第5話 押しかけてきた吸血鬼ハンター
そして、次の土曜日。
「慎介お兄ちゃーん!さくらお姉ちゃーん!早く行こうよー!」
部屋の戸を開けて、春奈が俺たちを呼ぶ。
この週末は、俺とさくらと春奈で遊びに行く約束をしていたのだ。
「もうっ、ふたりとも早く早くー!お店開いちゃうよー!あそこ、開店前から行列できるんだから、早く行かないと!」
ていうか、もう何度もこうやって遊びに行ってるっていうのに、春奈ときたら毎度毎度このはしゃぎっぷりだもんな。
「ほらほらっ!早く行くよ!」
部屋を出ると、春奈は待ちきれないように俺たちの手を引く。
と、その時だった。
「見つけたわよ!」
若い女の、鋭い声が響いた。
……て、ん?
この声!どっかで聞いた覚えが……。
俺が声の主を見ると、そこにいたのはこの間の赤毛のポニーテールだった。
格好もほぼ同じ、黒いブーツに黒いスカート、そして、赤がメインのやけにひらひらしたブラウス。
で、今回はサングラスをかけていなかった。
……やっぱりこいつ若いじゃんか。
ちょっと切れ長の目で美人といえば美人だけど、顔立ちがまだ子供っぽい。
下手すると高校生くらいか?
サングラスを外したそいつの顔は、予想した通り俺より年下に見えた。
「おまえ……」
「慎介お兄ちゃん、この人誰?」
「ああ、この間うちの前に立ってたんだけどな……」
訝しそうに春奈が尋ねて来るのに答えていると、そいつがビシッと指を付き出した。
「あんたよ!」
その指先が指しているのは、さくらだった。
「あんた!シュトリーガね!」
「……なっ!?」
それを聞いて、俺がどれだけ驚いたかわかるだろうか?
なにしろ、そいつはさくらの正体を知ってたんだから。
「おまえっ、何者だよ!?」
「あ、まだ名乗ってなかったわね。私の名前は、桃園ファニスリャワよ!」
「……って、何人だよ!?」
「あら?日本人よ。ただ、母さんはスロベニア人だけどね」
……ん?
スロベニアって、どこかで聞いたような?
……って、さくらの故郷じゃねえか!
なんだって俺の身の回りにはそんなあまり聞いたことがない国から来た吸血鬼だの、ハーフの女だのがうろついてんだよ!?
「あなたたちは安心していいわよ。このシュトリーガは私が退治するから」
「ねえ……慎介お兄ちゃん、この人なに言ってるの?」
「いや、これにはちょっとわけがあってな……」
状況が飲み込めていない春奈が尋ねてくる。
まあ、俺だってさくらの正体は知ってるけど、この女のことはなにも知っちゃいない。
と、それまで黙っていたさくらがやっと口を開いた。
「あなた、クルスニックね……」
絞り出すようにそう言った、さくらの表情……。
青ざめた顔で脂汗を浮かべ、怯えたように小さく震えていた。
「さくら……クルスニックって?」
「スロベニアの言葉で守護霊って意味だけど、向こうにはそれを名乗ってシュトリーガを退治したり悪霊を祓うのを仕事にしてる人がいるのよ……」
「そーよ!さすがによく知ってるわね!……ちょっと!動かないで!」
「……ひっ!?」
桃園ファニスリャワと名乗った女が、持っていた棒みたいなものをさくらに向かって突き出した。
すると、その棒が体に当たってもいないのに、俺たちの方に逃げてこようとしたさくらの動きが止まった。
「どうした!さくら!」
「待ちなさい!危険だからあなたたちはそいつに近寄らないで!」
「いや、危険って……」
「ねえ……慎介お兄ちゃん、あの人いったいなんなの?さくらお姉ちゃんになにがあったの?」
不安そうな表情で春奈が俺の腕を掴む。
だけど、俺にもこいつがさくらを退治しようとしてるのはわかるけど、あいつの持っている道具が何なのかはわからない。
ていうか、あの女、やけに嬉しそうじゃないか?
「きゃっ♪やっぱりこれ、本当に効くのね!?すっごーいっ!お祖母ちゃんのいったとおりだわ!……ふっふっふっ!あんたならこれが何かわかるわよね?そう、あんたたちシュトリーガの大腿骨を削って作った呪具よ。あんたたちは、これを向けられるだけで身動きが取れなくなるのよね?そして、あんたたちシュトリーガを消滅させることができるのはこの、同族の骨で作った呪具だけ。そうでしょ?これで心臓を突かれたらあんたたちは灰になって消滅しちゃうのよね?」
「なんだと!?」
「まさか……この国にあんたみたいなのがいるなんて……」
「ほーっほっほっほっ!どう?驚いた?母さんはスロベニアで大学に行って日本に留学してそのまま父さんと結婚しちゃった人だから、こんなのは非科学的だって言うけど、スロベニアのお祖母ちゃんはちょっとは知られたクルスニックだったのよ。そのお祖母ちゃんに、あたしはクルスニックの素質があるって言われて、この呪具をもらったの。それがどれだけすごいことか、あんたにわかる?……それにしても、まさか本当に日本にシュトリーガがいるなんてね。高校生の頃にネットの掲示板で、東京に吸血鬼がいるって書いてあったのを見てもしかしてって思ったのよね。で、絶対に東京に行って私がその吸血鬼を退治してやるって思って、この春東京の大学に入って、毎日探してたんだから!」
……て、こいつ大学1年かよ!?
たしかに俺より年下だけど、思ってたほどじゃないな。
それにしてもなんだ?
さくらといい、こいつといい、スロベニアの女って童顔が多いのか?
にしても、ペラペラとよくしゃべる女だな。
大学入ってから退魔師気取りで……て、学校行ってんのかよ、こいつ?
「まあ、吸血鬼っていっても色々あるみたいだから、私の知らない種族だったらどうしようかと思ったけど、この間これが光ったときには思わず胸が高鳴ったわ」
そう言って、女は胸に提げたペンダントを持ち上げる。
その真ん中にある赤い石が、ギラギラと妙に光っていた。
まるで、力を使っているときのさくらの眼のように。
「わかる?この宝石にはシュトリーガの血が封じてあって、シュトリーガが近くにいるとこうやって光り輝くのよ。これが光ったのを見て、本当に嬉しかったわ。お祖母ちゃんにもらった道具は本物だったんだってわかったんですもの!私も、シュトリーガや悪霊のことはお祖母ちゃんから少し話を聞いてただけだったし、これが本物なのかどうかわからなかったから。あ、もちろん私は信じてたけどね。でも、これで本当に吸血鬼を退治できるのかやってみたくてうずうずしてたんだから!」
……て、ちょっと待て!?
こいつ、別にちゃんと退魔師としての修行をしたとかじゃなくて、田舎のお祖母ちゃんから話を聞いただけだってのかよ!?
いや、たしかにそのお祖母ちゃんからもらったっていう道具は本物みたいだけど……。
「でも、これで道具が本物だってわかったし、私もクルスニックとしての務めを果たせるわ」
「おいっ!待てよ!」
「ちょっと!どういうことなのよ!?さっきからあなたなに言ってるのよ!?」
黙って聞いていた春奈が、たまりかねたように大声を上げる。
しかし、そいつはその場の空気が全然読めてないのか、余裕たっぷりの笑みすら浮かべている。
まるで、自分はいいことをしているとでも言わんばかりの態度だ。
「あなたたちは落ち着いて。いい?こいつはね、シュトリーガっていう凶悪な吸血鬼なのよ」
「はい?吸血鬼?なに言ってるか全然わかんないんだけど?だって、さくらお姉ちゃんはっ!」
「あなたもこいつに騙されてるのね。こいつらシュトリーガは、そうやって人間を騙して取り込んで、人間の中に紛れて生きてるのよ」
「だから、なに言ってんのよ!」
いや、騙すんじゃないけど、力を使って人間の中に紛れるのは間違っちゃいないな。
まあ、さくらの力の性質上、俺にはそれすら使っちゃいないんだけど。
ていうか、こいつ、さくらの力のことも知らないんじゃないか?
もし、シュトリーガのことをちゃんと知っていたら、一緒にいる俺たちが操られていて、さくらの味方をする可能性をまず考えるはずだ。
まったく、本当に吸血鬼退治ができる道具を持ってただ嬉しがってるだけのお子ちゃまなんだな……。
なんか、話を聞いているうちにだんだんむかついてきた。
お祖母ちゃんからもらった玩具で遊ぶような感覚で、いっぱしの退魔師を気取ってるなんてとんだ中二病もいいところだ。
しかも、よりにもよってそれでさくらを退治しようだなんて……。
「こいつらシュトリーガにとってはね、人間なんてただの餌にすぎないのよ!」
「ち……違う……」
勝ち誇ったような女の言葉に、さくらが必死に頭を振る。
でも、さくらの言うとおりだ。
たしかにさくらは俺たち人間の精気を食って生きてるけど、俺たちのことを自分の餌だなんて思っちゃいない。
「こいつらは、こうやって人間に取り入って、その相手の精気を吸うのよ」
「いやっ……違う……あたしは、そんな……そんな……いやぁあああああっ、違うのっ!」
「……さくらお姉ちゃん!?」
項垂れたまま、力なく頭を横に振っていたさくらが、いきなり悲鳴をあげる。
……なんか、さくらの様子が変じゃないか?
様子がおかしいのに気づいてさくらを助けようとすると、相変わらず得意げな女の耳障りな声が響いた。
「近寄ると危ないって言ってるでしょ!シュトリーガは、自分が見込んだ相手の精気を死ぬまで吸い尽くすのよ!あなたたちは安心して見てればいいの!今から私がこいつを退治しちゃうから!」
「違うっ!違うぅうううううううううっ!」
さくらが、半ば錯乱状態になったみたいに叫んだ。
その目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
そこで、俺の堪忍袋の緒が切れた。
「おまえなぁ!ふざけるのもいい加減にしろよ!人が黙って聞いてりゃ、適当なことばっかべらべらしゃべりやがって!」
「……きゃあっ!なにすんのよっ、あんた!?」
俺は、女に駆け寄るとその腕を押さえ込んで、持っていた棒を取りあげる。
そして、さくらに向かって思い切り叫んだ。
「さくら!俺はおまえのことを信じてるから!」
「……え?……し、ん……すけ?」
宙を彷徨うようなさくらの視線が、俺の方を捉えた。
大きく見開いた目にいっぱいに涙を浮かべたさくらに向けて、俺はそのまま無我夢中で叫んでいた。
「俺はおまえが吸血鬼だって知ってる!だけど、こいつが言ったようなやつじゃないってわかってる!俺はこいつの言うことは信じない!おまえの方を信じる!」
「……慎介」
正気に返ったように、さくらが俺の名前を呟く。
そのまま、呆然と突っ立って俺を見つめている。
「ちょっと!なにするのよ!?」
「うるさい!おまえはおとなしくしてろ!」
腕を振りほどこうとして暴れる女を押さえつける。
こいつは、さくらのことをなにもわかっちゃいない。
さくらはたしかに吸血鬼だけど、どんな思いで俺たちの精気を吸っていたのか、どれだけさくらが俺たちに気を遣っていたか、なにも知っちゃいない。
自分が腹減ってるのも我慢して、さくらは俺たちの体のことを心配してくれてる。
そんなあいつが、俺たちの精気を吸い尽くすはずがないじゃないか。
つうか、さくらを泣かせるやつは俺が許さねぇ。
……って。
「ありがとう、ありがとう、慎介……」
さくらの目から、ボロボロと涙が溢れてきた。
ひょっとして、一番さくらを泣かせてるのって俺か?
いやいや、そんなことを言ってる場合じゃない。
「さくらっ!早くこいつにおまえの眼を使えっ!」
「だめだよ……そのペンダントには、あたしたちの力を弾く効果があるのよ」
「……む、そうか。……そうだっ!おいっ、春奈!」
「えっ?なにっ!?」
「ちょっとこっち来て、こいつのペンダント外してくれ!」
「ど、どういうことなの!?」
「いいから早く!」
「わっ、わかったわ!」
驚いて俺たちの様子を見ていることしかできないでいた春奈が、こっちに駆け寄ってくる。
「ちょっと!やめなさいよ!」
「もうっ、おとなしくしてよね!」
そして、暴れる相手の首からペンダントを外した。
「よしっ、いいぞ、さくら!」
「なっ、なにするのよっ!……あっ」
俺が女の顔をさくらに向ける。
すると、さくらの目がギラッと光ったとたんに女の体から力が抜けた。
「ふう……とりあえず、こいつは俺の部屋に連れて行くことにするか」
「うん。じゃあ、あたしと一緒に来て」
「……うん」
さくらの言葉に力のない返事を返すと、女はさくらと一緒にふらふらと俺の部屋に入っていく。
と、春奈が俺の腕を引いた。
「ねえ、慎介お兄ちゃん……」
「ごめん、春奈。遊びに行くのはまた来週でいいか?」
「うん、それはいいけど。それよりも、今のはいったいなんだったの?」
「ごめんな。それも、詳しいことはまた後で説明するから。とりあえず、今日のところは俺とさくらに任せてくれないか?」
そう言っても、春奈は納得しない。
「でも、大丈夫なの?さっきのさくらお姉ちゃん、なんか変だったよ?それに、あの人も。なんだったら私も手伝うけど……」
「たぶん大丈夫だって」
「どうしたの?私がいたらマズいの?」
「ごめん、それも含めて絶対に後で説明するから。だから今日のところは……な?」
「……もう」
それでもまだ不服そうな顔をしている春奈を宥めて、どうにか家に帰らせる。
そして、自分の部屋に戻ってみると、さくらがあの女と向かい合って座っていた。
さくらの目は、まだギラギラと光ったまま女を見据えていた。
「さあ、あなたにとって一番大切な人が戻ってきたわよ」
……て、へ?なにが始まってんだ?
「……さくら?」
「慎介……ちょっとこっちに来て」
「え?お、おう……」
女から視線を外さないさくらにそう言われて、俺はその傍らに近寄る。
「ほら、彼よ」
「って、うわ!?」
さくらは自分の顔の横に俺の顔を引き寄せて、女の方を向かせる。
女が、ちらっと俺の方に視線を向ける。
その顔はぼんやりと虚ろで、なんの感情も浮かべていなかった。
どうやら少し視線をずらす程度なら、さくらの力は解けないらしい。
「この顔をよく覚えておくのよ」
「……はい」
さくらの言葉に、俺を見たまま女が頷く。
「あなた、まだ処女よね?」
「……はい」
「じゃあ、これからあなたは彼に初めてを捧げるのよ」
「……はい」
「……って、おい!さくら!?」
いつものことだけど、さくらがいきなりとんでもないことを言い出した。
だけど、俺が驚いてもさくらはじっとそいつを見つめたままだ。
いったいどうするつもりなんだ?
まさか、こいつの精気も吸おうっていうのか?
「この人とセックスをすると、あなたは初めてなのにとても気持ちよく感じるわ」
「この人とセックスすると……私は初めてなのに……とても気持ちよく感じる……」
「そして、この人とセックスすると、あなたはこの人のことをどんどん好きなるの」
「この人とセックスすると……私はこの人のことを……どんどん好きになる……」
ぼんやりと俺を見たまま、そいつはさくらの言葉を繰り返す。
「いいわ。じゃあ、服を脱いで」
「……はい」
さくらの言うままに、そいつはゆっくりした動作で服を脱いでいく。
そして、すっかり服を脱いで裸になってしまった。
「へえぇ……」
裸になったそいつの体に、思わず唸ってしまった。
さすがハーフというのか、さくらと負けず劣らすのいい体をしていた。
すると、さくらがすぐ横に座る俺のベルトを外した。
「慎介……ズボンを脱いでくれる?」
「でっ、でもよ……」
「いいから、お願い……」
「お、おう……」
さくらの気迫に押されて、言われるままズボンを脱ぐ。
なんか今のさくらには、有無を言わせないものがあった。
そして、俺がズボンを脱ぐとさくらはチンポを引っ張り出した。
「もう……まだそんなに大きくなってないじゃないの。しかたないわね……ちょっとあなった、こっちに来て」
「……はい」
さくらが呼ぶと、女が俺たちのように近寄ってくる。
「ちょっとこの人にあなたのおっぱいを押しつけてみて」
「……はい」
「って、おい!?……ぶふっ!」
女がこっちに胸を押しつけてきて、ムニュッと弾力のある感触が顔に当たった。
「ほら、もっとおっぱいを揺すって」
「……はい」
「んむむむむっ!?」
「そうそう、そんな感じよ。じゃあ、それを続けて」
「……はい」
「ぶふっ、むむむっ!……むふっ!?」
顔面に押し当てられたおっぱいがぷにぷにと揺れる。
と、それと同時にチンポを掴まれるのを感じた。
「ん……だいぶ大きくなってきたわね……」
目の前がおっぱいで占領されて見えないけれど、どうやらさくらがチンポを扱いてるっぽい。
つうか、この状態でチンポ扱くのって反則だろ!
「むふうううっ!むむっ、ぶぶぶっ!」
顔に当たるおっぱいの感触と、チンポを扱かれる快感に、急速に下半身に血液が集まっていく。
「……ふう、これでいいわね。あなたももういいわよ。おっぱいを離しなさい」
「……はい」
さくらに言われた女が体を離して、やっと一息つく。
と思ったのも束の間、さくらが次の命令を女にしていた。
「じゃあ、この人に抱きつくようにして腰を少し落として……そう、そのくらいでいいわ」
「……さくら?」
女が俺に抱きついてきて、腰を軽く落とす。
すると、さくらがチンポを掴んで、その股間に宛がった。
「うん、ここでいいわね。じゃあ、あなたにとって大切な人に処女を捧げるのよ。さあ、そのまま腰を沈めて」
「……はい。……くうっ!んくううううううううっ!」
「お、おいっ!?うおっ!?」
腰を沈めてアソコでチンポを飲み込んだ女が、くぐもった呻き声をあげる。
処女だっていうのは本当なのか、虚ろな顔が歪んだように見えた。
つうか、いきなりかよっ!?
「大丈夫よ、痛くないから。大好きな人に処女を捧げて痛いわけがないじゃないの。さあ、動いてみて、気持ちよくなってくるから」
「……はい。……んっ、くふうううううっ!んっ、はんっ!んっ、んふぅうんっ!」
やっぱり処女のそこはきつめなのか、そいつが腰を動かしはじめると、ぐいぐい締めつけながらチンポを扱きはじめる。
しかし、なんか喘ぎ声が気持ちよさそうになってきてるんだけど。
「んっ、ふうんっ、はっ!……あんっ!」
「どう?気持ちいいでしょ?」
「……はい。……はんっ、んっ、はうっ、むふぅうんっ!」
さくらの声に頷くと、そいつはズンズンと響くくらいに大きく腰を上下させはじめる。
それに、そいつのアソコの中……。
とても初めてとは思えないくらいに熱くうねっていて、そいつの動きに合わせて出入りするチンポに吸いついてくる。
それにしてもさくらのやつ、ずっと力を使ったままなんだな……。
いつもと違って今日は、さくらの目がずっとぎらつくように光っていた。
その目で、俺に抱きついて腰を振っている女を見つめて。
感情を表に出さずにさくらの言うとおりに動く相手とセックスするのは、まるで人形相手にしているみたいでちょっと不気味な気がする。
でも、不思議と興奮してくるのはどうしてなんだろうか?
「あっ、ふああああっ!」
「うおっ!?くおおおっ!」
興奮でチンポがビクッと震えた瞬間、ポニーテールの髪を大きく跳ねさせて女の体が震える。
締めつけが急にきつくなって、思わず呻き声が出てしまう。
「ふたりとも、そろそろイキそうなのね?いいわよ、最後までイッちゃって」
「……はい。……はうっ、ああっ、んっ、んっ、んっ、はんっ、んふぅううううんっ!」
「おいっ!……おわっ、うおっ!うおおおおっ!」
そいつが俺にしっかりと抱きついてきたかと思うと、腰を振るスピードが上がる。
窮屈なアソコでぐいぐい扱かれて、頭の奥がじんっと痺れてくるくらいの快感が突き抜けていく。
つうか、こんなに激しくされたらもう保たないって!
しかし、そいつは問答無用でさらにチンポをアソコで扱き上げてくる。
「うおっ!俺っ、もっ、もうっ!」
「んっ、はうっ、はんっ、あっ、あんっ、んっ、くふっ、んっ、むふぅうううううううんっ!」
「ううっ!うおおおおおおおっ!」
そいつが俺に抱きついて体を仰け反らせた瞬間、アソコ全体でチンポを締めつけられて俺は射精してしまう。
「んんっ!んんんんんんんっ!」
どこかくぐもった声を上げてそいつは大きく喘ぐ。
ぎゅっと俺を抱きしめたまま、ブルブルと体が震えていた。
「んんっ、んっ、んんっ!……はあぁ……ふぅ、ふぅ……」
小刻みに体を震わせていたそいつが、くたっとしなだれかかってきた。
耳のすぐ側で、そいつははぁはぁと大きく息をしている。
と、さくらの声が聞こえてきた。
「どう?気持ちよかったでしょ?」
「……はい」
「あなたが処女を捧げたその人は、あなたにとって特別な人なの」
「私が処女を捧げたこの人は……私にとって特別な人……」
「だから、その人の言葉はあなたにとって絶対で、その人の言うことにあなたは逆らえないわ」
「この人の言葉は私にとって絶対で……この人の言うことに私は逆らえない……」
「……て、おい、さくら!?」
驚いた俺が声をあげても、やっぱりさくらは無視して女に命令を続ける。
「じゃあ、服を着て」
「……はい」
よろよろと俺から体を離して起き上がると、そいつはゆっくりと服を着ていく。
ていうか、セックスした体にそのまま服を着させるのかよ……。
そして、そいつが服を着終えたのを確認すると、さくらは顔をそいつに寄せて囁く。
「さあ、眠りなさい。眠ったら、あなたは、明日の朝まで目を覚まさないわ」
「……は……い」
さくらに耳許で囁かれて、そつはぐったりとその場に横たわった。
まるで、本当に糸の切れた操り人形のように。
「……さてと、これでいいわね」
それを見てようやく俺の方に振り向いたさくらの目は、いつも通りに戻っていた。
「さくら……これはいったいどういうことなんだよ?」
さっきまで俺がいくら口を挟んでも答えなかったさくらが、やっと口を開く。
少し潤んでいるように見えるその目は、やたらに悲しそうに沈んでいるように見えた。
「ごめんね、慎介。あたしのせいで慎介に迷惑をかけちゃって」
「いやっ、迷惑だなんて、そんなこと俺は全然思ってないって!」
「でも、やっぱりあたしがシュトリーガだからこの子が来て、こんなことになっちゃって……」
「つっても、こいつは全然たいしたやつじゃなかったしさ」
「うん……でもね、本当はこの子の言ったとおりなのよ。あたしたちシュトリーガにとって、人間は餌にすぎないの」
「そんなっ!……だっておまえはっ」
「本当のことよ」
俺の言葉を遮るようにそう言うと、さくらは静かに首を振る。
「あたしたちシュトリーガは、相手の命がなくなるまで精気を吸い尽くす存在なのよ」
「……さくら?」
「あたしはそのことを知っていた。あたしの本当の家族もそうやって生きてきたはずだし、他のシュトリーガもきっと……」
「でも……」
「だからあたしは、さっきこの子にああ言われたときになにも言い返せなかった。あたしたちの本当の姿をさらけ出されたみたいで、そんなこと慎介たちには知られたくないって思ってたから、あの子の言うことを聞いてるうちに頭の中がぐちゃぐちゃになって、わけがわからなくなっちゃったの」
「でもさ……実際にさくらはそうじゃないだろ?」
「うん。……ありがとうね、慎介。……あなたが、あたしを救ってくれたの」
「……えっ?」
さくらが、いつもの明るい笑顔とは違う、穏やかな笑みを浮かべた。
そして、柔らかな光を湛えた目で真っ直ぐに俺を見つめる。
「あのとき、あたしは本当にこの子のことが怖くてパニックなってた。あのまま放っておくと、そのまま壊れちゃうかもしれなかった。あたしは人間じゃないから、眼を使わなくても腕力だって普通の人間より強いし、慎介が助けてくれてもそのまま暴れちゃって、この子を無茶苦茶にしちゃってたかもしれない。だけど、慎介があたしを信じてくれるって言ったからそれができなかった。……慎介が信じてくれてるあたしは、きっとそんなことしないはずだよね?だから、あたし……」
「さくら……」
「ごめんね、慎介。あたし、それでもやっぱりどうしたらいいかわからなくて、この子のことを慎介に任せることにしたの」
「それって?」
「今のこの子は、あなたの言うことだったらなんでも聞くはずだから、慎介が思うようにできるし、もし、慎介がそうしたかったら自由にしてあげることもできるはず。……あたし、ズルいよね。こんな大切なこと、慎介に押しつけちゃって……」
「いや、いいんだよ、そんなこと」
おれは、そっとさくらを抱き寄せた。
とりあえず、俺にだってこいつをどうしたいって考えは全然決まってないけど、さくらを責める気にはなれなかった。
腕の中で、さくらが俺を見上げて寂しそうに笑う。
「あたし、本当にシュトリーガとしてはダメダメだよね。力もあべこべに生まれちゃってるし、人間はあたしにとって餌のはずなのに、どうしてもそう思えない。あたし、慎介のことも美弥子さんのことも、それに春奈ちゃんのことも大好きだよ。吸血鬼なのに人間のことを好きになっちゃうなんて、あたし、シュトリーガ失格だよね。……それなのに、やっぱりあたしはシュトリーガだから、こうやってあたしを退治しようとする人が来て、慎介たちに迷惑かけちゃって……」
「でも、そのおかげで俺はさくらに会えたんだから」
「……慎介?」
「だって、おまえがそんなんじゃなかったら、きっと俺はおまえと会うこともなかったし、こうやって抱き合ってることもできなかったはずだから。だから、俺はさくらがそんな風に生まれてきてくれて良かったって思うんだ。だから自分のことダメだとか、失格だとか言うなよな」
そう言って、俺はさくらを固く抱きしめる。
「……ありがとう、慎介」
それの胸に顔を埋めて、さくらもぎゅっと抱き返してきた。
その後はお互いになにも話さないまま、長い長い時間抱き合っていた。
どのくらいそうやって抱き合っていただろうか……。
先に口を開いたのはさくらの方だった。
「ねえ、セックスしようか?」
「……えっ?」
今までさくらとは何度もセックスしてきたけど、さくらの方からそう言ってきたのは初めてだった。
「もしかして、腹減ったのか?」
「違うわよ!あたしは、慎介とセックスしたいの!……まあでも、セックスしたら慎介の精気を吸っちゃうんだけどね」
唇を尖らせて突っ込んだ後で、さくらは照れたように頬を赤くする。
「ねえ、慎介……ダメ?」
「いいに決まってるじゃんか」
「慎介……」
「じゃあ、ベッド行くか?」
「うん……」
俺は、さくらを抱いたままベッドに上がる。
「ちゅっ、んむっ、んっ……」
「ちゅむっ、ちゅうっ、んふ……」
ベッドの上でさくらの服を脱がして、まずはキスをする。
自分の唇に柔らかい唇が触れる感触も、精気を吸われて頭がふらっとする感覚も、もうすっかり慣れた。
「ん……あん……んっ、んんっ!あんっ、慎介ぇ……」
いったん唇を離すと、そのままさくらの首筋に沿って這うように舌を舐め降ろしていっておっぱいに吸いつく。
「んっ、はうっ!はんっ……ひゃうっ!あっ、慎介っ!あんっ!」
おっぱいの先を口に含んで、舌先で転がすように乳首を弄る。
同時に、もう片方のおっぱいを掴んで指先で乳首を弾く。
「ひゃんっ、んんっ、あんっ、慎介っ、慎介ぇえええええっ!」
さくらが乳首が弱いのを知ってるから重点的に弄ってやると、さくらは俺の頭を抱きしめたまま顎を反らせて喘ぐ。
「はんっ!んんっ、あっ、そこまでっ!?んんっ、ひゃうううんっ!」
両方の乳首を攻めながら今度は股間に手を伸ばすと、そこはクチュッて音がするくらいに濡れていた。
「あんっ、慎介っ、そんなっ、やんっ、激しいいいいっ……!」
ジュクジュクと、わざと音を立てるようにしてさくらのアソコの中を指でかき回す。
入り口の近くを指先で引っかけたかと思うと、根元近くまで指を突っ込んでぐるんと回転させる。
その、ひとつひとつの動きにさくらの体がビクッと跳ねて、俺を抱く腕に力が入る。
「んっ、はんっ、あっ、慎介っ、慎介っ、しんすけぇええええええっ!」
俺をぎゅっと抱きしめてきて、アソコからブシュッと大量の蜜が溢れてきたかと思うと、さくらの体がブルブルッと震えた。
「はぁ……はああぁ……慎介、すごく巧くなったよね……」
しなだれかかってきたさくらが、絶頂の余韻に喘ぎながら耳許で囁く。
さくらが大きく息をするたびに、俺の体に押しつけられたさくらのおっぱいが揺れていた。
それだけで、勃起しかけていた息子が完全に臨戦態勢に入る。
「じゃあ、いいか?」
「……うん」
抱いたままで囁くと、さくらが小さく頷き返してきた。
そして、いったん体を起こして、さくらは俺の足を跨いで腰を浮かせた。
そのまま、アソコの入り口にチンポが当たるように調節してからゆっくりと腰を沈めてくる。
「んっ……あんっ、あふぅううううううううううっ!」
窮屈だけど、熱くて柔らかな感触にチンポが包まれていく。
それだけで、思わず腰が震えるくらいに気持ちいい。
さくらも、俺に抱きついたままヒクヒクと体を震わせていた。
「……もしかして、入れただけでイッたのか?」
「うん……慎介のおちんちん気持ちよくてっ、我慢できなかった……」
「だめじゃんか。おまえ、精気を吸う前に自分が先にイッちゃってさ」
俺がからかうと、さくらはフニャッと蕩けた笑みを浮かべる。
吸精モードに入っているさくらの口から飛び出た、尖った牙の先がきらっと光った。
「うん、でも、あたしがイッた瞬間にちょっと精気が漏れてきたよ。……慎介も気持ちいいんでしょ?」
「ああ。さくらの中、すっげぇ気持ちいい」
「じゃあ、もっといっぱい気持ちよくなろ。あたし、もっといっぱいイキたい。もっといっぱい慎介のおちんちん感じたいの。……んっ、はうんっ、ふあぁあああっ!んふっ、あっ、はぁあああんっ!」
「ううっ……さくらっ……!」
俺にしがみつきながら、さくらが腰をずんずんと上下させはじめた。
肌に触れるさくらの体の柔らかな感触がゆさゆさと揺れて、喘ぎ声の合間にきゅっと息継ぎをする音が耳を掠める。
それに、立て続けに軽くイッてるのが、ヒクヒクと震えるアソコの痙攣でわかる。
さくらのアソコが俺のチンポに食らいついて、締めつけながら小さく震える刺激ときたら、あまりの快感に頭の奥がじんじん痺れてきそうだ。
「あんっ、はうっ、んふうっ、あああああっ!むふぅんっ、はっ、ふあぁああああっ!」
「うおっ……さくらっ、さくらっ!」
「ふあっ、慎介っ、慎介っ!んっ、あふっ、あうんっ、んふぅううううっ!」
体を密着させて、お互いの名前を呼びながら夢中になってチンポとアソコをぶつけ合う。
さっきから目の前がフラッシュしてきて、クラクラしてきてるのは少しずつだけどさくらに精気を吸われているからだろう。
とにかく、気持ちよかった。
この快感を、ずっと感じていたかった。
だけど、あまりに気持ちよすぎて、そう長くは保ちそうにない。
「……ううっ!さっ、さくらっ、俺っ、もうっ!」
「いいよっ、出してっ!慎介の熱いのっ、いっぱいちょうだいっ!」
「うおおおっ!さくらっ!」
「はぅううんっ!あんっ、しんすけぇええええええええっ!」
さくらの熱い熱いアソコの中に、さらに熱い精液をぶちまける。
ほぼ同時にイッて、ぎゅっと抱きしめ合ったまま全身の筋肉が引き攣ったみたいにビクビク震える。
同時に、俺の体から急速に力が抜けていくような、意識が遠のくような感覚。
さくらに精気を吸われていると実感できる瞬間だ。
少しの間そうやって抱き合ったまま、喘ぎながら呼吸を整える。
「ふぅ、ふぅ……しんすけぇ……」
「はぁ、はぁ……さくら……」
まだ、荒く息をしながら見つめ合う。
と、次の瞬間、さくらの目がギラッと光った。
「……うっ!?……さ、さくら?」
たちまち、体の自由が利かなくなった。
それだけじゃなくて、まだ繋がったままのさくらのアソコの中で、チンポがギンギンに勃起していく。
そして、さくらが俺の体を押し倒すと馬乗りになった。
「もっと、もっとよ、慎介!」
「ううっ……!さくらっ……!?」
さくらが腰をくねらせはじめると、ズキズキするほどの快感が脳天まで突き抜けていく。
「んっ、あんっ、慎介っ、愛してるよっ、しんすけぇえええっ!」
「うおっ……!?はうっ、ううっ、さくらっ!」
俺の上に跨がったまま腰を揺らす、さくらのギラギラ光る目が俺をを見つめる。
その目を見ていると、異常なほどの興奮を覚えて、否応なくチンポをガチガチにさせていく。
まるで、滾りまくった全身の血が下半身に集まっていくみたいに感じる。
頭がぼうっとするほどに熱くなって、目の前で赤や白の光が弾けていく。
「慎介っ!はんっ、あっ、慎介ぇっ!はうんっ、ああっ、んふぅうううっ!」
「あうっ、うあっ、おおっ、うおっ!」
さくらがアソコで締めつけなが、らズンズンと全身を使ってチンポを扱いていく。
自由にならない俺の体を、ただ、チンポへの刺激と突き抜けていくような快感だけが埋め尽くしていく。
そんな、普通じゃない量の快感に体は堪えきれるはずがなかった。
「あんっ、あふぅんっ、はあっ、慎介っ、しんすけぇっ!」
「うおっ、おおっ!?くぅううううううううっ!」
あっけなく俺が射精した瞬間、大きく後ろに体を仰け反らせながらさくらが絶叫した。
「しんすけぇええええっ!あなたのことっ、絶対に忘れないから!」
……俺のことを絶対に忘れないって?
なんだよ?その、別れのセリフみたいな言葉は?
そんな疑問が浮かんだのも一瞬のことだった。
「さく……ら……?」
ドクドクと溢れる射精感と快感の渦に飲まれながら、急速に目の前が真っ暗になっていき、そのまま俺は気を失ってしまった。
* * *
「慎介お兄ちゃん!大変だよっ!起きてっ、起きてったら!」
「……春奈?」
俺を呼ぶ春奈の大きな声に起こされたけど、まだ全身が怠くてクラクラして、全然頭がはっきりしなかった。
「今、何時?ていうか、いつ?」
「朝の10時だよ!日曜日の!」
……ええっと、たしか俺は土曜日の朝、さくらや春奈と遊びに行こうとしてて、そうしたらあの女が現れて……で、そのあとなんやかやでさくらとセックスして……でも、あの時点でたぶんまだお昼くらいだから、20時間以上意識がなかったわけだな。
おお、さくらに精気を吸われて寝ていた新記録じゃないか。
と、その時点ではそんな暢気なことを考えていた。
「……もう……なによ、うるさいわね」
「……ん?」
ベッドの下から声がしたので見てみると、あの女が眠たそうに目を擦りながら体を起こしたところだった。
「おまえ……?」
「……あっ!」
目が合った瞬間、そいつは驚いたような表情を浮かべる。
でもって、俺を見つめたまま顔が真っ赤になっていく。
「やだ……私、なんでこんな……?」
て、なに真っ赤な顔してモジモジしてんだよ?
ええっと、これは……たしか、さくらが……。
いや、そもそも……。
「おまえの名前、なんて言ったっけ?」
「……桃園ファニスリャワよ。そう名乗ったでしょ」
なに傷ついたような顔してんだよ?
そんなに名前を覚えてなかったのがショックだったのか?
つうか、そんな名前一度聞いただけで覚えられるかっての。
「ちょっと!なんであなたがここにいるのよ!?」
そいつ……ええっと、ファニスリャワだったっけ?を見て、春奈がいきなり声を荒げる。
ていうか、目がコワいよ、春奈。
そんなに睨みつけなくても……。
「い、いや、これはさくらがだな……」
なぜ俺が弁解してるのかわからないけど、マジギレモードの春奈にビビッた俺が口を開いた瞬間。
「そうだよ!大変なのよ!さくらお姉ちゃんがねっ!」
「って、さくらがどうかしたのか?」
「昨日あんなことがあって、今日も誰も起きてくる気配がないから心配になって、お母さんに頼んで慎介お兄ちゃんの部屋の鍵を開けて入ってきたのよ」
ああ、それでおまえが俺の部屋の中にいるんだな。
「そしたら、テーブルの上に置き手紙があって!」
「……置き手紙?」
「ほら!これだってば!」
と、春奈が差し出した1枚の紙切れ。
そこには……。
“慎介へ こんな形で出て行っちゃって本当にごめんなさい。でも、やっぱりあたしがいるとみんなに迷惑をかけることになるから、ここにいることはできないよ。あたしは大丈夫だから探さないでね。あたしの願いは、慎介がみんなと幸せになってくれることです。 P.S.美弥子さんと春奈ちゃんへ あたしのわがままで勝手なこと言って申し訳ないけど、慎介のことをよろしくお願いします。 さくら”/p>
と書いてあった。
「って、なんだよっ、これ!?」
「私にもわからないよ!さくらお姉ちゃんが出て行くって、どういうことなの!?」
「だから、俺が訊いてるんだって!」
と、俺と春奈のやりとりを見て、さくらの置き手紙を見たファニスリャワが叫んだ。
「おのれ!あのシュトリーガ、逃げたわね!」
「……はい?」
「自分がシュトリーガだってことがばれたから、あいつはここから逃げ出したのよ!……こうしちゃいられないわ!あいつを追いかけないと!」
「待て!」
「……っ!」
慌てて出て行こうとしたファニスリャワを呼び止める。
「なっ、なによっ!?私は急いでるのよっ!」
「おまえはここにいろっ!さくらには、あいつには手出しをするなっ!」
「な、なに言ってるのよ!いい?あいつはねっ!」
「さくらがなんだろうと関係ねぇ!これは命令だ!さくらには絶対に手を出すな!」
「なんで私があなたの命令を聞かなくちゃ……いけない……のよ……」
きつい口調で言って睨みつけてると、さっきまで威勢の良かったファニスリャワが急にシュンとなった。
「いや……私は別にあなたを怒らせるつもりは……。わかったわよ……ここにいればいいんでしょ」
そう言って、ファニスリャワはその場に座り込む。
たしかにさくらの力は効いてるみたいだけど、素直じゃないな、こいつ。
とにかくだ、さくらのやつ、どこ行ったんだか……。
いや、それよりもこの場にいるみんなにどう説明したもんだか……。
結局、いくら考えてもいい考えは浮かばなかった。
だから、俺はみんなにさくらの正体のことを話すことにした。
たぶん、とりあえずこの場を収めるにはそれが一番ましなように思えた。
「……春奈」
「え?なに?」
「ちょっと、美弥子さんを呼んできてくれないか?」
「お母さんを?」
「ああ……さくらのことで、ふたりに大事な話があるんだ」
「……うん、わかった」
春奈が呼びに行って、すぐに美弥子さんが俺の部屋にやって来た。
たぶん、春奈から話は聞いていたんだろう。
ファニスリャワの方を見る。
だけど、春奈のように睨みつけたりはしない。
「美弥子さん、春奈も座ってくれるかな?」
「ええ」
「うん」
「おまえも、ちょっとこっちに来てくれ」
「……私も?」
美弥子さんと春奈を座らせ、少し離れて座り込んでいたファニスリャワに手招きする。
そして、輪になって座ると俺は話を切り出した。
「美弥子さん、春奈……実は、さくらは俺の妹じゃないんだ」
「……慎介くん?」
「ええっ!?そうだったの!?」
俺たちが兄妹だって信じていたふたりは、さくらが俺の妹じゃないと聞いて驚きの声を上げる。
だけど、続く俺の言葉には……。
「実はな、さくらは吸血鬼なんだ」
「慎介くん、こんなときにふざけたらだめよ。さくらちゃんが吸血鬼だなんて出来の悪い冗談だわ」
あれ?
もしかして美弥子さん怒ってる?
話し方はそうでもないけど、なんか視線が痛いんだけど……。
「慎介お兄ちゃんまでそんなこと言うのっ!?昨日この人も言ってたけど、いったいどういうことなのよ!?」
春奈は春奈で、相変わらず混乱した様子でもどかしそうに大きな声をあげる。
それに俺が答えるより先に、ファニスリャワが割り込んできた。
「だから言ったでしょ!あいつはシュトリーガっていう吸血鬼なのよ!……て、ええっ?じゃあ、あなた、そのことを知っててあいつと!?」
……て、気づくの遅くね?
俺がさくらの正体を知っていてあいつと一緒にいたことにはじめて気がついたのか、ファニスリャワは俺を指さして目を丸くしている。
「いっ、いったいどういうことなのよ……?」
「だから、それをこれから話そうとしたらおまえが割り込んできたんじゃないか。じゃあ、みんなちょっと黙って俺の話を聞いてくれ。……俺がさくらと会ったのは、この春のことだったんだ」
みんなの前で、俺はさくらと出会ってからのことを話しはじめる。
俺の部屋の前であいつが行き倒れになっていたこと、助けてみたらそのまま精気を吸われて意識を失ったこと、だけどあいつのことを放っておけなくて俺の精気を吸わせてやって一緒に暮らしはじめたこと……。
ただし、さくらの眼の力のことと、それを使って美弥子さんと春奈にしたことは伏せて。
どうやらファニスリャワもさくらの力のことは知らないみたいだし、そこは話さない方がいいと思った。
「……でさ、さくらの精気の吸い方ってのが、相手とセックスすることなんだ」
「セックスって……ええっ!?それじゃ?」
「まあ?それじゃ慎介くんとさくらちゃんがうちに来たのって、もしかして……」
「うん。さくらが、俺の精気だけ吸ってると俺の体が保たないからって。だけど、さくらは人間の精気を吸わなければ生きていけないから、だからふたりに少しずつ精気を分けてもらってたんだ。ふたりには今まで黙っててごめん。こんな、ふたりを騙すようなことをしてしまって本当にごめん」
驚いている春奈と、どこか納得した様子の美弥子さんに向かって、俺は頭を下げる。
「そんな……慎介お兄ちゃんがそんなに謝ることなんてないよ」
「そうよね。そうだったのなら、最初から本当のことを言ってくれたら良かったのよ」
と、美弥子さんはそう言うけど、そんなことを正直に言えるわけがない。
というか、そもそも俺たちの関係はさくらの力がなかったら成り立たないものなんだから。
もちろん、ふたりはそんなことを知っているはずがないから、春奈もうんうんと頷いている。
「そうだよね、最初からそう言ってくれたら良かったのよね」
「さくらちゃんが生きていくのに私たちの精気が必要なら、いくらでも分けてあげたのに」
「ありがとう、春奈、美弥子さんも……。ふたりとも、さくらのこと赦してくれるんだね?」
「赦すもなにも、私たちは家族じゃない。それは、さくらちゃんが慎介くんの妹じゃなかったのには少し驚いたけど、それでも、ふたりが私たちの家族なのに変わりはないわ」
「そうそう、お母さんの言うとおりだよ」
そう言って、美弥子さんと春奈が優しく笑う。
でも、それはさくらが力を使ってそう思わせたからなんだけどな……。
さくらの力が効いているふたりには、それ以外の回答は出てこないのかもしれない。
だけど、続けて美弥子さんがしみじみと口にしたことにはちょっと驚いた。
「それに、さくらちゃんは慎介くんと春奈が学校に行ってる間、私が洗濯物を干したり家の掃除をするのを手伝ってくれてたのよ。それこそ、本当にうちの子みたいに」
「さくらが、そんなことを……?」
「私もさくらお姉ちゃんには本当によくしてもらったよ。この間、私の誕生日だったでしょ。晩ご飯の時にみんなでお祝いしてくれたよね。それでね、慎介お兄ちゃんは大学から帰るのが遅かったから知らないと思うけど、次の日さくらお姉ちゃんが1日遅れだけどって言って、前に私が雑誌を見てていいなぁ、行ってみたいなぁって言ってたカフェに連れてってくれてケーキご馳走してくれて、誕生日プレゼントもくれたの。私、ひとりっ子だし、お兄ちゃんやお姉ちゃんにそういうことしてもらうのずっと憧れてたから本当に嬉しかった。だから私にとっては、さくらお姉ちゃんは本当のお姉ちゃんなの」
「そうよね。さくらちゃん、本当に私たちといるのが楽しそうで、いろいろ手伝ったりしてくれたものね。だから、慎介くんと同じように、間違いなくさくらちゃんも私たちの家族なのよ」
さくらのやつ……俺の知らないところで美弥子さんや春奈にそんなことしてたんだな……。
あいつなりの罪滅ぼしのつもりだったのか、それとも、ふたりのことを本当に家族みたいに思ってたからなのかわからないけど、あいつらしいといえばあいつらしいよな。
「ありがとう……ふたりとも、本当にありがとう……」
あれ?
俺、もしかして泣いちゃってる?
だめだ……涙が止まらない。
美弥子さんと春奈が明かしたさくらの話に、改めてあいつの優しさを思い知らされる。
それに、美弥子さんと春奈の優しさも。
ふたりにさくらのことをこんな風に言ってもらうと、涙が溢れてきて止まらなくなる。
だけど、俺以上にショックを受けてる様子のやつがひとりいた。
「そんな……シュトリーガは、非情で凶悪な吸血鬼で……人間の精気を吸い尽くして殺しちゃう怖ろしいやつらだって、お祖母ちゃんはそう言ってたのに……」
「たしかに、あいつの一族は向こうじゃそう言われてるのかもしれないし、実際そうなんだろうってさくら自身も言ってた。だけど、あいつはそうじゃないんだ。本当に優しいやつなんだよ」
「そんな……そんなことって……」
「実際、あいつは俺の体のことを心配して、なかなか精気を吸おうとしなかった。長いときには10日も2週間も、自分が腹減ってるのを我慢して精気を吸わなかったんだ」
「そんな、まさか……」
「あいつはそういういうやつなんだよ。美弥子さんや春奈の精気を吸うようになってからも、ふたりの体に気を遣って、間隔を空けるようにしてたくらいだから」
「あら、そういえばそうよね」
「よく考えたら、さくらお姉ちゃんと続けてエッチしたことってないよね……」
俺の話に、美弥子さんと春奈は納得したみたいだった。
「あの程度じゃ、まだまださくらが満腹になるには充分じゃなかったかもしれない。だけど、さくらは俺たちのことを心配してそれ以上は求めようとはしなかった。おまえの言うような吸血鬼とは違うんだよ、あいつは」
「そんな……そんな……」
最初の威勢の良さはどこへやら、俺たちの話を聞いて、ファニスリャワは呆然としたまま視線を宙に泳がせている。
昨日はむかつくやつだと思ったけど、単にバカなだけで、そこまで悪いやつじゃないのかもしれない。
「だけど慎介くん、さくらちゃんのこと、どうするの?」
「もちろん放っておくわけにいかないし、探しに行かないと」
「でも、さくらちゃんの行きそうなところのあてでもあるの?」
「いえ……なにしろ、うちの前で行き倒れてたし、それまでどこでなにをしてたか訊いてないから。でも、あいつは人の精気を吸わなきゃ生きていけないんだから、とにかく人の集まる場所を中心に探すしかないです」
「そうね。みんなで手分けしてさくらちゃんを探すしかないわよね」
「慎介お兄ちゃん!私も手伝うわ!」
「うん、ありがとう、美弥子さん、春奈」
俺を励ますような美弥子さんと春奈の言葉に、また涙が出そうになる。
本当にこれで良かったのかどうかはわからないけど、さくらの正体のことを話したことで少しは気が軽くなった。
ファニスリャワにもさくらのことは伝わったみたいだし。
とにかく、今はさくらを探し出すことが最優先だ。
……だけど、さくらはなかなか見つからなかった。
< 続く >