悪魔の流儀 第2話

第2話

 ――翌朝。
「おはようございます、旦那様、奥様」
「ご主人さま~、奥様~!おはようございます!」
「あ~、おはよう」
「おはよう、冴子さん、梨央ちゃん」
 俺と幸が、ダイニングルームに入ると、朝食の準備をしていた冴子たちの元気のいい声が聞こえる。
 そう、いつも通りの朝の風景……ただ、いつもと違うのは……。
「あ、大門さん、奥様……おはようございます……」
 所在なげに座っていた銀髪の娘が、俺たちを見ると立ち上がって挨拶してくる。
「ああ、おはよう。よく眠れましたか、大神さん?」
「あ、綾でいいです、大門さん。傭兵部隊では、ファーストネームで呼び合うのが普通でしたし、うちの部隊は、オオガという名字が父と私、ふたりいたので、ずっと、アヤって呼ばれてましたから、その方がしっくりきます」
「あら、じゃあ、私のことも、幸でいいわよ。綾ちゃんはお客さんですから」
「え…わ、わかりました、おくさ…あ、幸さん」
 まあ、ひとり客人が増えただけで、何気ない朝食の……いや……。
「…………」
 俺は、薫がひとり浮かない顔をしているのに気付いた。
 まあ、薫はもともと賑やかな性格ではないし、殊に、俺の秘書になってからは、常に冷静に振る舞おうとしているから、みんなでいるときも静かにしていることが多い。
 が、それにしても、どこか様子が変だ。
 まあ、薫とは仕事中も一緒だから、後で聞いてみるとするか……。
「まあ、綾さんも、あの部屋は自由に使っていいから。それに、誰もいないといっても、やっぱり生まれたところには戻ってみたいだろう、ここから遠いのかい?」
「いえ……この町から、電車で30分ほどです」
「そうか……ま、うちのことは気にしなくていいから、自由に行動してくれ。あ、でも、昨日みたいな事もあるかもしれないから気をつけてな」
「はい、昨日は油断してましたけど、ああいうことがあるとわかっていれば……これもありますし、後れはとりません」
 と、なにやら腰から引き抜き、シュッ、と伸ばす。
 たしか……それは昨日も……。
「えーと、それは?」
「特殊警棒です。日本は不便ですね。銃器もナイフも持ち歩けないですから、こんなものしか身を守る術が……」
 いや、そんなモノ持ち歩かれても困るし、てか、その特殊警棒でも充分危険ですよ。
 昨日のあれを見ると、後れをとらなかったらどうなるのか、想像するのがちょっと怖い気もする。
「そうか、じゃあ、そろそろ俺は仕事に行くから」
「……あ、私は車を回してきます」
 薫が慌てて出ていく……やっぱり変だ……。

「なんか、気になっていることでもあるのか、薫?」
 ――タカトオ・コーポレーション本社、特別渉外局。
 ここは俺だけの部署。
 だから、通常、この部屋にいるのは、俺と秘書の薫だけだ。
「いえ、なにもありません、局長」
 そう答えて、目を伏せる薫。
 ……どう見てもなんかあっただろうが。
「俺の目をごまかせると思ってるのか?朝から明らかに様子がおかしかったぞ」
「あ、いや…その……」
「今、ここにいるのはおまえと俺だけだ。それとも、そんなに俺が頼りにならないのか?」
「い、いや、そんなことは……」
「じゃ、言ってみろ」
「実は……こんなものが……」
 薫が差し出したのは、自分の携帯……。
 そこには、びっしりと添付ファイル付きのメールが……。
 最初に届いた時間は、月曜の午前3時……つまり、今朝、というか昨日の深夜もいいとこだ。
 それから、今までの間に11件……。
「中身は見たのか?」
「いいえ……」
 そりゃそうだ、こんなの、怪しすぎて、普通開けないよな。
 それに、このファイル……かすかにだが、魔力の気配を感じる……。
 ディー・フォンが持つのよりも、もっと希薄だが、たしかに同類の気配……。
 明らかに、このファイルは、やばい代物だ。
「差出人はわかってるのか?」
「はい……営業部の石田次長です」
 なんてこった……うちの会社の人間かよ。
「きゃ!」
 薫の持つ携帯が、ブルルル……、と震える。
「いや!また……」
 しつこい奴だな……だが、これをなんとかしないと薫が……。
 たぶん、面と向かって問いただしても無駄だろうな。
 こんな魔力を帯びたメールを送って来るって事は、ディー・フォンか、それに似た、何らかの形で人を操るタイプの道具を持ってるって事だ。
 そんな奴に、真っ正面からかかっていっても……。
 なんとか、相手を油断させる手はないか……。
「きょ、局長…私、どうしたら……」
 不安げな目で俺を見つめる薫。
 気は進まないが、この手しかないか……。
「薫、おまえは必ず俺が守る。だから、全て俺に任せてくれないか?」
 薫の両肩をつかみ、正面から顔を見据えて切り出す。
「は、はい!」
 薫も、真剣な顔で頷く。
「じゃあ、少しの間辛抱してくれ」
 そう言うと、俺は、右手から、赤い糸を零距離で送り込み、一気に薫の魂を縛る。
「ああっ!」
 薫は、目を見開いて短く叫ぶ、その瞳孔は、ブルブルと小刻みに震えている。
 同時に、俺の中に薫の思考が送り込まれてくる。
(な、なに?か、体が……うご…かない?ど…どうし…て?)
 そういえば、薫にこれを使うのは初めてだよな……。
 いや、今はそんなことを考えている時じゃない。
 俺は、意識を操作するためではなく、俺の言葉として薫に思念を送る。
{薫、俺の声が聞こえるか?}
(あ…きょ…局長…これは…いったい……?)
{昨日言っただろう、俺は気功術が使えると。これは、その応用だ}
(そ、そんな……ほん…とうに?)
{ああ、そこでだ、薫。これから、そのメールの添付ファイルを開けてくれ}
(え……?で、でも…それは……)
{言ったはずだ。俺は必ずおまえを守ると。そのためにこうしているんだ。だから、俺を信用してくれ}
(は、はい、局長……)
 そして、携帯を持つ薫の手がゆっくりと動き、メールの添付ファイルを開けると……。
(あ!あああ……)
 薫の意識が、短い悲鳴を上げて深く沈んでいくのがわかる。
 さっきまでの瞳孔の震えが止まる。
 しかし、その瞳からは完全に光が失われていて……。
 ――ザ、ザザザ……。
 薫に繋いだ糸から、なにか、ノイズのような音が……。
 そして、
(望月薫だな?)
 ノイズ混じりに男の声が、薫と繋がった糸から伝わってくる。
(……はい)
 さっきまでとは違い、声に抑揚のない薫の返事。
(散々手間取らせやがって……まあいい、今どこにいる?)
(特別…渉外局……です)
(なに?じゃあ、そこに局長はいるのか?)
 まずい!
{大門局長は、今は席を外している}
 俺は、とっさに薫に思念を送る。
(いえ…今…局長はいません)
 ふう、なんとかこっちの操作は通じるみたいだな。
(そうか、じゃあ、今から俺の言う場所へ来い)
 よし、向こうにも気付かれていないな。
 ……しかし、こうやって、ふたりの操作を同時に受けてたんじゃ、薫の心が保たないぞ。
 早くケリをつけないと……すまん、薫、もう少し辛抱してくれ。

(さあ、薫、東階段の方へ来るんだ)
(……はい)
 東階段か……たしかに、あそこは普段から人目がない。
 特に、特別渉外局は本社ビルの12階にあるから、みんなエレベーターを使って、好きこのんで階段を使う奴はいない。
(じゃあ、8階の階段出口まで来るんだ)
(……はい)
 8階の階段出口ね……。
 俺は、薫に糸を繋げたまま、少し後からついていく。
 10階……9階……今だ!
 俺は、おそらく、8階で待ち構えている奴に、薫の姿が見えたであろうところで、最大限の力で薫の魂を縛り上げる。
{自分は、どうしようもなく眠くなる。このまま、深く深く眠ってしまう}
 この糸は、意識の操作がメインで、直接命令はできないが、これなら大丈夫だろう。
 ――ドサッ。
 薫は、9階と8階の間の踊り場に、言葉もなく倒れ込む。
「な!おい!どうしたんだ!いったい!」
 大声を上げて、男が駆け上がってくる気配がする。
 俺は、薫に繋いでいた糸を外し、薫に駆け寄る男の姿が現れた瞬間……。
「な!おま……」
 右手を男に向かって伸ばし、零距離で魂を縛る。
{自分は何も考えられない。急に眠くなって、深く眠ってしまう}
「う……」
 薫の横に倒れた男の手から、カラン、と音を立てて転げ落ちたもの……。
 やっぱり!ディー・フォンだ!
 俺は、男に糸を繋げたまま、そのディー・フォンを拾い上げる。
 ……案の定、ディー・フォンに薫の魂の情報が取り込まれている。
 だが、まだ登録はされていない。
 おおかた、人目のないこの場所で、登録をするつもりだったんだろう。
 俺は直ちに、ディー・フォンを操作して、薫の情報を消去する。
 登録してない状態だったから、これで何の問題もないはずだ。
 それにしても、この男……よくも薫を……。
 男を見下ろす俺の心に、男に対するどす黒い怒りと憎しみがわき上がってくる。
 その時……。
 ――ピキッ……。
 俺の頭……いや、心で、何かにひびが入るような音がした…ような気がした。
「ぐあああっ!」
 同時に凄まじい頭痛に襲われて、俺は頭を抱えて膝をつく。
「が!あがッ!がはあッ!!」
 すると、倒れていた男が吠え、白目をむいてビクビクと体を跳ねさせる。
 な、これは!?
 赤い糸を通じて、凄まじい量の魔力が男に流れ込んでいる。
 まずい!この男、壊れてしまうぞ!
 俺は一瞬慌てる、が、すぐに頭痛は治まり、それと同時に魔力も収まる。
 ふう……大丈夫そうだな。
 ……それにしても、今のは……いったい、あの頭痛は?それに……あの量、そしてあの濃度……本当に俺の魔力か?
 俺は、しばし呆然として突っ立ていたが、
(あああ!がは!うわあああああぁ!)
 糸を通して伝わって来た男の悲鳴に、ふと我に返る。
 男の心は、何か得体の知れないモノに襲われた恐怖に覆われている。
 ……そうだ!とにかく、後始末をしないと。
{だんだん心が落ち着いて楽になってくる}
(あああ……あぁ……)
 俺は、思念を送って男の心を落ち着けさせる。
 男が静まるのを待って、男の心に思念を送り、工作を開始する。
{自分が、このディー・フォンを手に入れたのはいつだったっけな?}
(ああ……そうだ……たしか……1年半前……)
 持ちすぎだろ!おまえ!普通それまでに死んじまうぞ!
 ……いや、今はそんなことはどうでもいい。
{考えてみたら、ディー・フォンを持ってから、ろくな事はなかった。これは悪魔の道具で、自分を不幸にするんじゃないのか?こんなモノを持ち続けていたら、とんでもないことになるぞ。今こんな怖い目にあっているのも、ディー・フォンのせいなんだ}
 俺は、幸にこの糸を使ったときの応用で、男の記憶をすり替えて恐怖心を煽り、ディー・フォンへの嫌悪感を高めさせる。
(あ…ああ……そうだ……きっとそうに違いない……)
 男の体が、ガタガタと震え出す。
{そうだ、こんなモノのことはもう考えたくない。そうだ、全て忘れてしまおう。ディー・フォンを使ってしたことも、ディー・フォン自体のことも。完全に忘れてしまうんだ}
(忘れる……忘れるんだ……ディー・フォンのことなんか……完全に……忘れてしまう……俺は何をしたっけ……何を……忘れる……)
 これで大丈夫か?いちおう確認しておこうか。
{ディー・フォンってなんだったかな?}
(ディー・フォン……?聞いたことも……ない……俺は、そんなもの…知らない……)
 うん、これでよしと。
 あとひとつ……。
{自分が、今日怖い目にあったのは望月薫のせいだ。あの女は自分を不幸にする女だ}
(あ…あ…望月薫……あああっ!あの女は悪魔だ!あいつに関わると俺は終わりだ!)
 ……誰もそこまで言ってないが。
 よっぽど、さっき魔力が流れたときのショックがきつかったのか?
 悪魔は俺の方なんだがな……。
{だから、もう二度と望月薫には関わらないことにしよう}
(ああ!あの悪魔にはもう二度と近付かないぞ!顔を見るのも嫌だ!)
 悪魔扱いされてるが、すまん、薫、これもおまえのためだ。
 なんか、仕事に支障が出そうだが……まあ、薫はこれからもずっと俺の秘書だし、営業部の次長が、そうそう関わることもないか。
{自分はまた眠くなる。そして、目が覚めたら、自分が今日したことを忘れている。自分がなぜこんなところで眠っていたかも覚えていない}
(ああ……あ……)
 男の意識がなくなっていくのを確認すると、俺は立ち上がる。
「さてと……」
 もうひとつ、面倒な作業が残っている。
 俺は、男のディー・フォンを操作し、登録してある女を見る。
「8人もかよ!」
 こいつ、どんだけ絶倫なんだよ!
 とりあえず、このままにしておくと何かと問題があるので、登録を全部解除していく。
 ……1年半もこいつを持っていれば、登録された女の識域下に影響は残るだろうが、それはどうしようもない。
 作業を終えると、俺はそのディー・フォンをポケットにねじ込み、薫を起こす。
「おい、薫!起きろ!」
「ん……あ…局長……」
「薫、終わったぞ、もう大丈夫だ」
「終わったって、何がですか?」
「なんだ、覚えてないのか?とにかく、部屋に戻るぞ」
 俺は、まだ少し、ボーッとしている薫を促して、特別渉外局に戻る。
 

 ――特別渉外局。
「本当に覚えてないのか?」
「え…と、昨日の夜から……変なメールが来てて……出社して……局長が気功術とかいうの使って……あ!あああ!いやあああ!」
 首をひねって、昨晩からのことを思い出していた薫が悲鳴を上げる。
 その目は見開かれ、体はガクガク震えている。
「お!おい!薫!?」
「い!いやあっ!わ、私!別な人のモノになりかけてた!いや……なってた……。わ、私は!局長と幸のモノなのに……そ、そんなの……あ…あああ……」
「おい!落ち着け!薫!」
「いやあああっ!こ、怖い!私っ!局長以外の人のモノになるのが怖いのっ!」
「だから、もう大丈夫だって!」
「えぐっ!ひっく!いやあっ!局長!わたし!わたしっ!」
 涙を流して俺にしがみついてくる薫。
 ……そういや、こいつ、泣き虫だったよな。
 いつの間にか、クールな秘書姿が板に付いていたから、そんなことも忘れちまってた……。
「すまん、薫……。でも、おまえを守るには、あれしかなかったんだ」
 俺に抱きついて泣きじゃくる薫の背中に腕を回し、固く抱きしめる。
「うっ!うくっ!きょ、局長……」
「怖い思いをさせてごめんな……。でも、言っただろ、俺は必ずおまえを守るって」
「……うん……ううう……えっく!」
「だから、もう大丈夫だ、薫。おまえはこれからも、ずっと俺のモノだ」
 俺のモノ…か。
 幸もそうだが、こいつはそういう風には堕としちゃいないんだがな……。
 最初から下僕として堕ちたのは梨央くらいなもんだ。
 その下僕が、一番俺の言うことを聞かないのにも納得がいかないものがあるが。
「うう……局長ぉ……ん……んん……」
 俺が、唇を寄せると、涙を流しながら、薫も口を寄せて吸い付いてくる。
「んん…んんん…ん……ぷふぁ……」
「この唇も……そして…この胸も……」
「ん!あん!」
 俺が、薫の控えめな膨らみをつかむと、薫は短く喘ぐ。
「そして……もちろんここも、全部俺のモノだ」
「あ!ああん!きゃああん!」
 スカートの中に手を突っ込み、ショーツの上からアソコをなぞる。
 嬌声を上げる薫のアソコは、ショーツの上からでもそれとわかるくらい濡れている。
「だから、もう泣くな、薫」
「う……はい、局長……」
「うん、いい子だ、薫」
 俺は、涙に濡れた薫の頬に軽くキスすると、薫の服を脱がせていく。
「あ…局長……」
「つらい目に遭わせたからな、今日は特に予定もないし、こんなんでおまえの気が晴れるかどうかはわからんが」
 俺も服を脱ぎ、薫を抱きしめる。
「局長……あ…ん…んん……」
 もう一度、俺は薫と舌を絡め合う。
「んむ…んん……きゃ!きゃああんッ!」
 俺が手を伸ばして、薫の裂け目に指をつっこみ、ポチッと指にあたるものを弾くと、薫の体が、ビクンッと跳ねる。
「あふうんッ!あっ!ああん!」
 薫のアソコは、溢れるくらいにトロトロに濡れている。
「……いくぞ、薫」
「は…はい、局長!……あッ!はああああぁッ!」
 俺のモノを薫の中に突き挿すと、薫の細身の体が仰け反る。
「んっ!はあっ!ああっ!んんんっ!」
「どうだ、薫!おまえが俺のモノだって、実感できるか!?」
「は!はいい!」
 ……たとえ、無条件に俺を好きになるようにしていても、なんせ、男ひとりに女4人だ。
 理性が多少でも残っていたら、とてもじゃないがやっていられない共同生活。
 それを、自分は俺のモノなんだと思うことで、こいつらなりに、心の中の整理を付けてきたんだろう。
 おそらく、薫だけじゃなく、幸も、そして冴子も……。
 だったら、何の疑いもなしに、俺のモノだと信じさせてやるのが、こいつらにとっても幸せなのかもしれないな。
「そうだ!おまえは俺のモノだ!薫!」
「あ!あああ!きょ!きょくちょおぉッ!」
 俺を抱きしめる薫の腕に、ギュッと力がこもる。
 そう、それが、こいつらの主人としての俺の務めなんだろう。
「何があっても、おまえは俺のモノだ!」
「はいいいっ!はあああぁっ!」
 俺の動きに合わせて、薫の腰の動きも激しくなってくる。
「どうだ!?これでもまだ不安かっ!?」
「い!いいえっ!んんんっ!はあんっ!あああああっ!」
 泣きはらした薫の目が、再び潤む。
「おまえはっ!ずっと!ずっと!俺のモノだ!」
 そう叫んで、俺は薫の中に精を放つ。
「ああっ!う!うれしいっ!きょくちょおおぉっ!んんん!んはあああああああッ!!!」
 大きく体を反らせた薫の顔から、ポトリ、と歓喜の涙がこぼれ落ちる。
「あああ……きょ、局長……」
 ビクンビクンと体を震わせた後、薫の体から力が抜ける。

「なあ、薫、ふたりだけの時や、うちの連中といるときは、別に局長って呼ばなくてもいいんだぞ」
 脱いだ服を拾い上げ、身支度を整えながら、俺は薫に言う。
「でも、うちのみんなの中で、局長、って呼べるのは、私だけの特権なんですよ」
 同じく、服を整えながら、はにかむように薫は微笑む。
「そんなものか?」
「そうですよ。……あの……局長……」
「ん?なんだ?」
「……ありがとうございます」
 後ろ手に手を組んでそう言うと、恥ずかしげに俯く薫。
「気にするな、俺はおまえらのご主人様だからな」
 俺は、もう一度薫を、グッ、と抱き寄せた。

< 続く >

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