夢であいましょう 純愛悲恋編

純愛悲恋編

プロローグ

「峯さん・・・なにを・・・? ああっ! やめてっ! いやぁっ!」

 峯俊也にいきなり身体を押された。会社の男性用トイレに押し込まれて相原友梨は叫んだ。

 ブチッと糸がちぎれる音がしてスカートのホックが外れる。

「ああっ! 助けてぇ!」

 ファスナーまでちぎれてしまったスカートは暴れる友梨の動きで足元に落ちてまとわりつく。

「そんな大きな声を出したら社員に聞かれちゃうよ」

 そう言う峯はストッキングに手をかけて下ろそうとしていた。

「やっ、やめて・・・ください・・・ああっ! どうして?」

 そう言われて、大きな声で助けを求めることができなくなってしまった自分が不思議だった。こんな姿を社員に見られたくないという心理が働いてしまったのかもしれない。すでにショーツはストッキングと一緒に膝のあたりまで下ろされてしまっていた。

 外注先のSEである峯がこんなことをするなんて信じられなかった。

「だ、だめ・・・峯さん・・・ゆるして・・・ああっ! ゆるしてください」

 背後から抱きしめられて首筋に唇を押しあてられると、あの感覚が全身を走り声が甘くなってしまう。

「だめっ! だめぇっ!」

 股間に熱いものが割り込んできた。

「ゆるしてっ! お願い! ああっ! いやぁっ!」

 背後から身体をホールドする峯の腕は逞しく、もがけば、もがくほどヒップを突き出すような恰好になってしまう。言葉とは裏腹に友梨の秘肉は濡れていた。首筋を這う舌の感覚、鷲づかみにされたバストに反応してしまった身体が恨めしかった。

 秘肉に熱い屹立が触れる。それだけで痺れるような快感が下半身に走った。

「やっ・・・それだけは・・・ああっ! やめてぇっ!」

 ついに屹立の先端が蜜壺をとらえた。

「いやぁぁぁぁぁっ!」

 蜜壺へ侵入してくる熱い肉棒の感覚に友梨はここが会社であることも忘れて叫んでいた。

「ああっ! あんっ! あんっ!」

 洗面台を両手でつかんでヒップを突き出し、友梨は峯の動きに合わせた喘ぎをあげていた。

 友梨は29才、当然、何人かの男と経験はある。しかし、これほどの快感を経験したことはなかった。まるで下半身が蕩けていくようだった。

 峯の激しい律動とシンクロして肉を打つ音がトイレに響く。

 友梨の短く甘い喘ぎがそれに重なる。

 オーガズムを迎えるたびに跳ねる身体を峯が支えていた。

 そして、峯のものが内部いっぱいに膨れ上がった感じがしたとき大きな波に襲われた。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 下半身がドロドロに溶けていくようだった。熱い奔流に満たされ身体中の力が抜けて、友梨は崩れ落ちた。

「どうして・・・?」

 意識が薄れて思考がまとまらない。

 気がつくと峯の姿は消えていた。

 そこで目が覚めた。

 あたりを見回す。

 自分の部屋。ベッドの上だった。カーテンの隙間から差し込む朝の光。目覚ましが鳴るまでには30分ほど時間があった。

 上半身を起こしてみる。秘肉の疼きは残っていて蜜が下着を濡らしている感覚が夢と現実の境を曖昧なものにしていた。

「どうして・・・?」

 そんな言葉しか浮かばない。

「夢だった・・・なんて・・・」

 こんなにリアルな淫夢は見たことがなかった。それに、夢とはいえ、犯されて感じてしまった自分が信じられなかった。友梨はもう眠る気になれず、かといって起きて行動できる状態でもなく、ベッドの上でまんじりともできずに時間を過ごした。

覚醒

 峯が自分の能力に気がついたのは三日ほど前のことだった。気弱な性格を直したいと思って買った自己暗示の本がきっかけだった。紙に書いた言葉を唱えながらベッドに横になっていると、幽体離脱というのだろうか、寝ている自分の姿を俯瞰している自分がいた。ハイスペックなコンピューターとベッドのほかは何もない殺風景な部屋に眠っている自分を見るのは不思議な気分だった。

 夢なのかと思いながら宙に浮かんでいる自分の位置を高くしていくと身体が天井にめり込んだ。あわてて、戻ろうとしてもがくと世界が一転した。

「あんただれ?」

 農作業をしている男に話しかけられた。

「あれ・・・どっかで・・・」

「あ・・・あの・・・」

 突然、目の前の風景が変わった驚きに言葉も出ない。

「そうだ。下に住んでる人だよねぇ?」

 男は峯が住んでいるアパートの二階の住人だった。

「こ、ここは・・・」

「俺の畑だけど」

 男の言うとおり畑だったが、見渡せば境界が曖昧というか遠景が霞んで見えない。自分に何が起こったのか理解ができなかった。

「食うかい?」

 男がトマトを差し出した。

「どうも」

 笑顔に釣られて受け取ってしまう。

「うまいぞ」

 男は、もうひとつもいだトマトにかぶりついた。

 パリッと弾けるような音がして果汁が飛沫になって飛んだ。それを見て、峯は初めて夏のような日差しに気がついた。まだ5月なのに。

「食えよ」

 男は笑って言う。

「はい・・・」

 恐る恐るトマトをかじる。もいだばかりなのにトマトは冷蔵庫で冷やしたように冷たく、濃厚な甘味が口いっぱいにひろがった。

「うまいだろ?」

 驚いてトマトを見つめている峯に男が言った。

 邪気のない男の笑顔に混乱して「戻りたい」と念じた瞬間、峯は自分の体温を実感した。そこは自分のベッドだった。変な夢を見たのだと思った。

 そして、次の日の朝、会社に出かけようとしたとき上の男に会った。なにかを確かめるような訝しげな目で峯を見ているので会釈すると、慌てたように立ち去ってしまった。その後ろ姿を見て「まさか」と思いながら、昨夜はあの男も同じ夢を見たんじゃないだろうかという考えが頭に浮かんだ。

 会社へ行っても、そのことばかり考えてしまって仕事が手につかない。そこで昼休みに「どんどん勇気が湧いてくる」とメモ帳に書いて目を閉じ、その言葉を心の中で何度も唱えてみた。すると、まるでサナギから成虫が出てくるような感じで背中から意識が離れていくのを感じた。

「へっ? 勇気じゃなくって幽気?」

 二度目なので冗談を言う余裕もあった。

 本体は机に突っ伏して居眠りをしているようだ。

「おーい。井上」

 三つ離れた席で弁当を食っている同僚の井上に声をかけてみる。しかし気がつく様子もない。近づこうとしても宙に浮いているので思うように移動できない。やっとの思いで泳ぐように近づき、肩に手をかけようとしたら身体ごと通り抜けてしまった。

「うへ・・・気持ち悪っ・・・」

 なんとも言えない感触、いや、その感触がないのが気持ち悪い。考えてみたら、昨夜は天井を通り抜けているのだから触れない方が自然なのかもしれない。

 それに、引っかかりがないから移動が大変なのだ。空気をかいても何も起こらない。

 ふと、実体がないのだから動く方法は別にあるんじゃないかと思った。そこで、部屋の一番奥にある部長の机まで歩いて行くことをイメージしてみる。すると滑るように峯の意識は、いつも叱責を受ける位置まで移動した。

 コツがわかれば簡単だった。峯は夢中になって、あちこちへ移動する。空を飛ぶところをイメージすれば天井すれすれを飛ぶことができた。これなら、どこへでも行けるのではないかと思い、窓を突っ切って外へ出た。峯が勤める会社はビルの10階にある。意識は街の空に浮かんだ。しかし飛ぼうとすると全身に痛みが走った。ビルのまわりを飛ぶくらいなら大丈夫なのだが、遠くへは行けないようだった。どうやら本体からは100メートルくらいしか離れられないらしい。

 こうして峯俊也は意識を身体から抜け出させる方法を身につけた。

「峯! 起きろよ。もう昼休みは終わりだぞ」

 耳元で声がした。

 会社の中へ戻ってみると井上が峯の身体を揺すっていた。

「おい、峯! 大丈夫か?」

 なかなか目を覚まさないので井上の口調が変わる。戻ってきた社員が峯のまわりに集まってきた。

 まずいと思い、身体に戻ることを念じてみる。昨夜も怖くなって帰りたいと思ったら戻れたからだ。思った通り、意識は吸い込まれるようにして身体に戻った。

「ごめん・・・ちょっと昨夜遅かったから・・・」

「起きないから心配したぞ。ぶっ倒れたんじゃないかと思った」

 SEの仕事はハードで、先日も過労で倒れた同僚が出たばかりだった。

「新しいシステムを思いついて検証してたら夜が明けちゃって」

「それってアイフィールドのやつか?」

「ああ・・・」

「相原社長にご執心なのはいいけど、身体壊すぞ」

「わかってる」

 峯は伸びをすると仕事に戻った。

 峯が担当するアイフィールドは相原友梨が社長を務めるベンチャー企業だ。全国の小さいけど質のいいネットショップをまとめたポータルサイトを運営している。友梨はセンスの良さと、ショップと消費者を有機的につなげる手法で注目の起業家になっている。東大卒の才媛で大手商社に就職してノウハウを学び、独自のやり方でネット販売事業を拡大させて独立した。いまでは登録するショップが千を越え社員を20人ほど抱える企業に成長している。

 峯が相原友梨に惚れていることは社内の誰もが知っている。友梨の経歴だけを見れば、やり手のギスギスしたキャリアウーマンを想像してしまうが、ぱっちりとした瞳が愛らしい明るい女性なのだ。その聡明さと優しい人柄を、峯は取引先の社長というだけでなく個人的にも尊敬していた。その気持ちが恋愛感情に変わっていったのは当然というか必然だったのかもしれない。

 しかし気弱な性格の峯は立場の違いもあって告白などできずにいた。悶々とした気持ちを抱えているうちに、いつしか、その願望は歪んだものになっていった。手に入らないのなら汚してしまいたいと考えるようになったのだ。

 深夜、峯は心の中であの言葉を唱えた。昨夜の状況を考えると上の住人の夢に自分の意識が入り込んだのだと思ったからだ。それをもう一度確かめたかった。

 意識が身体から離脱すると天井を通り抜ける自分をイメージした。意識が浮いて昇っていく。あの男が眠っていた。峯は一瞬考えてから男の額に手を乗せる。その瞬間、意識は男の身体に吸い込まれた。

 男は天体望遠鏡を覗いていた。

「やあ、昨日はどうも」

 声をかけると男が振り向いた。

「あんたか・・・」

「トマト、うまかった。お礼が言いたくて・・・」

「そうか」

 男が笑顔になる。気のいい奴なのだと思った。

「俺は峯俊也。下に住んでる」

「知ってる・・・ん? 名前は・・・知らなかった・・・俺は岡野浩幸」

「何してるの」

「これか?」

 男は望遠鏡を指さす。

「うん」

「秘密なんだが・・・向こうのマンションにいる女を覗いてるんだ」

 そう言った途端、窓の向こうにマンションが見えた。

「どんな女だ?」

「見てみろ。部屋の中じゃいつも裸なんだ」

「いいのか?」

「もちろん。ほら」

 男は椅子から立ち上がり、峯に座るようにとゼスチャーする。

 どこかで見覚えのある女が裸でコーヒーを飲んでいた。たぶんテレビに出ているタレントだったが、男と見え方が違うのか、いまひとつ顔立ちがはっきりしない。信じられないほどバストが大きい。

「すごいな」

「だろ?」

 また男は笑った。

「でも、覗くだけでいいのか?」

「どういう・・・こと?」

「ここは夢の世界なんだぜ。覗くのが君の趣味で、それだけで満足してるんならいいんだが・・・」

「えっ・・・?」

「なにをやったって起きればお終い。だから好きなことをやらなきゃ損だ」

「夢って・・・ほんとか?」

「ああ。なんなら僕が見本を見せてもいい。あの女とセックスしてやるよ。見物するかい?」

「ちょっと待ってくれ。ほんとうに夢なのか?」

「そうだよ」

「じゃあ、なんでもやり放題なんだな?」

「ああ」

「証明できるか?」

「証明はできないが、今朝会ったとき君はヘンな顔してただろ?」

「そうか・・・」

 男はしばらく考えていた。

「やる!」

 決心したらしく、そう言って男は歩き出した。

 峯は後ろからついて行く。あっという間にマンションの入り口に着いた。男は階段を上ってドアの前に立つと迷わずノブに手をかけた。鍵はかかっていない。

 部屋の中へ入っていくと驚いた女が二人を見る。まだコーヒーを飲んでいた。

 いつの間にか男は裸になっていた。そして、ものも言わずに女を押し倒した。

 いい奴だと思っていたのは、この率直さに起因していたのだろうと峯は思った。しかし情緒というものはまったくない。シンプルすぎて苦笑してしまう。

 いまいる世界は男の意識が作り出したものだ。女は抵抗もせずに男を受け入れている。他人の妄想を見ていてもつまらないので、峯は戻ることにした。

計画

 他人の夢の中へ入ることができる。それがわかったことが収穫だった。夢の中で人は本音で生きている。ならば現実のシミュレーションも可能なのではないかと峯は思った。たとえば相原友梨に告白したらどうなるか・・・断られることが容易に想像できた。だったら手っ取り早く襲ってしまった方がいい。どうせ夢なのだ。友梨がどんな反応をするのか想像するだけでゾクゾクした。

 翌日はアイフィールドで打ち合わせがある。友梨の住まいを聞き出すのは無理だろうが、世間話で場所くらいはわかる。あとは調べればいい。

「相原社長って電車通勤ですよねえ?」

 打ち合わせも終わりに近づいたとき、峯は話を変えた。

「どうして?」

「いや、この前の打ち上げのとき終電になっちゃうからって帰ったでしょ。なんだか意外で。社長くらいなら、この近くにも住めるでしょうし、タクシーだって・・・」

「貧乏性なのね。それに学生時代から住んでいる街が気に入ってるの」

「へぇ~、どこですか?」

「わりと近くなの。池ノ上よ」

 アイフィールドは青山の一等地にあるビルのワンフロアを借りている。乗り換えはあるが距離的には近い。

「へぇ、いいところですか?」

「普通の住宅街だけど静かでいいところよ。いまでも、たまにキャンパスまで散歩に行くの」

「じゃあ、大学の近くなんですね」

「線路の反対側だけど近くよ」

「学生時代と同じところに住んでたりして」

「まさか。それはないわ。もう学生のころに住んでいたアパートはなくなっちゃったし」

 池ノ上なら峯にも土地勘があった。線路を隔てて大学の反対側だとわかっただけで大収穫だ。峯は話を仕事に戻す。打ち合わせが終わったのは8時過ぎだった。

「いつも遅くになってすみません」

 友梨が頭を下げる。

「いえいえ、仕事ですから。相原社長こそ社員が全員帰るまで退社しないって評判ですよ。だから、みんながついて来るんですね」

「そんな・・・でも、今日は後片付けが残っているだけだから、もうお終い」

 友梨はニッコリ笑いながら答える。

「では、明日の夕方、検証結果を持ってまた参ります」

 峯は頭を下げてアイフィールドを後にした。

 建物を出ると遅くなるから直帰すると会社に電話を入れた。池ノ上の駅で友梨を待ち伏せするつもりだった。住まいがわからなくては先に進めない。渋谷に出て閉店ギリギリのユニクロに飛び込み目立たないシャツにジーンズ、念のためサングラスも買って着替えた。

 池ノ上駅の階段が見えるビルの横で峯は待った。

 10時をすこし過ぎたころ、下りの電車が踏切を通り過ぎるタイミングで階段から人が吐き出されるように出てきた。その中に友梨を見つけた峯は、ビルの陰に身を潜めた。そして自分に気がついていないことを確認して後をつけはじめる。

 駅から歩いて5分ほどのところに友梨が住むマンションがあった。3階建ての小ぶりだがきれいな建物だった。反対側にまわってみると最上階に明かりが灯った。峯は危険を承知で道路の一角に座り込み、心の中であの言葉を唱えた。

 意識が離脱した。

 一気にベランダまで飛ぶ。

 ガラス戸に顔を突っ込んだ。

 ちょうど友梨が部屋着に着替えているところだった。

 1LDKの間取り。リビングとベッドルームはベランダに面している。あまり女性らしくない質素な部屋だ。仕事一筋の人柄そのものだと思った。友梨は脱いだ服をハンガーに掛け、ブラジャーを外してスエットの上下に着替えた。その一部始終を峯は息を飲んで見つめていた。お椀を伏せたようなバスト、その頂にある愛らしい乳首を見ただけで胸が躍った。

「もしもし、大丈夫ですか?」

 耳元で声がした。残った身体に誰かが声をかけているのだ。あわてて外に飛び出してみると白い自転車が見えた。巡邏中の警官がうずくまっている峯の肩を叩いていた。

「あ・・・すみません・・・ちょっと飲み過ぎてしまって・・・」

 身体に戻った峯は、いかにも眠そうな声を装って言った。

「そうですか。よかった。ひとりで帰れますか?」

「大丈夫です。タクシーで帰りますから」

「持ち物とか、なくなっているものは?」

「すみません。ご心配かけて。それも大丈夫です」

 そう言って立ち上がった峯を警官はまだ疑わしそうな目で見る。

「どちらで、お飲みになっていたんですか?」

「そこの友人の家です。ちょっと相談事があって」

「なにか身分を証明できるものは? 強制ではないのですが念のため拝見できれば」

「免許証でいいですか?」

 いい加減、腹が立ったが、こんなところでマークされてはまずい。峯はおとなしくバッグから免許証を取り出した。

 警官は懐中電灯で免許を照らし峯の顔と写真を見比べている。

 やっとの思いで放免されるまでに15分ほどかかった。

決行

 峯が住んでいる部屋は多摩川を越えてすぐのところにある。警官を安心させるため、ちょうど通りかかったタクシーを拾った。金銭的には痛かったが、免許証を差し出したときにアイデアが浮かんだ。友梨が住むマンションの隣にはコインパーキングがあった。あそこにクルマを駐めて後部座席に隠れていれば警官に見咎められることもないと思った。

 峯が趣味で乗っているクルマはスポーツタイプのものでリアウインドウはスモークガラスになっており、外から後部座席はほとんど見えない。黒っぽい服を着ていれば、まず見つかることはないだろうし、コインパーキングは奥まったところにあるから目立たないはずだ。

 準備に時間がかかり池ノ上のマンションに着いたのは2時を過ぎていた。友梨の部屋の明かりも消えている。峯は後部座席に移って用意しておいた藍色のベッドカバーをかぶった。そして意識を離脱させる。

 友梨は安らかな顔をして眠っていた。峯は手を差しのべた。しかし手は友梨の身体を突き抜けた。一瞬焦ったが、夢はレム睡眠中に見ることが多いのを思い出した。友梨の眠りは深そうだ。たぶん、夢を見ていないと友梨の意識の中へ入れないんじゃないかと考えて待つことにした。

 しかし10分ほど経つと身体が引っ張られるような感じがした。居場所をキープできない。意思とは関係なしに窓の方へ移動して外に出てしまい、気がつくとクルマの中にいた。いままでのことを考え合わせると、夢の中に入らないで意識だけを浮遊させるのには時間的な限界があるらしい。もう一度、離脱しようとしたがうまくいかない。かなり疲れていた。峯は少し休むことにした。

 どれくらい経っただろう。気力が充実してきたので、心の中で文言を唱える。意識が離れた。すぐに友梨の部屋へ飛んだ。

 友梨は安らかな寝顔を見せていた。寝返りを打ったときささやくような寝言が聞こえた。思いなしかまぶたが動いている。そっと髪を撫でるようにすると意識が友梨の身体に吸い込まれていった。

 キョロキョロとあたりを見まわす。そこは見慣れたアイフィールドの社内だった。友梨は夢の中でも仕事をしていた。

「あら、峯さん。なにか?」

 峯に気がついた友梨は笑顔を向ける。

「ちょっと、うかがいたいことがありまして。アポも取らずに、すみません」

「大丈夫です。応接室へ行きましょう」

 友梨はオフィスにしている部屋を出た。峯も後からついていく。その途中にある男性用のトイレに峯は友梨を押し込んだ。アイフィールドの社員は女性だけだが来客用に男性用トイレがある。夢の中だから気をつかう必要もなかったが、意識のどこかで社員が来ないところという心理が働いてしまった。

 着替えのシーンを見たからか、それとも本人の夢なのだから自分の身体について精確なのかはわからなかったが、その肢体はリアルだった。岡野と名乗った上にすむ男の夢に出てきた現実離れした女とは違う。そして感触も現実だと思えるくらいリアルだった。

 スカートにかけた手に力を入れると生地が破れる音とともに、手のひらへ独特の感覚が伝わってくる。

 抗う友梨の姿に峯の心が弾けた。闘争心に火が点いたような感じだった。いままで恐れや恥ずかしさで抑制されていた欲望が堰を切って噴出した。

 手順など考えもしなかった。ただ貫き放出することだけが頭の中を支配していた。峯は欲望に身を任せた。

 放出の瞬間、峯はオスとして解放された自己を感じた。征服のよろこびが身体中を駆け巡った。

 気がつくと友梨が床に崩れ落ちていた。面倒なことは嫌なので身体へ戻ることにした。

 驚いたことに射精は本物だった。身体に戻るとパンツの中がベッタリと冷たかったのだ。車に積んであるウエットティッシュで始末しながらもっと楽しむべきだったと後悔したが、もう夜が明けていた。身体が鉛のように重い。意識を離脱させている間は相当な体力を消耗しているらしい。峯は夜間の駐車料金を払って自分の部屋へ帰った。

変化

 友梨は峯と会うのが怖かった。嫌なのではない、心のどこかでときめいてしまっている自分が怖かった。恥ずかしかった。いままで峯のことを男として意識したことはないはずだった。真面目で優秀な取引先のSEとしての好意はある。その峯に夢の中とはいえ、あんなことをされて感じてしまったのが信じられなかった。

 約束の6時が近づくにつれ仕事が手につかなくなった。身体が疼くのだ。こんなことは初めてだった。鼓動が早まる。そのときに内線が鳴った。

「お世話になります。インテリジェンスサービスの峯です」

 その声を聞いただけで秘肉がジワッと濡れたのがわかった。

「あ・・・どうぞ。応接室でお待ちください・・・すぐ参ります」

 友梨は、高校時代、憧れの先輩に声をかけられたとき、ドキドキして咄嗟に言葉が出てこなかったときのことを思い出していた。

「あれ・・・」

 向かいに座った友梨を見て峯が言った。

「な、なにか・・・」

「いえ、お具合でも悪いのかと思って。タチの悪い風邪が流行っているみたいですし」

「どうして・・・」

「すみません。出過ぎたことを言ってしまいました。いつもと感じが違うし、お顔がすこし赤かったものですから心配で」

 峯は心の中でニヤリと笑った。夢のことを思い出しているに違いないのだ。いままで見せたことのない潤んだ眼がそれを物語っていた。

「あ・・・いえ・・・大丈夫です・・・あの・・・」

 友梨の言葉はたどたどしい。

「はい。検証結果ですが特に問題は見つかりません。このままコーディングしても大丈夫だと思います」

 峯は資料を手渡す。そのとき指先がちょっとだけ友梨の手に触れた。

 息を飲む声が聞こえた。

 友梨の頬は真っ赤に染まっている。

 その顔を見て、単なる夢とは違い、自分が夢に介入することによって深層心理に影響を与えてしまうのではないかと思った。それほど友梨の態度はおかしかった。資料を読む目も宙を彷徨っている感じだ。

「あ、あの・・・」

「はい。なにか疑問点でも?」

「いえ・・・梶さんのことは信頼していますし、このままでよろしいかと・・・お任せしちゃいます」

 友梨の口ぶりは仕事モードのそれではない。いつもは細かいところまで確かめるのに、今日は心ここにあらずといった様子だ。

「いいんですか?」

「ええ・・・お願いします」

 頭を下げる友梨から、いつものオーデコロンとは違う芳香が漂う。それは欲情した女が発するフェロモンだった。

「ありがとうございます。では、このままコーディング作業に移ります。三日か四日で仕上げます。逐一報告をしますので」

 照れ臭さのせいなのか、それともオスに従うメスの本能なのか、今日の友梨にはいつもの鋭さがない。そんなことを考えながら、峯は仕事モードの表情を崩さずに頭を下げる。

「あ・・・あの・・・」

「なんでしょう?」

「検証作業って大変なんですよね」

「ええ、まあ。でも仕事ですから。慣れてますし」

「時間がかかるって聞きましたけど」

「ええ。正直言うと昨日からはじめてギリギリで間に合いました。でも相原社長のことを考えたらやる気が湧いてきますしね」

「・・・」

 その笑顔を見て友梨の顔がますます赤くなる。昨夜、峯がどこにいたのか、疑問を抱いている自分が恥ずかしかった。しかし、峯を見ていると、どうしても夢の出来事を思い出してしまうのだ。

 そんな友梨を峯は冷静に観察していた。まったく人が変わってしまったようだと思った。その変わり様は峯にとって好ましいものだった。そして峯も変わっていた。夢に介入することで自信にも似た気持ちが生まれていた。友梨に対してある部分で優位に立っているという意識から軽い口調で話しかけられる。この場で食事に誘えば断らないのではないかとも思ったが、夢の中で一回犯されただけで、こんなになってしまうのなら、もうすこし試してみるのも悪くない。今夜も夢の中へ忍び込むことを決めた。

 夢の中で深層心理に働きかければ友梨の意識を操作することだってできるんじゃないかと思った。そうすれば現実でも友梨を抱けるようになるかもしれない。峯の心が躍った。

マリオネット

「や、やめて・・・こんなところで・・・」

「そんなこと言ったって。ほら」

「あぁぁっ!」

 二人はまた男性用のトイレにいた。

 峯は友梨をうしろから抱きしめて首筋に舌を這わせながらシャツブラウスのボタンを外す。

「あ・・・ぐぅ・・・」

 首筋にキスをされただけで感じてしまった友梨は拳を口の中へ入れて声が漏れないようにした。ブラジャーがずらされて、はだけたバストに峯の手が這っている。もう片方の手はスカートのホックを外そうとしていた。また犯されてしまう、そう思っただけで蜜があふれた。

「嫌がった振りしてるけど、待っていたんじゃないの?」

 峯は乱れた衣服の隙間から手を差し入れて言う。

「ど・・・どうして・・・」

「ほら、こんなに」

「いやぁぁぁっ!」

 峯はショーツの中に手を入れて濡れた秘肉に触れた。

「感じてるくせに」

 峯はわざと音を立てて蜜壺をいたぶる。

「だめ・・・だめ・・・」

 言葉とは裏腹に友梨の声は甘い。

 今日の峯には余裕がある。友梨を弄びながら着ているものを一枚一枚脱がしていく。

「ああ・・・ゆるして・・・ゆるしてください・・・」

 とうとう生まれたままの姿になってしまった友梨はトイレの床にしゃがみ込んでしまう。

「ふふふ。いい恰好だな。社員のみんなを呼んで見てもらいましょうか」

「お願い・・・それだけは・・・」

「イヤなんですね?」

「はい・・・」

「だったら言うことを聞いてくれますね?」

「えっ・・・?」

「立って。よく見えるように」

「そんな・・・」

「人を呼びますよ」

 よく考えれば、人を呼ばれて困るのは峯の方なのだが、友梨はパニックに陥ってしまって言うとおりにした。視線が刺さるように感じる。それだけで、弄ばれていた秘所がジンジンと疼いた。

「脚を開いて」

「・・・」

 恥ずかしさに震えながら30センチほど脚を開く。

「こんどは自分で触ってみましょう」

「や・・・そんな・・・」

「自分でしたことくらいあるでしょう?」

 友梨は首を振る。

「うそつき。じゃあ、なんで、こんなに感じやすいの?」

 峯は股間に手を伸ばす。

「やぁっ!」

 軽く秘肉に触れられただけで友梨はビクンと震えた。

「エッチな身体だね」

 峯はニヤリと笑う。

「やめて・・・ください・・・おねがい・・・」

「して欲しいくせに。でもダメだよ。自分でするんだ。僕が見ていてあげるから」

「ああ・・・ゆるして・・・」

 そう言いながらも意識のどこかでそうしたい自分がいるのに友梨は気がついていた。見られる、そう考えると動悸が激しくなる。それに、心の隅の方で、これは夢なんだと思う気持ちがある。

 そうか・・・夢・・・これは昨日の夢の続きなんだと友梨は思った。そうでなければ峯がこんなことをするはずはない。新しいシステムについて熱心に説明する峯の姿が心の中に浮かんだ。なぜ、その峯が夢に出てきて自分にこんなことをするのか・・・考えてみてもわからなかった。身体の疼きを止められない。

 ストレス、そんな言葉が浮かんだ。前の男とは一年ほど前に別れた。仕事に夢中になっているうちに別の女を作っていた。どうせ夢なら自分を解放してもいいのではないかと思った。

 友梨は目を閉じて右手を股間に伸ばす。

「あうっ!」

 信じられないほどに感じてしまう。

 峯の視線を感じる。

「ああっ! いやっ!」

 勝手に指が動いて敏感な部分を弄んでいた。

 友梨は自分が操り人形になってしまったように感じていた。それは甘美な感覚だった。峯の視線を意識すると下半身が熱く疼く。犯されたい。強くそう思った。

「自分の手でいくところを見せてくださいね」

「そんな・・・ひどい・・・ああっ!」

「でも、見られて感じてるみたいじゃないですか。相原社長って、こんなにエッチだったんですね」

「いやっ! ち、ちがいます・・・ああっ! もう!」

 言葉でいたぶられて一気に昂ぶってしまった。

 波打つように痙攣する友梨の身体を峯は笑みを浮かべながら眺めていた。

 悶える友梨をみて、ある考えが閃いた。最近、アイフィールドに参入させるか検討されている女性向けのアダルトグッズを扱うショップのことだ。アイフィールドでは社員がモニターとなってインプレを紹介している。だからこそ、ユーザーの信頼を勝ち得ているのだが、これはモノがモノだけに社員全員が二の足を踏んでいた。

「道具を使ってオナニーしたことはある?」

「あ・・・ありません・・・」

 余韻が収まらない友梨の声は震えている。

「してみたいと思うだろ?」

「そんな・・・」

「こんなにエッチなのに?」

「違います・・・わたし・・・こんなこと・・・ほとんど・・・」

「普段はしないの?」

「はい・・・」

「ふーん、そうか。でも、これからは毎日するんだ。いま検討してるショップの商品を使ってね。相原社長自らがモニターになって」

「あっ・・・」

「思い出しましたね。約束してください。モニターになると。そして、こんどは僕の目の前で道具を使ってオナニーするんです」

「はい・・・」

 友梨は思わずうなずいてしまった。峯があの会社のことを知っているはずがない。やはり夢なのだと思った。それに峯の提案を聞くだけで身体が熱くなる。なぜか峯の言うことを聞くことが気持ちいいし、そんな自分が愛おしいのだ。

「ならば、ご褒美をあげよう。こっちへ来て」

 峯が笑う。友梨は操られるように峯のそばへ行きその笑顔を見上げた。

 峯は知っていた。応接室で友梨を待っているときに隣の会議室でそのショップを扱うかどうかを議論していたのを聞いてしまっていたのだ。思いつきでそれを利用したのだが、我ながらうまい考えだと思った。

 命令などしていないのに友梨は峯の服を脱がせはじめた。友梨の中で何かが変わった。その変化を峯は楽しむことにした。

 抱き寄せるだけで友梨は熱いため息を漏らした。

「こっちへ」

 峯は友梨の背中を押してトイレから出ようとした。

「だめ・・・みんなが・・・」

 友梨が怯えたような声を出す。

「大丈夫。みんなには僕らのことが見えない」

 峯は暗示の効果を確かめたかった。

「あっ・・・だめっ・・・」

 怯える友梨を無視して峯はドアを開け、裸の友梨を引っ張り出す。

 廊下へ出ると友梨はしゃがみ込んでしまった。

 峯はその身体を抱き上げて足でオフィスのドアを蹴った。

 その音に社員たちはいっせいに顔を上げた。

「ああっ・・・違うの・・・見ないで・・・」

 友梨が悲痛な声をあげる。

 不思議なことが起こった。社員たちは峯にお姫様抱っこされた友梨を見て、何事もなかったように目を伏せて仕事に戻った。それは、打ち合わせから戻った友梨に対する態度と同じだった。

 峯は友梨を自分のデスクの上に座らせて脚をM字に開く。

「いや・・・そんな・・・」

 友梨は両手で顔を覆う。

 たぶん、社員たちはこちらに注目しないはずだ。もしそうなれば友梨の想像を超えてしまう。心の中で辻褄を合わせるために彼らは仕事をしているに違いないと峯は思った。

 パックリと開いた秘肉を頬張るようにして峯は柔肉を舐めまわした。

「ああっ!」

 友梨はのけ反って叫んだ。

 社員たちの目の前で犯され、嬌声をあげている自分が恥ずかしく、それが快感をいっそうのものにしていた。

「いやっ! いやぁぁぁぁぁっ!!」

 友梨はあっという間に達してしまう。それでも峯の責めは止まない。

「あうっ! そんなに・・・あああっ! だめぇっ!」

 身体が跳ね、デスクの上に置いたものが散らばる。もう、なにも考えられなかった。

 峯は唇を離して屹立をあてがった。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 ゆっくりと挿入され、友梨はあらん限りの声で叫んだ。

 意識が飛びそうな快感の中で、友梨は征服されたと思った。いや、本能的に峯にひれ伏していた。

 身体の中に熱い迸りを感じて本当に意識を失ってしまう。

 同時に峯の目の前が真っ暗になる。

 峯の意識ははね飛ばされるように友梨の身体から離れて本体に戻っていた。

暗示

 翌朝、出社した友梨はメールをチェックした後、受話器を取って、ある番号をプッシュしていた。

「お世話になります。アイフィールドの相原と申します。広報の鈴木さんをお願いしたいのですが」

 相手を待つ間、友梨はこれから自分がやろうとしていることに戸惑いを感じていた。夢で見たことなのに・・・自分を抑えることができないのだ。

「はじめまして。アイフィールドの相原と申します。御社からのお申し出を検討したいと思いまして・・・はい・・・できれば商品のチェックとかをさせていただけたら・・・ありがとうございます。サンプルとかはございますでしょうか? はい・・・はい・・・できれば御社へおうかがいしてお話しも・・・はい・・・それでは13時に参ります。ええ・・・ありがとうございます。では・・・はい・・・失礼いたします」

 女性による女性のためのアダルトグッズが売りのショップだったが、それはネット上ではウソであることも多い。電話に出た相手が両方とも女性だったことに友梨は安堵していた。

「弊社ではユーザーにたしかな情報を提供するために社員によるモニターページを設けているのですが」

 茅場町にあるビルの一室のオフィスに通されて担当の鈴木という女性と友梨は話していた。

「はい。存じております。用意してあります」

 鈴木と名乗った担当者はニッコリ笑って手提げの紙袋をテーブルに置いた。

「相原社長に直接お越しいただけるとは思ってもみませんでした」

「いえ。小さい会社ですから、なんでもやります。それに、申し訳ないのですが御社の信用調査みたいなことも兼ねているんです」

「それは、どういう?」

「ショップの実体を確かめなければ、お客様に紹介することはできませんし、システム等も確認させていただきたくて」

「わかりました。資料等は揃えますが・・・」

 女はしっかりとした口調で答えた。

「ええ、お願いします。申し上げにくいのですが商品が商品ですので社内でも賛否両論なんです」

「わかります。弊社の社長・・・じつは私の母なのですが、女性はもっと自分のことを知り、後ろめたさを拭い去るべきだと考えておりまして・・・ですから、御社での取り扱いを私が提案したんです」

「そうでしたか。安心しました。これで社員たちも納得すると思います。ところで、こういった商品だけでなく、別のものも扱う気持ちはありませんか?」

 すぐにでも中身を確かめたかったが、それでは自分の欲望を悟られそうで、友梨はビジネスライクに話を進める。

「それは、どういう?」

「はい。弊社のスタッフも女性だけでして、人に話せない特有の悩みもあります。体臭のこととか生理のこととか。たとえば生理のときに苛立つことがあるスタッフがおりまして、あるショップがアロマを勧めたらとても気分が楽になったと言うんです。そういう悩みを抱えている女性は多いと思いますので、いま言ったショップさんと有機的な連携ができれば、お互いに売り上げも上がるし、お客様も幸せになれると思うんです。弊社のシステムを使えばお客様の質問も簡単に受けられますし、リピーターも増えると思います」

「すごい。さすが相原社長ですね。もし、それが実現できたらって思うとドキドキします」

 女は目を輝かせた。

 友梨にとってみれば、そういった提案をするのが仕事であったし、アダルトグッズのショップを扱うのに難色を示す社員に対しても説得材料になる。

「で、商品ですが・・・」

「はい。すでにご存じと思いますがバイブレーターとローター、そしてローションが主力商品になります。メーカーへの特注でかわいらしいデザインにこだわったオリジナルなんです」

 女はパッケージに入ったバイブレーターなどをテーブルの上に並べた。

「ほんと。こうして見るとかわいいですね」

 細長い団子を3つ並べたようなデザイン。ちょっとだけ先端が曲がって尖っている。色もパステルを基調にしたものばかりだ。

「でしょ。機能だってすごいんです。サイトに載っているレポートだって本物なんです。社員も・・・恥ずかしいけど・・・言っちゃうと、私も体験談を書いているんです。でも、サイトだと、それが本当だと伝わらないことが多いので御社にサポートをお願いしようと思ったんです。よろしくお願いします」

 女は頭を下げる。

「振動だって統計を元に調整してあるんです。それに他社製品と違って音も静かなんです」

 女はスイッチを入れたバイブレーターを友梨に手渡す。

 友梨は商品を手に取っただけで胸の中にざわめきを感じていた。夢の中で命令されたことが現実になろうとしていた。

「あ・・・あの・・・」

「なんでしょう?」

「勝手を言って申し訳ないのですが、できれば2セットご用意いただけないでしょうか? 会議での資料用と、その・・・社員のモニター用に・・・誰が、どれを試したかわからないようにしたいんです」

「もちろんです。ご用意いたします」

 女は立ち上がって応接室を出て行った。

 友梨はため息をついた。1セットは自分用なのだ。指に伝わる振動が痺れるようだった。この淡いブルーのバイブレーターが自分の中へ入ってくるところを想像すると秘肉が疼いた。

 こうして友梨はバイブレーターとオモチャ一式を手に入れた。帰社する途中で1セットは自分のバッグへ入れた。会議で友梨の提案は好意的に受け入れられ、アイフィールドのパートナーがまた一社増えることになりそうだった。誰もがオモチャを見てモニターになるとは言わなかったが興味があるのは明らだった。友梨がトイレに置いておくから、興味がある人は持ち帰って書面でレポートを提出するように言うと誰もがうなずいてなにも言わなくなった。

 そして、その夜、友梨は早めに帰宅した。どうしてもあれを試してみたかった。それが運命なのだとさえ思った。それほど夢の中での言葉に友梨は支配されていた。

 スイッチを入れる。

 蜂の羽音のような音が部屋に響いた。

 意識していないのに服を脱いで全裸になりベッドの上にいた。

「はぁん・・・」

 バイブレーターの先端を乳首に当てるとピリピリと蜜壺の奥まで痺れた。

「すごい・・・」

 友梨は峯に乳首を吸われることを想像していた。

「峯さん・・・」

 名前を呼ぶと子宮のあたりに火が点ったような気がした。

 夢で見たシーンをイメージすると疼きが増した。

 気がつけば大きく脚を開いてバイブレーターを秘肉に押し当てていた。

 友梨は会社のデスクでされていたことを思い出していた。

 峯の舌使い、峯の屹立、峯の律動。たまらずバイブレーターを挿入してしまう。

「ああんっ!」

 さすがに女性がデザインしたという製品だけあってスムーズに入り込んでしまう。そして、むず痒さにも似た快感が下半身に広がる。

「ああっ! なに・・・これ・・・ああっ!」

 段になった部分の二つ目が入ったとき経験したことのない感覚に襲われて友梨は喘いだ。「ここでGスポットを刺激するんです」と言って先端の尖った部分を撫でた女の言葉を思い出した。

「ああっ! あんっ!」

 たまらず声が出てしまう。

「ああんっ!」

 二股になった子機のブラシになったような部分がクリトリスに当たった。

 友梨は両手でバイブレーターを握りしめて小刻みに動かしていた。蜜壺の中の疼きが腰骨に伝わり、それが背骨を通じて脳まで達した。

 やってくる絶頂の兆しに頭の中が白くなった。

「あぁぁぁぁぁぁっ!」

 何度も身体が跳ねた。

 無意識に友梨はバイブレーターを放りだして、しばらく続く絶頂感に身を委ねる。

「これ・・・いいかも・・・」

 ショップの応接室で「ひとりエッチは身体にいいんです。ストレスが軽減されるし、よく眠れて化粧のノリもよくなるんですよ」と言った女の笑顔が思い出された。たしかに爽快感がある。友梨は売り方次第でブレイクするのではないかと思った。

「きっと、夢のお告げね」

 友梨は夢に出てきた峯に感謝していた。

 そして、今夜も夢に出てきて欲しいと願っていた。

決意

 そのころ峯は社内でコーディング作業に追われていた。疲れた身体のせいで仕事は遅々として進まなかった。モニターに並ぶ文字の列を見ていると目眩がする。普通なら一週間かかる作業なのに見栄を張って三日か四日で終わらせると言った自分を後悔していた。

 ひと区切りをなんとか終わらせたときは立てなかった。

 それでも友梨のところへ行きたかった。暗示を与えた結果に興味があったのだ。次の瞬間、まるで何かに取り憑かれたようだと思い直した。少し冷静になり、今日は友梨のところへは行かないと決めた。

 友梨の望みを峯が知る手立てはない。それは皮肉としか言いようがない。

 女の言うとおり友梨はよく眠れた。バイブレーターを使った後、シャワーを浴びてベッドに入ると瞬時に眠りに落ちた。そして夢も見ずに目が覚めた。爽やかな朝だったが残念だった。また峯に犯されたかった。現実では無理なことでも夢の中なら楽しめるのに。そう思いながら友梨は身支度を調える。

 出勤して忙しく働いているときはいいのだが、ふと気がつくと友梨は峯のことを考えていた。コーディングが終了するのには三日か四日かかると言っていたから、まだ会えない。そこまで考えて夢と現実を混同してしまっている自分に気がつき苦笑する。

「社長、どうしたんですか?」

 古株の社員、伊東麻衣子に聞かれる。

「えっ、どうして?」

「だって、なにか思い出してニヤニヤしてるから」

「そうかしら?」

「なにか、いいことあったりして。もしかして彼氏ができたとか」

 麻衣子は長い付き合いだから友梨のことは何でも知っている。

「そんなんじゃないわ」

 笑って返すが、峯のことばかりを考えている。さっきも、峯の舌使いを思い出していたのだ。夢の話なのだから恋ではない。でも、まるで中毒みたいだと思って友梨は話題を変えた。

「ねえ、麻衣子。久しぶりにランチ行かない? 話したいことがあるの」

 友梨は古い付き合いの伊東麻衣子のことをプライベートのときはファーストネームで呼ぶ。

「いいけど、やっぱり彼氏?」

 ほとんど仕事一筋でやってきた友梨にとって麻衣子は数少ない友人の一人だ。アフターファイブならいざ知らず、ランチで相談事がしたいというのはタダゴトではないと麻衣子は思った。

「違うわよ。ちょっとね・・・」

 友梨は言葉を濁す。自分でも考えがまとまらないのだ。

 二人は12時少し前に近所のイタリアンレストランへ入った。

「そろそろ女性スタッフだけじゃ限界があるって思うんだけど」

 友梨はそう切り出した。

「どういうこと?」

「いままで技術的なことは私が担当してきたでしょ。って言うか、理解できる人がいなかった。募集しても適当な人が見つからなかったし」

 友梨は理学部から商社に就職した変わり種だ。まわりにはシステムのことを理解できる人材がいなかったから社長としての職務と兼任していた。

「な~んだ、仕事の話じゃない。私、てっきり・・・」

「男性社員を入れたらまとまりがなくなっちゃうか心配なの」

「ということは、もう具体的に誰か決めているのね」

 友梨がヘッドハンティングで会社を大きくしてきた経緯を麻衣子はよく知っている。

「インテリジェンスサービスの峯さん。彼なら適任だと思う」

 人材が欲しいのは事実だが、それより峯をそばに置きたいという気持ちの方が強かった。

「あっ・・・いい人だけど・・・ちょっと問題アリかも・・・」

「どうして?」

「友梨、気がついてないの?」

「なにを? いい人に見えるけど」

「ほんと、あなたって仕事はできるのに、そっちには疎いんだから」

「どういうこと?」

「彼ったら、あなたにぞっこんなのよ。あっちの会社でも評判。うちでも知らないのは友梨、あなたくらいよ。だから誘えばOKだと思うけど、あなた責任とれるの?」

「ええっ!」

 友梨の顔が真っ赤になる。

「もう。しっかりしてよ。で、それでも峯さんを入れる覚悟はあるの? だったら応援するけど」

「どうしよう・・・」

「ちょっと草食系だけど、わりとハンサムだし、仕事はできるから友梨にはお似合いだと思うけど」

「困ったわ・・・」

「いっそのこと、プライベートでもハンティングしちゃったら?」

 麻衣子が笑う。

「そんな・・・相手の気持ちも確かめなきゃ」

「あら、ってことは友梨、あなたはOKなんだ。なら問題ないじゃない」

「勝手に決めないでよ・・・」

 いつの間にか友梨の口調は少女のそれになっていた。

「マジメな話、男性社員を入れるのは賛成。それが峯さんならなおさら。でも、ひさしぶりに全社会議を開かなきゃならないわね」

「どうして?」

「そりゃ、全社一丸になって相原社長を応援するためよ。そうじゃないと、峯さんを他の誰かに取られちゃうかもしれないでしょ。友梨は知らないでしょうけど、峯さんってわりと人気があるの。我が社には適齢期の女性がいっぱいいるのよ」

 麻衣子がいたずらっぽく笑う。それだけ友梨は社員に好かれているのだ。

 友梨は悩んだ。たしかに悪い気はしなかった。本当に峯が自分のことを好きなら、それはうれしい。しかし、犯されて感じてしまう夢を見ている自分を知られるのが怖かった。もし、本当に峯と付き合ったら本性をさらけ出してしまうような気がした。

「ねえ」

 出された皿に手をつけない友梨に麻衣子が言った。

「なに?」

「ホントに峯さんの気持ちに気がつかなかったの?」

 友梨がうなずく。

「じゃあ、純粋に彼の能力を評価したってワケ?」

 返事に困った。

「すこしは彼のこと気になってたってこと?」

 こんどはうなずく。しかし「すこし」どころではない。夢の中でとはいえ友梨は峯に犯されることを渇望していた。その妄想を持続させたいがために峯を身辺に置いておきたかったのだ。

「どうしよう・・・」

「女子高生みたい」

 麻衣子の言葉は友だちらしく辛辣で的確で好意にあふれていた。

「えっ?」

「友梨の仕事はスゴイと思う。でも、恋愛に関してはちょっと心配なんだよね。奥手って言うより・・・なんかウブすぎちゃって・・・放っておけない感じなんだよねぇ」

「う・・・ん・・・」

「前の彼氏だって、言っちゃ悪いけどチャラ男で、友梨には似合わないって思ってた」

「麻衣子、ちょっと待って」

「なによ?」

「峯さんと付き合うとか決めたわけじゃないの。技術系の人材が欲しいって思ったとき真っ先に彼のことが浮かんだだけで・・・」

「そんなこと言って告白られたらどうするの? それを受け入れる覚悟がなかったら蛇の生殺しよ。友梨に付き合う気がないんだったらやめた方がいいと思う。あなたに断られたら会社にもいられなくなっちゃうし」

「ほんとに峯さん、私のこと・・・」

「まったく、処置なしね」

 麻衣子は首をすくめた。

 友梨は決心がつかないまま会社に戻った。明日か明後日、峯が来たときに考えようと思った。本人を目の前にすれば考えがまとまるかもしれない。麻衣子から峯が自分のことを好きなんだと聞かされて心が揺れていた。夢と現実のギャップが埋まることを想像すると秘肉が疼いた。

 仕事が終わり部屋に帰ると友梨はまたバイブレーターを使って自分を慰めた。一度だけではもの足りず、絶頂を迎えた後もバイブレーターを挿し続けて二度、三度と快楽を貪った。そして、同じ夢を見たいと願いながら眠りについた。

「私がモニターしてあげるよ」

 麻衣子が言った。

「えっ・・・?」

「だって決心がつかないんでしょ? 私が味見してレポートしてあげる。そしたら安心でしょ?」

「なにが?」

「峯さんのことよ。でも、上手すぎて友梨に渡せなくなっちゃったりして」

 麻衣子は、いたずらっ子のような目をしてニヤリと笑う。

「やめて! そんなの・・・」

「モニターするのは我が社のポリシーじゃない」

「だめ! そんなの、だめ!」

 友梨が叫ぶ。

「ちょうどいい。峯さんが来た。峯さ~ん・・・」

 麻衣子は会社の入り口に立つ峯の方へ走っていく。そして「いつもお世話になります」と言って頭を下げた峯に抱きついた。

「やめてぇっ!」

 友梨は叫んだ。そしてガバリと跳ね起きた。

「夢・・・」

 汗びっしょりだった。

 カーテンの隙間から朝の低い光が漏れていた。

 夢の中で峯の姿を見たときの疼きが残っていた。

「峯さん・・・」

 友梨はベッドの引き出しに入れたバイブレーターを取り出していた。

 汗で濡れたスエットを脱ぐ。

「見て・・・ください・・・」

 友梨は自分の目の前でオナニーしろと命令した峯を思い浮かべながらバイブレーターのスイッチを入れる。

 ヴィ~~~ン

 モーター音を聞いただけで蜜があふれた。

「はぅっ!」

 一気に挿す。

 振動が友梨の感覚を押し上げていく。

 バイブレーターの冷たさが本物とは違う快感をもたらしていた。

 登り詰めながら友梨は峯の熱い屹立が欲しいと思った。舐めまわし、味わってから蜜壺を満たして欲しかった。

「いやぁぁぁぁっ!」

 絶頂を迎えながら、それが夢の中の記憶だということを思い出していた。

「どうしちゃったのかしら・・・わたし・・・」

 余韻に浸りながら友梨はつぶやいた。自慰に耽ることなどいままでなかった。しかも朝なんて。自分が自分でなくなってしまったようだった。

 峯に会いたかった。夢の中で叶えられなかった無念さを会うことで満たしたいと思った。もう夢と現実の区別がつかなくなっていた。

 仕事をしていても、いつもどこかで峯のことを考えていた。麻衣子に言われたことも気になるし、峯の顔が見たかった。作業が終わるまではまだ日数がある。それまでは我慢しないといけない。友梨は気持ちを切り替えて仕事に集中した。

 その日も峯からの連絡はなかった。

支配

 帰宅した友梨はバイブレーターを引き出しの奥に仕舞った。麻衣子の話を聞いてから現実の峯について考えたからだった。もし、こんなことをしているのがわかってしまったら、そう思うと恥ずかしさで顔から火が出そうだった。

 ほんの少しだけお酒を飲んでベッドに入る。そうしないと眠れそうもなかった。

 気がつくと夢の中だった。

「わたし・・・これで・・・」

 友梨はバイブレーターを目の前にいる峯に見せた。

「いい子だ。言いつけを守ったんだね」

「はい」

「で、どうだった?」

「あの・・・峯さんのことを思い出しながら・・・」

「したんだ?」

「はい」

「気持ちよかった? 約束は覚えてるね?」

「はい」

 峯の笑顔を見ていると、それだけで下半身が熱くなった。

「見て・・・ください・・・」

 友梨はスーツを脱ぎはじめる。

 今日は自分の部屋にいた。ワードローブにハンガーに掛けたスーツを仕舞い、下着を取り去って友梨は全裸になる。そしてベッドに上がって膝をついた。

 峯は化粧台の椅子に座ってこっちを見ている。

 それを確かめた友梨はおもむろにバイブレーターを股間に押し当てた。

「あんっ・・・」

 思わず甘い声が漏れる。

 ひとりでするよりも数倍は感じた。見られることが、これほどの快感を呼ぶとは思ってもみなかった。

「いやぁ・・・」

 先端がGスポットに触れ、身体が震えはじめる。

 また峯の方を見る。

 視線が合ったとき最初の波に襲われた。

「ああっ! あぁぁぁんっ!」

 勝手に腰が跳ねるように動いてしまう。

「見られると感じるんだね?」

 峯は笑みを浮かべながら言う。

「そ・・・そうです・・・ああっ!」

 友梨はバイブレーターを入れたまま答えた。

「相原社長って、こんなにスケベだったんだ」

「ち、ちがうの・・・こんなの・・・ああっ! はじめて・・・なの・・・」

「外注先の男に見られてうれしいなんて」

 峯がニヤリと笑う。

「やっ・・・言わないで・・・」

「ダメだね。こんどは相原社長の口から聞きたいな。私は淫らで恥ずかしい女だって」

「や・・・やめて・・・」

「手を休めちゃダメだ!」

「は・・・はい・・・あっ! いやっ!」

 強い口調に反応して手を動かし友梨は喘いだ。

「言わないなら終わりにしよう。嫌なんだろう? 僕は出ていくよ。ひとりで楽しんでいればいい」

 峯にとって、そう言ったのは一種の賭だった。出て行くのを嫌がって言うことを聞くのならば峯の存在が深層心理に刻み込まれた証拠になる。

「い・・・言います・・・」

 泣きそうな声で答える友梨の言葉を聞いて「やった」と思った。

「わたし・・・峯さんに犯されて感じる・・・淫らな女なんです・・・だから・・・行かないで・・・」

 予想を超える言葉に峯は有頂天になった。

 友梨にしてみれば夢なのだからすべてを晒け出してしまいたいという思いがある。

「だったら、しゃぶってもらおうか」

 峯はズボンを脱いで仁王立ちになった。

 友梨は無言で峯ににじり寄って愛おしそうに屹立をひと撫ですると躊躇うことなく口にふくんだ。

 ねっとりと這いまわる舌の感覚と、憧れの友梨が自分のものをくわえている光景に峯は昂ぶる。

 友梨はといえば、まるで口の中が性感帯になったように感じていた。屹立が熱い。これが自分の内部へ入ってくることを想像するとたまらなくなって熱心にしゃぶった。

 飲ませるか、それとも顔にかけるか、峯は悩んだ。自分が出したものが友梨の体内に入っていくのは魅力的だが、顔にかける方がこれからの関係にふさわしく思えた。

「相原社長、顔にかけてあげるよ。ちょっと離れて」

 なにも考えられないのか、友梨は峯の言うとおりに行動する。

 屹立を二、三度しごくと勢いよく噴出した精液が友梨の額や頬にかかった。

 その瞬間、友梨は衝撃を受けたように震えた。

「いままで顔にかけられたことは?」

「ありません・・・」

「そうか・・・飲んだことは?」

「ないです・・・」

「だったら飲んでもらおう」

「はい・・・」

 友梨はしたたり落ちる精液を指ですくって、ちょっと確かめるように見ると、その指を口に運んだ。

「うまいか?」

「はい・・・」

「それを飲んだからには、もう僕から離れられなくなる。わかるね、相原社長?」

「いや・・・名前で・・・呼んでください・・・」

「友梨って呼び捨てにされたいんだな?」

「そうです・・・私は・・・もう・・・峯さんから離れられない・・・」

 まるで催眠術のようだと峯は思った。この分なら現実でも友梨を支配できそうだ。

「じゃあ、友梨」

「はい」

 友梨の口調は従順そのものだ。その声を聞いて、峯はもっと証が欲しいと思った。

「また、これをしゃぶるんだ。大きくなるまで」

「わかりました」

「どうせなら友梨もかわいがってあげよう。僕の上に跨って」

 峯はベッドに仰向けになった。

「そうじゃない・・・こっちに尻を向けるんだ」

 峯はシックスナインの体勢になるよう指示する。

「そんな・・・」

「なんだ?」

「あの・・・はずかしい・・・んです・・・」

「いいから。言うとおりにしろ!」

「はい」

 少し口調を強めると友梨はビクンと震えて躊躇いがちに指示に従った。

 目の前に友梨の秘所が迫る。秘肉が濡れて光っている。その上に見える蕾のようなアヌスを見て峯は思わずそこを舐めた。

「いやぁっ! そ・・・そこは・・・」

 友梨は反射的に腰をずらして逃げる。

「いやなのか?」

「あ・・・そこは・・・きたないところだから・・・」

「僕は友梨のすべてが欲しい。いや、友梨は僕にすべてを与えなきゃならないんだ。そうだね?」

「あ・・・はい・・・」

「だったら、元の位置に」

「わかり・・・ました・・・」

「ここは、まだ誰も触ったことがないんだね?」

「ああっ! はい・・・」

 峯が中指でアヌスを撫でながら言うと、友梨は羞恥に震えながら答えた。

「ここも僕のものだ。それを思い知らせてあげよう」

 そう言って峯は舌先でアヌスを突くように舐めた。

「ああっ! だめぇぇぇっ!」

 言葉とは裏腹にその声は甘い。

「あっ! ああっ!」

 舌先を挿し込むと友梨はたまらず喘いだ。

「感じるんだね?」

「し、知らなかったの・・・」

 峯が舌を抜いて言うと友梨はそう答えた。

「教えてあげよう。もう友梨は僕のものだ」

 峯はそう言って中指をアヌスに挿入した。

「いやぁぁぁっ!」

 友梨が叫ぶ。

「ほら、口が留守になってるぞ。しゃぶるんだ!」

「は・・・はい・・・あうぅぅっ!」

 挿れた中指を回転させると、友梨は悶えながら峯のものを口にふくんだ。

「こっちも、かわいがってやるから丁寧にしゃぶるんだぞ」

 峯は親指を蜜壺に挿入して、二つの穴を隔てる肉の壁をつまんだり擦ったりした。

「んんっ! んぐぅっ!」

 口いっぱいに屹立を頬張っているので友梨の喘ぎは声にならない。

 中途半端に萎えていた峯のものが硬度を取り戻していく。

 峯は空いた手でベッドの上に置かれたバイブレーターをつかむ。

「もういい。やめるんだ」

 感じすぎてしまい、友梨はさっきのように丁寧に舐められないでいた。叱られるのではないかと思って怯えてしまう。

「そのままでいるんだ」

「はい・・・」

 友梨を四つん這いにさせたまま、峯は身体をずらして移動した。そして友梨の後ろに膝をつく。

「いい眺めだ。まずは、こっちから・・・」

「あぁぁぁぁっ!」

 いきなり蜜壺へバイブレーターを挿入されて友梨は叫んだ。

 ヒクヒクと痙攣するアヌスを見て峯は残忍とも言える笑みを浮かべる。

「そしてこっちだ」

 峯は屹立をアヌスにあてがった。

「いやっ! うそ・・・そんな・・・あぁぁぁぁっ!」

 屹立が沈み込んでいくのと同時に友梨は甘い叫び声をあげる。

「い・・・いっぱいに・・・ああっ! いやっ! 奥に・・・ああんっ!!」

 身体をうねらせるようにして友梨は悶えた。

「犯されたいんだろう?」

 その言葉を聞いて友梨は震えた。

「ああっ! そうです・・・犯して・・・犯してください・・・ああ・・・」

 犯すという言葉に友梨は酔った。

「ああっ! だめ・・・いく・・・いっちゃうぅぅぅぅっ!!」

 ビクン、ビクンと友梨は大きく痙攣した。

 釣られて峯も放出した。まるで身体の芯が抜けていくような感じがした。

「あぅ・・・うう・・・」

 友梨は突っ伏して余韻に浸っている。

 抜け落ちたバイブレーターがまだ音を立てている。

 そんな友梨の姿を眺めながら、夢の中のはずなのに思うように動かない身体に峯は戸惑っていた。

 このまま意識が消えそうな気がした。危険なものを感じて本体に戻る。

 トランクスの中に仕込んだタオルのおかげで汚れはそれほどでもなかったが、身体が異様に重く感じた。リアシートでうずくまったまま、峯は身動きができなかった。意識の浮遊は本体の体力に依存しているらしい。そして離脱した意識が夢に入り射精するのは、通常の射精より数十倍も体力を使うようだった。

 1時間ほどクルマの中で休んだ峯は、やっとの思いで立ち上がって運転席に移った。もう夜が明けかけている。部屋に戻っても、せいぜい3時間くらいしか眠れない。それに、友梨と約束したコーディング作業も待っている。三日か四日で仕上げると言ってしまった。体力が保つか不安になる。なんだか生命の灯火が消えていくような疲れ方なのだ。

 必死になってクルマを運転した峯は自分の部屋へ戻るとベッドの上に倒れて、そのまま眠ってしまった。

昏倒

 次の日の6時少し前に友梨のデスクで内線が鳴った。

「インテリジェンスサービスの井上です。お世話になります」

 受話器から聞こえてきたのは峯の声ではなかった。

「あの・・・峯さんは・・・」

 応接室で友梨はひとこと目に聞いた。

「すみません。ちょっと都合がつかなくて・・・でも、ご安心ください。コーディングは終了していますので、ご報告とご確認に参りました」

 井上は持参したラップトップを開く。

「はあ・・・」

 友梨は釈然としない気持ちで席についた。

 井上の説明を聞いても、いまひとつ乗れない。来られないのなら電話の一本くらい欲しかった。できれば食事に誘って転職の打診をしようかと思っていたのだ。

「あの・・・ここのボタンですが、別の説明ページに飛んじゃうんですけど」

 それでも仕事は仕事。友梨は動作の間違いに気がついた。

「あっ! ほんとだ。まいったなぁ・・・」

 井上の顔が曇る。

「どうしてですか? リンク先とかを書き換えるだけで済みそうですが」

「いや、これ、峯が組んだシステムで、あいつじゃないと直せないんです」

「だったら、そう伝えてもらえれば」

「じつはですねぇ・・・あいつ過労で倒れちゃったんです」

「ええっ!」

「言わないでくれって念を押されて引き継いだんですが・・・」

「あ・・・あの・・・どんな具合なんですか?」

「問題が見つかっちゃったから言わないわけにはいかないですね。あいつ、どうやら徹夜を続けていたらしくて、昼過ぎに倒れて救急車で病院に運ばれたんです。この程度の問題ならすぐに解決できると思いますので少し猶予をいただけませんか? 奴なら責任感が強いからなんとかしてくれるはずです」

 井上は仕事のことを気にしてそう言ったが、友梨の心は峯のことしかなかった。

「どこの病院に?」

「ええと広尾の日赤病院ですが・・・」

 友梨に気圧されて井上は答えてしまう。

「公開は一ヶ月延期します。もちろん契約はそのままで」

「ありがとうございます。では、社に戻って報告しますが、たぶん、そこまでは延ばさないでも大丈夫だと思いますよ。明日にでも解決できるかもしれませんし。とにかく間に合うよう努力します」

 井上はそう言って立ち上がると頭を下げた。

 友梨は井上を見送るとすぐにタクシーに乗った。

 病室にたどり着くと看護師が点滴を替えているところだった。ベッドの空きがないらしく個室が割り当てられていた。

「あの・・・峯さんの容体は・・・」

「いま薬で眠っています。どちらさまですか?」

「取引先の者なんですが、うちの仕事で無理をさせて倒れたって聞いたものですから・・・どんな具合なんでしょう?」

「あの、患者さんのことは決まりがあってお話しできないんです」

「お願いします。取引先なんですが・・・あの・・・峯さんは私の大切な人で・・・お願いします」

 友梨の目には涙があふれていた。

「恋人・・・なんですか?」

「はい」

 たぶん、友梨は物心ついてから初めて嘘をついた。嘘ではなく願望かもしれなかった。

「あの・・・これから話すことは私の独り言です。いいですね?」

 取り乱す友梨に同情した看護師は静かに言った。

 友梨がうなずく。

「峯さんは衰弱の度合いが普通ではありませんでした。先生は他の病気があるのではないかと疑って検査を終わらせたところです。結果が出るには時間がかかるので、それまでは入院することになりました」

 看護師は友梨の顔を見ずに言った。

 その言葉を聞いた友梨は青ざめた。

「あの・・・付き添っていてもいいでしょうか?」

「面会時間は8時までですから、それまでなら」

 看護師はそれだけ言うと病室から出て行った。

「峯さん・・・」

 あらためて見る峯の顔は目の下に隈ができ、頬も窪んでいる。

「こんなに無理をしなくても・・・」

 友梨はゲッソリと痩せてしまった峯の頬を手のひらで撫でた。

 涙がポロポロとこぼれた。

「ごめんなさい。ほんとうに、ごめんなさい・・・」

 次から次へと涙があふれてくる。

 友梨は峯の半開きになった唇をなぞった。乾いてカサカサした感触にたまらなくなり自分の唇を寄せる。

 峯の唇に触れる寸前、ドアの外で人の気配がして、友梨は真っ直ぐに椅子に座り直した。

 ドアを開けたのは峯の上司だった。

「あ・・・相原社長・・・どうして?」

「お世話になります。そして、このたびは申し訳ありませんでした」

 友梨は立ち上がって深々と頭を下げた。

「あっ、いえ、ご迷惑をかけたのはこちらです。相原社長、お顔をあげてください。ちょっと根を詰めすぎただけですから。よくあることです」

「そんな・・・」

「いや、峯は真面目な男ですから、一生懸命になりすぎたんでしょう。これで自己管理ができるようになれば一人前です。ですから、どうかお気になさらずに」

 男はズボンのポケットからハンカチを出して額の汗を拭いた。

 斉藤という名前だったはずだ。赤ら顔で小太りの、いかにも中間管理職という感じの風体の男が汗を拭く姿は滑稽ですらあった。

「よくあるんでしょうか? こんなことが・・・」

「よくあるというのは言い過ぎですが・・・我々の現場は時間に追われてしまうことが多くて・・・いや、お気に障ったのなら取り消します」

 男は慌てた様子で言った。

 友梨は、この男と話しても埒が明かないと思った。

「峯さんは薬で眠っているそうなので、あらためてお見舞いに来ようと思います。くれぐれもお大事にとお伝えください。これで失礼します」

 友梨はそう言って頭を下げる。

「こちらこそ、ご丁寧に恐れ入ります。最善を尽くしますので、なにとぞ・・・」

「わかっております」

 友梨は最後の言葉をそう言って封じて病室を後にした。

 ため息が出た。気が沈んで自分の部屋へ帰る気もしない。友梨はあてもなく歩いた。そして麻衣子に電話した。

「それってマジ恋じゃない」

 西麻布のバーで麻衣子が言った。

「わからない・・・」

 夢のことまでは話していない。考えてみれば夢の話抜きで状況を説明すれば、そう思われて当然だと友梨は思った。

「友梨も乙女だったんだ。でも、倒れるまで仕事してくれたら胸キュンになっても仕方ないか」

 麻衣子はいたずらっぽく笑う。

「なんか、すごい罪悪感・・・」

「応援するからさ。引き取っちゃおうよ」

「でも・・・」

「なに悩んでんの? 友梨らしくないぞ。それとも、やっぱり初めての男性社員だから? 問題ないよ」

「そうね」

 仕事では即断即決を身上にしている友梨だった。技術的なことを担当してくれる社員が欲しいのは事実だ。峯なら申し分ない。

「決めたわ」

 そう言うと気持ちがスッキリした。

「おめでとう」

「なにが?」

「だって」

 麻衣子が笑う。

「そんなんじゃないわ」

「おごってもらおう。マスター、ドライマティーニもう一杯ね。ごちそうさま」

「もう」

 自分は峯のそばにいたいのだ。だったら躊躇うことはないと友梨は決心した。

 そのころ峯の意識は病室を彷徨っていた。

 医者と看護師が青ざめた顔でなにやら調べている。

 友梨に頬を撫でられたとき意識が離脱した。

 友梨が唇を重ねようとしているのを見て、夢の中でやったことの結果に驚いていた。

 すぐに抱き返したかったが身体は動かない。

 そして、戻ろうとしても戻れなかった。

「くそっ! どうしてだ・・・」

 意識を身体に重ねようとしても突き抜けてしまう。

 そのまま峯は友梨と部長のやりとりを聞き、友梨の後を追った。病院から離れると全身に痛みを感じてピーッという電子音の警告が聞こえた。

「峯! どうした・・・いま看護師さんを呼んでくる」

 泡を喰らったような上司の声。

「峯さん! 峯さん! 聞こえますか!?」

 耳元で女の声が聞こえる。

「いかん。脳波が・・・」

 しばらくすると、男の声が聞こえた。

 あわてて病室へ戻ったときには医者と看護師に囲まれていた。

「原因がわからん。MRIにかけるぞ。準備を!」

 切羽詰まった声で医者が叫んでいる。

「ただの衰弱じゃない。こんな症例は見たことも聞いたこともない」

「安定剤の副作用ですかね?」

「憶測でものを言うな! 異常は見あたらないのに・・・脳波がないというのは・・・」

 MRIの画像を見る部屋で交わされている会話を峯は一緒に聞いていた。

 やり過ぎたのかもしれないと峯は思った。意識を離脱させるなんていう不自然なことを連日やっていたのだ。身体に戻るたび経験したことのない疲れと怠さを感じた。最後のときには命の危険すら感じた。戻れるのだろうかという不安に襲われる。

「これじゃあムンテラもできない」

「どうしますか?」

「とにかく身内の方を呼ぶしかないだろう。HCUに移す手続きを」

 峯は原因不明の脳死と診断された。

 仮眠している医者や看護師の夢の中へ入り込み、なんとか自分の状況を説明しようとしたが無駄だった。衰弱した身体では意識も弱くなってしまうらしく、そのうち夢に侵入することもできなくなった。

 そして、峯の意識は、たまに見舞に来てくれる友梨の姿を見ることだけが楽しみで病室を彷徨っている。

 日ごとに衰えていく自分の姿を見つめながら。

< 終 >

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