第五話
僕は高鳴る鼓動を抑えつつ、菜々子ちゃんの前で振り子単調な律動を刻ませる。
「ねえ。菜々子ちゃんは、清美ちゃんのことが好きなんだよね?」
「……はい……清美のことが好き……」
「そして、清美ちゃんは、僕、小野村賢哉のことが好きです」
「……清美は、小野村のことが……好き……」
真由や、清美ちゃんや、リンダちゃんの時のように、菜々子ちゃんが僕の暗示の言葉を抑揚のない声音で復唱する。
「菜々子ちゃんは、清美ちゃんのことが好き。清美ちゃんは、僕のことが好き。つまり、菜々子ちゃんは、僕、小野村賢哉のことが好きだと言うことです。さぁ、今言ったことを繰り返して下さい……」
菜々子ちゃんが、ハッとしたように顔を上げる。我ながら詭弁のような理屈だと思うけれど、催眠状態への暗示において正確な根拠は重要ではない。果たして、僕の三段論法が菜々子ちゃんの精神にどんな影響を与えるのか、菜々子ちゃんを観察する。
「……私は、清美が好き……清美は、小野村が好き……だから、私も、小野村が好き……」
菜々子ちゃんが、ぶつぶつと僕が刷り込んだ暗示の言葉を繰り返す。僕は、じっと彼女の様子を見守っていた。相変わらず、振り子の五円玉が一定のリズムで左右に振れている。
「菜々子ちゃん、僕の言ったことをちゃんと覚えましたか?」
「……はい……覚えました……」
虚ろにうなずき返す菜々子ちゃんを見て、僕は仕上げと保険の仕込みに入る。菜々子ちゃんは、清美ちゃんやリンダちゃんと違って、催眠が効きにくい体質のようだから用心するに越したことはない。
「菜々子ちゃん。あなたは、僕のことを好きになったら、身体も自由に動かすことができます」
「……はい……小野村が好きなら、身体も自由に動く……」
「その代わり、僕のことが嫌いなら、身体を自由に動かせません。良いですね?」
「……はい……嫌いなら、身体は動かない……」
菜々子ちゃんの返事を待って、僕はいつも通り三つ数を数えて手を叩き、トランス状態を解除する。菜々子ちゃんは、一瞬、目を丸く見開き、数度まばたきした後、状況を思い出したようだ。僕をキッと、にらみつける。
「小野村……あなた、私たちに、んッ……なにを、したのよッ!?」
菜々子ちゃんは、戸惑いの表情を浮かべて、すぐに目をそらす。彼女の啖呵には、最初のようなキレはない。どこか、もじもじとした様子で顔を赤らめている。
「な……何よ、この気持ち……なんで、こんな奴なんか……んん、身体、動かなぃ……」
小声で、独り言をつぶやく菜々子ちゃん。どうやら、本来の感情と暗示で刷り込んだ感情が相反し合い、混乱しているらしい。ただ、肉体の自由を奪う暗示は健在で、これが僕の保険になってくれる。
「お、おの……小野村、あんた、私に、んんッ! 何したのよ!?」
大きく首を振りながら、菜々子ちゃんがうめく。ちらちらと僕のほうをうかがっては、目をそらすと言うことを繰り返す。
「そんな……嫌いなのに、こんな最低のヤツ、イヤなハズなのに……ッ!!」
始め怒りに赤く染まった顔は、段々と血の気が引いて、蒼白になっていく。
「やだ、やだよ……なんで、こんな変態男、大嫌いなのに……なんで、なんで……」
菜々子ちゃんが、ガチガチと歯を鳴らす。顔に浮かび上がる恐怖の色は、あまりにも切羽詰まっている。
「お願い……もう、やめて。もう助けて……私が、私じゃなくなっちゃう!」
菜々子ちゃんが、突然どさりと倒れ込む。僕は驚いて、思わず後ずさる。身動きが封じられているのに、無理に身をよじらせようとしたため、バランスを崩したのだ。菜々子ちゃんは、視線を伏せたまま、身を丸めようとするが、それもかなわない。
「イヤだ、イヤだよ……私、こんなこと考えたくない……こんなこと考える私なんか大嫌い……」
菜々子ちゃんの頬を、涙の粒が流れるのが見えた。あまりに強く唇をかんだせいか、血がにじんでいる。しまった。やり過ぎた。多分、菜々子ちゃんに催眠が効きにくかったのは、敵愾心が強い彼女の性格が影響していたのだろう。その外部に対する菜々子ちゃんの頑なな心の壁が、今、僕の植え付けた暗示と激しくぶつかり合っているのだ。催眠での支配が完了する以前に、菜々子ちゃんの心が壊れてしまっては取り返しがつかない。とはいえ、どう対処すればいいのかもわからない。思わず、真由のほうを見ると、妹も突然のことに茫然としていた。僕が戸惑い、おろおろとしていると、清美ちゃんが菜々子ちゃんの前に歩み出る。
「菜々子ちゃん……」
清美ちゃんはしゃがみこみ、菜々子ちゃんを優しく抱きとめる。心配した表情で菜々子ちゃんの様子をうかがう清美ちゃんに対して、菜々子ちゃんの顔はますます赤くなり、戸惑いの色が一層濃くなる。
「あ、清美ッ!? 私、清美のこと……す、あ、あぁッ!!」
菜々子ちゃんは、僕と清美ちゃんに背を向けようとするが、暗示で身体が動かないため、かなわない。
「安心して……菜々子ちゃんが、どんなことを考えていても、菜々子ちゃんは菜々子ちゃんだから。私は、どんな菜々子ちゃんでも、大好きだよ?」
泣きじゃくる子供をあやすように優しく語りかける清美ちゃん。その声を聞いた菜々子ちゃんから、緊張の糸がゆるんでいくのが見てとれる。菜々子ちゃんが、清美ちゃんに安心して身をあずけるのがわかった。
僕は、内心胸をなでおろす。清美ちゃんのおかげで、菜々子ちゃんは落ち着きを取り戻したらしい。いままで催眠をかけてきた三人……真由と、清美ちゃんと、リンダちゃん……は、どこか素直な性格をしていて、普段から他人の言うことを疑ったりはしない。だから、あっさりと僕の暗示を受け入れた部分はあるのだろう。でも、菜々子ちゃんのように猜疑心と警戒心が強い性格の場合、催眠がかかりにくくなったり、暗示と本来の性格が衝突して思わぬ結果を招くことが良くわかった。これから催眠を使うときは、気をつけなくちゃいけないな……とはいえ、ここまで来て引き下がるわけにも行かない。最後の仕上げに取りかかるべく、僕は菜々子ちゃんに歩み寄る。
「ねえ、菜々子ちゃん?」
「……な、何よッ!!」
僕が声をかけると、菜々子ちゃんは必死の形相で怒鳴り返す。ただ、その瞳は潤み、声音からも先ほどまでのとげとげしさが抜け落ちている。
「菜々子ちゃん、大好きな清美ちゃんみたくなりたい、って思わない?」
僕が問いかけると、菜々子ちゃんは「えっ」と驚いたような声を上げる。
「清美ちゃんはね。僕のことが大好きで、イイナリのヘンタイ女子なんだよ……菜々子ちゃんは清美ちゃんのこと大好きだから、清美ちゃんみたいな女子になりたいよね?」
僕は、優しく語りかける。菜々子ちゃんの方が小さく震えている。
「そんな……そんなの、清美じゃぁ……」
菜々子ちゃんの瞳に涙が浮かぶ。清美ちゃんは、間に割って入り、菜々子ちゃんの手を優しく握る。
「菜々子ちゃん、それが本当の私なの……ヘンタイでイイナリな私だと、菜々子ちゃんは嫌いなのかな……」
「え、あ……清美……? そ、そんなことは……」
寂しそうな笑いを浮かべて見せる清美ちゃんに、菜々子ちゃんが狼狽する。
「私ね。菜々子ちゃんにも、私みたいになってくれると嬉しんだけどな……」
「あぁ……」
菜々子ちゃんの肩の震えが治まり、表情から感情の色が抜け落ちる。
「……好き……」
菜々子ちゃんの口から、抑揚のない言葉がこぼれる。小刻みに肩が震える。目が焦点を見失い、視線が宙をさまよう。
「好き……?」
今度は彼女の喉から、疑問形の言葉が紡ぎだされる。夢でも見ているように、ぼおっと僕と清美ちゃんのことを見比べる。僕と目があって、菜々子ちゃんがハッとした。顔面に表情がよみがえり、彼女の頬にすっと朱が差した。
どきりとした。僕をののしり激しく抵抗していたときとは、全く違う表情。恥じらい、照れて、遠慮するかのような仕草。純真無垢な清美ちゃんとは異なって、菜々子ちゃんの動作はどことなく媚びとわざとらしさを備えている。それ故、菜々子ちゃんの潤んだ視線が、もじもじとこすり合わせる指先の仕草が、小動物のように震えながらも豊満な胸と腰をさりげなくアピールする全身のたたずまいが、男子が異性に対して潜在的に期待してしまうポイントを的確に刺激する。
「……キス」
菜々子ちゃんは消えそうな声でそう言うと、上半身を前に倒し、僕と清美ちゃんに顔を近づける。
「ねえ、清美、それに小野村……うぅん、賢哉くん。キスさせてほしい……す、好きな……そうよ。好きな人と、ファーストキスをしたいの……」
先ほどまでとは、打って変わったようなウットリとした様子で、菜々子ちゃんが迫ってくる。顔が上気し、声音もお酒に酔ったかのような変貌ぶりだ。
「もちろんよ、菜々子ちゃん……小野村くんも、イイですよね?」
清美ちゃんの頼みに、僕は首を縦に振る。菜々子ちゃんと、清美ちゃんの表情が、同時にほころんだ。
「あは……二人とも、ありがと……」
菜々子ちゃんは、目を閉じて唇を突き出してくる。僕と清美ちゃんも、それに続く。僕と、清美ちゃんと、菜々子ちゃん、三人の唇が同時に触れる。僕は舌を出して、清美ちゃんと、菜々子ちゃんの唇をくすぐると、二人も舌を差し出してきた。遠慮がちに舌が触れ合い、ごくわずかに三人の唾液が混じり合う。僕らは、菜々子ちゃんの想い人二人に対するファーストキスの味をしばし堪能し、唇を離した。ほんの少しだけ、菜々子ちゃんの血の味が混ざっていた。
「えへ……えへへ」
菜々子ちゃんが、じゃれつく小動物みたいな笑みを顔に浮かべる。彼女は四つん這いになると、イタズラ猫のようにカーペットの上を何やら探し回り、何かを拾い上げる。
「……見ぃつけた!」
菜々子ちゃんが指の間につまんでいたものは、僕は捨てた使用済みのコンドームだった。何をするのかと見ていると、菜々子ちゃんはコンドームを口元へと近づけていく。乳児がほ乳ビンに吸いつくように、菜々子ちゃんも愛液にまみれ、精液が詰まったコンドームを音を立てて吸い始める。
「んんッ……ちゅぱ……じゅぷ……んふ、清美と、賢哉くんの味がするぅ……」
僕と清美ちゃんが唖然として見守る中、菜々子ちゃんはコンドームの中の精液を飲み干してしまった。
「あれぇ、二人とも何で驚いた顔しているの? このくらい、当然でしょ……」
菜々子ちゃんは立ち上がりながら、ウィンクする。
「賢哉くんのイイナリヘンタイ女子なら、ねッ!」
菜々子ちゃんが、左手を腰にあて、右手の人差指を立てながらポーズを決める。敵意が転じて、全身から好意を放つ彼女の姿に見惚れてしまう。僕の視線に気を良くしたのか、菜々子ちゃんはメガネを外す。メガネの上からは気付かなかったが、丸くてクリッとした可愛らしい瞳をしていた。さらに菜々子ちゃんは、僕が何も言っていないのにもかかわらず、自分からスカートを脱ぎ捨て、ブラウスのボタンを外す。ブラウスがカーペットの上に落ち、下着姿の肢体が露わになって僕は目を見張る。水色のブラに包まれた乳房は、流石にリンダちゃんには劣るが、清美ちゃんを上回るほどの大きさで、むちむちとした張りと質感がうかがえる。ブラに支えられた乳肉はキレイな球体の形状を描き、まるで二つのたわわなスイカが胸元に実っているようだ。ヒップから太股にかけても、肉付きが良く、それでいて引き締まっていてグラマラスと言う言葉が良く似合う。コスプレが密かな趣味だと言っていたから、体型にも気を配っていたのかもしれない。
「ねえ、清美。ベッド貸してもらってもいい?」
菜々子ちゃんが下着姿のまま、清美ちゃんを仰ぎ見る。
「えっ? 別に構わないけど……何するの?」
「うふふ……」
清美ちゃんの問いに返事をせずに、菜々子ちゃんはベッドに向かう。まだ伸びたままになっている真由の身体をそっと退かし、ベッドの上に横たわる。僕のほうを向くと、片足を伸ばしながら、また僕にウィンクした。
「真由と、清美だけロストヴァージンさせておいて、私だけ仲間はずれなんてイヤよ。ねえ、賢哉くん……私にも、ね?」
菜々子ちゃんの決める扇情的なポーズは一々堂に入っていて、僕の劣情をくすぐる。僕がベッドに飛び込もうとすると、清美ちゃんが僕の前にひざまずいていることに気が付く。清美ちゃんは、僕のコンドームの箱を手にしていた、
「小野村くん、待って下さい。今、コンドームをつけますから……」
清美ちゃんのしなやかな指が、僕の肉棒を這いながら、薄いゴム膜を装着する。いきりたって、敏感になった僕の性感帯は、清美ちゃんの指先の感触だけで暴発しかねなくなるが、どうにか耐えた。清美ちゃんがコンドームをつけ終わると、僕は慌ただしくワイシャツを脱ぎ捨て、ズボンとブリーフを下ろし、全裸になってベッドの上に突貫する。
「菜々子ちゃん……ッ!」
「あぁんッ! 賢哉くん、好き……好き好き大好きッ!!」
僕は、野獣のごとき勢いで菜々子ちゃんの身体に覆いかぶさる。作り声でも菜々子ちゃんの甘い嬌声がためらうことなく僕への好意を連呼し、耳と官能をくすぐってくる。菜々子ちゃんが、もぞもぞとライトブルーのショーツを脱ぎ下ろしているのが感じられた。
「あぁ、好きな人に、好きって言うのが……こんなに気持ちいいなんて!」
「あぁ、菜々子ちゃん! 僕も、菜々子ちゃんのこと……ッ!!」
僕は自分の言うことを聞かなくなったんじゃないかと言うくらい硬く熱くなったペニスを、煩わしい動きで菜々子ちゃんの秘裂に打ち込む。菜々子ちゃんが上気した瞳でうっとりと僕を見つめたかと思うと、背に手をまわしてギュッと身体を抱きしめてくる。菜々子ちゃんのボールのような乳房が胸板に挟まれてつぶれる感触となって、生々しく伝わってくる。さらに菜々子ちゃんは、脚で僕の腰を挟み込んで捕まえた。肉感的な太股の感触の中、二人の腰を密着させようと力をこめてくる。
「菜々子ちゃん……処女なのに……」
「ぁん……そんなこと、気にしちゃイヤ!」
菜々子ちゃんは、僕の声をさえぎるように唇を重ね、ふさいでくる。ファーストキスのときとは異なるディープキス。菜々子ちゃんの舌によって、僕の舌が絡めとられ、彼女の口内へと引きずりこまれる。途中、処女膜を突き破る感触が肉棒の亀頭部に感じられたが、菜々子ちゃんはわずかな嗚咽をこぼしただけで、動じる様子は全くない。それどころか、口内を吸引し、膣壁は内側にうごめき、上下の口の両方で僕を内へ内へと引きずり込もうとする。
「ちゅぱ、んぷ……ねえ、賢哉くん。清美の時と同じように……私と一緒にイッて!!」
菜々子ちゃんが、腰にまわした脚の力を一層強める。僕を吸い寄せる菜々子ちゃんの身体の官能の渦に、僕は抵抗を忘れて身をゆだねる。菜々子ちゃんの腕と、脚が、万力のように僕の身体を締め付ける。痛みはなく、甘いしびれだけが全身を満たす。処女だとは思えない貪欲さで僕を呑み込んだ彼女の蜜壺は、コンドーム越しにペニスを蕩かし、欲望をさえぎる全ての抵抗を奪い去っていく。
「菜々子ちゃんの中、気持ち良すぎる……もう、限界だッ!」
「あふ……ぁん、私も……お願い、お願いだから……イッて!!」
菜々子ちゃんの言葉が引き金になったように、今日三度目の射精が巻き起こる。菜々子ちゃんも、同時に絶叫した。ゴムの薄膜なんて破ってしまうんじゃないかという勢いで、精液が噴き出してくる。全身が震え、射精自体もしばらく収まらない。ようやく、奔流を吐き出し尽くした頃には、ぐったりと脱力し、少しの間、菜々子ちゃんと身体を密着したまま動けなかった。
僕が菜々子ちゃんの身体の上から顔を上げると、清美ちゃんと、いつの間にか復活していた真由が、僕たちのことを覗きこんでいた。ペニスはさすがに萎えかけていて、腰を動かすと菜々子ちゃんとの結合がほどける。
「小野村くん。少し、失礼しますね……」
「え、ちょっと、清美ちゃん?」
清美ちゃんは顔を赤くして、僕の股間をまさぐると、パンク寸前まで精液を詰め込まれたコンドームを回収する。ゴムのチューブを手に取り、口元まで運ぶと、菜々子ちゃんがやったようにコンドームに吸いついた。ジュルジュルとはしたない音を立てて、中身を吸い込んでいく。
「うわぁ! 清美先輩、大胆~」
真由が目を丸くしながら、嬉しそうに見入っている。清美ちゃんは、小さく喉を鳴らし、僕の情交の残滓を残すことなく胃袋に納めていく。
「ん、ぷは……本当だ。小野村くんと、菜々子ちゃんのが混ざった味がする……」
清美ちゃんは、うっとりと呟いた。彼女のしぐさがあまりに淫靡なもので、僕は性懲りもなく、また勃起しかけてしまう。
「ハ~イ! おじゃましま~ス!!」
その時、玄関から聞きなれた明るい陽気な声が聞こえる。声の主は、返事も待たずに上がったみたいで、階段を上ってくるパタパタとした足音が聞こえる。ほどなくして、清美ちゃんの部屋のドアが押し開かれた。
「賢チャン! お待たセ……ワォ。随分、積極的に楽しんでいたみたいネ?」
扉の向こうには、金髪碧眼のリンダちゃんの姿があった。リンダちゃんは、僕たちの情交の後を見て、クスクスと笑う。
「なに、賢哉くん。私や、清美だけじゃなくって、チア部のリンダさんまでモノにしていたの?」
僕の身体の下から、ほとんど全裸と言った格好になった菜々子ちゃんが尋ねてくる。頬を膨らませた、不機嫌そうな顔だ。
「あれ。菜々子ちゃんには、不満だったかなあ?」
僕も、とぼけたように尋ね返すと、菜々子ちゃんは表情を一転させて茶目っけのある笑みを浮かべる。
「別にぃ? ただ、私たちの賢哉くんなんだから、それくらいケダモノのほうが丁度いいかもね!」
菜々子ちゃんは、僕の後頭部に腕を回し、お互いの唇を触れ合わせる。菜々子ちゃんのキスから解放された僕は、身体を起こしながらリンダちゃんのほうに向きなおった。リンダちゃんは、僕の股間にちらちらと視線をやりながら近づいてくる。僕の左右には、清美ちゃんと菜々子ちゃんが身を侍らせ、背中には真由が抱きついていた。
「ネェ……ワタシも混ぜて欲しいナ。四人で、スゴイ楽しんだんでしョ?」
リンダちゃんが、わずかに遠慮げに顔を傾ける。
「もちろん、OKよ! ねえ、賢哉くん? 私も一緒にするッ!!」
「あぁ、菜々子ちゃん、待って……小野村くん、私もご一緒させてください」
「お兄ちゃ~ん、私のことも忘れちゃイヤ!!」
さすがに今日四回目はキツい……そんなことを言う間もなく、四人の美少女が僕の体に殺到し、ベッドに向かって押し倒される。疲労困憊でしおれてしまった男根に、たおやかな指が絡みつくと、優しくマッサージしてくる。蛇のような動きで、絹のような肌触りを伝える指がいやらしい。自分でもあきれかえるほどの肉欲への渇望を持って、僕の雄としての隆起は再び活力を取り戻す。
「アァ~ン。賢チャン、すごく元気ィ……」
「リンダさん、菜々子ちゃん。今度は一緒にやりませんか?」
「うふっ。清美ったら、イヤらしぃ~! でも、そんなところが大好きだよ!!」
目前にひざまずく三人の美少女がお互いに目配せをする。清美ちゃんとリンダちゃんが素早くブラウスのボタンをはずし、続いて菜々子ちゃんも加えた三人が一斉に自らのブラをはぎ取ってしまう。上質の果実のようなミルクタンクがむき出しになると、僕の男根を中心に乳房を突き出してくる。
「う……あぁ……ッ!?」
僕の口から、勝手に快楽のうめきがこぼれる。天井を向いた僕のペニスは、三組の豊満なバストに包囲され、組み伏せられている。清美ちゃんとリンダちゃんのダブルパイズリを彷彿とさせる感触。それも問題とならないほどの密度と質量と圧力が、遅いかかる。合計六個の乳球が独立した生き物のようにむにゅむにゅと姿を変え、同時に一心同体のように僕の性感帯をこすりあげる。裏筋、鈴口をツンととがった乳首がこするたびに、射精の欲求が追いつめられる。僕は息も絶え絶えで、天井を仰ぐ。
「お兄ちゃぁん。私のことも忘れちゃ、いやぁ……」
上を向いた僕の視界を覆い、切なげな声と視線を投げかけてくるのは真由だった。陶酔したように僕の顔をのぞき込む真由は、透き通った唾液を僕の口の中に落とす。トロリとしたシロップのような液体を味わう間もまなく、真由の唇によって僕の半開きの口がふたをされる。そうなってしまえば、初めてのフェラチオから一級品だった真由の舌技の独壇場だ。真由の舌先が、僕の頬の裏肉をらせんを描くようにえぐり、舌の上を指でなぞるように撫でる。自覚したことのない口腔内の性感帯を暴き出され、キスだけで性交しているかのような錯覚にとらわれる。
「ウフッ! 賢チャンもペニス、ビクビクっていってるヨ?」
「あぁ、すごい……今にも爆発してしまいそう……」
「清美ぃ、リンダさぁん。私たちで、トドメを指しちゃいましょ?」
僕の下半身に取り付いた三人娘が、一斉に僕のペニスを乳房で圧迫する。乳房と乳首がたまらない凹凸を作り、柔らかさと強さを兼ね備えた真綿で締めあげるような乳圧が僕を責め立てる。同時に真由も、僕の舌を舌で組み伏せてて、頬をこけさせて咥内を真空ポンプのように吸引する。たちまち僕は酸欠状態になり、脳裏には悦楽の火花が飛び散った。もう、耐えることはできない。
「……んんーッ!!?」
僕は口をふさがれながら、獣欲が破裂するうめきをあげる。真由の顔で視界がふさがれ見えないが、下半身からは白い粘液が噴水のように噴射する感覚が伝わってくる。清美ちゃん、リンダちゃん、菜々子ちゃん、それぞれの歓声が遠く聞こえ、意識が心地よい白濁の中に溶け込んでいった。
意識を失っていたのは、わずかな時間であったと思う。目を開くと、清美ちゃんとリンダちゃんと菜々子ちゃんがお互いの顔にこびりついた僕の精液をいやらしくなめあい、真由がその様子を一生懸命、携帯のカメラで撮影している。劣情を誘う淫靡な光景ではあったが、さすがに僕の男根はだらしなくぶら下がるばかりとなっていた。
「あぁん、清美ったら……ホント、えっちな身体しているよねぇ」
「あッ! 菜々子ちゃん、待って。やめてッ」
見れば美少女同士の絡み合いはエスカレートし、全裸の菜々子ちゃんが、半裸の清美ちゃんに抱きついて、乳房や尻肉をなで回している。
「スリーサイズ測らせてぇ……試験明けになったら、えっちぃコスチュームを作ってあげるぅ」
「菜々子先輩! 私にも作ってください……お願いします!!」
清美ちゃんと菜々子ちゃんの戯れに、真由も割って入る。その様子を見ていた僕は、自分がやろうとしていたことを思い出す。
「ねえ、リンダちゃん。ブラジャー、もらっちゃっていい?」
僕は、ベッドの上に無造作に投げ捨てられていた、日本の同年代の女子は決して身につけないであろうビックサイズの黒いブラを手に取った。
「モチロンだヨ!」
リンダちゃんは即座に了承してくれたので、僕は早速作業に取りかかる。カバンから愛用の一眼レフデジタルカメラを取り出すと、寝台のシーツの上でリンダちゃんのブラをフレームに納める。シャッターを切ると、勉強机の片隅に丁寧に収納されていた清美ちゃんのノートパソコンを勝手に広げて、立ち上げる。無線LAN接続になっているらしい。インターネットにつなげると、デジカメの画像データを僕のプライベートなスペースにアップロードする。画像のURLを確認したら、携帯でメールを打つ。僕は、盗撮写真の取引相手を登録したメーリングリストを作っていて、宛先はそのアドレスになる。内容は、こうだ。
『件名:リンダちゃんのブラ、オークション!
チア部のリンダちゃんの着用済みブラジャーを入手しました。オークション方式で、もっとも高値をつけた方に差し上げます。期日は、テスト最終日まで。最低落札価格は、千円から。商品詳細は、以下のURLから……』
「ヤダァ! 私のブラ、見ず知らずの他人に売っちゃうノ!?」
僕の携帯を横からのぞいていたリンダちゃんが、顔を押さえて声を上げる。
「うん、売っちゃうの。ダメかな?」
「アァン。賢チャンに言われると、逆らえなィ~イイヨォ……」
僕が声を返した瞬間に、リンダちゃんは全身を恍惚に震わせた。僕は、乳房を出したまま身悶えするリンダちゃんに満足しながら、メールの送信ボタンを押す。
清美ちゃんのベッドの上で寝転がりながら携帯をいじっていると、入札メールが次から次へと殺到する。十分ほどたつと、さすがにメールの着信は段々と落ち付いてきてはいたが、値段はかなりの勢いで吊りあがっている。
相変わらず清美ちゃんと菜々子ちゃんはカーペットの上でじゃれあい……菜々子ちゃんが一方的に責めているように見えるが……リンダちゃんはベッドの上で僕の隣に添い寝してくれている。清美ちゃんと菜々子ちゃんの絡み合いをデジカメで撮影していた真由が、にやにやと携帯の液晶を見つめる僕に顔をつっこんできた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん! せっかくだから、催眠術を使って、もっと私たちの仲間を増やしていかない?」
真由がノリノリで提案してくる。妹の態度は、完全な共犯者のそれだった。
「真由にしては、良いアイデアだな。次は、誰あたりがよいと思う?」
僕が尋ねると、真由は少し考える素振りを見せ、ぽん、と手をたたいた。
「そうだ! 理香子先生はどう!? あれで、美人だし、結構スタイルもイイし!!」
真由が心底楽しそうに提案した。担任であり、生徒指導担当でもある理科子先生。生徒指導室で向かい合ったときの姿が、脳裏に浮かぶ。
「いや、理香子先生はパスで……」
何かを思考するよりも前に、僕の口が返答していた。真由が、きょとんとした顔をする。
「えぇー! でも理香子先生は、今、お兄ちゃんのヘンタイ活動を疑って調べているんだよ? 理香子先生を味方に付ければ、一気に安全になるじゃない!!」
真由は、よっぽど自分のアイデアに自信があったらしい。僕が妹の方を向くと、唇をとがらせてまくし立てている。
「真由、少し黙れ……」
声量は決して大きくはなかっただろう。ただ自分でもわかるほどに、拒絶といらだちのこもった、とげとげしい声だった。真由が、びくっと背筋を正した。
「え、ぁ……ご、ごめんなさい。お兄ちゃん……」
真由が、おびえた風で謝罪する。部屋は水を打ったように静まり返った。身を絡ませていた清美ちゃんと菜々子ちゃんが、動きを止めてこちらを向く。僕は、ようやく我に返った。
「あ、いやさ! 理香子先生も、三十路近いし……だったら、ここにいる四人の方が断然キレイで可愛いからッ!!」
僕は努めて明るい声を出して、ごまかす。ただ、真由に向かって口にした言葉が自分のどこから出てきたのか、自分自身でもわからなかった。
< 続く >