兄様が家を出て行かれるとき、何か頭にひどい仕打ちを受けたらしい。そうされるまでお兄様に嫌われた親に同情の余地はないとお医者さまも言うし、僕も同意見だ。
 でも、それでも親だし、心配は心配だった。
 学校では担任も復帰して、何人かまだ情緒不安定な女子もいるけど、自粛していた部活も行事も元通りになって、すっかりお兄様が生きてた頃……いや、お兄様が王様になる前に戻りつつあった。
 お兄様の世界葬については、もう少し世の中の混乱が収まり、『陽平像』が完成したら行う予定だと、こないだ政府の人から電話で聞いた。
 少しずつ、世間は落ち着いていっている。
 でも、僕は相変わらずモヤモヤしたものを抱えている。
 僕はお兄様の死について、全然わかってない。
 警察に聞いても、それは国家の問題だからと言われる。政府の人に聞いても、今は葬儀の準備で忙しいと言われる。
 ああいうところに頼ってもダメなんだ。僕が自分で調べられることってないだろうか。春海姉ちゃんがダメなら……例えば、学校の様子とかで、何かわからないだろうか。

 お兄様の通っていた高校へ足を運んだ。
 僕の知らない間にお兄様の私立女子校に変更されてたようだが、通常に開校されているようで、女生徒たちの声が校門前にも響いている。
 何も考えずに来てしまったが、女子校って、僕とかがいきなり来ても入れてくれるんだろうか。それに、誰と何を話せばいいんだ?
 自分の無計画に今さらながらあきれる。先に電話くらいしてみれば良かった。
 仕方なく、そのまま校門前をウロウロしていると、なにやら中から騒がしい声が聞こえてきた。

「離しなさい! 久遠さん、話を聞いて。私は、教師としてあなたたちを…!」
「彼女を追い出して、門を閉めなさい。フェイリンとシンディは懲罰房へ。許可なく生徒を連れ出すことは許しません。ここは陽平さまの私有する学び舎です。全ては陽平さまより執行権を預かっている我々生徒会が決定します!」

 何か、もめ事があったみたいだ。
 スーツの女性が一人、金色の首輪を付けた女生徒たちに両手を挟まれ、追い出されるところのようだった。
 その女性とは、すれ違うときに目が合った。
 きれいな人だけど、やつれた顔をしている。でも僕を見て、驚いたように目を見開き、そして鋭く睨んできた。
 まるで射貫かれたみたいに、僕も彼女から目を逸らせなくなる。そのまま僕は連れ去られていく彼女を見送って、そして、背中にドンと何かを突きつけられた。
 振り向いたら、僕も金色首輪の女生徒たちに囲まれていた。

「あなたは誰ですか?」

 とてもきれいな人だけど、その口調は厳しい。僕にムチの先端を突きつけている人も、鋭く怖い目をしている。

「この学校は今、どなたの立入りもご遠慮いただいています。父兄もマスコミも役人もです。全ては陽平さまより執行権をお預かりしている生徒会の決定です。これ以上はご遠慮願います」
「悪いね、きみ。誰の身内か知らないけど、出直してくれ」

 2人の後ろにも、金色首輪をした生徒が数十人、ずらりと並んで僕を睨んでいる。
 ビビってしまって、足がすくむ。
 でも、ここで帰るわけにもいかない。

「ぼ、僕は───、その、陽平の弟の、恭平です! あなたたちとお話がしたくて、来ました!」

 途端に、彼女たちの顔色が変わった。そして、僕の方にきれいな顔を寄せて、「本当に?」と息のかかりそうな距離で囁いた。

「……はい」

 彼女たちの迫力に、おそるおそる僕が頷くと、今度は彼女たちが後ろに距離を取り、姿勢を低くしたと思ったら、三つ指を突いて頭を下げる。

「大変失礼いたしました!」

 この学校は、いちいち僕を驚かせる。
 見ると金色首輪の人たちは、みんな同じ姿勢で白いセーラー服を地面に丸めて、まるでじゅうたんみたいになっていた。

「あの……なんか、その、とりあえず顔を上げてください」

 僕はこの高校に来たことを、ちょっと後悔し始めていた。

 そんなわけで、急にしおらしい態度に変わった彼女たちに案内され、僕は生徒会室に通された。
 元は職員室だったらしいそこには、数十名の生徒たちが控えていて、僕は会長である久遠さんと、副会長の吉嶋さんの2人と応接セットで向かい合い、そして背後には、その他数十名の視線を感じている。
 女子高生による集団圧迫面接だ。しかし、これを喜びに感じるほどの度量も趣味も僕にはない。

「先ほどは本当に申し訳ありませんでした」
「いえ、その、ええ、もういいですから」

 久遠さんと吉嶋さんが、揃って頭を下げた。さらりと2人の長いきれいな髪が流れる。急に態度を軟化させる彼女たちに、僕は戸惑ってばかりだった。
 でも、本当にきれいな人たちだ。
 久遠さんは黒髪の清楚な女性で、今はしおらしく、少し恥ずかしそうに俯いているが、先ほどの凜とした態度も、はっきりとした物言いも、生徒会長というだけあって、上に立つことに慣れた感じの女性だ。
 隣の吉嶋さんは、明るく染めた髪と日焼けした肌、それに少し日本人離れしたハッキリした目鼻立ちが派手に見えるけど、メイク自体はおとなしめで、この人も久遠さんに劣らず、素の美人さんだった。
 2人ともセーラー服のスタイルがすごく良くて圧倒されちゃう。なんだか本当に高校生なのってくらい、大人な魅力を放っている。
 中学生男子の限界を感じた。
 でもちょっと、腑に落ちない箇所が一つある。
 この人たち、なんで手を握り合ってるんだろう?

「陽平さまの弟さまでしたら、生徒一同、心より歓迎いたします。どうぞごゆるりとおくつろぎ下さい」
「誰か、恭平さまにお茶を。あぁ、お腹は空いておりませんか? 私どものシェフたちに言えば、たいていのものは用意できますけど」
「いえ、本当におかまいなく!」

 僕は居住まいを正して、雰囲気に圧倒されないように気合いを入れ直し、久遠さんに向き合う。

「僕は、その、お兄様の話を聞きたくて、来ました」

 久遠さんも、吉嶋さんも、わかっているというように、優しく笑みを浮かべ、続きを促してくれる。
 少しだけ僕の緊張も和らいだ。

「僕には、お兄様が、どうしてあんなことになったのか、わからなくて。だから、いろんな人に話を聞いて、考えたいんです。それで、ここに来れば、僕の知らないお兄様のことわかるんじゃないかって。だから……その、教えて欲しいんです。お兄様のことや、あなたたちのこと」

 久遠さんは、大きく頷いて、吉嶋さんと視線を交わす。吉嶋さんもまるで妹に向けるような優しい視線で久遠さんに応え、頷く。

「あなたが私たちのもとに来てくれたことを、心より感謝するとともに、あらためて歓迎いたします。陽平さまは、今も私たちの主であり、この学校の神です。私たちは陽平さまの奴隷天使として、毎日ここでお仕事をさせていただいてます」
「あたしたちは、たとえ陽平さまが姿をお隠しになっても、誰一人欠けることなくこの学校を守り続けます。それがあたしたち奴隷天使の使命です」
「え、あ、あの…?」

 とても流ちょうに、とても意味不明の言葉を流され、僕は戸惑った。

「陽平さまは、私たち天使に力をお与えになりました。それはこの学校に在る限り、永遠を約束された幸福の証です」
「ここはノアの方舟。神のゆりかご。俗世の世迷い言からも悪魔の誘惑からもあたしたち天使が、陽平さまの大事な生徒たちを守ります。だから……ご安心を」

 全然、何を言っているのか僕には半分も理解できなかった。
 誇らしげに自分たちを天使と名乗り、頬を赤らめ、幸福そうな笑みを浮かべる彼女たちを、僕はとても遠くに感じた。
 なんとなく、うちにもたまにやってきては玄関先で宗教の大切さを語り、せっかくの休日を邪魔してくれるおばさんたちのことを思い出した。
 それに、彼女たちの僕を捉える視線が、すごく粘っこい。
 何か……さっきの排他的な態度の方がよっぽどまともだったと思えるくらい、熱っぽく、妙な視線だ。

「ぼ、僕が聞きたかったのは……そう、あの転落の前のお兄様のことで」
「はい」
「あの事件の前に、兄に変わったことはありませんでしたでしょうか?」

 久遠さんは、フフッと小首を傾げて、可愛らしい笑みを浮かべる。

「いえ、あの日は陽平さまはお忙しかったらしく、学校にはお出でになりませんでした。他に変わったことも特にお聞きしておりません」
「そ、そうですか」

 肝心のことがわからず、僕は拍子抜けした。でも、死んだお兄様の話なのに、ニコニコと平然と語って僕を見つめる2人は、怪しいと言えばかなり怪しいけど、どこを突っ込んでいいのか、どうもつかみ所がない。
 本当に学校の人も何も知らないのか。それとも、全員で何かを隠してるのか。
 手のひらにジワって変な汗が浮いてくる。

「あの…お兄様に、恨みを持ってる人とか、いませんでしたか?」
「そのような者、この学校にはおりません。陽平さまを心より信頼し、愛することが生徒の条件です。国籍や言葉も違えど、その一つによって我々は結ばれ、楽園を築いてきたのです。背くことなどありえません」

 久遠さんは、僕の質問が癇に障ったのか、眉をしかめて語気を強くした。思わず僕も身を固くしてしまう。
 隣の吉嶋さんが、手のひらを撫でて彼女をなだめ、僕に向かって笑顔を見せる。

「大丈夫です。この学校には、陽平さまと、そして恭平さまの味方しかいません。誰も陽平さまを傷つける者などいないんです。もちろん、あたしたちは恭平さまにも、たくさんお優しくするつもりですよ」

 フフッと唇を上げて、僕の顔をしかと捕らえる。僕は彼女の瞳から逃げるように俯く。油断してると、見とれてしまいそうなくらい、彼女たちは色っぽく、きれいなんだ。
 久遠さんは、身を縮めて恥ずかしそうに僕に頭を下げた。

「申し訳ありません。……さきほどの騒ぎで、気持ちがまだ高ぶっています。失礼な態度をとって申し訳ありませんでした」
「いえ、そんな。僕の方こそ、失礼なこと聞いてしまったみたいで」

 恐縮する僕を見て、久遠さんもうっとりと頬を緩める。

「お優しいんですね……とても」

 ここは、落ち着かない場所だ。
 目の前にいる彼女たちもそうだが、後ろにいる女生徒たちもみんなきれいな人ばかりで、僕にとても情熱的な瞳を向けてきて、なんだか……匂いも、すごく女性の香りがきつくて、意識してしまう。
 彼女たちの話も、なんだかすごく狂信的な感じがして、少し怖かった。僕とはちょっと次元が違う気がする。
 それに、誰も敵はいないというなら、さっきの人は誰なんだろう。校門で会った、あの大人の女性は。

「……さっきの人なんですが」

 久遠さんと吉嶋さんが、揃って表情を曇らせた。

「ええ……お恥ずかしいところをお見せしました。彼女は藤田と言いまして、この学校の元教師です。一応、籍は残っているので入校を許可したのですが……」
「ところが、彼女は生徒を扇動して、学校から連れ出そうとしたんです。全員、家に帰るべきだと言って」
「生徒を、家に帰そうとしたんですか?」
「ええ。本当に信じられないことを。この学校の生徒は一人残らず陽平さまのモノだというのに。勝手に出て行くことなど許されるはずがありません」

 きっぱりと、まるで校則違反を叱る教師のように久遠さんは言う。
 でも、いやいや、それじゃ監禁だ。学校どころか、社会的に許されることじゃない。
 どうりで、ここに来る途中、生徒たちの反応がおかしいと思った。
 久遠さんたちににこやかに会釈する人もいれば、明らかに避けて通る人たちもいた。彼女たちは、恐怖で学校を支配しているんだ。
 僕が彼女たちに感じているのも、恐怖だ。
 それはむしろ……春海姉ちゃんにも感じた『狂気』に近い。
 でも、どうやって彼女らは生徒を軟禁してるんだ? 
 ここはお兄様の私有校だけど、もしここの学生が家に帰りたいというなら、数を頼みにすれば逃げることも、逆に彼女たちを警察に突き出すことだって可能だと思うけど。

「ですが、もう大丈夫です。全て終わりました」
「終わったって……」
「彼女に追従した生徒たちは、今ごろ懲罰房にて再教育を受けております」

 吉嶋さんは、屈託ない微笑みで恐ろしいことを言う。僕は彼女の傍らに立てかけてあるムチを見て、ゴクリと喉を鳴らす。

「この学校は平和です。一時は反抗的な態度をとる生徒も、少しの反省で元の素直で可愛い子に戻ってくれます。陽平さまが懇意にしていた企業も、世界中にいる生徒の父兄たちも私たちの味方です。陽平さまの魂の宿る学舎を私たちは永遠に守っていきます」
「私たちには天使の力があります。この学校の中でなら、天使は陽平さまの次に強い。ですから、恭平さまも余計なご心配は無用です」
「天使の……力ですか?」

 さきほどから何回も出てくる、彼女のたちの『天使』とか『力』とかいう言葉。それを胡散臭く思う僕の前で、久遠さんと吉嶋さんはイタズラっぽく顔を見合わせる。
 ちょうどそのとき、僕に紅茶とクッキーを運んできた褐色の肌をした少女が、カップソーサーをテーブルの上に置いた。

「彼女はアジアクラスの新委員長、シアンです。率先して私たち天使のお手伝いをしてくれる、とても良い子なんですよ。藤田に扇動された生徒たちを、いち早く教えてくれたのも彼女なんです」

 ひとめで海外からの人だとわかった。肌の色もそうだけど、瞳の色もやや薄くて、小さな顔と比べて大きく目立っている。年は僕と変わらないくらいだと思う。膝を軽く折って会釈する姿が、とても可憐だった。
 そして、彼女が向かい側の久遠さんの前にカップを置こうとしたとき、吉嶋さんが含むように唇を上げた。

「ストップ!」

 吉嶋さんが一言、きっぱりと命令する。シアンは、すぐにその場で動きを止めた。
 何かあったのかと、僕も遠慮して動きを止める。すぐに、久遠さんと吉嶋さんは「驚かせてすみません」と笑う。

「今のが、私たちの力です。もっとも、これだけなんですけど」

 照れくさそうに久遠さんは肩をすくめる。なんのことかわからないが、シアンさんはその体勢のままじっとしている。

「あたしたち生徒会の人間は、他の生徒の体を止めることができます。この力が残っているということは、つまり、陽平さまの魂がこの学校で生きているということ。あたしたちが守ろうとしているのはこれなんです」
「陽平さまの肉体が滅んでも、魂は守っていける。私たちは最後の一人が死に絶えるその日まで、守り抜いてみせます。藤田であっても、他の誰かであっても、我が校の魂を汚すことは許しません」

 彼女たちの狂信的な言葉には少しうんざりしていたが、お兄様が彼女たちに『力』を分け与えたという話は、僕を十分に驚愕させた。
 シアンさんは、不自然な格好でテーブルの上にカップを構えている。ずっとその体勢でいるのは辛いように見えるのに、彼女はピクリとも体を動かさない。

「彼女は動かないんじゃなくて、動けないんです。こちらで、彼女の顔をご覧になってみてください」

 言われるがまま、テーブルに身を乗り出して覗き込んでみると、シアンさんは困ったように目をキョロキョロさせ、恥ずかしそうに唇を結んだ。

「動かせるのは表情と口だけです。シアン、あなたは動けないのよね?」
「……ハイ」
「でも、これだけだとまだ恭平さまには信じられませんよね。もっと確実な証拠をお見せしますから、どうぞ、お席に戻ってご覧下さい」

 僕は久遠さんに促されてソファに戻った。吉嶋さんがシアンさんの細い腰を掴んで、石像を動かすみたいに彼女の向きを変えた。
 お尻を僕に向けるように。
 
「それでは、ショータイムです」

 そう言って、吉嶋さんはムチの先でシアンさんのスカートをめくっていった。

「え、あっ、あの、ちょっと!」
「イヤ!? やめてクダサイ、副会長サマ!」

 うろたえる僕とシアンさんの前で、吉嶋さんも久遠さんも微笑みを浮かべるだけで、手は止めてくれない。
 嫌がるシアンさんの白い下着と、褐色の小さなお尻がめくれ上がる。僕は慌てて目を逸らす。シアンさんは泣きそうな悲鳴を上げる。
 なのに、彼女は口では嫌がっていても、ちっとも逃げようとしなかった。お尻は、僕に向かってぷりんと突き出されたままだ。
 僕は、見ちゃダメだと思いつつ、不思議なその光景をチラ見で観察してしまう。
 やがて、完全にめくれ上がったスカートの裾をウエストに挟み込んで、吉嶋さんはその小さな下着にまで手をかける。

「イヤなら逃げてごらん、シアン?」

 いじわるそうな囁きに、シアンさんはビクンと消え入りそうな声で「それだけは、おゆるしクダサイ…」と訴える。でも、吉嶋さんは長い指で下着のゴムをひっぱると、ゆっくりと、僕が釘付けになる時間をたっぷりと与えながら、徐々にその位置を下げていった。

「ア、ア、ダメ、副会長サマ……」

 張りのありそうな小さなお尻が、少しずつ割れ目をあらわにしていく。それが半分くらい見えたところで、シアンさんは大声を出した。

「イヤッ! やめてクダサイ! 陽平サマ以外のオトコに肌をみせる……イヤです! それいじょうしたら、シアン、死にマス!」

 きっぱりと拒絶の意志を主張する彼女に、僕はいつの間にか夢中になって遠慮を忘れていたことに気づき、自分を恥じて、目を逸らした。
 でも、吉嶋さんは指を引っかけたまま思わせぶりに微笑む。

「シアン……この御方は、特別よ。陽平さまの弟なの。恭平さまとおっしゃるのよ」
「エ…おとうと? 陽平サマの?」
「そう。陽平さまのお身内の方。同じ血を持ってらっしゃるたった一人の弟さま。今、いらしたばかりなの。だから私たちで説明して差し上げてたところなのよ。陽平さまのこと、学校のこと……そして、私たち天使の秘密を」
「アッ…アンっ」

 下着のゴムに引っかけた指で、無限のマークを描くみたいにお尻をなぞる。シアンさんの声がエッチに弾む。

「とても興味深そうに、シアンのお尻をご覧になっているわ……ねえ、イヤなの? 恭平さまに一番にあなたのお尻を見せるのはイヤ? まだ、誰も彼にお肌をお見せしてないのよ?」
「……あぅぅ」
「イヤなら、あなたじゃなく違う人に頼むけど。そうね…フフっ、他の人に頼むくらいなら、あたしがしよっかな」
「アッ、あのっ……」

 シアンさんは、とても早口に、小さな声で吉嶋さんに何かを囁いた。

「ありがと。あなたならそう言うと思ってたわ」

 そう言って、吉嶋さんは下着を下げる指を再開する。つるりとお尻があらわになった。今度はシアンも抵抗をしないで、じっとされるがままになっている。
 引き締まったお尻の中央で、褐色の肌よりもくすんだ色をしたすぼまりが、僕の見ている前でキュッとしぼんだ。
 ドキリと心臓が跳ねて、そのままドキドキとしている。僕と同い年くらいの、おとなしそうなシアンさんの、控えめなお尻の穴に僕はなんだか妙に興奮して目が離せなくなった。
 彼女は本当に動けないんだろうか。というよりも、そんなことすらどうでもよくなり始めている自分がいる。
 もっと見たいと、単純にそのことに頭を支配されてた。

「全部下げるわよ」
「…ハ、ハイ…」
「はい…あっ」

 吉嶋さんはシアンさんに言ったのに、僕まで返事してしまった。久遠さんと吉嶋さんはくすりと口元を緩め、そしてスルーしてくれる。僕の顔は真っ赤だ。
 でも、とてもおとなしく、シアンさんはされるがままになっている。下着はお尻を完全に通過し、太ももの途中で引っかけられた。
 そして、屈んだままのシアンのその格好では、お尻の下に前の方の割れ目までばっちり見えてしまっていた。
 僕は、みっともなく息を荒くする。
 でも久遠さんも吉嶋さんも、とても嬉しそうにそんな僕を見ていた。

「どうぞ、もっと近くで見てやってください」
「シアンもその方が喜びますから。ねえ、シアン?」
「…っ、ハイ…シアンは、よろこびマス…見てクダサイ……」

 ガチガチに緊張した掠れ声で、それでもシアンさんは同意の返事をしてくれた。
 僕は、身を乗り出していた。
 お兄様のことを聞きに来た高校で、おかしな生徒たちに囲まれ、女の子のお尻を覗いている。なんだか判断力もマヒしちゃってるみたいにで、とにかく目の前にある美味しそうなお尻を観察することに夢中になっていた。
 でも、このいやらしい体験はまだ終わりじゃない。
 吉嶋さんは、シアンのお尻を、両手で開いた。
 シアンさんが短い悲鳴を上げる。恥ずかしそうに隠れていたすぼまりも、その下で小さな口をめいっぱいに開いたアソコも、丸見えになった。
 僕は思わず息を呑んだ。釘付けだ。肌の色は違っても、そこはピンク色だった。春海姉ちゃんと同じだと思って、恥ずかしくなった。
 でも、そこから動けない。ストップをかけられたのはまるで僕の方みたい。
 やがてシアンのアソコから、少しずつ湿った液体が滲み出てくる。

「濡れてしまったの、シアン?」
「あぅ……ハズカシイ、デス…」
「恭平さまにお尻を見られて嬉しいから、濡れたのよね?」
「…ハイ…シアンは…うれしいから、ぬれた、デス……恭平サマぁ……」

 頭がフットーしそうだ。
 股間のあたりにビリリと電流が走ったような衝撃を感じて、僕の腰が跳ねる。
 思わずシアンさんのお尻に手を伸ばしてしまいそうになって……その前に、吉嶋さんの手が離れた。

「OK、もういいわよ、シアン。動いていいわ」
「アンッ!?」

 とたんに腰の力を失って、シアンさんの体が崩れ落ちる。ガシャンとカップソーサーがテーブルの上で揺れて、僕もビックリしてソファにのけぞる。
 久遠さんと吉嶋さんが立ち上がり、僕の前に立った。いつの間にか他の生徒さんたちも僕のすぐ背後にいて、驚いた。
 女の子のお尻にみとれてる間に、僕は完全に包囲されてしまった。
 久遠さんも吉嶋さんも僕を見る目は切なく、物欲しそうに輝いている。
 この目を僕は知っている。この『狂気』を孕んだ情欲の瞳を。

「恭平さま」
「は、はいっ!」
「今日、あなたが我が校へいらしてくださったのは、陽平さまのお導きです。我らに新しい主をお与えになってくださった陽平さまの深いお心に、我ら天使は誠心誠意お応えしたいと思います」
「え、あ、あの……?」
「あたしたちがスカートを穿くのは、主以外の人の目から自分たちを守るためです。でも、もし恭平さまが命じてくださるなら、あたしたちはいつでもこの重いスカートも下着も脱ぎ捨てて、本来の姿に戻ります」
「その、僕、なんのことか……」
「私たちの主になってください、恭平さま!」
「ええっ!?」

 意を決したように、とてつもない発言をして、久遠さんはスカートのホックに手をかけた。そして、僕の見ている前でスカートも下着までも脱ぎ捨ててしまった。
 整った形をした陰毛も、キュッとしたウエストも……下半身を全部丸出しにして、久遠さんは僕に見せつけるように突き出す。

「今日から私たちはあなたのものになります……恭平さま」

 彼女だけじゃない。あっけにとられてる間に、吉嶋さんまで同じ格好になって、そして、他の人たちまで次々に下半身を裸にしていった。

「あたしたちは、あなたに忠誠を誓います。恭平さまが陽平さまの魂を受け継ぎ、主になってくださるなら、あたしたちは一生、あなたの下僕になるとお約束します」

 熱っぽい声で、僕に体を見せつける。春海姉ちゃんよりも大人で、いやらしい体をしている。

「恭平サマ……ワタシも、誓う。ワタシはどんなイヤラシイ命令でも、犬のように従い、喜びマス。恭平サマのペットになって、イチバン、めざすよ」

 シアンさんまで、いつの間にかスカートを脱ぎ捨てていた。どこを見ても女の人のアソコだらけで、僕はパニック寸前だ。
 
「そ、そんなこと言われても、僕、どうしていいかわかんない…!」
「何もしなくていいんです。あたしたちに任せていただければ、全てお世話しますから」
「恭平さまが主になってくだされば、今は反抗的な一部の生徒も喜んで恭順することでしょう。再びこの学校は一つとなり、恭平さまに忠実な子羊たちの学び舎として生まれ変わります」
「だから、おっしゃってください。たった一言でいいんです。『俺の女になれ』と……私たちに命じてください」

 目の前に迫る女性器の群れ。たちこもる女性の匂い。頭がクラクラしそうになって、とんでもないお願いされて、僕は倒れてしまいそうだった。

「恭平さま」「恭平サマ」「お願いです」「今すぐ、私たちを」「あなたのモノに!」

 ぐるんぐるんと目が回って、がっくりと項垂れて、僕はようやくの思いで、カラッカラの声を絞り出した。

「……無理です」

 ───逃げるように家に帰って、布団に潜る。
 想像を遙かに超える高校だった。まだ心臓がバクバクしてる。

『お気持ちが変わりましたら、いつでもいらしてください。お待ちしています』

 いろいろと引き留められて、せめて一晩だけでもお持てなしさせて欲しいという彼女たちを振り切り、どうにか帰ってきたところだ。
 お兄様は……とんでもない学校を作り上げていた。
 あそこで一晩でもお持てなしを受けてしまったら、僕は浦島太郎になってしまうだろう。享楽の虜となってしまっていたに違いない。
 久遠さんや吉嶋さん、それに他の生徒たちや外国から来た生徒たちまで一体となって性の奉仕をする姿を思い浮かべ、そしてその中で生活する自分を思い浮かべて、僕の股間はズキンと反応する。
 でも、ダメだ。そんなことしちゃダメだ。僕はお兄様じゃない。そんなことしてる場合でもない。なのに……。
 どうしようもない後悔と安堵が複雑に絡んで、僕をイライラさせる。
 ケータイが鳴る。いつも時間だ。僕は相手が誰か確かめるまでもなく受信のボタンを押す。
 隣のおばさんから、夕食の誘いだ。
 一呼吸ついて、「すぐに行きます」と答えて、僕は玄関へ駆ける。

 それから毎日、僕は普通に過ごしている。
 いつものように学校へ行って、帰りに同級生の家に寄って、隣の家に行ってゴハンを食べて、帰って寝る。
 父さんと母さんは相変わらずらしいけど、日中とかは少し落ち着いてきたそうで、薬の量は減らしていくそうだ。それを聞いたとき、僕は素直に「よかった」と思った。
 世の中も少しずつ変化していく。
 学校ではお兄様の話題が出ることも減ってきて、あれだけのパニックも後追い自殺騒動がウソだったみたいに、平凡な学校生活に戻りつつある。
 街に溢れていたお兄様のポスターやステッカーも、最近では見る機会も減ってきた。こないだなんかは落書きされているのまであって、頭に来て剥がしたこともあった。
 あれほど愛されていたお兄様への熱狂も、まるで水で薄めるみたいに、少しずつ沈静されていく。
 今朝のテレビでは、高平アナは水着の上にジャケットを羽織っていた。でもお兄様に寵愛されていた彼女はまだマシなほうで、他のアナウンサーはそれぞれ勝手な衣装を着て、薄情にもお兄様の直々の指定制服をなかったことにしようとしている。
 お兄様は忘れられていくんだ。
 そう考えると悲しくて、怖くなった。
 テレビでは、スカイタワー前に設置されたお兄様の墓標に参拝する人たちのニュースが流されていた。
 今日も参拝のために数千人が並んでいるそうだ。でも内容は好意的だが、どこか報道の白々しさも感じられる。
 男性キャスターが「今も多くの人が死を悼んでいるんですね」と他人ごとのように結んで、そのニュースは終わった。
 ちょっと前までは、世界中の人間に参拝する義務があるかのように煽っていたくせに。
 僕はお兄様のことを考える。お兄様は生きていてくれたらどれだけいいかって考える。
 そして、もういないんだって思って憂鬱にある。
 お兄様の死の真相を探ろうと張り切っていたのに、結局、何にもわからずじまいだった。春海姉ちゃんに聞いても、学校に行っても、何もわからなかった。お兄様の暮らしていたスカイタワーは、今も政府の管理下にあり、そこで一緒に暮らしていた人も残っていないっていう話だ。
 お兄様の死の理由を探るための手段を、だいたい使い果たしてしまった。
 僕は無力な中学生だ。偉大な兄に比べてなんて小さい。子どもの自分がいやになる。

 ニュース番組が終わった。最後にもう一度、スカイタワー前に並ぶ人たちがテレビに映る。
 そして、その後ろで……行列を俯瞰するように、腕組みをして眺める女性が一瞬だけ映った。
 藤田という人だ。
 チラっとだけだったから確信もない。彼女が何か知っているとも限らない。
 だけど僕は大急ぎで上着を羽織り、チャリンコのカギを握って飛び出していた。

 スカイタワーは、まもなく暮れ始めようとする空を突き刺すようにそそり立っている。
 その向かい側に建設されているはずの『陽平像』はシートに覆われ、とても静かで、工事は全然進んでいるようには見えなかった。
 なんだよ。これが完成したらお兄様の葬儀をするって言ってたくせに。
 僕は唇を噛みしめて像の横を通りすぎる。
 そして、テレビで見たあの場所に、彼女はまだ立っていた。
 間違いなく彼女だ。藤田さん。お兄様の高校の元先生。
 彼女はずらりと並んだ参拝の列を眺めながら、僕にぼそりと呟く。

「私に何か用?」

 あなたに会いに来ました。と、言いかけて口ごもる。
 春海姉ちゃんと学校の人たちのことを思い出し、彼女にも同じような狂気が眠っているのかと思って、僕は警戒してしまう。
 藤田さんは、ゆっくりと僕を見る。少しだけ口元を緩めたその表情は、なんだか悲しそうで、それでいて、きれいだった。

「あなたは、陽平の弟ね」
「ど、どうしてそれを」
「すぐわかるわよ。あの男の家族構成くらい知ってる。それにあなた、あの男そっくりの、憎ったらしい顔してる」

 彼女の言葉にはお兄様に対する敬意も遠慮もなかった。そのことに僕は腹立たしさを感じると同時に、安心もしていた。
 彼女は『まとも』だと、なぜかそう感じたんだ。

「学校で聞きました……生徒たちを解放しようとしたって」
「ええ。あそこは私の職場だから。生徒が軟禁されてると聞いて、何とかしたかったのよ。生徒会に邪魔されたけど」

 それから、僕をきつい目で睨みつける。

「しかも、弟が余計なことしてくれたし。あれから私に協力してくれた中国系の生徒に連絡取ってみたら、怒鳴り返されたわ。『もうすぐ弟さまが主として来てくださるから邪魔するな』ですって。すっかり元のバカに戻ったみたいね。今じゃ全校生徒があなたを出迎える準備のために、陽平がいたころよりも団結してるみたいよ」
「そ、そんな」
「だからこんなとこにいないで、さっさとあなたの桃源郷に帰ってあげたら? お墓参りよりもずっと楽しいでしょ?」
「僕は、あの人たちには断ったんだっ。僕はお兄様みたいにはなれないって……。それよりも、知りたいことがあるんです。お兄様のことで」
「へえ、なにかしら?」
「……お兄様が、どうして死んだのか」

 藤田さんは、ずっと参拝の列を眺めたまま、何も言ってくれなかった。
 でも、やがて息が漏れたように吹き出すと、肩を震わせ、クックと笑い始めた。

「あの……何かおかしいんですか?」
「おかしいわよ。あー、おかしい。何を言い出すと思ったら、そんなこと」

 いつまでも笑い続ける藤田さんに僕は苛つく。でも、それすら藤田さんには滑稽に見えるらしく、いつまでも笑っている。
 そして、僕が何か言ってやろうと口を開いた寸前、藤田さんは、はっきりと怒りに燃える目で僕を睨んだ。

「決まってるでしょ。死んで当然のことをしたからよ」

 ……僕は、怖じ気づいてしまった。
 今までもお兄様に関係した人たちにはいろいろ会ってきたけど、ここまで『憎悪』を持っていた人は初めてだ。
 藤田さんは、声を潜めて「場所を変えましょう」と言った。
 僕は彼女に従い、後ろ姿を観察する。背中まで流れる長い髪は少し痛んでいて、白いものも混じっている。年は20代後半から30になるかぐらいに見えるけど、そのわりに疲れているように見えた。

 驚くことに、藤田さんはスカイタワーへ向かい、そのままエレベーターのボタンを押した。ここは政府が管理しているし、身内の僕も入れないと聞いていたのに、あまりにも藤田さんは平然と中に入ったし、そして、警備や監視がそこにないことも奇妙に思った。

「国は管理なんてしてないわ。放置しているだけ。彼の財産をどう扱っていいか、まだ決めかねているみたい。ふっ、ここに身内がいるっていうのにね」
「……こんなとこ、うちで相続しても困るだけです」
「そうね。まあ、まだスカイタワーが陽平のものだっていうなら、私たち飼われてた女の家でもあるわけよ。彼のいない家に、誰も戻ってきたりはしないでしょうけど」

 そういって藤田さんはセキュリティカードをちらつかせる。
 案内されたのは、スカイタワーの展望室を改装して作られた居住空間だった。円形の室内には、360度の窓と、部屋の形に合わせて作られた扇形の大きなベッド。高級そうな机とふかふかのソファ。大きなPCと、大きな飾り戸棚があって、そこにはお兄様の好きなプラモやフィギュアが充実していた。
 こっちのプラモの方がよっぽど大きいや。
 お兄様はきっと、毎日これを眺めて楽しんで、家に残してきたものなんて忘れてたんだろうな。
 大きなF-2支援戦闘機を手にとって眺める僕を見て、藤田さんは目を細める。

「あなたもそういうの好きなの?」
「え、いや……そういうわけでは、ないです」

 僕はコレクションを元の位置に戻して、藤田さんの立っているところを見る。
 窓の手前に椅子が倒れていた。そして、彼女の見ている窓は、普通の施錠式で開閉できる仕組みになっていた。

「……ここから、お兄様は?」
「そういう話みたいね」

 確かに、ここを上がって窓を開ければ、人が飛び降りるなんて簡単だ。

「でも、どうして開閉式の窓なんですか? こんな高所なのに、危ない」
「陽平が変えさせたのよ。換気ができないって。高いところも好きだし、うるさいくらいきれい好きだし、アイツの気分次第で何度も改装されてるから、あちこちおかしなところがあるのよ」

 確かにお兄様はきれい好きだった。僕もお兄様の部屋の掃除は毎日欠かせたことはない。
 一度も、帰ってきてはくれなかったけど。

「神経の細い支配者ほどタチの悪いものはないわね。下の階は大浴場だったけど、湿気がこもるからって潰されて奴隷たちの部屋になった。そうしたら次に広い風呂がないのは不便だって、ヘリポートに露天風呂を作ろうとしたんだけど、構造的に無理だって業者が答えたら会社ごと潰された」
「……はあ」
「私はそれをずっとここで見てきた。いろんな人がアイツに常識を壊され、でも、アイツの力のせいでそれすら喜びに変えられていく様を。狂ってく世の中を、たった一人で観察してたの。アイツに犯されながらずっと」

 藤田さんはお兄様を責め続ける。お兄様のそばにいながら、どうしてこんなにお兄様を憎むことができるのか、僕にはわかりかねる。

「藤田さんは、お兄様の寵愛を受けていたんでしょう? どうしてそんなにひどいことを言うんですか?」

 僕がそう訊くと、藤田さんは眉の片方をピクンと上げて、バカにするように笑った。

「ご寵愛? ええ、受けてましたよ。私が奪われたのは体の自由だけだった。陽平は、私の頭だけそのままにして、犯される恐怖を毎日味わわせてたの。それが彼の担任だった私への仕打ちよ」

 お兄様の担任だったのか。
 彼女の立場が複雑なものだとわかり、僕はどう答えていいかわからず、口をつぐむ。

「私は彼の担任として、正しい指導をしてきたつもり。神経質で協調性のない彼にもっと積極的になってもらいたくて、時には口うるさいことも言ったかもしれない。でも、それが教師の仕事だもの。ただ勉強だけ教えてればいいってもんじゃないの。それが悪いことなの? ここまで傷つけられなければならないことなの?」

 まくし立てるように、お兄様への恨み言を藤田さんは僕にぶつける。お兄様の味方をしたい僕としては、どう相手していいのか困る。

「でも……それは、お兄様にそういう形で愛されていたということだと思う……」
「あなたは、好きな女にバカみたいなメイド服を着せて掃除婦をやらせたいの? どうでもいいことに文句をつけて、みんなの見ている前で嫌がる彼女を犯して、顔を殴ってやりたいの?」
「それは……」
「私はね、恋人だっていた。仕事に情熱も抱いていた。好きな人と結婚して、子どもをたくさん産んで、仕事も頑張って続けて、立派な人間をたくさん育てたいと思ってた。それが私の夢だったの」

 藤田さんは、お腹を押さえて涙をこぼす。

「でもね、私はこの1年半で3回も中絶したのよ。そのせいで、私のお腹はボロボロなの。もう……私は子どもを作れない。学校もクビ。あんなヤツに、私の夢が全部潰されたのよ!」

 息が詰まって、何も言えなくなった。僕は初めて、お兄様と、自分自身を恥じたいような気持ちになった。
 
「いっそ私も、狂わせて欲しかった……。こんな地獄を見るくらいなら、狂ってしまいたい。何度、そう思ったことか……」

 僕にも、どうしてお兄様が藤田さんにこういう仕打ちをしたのかはわからない。お兄様はそういう方法で彼女に復讐していたのかもしれないし、あるいは、愛していたという可能性も僕にはまだ否定できない。
 お兄様は博愛の人だった。僕はそう信じている。
 でも、藤田さんの憎しみが本物なら、当然、僕には考えなきゃならない可能性がある。

「お兄様が死んだとき……藤田さんは何をしていましたか?」

 藤田さんは、僕を睨んでから顔を俯けた。そして髪をかき上げて、面倒くさそうに呟いた。

「3回目の手術よ」
「……あ……」

 気まずい空気になって、僕はまた口をつぐんでしまった。

「私を疑っているの?」

 藤田さんは、にやりと口元を上げて、僕を見る。

「……そういうわけでは…でも…」
「そうね。もしも陽平が誰かに殺されたっていうんなら、私が一番の容疑者ね。それは間違いないわ。でも、どうやれば殺せると思う? 私はいつでもあの男にこの体を操られていた。それなのに、どうやってこんなところから突き落とすことができるの?」

 確かにあの窓から人を落とすのは、女の人では重労働だろう。でも。

「睡眠薬で眠らせたり……あらかじめナイフで殺してしまってから、引っ張り上げたとしたら」

 藤田さんは、フフンと鼻で笑った。

「あなた、名探偵にでもなりたいの? そうね、ひょっとしたら私は、それぐらいのトリックは使ったかもね。でもそんなことをしても、あなたみたいな名探偵じゃなくて警察がすぐに証拠を見つけるわよ。ドラマやマンガみたいにはいかないの」

 僕の推理を、子どもっぽいと笑われ恥ずかしくなった。でも、お兄様が自分で飛び降りたと考えるよりは、藤田さんのような人に殺されたと考える方が、僕には合点がいった。

「……それじゃ、どうやって」

 考えても全然わからない。僕が無意識に呟いた一言を、藤田さんは笑って受け止める。

「どうやったと思う?」

 僕をバカにするような、挑発的な笑みだった。イラっとした気持ちはすぐに僕の表情にも表れたようだ。

「冗談よ。私は何もしていないわ。陽平が死んだというなら、それは自殺よ。他殺は考えにくいもの」
「でも、お兄様が死ぬ理由なんて」
「あなたには、陽平の気持ちが全部わかるっていうの? そんなわけないよね」

 藤田さんは、そう言ってまたバカにするような目で僕を見る。
 お兄様が彼女を嫌っていたというなら、その理由は彼女が口うるさい担任だったからじゃなく、この口調や態度が感じ悪かったせいじゃないかと思う。

「ひょっとしたら、陽平は王様ゴッコにあきてたのかもしれない。それとも、今さらながら自分のしてきたことが怖くなって逃げたのかもしれない。にわか王様が自分で死を選ぶ理由なんていくらでもあるわ」

 僕は、お兄様の高校で主に選ばれかけたことを思い出す。
 あのとき、確かに僕も自分の置かれそうになった立場が怖くて逃げた。お兄様はあの学校はおろか、世界中から主として求められていた。
 僕なら、やっぱり逃げてたと思う。

「それとも、アイツは自分に不可能はないと信じてたから、空でも飛んでみようと思ったのかもしれないわね」

 クックッと、藤田さんは肩を震わせる。そんな冗談が笑えるはずがない。僕は俯いて黙っている。

「……で、あの子はどうしてる?」

 急にトーンを優しくして、藤田さんは顔を上げた。言いたいことを言ってすっきりしたのか、表情まで穏やかになっていた。

「あの子?」

 でも、彼女の言うことに思い当たるふしもなく、僕は首を傾げる。

「あなたたちのお隣さんよ」
「あぁ、春海さんなら───」

 と、言いかけて、僕は上手く説明できずに言いよどむ。でも、藤田さんもそうじゃないというように髪を振った。

「ううん、その子じゃなくて、妹の方。青梅ちゃん、元気にしてる?」

 藤田さんから、まさか青梅ちゃんの名が出てくるとは思わなくて僕は驚いた。
 そして、一瞬にしてその意味に到達して、顔から血の気が落ちていった。

「……青梅ちゃんもここにいたんですか?」
「いたっていうより、遊びに来てただけよ。あの子もアイツの奴隷だもの。時々、陽平に会いに来てたわ。ね、元気なの? あれから会ってないし、私も仲良くしてたから心配なの。ショックを受けてないかしら?」

 彼女の質問はもう耳に入っていない。青梅ちゃんがお兄様と会っていたという事実に、僕は混乱していた。
 青梅ちゃんはまだ小学生だ。明るくて、子どもっぽくて、いつも元気で無邪気な子だ。
 お兄様は、そんな彼女のことも奴隷にしてたの? 青梅ちゃんに、どんなことしたの?
 春海姉ちゃんみたいな……こと、したの?

「……ひょっとして、あの子、あなたの彼女だったのかしら?」

 小馬鹿にした口調で、藤田さんが言う。僕は耳まで熱くなって、首を横に振る。

「そう。お気の毒ね」

 怒りが、喉元までせり上がってきた。
 青梅ちゃんの過去と、お兄様の死と、自分の無力がごちゃまぜになって胸を締めつける。
 誰かに、何かをぶつけなきゃ済まないような、どうしようもない衝動だ。

「ま、元気にしてるならいいけど。私が知りたかったのはそれだけだから。じゃ───」
「……あなたが殺したんだ」

 僕はその矛先を目の前の女性に求める。
 藤田さんは、また片方の眉だけ上げて肩をすくめる。

「知らないって言ってるでしょ。私はその日、ここにいなかったもの」
「ウソだ。あなたがお兄様を殺したんだ。僕のお兄様を……許せない!」
「あら、そう。勝手に言ってなさい。言っておくけど、私だって今も陽平を許す気はないし、身内のあなただって憎いのは同じ。二度と会うつもりはないから、お元気で。それじゃ」

 藤田さんは、そう言ってヒールの踵を響かせる。
 僕はその背中に向かって命令する。

「───ストップ」

 藤田さんの足は止まる。
 ストッキング越しのふくらはぎが、むなしい抵抗に筋肉を硬直させる。そして、彼女の声に焦りと恐怖が混ざったことに、少し満足する。

「あなた…ッ?」

 僕の中で、『狂気』が舌なめずりをしていた。
 ゆっくりと藤田の背後に近寄り、肩を掴む。彼女の全身がビクッと震えた。意外と細い肩が、か弱さを感じさせる。とてもか弱いんだ。こうなってしまうと、どんな女性も。

「あなた、どうして……んんっ!」

 彼女の口を塞いで、ベッドのそばまで引きずって、投げるように横たえる。
 悲鳴を上げる藤田。僕の『狂気』は蛇のように舌を伸ばし、彼女の体を這って脳に浸透する。藤田は、僕の『狂気』を体の奥で受け止め、顔をしかめる。

「これ、陽平と、同じ……ッ、あなたも、持っているの? この『力』を!」
「黙れ!」

 僕は藤田の細い首を右手で絞める。
 お兄様と同じかどうかなんて、僕だって知るもんか。
 生まれつき持っていたのか、あるいは、久遠さんたちにしたように、お兄様が僕にも『力』を分けてくれたのか、それすらわからない。

 わかるのは、これは僕の『狂気』だっていうこと。

 初めて気づいたのは、春海姉ちゃんの見舞いに行ったときだ。
 あの日、僕は春海姉ちゃんとエッチして、泣いて、もうやめてくれってお願いした。そうすると、春海姉ちゃんは目をうつろして、「……はい」と僕の命令に従った。
 僕は、とても強い衝動が僕の中に眠っていることに気づいた。
 これは、確かにお兄様のような『力』だ。
 僕が強く念じたことは、相手を支配する。恐ろしい『力』なんだ。

「正直に言え。お兄様を殺したな?」
「し、知らない! 私は…ッ!」
「あなたは自分の意志に関係なく、僕の質問には正直に答える。お兄様を殺したのはあなただな?」
「わ、私は…!」

 藤田は、息苦しそうに顔をしかめて、声を絞り出す。
 言え。お前は僕に逆らえない。ウソをつけない。
 僕はお前の支配者だ。言えッ!

「私は…殺してない…ッ」

 ……僕は、脱力して手を離した。
 絶対にウソのつけないこの状況で、彼女は罪を否定した。確かに感じていた手応えを、急に失ってしまった。
 藤田は、僕の下で荒い呼吸をして睨み上げる。

「まだ……終わってなかったのね。せっかく、自由だけは取り戻せたと思ってたのに……また、絶望の世界が始まるのね……」
「黙れよ。僕はお兄様とは違う。あんなこと……僕にはできない。僕のことは誰にも黙っていろ」

 こんなのは、僕には扱えない。これは『力』じゃない。『狂気』だ。まったく違う生き物が僕の中に棲んでるみたいだ。

「ウソよ。あなたはそれを使ってる。使い慣れている。私にはわかるもの……何人、抱いたの?」

 顔が熱くなった。
 僕は、この『狂気』を使うつもりなんてない。
 春海姉ちゃんのときだって、彼女を元に戻そうと思ったんだ。
 でもダメだった。春海姉ちゃんは僕の命令には従っても、元の姉ちゃんには戻らなかった。
 『狂気』で『狂気』は治せない。この『力』は万能ではなかった。
 壊れてしまったもの、失ってしまったものは取り戻せない。春海姉ちゃんの正気も、お兄様の命も。
 だから僕は……この『力』を使わない。

「教えて。何人抱いたの?」

 だって春海姉ちゃんは僕を求めてたから!
 彼女の『狂気』の相手を出来るのは僕だけだ。彼女に対しての責任は僕にだってあるんだから。
 だから、抱いている。毎日、隣のおばさんに食事をご馳走になって、その後、春海姉ちゃんを見舞うといって、セックスをしている。
 僕を信頼してくれてる隣家の家族を欺き、僕のことを「恭平さま」と呼ぶようになった春海姉ちゃんに、僕はフェラさせて、上に乗せて、バックから突いて、お尻を叩いて、膣内に射精している。
 毎日、何度も何度も。

「その『力』で、何人の女を弄んだの?」
「うるさい!」

 春海姉ちゃんには、男が必要だったんだ。
 それに……僕の学校にだって、今もお兄様の後を追って死にたがっている女子が何人もいる。
 僕は、お兄様の代わりに慰めてあげただけだ。彼女たちを助けてあげたんだ。
 だから───、もう言わないで。
 僕はわかってる。わかってるから。

「また……始まるのね。たった一人のバカに洗脳された世界が。女は犯され、財産は奪われ、命まで奪われて……ガラクタみたいに壊れた世界よ。あははっ、終わりだ。私たちはもう終わりだ」
「僕は、そんなこと……」
「いいから、好きなようにすればいいでしょ。私を犯して、奴隷にしなさい。そのつもりで押し倒したんでしょ? 犯すんでしょ? あははっ、いいわよ。好きにすれば? どうせもう、妊娠なんてしないんだから気の済むまで犯しなさいよ!」

 あぁ、そうだ。藤田の言うとおりだ。
 僕たちは、壊れてる。
 お兄様に関わった多くの人が、この『狂気』に内側から食われて、壊れていく。
 それならば、互いの『狂気』に身を委ねて、溶けてしまえばいい。
 藤田の頬は赤らみ、唇は濡れている。大きな胸が上下して、物欲しそうに白い喉が蠢き、火照った体が僕の足の間でモゾモゾと動く。
 彼女は期待している。僕に犯されるのを。彼女の『狂気』が僕の『狂気』を欲しがっている。
 僕はその額に手を当てる。震える手で彼女のまぶたを閉ざす。そして、ゆっくりと僕の『狂気』を流し込む。

「少し眠って、目を覚ましたときには僕のことを忘れている……。どこか遠くへ行くんだ。僕と二度と会わない場所へ」

 ───夕焼けになった空の下、チャリンコを押して歩く。
 ひどく疲れて、近所の坂すら登れる気がしない。どこかで乗り捨てて帰りたいところだ。というより、帰るのも気が重かった。
 どこか遠くへ行きたいのは僕の方だ。この世界からどこか遠く。

「たららんらんらん、たららんらんらん」

 うつむいて歩いてたら、聞き覚えのある歌声が聞こえてきた。青梅ちゃんが、公園の自動車止めの柵で綱渡りをしていた。
 
「たららんらんらん、たららんらんらーん」

 この歌、知ってる。
 世界は一つってやつ。タイトルは何ていうんだっけ。千葉にあるテーマパークの、青梅ちゃんの大好きなアトラクションの曲だ。
 一昨年、まだお兄様が家にいた頃、おばあちゃんに連れてってもらったって言って、僕とお兄様にお土産に持ってきてくれたっけ。

「青梅ちゃん」
「あ、恭平ちゃん。こんちは!」

 パッと柵から飛び降りて、両手を振って全身で喜んでくれる。まるで子犬みたいだなって思って、僕も笑顔になってしまう。
 そして、藤田の言っていたことを思い出して、胸がムカムカする。

「どしたの? 具合悪いの?」
「……なんでもないよ。ちょっと疲れただけ」

 僕の顔を覗き込むいつもの瞳には、汚れなんて1コもなくて、僕は自分の嫉妬を必死に取り繕う。

「青梅ちゃんは、何してたの?」
「え、んー、ただの寄り道だよ、寄り道」

 青梅ちゃんは、言い訳みたいに言って、「へへへ」と笑う。
 たぶん、家に帰りたくないんだ。
 彼女の家では、春海姉ちゃんが親も青梅ちゃんも寄せつけなくて、家族がぎこちなくなってる。家族のまとめ役だった明るいおばあちゃんも去年亡くなっていて、火が消えたようだった。
 だから僕が行くといつもご両親も青梅ちゃんも歓迎してくれる。春海姉ちゃんは、僕にだけは心を開いていると思ってるから。
 本当のことも知らずに。

「……ごめんね」
「なに? どしたの?」
「なんでもない」
「何それー」

 僕の肩をペチンと叩いて、青梅ちゃんは笑った。2人で公園の自動車止めに腰掛け、夕焼けを眺める。

「明日も晴れだね?」

 いつもの青梅ちゃんだった。彼女だけは、ずっと変わらないと僕は思っていた。でも、それは僕の勝手な思いこみで、彼女には彼女しか知らないお兄様との過去があると思うと、少し寂しくなった。

「青梅ちゃんは……お兄様のところへは、よく言ってたの?」
「え、うん、しょっちゅうだよー。お姉ちゃんもいたし」

 藤田の言っていたことは本当だった。青梅ちゃんもお兄様の奴隷の一人で、スカイタワーにもよく行っていたらしい。そこでは女の人がたくさんいて、春海姉ちゃんもいて、お兄様に遊んでもらっていたと青梅ちゃんは楽しそうに笑った。
 そうだったんだ、と僕は言った。それしか言うことはなかった。

「……青梅ちゃんは、陽平お兄様のこと好き?」
「うん、世界一好き」

 当然でしょ、と言わんばかりに、満面の笑顔で青梅ちゃんは応える。
 僕だって、陽平お兄様が世界一好きだと言った。
「一緒だね」と、青梅ちゃんは無邪気に笑う。
 だから、いいんだ。
 お兄様と青梅ちゃんの間に何があったとしても、それは世界一大好きなお兄様のすることだから、いいんだ。

「二番目に、青梅ちゃんが好きだ」

 僕は、無意識にそう口に出していた。青梅ちゃんは大きな目をキランとさせて、僕の顔を見返した。

「青梅も、二番目に恭平ちゃんが好き!」

 上靴の入ったキャラクター物の袋をギュウッと抱きしめ、青梅ちゃんは「えへー」と笑う。
 胸の中でくすぶってたものが、フッと晴れた。
 もっと早くに言えば良かった。
 
「たららんらんにゃん、たららんらんにゃーん」 

 ちょっとだけ赤くなった顔を左右に振って、楽しそうに青梅ちゃんは歌う。

「たらにゃんにゃんにゃん、にゃにゃにゃんにゃんにゃーんっ」

 ぱたぱたと足踏みしている、彼女の細い太ももを見る。柵の上で少し形を歪ませる小さなお尻を見る。胸もとが油断していて、もう少しで見えてしまいそうな危うさが僕を釘付けにする。
 『狂気』が、ゆっくりと鎌首をもたげた。
 彼女の小さな足元を、影のように静かに忍び寄り、『狂気』はひたひたと周囲を染めていく。
 そして、彼女の細い足首に触手を伸ばし……その直前で、青梅ちゃんはピョンとジャンプして、くるりと華麗にターンした。

「今度の日曜、一緒にお出かけしよっ。ここ、連れてって!」

 靴袋を顔の横に掲げて指さす。そのキャラクターは、彼女の大好きなテーマパークで買ったものだ。
 キラキラした笑顔に、僕の『狂気』は、ウソのように霧散した。そしてようやく僕は自分のしようとしていたことに気づき、恥じた。
 何を考えているんだ僕は。最低だ。
 青梅ちゃんは、期待に満ちた目で僕を見ている。僕は全力でヨコシマな気持ちを振り払い、笑顔を作る。

「うん……行こうね。一緒に行こう」
「やったー!」

 靴袋を振り回して、彼女は喜びの舞いを踊る。
 どこまでも無邪気で、子どもっぽくて、それは僕の知っている青梅ちゃんで間違いない。
 彼女が喜んでくれると、僕まで楽しくなってくるんだ。何も心配はいらないって気持ちになる。
 連れて行こう。あの夢の国へ。

「じゃあ、じゃあ、お姉ちゃんも連れてこう! そんで、みんなで陽平さまと一緒に遊ぼうね!」
「え?」

 へっぴり腰で、下手くそなムーンウォークしながら、青梅ちゃんはニコニコ笑う。
 僕は、なんて言っていいか困る。

「それは、でも、無理だよ。お兄様は……死んでしまったから」
「え?」

 今度は、青梅ちゃんが固まった。

「あー、恭平ちゃんも騙されてるー。あれね、ウソだよ。陽平さまは死んでないよ」
「……ええ?」

 僕たちの会話はまるで疑問符のキャッチボールだ。青梅ちゃんは、イタズラを成功させたときみたいに、「うしし」と笑って、両手を広げた。

「陽平さまに、不可能はないんだよ! 空だって飛べるって言ってた。だから、あれは陽平さまのドッキリだよ。本物の陽平さまはキィーンって空を飛んで、一足先に青梅たちが来るの待ってるの。だから青梅たちも早く行かなきゃ!」

 キィーンと、青梅ちゃんは飛行機を飛ばすように手を水平に滑らせる。
 屈託のない笑顔の奥に、彼女の小さな『狂気』を見たような気がした。
 彼女は夢を見ている。僕と同じ夢を。

 涙が止まらなくなった。

「恭平ちゃん……どしたの?」

 お兄様が生きていた頃が、夢の世界だったんだ。
 そして今は現実へと帰る途中だ。楽しかった思い出を胸に、ハシャギすぎた自分を恥じつつ、ほんの少しのお土産を片手に、僕たちはとぼとぼと歩いている。
 でも、お兄様は今も夢の世界に住んでいて、帰っていく僕たちの背中を見送っている。僕にこんな大きなお土産を持たせて。
 僕はそっちには行けない。行きたくない。お金も超能力も僕は欲しくなかった。
 お兄様に、帰ってきて欲しかっただけなんだ。 
 それなのに、日に日に大きくなっていく『狂気』は僕に夢を見せる。
 春海姉ちゃんを犯して、青梅ちゃんも抱いて、あの学校を支配して、そして、お兄様への尊敬と愛に満ちた、夢と狂気の世界にみんなを連れて行きたいって、そう思っている。
 僕はもう狂っているんだ。

「大丈夫、大丈夫だよ」

 青梅ちゃんが、小さな子をあやすみたいに僕の頭を抱いて背中を叩いてくれた。
 彼女の前で泣いてしまう自分が恥ずかしい。
 でも、僕は泣き続ける。ずっと泣き続けるんだろう。

「恭平ちゃんは、大丈夫」

 ─────いつか、『狂気』が僕を飲み込む日まで。



「キィーン」

 俺の手の中でF-22ラプターが旋回する。
 戦闘機コレクションは日に日に充実していき、キャビネットはいくつあっても足りないくらいだ。
 世界中の戦闘機プラモが集合し、世界最強の空軍が俺んちに完成している。
 実際、今や本物の米と露を合体させた最強空軍の指揮権が俺にはあり、いつでも戦争おっぱじめる用意は出来ているのだが、紛争もテロもなくなった今となっては、どこにも飛ばす用事はない。
 こうしてプラモ眺めて遊ぶくらいだ。
 世界で初めて完全平和を実現した俺に数々の賞が贈られたが、そんなものより、実際に飛び交う戦闘ヘリと爆撃の興奮の方が俺には価値あるものだった。
 当然、俺の軍にキズ1つ付けたくないので、相手方はあらかじめ無抵抗にしてからのチート大作戦だったわけだが。
 またやりたいな、ああいうの。今度は米対露で戦争やろっかな。

「陽平さま、政府からの要望書です」
「またかよ」

 ここんとこ、政府を通した注文がまた増えてきていた。
 せっかく戦争を無くしてやったっていうのに、今度はその保障だの復興だの、くそメンドくさいことまで俺に押しつけようとしているんだ。
 本当に役立たずばっかりだ。そういうことは、お前らでやれっつうの。

「知らねえって言っとけ。今日の仕事は終了だ」
「かしこまりました」
「そんじゃ、しゃぶれ」
「はい」

 役人女にフェラさせて、いっぱい口の中に出してやった。

「飲み込むな。そのまま口の中に溜めてろ」
「ふぁい」
「役所に帰ったら、上司にこれが俺の返事だって言って、机の上に吐き出してやれ。それまで出すんじゃないぞ」
「ふぁい」
「よし、行け」
 
 あー、だりい。最近、王様の仕事ってのに面倒なのが増えてきた。
 俺が好き放題遊ぶには、それなりに市民らにも良い暮らしを保証しなきゃならないっていうか、見返りも必要だってのは俺にもわかるが、派手なドンパチならまだしも、地味~な施策だの法律だのに余計な時間を取られるのは、じつに面倒というか、つまんなかった。
 そんなの政治家や役人の仕事だろってんだが、アイツらにやらせると根回しだの協議だの、余計なことに時間を使っていつになっても実現しない。
 だから、何事も一瞬で実現してしまう俺に頼ってくる機会が増えるというわけ。
 持ちつ持たれつというか、俺だって金は必要だし奴らの協力も大切なので、各国の要望には時々応えてやってるが、何でも引き受けていたらさすがにキリがない。
 世の中の大人なんて、無能なのばかりだよ。面倒のかかるやつらだぜ。

「わあッ!」
「おっ」

 背中にドンと体当たりを受けた。振り向かなくても誰だかわかる。
 青梅。
 隣んちのガキんちょだ。

「ビックリした?」
「しねーよ。いっつもじゃん、おまえ」
「へへー」

 一応、コイツも俺の奴隷なのだが、まだまだガキんちょボディだし、抱く気にもなれないから好きに遊ばせてやっている。
 そうしたら、図に乗っていつもこんな調子だ。気が向いたら突撃王様の晩ゴハンしにやってくる。
 まあ、こういう性格も昔からこうだし、恭平と一緒に俺たちの妹みたいに育ってきてるから、別に今さら癇に障ったりはしないけど。

「またお役所のお姉さんにオチンチンしゃぶらせてたね。陽平さまのエッチー」
「うっせえな。お前もそのうちしゃぶらせるからな」
「スケベ!」
「痛ってッ!? やったな、コノ!」
「きゃー、逃げろー!」

 青梅は俺のコレクションからフランカーE1を盗んで逃げる。俺はホーカーシドレーハリアー2で青梅を追撃する。逃げまどう青梅を追いかけて俺は食堂に突入し、晩ご飯の支度をしてた春海を人質に取って、降伏を通告する。
 青梅は渋々降参し、春海はけらけら笑って、みんなで仲良くメシを食う。
 そして青梅を家に帰してから、いつものようにみんなで乱交を楽しんだ。
 今日も平和な俺んちだ。

 学校は、増え続ける生徒にパンクしそうだという。
 久遠と吉嶋が揃って俺のところに来て、今後の編入生については年次の計画を立てて、施設の増設や生徒会の増員と並行して進めたいとか、なんだか小難しいことを語り始めた。
 正直どうでもいいんだが、あそこも俺の私立となっているので、俺が決定して面倒を見てやらないといけないんだ。
 大事な俺のメス牧場が、めちゃくちゃになられても具合が悪いし。
 だからこそ、こいつら羊飼いどもにも多少の権力と武力を与えてやってるのだが。

「国も民族も違う子たちですから、規律も守れないし、いざこざも多いです。私たちも精一杯頑張っているのですが、これ以上は手が回らなくて……」

 例えば、まあ、生徒たち全員に久遠の言うことを聞く人形になれと命じれば、そんな問題は一気に解決するわけだが、世界各国の様々な女が一度に抱けることが売りの我が校に、無個性教育の時代など来なければいいと俺は思っている。

「それぐらいのことが出来なくて、なんのための生徒会だよ」
「も、申し訳ありません!」

 何事もきっちりとやろうとする久遠の性格は高く評価しているが、基本、か弱いお嬢様というか、肝心なところで甘えるクセがある。
 俺のいないときはコイツらに仕切ってもらわないといけないのだから、もっとしっかりして欲しいところだ。

「まあ、わかったよ。とりあえず今後の編入生については、お前らと相談してやるよ。部屋とかも足りなくなったら言ってくれ。あの辺、まだまだ土地は空いてるしな」
「はいっ、ありがとうございます!」

 学校周辺の民家や商店に撤去させて、出身地ごとの寮やヌーディストプールを拡充設置したばかりだが、まだまだ使える土地は十分余っていた。その辺の有効な活用もいずれ考えてやらねばなるまい。

「食堂も拡張しようか。俺のお抱えシェフを何人か派遣するから、各国料理を充実させて、生徒の不満を減らすようにしよう。あと企業にも出資させて、設備を充実させてみるか」
「ありがとうございます!」

 俺との関係を欲しがってる企業は山ほどある。まずは俺の学校に協力させることから始めるとしよう。
 学校を中心に、俺の美女たちの都市を築いていくのも楽しいかもしれん。
 シムハーレムだ。

「俺がここまでしてやってんだから、お前らもちゃんとやってくれよ。一人の脱落者も出さないように、きちんと生徒の面倒をみてやれ」
「はいっ、あの、私たちは、陽平さまの奴隷天使として、これからも永遠に───」
「あぁ、はいはい。よろしくな」

 またいつもの自己陶酔が始まりそうだと思って、俺は適当に切り上げて席を立った。
 つーかコイツら、本当なら高校卒業してる年なのだが、俺に断りもなく勝手に留年し、生徒会役員の座に収まり続けてやがるんだ。
 まあ、次の頭決めるのも面倒だから別にいいんだけど、このままババアになるまで学校にいるつもりなのかと思うと、ちょっとうんざりだな。

 窓の汚れが気になる。
 いつも同じ場所に、変な汚れがこびついている。
 
「藤田ッ!」

 物置部屋から、のろのろとメイド服の藤田が出てくる。
 窓を汚れを拭くように命令すると、いつもと同じように脚立の上に立って俺にスケベな下着を見せ、窓から半身を乗り出して外の汚れをこすり落とす。
 コイツの尻は、なんとなく気に入ってる。汚れがきれいになったところで、いつものように藤田を床に押し倒す。

「いやぁッ!」

 いやぁッ、じゃねえよ。いくら抵抗しても無駄だってことくらい、いいかげん理解しろって思うわ。
 でも、嫌がる藤田を犯すってのが楽しみの一つである俺としては、いいぞもっとやれと言いたいところでもあるんだけど。

「んーッ! あ、んんーっ!」

 それに、藤田のマンコは俺の突っ込んでやったらすぐに濡れる。なんだかんだで俺のチンポで最後までイってるし、コイツも満更ではないっていうのは確定的に明らかだ。
 足を大きく広げさせて、くちゅくちゅ音を立て始めた藤田のソコを、ガツンガツンと突いてやる。
 卒業式でもないのに女教師を犯せるなんて、俺は恵まれた学生だぜ。

「う…うぅ…ッ!」

 藤田の手が背中に伸びて、何かを取り出した。そしてそれを振りかぶったところで、俺は「ストップ」と命令した。

「……なんだよ、それ?」

 小さく光るナイフが、藤田の手に握られていた。指が白くなるほど両手で強く握りしめ、頭の上で必死に振り下ろそうと震えている。

「……殺してやる……殺してやる…ッ!」

 藤田は泣きながら、歯を食いしばる。でもそれ以上は動かせない。
 笑っちまう。バカな女だ。

「教師のくせに生徒を殺す気かよ。ハハッ、おっかねぇセンセーだな」
「うぅ…ううー!」
「ナイフを離せ。両手を床に下ろせ」

 力なく両手を垂らした藤田に、俺は腰の動きを再開する。

「だから、何度も言ってんだろ。お前に俺は殺せない。逃げることも死ぬこともできない。な? 無駄だったろ?」
「さいてー……あんたなんて、最低っ」
「黙れよ」
「あぁッ!」

 俺は藤田の頬を平手で打つ。パシンと小気味のいい音が鳴って、手の跡がくっきりと頬に残る。

「掃除奴隷のくせに、ご主人様に生意気な口きくんじゃねーよ。妊娠させっぞ?」
「あぁッ、あぁッ」

 平手の跡が増えていく顔。涙に濡れた顔が真っ赤になっていくのが面白い。ぐぢゅぐぢゅと藤田のアソコもスケベな音を立てて濡れていく。

「許して…ごめんなさい、ごめんなさい!」
「ダメだね、妊娠しろ」
「あぁーッ!」

 藤田の中に大量の精液を吐き出す。ブルブルと全身を震わせて藤田も達した。
 俺のをきれいにするように命じると、藤田は抵抗をあきらめて俺のを咥えた。
 慣れた口淫に身を任せて、俺は彼女の捨てたナイフを開いてみる。

「……本気で殺す気なら、もっとでけぇナイフじゃないと無理だぞ。こんなんじゃお前がケガするだけだ」
「んっ、んっ、んっ、んっ」
「つーか、殴って悪かったな」
「んっ、んっ、んぷっ、んぐっ」

 藤田の頭を押さえ込んで、俺は喉の奥に向かって射精した。藤田はゲホゲホむせこんで、床に俺の精液を垂らしやがったから、きちんと掃除しとくように命令した。

「わあッ!」

 アイドルソファでくつろいでいたら、今日も青梅が登場だ。
 どうでもいいんだが、俺がカルピス飲んでるときにそれはやめてほしい。ソファの尻にカルピス吹き出してしまって、とても小学生女子にはお見せできないようなスケベソファになってしまった。

「陽平さまー。おやつちょうだい!」

 コイツ、ご主人様をパトロンか何かと勘違いしてるんじゃないだろうか。
 学校帰りにそのまま寄ったらしい青梅は、両手をちょんと差し出して、ギブミーお菓子な笑顔を満面に浮かべている。

「冷蔵庫になんか入ってるだろ。勝手に食え」
「ありがとー!」
「ったく、あのな、お前はいっつも食い物タカリに来てっけど、ここは一応、王様である俺の───」
「おっと、忘れる前にこれこれ。すみません、椅子のお仕事終わったらサインください。友だちがあなたのファンなんです」

 そう言って、青梅は有名なアヒルのキャラクターバッグから色紙を取り出し、現役アイドルグループの一員で、尻にカルピスかかったソファの肘掛け(確かこないだのファン投票で3位になった子)の前に、そっと色紙とマジックを置いた。
 ホント自由だな、青梅。

「で、なになに、陽平さま?」
「……なんでもねーよ。勝手にしとけ」

 青梅は「勝手にするー!」と叫んで、冷蔵庫からプリンを箱ごと取り出し、俺のアイドルソファにドスンと腰掛けた。
 そして次々にプリンのふたを開けて食らいながら、背もたれの子のおっぱいを「プリンみたいですねー」とモミモミして遊び始める。

「やれやれ」

 俺も青梅の隣りに座って、政府から要望書に目を通す。一応、俺は仕事中だったのだ。
 いろいろと面倒なことを先送りにしてきたツケなのか、どんどん要望は増えていく。あいつら、自分らで仕事しようって気はないのかよ。
 まあ、ないんだろうな。自分でいうのもなんだが、俺って便利だしな。

「ねえねえ、陽平さま」
「ん?」

 青梅はカバンから何やら包みを取り出していた。

「藤田さんは? 今日いないの?」
「え、知らね。おい、藤田ー!」

 いつもの用具部屋は、シーンとして物音もしない。不在だな。
 俺の女たちには、タワー内で暮らすことを強要しているが、病院とか買い物とか、普通に用事で出掛けたりしているときもある。藤田も例外じゃない。監禁なんかしとくと、逆に世話が面倒なのだ。

「……いないな」
「そっかー。せっかく家庭科で作ったクッキーあげようと思ったのにな」
「藤田に?」
「うん、いっつも宿題とか勉強教えてもらってるから、そのお礼」
「お前ら、そんなことしてんの? いつ?」
「だって陽平さま、学校帰り遅いときとかあるじゃん。そういうとき、藤田さんが勉強教えてくれたりしてるんだ」

 へぇ、そんなことしてんの、藤田。てか、この2人が仲良いって意外。

「藤田さんね、学校の先生だからって、いろんなこと教えてくれるよ。あとね、たまにチョコとかもくれる。あーあ、あの人が青梅の担任だったらいいのになー。優しいし」
「ふぅん」

 生徒を刺し殺そうとする先生だけどな。

「陽平さまのことも教えてくれるよ。前は学校でも暗くて友だち少なかったんだってね? かわいそうね?」
「あぁ? うっせぇよ」
「今もあの頃と変わってないって。自分の殻に閉じこもってるって」
「何言ってんだよ、バカ。俺は世界に向かって開けてるっつうの」

 余計なお世話だ。俺のこと語ってんじゃねえよ。
 絶対的な王のことを、庶民ごときに語れるはずはないのだ。

「藤田さん、陽平さまのこと怖いんだってさ。でも怖くないよね? 陽平さまは優しいよって教えといたよ」
「てめーは、おやつくれる人はみんな優しいんだろ」
「そしたら藤田さん、あの人は神様でも悪魔でもないから、優しいときもそうじゃないときもあるって。普通の人だから怖いんだって」
「意味わかんね」
「ね、ね、陽平さまは空も飛べるってホント?」
「へ?」
「藤田さんが言ってたよ。キィーンって空も飛ぶって。どんな高いところも平気だって。ホントに?」

 キラキラした青梅の目を見て、気づいた。
 藤田、こいつをからかってるんだ。

「あぁ、ホントだぜ。時速500kmは出るな」
「マジー!?」
「マジマジ。調子のいいときなんかワープしちゃうから」
「調子よすぎー!」
「でも、今日はちょっと盲腸の調子が悪いから無理かな……」
「うそーん。ねえねえ、プリン食べたら良くなるよ。食べて食べてー」
「ってお前、全部食ってんじゃねぇかよ。俺の分はどうした?」
「へへー」
「笑ってんじゃねぇよ」

 ゴチンと青梅の頭にゲンコツを落とす。「いってー!」と青梅が笑う。

「てかお前、いっつもおやつ提供してる俺にクッキーないのかよ」
「いってー!」

「しつけーよ。ホントしつけーよ。つか、なんで財政問題まで俺が考えてやんなきゃならないんだよ!」

 日々、王様の仕事をがんばっている俺だが、いいかげん飽きてもくるし、頭にも来る。
 わずらわしいったらありゃしないんだ。

「申し訳ありません。陽平さまのお力は全世界の財産であり、国家としても全力で保護と有効活用について取り組んでいるところなのですが」
「だから、俺の力は俺のモノなんだよ! 勝手に国家だの世界だのが使い道考えてんじゃねぇよ!」
「は、はい! 申し訳ありません!」

 どうなってんだよ。厚かましい連中だな。だんだんイライラしてくるぜ。

「ですが、国家の財政運営は、陽平さまが地盤とされている我が国の将来のかかった重大な問題です。陽平さまへの上納金につきましても、政府の試算といたしましては───」
「あぁ、あぁ、もう、わかったよ。金だろ? 金がいるってんだろ? 俺が用意してやるよ」

 メンドくせえヤツらだよ、ホント。
 まあいい。俺だってニュースとかも見たり出演したりしてるから、多少は政治や経済の勉強もしている。こいつらの言いたいこともわかるし、何が一番の問題なのかってのも、当然俺にはわかってる。
 要するに国は福祉だの社会保障だの、そういうサービスに金がかかりすぎるのだ。特に年寄りの年金とか医療や介護とかが大変なんだ。そのへんをさっくり解決してやるよ。
 俺は超能力を全力で発揮する。

「65才以上の無職は死ね。よし、これでいいだろ」

 世界に何万人いるんだか知らないが、これで将来性のない無駄メシ食らいが大量に減ったはず。
 国の貯金にもかなりの余裕が生まれるだろう。その金で女子出産の奨励金でもバラまこうか。美少女が生まれる可能性が増えるぞ。

「……え?」

 俺のそばで話を聞いていた春海が、目を丸くした。

「えと、あの……それじゃ、うちのばあちゃんは?」

 あぁ、そういえば、春海んちにもばあちゃんがいたんだっけ。
 小さい頃は、俺も遊んでもらったりしてた。会えば向こうから声かけてきたりしてたな。いつもニコニコしてたばあちゃんだ。

「さあ? ばあちゃん、いくつだっけ?」

 春海は顔色を変えて、ケータイを取り出した。何度かコールして、一度切って、違う番号をかけ直した。出たのは、春海の母親らしい。

「母さん、ばあちゃんは! ばあちゃんいる!?」

 電話口の回答はどんなものだったか知らない。ただ、向こうの声も割れて響いていて、絶叫に近い声だというのはわかる。
 春海の手から、ケータイが滑り落ちた。

「そんな…そんなぁ…ばあちゃん……おばあちゃん!」

 あちこちで、春海と同じように女たちがケータイをかける。俺に注文つけてた役人女まで。
 どいつもこいつも、絶望した顔で俺を見る。

「あの、陽平さま……お願いです。今のはナシにしてください。あんまりです!」

 春海が俺の足にすがるようにしがみつく。でも、そんなこと言われたって手遅れだ。死んだ人間を生き返らせるなんて、いくら俺でもできっこない。

「お、お願いです! 何でもしますから、おばあちゃんを返してください! お願いします!」
「つーか、無理だって。いくら何でも、そんなこと……」
「陽平さま!」

 何人もの女が、春海と一緒になって俺にすがりつく。そんなことされても、死んじまったものはどうしようもないし。

「し…仕方ねーだろ。政府のやつらがやれっつったんだから、俺のせいじゃねぇよ! 代わりに国やみんなの生活が楽になるんだから、いいことだろ?」
「そんな……でも、うちのばあちゃんは……」
「いいから、死んだ人間のことでとやかく言うのはやめろ! 俺のやることは正しい! 俺の言うとおりにするのがお前らの幸せだ! わかったな!」

 俺の超能力が全世界に発信される。
 春海も、女たちも、ビリビリと体を痙攣させ、俺の力を受け止める。

「はい……ありがとうございます、陽平さまぁ……」

 口元をよだれで濡らして、春海がエヘラと笑みを浮かべる。
 それでいい。俺の言うとおりにしていれば、全員幸せにしてやる。
 つまんないことで騒ぐなよ。

「陽平さまのおかげで、我が校の施設も充実し、生徒たちも大変満足しています」
「ん」
「各地域のクラスも、委員長を中心に団結力も強まって、私たち天使の指導のもと、陽平さまをいつでもお持てなしできるよう、万全の体制を整えております」
「あー、そう」
「それで、その……最近、陽平さまがあまり登校なさらないのは、私たちにどういった不手際がありますのか、お聞きしたいと思いまして……」
「忙しいんだよ、俺は。お前らと違って学校ゴッコなんてしてるヒマないの。それとも何か? 単位足りないから退学にするってのか?」
「い、いえ、そんなことは!」
「ヒマんなったら顔くらい出してやるよ。あとはお前らに任せてんだから、しっかりやっとけ」
「は、はい! 申し訳ございませんでした! 私たち天使一同、陽平さまのご登校を心より───」
「うるせぇよ。用が済んだら、さっさと帰れ」

 久遠と吉嶋を追い返して、机の上に溜まった書類の処分に入る。最近じゃ役人女の顔を見るのもウザいから、黙って書類だけ置いていかせてる。俺は適当に一番上の書類を手に取った。

 死んだ老人の金融や不動産資産、約900兆円分ほどが相続人不明で宙ぶらりん。同じく回収不能になった債務や事故、保険等の損害は合わせて700兆円ほど。
 加えて税収や市場の大幅縮減、地域コミュニティの消滅など社会的混乱の長期化が懸念される中、その処理について早急に検討を要する。だって。

「……意味わかんねーよ」

 てか、そんなの全部お前らの仕事だろうが。俺に丸投げしてんじゃねぇよ。
 ホント、クズばっかりだな。
 とりあえず、宙ぶらりんの金は全部俺のものしろ。借金だの国の経費だのは、それで払ってやるよ。
 そう書いて返してやろうと思って、その寸前で、何行か書き足す。
 春海んちに100億、ついでに俺の家にも100億、内緒で振り込んでおけ。絶対に表に出さないように。

 あとの仕事は適当に済ませて、俺は春海を呼ぶことにする。

「お呼びでしょうか……陽平さま」

 うっとりとした顔で、春海はすぐに俺の足元に跪き、ファスナーを下げる。慣れた手つきで俺のを取り出し、優しく揉みほぐしたり、唇をつけたりして快感を誘う。
 最近じゃ、春海は前にも増してチンポ好きになった。まるでチンポ以外のことは全部忘れたみたいに。

「……さっき、お前んちに香典振り込む手続きしてやったぞ。一生食うのに困らないくらいの金だ。それでばあちゃんの墓でも建ててやれ」
「ふぁい、陽平さま、んっ、ちゅぶっ、んっ、んく、んっ」
「今度、みんなで遊びに行くか。昔みたいに、俺とお前と、恭平と青梅の4人でどっか行ってみないか?」
「ふぁい、陽平さま。んっ、ふふっ、チンポ、固くなって、きたぁ、んんっ、ちゅぼ、チンポ、んっ、チンポぉ」
「……俺のチンポ、好きか?」
「ふぁい好ひぃ、んっ、チンポ、好きぃ、んっ、んんんっ、んー」

 ぢゅぶぢゅぶ、よだれをこぼして俺のチンポを春海がしゃぶる。目をうつろにして、それ以外な何も映ってないみたいに、夢中になって俺のチンポを握り、しゃぶる。
 春海はあれから、ずっとおかしい。
 でも、どうやっても前の春海には戻ってくれない。
 俺には失ったものを取り戻す力はない。春海は、何かを失ってしまったみたいだ。

「……春海、結婚しよう」
「ふぁ?」
「俺、お前のこと好きだったんだ。ガキの頃からずっと好きだった。お前も幼稚園とき、そう言ってたよな? こないだ、そのこと思い出したんだ。あんときは、お前の方から俺にプロポーズしてきたよな? その返事まだしてなかった。ごめん。結婚しよう。大好きだ」

 春海は目を細めて、俺のを咥えたまま、幸せそうに微笑む。

「けっほんひたら、チンポ、ずっとしゃぶっていいんれすかぁ?」

 俺は、春海の頭を撫でた。
 いつもの可愛いポニーテールだ。俺が好きだった春海の髪だ。

「……あぁ、好きなだけしゃぶれよ」
「わぁい、おチンポ、大好きぃ、大好きれす、陽平さまぁ、んっ、んっ、んんんー」

 汚れが気になる。
 窓の同じところがいつも汚れている。

「藤田ぁ!」

 のそのそと、脚立を持って藤田が出てくる。どこと指示を出さなくても、どこの汚れのことかわかっているようだ。
 だったら、もっと注意して掃除しろよ。ムカつく。
 俺は有無を言わさず、藤田の体を机の上に押しつけ、犯した。何も言わない藤田をいいように犯して、中に射精した。
 藤田は、ケツから精液を垂らしたまま、じっとしてる。俺がその姿を見下ろしてると、ククッと引き攣るように肩を震わせ、笑い出した。

「怖いの?」
「……ハァ?」

 意味のわからないこと言って、藤田はなおも笑う。

「思いどおりにならないことが増えてきたでしょ? 他人の不幸を笑えなくなってきたでしょ? 自分で思ってたほど、自分はすごいやつじゃないって、わかってきたんでしょ?」

 尻をこちらに向けたまま、藤田は俺を見上げて唇をにやりと上げた。

「人はね、自分に対して責任を持たなければいけないの。それはとても難しいことなの。だから、学校の中で自分たちの居場所と責任を学ぶの。そうやって、みんな大人になる準備をきちんとしてから、社会に出るのよ。それを教えるのが私の仕事だった」
「……なに言ってんだよ、お前。バカか?」
「大事な話よ。黙って聞きなさい」

 藤田はいつになく強い口調で俺に言う。なんだか担任だった頃に戻ったみたいで、俺も少しだけびびってしまった。

「あなたは子ども。責任の重さを学び損ねた、ただのガキ。でも、子どもだからって許される範囲はとっくに超えてる。遅すぎだけど、ようやく自分のしたことに気づいたのは、良い傾向だと思うことにするわ」
「だから……なに言ってんだって聞いてんだろ。意味わかんねぇよ」
「たくさんの人が死んだわ。あなたのせいで。世の中はめちゃくちゃになった。あなたのせいで」

 心臓がギューってなって、俺は藤田から離れた。

「苦しい? 重い? それが責任よ。大人はみんな、それを自覚して生きているの。逃げられる人なんていないわ。私は学校にいる間に、それをあなたに教えてあげたかった」
「うるせぇ! わけわかんねぇこと言うな!」
「あなたの力で、元に戻しなさい。取り返しのつくものはまだ残ってるでしょう。失って取り戻せないものは、あなた一人で責任を負いなさい。良心が残っているうちにそれをやらないと、あなたの人生はただの殺人鬼で終わるわ。逃げちゃダメよ」
「うるせぇ、うるせぇ! そんなもん、俺が背負うわけねぇだろ。俺はみんなを幸福にしてやってんだ。誰も不幸になんてなってねぇだろ。俺のモノなんだよ! 全部俺のモノだから、何したっていいんだよ!」

 藤田は黙って俺の顔を見る。いつもの憎しみに満ちた瞳に、見慣れないものが混ざっている。
 それが「憐れみ」だとわかって、俺の怒りは爆発した。
 藤田のぞうきんを拾って、ムチのようにその尻を叩く。

「あぁッ!」

 白い肌に真っ赤な跡が残る。二度、三度と、俺は藤田の尻を叩く。

「あぁッ! あぁッ!」
「俺に説教なんてするな。俺のやることに間違いなんてないんだよ! 責任なんてねぇんだよ!」
「あッ! あぁッ! あぁッ!」
「殺すぞ! 俺に逆らえばお前も殺すぞ! 二度と俺に生意気な口を叩くな! 俺に逆らうな!」
「はぁぁんッ!」

 叩いているうちに、藤田のソコからは俺の精液が飛び散り、別の液体が垂れ始めていた。俺もまた、この光景に獣欲を感じ始めていた。
 痛々しく赤い尻を鷲づかみにして、藤田の奥へ自分を埋め込む。藤田は悲鳴を上げて、尻を馬みたいに跳ね上げた。

「わっ」
「おぉ?」

 ソファで戦闘機コレクションを磨いていたら、懐かしい声で背中を押された。

「落としたらどうする…ん?」

 ギュウと首に手を回されて、青梅の小さい胸が後頭部に押しつけられる。

「ひさしぶり……陽平さま」

 確かに、いつ以来なんだろう。青梅が俺んとこ来るのは。
 後ろに手を回して、青梅の頭を撫でてやる。青梅はくすぐったそうに体を揺する。
 柔らかい感触。ちょっとだけ、青梅の胸が膨らんでるのがわかった。

「……ひさしぶりだな、青梅!」

 俺は青梅を引きはがし、脇に手を入れてその細い体を持ち上げてやった。「んなー」とネコみたいな声出して、青梅も笑った。

「今まで何してたんだよ?」

 そのまま青梅の体をソファの上に下ろす。青梅は「いろいろー」と言って、ボスンとソファの中に身を沈めた。

「普通のソファになってる」
「あぁ、人間ソファはもうやめたんだ。1年座ってみて気づいたけど、あれ座り心地悪いわ」
「おっせー」

 椅子だけじゃなく、家に置いてる女も減らした。今じゃ10人もいないくらい。
 大勢いても、ごちゃごちゃしてるだけで落ち着かないしな。

「元気だったか?」
「うん、えへへー」

 1ヶ月くらい、こいつの顔見てなかった。最後に会ったのは……ばあちゃんが死ぬ前か。

「ちょっと背ぇ伸びたか?」
「そんなに変わんないよー。体重は増えたけど」
「食ってばっかいるからだろ」
「……すぐやせるもん」

 そんなこと言って、足をプラプラさせる。
 いつもなら「おやつクレ」とか騒ぐくせに、なんだか少し物静かになっちゃってる。
 身長変わらないって言ってたけど、ちょっと横顔は大人びたような気もした。
 おとなしくしてたら、こいつも結構、美人になってきたんだなって思った。

「あんね、陽平さま」
「ん?」
「お姉ちゃんて、うちに帰ってきたりしないの?」
「どした?」

 春海はずっと俺んちに暮らしている。前からずっとそうだ。今さら青梅は何の話をしているんだ?

「おばあちゃんいなくなってから、おうちがなんか暗くてさ。青梅もがんばってんだけど、お姉ちゃんがいたらなぁって、ときどき思うんだ」

 心臓が、ギューってなった。
 青梅がこんな寂しそうな顔するの見たことない。なんだか胃が重くなった。
 それに、春海。
 今の春海が家に帰れるはずがない。俺のそばにいないと、あいつはきっとおかしくなってしまう。絶対に無理。
 青梅は、子犬がすがるような目で俺を見上げている。
 俺はごくりと喉を鳴らす。

「……遊園地行こう」
「お?」

 急場の思いつきとしては、良いことを閃いた。

「みんなで千葉に行こう。お前の好きなとこだ。春海ともその話をしてたんだ。恭平と4人で遊園地行って遊ぼうぜ。あの、夢の国へなんたらってやつ」
「おぉ……おおーッ!?」

 ようやく俺の言ってることを理解した青梅は、目をキラッキラに輝かせた。

「行くか?」
「行く行くー!」

 小躍りしながら青梅は飛び上がる。俺も一緒にソファから立ち上がる。

「よし、そうと決まったら準備しとくぜ。ただ行くだけじゃつまらねえ。大改造だ。あそこの本社に命令して、日本版を世界最高のレジャーランドに改造させてやる。ド派手な本物の夢の世界にして、お前らを招待してやるぜ!」
「おぉ! それは陽平さま、やばいノリ? やばいノリで言ってる?」
「あー、相当やばいノリだ! 土地も買い占めて巨大化させてやる。万博やるつもりだった予算で、あそこを大改造だ。行ったら二度と帰れないくらいでかい遊園地にしてやるからな!」
「やったぁ、やばすぎー!」
「やばすぎー!」

 俺と青梅は大ハシャギして、あそこのテーマソング歌いながら部屋の中マーチングして、前祝いだっつってシャンパン開けて、げらげら笑って、酔っぱらって二人して爆睡した。
 その日は、久しぶりにぐっすり眠れた。

「あぁっ……陽平さまぁ……」
「気持ちいい…もっと、陽平さま、もっと愛してぇ」
「チンポ、んっ、れろ、チンポおいしい……」

 朝っぱらから、ずっと女たちを抱いている。
 最近は、学校にも全然行ってない。政府の言うとおりの仕事して、ずっと家にこもってる。
 誰とも会いたいと思えなくなったし、欲しい物も特になかった。ただ女を抱いて、疲れたら寝るだけだ。
 女の数も減って、今は春海と藤田もいれて5人くらい。あんまり大勢いればいいってもんじゃない。
 少し眠って部屋に戻る。前は同じベッドで女と寝てたけど、今は人数減ったし、それぞれの個室作って、俺が一人になれるようにしてる。
 結局、一人が一番な。他人がいると落ち着けねぇし。

 知らない間に、夕方だ。

 窓の向こうは真っ赤に染まっている。
 キッチンで水を飲む。なんか最近、水も美味くなくて一口でイヤになっちまう。
 食欲もないし、だりーし、疲れてるのかも知んねーな。

 あぁ、疲れてんだな、俺。

 って、おっさんじゃあるまいし、何を弱っちいこと言ってんだ。
 明日はちゃんとメシを食おう。そんで久しぶりに学校にでも行って、仕事なんて放っぽり出して、テレビ局引き連れて街で大暴れしよう。
 いつもどおりのことをするぜ!

 ……って、まあ、昨日も同じこと思ったんだけどな。

「んー、よし、ランニングだ」

 円い部屋を、円く走る。たまにはちゃんとした運動もしなきゃダメだ。
 でも10分ほど走ったら、すぐに息が切れちまう。あれー、こんなになまってんのか、俺。メシ食ってないからだな。
 風呂でも入ろうかと思って、顔を上げる。
 そうすると、まただ。また窓の同じところが汚れている。

「なんでいっつも、汚れるかなぁ……」

 ほんと、ムカつくぜ。誰かがわざと汚してるんじゃないだろうか。イライラする。思いどおりになんないこと、みんなムカつく。
 でも藤田を呼ぼうとして、それはやめた。
 俺はあの時以来、なんとなく彼女を避けている。別にアイツの言ってることなんて全然気にしちゃいないが、なんか気分悪くて、なるべく顔を合わせないようにしている。
 それでも、なぜかあの女を手放せずにいるんだけど。
 
「しょうがねぇな」

 椅子を引っ張ってきて、窓の下でキャスターを固定する。イマイチ不安定だが、なんとか立っていられる。窓のロックを外して開けた。強い風が入ってきた。

「うお、危な……」

 下で見ていたよりもずっと怖い。背伸びして窓枠に手をかけて体を引き上げると、外風も強くてグラグラする。
 今、青梅が突撃してきたら、確実に俺は死ねるな。
 藤田はいつもこんなところで窓ふきしてたのか。危ないし、次からは業者を頼もう。
 サッシに腰かけ、腕を伸ばして、タオルで汚れを拭う。それはなんだか、汚水を垂らした跡が乾いたような、簡単に落ちる汚れだ。窓にセメダインか何か、透明なものが張り付いていて、そこだけ汚れが目立つようになっていた。
 改装させたとき、張り付いてそのまんまだったんだろうか。

「わかんね」

 これもそのうち、業者にきれいにさせよう。
 ていうか、ここから見る景色が気持ちいいってことに、久々に気づいたぜ。

「……うわ」

 俺はサッシに腰掛け、東京の空を見る。
 夕焼けを真っ赤に受け止めて、ビル群が染まる。刻一刻と色を変えていく空を、地上はただ受け止め、影を落とす。
 それはとてもきれいなものだった。感動的ですらあった。
 これが世界だ。世界のあるべき姿だ。
 見ろ。どんなに高いビルを建てても、人が空を飛んでも、地上の世界は空の変化を黙って受け入れるだけで、暮れるのを惜しんでも取り戻せやしないんだ。
 空は地上に責任なんて負わない。たとえ失敗しても謝ったりしない。

「ハハッ」

 だから俺は、空が好きなんだ。
 自由に、誰よりも速くこの空を飛び回りたいって、ガキの頃からずっと憧れてた。
 でも今の俺は、重たくて鈍い。でっけぇ荷物が背中にあって、せっかくの自由を押し殺してしまってた。
 藤田の言うとおり、俺は俺の責任に囚われてる。
 心に残ったしこりも、どこに行っても目につく俺の所業も、今は重たい荷物でしかない。
 世界が全部、檻みたいだ。心がまるで鎖みたいだ。
 俺は飛びたいだけだったのに。好き勝手に生きたいだけなのに、俺が俺である限りこの檻からは出られない。
 窓に手をかける。風が吹いている。ここから少し体重をずらすだけで、体は軽くなれるだろう。
 きっとそれは、とても気持ちがいいはずだ。空を飛ぶみたいに。

 ここから飛べば、楽になれる───。

 ……なぁんて、藤田あたりはそういうの期待してるかもな。
 でも、ちげぇ。んなわけねぇし。
 そんなのはバカのやることだ。俺みたいに賢い人間はそんなことしない。
 放り出すのはお荷物だけだ。そのための手段はいろいろある。

 例えば、恭平あたりを身代わりに殺して、俺がアイツになり代わって人生やり直すってのはどうよ。

 俺の力を使えば世界中の人間を誤認させることも、自分自身を騙すことだって可能だ。
 そうすりゃメンドくさいことも忘れて、もう一度この力をイチから楽しむこともできる。ほとぼり冷めるまでは力も俺の記憶も抑えて、恭平らしく、むっつりスケベに超能力を楽しむのもいいだろう。そのために実家に大金を放り込んだりもしてるんだ。
 人生なんて一度きり。それをこんなラッキーで迎えられたんだから、余すことなく使わなきゃ損ってやつだぜ。

 夕日がどんどん沈んでいく。
 俺は久しぶりに俺は明るい気分でそれを見送る。
 明日も明後日もその次の日も、世界に終わりなんてない。

「たららんらんらん、たららんらんらん……」

 世界は一つ。
 王も一人だ。

< 終わり >



「キィーン」

 俺の手の中でF-22ラプターが旋回する。
 戦闘機コレクションは日に日に充実していき、キャビネットはいくつあっても足りないくらいだ。
 世界中の戦闘機プラモが集合し、世界最強の空軍が俺んちに完成している。
 実際、今や本物の米と露を合体させた最強空軍の指揮権が俺にはあり、いつでも戦争おっぱじめる用意は出来ているのだが、紛争もテロもなくなった今となっては、どこにも飛ばす用事はない。
 こうしてプラモ眺めて遊ぶくらいだ。
 世界で初めて完全平和を実現した俺に数々の賞が贈られたが、そんなものより、実際に飛び交う戦闘ヘリと爆撃の興奮の方が俺には価値あるものだった。
 当然、俺の軍にキズ1つ付けたくないので、相手方はあらかじめ無抵抗にしてからのチート大作戦だったわけだが。
 またやりたいな、ああいうの。今度は米対露で戦争やろっかな。

「陽平さま、政府からの要望書です」
「またかよ」

 ここんとこ、政府を通した注文がまた増えてきていた。
 せっかく戦争を無くしてやったっていうのに、今度はその保障だの復興だの、くそメンドくさいことまで俺に押しつけようとしているんだ。
 本当に役立たずばっかりだ。そういうことは、お前らでやれっつうの。

「知らねえって言っとけ。今日の仕事は終了だ」
「かしこまりました」
「そんじゃ、しゃぶれ」
「はい」

 役人女にフェラさせて、いっぱい口の中に出してやった。

「飲み込むな。そのまま口の中に溜めてろ」
「ふぁい」
「役所に帰ったら、上司にこれが俺の返事だって言って、机の上に吐き出してやれ。それまで出すんじゃないぞ」
「ふぁい」
「よし、行け」
 
 あー、だりい。最近、王様の仕事ってのに面倒なのが増えてきた。
 俺が好き放題遊ぶには、それなりに市民らにも良い暮らしを保証しなきゃならないっていうか、見返りも必要だってのは俺にもわかるが、派手なドンパチならまだしも、地味~な施策だの法律だのに余計な時間を取られるのは、じつに面倒というか、つまんなかった。
 そんなの政治家や役人の仕事だろってんだが、アイツらにやらせると根回しだの協議だの、余計なことに時間を使っていつになっても実現しない。
 だから、何事も一瞬で実現してしまう俺に頼ってくる機会が増えるというわけ。
 持ちつ持たれつというか、俺だって金は必要だし奴らの協力も大切なので、各国の要望には時々応えてやってるが、何でも引き受けていたらさすがにキリがない。
 世の中の大人なんて、無能なのばかりだよ。面倒のかかるやつらだぜ。

「わあッ!」
「おっ」

 背中にドンと体当たりを受けた。振り向かなくても誰だかわかる。
 青梅。
 隣んちのガキんちょだ。

「ビックリした?」
「しねーよ。いっつもじゃん、おまえ」
「へへー」

 一応、コイツも俺の奴隷なのだが、まだまだガキんちょボディだし、抱く気にもなれないから好きに遊ばせてやっている。
 そうしたら、図に乗っていつもこんな調子だ。気が向いたら突撃王様の晩ゴハンしにやってくる。
 まあ、こういう性格も昔からこうだし、恭平と一緒に俺たちの妹みたいに育ってきてるから、別に今さら癇に障ったりはしないけど。

「またお役所のお姉さんにオチンチンしゃぶらせてたね。陽平さまのエッチー」
「うっせえな。お前もそのうちしゃぶらせるからな」
「スケベ!」
「痛ってッ!? やったな、コノ!」
「きゃー、逃げろー!」

 青梅は俺のコレクションからフランカーE1を盗んで逃げる。俺はホーカーシドレーハリアー2で青梅を追撃する。逃げまどう青梅を追いかけて俺は食堂に突入し、晩ご飯の支度をしてた春海を人質に取って、降伏を通告する。
 青梅は渋々降参し、春海はけらけら笑って、みんなで仲良くメシを食う。
 そして青梅を家に帰してから、いつものようにみんなで乱交を楽しんだ。
 今日も平和な俺んちだ。

 学校は、増え続ける生徒にパンクしそうだという。
 久遠と吉嶋が揃って俺のところに来て、今後の編入生については年次の計画を立てて、施設の増設や生徒会の増員と並行して進めたいとか、なんだか小難しいことを語り始めた。
 正直どうでもいいんだが、あそこも俺の私立となっているので、俺が決定して面倒を見てやらないといけないんだ。
 大事な俺のメス牧場が、めちゃくちゃになられても具合が悪いし。
 だからこそ、こいつら羊飼いどもにも多少の権力と武力を与えてやってるのだが。

「国も民族も違う子たちですから、規律も守れないし、いざこざも多いです。私たちも精一杯頑張っているのですが、これ以上は手が回らなくて……」

 例えば、まあ、生徒たち全員に久遠の言うことを聞く人形になれと命じれば、そんな問題は一気に解決するわけだが、世界各国の様々な女が一度に抱けることが売りの我が校に、無個性教育の時代など来なければいいと俺は思っている。

「それぐらいのことが出来なくて、なんのための生徒会だよ」
「も、申し訳ありません!」

 何事もきっちりとやろうとする久遠の性格は高く評価しているが、基本、か弱いお嬢様というか、肝心なところで甘えるクセがある。
 俺のいないときはコイツらに仕切ってもらわないといけないのだから、もっとしっかりして欲しいところだ。

「まあ、わかったよ。とりあえず今後の編入生については、お前らと相談してやるよ。部屋とかも足りなくなったら言ってくれ。あの辺、まだまだ土地は空いてるしな」
「はいっ、ありがとうございます!」

 学校周辺の民家や商店に撤去させて、出身地ごとの寮やヌーディストプールを拡充設置したばかりだが、まだまだ使える土地は十分余っていた。その辺の有効な活用もいずれ考えてやらねばなるまい。

「食堂も拡張しようか。俺のお抱えシェフを何人か派遣するから、各国料理を充実させて、生徒の不満を減らすようにしよう。あと企業にも出資させて、設備を充実させてみるか」
「ありがとうございます!」

 俺との関係を欲しがってる企業は山ほどある。まずは俺の学校に協力させることから始めるとしよう。
 学校を中心に、俺の美女たちの都市を築いていくのも楽しいかもしれん。
 シムハーレムだ。

「俺がここまでしてやってんだから、お前らもちゃんとやってくれよ。一人の脱落者も出さないように、きちんと生徒の面倒をみてやれ」
「はいっ、あの、私たちは、陽平さまの奴隷天使として、これからも永遠に───」
「あぁ、はいはい。よろしくな」

 またいつもの自己陶酔が始まりそうだと思って、俺は適当に切り上げて席を立った。
 つーかコイツら、本当なら高校卒業してる年なのだが、俺に断りもなく勝手に留年し、生徒会役員の座に収まり続けてやがるんだ。
 まあ、次の頭決めるのも面倒だから別にいいんだけど、このままババアになるまで学校にいるつもりなのかと思うと、ちょっとうんざりだな。

 窓の汚れが気になる。
 いつも同じ場所に、変な汚れがこびついている。
 
「藤田ッ!」

 物置部屋から、のろのろとメイド服の藤田が出てくる。
 窓を汚れを拭くように命令すると、いつもと同じように脚立の上に立って俺にスケベな下着を見せ、窓から半身を乗り出して外の汚れをこすり落とす。
 コイツの尻は、なんとなく気に入ってる。汚れがきれいになったところで、いつものように藤田を床に押し倒す。

「いやぁッ!」

 いやぁッ、じゃねえよ。いくら抵抗しても無駄だってことくらい、いいかげん理解しろって思うわ。
 でも、嫌がる藤田を犯すってのが楽しみの一つである俺としては、いいぞもっとやれと言いたいところでもあるんだけど。

「んーッ! あ、んんーっ!」

 それに、藤田のマンコは俺の突っ込んでやったらすぐに濡れる。なんだかんだで俺のチンポで最後までイってるし、コイツも満更ではないっていうのは確定的に明らかだ。
 足を大きく広げさせて、くちゅくちゅ音を立て始めた藤田のソコを、ガツンガツンと突いてやる。
 卒業式でもないのに女教師を犯せるなんて、俺は恵まれた学生だぜ。

「う…うぅ…ッ!」

 藤田の手が背中に伸びて、何かを取り出した。そしてそれを振りかぶったところで、俺は「ストップ」と命令した。

「……なんだよ、それ?」

 小さく光るナイフが、藤田の手に握られていた。指が白くなるほど両手で強く握りしめ、頭の上で必死に振り下ろそうと震えている。

「……殺してやる……殺してやる…ッ!」

 藤田は泣きながら、歯を食いしばる。でもそれ以上は動かせない。
 笑っちまう。バカな女だ。

「教師のくせに生徒を殺す気かよ。ハハッ、おっかねぇセンセーだな」
「うぅ…ううー!」
「ナイフを離せ。両手を床に下ろせ」

 力なく両手を垂らした藤田に、俺は腰の動きを再開する。

「だから、何度も言ってんだろ。お前に俺は殺せない。逃げることも死ぬこともできない。な? 無駄だったろ?」
「さいてー……あんたなんて、最低っ」
「黙れよ」
「あぁッ!」

 俺は藤田の頬を平手で打つ。パシンと小気味のいい音が鳴って、手の跡がくっきりと頬に残る。

「掃除奴隷のくせに、ご主人様に生意気な口きくんじゃねーよ。妊娠させっぞ?」
「あぁッ、あぁッ」

 平手の跡が増えていく顔。涙に濡れた顔が真っ赤になっていくのが面白い。ぐぢゅぐぢゅと藤田のアソコもスケベな音を立てて濡れていく。

「許して…ごめんなさい、ごめんなさい!」
「ダメだね、妊娠しろ」
「あぁーッ!」

 藤田の中に大量の精液を吐き出す。ブルブルと全身を震わせて藤田も達した。
 俺のをきれいにするように命じると、藤田は抵抗をあきらめて俺のを咥えた。
 慣れた口淫に身を任せて、俺は彼女の捨てたナイフを開いてみる。

「……本気で殺す気なら、もっとでけぇナイフじゃないと無理だぞ。こんなんじゃお前がケガするだけだ」
「んっ、んっ、んっ、んっ」
「つーか、殴って悪かったな」
「んっ、んっ、んぷっ、んぐっ」

 藤田の頭を押さえ込んで、俺は喉の奥に向かって射精した。藤田はゲホゲホむせこんで、床に俺の精液を垂らしやがったから、きちんと掃除しとくように命令した。

「わあッ!」

 アイドルソファでくつろいでいたら、今日も青梅が登場だ。
 どうでもいいんだが、俺がカルピス飲んでるときにそれはやめてほしい。ソファの尻にカルピス吹き出してしまって、とても小学生女子にはお見せできないようなスケベソファになってしまった。

「陽平さまー。おやつちょうだい!」

 コイツ、ご主人様をパトロンか何かと勘違いしてるんじゃないだろうか。
 学校帰りにそのまま寄ったらしい青梅は、両手をちょんと差し出して、ギブミーお菓子な笑顔を満面に浮かべている。

「冷蔵庫になんか入ってるだろ。勝手に食え」
「ありがとー!」
「ったく、あのな、お前はいっつも食い物タカリに来てっけど、ここは一応、王様である俺の───」
「おっと、忘れる前にこれこれ。すみません、椅子のお仕事終わったらサインください。友だちがあなたのファンなんです」

 そう言って、青梅は有名なアヒルのキャラクターバッグから色紙を取り出し、現役アイドルグループの一員で、尻にカルピスかかったソファの肘掛け(確かこないだのファン投票で3位になった子)の前に、そっと色紙とマジックを置いた。
 ホント自由だな、青梅。

「で、なになに、陽平さま?」
「……なんでもねーよ。勝手にしとけ」

 青梅は「勝手にするー!」と叫んで、冷蔵庫からプリンを箱ごと取り出し、俺のアイドルソファにドスンと腰掛けた。
 そして次々にプリンのふたを開けて食らいながら、背もたれの子のおっぱいを「プリンみたいですねー」とモミモミして遊び始める。

「やれやれ」

 俺も青梅の隣りに座って、政府から要望書に目を通す。一応、俺は仕事中だったのだ。
 いろいろと面倒なことを先送りにしてきたツケなのか、どんどん要望は増えていく。あいつら、自分らで仕事しようって気はないのかよ。
 まあ、ないんだろうな。自分でいうのもなんだが、俺って便利だしな。

「ねえねえ、陽平さま」
「ん?」

 青梅はカバンから何やら包みを取り出していた。

「藤田さんは? 今日いないの?」
「え、知らね。おい、藤田ー!」

 いつもの用具部屋は、シーンとして物音もしない。不在だな。
 俺の女たちには、タワー内で暮らすことを強要しているが、病院とか買い物とか、普通に用事で出掛けたりしているときもある。藤田も例外じゃない。監禁なんかしとくと、逆に世話が面倒なのだ。

「……いないな」
「そっかー。せっかく家庭科で作ったクッキーあげようと思ったのにな」
「藤田に?」
「うん、いっつも宿題とか勉強教えてもらってるから、そのお礼」
「お前ら、そんなことしてんの? いつ?」
「だって陽平さま、学校帰り遅いときとかあるじゃん。そういうとき、藤田さんが勉強教えてくれたりしてるんだ」

 へぇ、そんなことしてんの、藤田。てか、この2人が仲良いって意外。

「藤田さんね、学校の先生だからって、いろんなこと教えてくれるよ。あとね、たまにチョコとかもくれる。あーあ、あの人が青梅の担任だったらいいのになー。優しいし」
「ふぅん」

 生徒を刺し殺そうとする先生だけどな。

「陽平さまのことも教えてくれるよ。前は学校でも暗くて友だち少なかったんだってね? かわいそうね?」
「あぁ? うっせぇよ」
「今もあの頃と変わってないって。自分の殻に閉じこもってるって」
「何言ってんだよ、バカ。俺は世界に向かって開けてるっつうの」

 余計なお世話だ。俺のこと語ってんじゃねえよ。
 絶対的な王のことを、庶民ごときに語れるはずはないのだ。

「藤田さん、陽平さまのこと怖いんだってさ。でも怖くないよね? 陽平さまは優しいよって教えといたよ」
「てめーは、おやつくれる人はみんな優しいんだろ」
「そしたら藤田さん、あの人は神様でも悪魔でもないから、優しいときもそうじゃないときもあるって。普通の人だから怖いんだって」
「意味わかんね」
「ね、ね、陽平さまは空も飛べるってホント?」
「へ?」
「藤田さんが言ってたよ。キィーンって空も飛ぶって。どんな高いところも平気だって。ホントに?」

 キラキラした青梅の目を見て、気づいた。
 藤田、こいつをからかってるんだ。

「あぁ、ホントだぜ。時速500kmは出るな」
「マジー!?」
「マジマジ。調子のいいときなんかワープしちゃうから」
「調子よすぎー!」
「でも、今日はちょっと盲腸の調子が悪いから無理かな……」
「うそーん。ねえねえ、プリン食べたら良くなるよ。食べて食べてー」
「ってお前、全部食ってんじゃねぇかよ。俺の分はどうした?」
「へへー」
「笑ってんじゃねぇよ」

 ゴチンと青梅の頭にゲンコツを落とす。「いってー!」と青梅が笑う。

「てかお前、いっつもおやつ提供してる俺にクッキーないのかよ」
「いってー!」

「しつけーよ。ホントしつけーよ。つか、なんで財政問題まで俺が考えてやんなきゃならないんだよ!」

 日々、王様の仕事をがんばっている俺だが、いいかげん飽きてもくるし、頭にも来る。
 わずらわしいったらありゃしないんだ。

「申し訳ありません。陽平さまのお力は全世界の財産であり、国家としても全力で保護と有効活用について取り組んでいるところなのですが」
「だから、俺の力は俺のモノなんだよ! 勝手に国家だの世界だのが使い道考えてんじゃねぇよ!」
「は、はい! 申し訳ありません!」

 どうなってんだよ。厚かましい連中だな。だんだんイライラしてくるぜ。

「ですが、国家の財政運営は、陽平さまが地盤とされている我が国の将来のかかった重大な問題です。陽平さまへの上納金につきましても、政府の試算といたしましては───」
「あぁ、あぁ、もう、わかったよ。金だろ? 金がいるってんだろ? 俺が用意してやるよ」

 メンドくせえヤツらだよ、ホント。
 まあいい。俺だってニュースとかも見たり出演したりしてるから、多少は政治や経済の勉強もしている。こいつらの言いたいこともわかるし、何が一番の問題なのかってのも、当然俺にはわかってる。
 要するに国は福祉だの社会保障だの、そういうサービスに金がかかりすぎるのだ。特に年寄りの年金とか医療や介護とかが大変なんだ。そのへんをさっくり解決してやるよ。
 俺は超能力を全力で発揮する。

「65才以上の無職は死ね。よし、これでいいだろ」

 世界に何万人いるんだか知らないが、これで将来性のない無駄メシ食らいが大量に減ったはず。
 国の貯金にもかなりの余裕が生まれるだろう。その金で女子出産の奨励金でもバラまこうか。美少女が生まれる可能性が増えるぞ。

「……え?」

 俺のそばで話を聞いていた春海が、目を丸くした。

「えと、あの……それじゃ、うちのばあちゃんは?」

 あぁ、そういえば、春海んちにもばあちゃんがいたんだっけ。
 小さい頃は、俺も遊んでもらったりしてた。会えば向こうから声かけてきたりしてたな。いつもニコニコしてたばあちゃんだ。

「さあ? ばあちゃん、いくつだっけ?」

 春海は顔色を変えて、ケータイを取り出した。何度かコールして、一度切って、違う番号をかけ直した。出たのは、春海の母親らしい。

「母さん、ばあちゃんは! ばあちゃんいる!?」

 電話口の回答はどんなものだったか知らない。ただ、向こうの声も割れて響いていて、絶叫に近い声だというのはわかる。
 春海の手から、ケータイが滑り落ちた。

「そんな…そんなぁ…ばあちゃん……おばあちゃん!」

 あちこちで、春海と同じように女たちがケータイをかける。俺に注文つけてた役人女まで。
 どいつもこいつも、絶望した顔で俺を見る。

「あの、陽平さま……お願いです。今のはナシにしてください。あんまりです!」

 春海が俺の足にすがるようにしがみつく。でも、そんなこと言われたって手遅れだ。死んだ人間を生き返らせるなんて、いくら俺でもできっこない。

「お、お願いです! 何でもしますから、おばあちゃんを返してください! お願いします!」
「つーか、無理だって。いくら何でも、そんなこと……」
「陽平さま!」

 何人もの女が、春海と一緒になって俺にすがりつく。そんなことされても、死んじまったものはどうしようもないし。

「し…仕方ねーだろ。政府のやつらがやれっつったんだから、俺のせいじゃねぇよ! 代わりに国やみんなの生活が楽になるんだから、いいことだろ?」
「そんな……でも、うちのばあちゃんは……」
「いいから、死んだ人間のことでとやかく言うのはやめろ! 俺のやることは正しい! 俺の言うとおりにするのがお前らの幸せだ! わかったな!」

 俺の超能力が全世界に発信される。
 春海も、女たちも、ビリビリと体を痙攣させ、俺の力を受け止める。

「はい……ありがとうございます、陽平さまぁ……」

 口元をよだれで濡らして、春海がエヘラと笑みを浮かべる。
 それでいい。俺の言うとおりにしていれば、全員幸せにしてやる。
 つまんないことで騒ぐなよ。

「陽平さまのおかげで、我が校の施設も充実し、生徒たちも大変満足しています」
「ん」
「各地域のクラスも、委員長を中心に団結力も強まって、私たち天使の指導のもと、陽平さまをいつでもお持てなしできるよう、万全の体制を整えております」
「あー、そう」
「それで、その……最近、陽平さまがあまり登校なさらないのは、私たちにどういった不手際がありますのか、お聞きしたいと思いまして……」
「忙しいんだよ、俺は。お前らと違って学校ゴッコなんてしてるヒマないの。それとも何か? 単位足りないから退学にするってのか?」
「い、いえ、そんなことは!」
「ヒマんなったら顔くらい出してやるよ。あとはお前らに任せてんだから、しっかりやっとけ」
「は、はい! 申し訳ございませんでした! 私たち天使一同、陽平さまのご登校を心より───」
「うるせぇよ。用が済んだら、さっさと帰れ」

 久遠と吉嶋を追い返して、机の上に溜まった書類の処分に入る。最近じゃ役人女の顔を見るのもウザいから、黙って書類だけ置いていかせてる。俺は適当に一番上の書類を手に取った。

 死んだ老人の金融や不動産資産、約900兆円分ほどが相続人不明で宙ぶらりん。同じく回収不能になった債務や事故、保険等の損害は合わせて700兆円ほど。
 加えて税収や市場の大幅縮減、地域コミュニティの消滅など社会的混乱の長期化が懸念される中、その処理について早急に検討を要する。だって。

「……意味わかんねーよ」

 てか、そんなの全部お前らの仕事だろうが。俺に丸投げしてんじゃねぇよ。
 ホント、クズばっかりだな。
 とりあえず、宙ぶらりんの金は全部俺のものしろ。借金だの国の経費だのは、それで払ってやるよ。
 そう書いて返してやろうと思って、その寸前で、何行か書き足す。
 春海んちに100億、ついでに俺の家にも100億、内緒で振り込んでおけ。絶対に表に出さないように。

 あとの仕事は適当に済ませて、俺は春海を呼ぶことにする。

「お呼びでしょうか……陽平さま」

 うっとりとした顔で、春海はすぐに俺の足元に跪き、ファスナーを下げる。慣れた手つきで俺のを取り出し、優しく揉みほぐしたり、唇をつけたりして快感を誘う。
 最近じゃ、春海は前にも増してチンポ好きになった。まるでチンポ以外のことは全部忘れたみたいに。

「……さっき、お前んちに香典振り込む手続きしてやったぞ。一生食うのに困らないくらいの金だ。それでばあちゃんの墓でも建ててやれ」
「ふぁい、陽平さま、んっ、ちゅぶっ、んっ、んく、んっ」
「今度、みんなで遊びに行くか。昔みたいに、俺とお前と、恭平と青梅の4人でどっか行ってみないか?」
「ふぁい、陽平さま。んっ、ふふっ、チンポ、固くなって、きたぁ、んんっ、ちゅぼ、チンポ、んっ、チンポぉ」
「……俺のチンポ、好きか?」
「ふぁい好ひぃ、んっ、チンポ、好きぃ、んっ、んんんっ、んー」

 ぢゅぶぢゅぶ、よだれをこぼして俺のチンポを春海がしゃぶる。目をうつろにして、それ以外な何も映ってないみたいに、夢中になって俺のチンポを握り、しゃぶる。
 春海はあれから、ずっとおかしい。
 でも、どうやっても前の春海には戻ってくれない。
 俺には失ったものを取り戻す力はない。春海は、何かを失ってしまったみたいだ。

「……春海、結婚しよう」
「ふぁ?」
「俺、お前のこと好きだったんだ。ガキの頃からずっと好きだった。お前も幼稚園とき、そう言ってたよな? こないだ、そのこと思い出したんだ。あんときは、お前の方から俺にプロポーズしてきたよな? その返事まだしてなかった。ごめん。結婚しよう。大好きだ」

 春海は目を細めて、俺のを咥えたまま、幸せそうに微笑む。

「けっほんひたら、チンポ、ずっとしゃぶっていいんれすかぁ?」

 俺は、春海の頭を撫でた。
 いつもの可愛いポニーテールだ。俺が好きだった春海の髪だ。

「……あぁ、好きなだけしゃぶれよ」
「わぁい、おチンポ、大好きぃ、大好きれす、陽平さまぁ、んっ、んっ、んんんー」

 汚れが気になる。
 窓の同じところがいつも汚れている。

「藤田ぁ!」

 のそのそと、脚立を持って藤田が出てくる。どこと指示を出さなくても、どこの汚れのことかわかっているようだ。
 だったら、もっと注意して掃除しろよ。ムカつく。
 俺は有無を言わさず、藤田の体を机の上に押しつけ、犯した。何も言わない藤田をいいように犯して、中に射精した。
 藤田は、ケツから精液を垂らしたまま、じっとしてる。俺がその姿を見下ろしてると、ククッと引き攣るように肩を震わせ、笑い出した。

「怖いの?」
「……ハァ?」

 意味のわからないこと言って、藤田はなおも笑う。

「思いどおりにならないことが増えてきたでしょ? 他人の不幸を笑えなくなってきたでしょ? 自分で思ってたほど、自分はすごいやつじゃないって、わかってきたんでしょ?」

 尻をこちらに向けたまま、藤田は俺を見上げて唇をにやりと上げた。

「人はね、自分に対して責任を持たなければいけないの。それはとても難しいことなの。だから、学校の中で自分たちの居場所と責任を学ぶの。そうやって、みんな大人になる準備をきちんとしてから、社会に出るのよ。それを教えるのが私の仕事だった」
「……なに言ってんだよ、お前。バカか?」
「大事な話よ。黙って聞きなさい」

 藤田はいつになく強い口調で俺に言う。なんだか担任だった頃に戻ったみたいで、俺も少しだけびびってしまった。

「あなたは子ども。責任の重さを学び損ねた、ただのガキ。でも、子どもだからって許される範囲はとっくに超えてる。遅すぎだけど、ようやく自分のしたことに気づいたのは、良い傾向だと思うことにするわ」
「だから……なに言ってんだって聞いてんだろ。意味わかんねぇよ」
「たくさんの人が死んだわ。あなたのせいで。世の中はめちゃくちゃになった。あなたのせいで」

 心臓がギューってなって、俺は藤田から離れた。

「苦しい? 重い? それが責任よ。大人はみんな、それを自覚して生きているの。逃げられる人なんていないわ。私は学校にいる間に、それをあなたに教えてあげたかった」
「うるせぇ! わけわかんねぇこと言うな!」
「あなたの力で、元に戻しなさい。取り返しのつくものはまだ残ってるでしょう。失って取り戻せないものは、あなた一人で責任を負いなさい。良心が残っているうちにそれをやらないと、あなたの人生はただの殺人鬼で終わるわ。逃げちゃダメよ」
「うるせぇ、うるせぇ! そんなもん、俺が背負うわけねぇだろ。俺はみんなを幸福にしてやってんだ。誰も不幸になんてなってねぇだろ。俺のモノなんだよ! 全部俺のモノだから、何したっていいんだよ!」

 藤田は黙って俺の顔を見る。いつもの憎しみに満ちた瞳に、見慣れないものが混ざっている。
 それが「憐れみ」だとわかって、俺の怒りは爆発した。
 藤田のぞうきんを拾って、ムチのようにその尻を叩く。

「あぁッ!」

 白い肌に真っ赤な跡が残る。二度、三度と、俺は藤田の尻を叩く。

「あぁッ! あぁッ!」
「俺に説教なんてするな。俺のやることに間違いなんてないんだよ! 責任なんてねぇんだよ!」
「あッ! あぁッ! あぁッ!」
「殺すぞ! 俺に逆らえばお前も殺すぞ! 二度と俺に生意気な口を叩くな! 俺に逆らうな!」
「はぁぁんッ!」

 叩いているうちに、藤田のソコからは俺の精液が飛び散り、別の液体が垂れ始めていた。俺もまた、この光景に獣欲を感じ始めていた。
 痛々しく赤い尻を鷲づかみにして、藤田の奥へ自分を埋め込む。藤田は悲鳴を上げて、尻を馬みたいに跳ね上げた。

「わっ」
「おぉ?」

 ソファで戦闘機コレクションを磨いていたら、懐かしい声で背中を押された。

「落としたらどうする…ん?」

 ギュウと首に手を回されて、青梅の小さい胸が後頭部に押しつけられる。

「ひさしぶり……陽平さま」

 確かに、いつ以来なんだろう。青梅が俺んとこ来るのは。
 後ろに手を回して、青梅の頭を撫でてやる。青梅はくすぐったそうに体を揺する。
 柔らかい感触。ちょっとだけ、青梅の胸が膨らんでるのがわかった。

「……ひさしぶりだな、青梅!」

 俺は青梅を引きはがし、脇に手を入れてその細い体を持ち上げてやった。「んなー」とネコみたいな声出して、青梅も笑った。

「今まで何してたんだよ?」

 そのまま青梅の体をソファの上に下ろす。青梅は「いろいろー」と言って、ボスンとソファの中に身を沈めた。

「普通のソファになってる」
「あぁ、人間ソファはもうやめたんだ。1年座ってみて気づいたけど、あれ座り心地悪いわ」
「おっせー」

 椅子だけじゃなく、家に置いてる女も減らした。今じゃ10人もいないくらい。
 大勢いても、ごちゃごちゃしてるだけで落ち着かないしな。

「元気だったか?」
「うん、えへへー」

 1ヶ月くらい、こいつの顔見てなかった。最後に会ったのは……ばあちゃんが死ぬ前か。

「ちょっと背ぇ伸びたか?」
「そんなに変わんないよー。体重は増えたけど」
「食ってばっかいるからだろ」
「……すぐやせるもん」

 そんなこと言って、足をプラプラさせる。
 いつもなら「おやつクレ」とか騒ぐくせに、なんだか少し物静かになっちゃってる。
 身長変わらないって言ってたけど、ちょっと横顔は大人びたような気もした。
 おとなしくしてたら、こいつも結構、美人になってきたんだなって思った。

「あんね、陽平さま」
「ん?」
「お姉ちゃんて、うちに帰ってきたりしないの?」
「どした?」

 春海はずっと俺んちに暮らしている。前からずっとそうだ。今さら青梅は何の話をしているんだ?

「おばあちゃんいなくなってから、おうちがなんか暗くてさ。青梅もがんばってんだけど、お姉ちゃんがいたらなぁって、ときどき思うんだ」

 心臓が、ギューってなった。
 青梅がこんな寂しそうな顔するの見たことない。なんだか胃が重くなった。
 それに、春海。
 今の春海が家に帰れるはずがない。俺のそばにいないと、あいつはきっとおかしくなってしまう。絶対に無理。
 青梅は、子犬がすがるような目で俺を見上げている。
 俺はごくりと喉を鳴らす。

「……遊園地行こう」
「お?」

 急場の思いつきとしては、良いことを閃いた。

「みんなで千葉に行こう。お前の好きなとこだ。春海ともその話をしてたんだ。恭平と4人で遊園地行って遊ぼうぜ。あの、夢の国へなんたらってやつ」
「おぉ……おおーッ!?」

 ようやく俺の言ってることを理解した青梅は、目をキラッキラに輝かせた。

「行くか?」
「行く行くー!」

 小躍りしながら青梅は飛び上がる。俺も一緒にソファから立ち上がる。

「よし、そうと決まったら準備しとくぜ。ただ行くだけじゃつまらねえ。大改造だ。あそこの本社に命令して、日本版を世界最高のレジャーランドに改造させてやる。ド派手な本物の夢の世界にして、お前らを招待してやるぜ!」
「おぉ! それは陽平さま、やばいノリ? やばいノリで言ってる?」
「あー、相当やばいノリだ! 土地も買い占めて巨大化させてやる。万博やるつもりだった予算で、あそこを大改造だ。行ったら二度と帰れないくらいでかい遊園地にしてやるからな!」
「やったぁ、やばすぎー!」
「やばすぎー!」

 俺と青梅は大ハシャギして、あそこのテーマソング歌いながら部屋の中マーチングして、前祝いだっつってシャンパン開けて、げらげら笑って、酔っぱらって二人して爆睡した。
 その日は、久しぶりにぐっすり眠れた。

「あぁっ……陽平さまぁ……」
「気持ちいい…もっと、陽平さま、もっと愛してぇ」
「チンポ、んっ、れろ、チンポおいしい……」

 朝っぱらから、ずっと女たちを抱いている。
 最近は、学校にも全然行ってない。政府の言うとおりの仕事して、ずっと家にこもってる。
 誰とも会いたいと思えなくなったし、欲しい物も特になかった。ただ女を抱いて、疲れたら寝るだけだ。
 女の数も減って、今は春海と藤田もいれて5人くらい。あんまり大勢いればいいってもんじゃない。
 少し眠って部屋に戻る。前は同じベッドで女と寝てたけど、今は人数減ったし、それぞれの個室作って、俺が一人になれるようにしてる。
 結局、一人が一番な。他人がいると落ち着けねぇし。

 知らない間に、夕方だ。

 窓の向こうは真っ赤に染まっている。
 キッチンで水を飲む。なんか最近、水も美味くなくて一口でイヤになっちまう。
 食欲もないし、だりーし、疲れてるのかも知んねーな。

 あぁ、疲れてんだな、俺。

 って、おっさんじゃあるまいし、何を弱っちいこと言ってんだ。
 明日はちゃんとメシを食おう。そんで久しぶりに学校にでも行って、仕事なんて放っぽり出して、テレビ局引き連れて街で大暴れしよう。
 いつもどおりのことをするぜ!

 ……って、まあ、昨日も同じこと思ったんだけどな。

「んー、よし、ランニングだ」

 円い部屋を、円く走る。たまにはちゃんとした運動もしなきゃダメだ。
 でも10分ほど走ったら、すぐに息が切れちまう。あれー、こんなになまってんのか、俺。メシ食ってないからだな。
 風呂でも入ろうかと思って、顔を上げる。
 そうすると、まただ。また窓の同じところが汚れている。

「なんでいっつも、汚れるかなぁ……」

 ほんと、ムカつくぜ。誰かがわざと汚してるんじゃないだろうか。イライラする。思いどおりになんないこと、みんなムカつく。
 でも藤田を呼ぼうとして、それはやめた。
 俺はあの時以来、なんとなく彼女を避けている。別にアイツの言ってることなんて全然気にしちゃいないが、なんか気分悪くて、なるべく顔を合わせないようにしている。
 それでも、なぜかあの女を手放せずにいるんだけど。
 
「しょうがねぇな」

 椅子を引っ張ってきて、窓の下でキャスターを固定する。イマイチ不安定だが、なんとか立っていられる。窓のロックを外して開けた。強い風が入ってきた。

「うお、危な……」

 下で見ていたよりもずっと怖い。背伸びして窓枠に手をかけて体を引き上げると、外風も強くてグラグラする。
 今、青梅が突撃してきたら、確実に俺は死ねるな。
 藤田はいつもこんなところで窓ふきしてたのか。危ないし、次からは業者を頼もう。
 サッシに腰かけ、腕を伸ばして、タオルで汚れを拭う。それはなんだか、汚水を垂らした跡が乾いたような、簡単に落ちる汚れだ。窓にセメダインか何か、透明なものが張り付いていて、そこだけ汚れが目立つようになっていた。
 改装させたとき、張り付いてそのまんまだったんだろうか。

「わかんね」

 これもそのうち、業者にきれいにさせよう。
 ていうか、ここから見る景色が気持ちいいってことに、久々に気づいたぜ。

「……うわ」

 俺はサッシに腰掛け、東京の空を見る。
 夕焼けを真っ赤に受け止めて、ビル群が染まる。刻一刻と色を変えていく空を、地上はただ受け止め、影を落とす。
 それはとてもきれいなものだった。感動的ですらあった。
 これが世界だ。世界のあるべき姿だ。
 見ろ。どんなに高いビルを建てても、人が空を飛んでも、地上の世界は空の変化を黙って受け入れるだけで、暮れるのを惜しんでも取り戻せやしないんだ。
 空は地上に責任なんて負わない。たとえ失敗しても謝ったりしない。

「ハハッ」

 だから俺は、空が好きなんだ。
 自由に、誰よりも速くこの空を飛び回りたいって、ガキの頃からずっと憧れてた。
 でも今の俺は、重たくて鈍い。でっけぇ荷物が背中にあって、せっかくの自由を押し殺してしまってた。
 藤田の言うとおり、俺は俺の責任に囚われてる。
 心に残ったしこりも、どこに行っても目につく俺の所業も、今は重たい荷物でしかない。
 世界が全部、檻みたいだ。心がまるで鎖みたいだ。
 俺は飛びたいだけだったのに。好き勝手に生きたいだけなのに、俺が俺である限りこの檻からは出られない。
 窓に手をかける。風が吹いている。ここから少し体重をずらすだけで、体は軽くなれるだろう。
 きっとそれは、とても気持ちがいいはずだ。空を飛ぶみたいに。

 ここから飛べば、楽になれる───。

 ……なぁんて、藤田あたりはそういうの期待してるかもな。
 でも、ちげぇ。んなわけねぇし。
 そんなのはバカのやることだ。俺みたいに賢い人間はそんなことしない。
 放り出すのはお荷物だけだ。そのための手段はいろいろある。

 例えば、恭平あたりを身代わりに殺して、俺がアイツになり代わって人生やり直すってのはどうよ。

 俺の力を使えば世界中の人間を誤認させることも、自分自身を騙すことだって可能だ。
 そうすりゃメンドくさいことも忘れて、もう一度この力をイチから楽しむこともできる。ほとぼり冷めるまでは力も俺の記憶も抑えて、恭平らしく、むっつりスケベに超能力を楽しむのもいいだろう。そのために実家に大金を放り込んだりもしてるんだ。
 人生なんて一度きり。それをこんなラッキーで迎えられたんだから、余すことなく使わなきゃ損ってやつだぜ。

 夕日がどんどん沈んでいく。
 俺は久しぶりに俺は明るい気分でそれを見送る。
 明日も明後日もその次の日も、世界に終わりなんてない。

「たららんらんらん、たららんらんらん……」

 世界は一つ。
 王も一人だ。

< 終わり >

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