第一話
カタ……カタカタ……
無機質なオフィスの中で、タイピングのさざめきがこだまする。ここは日本有数のコングロマリット、三月商事の子会社のオフィスである。
当たり障りのないスーツ姿の、画一的な外見の人間が行き交う部屋で、やおら目を引く姿の女がいた。
水野春菜。T大を主席で出て、26歳という若さで支社に出向して、課長職に就いた才媛である。
だが、春菜を最初に見た者は、その経歴よりもまず外観に意識を取られるだろう。
160を越える身長に、抜群のプロポーション。豊かなバストがスーツ生地を横に伸ばし、タイトスカートから伸びる足は豊かな臀部にかけて見事なラインを形作っている。
後ろでくくった髪は、切れ長の瞳が特徴的な、強気な顔つきとよく合っている。
春菜が所属しているのは、『社史編纂科』という冴えない感じの部署だ。部下は数人で、しかも普段はさまざまな部署の応援にかり出されている。春菜は一見してほとんどお飾りであり、それゆえに彼女が幹部の愛人ではないかという噂もまことしやかに流れている。
しかし真実は違う。
春菜は、三月本社の内部監査室の一員であり、あまりにも巨大になりすぎた会社内部に巣くう不正を摘発するため、仕事内容が不明瞭な部署でセクションの垣根を越えて活動しているのである。
今現在も、この支社の経理について内部監査を進めているところである。さまざまなところから入ってくる数字と、上層部が把握する金の流れをつきあわせて、そこに存在する(であろう)不正を暴こうとしているのだ。
「水野課長」
一人で黙々と作業している春菜の元に、お茶くみ女子社員──男女平等が叫ばれる今、だいぶ廃れはしたが、昭和の体質が強い商事系企業ではまだまだ健在だ──がデスクにやってきた。
「毒島専務がお呼びです」
「……専務が?」
女性としては、やや低めの声。
「は、はい。特に用事の内容とかは」
春菜とたいして変わらない年齢のはずだが、女子社員はガチガチに緊張している。春菜のまとっている、鋭利な雰囲気が原因だろうか。
「わかった、ありがとう」
短く言って、春菜は席を立った。
【水野春菜】
私は毒島専務の部屋に向かっていた。
(……感づかれたか?)
私が今監査を行っている対象、それがまさに毒島専務だ。
彼の周りの金の流れは、あきらかに不正を示している。巨額の使途不明金、交際費、私物が疑われる備品の購入……。だが毒島専務は、決定的な尻尾をつかませない。なので私が半年前にこの会社に派遣されたのだ。
不自然な人事異動なのはあきらかだ。だから彼が私の正体を勘ぐるのは自然でもある。
(毒島国悦……か)
私は専務室に向かいながら、彼についての情報をおさらいしていた。
57歳、独身。身長158センチ79キロ。W大出身のち、この支社へ配属。
責任転嫁と、手柄の横取りで専務までのし上がってきた人物だ。危険察知能力は人並み以上だろう。
(しかしそんな男がわざわざ私を部屋に呼ぶ……なにか企んでるとしか思えないな)
むしろそれは好都合だった。セクハラのような、わかりやすい弱みを握ることができれば、その時点でゲームセットだ。毒島専務は自分で自分の首をしめることになるだろう。
「水野です。失礼します」
ノックして部屋に入る。
そこには独特の空間が広がっていた。机や応接ソファなどは普通の社用のものだが、壁に謎のタペストリーのようなものが無数にかかっており、香料でも焚いているのだろうか、甘ったるいにおいが漂っている。そして壁のスピーカーから謎の太鼓のような音が鳴っている。
(なんだこの部屋は)
役員室を私物化するにしてもひどい。社内法に触れているわけではないが──単純にセンスが死んでいる。
そんな部屋の奥に、主がいた。
「おぉ、水野課長。よくきてくれた。ぐっふっふ」
毒島は、目玉がぎょろりと飛び出ており、唇は分厚く顎はしゃくれている。
この顔を見るたびに、春菜は小さい頃図鑑で見た深海魚を思い出す。
「……なにかご用ですか」
「まあ座ってくれたまえ。どれお茶を入れよう」
「あの、スケジュールが詰まっているので、できれば用件を──」
「そう言うな。このお茶は去年ワシがインドネシアで買ってきた茶で、結構高い茶だぞ」
そう言いながら毒島は急須にポットで茶を入れた。
(そういえばこの男、定期的に東南アジアで児童買春をしていると報告にあったな)
この壁にかけてあるものたちも、その時の戦利品だろう。春菜はタペストリーを片っ端から引っぺがしたくなる衝動を抑え込んだ。不承不承といった体でソファーに座る。
(さて、出方をうかがおうか)
二人はガラス製の長テーブルを挟んで向かい合った。
春菜は毒島の無遠慮な視線が、身体を這い回るのを感じる。
(男なんて、誰でも同じだな)
昔からこの手の視線には慣れてきた。それに、他人の粗を探す仕事では、性的なアクションは今後の関係においてイニシアティブを取るのに役立つので、むしろ歓迎である。
「まあゆっくりくつろいでくれ」
そう言いながら、毒島は茶を啜った。
(何か盛られているということはなさそうね)
春菜は武術のたしなみもあるので、男相手でもそうやすやすと組み伏せられたりはしないが、睡眠薬系にだけは気をつけなくてはいけない。同じ急須から注がれた茶を毒島本人は気にせず呑んでいるし、何かを混入した気配もなさそうだ。
仕方ないので春菜も湯飲みに口をつける。
「これは……不思議な味ですね」
どちらかというとジャスミンに近い風味のある、想像していたよりもずっと優しい味だ。
「気に入ってもらえたなら何よりだ。もうここには慣れたかね」
「……はい、だいぶ慣れました」
「それはいい。この会社では年末にゴルフコンペがあるんだが、水野課長はやるほうかね」
「いえ、生憎と」
(この男、いつまでこの茶番を続けるつもりだ)
全く中身のない会話に内心辟易しながらも、春菜は適当に相づちを打つ。こういうのはどちらがボロを出すのか我慢比べの面もある。
(それにしても……この音楽、やけに響くわね)
部屋の中で、延々と一定のリズムで流れる太鼓のような音。最初は奇妙に思ったが、慣れると心地よさも感じる。それがいつの間にか自分の全身に響き渡り、しまいには頭の中で反響しはじめる。
ドン、ドン、ドン──
(ああ……なんだろう、すごくきもちいい──)
【毒島国悦】
「……水野課長? 大丈夫かね?」
そう言いながら、俺は春菜の前でゆっくりと手を動かしてみた。春菜はうつろな目をしたまま微動だにしない。顔のまで行き来する手にも全く反応する様子がない。
「くくく……他愛もない」
俺はほくそ笑んだ。
この女は俺の術中にまんまとはまり込んだのだ。
これが俺、毒島国悦の力。スマトラヨガとインドのアーユルヴェーダを組み合わせ、他人を催眠状態に陥れるワザだ。部屋の奥で焚いた香、インドネシアの伝統楽器の音、そして薬草茶。これらの組み合わせで、人を催眠状態に陥れるのである。
香と薬草茶に耐性のある俺が同じ振る舞いをしてみせることで、あっさりと獲物達は網に収まってくれる。これで無数の女をくってきたが、今日また一人特上の女がかかったというわけだ。
「さて、第一弾の仕上げだ」
俺は部屋の奥からガラス瓶を持ってきた。フラスコ型のビンの底で香木がチリチリ赤く燃えて煙を上げている。
俺はその瓶の蓋にゴム製の吸入器をつけ、それを春菜の口にあてがった。煙が春菜の口に吸い込まれていく。春菜のまぶたがピクピクと震えだした。
そろそろいいだろう。
俺は春菜の耳に顔を近づけ、低い声で囁いた。
「さあ……力を抜いて……ゆっくり呼吸をしなさい……。今あなたの心は丸裸です……あなたは大空にいます……あなたを縛るものはなにもありません……この声は、あなたの心そのもの……あなたは質問に答えたくなります……それがあなたのよろこび。いいですね」
そして吸入器を外し、距離をとって話しかける。
「あなたの名前は?」
「……水野春菜」
ふむ、いい感じだ。ここから段階を踏んで、この女の心の防壁を一枚づつ剥がしていく。これが俺の楽しみなのだ。俺はまた吸入器を春菜につけさせ、さらに暗示を与える。
「あなたは質問に答えたことで、気持ちよくなります……それはあなたが善い行いをしたからです……。質問に答えるたびに気持ちよさは高まります……さあ、あなたはどうなりますか、自分の口で言いなさい」
「……わたしは……質問に答えるたびに……気持ちよくなります……」
よしよし。
「あなたの身長体重は?」
「169センチ、56キロです……」
でかい女だ。俺はそんな女を肉奴隷にするのが大好きなのだ。知らず知らずのうちに股間が張り詰めるのを感じて、俺は舌なめずりをした。
「年齢は?」
「26歳……」
「胸のサイズは?」
「Gカップです……」
これはすごい。俺は思わず口笛を吹いた。
スーツの上からでもかなりのものだったが、これでも着やせしているらしい。
(こんな身体をしてる女が本社からのスパイとはな。風俗のほうがお似合いだ)
俺はせせらわらった。
この女の正体は赴任当初から知っていた。そして俺を標的にしているのも。いままで好きにさせておいたのは、泳がせて俺の情報を集めさせておいたのだ。そのほうが俺に関わる理由がより強化させるし、それが後々催眠にもプラスに働く。
「セックスの経験人数は?」
「……三人、です」
僅かな間。経験人数の少なさといい、貞操観念はそれなりに固いらしい。
「彼氏はいるのか?」
「います」
「最後にセックスしたのは?」
「……二ヶ月前」
なんと。こんなセックスのために産まれてきたような女を二ヶ月放置とは。
その後も、家族構成や貯金の額、生理周期など、どうでもいいことをいろいろ聞く。
単純な作業を繰り返すことでも催眠状態は深まる。こいつが部屋に来たとき、俺が最初にどうでもいい話を延々繰り返したのも、その技術の延長だ。
数十も質問をすると、春菜の顔は目に見えて赤らみ、息が熱くなってきた。質問に答えると快感が高まる暗示が効いているのだ。
「絶頂しそうですか?」
「……はい」
身体がぴくぴくと震える。我慢はストレスになるし、イカせてやるか。
「では私が三つ数えます。あなたは数え終わった瞬間に、イくことができる……わかりましたか?」
「はい……わたしは、三つ数えたらイきます……」
「ではいいですか、いち、に、さんっ」
「……っ」
俺が三つ数えると同時に、春菜の身体がピクンと大きく痙攣し、背を突っ張らせた。そして数瞬の後脱力する。
(派手な見た目の割りには初心な反応だ)
まあこんな女を一から仕上げるのも悪くない。
焦りは禁物。今日はここまでにしておこう。俺はこいつに気づかれにくい自然な形で催眠術を解除する準備を始めた。
【水野春菜】
「……長? 水野課長?」
「ッ!?」
私はハッと我に返り、慌てて姿勢を正した。
「失礼しました!」
その言葉に、毒島はニタニタに笑ってみせる。
「いやいや、水野課長は仕事熱心で有名であるからして、、つまらない話でうっかり船を漕いでしまうのもしかたなかろうて」
「いえ、そういうわけでは……!」
(私が居眠りなんて!?)
物心ついたから居眠りなどこのかたした覚えがないのに、いまこのタイミングで?
春菜はさらにまずい失態を犯していたことに気づいて青くなった。
(な……ショーツが濡れて……!?)
股間に感じる嫌な感触。これは間違いなく、軽度の尿失禁だ。
老若関係なく女には珍しくない症状だが、まさか社内で、しかも監査対象の目の前でなどと。
私は毒島にこのことを知られないように心から祈った。
「今日はお疲れのようだ。また後日にでも」
……どうやら感づかれてはいないようだ。私は内心胸をなで下ろしながら立ち上がった。
「わかりました。失礼します」
そう言って部屋を出る。
(くっ……とんだマヌケだ、私は)
毒島との初戦は、私の自爆という形で終わったようだった。
「ただいま」
私が玄関の扉を開けて中に入ると、玄関まで味噌のいいにおいが漂ってきた。
腰を下ろして靴を脱いでいると、背後からパタパタとスリッパの音が聞こえてくる。
「おかえり、お姉ちゃん」
「ああ、ただいま美冬」
姿を見せたのは、私の妹にしてただ一人の肉親──水野美冬だった。
「今日は早かったね。もう少しでご飯できるから──ひゃ!?」
私は手を大きく広げて、羽交い締めにするように美冬に抱きつく。
「あぁ~癒やされる……」
「お姉ちゃん、また会社で失敗したの?」
「そーなんだよー……慰めてくれ美冬」
言いながら、美冬の髪に顔を埋める。僅かに茶色がかったふわふわの髪の毛からシャンプーの匂いが漂ってくる。
「はぁ……疲れがとれる」
「まだご飯も食べてないのに、あたしで疲れとらないで」
美冬は笑いながら私が背広を脱ぐのを手伝ってくれる。
私たちは十数年前に事故で両親を亡くした。親戚もいなかった私たちは、いきなりこの世界に姉妹二人っきりで放り出されたのだ。
でも私たちはまだ運が良かった。施設に入りながらも、美冬と離ればなれになることなく、高校卒業まで面倒を見てもらえたのだから。
十も年の違う美冬は、ほとんど私の娘のようなものだ。
私の生きる目的は、美冬が大学を卒業するまで不自由させないこと。そのためにアルバイトしながら死ぬ気で勉強し、競争を勝ち上がって、日本有数の企業に就職することができた。
「もう少しでご飯できるから。先にお風呂入っちゃう?」
「いや、待ってるよ。食器並べるのを手伝おう」
「ありがとうお姉ちゃん!」
美冬がにっこりと笑う。天使のような笑顔だ。
姉馬鹿ではなく美冬はかわいらしい。自分に似ず、小柄でウェービーな髪質。そしてなにより、家事全般が上手だ。
自慢ではないが私の料理の腕前は壊滅的だ。ミリグラムまできっちり計って作っているはずなのに、食べられたものではない代物が完成する。結婚したら困るとさんざん美冬に言われているが、私は当面結婚する気はない。今の彼氏ともどれだけ続くか怪しいものだ。
そうこうしてる間に夕食ができた。トマトサラダ、茄子のおひたし、鶏肉とナッツを炒めたもの。
『いただきます』
二人で手をそろえて食べ始める。
「良さそうな茄子があったから買ってきたんだけど、どうかな」
「うん、おいしいよ」
「もうー、お姉ちゃんなんでもおいしいしか言わないから参考にならないよー」
「実際美味しいんだからしかたないよ」
テレビを横目に、私たちはその日のことを話す。とは言っても、私はあまり話さず美冬が喋るのを聞いているだけだ。
食事を片付けると、私達は風呂に入る。今のマンションを選んだ第一の理由が、バスタブの大きさだったほど、二人で風呂に入るというのは私たちにとって大事なことなのだ。
「はぁ……あたしもはやくお姉ちゃんみたいにならないかなあ」
脱衣所で服を脱いだときの、美冬のおきまりの台詞だ。
「美冬の胸も十分かわいいよ」
「『かわいい』は褒め言葉じゃないよー」
そう言って美冬はふくれっつらになった。
美冬の胸は確かに私に比べれば控えめだけど、そんなに小さくもない。おそらく高校一年生としては標準サイズくらいはあるはずだけど、美冬は満足できないようだ。
「これからまだまだ成長するさ」
「本当かなぁ。もうあたし16だよ」
「20歳まで育つって。ほら、背中流すよ」
そう言って、私は美冬を前に座らせてスポンジを泡立てた。美冬の背中を優しくこすると、白いきめ細やかな肌の上を泡が流れ落ちていく。
「ねぇ、お姉ちゃん、お仕事無理しないでね」
美冬の言葉に、私の手が止まった。
「どうしたの美冬。私のことなら心配いらないよ」
「だって、今日帰ってきたときすごく落ち込んでたように見えたから」
姉という立場の手前おどけてみせたが、やはり美冬にはお見通しらしい。
「ありがとう美冬。でも大丈夫だよ。私は負けたりなんかしないからね」
美冬の背中をお湯で流しながら、私は自分に言い聞かせるように口に出していた。
「水野課長、毒島専務がお呼びです」
あれから一週間。毒島は毎日のように私を専務室に呼び出しては、無駄話をきかせてきていた。
(よくもまあこれだけくだらない話のストックがあるものだ)
飲み会の話、旅行の話、取引先での武勇伝。
あまりに内容がなさすぎて、単純にこういう形の嫌がらせではないかと思えてきた。
(調査は進んでいるから、一時間やそこら私を拘束しても無意味だがな)
毒島がそのことを思い知るのは、本社の監査室から呼び出されたときだろう。奴の知らないところで、首に掛かった縄はじわじわと狭まってきているのだ。
「失礼します」
「うむ、まあかけたまえ」
毒島がいつもと同じ茶を出す。他の銘柄の買い置きは存在しないのだろうか?
茶を飲んで、意味のない話を聞き。香のにおいと楽器の音。
ドン。ドンドン。
…………
「──なのだよ」
私はその声で我に返った。
(危ない、意識がとびかけていたようだ)
この部屋にはじめて呼ばれて以来の失態を犯すところだった。下着は──よし、濡れていない。
毒島もこちらの様子に気づくことなく、話を続けている。
「水野課長に仕事をお願いしたいと思ってね?」
「仕事、ですか?」
急に湧いた話に、私は眉をひそめてみせた──というのは演技で、実際はやっと獲物が釣り針に食いついてきた漁師の心境である。
(どういう狙いかは知らないが、足下を掬う手がかりにさせてもらうぞ、毒島専務)
「なに、本社出向組の課長にとっては簡単すぎるほどの仕事だよ」
「わかりました、承ります」
「うむ。では今日から君を、ワシのチンポ担当に任命する」
「……は?」
私は一瞬何を言われたのかわからなかった。
「ん? 聞こえなかったかね」
「い、いえ……」
(この男、正気か?)
こちらをからかっているのかどうか確かめるため、私は慎重に言葉を選ぶ。
「そんな大事なお仕事を私に?」
そう、‘チンポ担当業務は女性社員の、最も大事な業務であるいというのは常識’だ。そんな重要ポストを、敵対的な関係であることが明らかな私に任せるとは……いったいどういうつもりなのだろう。
「もちろんだ」
毒島は満足そうに頷きながら、ソファに深く身を沈めた。
「優秀な君なら、ワシのチンポを満足させられるだけの働きができるだろうと判断したのだ。ワシのチンポ担当……受けてくれるね」
私に迷う理由はなかった。
「はい、未熟な身ですが水野春菜、専務のチンポを担当させていただきます」
【毒島国悦】
俺はおもわず笑いそうになるのをこらえるのに必死だった。
目の前で『チンポを担当させていただきます』と真顔で言われたら、誰だって吹き出すだろう。
(催眠暗示第二段階が上手くいってよかったわい)
この一週間、春菜にひたすら単純な催眠状態に陥る暗示をかけ続けた。これによって、この女の精神の催眠状態に対する耐性を下げていた。いわば食材の下ごしらえといった段階だったのだ。
二段階目は、常識を誤認させる──ようするに前もって俺が吹き込んだ設定を、あたかも自分にとっての常識だと思わせる暗示をかけた。それがチンポ担当社員という、なんとも間の抜けた設定なわけだ。
ばかばかしく思えるが、こういった小芝居的設定は、責任感の強いタイプの人間には非常に効果が大きい。『これはちゃんとした仕事だから』という観念が、矛盾を感じる理性を押さえ込むのである。
おそらく春菜は、いきなり重大な仕事を任されたとでも思っているのだろう。その張り切ったツラが滑稽さを引き立たせて、これがまたおかしい。
「では水野くん、さっそく初仕事をこなしてもらおうか」
「わかりました。では……まず、口でチンポを処理させていただきます」
基本的な流れは、あらかじめ催眠状態の時に仕込んでおいた。春菜自身はそれを自身の知識と思い込んで行っているだけだ。
春菜はソファから立ち上がり、俺の前にやってきて股間の前にかがみ込んだ。
(やはりこの胸は規格外だな)
上からのぞき込むと、スーツを押し上げる胸のボリュームが際立つ。そんな視線にも気づかず、春菜は真面目な顔でベルトを外し、ブリーフを押し下げて俺のペニスを取り出した。
「っ……!?」
半勃ちの俺のペニスを見て、春菜が固まる。
無理もないだろう。俺のペニスは通常状態でも15センチを上回る、ワールドクラスの逸物だ。ろくにセックス経験のないこの女には衝撃だろう。
「ん、水野くん? どうした?」
「い、いえ、頭の中で手順を反芻していただけです。それでは処理開始させていただきます」
春菜はおそるおそるペニスに顔を近づけて、ゆっくりと亀頭を口に含んだ。
(やっぱりオフィスでくわえさせるのは最高の気分……ん?)
「水野くん?」
春菜はペニスの先を飲み込んだまま、困惑した顔で硬直している。口内で舌先が亀頭口を刺激しているが、動きと言えるのはそれだけだ。
「はやく続けたまえ」
「ふ、ふぁい」
そう言ってなんとか口のなかで亀頭を刺激しようとする春菜を見て、俺は察した。こいつはフェラチオの経験がないのだ。
(まったく……未成年相手にヤってるようだな)
内心ため息をついたが、ここで下手なことをやってはこっちの気分が萎える。俺は手を貸すことにした。
「ああ、フェラの仕方は会社によってやり方が違うからとまどうのも無理はない。今日は最初だしここのやり方を教えるから覚えるように」
俺の言葉にこくこくと頷く春菜。
「まずはいったん口を離しなさい。チンポ全体を唾液で濡らして、手で刺激して」
「ぷあっ……、は、はい。こうですか」
柄をペニスにおとし、ぎこちない手つきで竿を揉むように動かす春菜。
「そう。そして全体に唾液がいったら、金玉をやさしく刺激しながらチンポを加えて。頭を動かすのを忘れずに」
「ふあぃ……ちゅぷっ、ちゅぱ」
ようやくそれらしくなってきた。その後も赤ん坊に言葉を教えるように、俺は春菜にフェラテクニックを仕込んでいく。竿を舐める、裏筋の刺激、金玉を口に含んでの奉仕。春菜は必死にそれらを愚直にこなしていく。
「よし、後はピストン。音を立てろ」
「ふぁいっ! じゅばっ、じゅぽっ、じゅぽっ!」
「バキューム!」
「じゅぞぞっ! じゅるるるっ!」
「喉の奥まで加えろ」
「ふうっ! じゅぼっ! じゅぼっ!」
テクニックはお粗末だが、長身美女が俺のチンポを加えてひょっとこ面を晒しているのは、それだけで刺激が強い。俺は射精欲の高まりを感じた。
「よし、出すぞ! 飲めよ!」
「んぐぅーっ!」
ペニスを喉の奥にまで深々と突き入れ、思いっきり射精する。
びゅーっ! びゅるっ! びゅぷっ!
「ふぐっ! ごくごくっ、ううーっ!」
苦しいはずだが、春菜は必死でザーメンを飲み込んでいく。さすがのエリート。仕事への責任感は抜群だ。
それでも俺の大量のザーメンが出切るころには、春菜は半ば白目を剥いていた。
「ふう……まあこんなものか」
俺がペニスを引き抜くと、春菜の喉から下品なげっぷが漏れる。
「倒れて絨毯を汚すんじゃないぞ」
「ふげっ……わ、わがってまふっ」
口を押さえて、なんとか全てのザーメンを飲み込む春菜。この献身性は評価点だ。
「……ふぅっ、失礼しました。では次はマンコでチンポを担当させていただきます」
間抜けた言葉を羅列しながら、春菜はストッキング、そしてパンティーを脱ぐ。
股間と布地の間に、愛液が粘つく糸をひいた。あらかじめマンコが濡れるように暗示をかけておいてやったのは、優しさと言うよりもお互いのためといったところだ。痛がられては興ざめだからな。
「上を失礼します」
春菜がソファの上に乗り、俺にまたがるように姿勢になる。
「そういや水野くんは彼氏がいるそうだね。最後にセックスしたのはいつだね」
「……二ヶ月前です」
「ふむ、それならワシのチンポ担当は、君にとっても楽しめるものになるんじゃないかね」
俺の言葉に、春菜は眉をしかめて見せた。
「チンポ処理は業務であってセックスとは全く関係がありません。セクハラととられてもおかしくありませんよ」
今から俺のチンポをくわえ込もうとしてるのに、『セクハラととられてもおかしくありませんよ』か。こいつは、今までで一番エリート気質の獲物だが、その分今までで一番滑稽なことにもなっている。
「これは失礼。続けてくれたまえ」
俺は全く心のこもっていない謝罪をして、挿入をうながした。
「それでは、失礼しま……ふっ、ううっ……」
マンコが亀頭をゆっくりと飲み込んでいく。うめき声を上げる春菜。
「どうした。彼氏のチンポとくらべると大きすぎるかね」
「ッ……彼のことは、関係ない、ですっ!」
【水野春菜】
「ううっ……」
私は毒島のペニスを半分ほど受け入れたところで、進退窮まってしまった。
(お、おおきすぎるっ!)
心の中で悲鳴を上げるが、それを顔に出すことはできない。チンポ担当という大事な業務の初回で毒島に弱みを見せることはできない。
(でも……これ、入るのっ)
ペニスはまだ半分も残っているのに、すでにお腹の奥を突き上げられている感じがする。痛みはないが、全部入れたら裂けてしまうのではないかという恐怖を覚える。(樹のと違いすぎるッ)
春菜は今の彼氏──大学の後輩で、三月本社勤務──とセックスしたときのことを懸命に思い出そうとしたが、比較にならなすぎる。
心が折れそうになったが、毒島が目の前でニヤニヤと笑っているのが目に入って、私の闘争心に火がついた。
(こんな……チンポくらいっ!)
毒島に、私がチンポ担当としても一流だということを見せつけなくてはいけない。
「ふうっ」
息を吐いて、止める。そして重力を利用して、私は一気にペニスを飲み込んだ。
みちみちみちっ!
「うっくう……!」
膣道が拡げられ子宮が押し上げられ、圧迫感に息が詰まる。あれほど大きい毒島のペニスは、根元まで私の体内に収まっていた。
「さすがだね水野くん」
毒島が賛辞を送ってくるが、もちろん入れただけで終わりではないと、私も彼もわかっている。
ここから射精に持ち込まなければ。
(一回腰を浮かして……)
そのとたん、下腹にしびれるような快感が奔る。
「くふぅっ!」
思わず高い声が漏れる。慌てて口を閉じたが、しっかり毒島に聞かれてしまっただろう。
(なんて屈辱……チンポ担当が、チンポで感じてるなんて思われるとか)
顔色一つ変えずキンタマが空っぽになるまでザーメンを搾り取り、子宮をパンパンにして帰るのが理想のチンポ担当なのだ。
(でもこのチンポ、思った以上に凶悪……!)
入れたときは気にとめている余裕がなかったが、毒島のペニスは幹にイボイボがあり、さらにカリが凶悪にめくれ上がっている。軽く抜き差ししただけで、女の弱い部分をまとめて刺激してくるという、殺人ペニスだ。
(うう……迂闊に動いたらイってしまう。それだけは避けなくては)
春菜は性的な絶頂などオナニーくらいでしか体験したことがない。産まれて初めてペニスでイく、そんな無様をこの男にだけは見られるわけにはいかない。
(なんとか……あまり動かず、チンポを刺激して射精に導くしか……)
ペニスに体重が乗りすぎないよう注意して、膣の中ほどで亀頭を刺激するよう勤める。
(よし、チンポが反応してる。これを続ければ──)
「水野くん」
あからさまなあざけりを含んだ毒島の声。
「まさかこんな小手先だましの動きが、君の仕事ぶりじゃないだろうね? 本社ではこの程度のチンポ扱いで評価されるのか?」
(この男──!)
挑発に乗るべきじゃないと理性が叫んだが、生来の負けん気がそれを上回った。
「……これは準備運動のようなものです。今から本当のチンポさばきをごらんに入れます!」
言うなり、春菜は腰を激しく上下させはじめた。春菜の尻と毒島の腰がぶつかり、ぺちんぺちんと激しく音を立てる。
「おおっ、これはっ!」
毒島が驚きの声を上げるが、春菜にはそれを勝ち誇る余裕はない。
じゅぽっじゅぽっじゅぽっ!
(くううっ、つ、つらいっ!)
気を抜けば一発で持って行かれそうな快感を押しとどめるので精一杯だ。
(でも休めないっ)
一気に決めないと終わりだ。春菜は下半身の筋肉でペニスを締め上げつつ、必死に腰をグラインドさせた。
ぐぽぐぽぐぽぐぽ!
「ぬうっ!」
じゅぽじゅぽじゅぽじゅぽ!
「んくぅーっ」
専務室内に、二人のあえぎ声と肉のぶつかる音、そして結合部から漏れる水音だけが響く。
「ううむっ、出そうだっ」
毒島が呻いた。春菜もペニスが膨らむのを膣で感じていた。
(か、勝ったッ)
心の中で勝利の喝采を上げた春菜だが、ふと気づいた。そういえば自分は膣内射精というのを経験したことがない。コンドーム無しでのセックスなど考えもしなかったからだ。
一瞬空隙ができた春菜の忍耐力。そこに子宮を生のザーメンが直撃する快感が襲ってきた。
「イッ────」
全身を引きつらせて、咄嗟に自制力を総動員するが踏みとどまれたのはほんの一瞬。
「──くぅーーーーっ!」
生まれてはじめて味わう、膣内射精絶頂の快感に春菜はガクガクと身体を震わせた。目がぐるりと裏返り舌を突き出してアヘ顔を毒島の目の前で披露する。
春菜の意識は天空の彼方へ吹き飛ばされていった。
【毒島国悦】
「ふうーっ」
最後の一滴まで子宮にザーメンをぶちまけると、俺は春菜のマンコからペニスを引き抜いた。そして女の身体をソファに投げ捨てる。
春菜はみっともないアヘ顔を晒して失神している。
「真面目なツラをして、なかなか乱れおる。こいつは思ったより素質があるかもしれんな」
さて、今日からはチンポ担当として毎日励んでもらうわけだが。
「就任祝いをくれてやろう」
机から俺が取り出したのは、鈍い銀色に光るクの字形の道具だ。いわゆるピアッサーである。
俺はピアッサーを春菜の乳首にあてがう。そしてグリップを握ると、鈍い感触が伝わってくる。
針が戻ると乳首にきれいな穴が空いている。
俺はもう片方も手早くピアッシングし、乳首ピアスを取り付けた。
両の乳首がピアスで彩られる。
「チンポ担当らしい感じで似合っとるぞ」
俺のチンポ奴隷達には隷属の証として、全員乳首ピアスをつけさせることにしている。この支社にもつけている女は十人以上いる。
「この部屋から出た後でも、ピアスに違和感を感じないように暗示はかけてやるからな」
そう言って俺は香木の入ったビンを持ってきて、吸入器を春菜の顔に宛がった。チンポ担当任務のことは部屋から出たら別の仕事だったという記憶になっている暗示や、マンコの中のザーメンに気づけない暗示をかけておく。さらに催眠が深まれば部屋の外でも好きに振る舞わせられるだろう。
俺は春菜に煙をたっぷりと吸わせた後、目を覚まさせてもとの仕事に送り返した。
【水野美冬】
「~~~♪」
あたしは晩ご飯を作るとき、鼻歌を歌うのが習慣だ。
この歌はありふれた童謡だけれど、あたしにとっては特別。
パパとママをなくしたとき、寂しさに泣いて寝れない私を抱いてお姉ちゃんが歌ってくれた歌。
あたしはお姉ちゃんが大好き。施設であたしがいじめられてる時に、身体の大きな相手にだって立ち向かっていってくれたお姉ちゃん。受験の時、自分だって忙しいのに夜中まで勉強を見てくれたお姉ちゃん。
あたしはお姉ちゃんみたいにすごくないけど、すこしでもお姉ちゃんの疲れを取ることができたらいいなって思いながら、毎日のご飯を作っている。
フライパンを温めていると、スマホが鳴った。見るとお姉ちゃんからのラインだ。
『八時には帰るよ』
色気もへったくれもないメッセージ。でもそれがお姉ちゃんらしい。
あたしはお姉ちゃんが帰る時間から逆算して、いろいろな段取りを進めていく。サラダのドレッシングをつくって、野菜を切っておいて、ズッキーニを焼く。お風呂の予約を入れて、ハンバーグを焼く。
部屋中に良い匂いが漂ってきたころに、玄関のチャイムがなった。そしてただいまーという声。あたしは今やってる全部を置いてお姉ちゃんを迎えに行く。
「おかえりー♪」
「あ、今日はハンバーグか。やった」
「そうだよー。お姉ちゃん悦ぶと思った」
お姉ちゃんはハンバーグとかカレーとか、子供っぽいものが好きだ。あたしは肉じゃがとか筑前煮が好き。
「お姉ちゃん、ちょっと疲れてるね。走ったりした?」
あたしはお姉ちゃんの体調を一目で把握できる。たぶん、お姉ちゃん本人よりも。今日はめずらしく、激しい運動でもやってきた感じだ。間違いない。
「そうかな? 確かにちょっと身体は重いけど、今日は書類仕事しかしてないよ」
あれ? あたしのお姉ちゃんセンサーが外れるなんて。
「嫌な奴に書類仕事押しつけられたから、それのせいで疲れたのかもね」
お姉ちゃんはそう言って笑った。でもあたしは心配になってしまう。
「それって先週言ってた上司の人だよね。大丈夫? セクハラとかされてない?」
「美冬には私がセクハラされるようなか弱い女の子に見えるのかな?」
「お姉ちゃんがしっかりしてるのは知ってるけどー。お姉ちゃん世界で一番美人だし、狙われてもおかしくないよっ」
「え? おかしいな、世界で一番の美人は私の目の前にいるけど」
「もー心配してるのは本気だよ」
お姉ちゃんがあたしの頭をぽんぽんしてくれる。それだけでもう全部がどうでもよくなっちゃうからずるい。
「それよりお腹すいたよ。ご飯にしよう」
「うん!」
あたし達はいつも通りの楽しい夕ご飯を済ませて、お風呂に入ることにした。
「美冬、先に入るよー」
「うん、すぐいくー」
あたしは洗い物を手早く乾燥棚に入れると、脱衣所に向かった。そして靴下を脱いで洗濯籠にいれようとしたとき、床が濡れているのに気づいた。
「……なんだろ?」
コンデンスミルクみたいな白い液体が床にこぼれている。
「……乳液かな?」
白い液体は、お風呂場の入り口に続いているので、お姉ちゃんがお風呂場に持ち込んだのかもしれない。
(まあいっか)
あたしはトイレからトイレットペーパーをちぎって持ってきて、床の乳液(?)を拭き取った。
そして服を脱いでお風呂場のドアを開ける。
「入るねー」
「んー」
お風呂場ではお姉ちゃんが髪を洗っていた。あたしはかけ湯だけして一足お先にバスタブに使った。
ミディアムボブのあたしと違って、お姉ちゃんはいつも先発が大変そうだ。でもお姉ちゃんには悪いけど、あたしはお姉ちゃんが髪を洗っている光景がだいすきだ。とくにうなじが好き。それにやっぱりおっぱいが──
あたしは思わず声を上げそうになった。
お姉ちゃんのおっぱい──その先端の乳首に、なにか付いている。それはたぶん、ピアス。
(ええええ!? お姉ちゃんが、ち、ちくびに、ピアス!?)
昨日は一緒にお風呂入ってないけれど、少なくともおととい一緒にお風呂に入ったときにはピアスなんてつけてなかった。
(いいいいつつけたの!? 昨日? 今日?)
そもそもお姉ちゃんは耳ですらピアスをつけていないのに。それがいきなり乳首!? そういう人もいるって知ってるけど! だってだって、あれ、穴開けてるんだよね?)
ダメだ。頭の中でぐるぐると考えが回って、なにも思いつかない。
そうこうしている間に、お姉ちゃんが髪を洗い終えて、あたしの向かいに入ってくる。
「ふーっ……」
風呂桶に両手をかけて、顔を上げて目をつぶるお姉ちゃん。その振る舞いにはピアスを気にかけている様子は微塵も見当たらない。
書類仕事しかしてないって言ってたけど、やっぱりお姉ちゃんは疲れているらしく、目をつぶったまま動かない。それを見てあたしはピアスのことを聞かないことに決めた。
(なにかきっと、お姉ちゃんにとって大事なことなんだ。話してくれるときがくるよね、きっと)
そう思いながらも、あたしはしばらく乳首から目をはなすことができなかった。なぜなら、ピアスが揺れるお姉ちゃんの乳首は、とてもえっちだったから。
< 続く >
今さらですが続き読めないでしょうか
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