僕の変性期 第1話

第1話

 考えてみると、園池澪が蜂屋拓海の家を訪れるのはずいぶん久しぶりになる。

(中学に入ってから、すっかり来てないかも・・・。幼馴染みなんてそんなものかな?)

 蔦を這わせた赤レンガの門灯。幼稚園の頃には、近所に住んでいる澪は、拓海と遊ぶために、毎日のようにここに来ていた。小学生になっても、一緒に習字教室に行く日は、必ずここに寄って二人で通っていた。その頃は、背伸びして押していたチャイム。中学3年生になった澪には、背伸びの必要もなくなっていた。不意に早退した拓海のために、午後の授業の課題やプリントを持ってくることになった澪。そんな用事のおかげで、ずいぶんと懐かしい場所に帰ってきたような気がした。

 樫のドアが開くと、上のベルがカランコロンと乾いた音をたてる。喉に白いハンカチを巻いた少年、蜂屋拓海が顔を出した。口を開こうとする拓海を、澪が小さく手を上げて静止する。

「あ・・・、いいよ。喉、痛いんでしょ。課題だけ、洋美先生に言われて、持ってきたの。ここでいいから、渡すよ。」

 それでも拓海は、すまなさそうに声を出した。

「あ゛り゛か゛と゛う゛。 は゛い゛って゛。」

(わっ・・・、ひどい声。可哀想。)

 拓海の、かすれきった声を聞いて、澪はさっきまでよりもずっと心配になってしまった。拓海の両親は共働きだし、兄の陸は全寮制の高校に行っているので、拓海はこんな調子で一日一人で安静していなければならないはず。澪は、それこそ簡単な料理でも自分が・・・と思って、玄関先に上がらせてもらった。懐かしい、拓海の家の匂いがする。匂いを嗅いで、いっそう昔の思い出が澪の脳裏に、勢いを増して蘇ってくるのだった。

 あまり変わっていない玄関の中を見回して、ふと澪が気づく。

「あれ?このアディダス・・・。陸にぃの?」

「うん・・・・。そう。今、帰ってきてきてるの。」

 下駄箱の上に置いていた、グラスの水を飲んだあとは、拓海の声は若干持ち直したようだった。

「そっか。タクミの喉のこと聞いて?」

「うん・・・、先週ぐらいから、調子、悪かったから・・・。」

 今日の4時間目。音楽の時間中に合唱をしていた拓海が、急に喉が痛いと言い出した。大人しいタイプの彼が珍しく慌てていたので、実は澪は、授業の途中ぐらいから心配していたのだ。「声変わりだと思う」と言って、拓海を少し休ませていた音楽教師の磐田は、拓海が授業の終わり頃に激しく咳き込んで、少し血を吐いたのですっかり狼狽していた。パニックの音楽室から、保健室に直行させられた蜂屋拓海は、その後は様子も安定してきたので喉や声帯のチェックを終えて早退したと聞いた。

 もし、拓海の喉の調子が、今日急に悪化したのだとすると、それを予期していたかのように、兄の陸が実家にいてくれたのは、驚くほどのベストタイミングだったということだ。

 拓海の後をついて、澪がリビングに通される。2年以上会っていなかった、拓海の兄の「陸にぃ」が、くつろいだ様子でソファーに腰掛けていた。

「おっ。澪ちゃんじゃん。ずいぶん大人っぽくなったね。前から可愛い子だったけど、さらにパワーアップ美少女になったよね。CMのオファーとか来そうじゃない?」

「ひ・・・久しぶり、陸にぃ・・。お邪魔・・・してます。」

 澪は顔を赤らめて、茶髪の陸から目をそらす。相変わらず、陸のノリは軽い。奥手の拓海とは正反対のタイプに思える。弟の拓海が喉を痛めて早退したというのに・・・。本当だったら、拓海は部屋に休ませておいて、陸が応対に出てくるべきだったのではないだろうか?

「タクミ。澪ちゃんスッゴク可愛くなってんじゃん。居合わせたタイミングも抜群だし、ここはファーストターゲットは、澪ちゃんでお願いしちゃう?」

 陸がソファーで足を組んだまま、よくわからないことを口にする。怪訝そうに、澪が後ろを振り返ると、拓海は困ったように下を向いて、立ち尽くしていた。

「タクミ。どうすんの?トライしとく?もっと自信がつくまで、練習する?何度も言うように、有効期間は短いよ・・・。どうする?」

「ね、タクミ。陸にぃ、一体何言ってるの?アンタ、休んでないといけないんじゃないの?なにか知らないけど、陸にぃの悪フザケなんかに、つきあわされてる場合じゃないんじゃないの?」

 幼馴染みという気楽さもあってか、澪は拓海に対しては、中学に入ってからもずいぶん強い口調で話してしまう。まだ子供体型の拓海よりも背の高い澪が捲くし立てると、はたから見るとまるで姉が弟を叱りつけているように見えるらしいが、澪は気にかけない。

「どうする、拓海?お礼を言って、澪ちゃんにお帰り頂こうか?誰か他に、ファーストターゲットになってもらいたい女の子がいるんなら、それでいいかもな。」

「うんん・・・。僕、その、やっぱり澪ちゃんが・・・。・・澪ちゃん、ゴメン。」

 急に切羽詰ったような顔をして、拓海が顔を上げる。首に巻いていたハンカチを右手でスルリとほどいた。

(ゴメン?・・・なんのこと・・・)

 澪が口を開こうとした直前に、拓海が先に口を動かした。拓海の口からはしかし、声は出てこない。何か、声にならない囁きを発したような、口の動き。しかし、園池澪の肩から上は、大きな空気の塊にぶつかったようにシビれた。

 シャリシャリシャリ

 なにか、小さな砂がこすれあうような、高音の響き。その響きはまるで、澪の頭の中で発せられたようだった。拓海の口は、「ね」、「む」、「れ」と動いたように見えた・・・。そう思いながら、澪の意識と体は、カーペットにズブズブと沈み込んでいったのだった。

。。。

 気がつくと、澪は自分の部屋の真ん中で立っていた。キツい時差ボケの中にいるように、頭がボーっとする。それでも澪は、自分が今日も無事に帰宅したことを理解した。頭の中で、何かシャリシャリと音がする。

「そう・・・。家に帰ったから、着替えなきゃ。」

 スカーフの結び目を解いて、ゆっくりとセーラーの胸元から抜き取る。両手を上げているのもダルくて、手に持ったスカーフをそのまま床に落としてしまった。拾い上げて畳む気にもならないほど体がダルイが、それはしかし、まるで寝入りばなのような、かすかに心地よい精神状態だった。頭の芯が痺れているような、微妙な気持ちよさ・・・。

 白く小さなジッパーを開けると、少しふらつきながら、両手をヘソの前でクロスさせ、ゆっくりと上着を捲り上げる。脇腹のあたりに、二箇所ほどで、なにか生き物の熱い鼻息のようなものが当たっている感触があるが、澪はあまり気にしないことにした。自分の部屋に一人でいるのだから、何も心配する必要はない。たとえここで何が起こっても、何をしても、澪は気にしない。そう自分に言い聞かせるように、セーラー服を捲り上げて、頭を、両腕を、順番に抜き取っていった。

 白地に黒いステッチ柄で縁どりされた、ブラジャーが露わになる。小ぶりだが形のいい、丸い二つの隆起を包み込んでいた。

 頭の奥。どこか遠い奥の方が、またシャリシャリと鳴ったような気がする。澪はなぜかコクリと頷く仕種をすると、ダラリと伸ばしていた両手に少し力を入れて、両肘で自分の胸を押し上げるように中央に寄せていく。なにかのグラビアのように・・・。クラスの馬鹿な男子が、大人ぶって学校に持こんではハシャいで回し読みしていた青年雑誌。その中のグラビアモデルのポーズのように、中腰になった澪は、胸を両肘で寄せ上げて、胸の谷間を大きく作って見せる。普段の澪は、自分の部屋に一人でいても、確かこんな悪フザケはしないはずだった。

 澪が苦しそうに目を強く瞑る。不意に目の前で、写メールのフラッシュを焚かれたように、目が痛んだのだ。ポーズを崩そうとした澪はしかし、シャリシャリと頭の中で音がすると、目の痛みも不審な気持ちも、溶けてしまったかのように、それ以上気にならなくなっていた。中腰のまま、少し上目遣いになって、胸を寄せる。ぼんやりと、ほうけたような顔をしていた澪が、なんとなく笑顔になると、携帯のカシャカシャという人工音が、今度は二つに増えたように感じた。

 聡明そうに整った眉の下に、好奇心の強そうな大きな目。ツンとした鼻と、時々アヒル口のようになるチャーミングな口もとは、陸が誉めるまでもなく、印象的な美少女の顔立ちだった。子供の頃からタレントスクールや子役の事務所にスカウトされたことが何度かある澪は今、活発な15歳になって、向日葵のような輝かしい魅力を発散していた。その彼女が、下着姿になって、まるで男を挑発するようなポーズで微笑んでいる。小ぶりな胸と、きめの細かい白い肌が見せる少女の魅力と、大人の男を手玉に取るような大人びたポーズが、危うい魅力を醸し出していた。

 何度もフラッシュを間近で浴びて、肌に直接生暖かい鼻息を当てられて、澪の白い体が、ほんのりとピンク色になってきた。少し熱気に当てられたようにぼんやりとした頭で、澪は次に何をすればいいのか考えた。

(そう・・だよね。スカート・・・脱がなきゃ。)

 まるで誰かと会話を交わしているように、澪は独り言を思い浮かべる。ためらいのない手で、プリーツの入ったスカートのチャックを下ろし、ホックを外した。ブラジャーと揃いのデザインのパンツが、少し汗ばみ始めた澪の下半身に、遠慮がちに張りつく。

(暑い・・・。もー、なんなの?脱げば脱ぐほど、暑くなってきてる気がするよ・・・。)

 澪が体の横、腰骨の辺りから両手の親指をパンツに入れて、指の腹で白いパンツのゴムの部分を体から少し浮かす。

 『ちょっと待って。』

 シャリシャリとした声が頭の中で聞こえたような気がして、澪の体はピタリと忠実に止まる。急にマネキンになったように、動きを止めてしまった。下着姿でパンツを脱ごうとしている体勢のマネキンだ。

 『うん・・・うん・・・、えっ・・・でも・・・。わかった。
 ・・・澪ちゃん、そのまま目を覚まして。』

 霧がスルスルと逃げていくように、急に園池澪の頭の中がクリアになっていく。ピントが合っていないようだった澪の周囲が、馴染みのある自分の部屋から、他人の家のリビングルームへと様変わりしてしまった。

「えっ・・・、何?・・どういうこと?・・・ヤッ!」

 澪は、行儀悪くもリビングの明るい木目調のローテーブルの上に立って、下着姿を晒している自分に気がつくと、短い悲鳴を上げた。今すぐこの部屋を、ロケットのように飛び出したい思いだが、体は何故か、セメントで固められたかのように、ピクリとも動かない。足を肩幅に開いて、ややガニ股気味に、パンツを下ろそうとしている無様な格好。恥ずかしくて全身から火が出そうな状態なのに、体が首から下、1ミリも動いてくれないのだ。

「うんっ。この反応っ。拓海、これが『今しか味わえない楽しみ』なんだぞっ。よく覚えとくんだな。」

 ヘラヘラと陸が笑う。拓海は申しわけなさそうに、澪の白磁のようにスベスベとした肌を、チラチラと見上げていた。

「ど・・、どうなってるの~?動けないよ。」

 澪がもどかしそうに声を漏らす。

「おい、拓海。体が動かないって、澪ちゃんが困ってるだろ。お前が手伝ってあげろよ。この体勢からすると・・・、澪ちゃん。パンツ脱ぎたいんだよ、きっと。」

「ばっ、馬鹿なこと・・・、え?・・・やだ・・。」

 拓海が何か、遠慮がちに口を動かしたような気がする。直後に澪は、自分の両手がゆっくりと、焦らすように、下降していくのに気がついた。

「だ、駄目。ちょっとタイム!待って、止まって!」

 ありがたいことに、途中で澪の両手は止まってくれた。

「いや、ここは脱ぐっしょ。」

 陸が言うと、またジワジワと、黒いステッチで上品に縁取りされたパンツが、下腹部を降りていく。

「駄目だってばっ!戻って!」

「脱いどこうって。ほら。」

「駄目駄目っ!カムバック!・・・よしっ。いい子!」

「もう、ここまで着てんだから、ここは一つ脱いどきましょ、ってば。」

 必死に自分の両手を叱責する澪。彼女の切実な声と陸のフリとが、飛び交う度に、澪の両手はスルスルと上下する。パンツを脱ごうか穿こうか、迷っているような仕種が、何度も繰り返された。その手の動きはまるで、昔、澪と拓海と陸の3人で遊んでいて、陸に悪い遊びに誘われた拓海が、呼び止める澪と誘い込む陸との間を、優柔不断に右往左往していた時のような動きだった。

 切羽つまった澪が、真っ赤な顔で拓海の方に振り返る。

「拓海・・・、まさか、これって・・・。アンタのせいなの?」

 いつもの強い調子で澪に睨まれた拓海が、思わず強く目を瞑ってしまった。

「ご・・・ゴメン。」

 スルスルと肌を滑って降りていこうとしていた澪のパンツが、股間の付近で止まる。パンツのゴムの部分からクリンと、澪の恥ずかしいアンダーヘアが少し顔を出してしまっていた。

「おっ。毛をちょっとだけ出した。まさに絶妙なチラリズム。拓海、俺が説明してやるから、澪ちゃんの乳首ちゃんたちもこんな感じで顔出しながら聞いてもらおうぜ。な。」

 中腰で膝を開いたまま、アンダーヘアーを3分の1ほどパンツから覗かせた状態で、澪の両手は容赦なくブラジャーにも手をかける。桃色の乳首の先端をかすかにブラジャーの上から出したり隠したりするという、屈辱的な動作を繰り返しながら、澪は自分の行為以上に信じられないような話を聞かされるのだった。

「どうも蜂屋家の男って、遺伝的に声変わりが重症になるみたいでね。それ以外の時期にはなんにも普通の人たちと変わらないのに、この性徴期の時だけ、喉が異常なぐらい変調を来たすんだ。普通に喋ることも出来るんだけど・・・。なんて言うか、こう、気張って脳天から声を出すように発声すると、へんな波長で声が出るようになるみたいなんだよね。その声、耳ではほとんど聞こえないんだけど、あ、犬には聞こえるのかな?よく吼えられたな・・・。あと、肝心なのは、人間の耳には聞こえないみたいなんだけど、直接、脳に届くっていうか、脳を揺らすっていうか・・・。一言で言うと、誰も抵抗しないでその言葉どおりに感じたり考えたり動いたりする、不思議な声になるんだな。まるで人間の判断を飛び越えて声が頭に染み込んでくるみたいに。」

 理解の早い澪の頭には、さっきから脳の奥で擦れるようにかすかに聞こえていた、シャリシャリという音のことが思い浮かんできた。あれがもしかしたら・・・。陸にぃの言っている、不思議な声だったとすると・・・。

「拓海。澪ちゃんをあんまり悩ませたら可哀想だから、はっきりと実感してもらおうか?澪ちゃんは拓海の言うとおりに動いちゃうんだ。拓海、スピードアップ出来る?」

 澪の行動が突然、キビキビとしたものになる。自分の両手を止めるまもなく、ブラジャーとパンツを剥ぎ取ると、彼女は訓練された軍人のように素早い仕種でハイキック。バンザイ、気をつけ、と次々とポーズを変えていく。最後は直立したまま、パシッと敬礼した。

「感覚や感情だって変わる。拓海、澪ちゃん大爆笑で。」

「やっ・・・アハハハッ・・なにこれっ!・・・バッ・・・ヤハハハハッ、ばっかみたい・・・。」

 澪は突然こらえきれなくなって、テーブルの上で笑い転げた。全裸で真面目そうに敬礼していた自分・・・。ありえない。ツボすぎる・・・。腹筋が痙攣するほど笑いまくる澪は、目から涙をこぼして転げまわる。

「あはっ、・・・こんなの・・・馬鹿すぎる~。・・・ちょっと・・・ひぃっ・・・苦しい~。」

 澪の体が、糸を引っ張り上げられたパペットのように、不自然に起き上がる。両手を腰に当てると、高々とスキップしながら部屋を回り始めた。澪の笑いは止められない。目尻と口の端がひっつきそうなぐらいの満開の笑顔で、全裸のまま部屋を跳ね回ってしまう。これまで慎重そうに、不安そうに澪をチラチラ見ていた拓海も、澪の笑顔に釣られるように笑い始めた。陸は澪をスキップで追いかけながら、美少女の狂態を動画撮影モードの携帯におさえようとする。澪は追いかけてくる陸をすんでのところでかわすようなステップで、嬌声をあげながら逃げる。膝を高々と上げてスキップするたびに、小ぶりで丸い胸が忙しく跳ねた。

 ここ数年で一番後を引いた大爆笑の後、澪の気持ちは落差で大きく沈んだ。筋肉痛の腹筋を労わるように、『定位置』のリビングテーブルの上に崩れこむ。

「さ・・・最悪。な・・・、なにが可笑しいのよ・・。ふぅっ・・・。」

「最後に性格だって、不思議な声でお願いすれば、みんな簡単に変わってくれちゃうんだぜ。澪ちゃん。試しに、拓海のペットの猫ちゃんになってみる?」

「ぺっ、ペット?・・・そんなの、嫌に決まってるニャ~!
 え・・・ニャァ?」

 頭の中でシャリシャリと音がしたと思うと、澪の拒絶の言葉も、途中で語尾がおかしくなってしまった。立ち上がろうとした彼女が、四つん這いの体勢で止まる。前足の助け無しに立ち上がるということが、ひどく無理な体勢に思えてしまうのだった。

「ほらっ、拓海。」

 陸に促されて、拓海がおそるおそる澪の裸の体に触れる。むず痒いような快感が、澪の体の中を駆け巡った。体を撫でさすられて、澪は両目をギュッと瞑りながら喉を鳴らした。

「ちょっと人間の言葉が喋れる猫ちゃんだね。澪ちゃん、今の気持ちは?」

「は・・腹立つけど、・・・気持ちいいニャ・・。ご主人様に撫でられるのと嬉しいのニャ・・・。ハァ、頼りないご主人で残念だけど・・・。・・これが、ペットの本能ニャのニャ~」

 甘えたような声で、イタい喋り方のまま、答えてしまう。まさに本能のままに、よがることしか出来なくなってしまった。撫でさすられて、揉まれたり摘ままれたりしながら、ゴロゴロ転がって返事をしているために、テーブルの上に、澪の涎が糸を引く。もはや澪の頭の中は全て、猫の喜びで完全に浸されてしまった。両手を顔の横でグーにして、両膝が脇腹につくように上げて、無防備に愛撫されるがままに悦ぶ澪。さっきまでの強気の態度はバターのように蕩けてしまったようだった。

。。。

「あぁ゛~ん、フニャ~ン、ムズムズするニャー。さかってきちゃったのニャー!」

 四つん這いのまま、体を弓なりに大きく曲げて尻を高々と上げながら、もどかしそうにその丸いお尻をブルブルと振る園池澪。拓海のシャリシャリとした声に囁きこまれた言葉は、彼女を身も心もずっぽりと『発情期の雌猫(少し人間語を喋る)』に変身させてしまっていた。テーブルの上で、起立したいたいけな乳首を天板に擦り付けながら、恥ずかしい液の滴る股間を、これ見よがしに押しつけてくる澪。その目は完全に、野生にかえってしまっているようだった。

「陸にぃ。・・い・・、いいのかなぁ?初めてのことなのに、澪ちゃん、こんな・・・、猫にしちゃったままで・・・。澪ちゃん、傷つかないかな?」

 下半身裸になった拓海が、この場に及んでまだ両手で自分の股間を隠しながら、兄に訊く。

「別に・・・いいんじゃない?ロマンチックなのがお好きだったら、記憶を弄って、ハーレクインなメイクラブをしなおしてあげればいいんだし、なんならこういうのを彼女の、夢のシチュエーションにしてもらうことだって出来る。お前の変声期が終わるまでに、記憶の蓋をしっかり閉じてあげさえすれば、彼女サイドはノーNGなんだから、今のうちに、普通じゃ出来ないようなこと、いっぱいしておくべきじゃないの?時間は有限なり。サカれよ、若人。」

 遠慮がちに自分の股間を隠していた拓海だったが、恥も外聞もないようなエロ声を漏らしつつ交尾を求めてくる、全裸の澪を見ているうちに、我慢も限界がきたようだ。ついに夢中で彼女に飛びかかっていく。陸は余裕ぶって、弟が男になろうとする様子を、頷きながら見守る。人間と『雌猫ちゃん』の、初めてのセックスだ。さすがにギコチない。

「蜂屋家男子の性徴期は、声変わりと、あとちょっと通常より強力な、性欲の増進があるんだよな。暴発する前に、ある程度の逃げ道を作っとくことも大切なんだよ。これが世のため、人のためでもあるんだ。」

 わざとらしく大人ぶって、陸が自分の顎を撫でる。

「まー別に、澪ちゃんにしたって、実際は忘れちゃってるだけで、『初めて』じゃぁないんだしな・・・。悪く思うな、兄弟よ。」

< 第2話につづく >

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