不思議なカメラと悩めるぼくら 第3話

第3話 ダウン・ザ・ラビットホール

『――というわけでお兄ちゃん。「マキちゃん先生奴隷化事件」のプロットを、最初から説明するよ』

 次の日の休み時間。

 授業中にブーブーとマナーモードを使って『作戦会議』の開催を告げたスマホにチョップして、その後、僕(とKARIN)は屋上前の物置スペースに避難してきた。

 ちなみに一晩かけて練ったというKARINの作戦は、練り込みすぎて小説になってしまったらしい。

 カリンは、日記を書き始めると、3日目くらいからポエムやマンガになるタイプだった。

『まず、この物語の主人公である卑劣で陰湿な犯人の目的とは、美しい副担任のマキちゃん先生のかわいそうな悩みを解決してやり、ぬか喜びさせてからの性奴隷堕ちだった。そこはいいよね?』

「あぁ、うん。やっぱりKARINも僕たちが卑劣なことしているっていう認識はあったみたいで、そこは安心したし、逆にちょっとショックでもあるけど、それでいいよ」

『そこで犯人は、自分んちの無垢で純粋な妹の素直さを利用して、一緒に先生を誑かすことにした。起承転結でいうところの“起”がここまでだよ』

「あぁ、その妹の性格設定はツッコミどころかもしれないけど、まだ“起”だっていうなら、この先もっとツッコむ機会があるんだろうしね。正直、歯がゆい気持ちだけど今はおとなしく続きを聞くよ」

『でも犯人はゲイだった』

「怒濤の展開だな!」

『なのに妹を抱いてしまった』

「怒濤の転落だよ!」

『ツッコミも下手だった』

「余計なお世話だよ!」

 僕がKARINの頭をバシバシとタップするたび、画面に「5P」とか「10P」などのツッコミポイントが加算されていく。

 タイミングが結構シビアだ。素早いだけじゃダメなんだな。

「って、余計な機能を付け足すなっ。そういう遊びはいらないんだよ!」

『面白ーい!』

 頭に「ノリツッコミ50P!」の文字を浮かべて、KARINはケラケラ笑う。

 コイツ、一晩かけて遊んでたんじゃないだろうな。

『冗談だよ、お兄ちゃん。KARINはちゃんと作戦は立てました。ストーリーについては後で電子書籍版を購入してもらうとして、取り急ぎ攻略部分についてだけ説明しちゃうね』

「どういうルートで出品したんだ、それ。買わないよそんなの」

『まずはね、お兄ちゃんがやったみたいに、撮影モデルになってもらって好感度上げてくのはアリだと思ったの。いきなりヌードはやめた方がいいけど』

「まあ、確かにいきなりは失敗だったな……」

『KARIN、小説にしてみてわかったけど、即脱がせちゃう展開って盛り上がりに欠けるんだよね。最初は着衣。でも撮影が進むにつれて生徒に求められるまま脱がされてしまう女教師。恥ずかしいのに、どうして体は従ってしまうのかしらっていう感じのほうが、文章にしてみると萌えるんだー』

「よし、電子書籍版買うぞ。いくらだ? もうDL出来るの?」

『18禁だから、あと2年しないとお兄ちゃんには買えないよ。子どもに読ませる内容じゃないもん』

「書いたお前は15才だろ!」

 バシ!(10P)

『でね、とりあえずまたお兄ちゃんには放課後にマキちゃん先生を誘って欲しいの。で、モデル撮影に協力してもらおう。いきなりエッチなことはダメだよ。先生だって処女なんだからね』

「えっ!?」

『お兄ちゃん、先生に聞いてなかったんでしょ? KARINが代わりにいろいろ聞いておいたよ。先生は今までに男の人と付き合ったことないんだって。交際を申し込まれた回数だけならKARINも1人の女性として嫉妬を禁じ得ないほどあるみたいだけど、どうしていいかわからないから全部お断りしてたみたい。だからまだバージンなんだよ』

「ちょ、ちょっと待って、それだと……え、本当に……?」

 先生は大人だし美人だし超スタイルいいから、当然経験はあるものだと思っていた。だからこそ、初めての人になってもらおうと思ったんだけど。

 まさか、そこまで天然無垢な女性だったとは……。

 なんだか、余計にこんな話を勝手に進めていいのかなって気になるんだけど。

『心配しなくてもいいよ。先生の方から、お兄ちゃんを初めての男の人に選んでもらうから』

「選んでもらう?」

『うん。先生にはお兄ちゃんにちゃんと恋をしてもらう。そして、お兄ちゃんにも先生に恋をしてもらう。両想いの2人が結ばれるんなら、幸せだよね?』

「ちょ、ちょっと待て。僕も?」

『そうだよ。先生ばっかり恋しちゃったら片想いだよ。お兄ちゃんも同じくらい先生のこと好きにならなきゃ不公平じゃん』

「まさか、僕にも『命令』を?」

 KARINは僕のアイコンを持っている。

 昨日は「そんなことしない」と信じてしまったけど、まさか、KARINはそれを使うのか?

『大丈夫だよ、任せて。KARINは何事もストーリーにして頭に入るタイプだから。ちゃんと2人が恋に落ちる物語は出来ているよ。生徒と教師の間に生まれる感情。戸惑いながらも近づいていく2人の距離。許されざる恋と性が絡み合い結ばれしとき、過去は解放され未来が動きだす!』

「はぁ」

『そして、幸せを目前にした2人の前に、嫉妬に狂った妹が立ちふさがり衝撃の結末へとッ!』

「お前がラスボスかよ」

 バシ!(5P)

「まったく……まあ、わかったよ。ようするに僕は放課後に先生をモデルに写真撮影をすると。とりあえずそこからやってみるよ」

『なんだかテンション低いなぁ』

「お前の話を聞いてたら、そういう気分になるんだよ。でもやるよ。KARINは僕のためにいろいろ考えてくれてるんだもんな。行動するのは僕の役目だ」

『お兄ちゃん、かっこい~!』

 “ここに”“タッチして!”と書かれた両手をヒラヒラさせて僕を讃えるKARINに、人さし指と中指で応える。

 でも、そっか。マキちゃん先生は処女だったのか。

 別にそういうのにこだわりとかないつもりだけど、なんだか変に嬉しい気持ちと、そして……余計に膨らんでいく罪悪感があった。

『お兄ちゃんの罪悪感って、股間にあるんだね?』

「あぁ、うん。すごい膨張してるよな」

 先生の明るい笑顔が思い浮かぶ。

 好きか嫌いか、なんて考えるまでもなく先生のことは好きだ。彼女の処女をもらえる男になれれば、そりゃ嬉しいに決まってる。

 でも、恋とかどうとか言われると、ハッキリわからない気持ちなのが正直なところだ。

 男としての興奮はKARINに指摘されるまでもなく自覚してるんだけど、はたしてこの欲望のままに先生を求めていいものなのかどうかは――。

 KARINが、ジーっとこっちを睨んでいた。

 僕は、ハッとして画面をタップした。

「下ネタかよ!」

『遅い!』

 頭に「-20P」と表示したKARINに、なぜか僕は怒られる。

「そっか、うん、服を着たままの方が先生もやりやすいかな。ここに座ればいいの?」

「はい。お願いします」

 放課後、マキちゃん先生に再びモデルを依頼して快諾してもらった。

 写真部にはコダマ先輩がいたので、「校内撮影に行ってきます」と言い(先輩にウソをつくのは胸が痛んだ)、教室で先生を撮影させてもらうことにした。

 もちろん、教室だからいつ誰が入ってくるかわからない。だけど、それはKARINが『任せて』と言った。

『教室の中を、ドアの外から撮影して。KARINがステージに加工するから』

 撮影した教室を『背景』フォルダに収納し、『ステージ』として使用できるように『登録』して『加工』する。

 そしてKARINは、自分の『背景』を『教室』に変更した。白い壁でしかなかった空間が、僕らの普段使ってる教室へと変わる。そしてKARINは、『僕』と『マキちゃん先生』のファイルを後ろの背景に放り投げ、教室の中に配置した。

 一瞬、目の前の光景にノイズが走った気がした。

 椅子に座って僕の撮影準備(実際はスマホにコソコソ話しかけているだけ)を待ってるマキちゃん先生も、目をぱちくりさせた。

 でもそれだけだった。特に何も変化はないように思えるんだけど。

『これで大丈夫。お兄ちゃんとマキちゃん先生は、『Mindshot』の作った別空間にスリップしたんだよ。ただし教室の中だけ。ここなら誰にも見つかる心配はないよ』

「……別空間?」

 さっきとどこも変わった様子はない。廊下を歩いている人影は見えないけど、遠くで部活をやっている音は聞こえている。学校の中にいるとしか思えないけど。

『元の空間と位置を重ねているからね。空間の外に響いている音が反響してお兄ちゃんたちに聞こえているんだよ。逆にこっちの音は消音しているから大丈夫、外には漏れないよ。この設定はそのうち羞恥プレイとかで使えるかもしれないから覚えておいてね、お兄ちゃん』

「お、おう」

 KARINは人工知能で妹のカリンじゃない。そうと頭ではわかっていても、真顔で応用プレイについてアドバイスされるのは変な気持ちだった。「羞恥プレイktkr」とか「マニアック大草原」とか、ニコ動っぽい字幕が流れているのも嫌な感じだった。

『ちなみに、カリンはそういうSMっぽいの嫌で、優しく可愛がって欲しい派だから、それも覚えておいてね、お兄ちゃん?』

「妹の超プライバシーをついでのように語るのはやめろ。しかもそのアドバイスを実の兄に聞かせるメリットはないぞ」

 

 モジモジと恥じらうKARINにこっちまで恥ずかしくなる。

 ダメだ。KARINのペースに乗っているといつまで経っても話が進まない。

 僕は用意していたイヤホンを片方だけ耳にはめ、ジャックをスマホに突き刺した。

『あぁん!』

「変な声を出すな!」

『だ、だっていきなりお兄ちゃんが固いものを挿すから、びっくりしちゃって。優しくしてって言ってるのに、お兄ちゃんは狼だよ……』

 これから始まるエッチな展開に若干興奮気味らしいKARINのことは無視して、スマホを胸ポケットにしまい、音声だけでやりとりすることにする。

 そしてカメラを構えた。

 緊張して手が震える。今日はマキちゃん先生も服を着ているんだからそんなに怯える必要はないんだけど。

 でも、改めて二人きりの撮影会であることを意識すると、どうしても固くなる。

 しっかりしろよ、僕。写真部員だろ。カメラマンが緊張してどうする。写真にはちゃんと被写体とカメラマンの関係も写るんだぞ(コダマ先輩の教え第35条)

 先生にリラックスしてもらって、いい表情を引き出させなきゃ。

「そ、それじゃ先生、まずは写り具合を確認するのに2、3枚撮らせてもらいますから、楽にしててください」

 絞りや露出をカンで調整して、そして深呼吸をする。我ながらぎこちない笑顔で先生にカメラを向け、1枚シャッターを切る。

 先生は――、ポォッとした顔でこちらを見ていた。

「……先生?」

「え、あ、は、はい!」

 マキちゃん先生は、夢でも見ていたみたいにビクッと反応して、首を振った。

「えっと、ごめん。そうやってカメラを構える君って、なんだか、本職の人っぽいなぁって思って……あはは」

「そ、そうですか?」

 先生はパタパタ手を振ってほっぺたを赤くする。

 プロっぽいといわれるのは照れくさいけど、どこにでもあるデジイチ(中身はどこにもないスペシャルなカメラだけど)を持ってるだけで、どう見ても僕は童顔の高校生だと思うけど。

『――KARINがこっそり条件付けをしてみました』

 イヤホンの中で、KARINがぽそぽそと囁きかけてくる。

『そのカメラのレンズ内に先生が入ると、先生は、お兄ちゃんの手の中に自分を抱っこされた気分になる。つまり、カメラみたいに、お兄ちゃんに大事に、優しく、そして好き勝手に扱われている自分を無意識に連想しちゃう。女の子なら誰でもキュンキュンしちゃうシチュエーションだよ』

「そ……そうなんだ」

 僕はもう一度、先生の姿をレンズに映す。先生は……こくっと喉を鳴らして、身じろぎをした。

 緊張しているけど、集中している。レンズを熱く見つめて。つまり僕を見つめて。

 ピントを絞ると、先生はまるで自分が撫でられたみたいに、ぷるっと体を震わせた。

 シャッターを切る。先生のまぶたがぴくぴくっと動いた。もう一度切る。おそらく無意識に、先生の上体がやや前のめりになる。僕に呼ばれたみたいに。

 僕は一歩前に踏み出す。先生は唇を緩く開いて、切なそうにレンズを見上げる。その表情を撮る。先生の瞳が潤む。唇が濡れて光ってる。

 じっとしていられない。角度を変え、距離を近づけ、僕はマキちゃん先生を撮るのに夢中になる。

「すごいね、篠原くん……大人のカメラマンみたいだよ」

 ムズムズする。先生の表情。かすれた声。

 ただ座っているだけなのに、どうしてこう色っぽいんだ。どんなの食べたらこんな色気が出るんだ。これだけの色気を発揮するのに、いったい1時間に何キロカロリー消費しているんだ。僕のお弁当も食べてくださいって感じだ。

 どんどん先生のことが知りたくなる。レンズを通しているいるせいか、余計に生々しく彼女の魅力が迫ってくる。

『お兄ちゃん、そろそろマキちゃん先生に脱いでもらおうよ』

「そ、それは無理」

 斜め上から見下ろす僕のレンズを、先生は白い喉元を晒すようにして見上げている。とろんと蕩けそうな顔で。やや前に突き出た上体は豊かすぎる胸をさらに強調していた。椅子の上でつぶれたお尻がスーツスカートにぴっちりとラインを浮かべていた。

 そんな彼女に脱げって?

 もう十分すぎるくらいいただいたよ、大人の色気。腹ぁいっぱいだ。

「ね、ねえ、教室、暑くない?」

「え……そ、そうですか?」

 先生は、ブラウスの襟元を広げるようにして、僕を見上げた。

 確かに上気した顔は、撮影の恥ずかしさというより、体から発してる高熱のように見える。

「うん……暑いなぁ」

 床に視線を落として、物言いたげに先生はスーツの襟元を指でなぞる。僕もなんだか、誘われてるような気分になって、心臓がドキドキする。

『お兄ちゃん、言って。上着を脱いでって』

 僕がそう言うのを先生も待っているんだと、僕も思った。

 そしてそれを言うのが、カメラマンの仕事だと。

「……先生、上着を脱いでください」

「うん」

 先生の口元が微かに緩んで、急ぐようにスーツの上着を脱いでしまった。

 白いブラウスに、黒のキャミソールが透けている。僕は受け取った上着を近くの机の上に軽くたたんで、そして、とても恵まれた先生のスタイルをあらためて確認した。

 細いウエスト。細い腕。細く白い首。華奢にも見えるボディラインに、よくそんなの乗せてられるなと思わせる大きな胸。ブラウスのその部分をきれいな球形に盛り上げるそれは、服を一枚減らしただけで急激に攻撃力を増した。そして、ムッと教室が温度を上げたような気がした。

『お兄ちゃん……ここからは、心の弱いやつから落ちていくよ。気をつけて』

 ゴクリとKARINも喉を鳴らした。僕もこないだみたいに失神などという無様な真似はしないよう、心を強く締め付けた。

 ていうか、どうして先生の体はこんなに火照ってるんだ。絶対にKARINが何かしたに決まっている。

『それはもちろん、お兄ちゃんがシャッターを切るたびに先生の性感帯がフェザータッチされるようにKARINが細工してるからだよ。彼女には一瞬たりとも心安らぐ隙を与えないよ』

「ひょっとして僕らの先祖に、異端審問官とかやってた人でもいたのか?」

 心と体を追い詰めすぎだろ篠原兄妹。

 先生は、シャッターを待ち焦がれるような視線で僕を見つめている。

 やばいでしょ、生徒にそんな顔したら。こっちまで熱くなるよ…ッ!

『いい、お兄ちゃん? 今日のところはお触りなしだよ。あくまで撮影だけ。目的は親睦を深めることだからね』

 親睦?

 僕のマキちゃん先生への好感度ならすでにMAXだ。好感度というより興奮度。正直、ここまで「触りたい、抱きたい」という欲求を女性に抱いたことはないんだけど。

 カシャ。

 僕はシャッターを切った。先生は「んっ」と小さな声を出した。

 性感帯への刺激。それがどんな感じなのかは僕も知らない。でも先生の視線と気持ちは僕のカメラに吸い付けられている。まるでこのカメラに写してもらえるなら何でもするっていう感じで。

「んっ、んっ」

 連続してシャッターを切る。そして、背もたれに体を預けて、軽く仰け反るようにポーズを要求する。

「……こう?」

 先生は僕の言うとおりにしてくれた。ブラウスがぴったり体に張り付いて胸がますます強調される。それを僕に向かって突き出すような格好。

 教師が生徒に見せるようなポーズじゃないのに。

「あっ!」

 なのに先生は、僕がシャッターを切ると切なそうに声を上げた。惚けたようにあらぬ方向へ視線を向けている。僕のレンズが、自分の胸を中心にズームされていることに気づいているはずなのに、その激しく上下しているきれいなおっぱいを、無防備に突き出している。

「はぅん、あっ!」

 ビクビクっと先生の体が震える。

 なんだこの美人女教師放課後の淫撮レッスンは。

 まるで僕までAVの世界へ入り込んでしまったような、非現実感で目がくらむ。

「先生、まだ暑いですか?」

「うん……暑い……すごく、熱いよ……」

「……じゃ、じゃあ、脱ぎましょうか?」

 先生は、コクリと頷くと、ベルトに手をかけた。

 あぁ、すごい。本当に脱ぐんだ。ヌードもありなんだ。こないだの僕の『命令』は生きている。

 しかも、前はあんなにぎこちなく恥ずかしがるばかりだった僕らとは、明らかに今の空気は違う。

 先生のスーツパンツから覗く白い下着。するすると下げられてあらわになる白い太もも。真っ赤な顔をして、それでも僕の前で脱ぐことをためらわない先生。

 まるで僕を挑発しているみたいだった。

「あん、ダメっ、脱いでるとこ撮っちゃ、だめっ」

 僕はたまらずシャッターを切った。スーツパンツに手をかけたまま先生は悶えた。椅子から転げ落ちそうな体を僕は撮る。容赦なく撮る。

「はぁッ、んっ、んっ!」

 ころりと先生は床に落ちて、お尻を僕に突き出すような格好になる。目がつぶれる。真っ白で大きなお尻が小さな下着に包まれ、目の前にドンと置かれた。ほとんど無意識にシャッターを切っていた。

「だめぇッ、お尻は……!」

 なんだこの凄まじく色っぽい物体は? 先生のスタンドか?

 パッツンパツンに肌に密着した下着が、その中のお肉の形をくっきりと浮き上がらせている。もちっとした白いお尻。その谷間。お尻の下で、さらに小さくぷっくりと膨らんでいる女性特有の何か。

 すさまじい攻撃力で僕の脳みそをぐずぐずにする。僕はもう、その光景を焼き付けることしかできない。下品な想像しかできない。強烈な色気に身も心も燃え上がる。

 膝下まで下がったスーツパンツのだらしなさ。丸まった体のきれいな肌の張り。突き出たお尻。真っ赤な背中。シワのよったブラウスと、その背中に透けて見えるキャミソールのリアル感。

 お尻をアップで。恥ずかしそうな顔を入れて横から。そして教室でお尻を出してるみっともない全身を真上から。

 シャッターを切るたびに先生が「あんっ、あんっ」と可愛く色っぽい声を上げ、びくっ、びくっと、お尻を叩かれてるみたいに震わせてる。

 このまま下着をずり下ろしてのし掛かりたいという欲望に陥りかけ、必死に踏みとどまった。自分にそんなケダモノっぽい想像が出来るなんて驚きだ。

 でも、誰でもそう思うだろう。あのマキちゃん先生が、パンツ丸出しにして、お尻をこっちに突き出して「あんあん」言ってるんだぞ。

 

「はぁ……はぁ……」

 くったりした先生の耳元にしゃがみ、僕はゴクリと喉を鳴らす。

「暑いですよね、先生……?」

 先生は、半分意識が飛んでるような表情で、コクコクと何度も頷いていた。

「脱いで下さい」

「……はい」

 早く、と言いかけた言葉を何とか飲み込む。

 先生はモタモタとした指でブラウスのボタンを外していく。

 僕も体がカッカと熱くてネクタイを緩めた。

 しゅるり。先生のブラウスが落ちて、黒いキャミソール姿になる。

 白い下着。黒いキャミ。グラマラスな体にメガネに超美人な顔。

「先生……そのまま、後ろ向きに椅子に膝立ちになってください」

「……はい」

「それで、こっちを振り向いてください」

「こう、ですか?」

 いつか、女優さんの写真集でこういうポーズを見たことある。教室に差し込む自然光。椅子に膝立ち。振り向く背中のライン。

 でも、その写真の女性より先生の方がずっときれいだ。自分の腕の未熟さが心底くやしい。先生は、本当はもっときれいに写る人なのに。

 僕はシャッターを切った。

「あぅんっ、あっ、あっ」

 切った。何度も切った。先生は表情を色っぽく蕩けさせて僕を見つめている。振り返りのポーズでお尻もきれいな背中のラインも、大きく丸いおっぱいの形も美人な横顔もバッチリだ。

 やばすぎる。もう、先生のこと“オンナ”にしか見えない。裸にしてしまいたい。

「先生……キャミソールも脱いでください」

「……はい」

 先生はおとなしく僕の言うことに従ってくれる。

 カメラマンとモデルの関係って、こういうものなのか。僕は先生を完全に操っている。僕が脱げといえばモデルは脱ぐんだ。すごい。興奮する。

 いろんな女の子をこうやって脱がしてやりたい。でも今は目の前の女性の体に集中したい。この最高の体を持つ女性が、僕のために服を脱ぐ姿が見たい。

 両手を交差してキャミソールの裾を持ち上げた先生が、そのまま頭の上までたくし上げる。背中の白さにドキっとした。その細さときれいな肌にときめいた。

 肩紐のないチューブトップの白いブラは、先生の大きな胸を下から支えるようにして、深い谷間を刻んでいる。

 僕は先生に正面を向くようにお願いした。椅子から降りて、床に膝立ちになるように指示をした。床は固くて冷たいかもしれないけど、今の先生を上から見下ろしで撮りたいというアイディアを僕は試さずにいられなかった。

 先生は、「はい」と一言答えて、ためらわずに床に膝をつく。生徒である僕の前で跪くなんて、教師にとっては屈辱的かとも思える構図なんだけど、僕を下から見上げる先生は、どこか恍惚としているようにも見えた。

「はぅ!」

 シャッターを切ると身を震わせ、涙をにじませる。胸元にそっと添えられた手が、球形を寄せ上げて更に強烈な色気をアピールしてくる。あぁ、もう、押し倒したい。

 そして先生も、それを求めているような気がした。童貞の危険な妄想かもしれないけど、誘われてるんじゃないかって。

 KARINはダメだっていうけど、先生はOK出してるんじゃないかな、これって!

『まだダメだよ、お兄ちゃん。「据え膳は腐りかけが一番美味しい」って、海原先生が言ってたよ!』

 海原先生、相変わらず妥協ないな……ッ、僕の股間はもうクッキングパパだというのにッ!

 頭に血が集まりすぎてフラフラする。先生はますますオンナの匂いを増して、僕のシャッターに合わせて体をクネクネさせている。

 太ももを、しきり擦っているように見えるんだけど……おしっこしたいのかな?

 だけど僕は、それよりもぐねぐねと形を変えるおっぱいのことが気になって気になってしかたなかった。

「先生……ブラも外してくれませんか?」

 マキちゃん先生は、うっとりとしていた顔に、一瞬、躊躇いを浮かべる。でも、すぐに僕を濡れた瞳で見上げて、「……はい」と頷いてくれた。

 そして、先生は――ブラを、下から上へとたくし上げたんだ。

「ッ!? ッッ、ッッッ? ッッッ? ッッッッ!?」

『お兄ちゃん、落ち着いて息を吐いて! まず息を吐いて、それから吸う:吐くを、1:2の割合で続けるんだよ!』

 僕はたぶん何か叫んだつもりなんだけど、もはや声すらも出なくて、引きつけのように喉を震わせ、過呼吸症状を起こしていた。

 健康情報に詳しい妹でよかった。彼女がためしてガッテンのマニアじゃなかったら、今度こそ救急車が必要だったかもしれない。それくらい殺人的な光景だった。

 先生はブラをめくっただけ。脱ぐ、というよりおっぱいを見せるための格好である。

 下着という補正をなくしても、なおもぷりんと突き出た形良く丸いおっぱい。その上に乗っている桜色の乳首なんて、「先生はいまだに学生気分なんですか?」と咎めてやりたいほど初々しくかつ若々しい色あいをしていて、これほどの巨乳を披露しているというのに、逆に少女らしさを増したようにも見えた。

 カメラを持つ手がブルブルと震えた。先生は目を逸らして、頬をひたすら赤くしている。放課後の教室で、生徒におっぱいを晒す教師。とんでもなくいやらしい出来事のはずなのに、マキちゃん先生はひたすらに可愛い。奇蹟のような絵だった。カメラをやっててよかった。先生の生徒でよかった。

「……写します」

「んッ!」

 震える手でシャッターボタンを押す。かしゃ、と音が鳴ると先生は顔を歪めて悲鳴を上げた。僕の指は止まらない。今の表情がすごく色っぽかったから。

「と、撮りますよ、先生。もっと、胸を突き出して。おっぱいをカメラに向けて」

「あ、ダメ、やっぱり、撮らないで、あぁっ、ダメ、撮っちゃダメ! 恥ずか、しい…ッ!」

 カシャ、びくっ。カシャ、びくっ。

 僕がシャッターを切るたびに快感に震える先生。ピンと尖った乳首がすごく美味しそうだ。あのおっぱいを両手で揉んだらどれだけ気持ちいいんだろう。あの乳首を指で摘まんだら先生はどんな声を出すんだろう。

 先生は股間に手を挟んで、腕で胸を寄せて僕のシャッターに身悶えしている。この体にぎゅってしがみついたら、どれだけ幸せな気持ちになれるだろう。

『お兄ちゃん。わかってると思うけど、先生には触っちゃダメだよ。撮影だけ。触ったら、その瞬間からお兄ちゃんはハードゲイだかんね?』

 たぶん、先生が一番びっくりすると思うぞ、それ。

 わかってる。それがルールだというのなら我慢してやるさ。僕も先生を抱きたいと今強烈に思ってるけど、だからと言って欲望のまま先生を傷つけるつもりはない。正直、童貞だし、どうしていいかわからないし。

「あぁっ! はぁ! いやぁ、もう、どうして、こんなに気持ちいいの……」

 ただ、童貞だろうが何だろうが、目の前にこれだけ美味しそうな女性の体があれば、後先考えるのやめたい気分にもなるけど。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「先生……」

 ぴくっ、ぴくっ。シャッターを一時休めても先生の体は小刻みに痙攣していた。股間がきつくて、ファスナーを下ろして解放したい欲求を堪えるのもきつかった。

 でも僕は、もっと先生の体が見たい。先生の全てが見たい。

「下も脱いでください、先生」

「……あぁ……」

 すがるような瞳を上げる先生。彼女の最後の理性がその奥で迷っているのが見て取れた。

 でもそれもすぐに消えてしまう。僕のモデルはヌードになること。僕がアプリで彼女に命令した卑怯なルールだ。

「……はい、脱ぎます」

 真面目で可愛くてちょっぴりドジで、そしてまだ男を知らないうぶな先生が、生徒に命令させて全裸になろうとしている。

 ていうか、いつから先生は敬語になってたんだろう?

 その従順な態度、やめてくれ、ゾクゾクする。そんなに「命令してくださいオーラ」を出しながら下着に指をかけないで。僕だって童貞だけど男だよ、先生。

 しゅる、しゅる。

 腰にぴったり張り付いた下着は、とても脱ぎづらそうだ。僕は思い出したようにシャッターを切る。先生が男の前で下着を脱ぐ姿を、連続してカメラに収めていく。

「やっ、やめっ、こんなとこ撮らないで、篠原くん、ダメぇ……」

 ビクビクと先生は震える。でも少しずつ下がっていく白い下着。どうして肌に張り付いているのかようやく気づいた。

 すごい濡れている。

 僕はますます興奮する。

「やだ、撮っちゃダメ……こんなとこ、生徒に見せちゃダメなのに……」

 連写にしたシャッターが先生のきれいな体を捉えていく。先生は電気に痺れたみたいに体を痙攣させる。僕は自分の下着の中で股間が勝手に暴れ出すのを感じる。手を触れてもいないのに、最高の快楽が僕が股間の走る。

 イク。僕はカメラを握ったままイッてしまうんだ。こんなの初めてだ。

 先生、先生、先生。すごくきれいだ、先生。早くあなたの全てを…ッ!

「あ、あ、あ……あぁぁぁああぁあぁ~~ッ!」

 ずるり、と先生の下着が一気に腰を通り抜け、僕のカメラに、大人の証である陰毛と、処女である証のサーモンピンクのきれいな割れ目を見せてくれた。

 そして同時に先生の体が一番大きく跳ねて、びくびくと、痙攣しながら後ろに倒れていった。

 僕も同時に、かがみ込む。下着の中で僕は射精していた。頭の中が真っ白になって、気がついたらもう出ていた。

「先生……」

 乱れる呼吸。朦朧とする頭。濡れた股間の生温かさ。まるで修学旅行から帰ってきた直後のオナニーのように強烈な射精だった。

 横倒れている先生のアソコから、きらきらした液体が垂れている。

 初めて見る女性のアソコ。イッたばかりのせいか、じっくりと観察する余裕があった。充血しているのか、あるいは最初からそういう色なのか僕にはわからないけど、僕が知っているどの画像で見るアソコよりも、先生のそこはきれいだと思った。

 重みを増したように感じるカメラを持ち上げ、僕は微かにヒクヒク震えているその美しい器官に向かって、シャッターを切る。

『いいオカズが出来たねー、お兄ちゃん』

 女の子がオカズ言うな。

 そして、兄の考えてることを読むな。

 ――それから、僕の毎日は変わった。

「え~っと、今日の日直は誰? 号令はー?」

 教室に入ってきて、授業開始の号令がないことに不思議そうな顔をする先生。

「せんせー、数学の授業は次だよ?」

「あっ!? クラス間違っちゃった!」

 相変わらずドジなマキちゃん先生に癒やされる教室。

 先生は、あれからもずっと僕らのアイドル先生だけど。

「こう? 本当にこんなポーズを、しなきゃダメ?」

「はい。そのまま、前に手をついてください」

「んっ、きょ、教師なのに、こんないやらしい格好するなんて……あぁんっ」

 放課後は、僕のエッチなヌードモデルだ。

 パンツ一枚になった先生が、机に手をついてお尻を僕に突き出す。

 あぁ、すごいいやらしいです、先生。秋葉原のアニメショップののぼりみたいです。抱き枕にしたいお尻ナンバーワンです。ステッカーにして父さんの車のボンネットに貼ってやりたいです。

 シャッターを切る。先生のお尻がビクンビクン震える。下に向かって垂れたおっぱいに汗が光る。

 これってもう、男を誘う牝のポーズなんだけど。

 やっぱり僕の初めての相手は先生がいい。この体で童貞を捨てることが出来るのなら、きっとそれは人生で最高の瞬間になると思う。このお尻を向けたポーズの金メダルを作って欲しいと思う。

『ダメだよ、お兄ちゃん。先生に触ったらゲイだよ、ゲイ』

「わかってるよ」

 でも、KARINがそこまで言うなら我慢する。彼女は僕のアバターを持っているし、それに、なんだか妹にがっついてるところ見られたくない気もするし。

 彼女は本物のカリンじゃないのはわかってるし、自分でハーレム作ると言っておいて今さらなんだけど。

「先生。下着を下ろしてください」

「そ、そんな。こんな格好でパンツ下ろしたら……見えちゃう」

「はい。見せてください。先生のお尻の穴」

「……は、い……」

 ヌードになるのが避けられない命令だとしても、それにしても先生は従順すぎると思う。

 服を脱ぎ始めてからはいつも敬語だし、怯えているようにも見えるんだけど、でも、怖がっているというより、一生懸命に服従してるっていう感じだ。

 だから僕も、ついつい無茶な命令をしたくなってしまう。

 先生はこの恥ずかしい格好のまま、下着に指をかける。今日の下着は紫だ。最近の先生の下着がだんだん色っぽくなってる気がするのは、気のせいじゃないはずだ。

 放課後のヌード撮影のためなんだろうな。きっと彼女は、僕のために下着を選んで着てくれている。それって、すごいことだと思う。先生が毎朝、僕に見せるための下着を履くなんて。むしろこれで僕たちがセックスをしない理由が思いつかない。

 KARINめ、いつか見ていろ。勝手に僕のアプリを支配しやがって。最近ますます増長しちゃって、アプリの名前もアイコンも『KARIN』に変えちゃってんだ。どうなってんだよ、これ。そのうち本気で僕のスマホが司られそうで怖い。

 するり。

 先生の下着がお尻を通過する。阿寒湖土産のマリモようかんみたいに、きれいに丸いお尻がぷるんと登場する。

 あぁ、癒やされる。先生のお尻と先生の笑顔は、僕の心のオアシスだった。見てるとこっちまでニコニコしちゃうんだ。

「ストップ。下着はそこに引っかけたままにして」

「は、はい」

 せっかくの色っぽい下着は、お尻のすぐ下、太ももにかけたままで。ゴクリと喉が鳴った。なんて色っぽいお尻なんだろう。僕の股間がますます熱くなる。そしてバーミヤンを思い出してお腹が鳴る。しゃぶりつきたい。

 でも、我慢する。

 我慢して、その腹いせに先生に恥ずかしい命令をする。

「先生。お尻を手で広げて」

「え、そ、そんな。そんなことしたら……」

「先生」

 少しぐらいの無茶な要求でも、強めに言うと先生は逆らわない。毎日の撮影の中でそのことを学んだ。

 先生は、本当に恥ずかしそうにしながら、でも、おずおずと大きなお尻に両手を重ねた。

「は、ずかしい……恥ずかしいです……」

 それでも、ゆっくりと開かれていくお尻。僕は今日も撮影しながら射精してしまうだろう。最近はそのために替えのパンツを持参してきている。

 真っ白な先生のお尻も、その奥の方は茶色くくすんだ色をしている。僕はその更に奥にある器官をハッキリと撮影したことはない。そして今日、ここの撮影をすることで僕は先生の体の全てを写したことになる。

 生徒の僕に、先生の体は研究され尽くされるんだ。かつてない優越感に高揚する。僕は先生の体を知り尽くした男になる。

「あ、あぁ……見られちゃう……篠原くんに、先生の一番恥ずかしいところ……」

 ギュッと皺の寄った穴が、先生の広げた指の間で怯えていた。

 誰かに見つかるなんて思いもしなかったんだろう。排泄のためにある不浄の器官が、初めて晒される他人の視線に、悲鳴を上げるみたいに、ひくっと震えた。

「先生……」

 それでも、僕にはそこを不潔な場所とは思えなかった。一番弱いところを僕に晒してくれた彼女が、むしろとても勇敢な女性で、そして愛おしい人に思えた。

「きれいです、先生」

「あぁっ、いやっ! ウソよ、そんなの…ッ!」

「本当です。写真撮りますよ。いいですね?」

「ダメ! そこは本当にダメ! 許して!」

「許しません。撮ります」

「あぁ…ッ! 篠原くん、いじわる……お願い、許してぇ!」

 でも、真面目な先生は、僕のためにお尻を広げててくれるんだ。

 僕は撮る。晒け出された先生の全てを。彼女の恥を。美しさを。誠意を。いやらしさを。そんな彼女を象徴するアナルだ。

「あぁ! 撮られてる! 私、生徒にお尻の穴を撮られてるぅ!」

 びくっ、びくっ。

 緊張と快楽に先生のお尻は震え、そこを掴む指に力が入った。

 食い込む細い指。乱暴に広げられたお尻。すぼまるアナル。僕はシャッターを連写する。接写する。先生の体を貪るように。アナルをほじくるように。

「ひぃ!? あぁ! やぁ!? 入ってくる! 篠原くんのカメラが! 視線が! 私のお尻の穴にぃ!」

 先生のつま先が痙攣して、ガクガクとお尻が揺れる。僕が「動いちゃダメ」と言えば先生は「はいぃ!」と真面目に答えてくれる。生徒にお尻の穴を撮影させるのに、ここまで協力的な女教師って他にいないだろう。

 大好きな先生だ。毎日こんな撮影続けていれば、僕も先生もお互いのことがいろいろとわかってくる。

 先生が、ヌード撮影に慣れて楽しんでくれていることも知っている。僕にどんな恥ずかしいポーズを要求されても、もう断るつもりはないってこともわかってる。だから、こんなポーズを要求することだって出来るんだ。

 今日も先生はドジをしてみんなに笑われ、ちょっと落ち込み、生徒に励まされ、そしてみんなを励ます笑顔を見せて、授業を教えてくれた。

 いつもどおりの日常と教室。僕と先生の秘密を知るものはいない。

 放課後の先生が、こんなにエッチだっていうことを。

「あぁ! ひん! くる! きちゃう! 篠原くんにお尻撮られて、気持ちよくなっちゃうぅ!」

「先生、僕も! 先生のアナル撮影、気持ちいいです! すごい興奮します! もっと広げて! もっと奥まで! ズームで、ほじくってあげますから!」

「はいっ、広げます! 言われたとおりにします! あぁ! 撮ってぇ! 私の穴、撮ってください! あっ、あっ、あっ、あぁぁぁぁあああぁあぁ~ッ!」

 カシャカシャカシャカシャ。

 連写するシャッター音に刻まれるように、先生のお尻もすごい痙攣をして震えた。

 引っかけたままの下着に染みがジュワッと広がり、僕のその光景に焼かれるように頭が真っ白になり、ズボンの中で達してしまった。

 もう、すっかりこの習慣にハマってしまった。カメラ撮影で先生と同時に達する。それがセックスであるかのように、僕らは毎日レンズ越しに互いの性欲を晒け出しあった。

 性的な満足と、心地よい疲労と、そして満たされない何か。心をくすぐる切なさは行為の後にいつもあったけど。

「ン……ン、ンッ……」

 達したあとの体を、徐々に気だるそうに緩めていく先生の体を撮るのも好きだ。

 シャッターのたびに体に快感が走る先生は、時々抗議のような表情をすることがあったけど、僕に撮られるまま、諦めて体を開いていく。

 そんな先生を見るのも好きだった。セックスのあとの愛撫のつもりで、僕はいつも達したあとの先生の体も撮っていた。

 でも今日は、僕に撮られながら、先生は自分から体を丸め、そしてお尻を上げて、さっきそうしたように、自分の両手でアソコを広げた。

 僕はその光景に息を呑む。

 きれいだ。

 そして、今まで見たどの先生よりもいやらしかった。

「…………」

 先生は、何も言わない。でも、何かを言おうとしていることはレンズ越しに伝わってくる。

 床に這いつくばって、お尻を高く上げ、アソコを広げ、メガネの向こうで瞳を潤ませる先生。

 きっと死ぬほど恥ずかしいのだろう。真横に絞った唇が、泣きそうに震えてる。

 でも、僕がシャッターを切っても、ぴく、とまぶたをしかめるだけ。じっと僕を見つめるのをやめない。

 わかるさ。僕がいくら情けない童貞高校生でも、ここまでストレートに見せてくれるサインを見間違うことなんてない。

 カメラを下ろした。そして、ズボンのベルトに手をかけた。先生は何も言わない。ただ、僕に向かってアソコを広げている。僕を待ってくれている。

『ダメ』

 なのにKARINが、イヤホンを通して僕を止める。だけど僕は、聞こえないふりをした。

『ダメだよ、お兄ちゃん。ルール違反だよ』

 なんでだよ。先生が誘ってるんだ。先生が許してくれてるんだ。邪魔するな。

『今、エッチしたら、それはただのエッチだよ。マキちゃん先生とセックスしただけで終わっちゃう。そんなのKARINは認めない』

 そうだよ、セックスするだけだ。

 僕らは今それがしたいんだ。お互い同じ気持ちなんだ。何がいけないんだよ?

 野獣が……僕が今まで想像して作り上げてきたスケベな欲望が、今、エッチなアイテムと一緒に目の前にあるんだよ。

『お兄ちゃん』

 KARINは語気を強めて僕を呼ぶ。

 僕はそれを無視してベルトを外し、ファスナーを――

『いやだ。KARIN、そんなお兄ちゃんやだよ。女の子に優しくないお兄ちゃんなんて、KARINのお兄ちゃんじゃない!』

 足が止まる。手も止まる。

 KARINなんかにそんなことを言われる筋合いないと思ってるのに、僕には怒ってるカリンの顔までまぶたに浮かぶ。

『お兄ちゃん。どこかでお話しよ?』

 頭から、プシューと湯気が出ていく気がした。

 妹の顔なんて浮かんでしまったら、もう、ゲームオーバーだ。まさかそんなのチラチラさせながら、エッチなことなんて出来るはずない。

「先生」

「……はい?」

「今日は、ここまでにしましょう」

 さぞかし僕は、意気消沈しているように見えたんだろう。

 むしろ、僕の様子を気遣ってくれる先生に申し訳ないと思いながら、僕はKARINのいるスマホを握りしめて屋上へ走った。

「――お前は僕に何をさせたいんだ?」

 みっともないと思いながらも、いらついてる気持ちを隠しようがなかった。

 僕と先生はセックスの合意が出来ていた。そりゃアプリの作った特殊な設定の中でっていうのは承知だけど、それでも、行為を重ねるうちに出来上がった合意だったはずだ。

 ただの、やり捨てのセックスじゃないと思う。問題なんてないと思う。

 だったら、僕はいつになったら先生と――。

『KARINは、お兄ちゃんとの約束を守ってるだけだよ』

「約束?」

『そうだよ。電子妖精型戦闘機KARINは、目標を誤ったことなんてないもん。いつだってお兄ちゃん一途だよ。お兄ちゃんがしたいことを手伝ってるだけだもん』

 ターゲットマークと一緒に浮かんだマキちゃん先生のアイコンが、ピーッと飛んできたKIRINビームに撃墜される。

 僕を手伝う?

 むしろお前に邪魔された性欲がくすぶってるんだけど。

 KARINは、プンとほっぺたを膨らませて、腕を組む。

『じゃあさ、お兄ちゃんはマキちゃん先生のことどうしたいの?』

 どうしたいって?

 そりゃあ、お前だって見てたから知ってるはずじゃないか。

『セックスしたいだけ?』

「セ、セックス言うなって……妹の口から聞きたくないセリフの上位3位以内だぞ、それ」

『言うよ。KARINは多少は気まずい言葉もハッキリ言う子だよ。だからお兄ちゃんもハッキリ答えて。お兄ちゃんは、マキちゃん先生とセックスしたいって思っただけなの? 即ハメボンバーって言いたいだけなの? それがお兄ちゃんの正直な気持ち?』

 あの先生の姿を見れば、誰だってそう思うだろう。それは恥じる事でも何でもなく、ゲイじゃないからそう思うってだけだ。

 でもKARINは「違う、そうじゃない」と言って僕に指を突きつける。彼女の後ろで黒人っぽい日本人が、かっこいいポーズを決めている。

『お兄ちゃん、大事なこと忘れてる。エッチはね―――好きな人同士じゃないとしちゃダメなんだよ!』

 バーン!

 と、効果音をつけてKARINは言い切った。

「……それ確かに基本だな」

『基本だよ。大事なことだよ!』

 今どきの女子高生のわりに純粋すぎる妹の意見に、ちょっとだけ安心した。

 こういうことを大真面目に言い切れちゃうところが、まさしくカリンって感じだった。

『あとお兄ちゃん、覚えてる? KARINはね、お兄ちゃんがマキちゃん先生の悩みを解決したいって言ったから、そっちを一番に考えてるの』

「あぁ、そうだ。僕はそれを忘れるとこだったな……」

 興奮しすぎて頭の中から消えていた。

 僕はここ数日、先生を裸にして写真撮るだけで、仕事について悩んでいることをすっかり置き去りにしていた。

 それで体だけ求めるなんて、僕はなんてことしようとしてたんだ。

 自己嫌悪だよ……

『ま、男の子は多少がっついても良いではないですか。そんぐらい押しが強くなってくれたほうが、KARINの計画的にも助かるしー。うしし』

 頭を抱える僕に、KARINはいつもの朗らかな顔でそんなことを言う。

 なんだかんだで腹を立てても、すぐに落ち込むダメ兄貴をフォローしちゃうあたり、本物のカリンと区別がつかない。

『知ってた? KARINはね、先生に「お兄ちゃんに撮られたら気持ちいい」って条件付けはしたけど、心まではいじってないよ。ヌードモデルとして協力はしてるけど、お兄ちゃんの命令は何でも聞くとか、お兄ちゃんとセックスしたいと思えとか、そんなことは言ってない』

「……あぁ、そうだな。今のところ写真撮影くらいしかしてないし」

『でもその撮影を続けることが大事だったの。2人の気持ちいい共同作業と、カメラマンとモデルの信頼関係。最近の先生、いつも色っぽい下着を履いてるよね。あと2人っきりになったとたん、お兄ちゃんには敬語を使ってる。これ、モデル撮影じゃないときもそうだよね?」

 言われてみれば、そうだった。

 KARINに日常会話も大事だっていうから、授業後に質問とかもするようにしている。マキちゃんは先生はいつも嬉しそうに丁寧に……「はい、何でも聞いてください」と、僕にだけは敬語で答えていた気がする。

 ていうか、KARINが映写機でその時の模様を上映している。

 確かにそうなんだ。モデルとカメラマンの関係が日常的になってきてたから、僕もうっかりスルーしていた。

『2人の関係は順調に熟成されてたの。マキちゃん先生はお兄ちゃんのこと何て言っていた? 「プロみたい」とか「大人みたい」って言ってるよね? これ、マキちゃん先生の理想なんだよ』

「理想? 好きなタイプってこと?」

『そう。大人で、プロ意識の高い人。男性恐怖症気味なのに、理想の男性像もそういういかにも男らしい感じの人なの。マキちゃん先生、じつはずっと初恋を引きずっていることに、自分でも気づいてないだけなんだ』

「初恋って、まさか」

『そう。ゴリラ先生のこと、彼女は今でも愛している』

 KARINのバックで雄々しいゴリラがドラミングしてる。

 最初に話を聞いたとき、僕もじつはそんな気がしていた。

 引きずってるのは、後悔だけじゃないんじゃないかなって。

「でも、それじゃどうする? ゴリラ先生を探して再会させるとか?」

『それはないよ。彼女は自分の感情が恋であることわかってない。というより、恋にしちゃいけないって思ってる。それはゴリラ先生が既婚だとかもあるけど、何より申し訳ないことをしたって気持ちが強すぎるの。罪悪感と尊敬が大きすぎて、教師としての目標にはなっても、男として求める対象にはできないでいる。というより、気持ちにフタしたまま絶対に開かないようにしてる』

「尊敬と罪悪感か……わかる気もする」

 なんとなくコダマ先輩の顔が浮かぶ。

 僕はまだ彼女のことをこのカメラで写していない。

 というよりカメラを手に入れて以来、まともに顔も見れないでいる。

 

『で、ここまで言えばわかるよね? マキちゃん先生はお兄ちゃんのこと尊敬できる人だと思っている。裸も何度も見せて親近感も抱いている。そして何より、お兄ちゃんは気持ちの良いこと教えてくれる人。マキちゃん先生の中ではもうお兄ちゃんはただの生徒じゃなく、男の人になってるよ』

 ドキっとした。

 マキちゃん先生の裸や色っぽい顔。そして、何か言いたげに僕を見つめる潤んだ瞳。

 思い出すだけで心臓がバクバクする。ほっぺたが熱くなる。

『お兄ちゃんは、マキちゃん先生のこと好き?』

 KARINが、画面に顔を寄せて、耳に手のひらを当てる。

 僕は深呼吸して答える。

「好き……だと思う」

 それを口に出したとたんに、あえて整理しないままでいた気持ちが、ゴチャゴチャと先を争うように溢れてくる。

「恋してるっていうのかわからないけど。なんていうか、すっごくあの人が欲しいって思うけど、それだけじゃなくて、僕のいないところでも笑っててくれればいいなっていうか、1人でも幸せになって欲しいっていうか、いや、できれば僕のそばで笑って欲しいんだけど、もっとこう、大っきい幸せで彼女が守られていれば……」

 自分の気持ちを上手く言えない。

 だけど、それで十分だよ、というようにKARINは微笑む。

 いつもの変な画面効果やSEで茶化したりもしなかった。

 コイツは、僕以上に僕の気持ちをわかってしまうところあるから。

 

『マキちゃんには幸せになって欲しいよね。でも、お兄ちゃん以外の人には渡したくないよね?』

「……うん」

『ゴリラ先生にも負けたくない?』

「うん」

『むしろ末永く独り占めする方向?』

「うん」

『じゃあ、マキちゃんを――、ずっとずっと幸せにし続けるって、お兄ちゃん約束できる?』

 女の子を幸せにすること。

 それがKARINのハーレムの条件だ。だからこそのラストクエスチョン。

 彼女の過去を知り、恋を知り、そして教師としての未来を想い、なおかつ彼女の人生を幸せにすることができるのかと。

 ただの高校生には重い質問だ。でもKARINはそれを求める。ハーレムとは、好きな人同士の結びつきの数が増えるだけだと、幼い彼女は考えているのかもしれない。

 そして僕にはそれが出来ると、理由もなく信じているんだ。

 自分が手伝ってあげれば、お兄ちゃんなら出来るんだって。

「幸せにしたい。する。先生の夢を叶えるのは、僕でありたい」

 スマホからファンファーレが鳴り、拍手喝采と紙吹雪が画面を舞った。

『――ようやく言ってくれたね、お兄ちゃん。今、KARINの中で「お兄ちゃんパワー」が満タンになったよ』

「なにその恥ずかしいやつ」

『お兄ちゃんパワーは、妹なら誰でも持ってる心の栄養だよ。「うちのお兄ちゃんカッコイイ」って気持ちがいっぱいになると、妹はすごい力を使うことが出来るんだよ』

「え……KARIN?」

 画面の中のKARINがキラキラと輝いている。

 その輝きがどんどん大きくなって、KARINの全身を纏い始める。スマホのバイブ機能が全開になり、手の中で大きく振動する。

『見ててね、お兄ちゃん……KARIN、お兄ちゃんパワーを使わせてもらうよ。妹はお兄ちゃんのためなら、こんな勇気も出せるんだよってとこ、見せてあげるからね……うぅっ!』

「ど、どうしたんだよ、KARIN? 何が起ころうとしてるんだ?」

 KARINの姿が埋もれてしまうほどの光が画面を覆っている。

 そしてその光を従えるようにKARINは手を叩き、目映い画面効果とともに全身をフラッシュさせた。

『漲ってきた……ッ、電子妖精KARIN、バージョンアップを開始します! 30%……65%……ぐぅぅぅっ、まだまだ! お兄ちゃんのために……負荷限界まで、持ちこたえて私の体ぁぁぁ……ッ』

「お、おい、KARINッ?」

 ビリビリとスマホが振動する。

 画面のフラッシュがKARINの体にまとわりつき、拘束していく。

 苦しげに顔をしかめるKARINはまるで体を引き千切られているみたいで、なんだかこれは―――

『ぬわーーーッ!?』

「え、カリーーーンッ!?』

 一瞬、画面から光が溢れて何も見えなくなった。

 KARINが悲鳴がスピーカーを震わせ、僕は彼女の身に起こった異変に背中を凍らせる。

 いや、ぬわーって。

 絶命するときに叫びたい悲鳴第1位じゃん。

 

「KARIN、いったい……?」

 真っ白になった画面と静寂。

 まるで全機能が停止したみたいな沈黙でスマホ画面が塗りつぶされている。不安になって叩いてみたり擦ってみても画面に変化はない。

 にゅっ。

 やがて画面の下から、伸びてくる長い2本の棒が。

 棒……? ではなく、長いウサギの耳が。

 頭にウサ耳を付け、白いイヤーマフを装備したKARINが、ひょこっと顔を出し、片手を挙げて挨拶していた。

『よっ』

「いや、『よっ』じゃなくて。なにその耳?」

『KARIN、バージョンアップしました。ウサギさん仕様になったよ』

「……ウサギ? あぁ、まあ、耳がね……って、え、なに? それが何?」

「いやいや、よく見て。服も可愛くなったよ」

 確かに学校の制服だったKARINの衣装も、ゴテゴテしたというか、アイドルかアニメの魔法少女かって感じに盛り盛りになっている。

 くるっとその場でKARINが回転すると、肩甲骨、というより健康骨って表現したいくらいになめらかな背中も丸見えなデザインで、短いスカート(パンツ見えそう)のお尻には尻尾まで付いていた。

 まあ、似合うか似合わないかで言えば、かなり似合うとは思うけど、露出度がちょっと高すぎないかと兄としては思う。

 現実にカリンがそんな恰好していたら、僕と父さんでゲンコツ五月雨撃ちは間違いないだろう。

 

『いえーい。お兄ちゃんパワーで可愛くなっちゃった!』

 まあ、本人が満足なら別にいいんだけど。どうせスマホの中のアプリだし。キャラだし。

「でも、それでKARINは、どんな力が使えるようになったの?」

『え?』

「え?」

『いや、ちゃんと見て。見て見て。KARINの可愛さが圧倒的に増したんだけど?』

「それは見ればわかるけど。いやまさか、それだけなわけないだろ? ないよな?」

『……?』

「それだけなのかよ!」

 バシ!(5P)

 

『ひっどーい、なんでキレるの? せっかくKARINがお兄ちゃんのために可愛い格好してあげたんだから、褒めてくれてもいいじゃーん!』

「だって、今までの話の流れと全然関係ないだろ! 普通、クライマックスに繋がるイベントが来るのかと思っちゃうだろ!」

『話の流れで可愛くなる女子なんていないもん! 女の子はどんな流れの中でも可愛さの努力は欠かさないものなの! お兄ちゃんのバカ!』

「バカはお前だバーカ!」

 本当バカバカしい。

 何が可愛いだ。着替えたから何だっていうんだ。ただの電気信号だろお前なんて。

 ただの電気信号のくせに……本気で心配させるなよ。妹に似すぎなんだよ、コイツ。

 僕は怒った態度をKARINを示すため、スマホからそっぽ向いてやった。

 無視である。カリンが一番嫌がるやつだ。

 

『わかったよぉ。今度から、もっとお兄ちゃんが楽しい企画を用意するね? だからこっち向いてよ、お兄ちゃーん』

 寂しがり屋なKARINはすぐに根を上げた。

 ふふん、ざまみろ。

 

 

 

 ――この時のしょうもないやりとりのことを、僕は後に後悔する。

 着替えて可愛くなる程度のことに、『お兄ちゃんパワー』を使わせておけばよかったと。お楽しみ企画なんてものをカリンに考えさせちゃダメなんだと、子供の頃からあれほど思い知ってたはずなのに。

 でもそれはもっと後の話なので、今はまだ語らない。

 

 

 

「で、これからどうしよ?」

『KARINがちゃんと考えてあるよー。まずは、このリストにあるもの用意してください』

 ジャジャンと効果音を自分の口から発して、KARINが手書きのフリップを取り出す。

 何度も確認しちゃうけど、本当に今のお着替えはまるっきり関係ないのな。無駄着替えだったのな。

 KARINの見せたフリップには、マキちゃん先生とは何の関連もなさそうなものが羅列されていた。

 どう使うのか想像できないものばかりだ。

 

「こんなの何に使うつもりだ?」

『くっふっふ。いいからお兄ちゃんは準備してくれればいいの。あとはKARINの言うとおりにするだけで、ね?』

 KARINは愉快そうに笑い、生えたばかりのウサ耳を立て、くるりと大胆に開いた背中を見せて、しっぽとスカートを揺らした。

 ついておいで。

 と言わんばかりに。

< つづく >

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