閑話
こんにちは。ワタクシ、案内役を務めさせていただきます、マジック・クラフト・エンジニアリング広報部の植春愛那(うえはる あいな)といいます。本日はようこそいらっしゃいました。
……え?もう少しくだけた感じで、元気よくお願いします?ハイ、わかりましたぁ。じゃあ、もう一度はじめからですね。
……こんにちは!マジック・クラフト・エンジニアリング、略してMCEへようこそ!ワタシはMCE広報部の植春愛那、アイナって呼んで下さい!
今日は、今注目の企業紹介ということで、MCEを選んで頂いてありがとうございまーす!普段は見ることができない社内の様子、MCEスタッフの社内ライフまでお見せしちゃいまーす。
とはいっても、総務部や経理部、人事部、営業部といった部門はどこの会社も似たようなものでしょうから、我が社の商品を産み出す現場を見てもらうのがメインになりますかね。
では、まず、こちらから中へどーぞ!フロントでは、我が社自慢の受付嬢がお迎えします。まさに、MCEの看板娘ですね……ホントは私も受付志望だったのに……。
え?いえいえ!何も言ってませんよ!そ、それではこちらに!え、ええっとですね!MCEは、主に3つの部門で、商品を提供してまして、サービス事業部、化学事業部、アイテム事業部の3つです。
そ、それでですね、人間の3つの願いを叶える代わりに魂をもらうという話を、皆さん知ってると思いますけど、この業界では、どの会社もそれが起源になってると思います。まぁ、悪魔の根幹事業ですからね。
ただ、このやり方は、けっこう破られることもあって、今では流行らなくなっています。まぁ、純粋に人間との知恵比べですからね。で、現在MCEでは、それを受け持つのはサービス事業部の一部署にになっています。
その部署がここですけど……うわっぷ!ケホケホ!ちょっと皆さん煙草吸い過ぎですよ!今日テレビ取材って言ってたじゃないですか!
……ちょっと部屋の中が煙っていてよくわからないとは思いますけど、ここでは、3つの願いをめぐって、人間との丁々発止のやり取りを楽しむ、骨董品のような……いえ、ベテランの悪魔の方たちが日々頑張っています。……まぁ、今じゃ赤字部門なんですけどね……。
え、いえ、何も言ってませんってば!そ、それはともかく、さ、こちらの方に!
……いまのサービス事業部の主流はこちらですね。人間の姿をとって、直接人間界に行ってターゲットを墜とす、まぁ、主に色仕掛けですけど、ときには、同性でも、会社や学校の同僚や先輩後輩の姿をとってターゲットを地獄に墜とす工作をしています。
カメラさん!ちょっと寄ってみて下さい。どうです!みな美男美女揃いでしょ!そして!こちらが、この部署のリーダーの我鳥昭人(がどり あきと)さんです。ね!凄いイケメンでしょ!もうワタシ、目がハートになっちゃいそうです!ワタシ、これで堕ちない人間ってのはどうかしてると思いますね。
彼らは、狙った獲物は逃さない、一人必墜のスペシャリストです。地獄に落とすのは一回で一人ですが、成功率が高いので効率は良くなっています。
みなさーん、これからも頑張って下さいねー!では、名残は惜しいですが、次に行きましょうか。
こちらは、サービス事業部の変わり種、芸術部です。優れた芸術作品を産み出すために、悪魔に魂を売る、という話を聞いたことはありませんか?
古くはですね、……<悪魔のトリル>と呼ばれるヴァイオリン・ソナタを作曲した、……えーと、18世紀イタリアの作曲家ジュゼッペ・タルティーニや、……<悪魔の微笑み>の通り名で知られるカプリース13番を作曲した、……ニコロ・パガニーニなど……。
……え?メモを見るならもうちょっとわからないようにやってくれ?す、すみません……と、とにかく!そういった事業も、結構昔から展開されてまして、他には、アメリカの…ロバート・ジョンソンや、ジミ・ヘンドリックスのクロスロード伝説とかも有名です!
もちろん、音楽だけでなく、他のジャンルでもっやてますよ。まぁ、全部が全部MCEの実績ではないですし、例に出したようなメジャーなものはむしろ少数派だったりするんですが……。でも、こういう芸術家の魂は、地獄での価値がかなり高いので、数は少なくても結構採算はとれるんですね。
さあ、芸術部の皆さーん!
……………………!カメラさん!カットカット! ……あ、いや、この部の方たちは、自分たちも芸術家肌というか、ちょっと変わったタイプが多いので……さ、そろそろ次行きましょうか!
……ぐすん、事前にロケがあるって言ってたはずなのにぃ……。
さて、気を取り直して行ってみましょうか。こちらのフロアが、化学事業部です!その名の通り、いわゆるクスリ系のものは、ここが一手に引き受けてます。
麻薬や媚薬といった、いわば定番のものはもちろん、胸を大きくする、とか、精力絶倫になる、とか、こういうので案外人間って簡単に引っ掛かってくれるんですよねー。形も、飲み薬から注射タイプ、香水系など各種取りそろえてます。
ちなみに、一番生産量が多いのは媚薬系のクスリですね。飲んだ人間に、無差別に異性が惹きつけられるとか、相手に飲ませて自分に惚れさせる、あるいは飲ませた相手をとりあえずいやらしい気持ちにさせる、なんてのはもう古典的なタイプですが、わりあい根強い人気があります。
ただ、このジャンルにも、流行がありまして、昔は、異性仕様だけで良かったのが、最近は同性愛者が増えてきたもんですから、同性仕様のものも生産されてますし、相手をメイドや奴隷にするという、細かい状況設定を求められることが多いので、そういったニーズにも対応しているようになっています。
こちらでは、白衣を着た悪魔の皆さんが日々新たなクスリ開発のための研究や実験にいそしんでます。
で、ここが、新薬の実験スペースです…………ハイ、えー、まぁ、魔界なら大丈夫ですけど、人間界だと間違いなく放送禁止な光景ですね。
そして、この窓から見える、あの緑の屋根の建物が化学事業部の生産工場です。
化学事業部は、それ以外にも、MCE社員食堂の人気メニュー、<激辛!地獄変麻婆豆腐>や、<地獄の釜スープカレー>などの開発にも……って、ゲッ!そうだったんかいっ!あ、あの、食べた悪魔の10人に6人は気を失うほど辛いのに、リピーターも多いというあのメニューって、……て、まさか麻薬使ってるんじゃ……。
え、いやいや、なんでもないですよ!こちらの話ですので……オホホホホ、世の中恐ろしいですねぇ……。
えーと、では次行きましょうか。さきほど、化学事業部の生産工場の隣に赤い屋根の建物が見えたと思いますけど、あの建物が、こちら、アイテム事業部の生産工場です。
ここは、各種さまざまな道具を開発、生産している事業部です。悪魔の道具というのももう定番ですが、主に分けると破壊系、呪い系、操り系でしょうか。
破壊系は、単純に強力な兵器と、持った者に破壊衝動を起こさせて暴れさせるようなものですね。ほら、よく神話なんかに出てくるでしょう、持った者を狂戦士化させる剣とかいうのが。要はああいったものです。今なら銃とかでもやってるメーカーもありますかね。
ただ、この系統の道具は殺された相手の魂はほとんどが天国へ行くので、コストパフォーマンスは良くないです。
もっとタチが悪いのは、単純に強力な兵器で、昔は、こういうのを人間に渡して互いに争わせていれば、そこそこの量の魂が地獄に堕ちていたんですよ。
でも、最近じゃ、戦争での死者がハンパなく多いくせに、その大半が天国に行ってしまって、あまりに効率が悪すぎるんですよ。それに、あまりやりすぎると天界に睨まれるので、我が社では、100年ほど前に、この分野から撤退しています。
で、呪い系の道具の例では、持ち主の願いを叶えつつも、道を踏み外させて持ち主を破滅に導く猿の手や、人間の所有欲を駆り立てて、それを巡って互いに争わせるホープのブルーダイヤモンドがメジャーですね。
MCEでは、かつて、住んだ人間を狂わせて互いに殺し合いをさせる、<殺人住宅>というのを開発したんですが、基本的に、一度そういうことがあると、なかなか人の住み手がなくなるのと、二度、三度繰り返されると、まず間違いなく取り壊されてしまうか、残ったものも住み手がなくて都市伝説と化してしまったりして、完全に失敗に終わっちゃいましたが。
そんなわけで、いま我が社のアイテム事業部では、操り系の道具をメインに開発してます。この系統の道具も歴史は古いです。
かぶった者に、人間を支配する力を与える王冠や、身につけると人間を魅了できるようになるネックレスなど、例を挙げたら、それこそきりがないです。
そして、現在、アイテム事業部で生産しているのが、……皆さんお待ちかね!このディー・フォンです!
普通、悪魔の道具なんてのは、そんなに大量生産はされないんですけど。先日発売された、魔獣用アプリが、魔界での人気に火をつけて、魔界での需要に応えるために、今でも工場はフル稼働状態です!
で、ディー・フォンといえば、あらゆるニーズに応えるアプリの存在なくして語ることはできません。そのため、ここ、アイテム事業部内ソフト開発部では、専門チームを組んで新型アプリの開発に努めています。
これがまた売れること売れること、人間界でも魔界でも、アプリの売り上げは伸び続けています!
さらには、取り込んだ人間や魔獣を保存する専用メモリーカードも売れていますので、これら、本体、アプリ、付属品の売り上げで、我が社は一躍業界トップ!いや、魔界トップに躍り出ています。これもひとえに、ディー・フォンを購入してくれたテレビの前の皆様のおかげです!
で、……えーと、ここにはいないみたいね、じゃ、あっちかしら……あ、いたいた!
さて!ここが、ディー・フォンを開発した商品開発部です!この部署のここ、極東エリア担当第2製作課からディー・フォンは生まれました。
そして、あちらに見えるのが、ディー・フォンを開発した、第2製作課の倭文淳くんです!今じゃ、彼は会社内のちょっとしたヒーローです。ホント、仕事のできる男って素敵ですねぇ……。
サービス事業部の我鳥さんも素敵でしたけど、あの倭文くんの知的な感じが何ともいえないですねぇ。普通なら野暮ったくなる黒ブチ眼鏡も、彼が掛けるといっそう知性がにじみ出て来るみたいで……。
しかも、ワタシって、彼とときどき目が合うのよね……、しかも、彼の方から見つめて来ちゃったりして……。
やだ!彼ったら、もしかしてワタシに気があるんじゃ!?あ!また倭文くんがワタシの方を見つめてるわ!
ああん、もう!なんか、それだけでアソコがじぃん、ってなっちゃう!ああ……いやぁ……うんんん!も、もう我慢できないわ、あああん!
はっ……て、きゃああああぁッ!カ、カメラさん、なに撮ってるんですかぁ!え?いいものを撮らせて貰った?これで、視聴率が15パーセントは上がるって?
いやぁ!だめっ!それはダメえぇッ!あ!逃げないで下さい!ちょっと!カメラさーん!待ってぇ!カット!カットおおおぉぉ…………!
< 続く >