おるすばん その4

 3年生のいる階に上がる。ここはアキミチさんと同学年。一緒に過ごしてきた時間が長いから、催眠暗示への反応も、グッと高くなる。かなりの無茶が効く先輩たちだ。授業中の教室に無神経に上がりこんでも、「あ、僕、透明人間です」と一声かけるだけで、みんな、ケイトのことを無視してくれる。気ままにルックスの良い先輩を物色させてもらう。その際の気楽さ一つとっても、2年生クラスともまた一味違うのだ。恰好良くて勉強出来そうな男の先輩の席を通り過ぎる時には、パスっと頭をはたいてみる。ちょっと面食らったような顔をして、はたかれた頭を擦っている先輩。ケイトの存在には、一切気づかない。女子は高3ともなると、胸の発育の良い先輩たちも多いので、順番にオッパイの手触りを確かめさせてもらったりもする。

「皆さん、僕の声は表層意識では認識出来ませんが、必ず言われた通りに反応しましょう」

 と一声かけると、ケイトはカリスマ舞台演出家に変わる。脚本家兼演出家だ。教室の中にいる生徒たちと先生、全員が役者で、教室の中や外が全てステージだ。

「時計の針が6を指したら、貴方と貴方は自分がニワトリだったことを思い出します。机の上にのぼって、雄叫びをあげてください」

 出来るだけ大人しそうな、お淑やかな女性の肩を触りながら、暗示を入れる。普段の振舞いとギャップがあった方が面白いからだ。

「皆さん、ニワトリの鳴き声を聞いたら、机をくっつけて、黒板から、後ろの黒板まで、ここにランウェイを作りましょう。モデルさんたちが闊歩する、机のランウェイです」

「女子生徒の皆さんは、机のランウェイを見ると、自分たちがモデルさんだったことを思い出します。一流のランジェリーモデルです。テキパキと制服を脱いで、順番にランウェイをモデル歩きして、教卓のところでターン。ファッション界に、皆さんのランジェリーのセクシーさ、体のゴージャスさをアピールしましょう。全員………4周くらいしましょうか。最初の1周はブラもパンツもつけて、2周目はトップレス。3周目はパンツも脱いじゃって、ヌードモデルとして自慢の体をアピールしましょう。………4周目は…………。よく外国のファッションショーであるような、前衛的で大胆なメークを顔にしてもらって、アーティスティックに裸を披露しましょう。皆さんのお顔がキャンパスですよ。………君、前衛的メイクさんね」

 何となくの印象で、漫画とか描いていそうな男の先輩の机に、後ろのロッカーから借用してきた絵具セットをポンと置く。

「男の先輩たちは皆、プロのカメラマンですよ。携帯のカメラでも、見事な1枚を激写することが出来ます。最高にセクシーでキュートでアートな写真が撮れたと思ったら、僕の捨てアカウントに送信してください」

 集団催眠も、何度も繰り返していると、大雑把な指示を与えるだけで、皆従ってくれるようになる。多少、操り方が雑でぞんざいになってしまいがちだが、便利には違いない。

 突然、隣の教室でランジェリーファッションショーが始まったら、3-Bのクラスも授業に集中出来なくなるかもしれない。どうせなら、こちらも乱痴気騒ぎを起こすようにしておこう。さらに隣の3-Cはこの時間は移動教室のようなので、2クラス限定の喧騒なら良いだろう。

 ガラガラガラ

 扉を開けると、そのまま教室の中に顔だけ入れて、ケイトが呼びかける。

「皆さんそのまま、深い催眠状態に入って、僕の話を聞きましょう。時計の針が30分を指すと、隣の3-Aが騒々しくなると思います。皆さんも負けないくらい、ハッピーでファンキーでお馬鹿なパーティーピーポーだったことを思い出します。全員裸になって、お互いの下着とか被ったり、タオル代わりにブラジャーを振り回したりしながら、破廉恥なパーティーを満喫しましょう。恥ずかしいとか、やっちゃいけないとか、考える必要はありませんよ。皆さんは授業が終わるチャイムが鳴るまで、IQ50くらいの、馬鹿丸出しのパーティーアニマルです。スッポンポンで盛り上がって、ふざけまくって、お互いに笑いを取り合うことしか考えられませんよ。男子生徒はカメラ小僧です。特に普段と違って、派手にハッチャケちゃってる女子の傑作エロ写真が撮れたと思ったら、例の捨てアカに送信よろしくです」

 後催眠暗示を与えて、トリガーで相手の行動を操ることは、ちょっと気の利いた催眠術師なら、みんな出来る。感情操作も、催眠誘導の中級くらいの技術で出来る。しかし、相手のキャラクターとか普段の人格を完全に塗り替えるようなテンションを振り切った感情を、時間差で与えるというのは、実は難易度が高い。これを、一言の暗示で実現出来るのが、アキミチさんに何度も繰り返し操られてきた、3年生の先輩たちのキャパの大きさだと言える。全員、授業終了のチャイムを聞くと、一旦正気を取り戻すという暗示を繰り返し刷り込んでいる。先輩たちは何で自分がそれまでの行動をしたのか、よく説明も出来ないまま、自分の中で処理しようとしているうちに、数時間後には「あれは夢だったかも」と思うようになっている。こうして何重にも対策をしているうちに、思い切った遊び方が出来る、モルモットたちが出来上がる。今ではケイトの気ままな遊び場だ。

 移動教室中らしく、ガランとした3-Cを通り過ぎて、階段、トイレを通り過ぎると、少し離れた3-Dの教室に着く。こちらでは、少し落ち着いた暗示を試させてもらう。ケイトはアキミチさんとの連絡ノートをめくりながら考える。ある程度ローテーションを組んで、毎日違うことをした方が、この学園全員の催眠暗示の保守メンテを行う上で、効率が良い。ケイトはこうした作戦を立案して、計画通りに進めていくのは、嫌いではなかった。

「3-Dの先輩たち………。お邪魔しますね。僕の手に注目してください。この手がスーッと下にさがると、皆さんも深ーい眠りに落ちます。先生もですよ。………はい、眠ってー」

 全員が昏倒したように机に突っ伏する。美人教師の清坂先生は教卓にゴンと、顔をぶつけてしまったけれど、それでも目を覚まさない。

「………あ、清坂先生、いるじゃん………。この先生は、個別課題があったな…………。………でも先に…………。ええっと、3-Dの先輩たち、教えてくださいね。この中で、隣の席の人と付き合っているという人は、手を挙げて下さい」

 そろそろと、眠ったままの生徒たちの右手が上がっていく。実に、クラスの半数以上が、隣の席同士のカップルになっていた。

「………あ………。この前よりも、比率が上がってる…………。何と言うか、先輩たちの恋心も、シンプルっちゃあ、シンプルなんですね」

 ケイトが指で数えた後で、ノートに数字を書き込む。このクラスでは、アキミチとケイトの共同実験が、今も続いているのだ。

「お互いの裸を、見せあって、後からあれは夢だったと思いこむ。それを繰り返すだけで、思春期の男女なんて、簡単に恋に落ちたりする」という、アキミチさんの仮説を、検証するために、3ヶ月前に始めた実験観察。アキミチさんやケイトの暗示によって、3-Dには席替えというシステムがしばらく停止されている。男女、隣同士の席の2人が、授業中、ケイトの作った順番通りに、20分ずつほど席を離れる。上の階の空き教室で、別に両想いでも何でもない先輩同士が、暗示に従って、裸になって向かい合う。そして15分、お互いの裸を凝視する。この時の3-D生徒の精神状態には、幅を持たせてある。正気を保ちながらも、どうしてもこうしなければならないという衝動というか義務感に急き立てられて、真っ赤になりながら裸を見せあうペアもいれば、トランス状態で呆けたまま見つめ合っているペアもいる。自分には彼氏がいるのにとか、今日はどうしても事情があって、とか、苦し紛れの釈明をしながら、全裸でゆっくり回転して全身を晒している先輩もいた。空き教室から出る時には、みんな、さっきまでのことを忘れてしまって、授業に戻る。それでも夜、鮮明な夢として、裸を見せあったことを思い出す。それを繰り返して3ヶ月。3-Dでは隣同士の席に座るカップルが50%を超えた。

 好みのタイプとか、性格や趣味の一致とか、アイドル一筋とか、皆いろいろとコダワリがあるように話すけれど、催眠術師に言わせれば、思春期の男女なんて、こうして全裸を見せあう刺激的な夢を繰り返し刷り込むだけで、両想いペアに変わっていってしまうものなのかもしれない。

「清坂……遥奈ちゃん先生がいるっていうことは、世界史の授業だったんだね。………先生、アキミチさんの課題が残ってるんで、お休み中のところすみませんが、立ってください」

 ケイトに言われると、床に崩れていたハルナ先生が、むっくりと起き上がる。ショートカットのハルナ先生は、とても綺麗で若い。2年前までは、大学生だったらしい。教育実習生だった頃に、アキミチさんの興味を引いたそうだ。

「先生、正直に答えてくださいね。今週は彼氏と会いましたか?」

「う…………、はい…………。月曜と…………、昨日……………。会いました」

 両手を頬に当てながら、ボンヤリと瞼を半分開いたハルナ先生が答える。顔がポッと赤くなるところが可愛い。

「忙しいはずなのに、ラブラブですね。………で、最後までいきました?」

「…………は………はい」

「フルコース?」

「フ…………、フルコース。………すみません」

 頬に手を当てたまま、ハルナ先生はモジモジしつつ頷く。若い先生の恥じらいながらの嘘をつけない回答。この葛藤を経ながらの従順なリアクションが、ベテランの先生や、同年代の高校生を操るのとも、また少し違う味わいを出してくれる。

「フルコースということは、ハルナ先生の場合は、オムツも使ったんですね?」

「は…………はい…………。大人用の………紙オムツを…………、ター君と2人で、4枚使いました」

 馬鹿馬鹿しい内容だとわかりつつ、ケイトは真面目に「4枚使用」とノートに書きこむ。お淑やかで可愛らしいお嬢様先生に、オムツを使った放尿プレイの性癖を植えつけるというのは、アキミチさんの暇つぶしのためのアイディアだ。教育実習生だった頃からお付き合いしていた、貴文さんというハルナ先生の彼氏は、今では消防士さんだ。最初は彼に隠して、内緒でオムツプレイに耽溺していたハルナ先生。アキミチさんの悪ノリ暗示によって、去年、彼氏にとうとう秘密の性癖を告白させられてしまった。アキミチさんのお節介な仲介により、貴文さんも遥奈先生と同じ性癖を共有するようになって、今では、前より強い絆で結ばれた、オムツ愛用カップルになっている。2人で立ち上げた秘密のブログ、「オツムパーカップルのオムツパンパンデート録」というサイトは、ニッチではあるが海外の愛好家にまで評価されているらしい。2人とも目のところを黒い線で隠して、身バレを防いでいるが、「紫禁城で失禁」という記事をアップした時には、想定よりもバズってしまい、2人とも1ヶ月ほどビクビクして過ごしたそうだ。

「ハルナ先生。オモラシはエッチの前でしたか? 後でしたか? ………あと、気持ち良かったですか?」

 質問されると、清坂遥奈先生は、緩んだ笑顔で遠い目をしながら、幸せそうな溜息をつく。

「どちらもです。エッチはお漏らしで…………挟みます。もう………体と脳が蕩けて、オシッコと一緒に、全部オムツに染み込んじゃうんじゃないかっていうくらい気持ち良くて…………。彼と一緒に出したんですけど、ずっと手を握ったまま、放心してました。………うふふ…………。放尿…………放心………………。ダジャレみたいですね」

 思い出した快感で頭のネジが緩んでしまったのか、ハルナ先生は独特の感想を口にして、いっそう緩んだ笑みを浮かべる。意識はどこか遠い、お花畑に飛んで行ってしまっているようだ。真面目でお淑やかな美人教師を、快感で飼いならして、人には言えないような性癖を植えつけて、最後にはブログまで立ち上げさせてしまうアキミチさんの技術に、ケイトは改めて舌を巻く。同時に、彼の暇つぶしも、行きつくところまで行っていたのだ、という感想を持った。

「あ………、言っとくけど、ここにいる生徒の皆さんは、先生の性癖には影響受けないようにしてくださいね」

 集団を催眠状態に落として、ある1人にあれこれ独白させていると、たまにそれを暗示として受け止めて、影響を受ける人が出てくることがある。ケイトは机に突っ伏している先輩たちに、念のための注意を呼び掛けた。見回してみると、何組かのカップルは深い眠りに落ちたまま、隣同士で手を繋いでいる。無意識のうちにこうした行動が出てくるのは、かなりラブラブなカップルだ。ケイトはこれらのカップルの数も、一応ノートに書き留めておく。

「どうせなら、3-Dのカップルたちは、そのまま幸せになっていって欲しいな。………こっちの勝手な自己満足かもしれないけど………」

 長期間、カップルの生成プロセスを見守っていると、こちらにも情が湧いてくるような気がする。このあたりは、ケイトはアキミチさんとは少し違うのかもしれない。ケイトは学園のみんなで遊ばせてもらいつつも、出来れば相手にも気持ち良くなったり、幸せな気持ちになっていてもらいたいと思う。せっかくのチート技術なのだから、都合の良いWin-Winを実現させられたらいい。そんなことを考えていた。

「それで言うと、3-Eは思いっきり、人間関係ドロドロになっちゃってるからなぁ………」

 扉を開けるなり、ケイトは3-Eの教室の中の、熱気とよそよそしさの入り混じったような湿った空気に、早くもあてられる。3-Dの親密な空気とはまた違った熱のこもりようだ。授業中なので、正面切って喧嘩やラブシーンが繰り広げられている訳ではないが、突然自習になってしまったら、この教室の各所でそうしたイザコザが起こってもおかしくはないような雰囲気………。

 原因は、アキミチとケイトの悪ふざけもあるが、もう一人、このクラスに犯人がいる。一番後ろの席で、窓の外をチラチラ見ながら現実逃避している、重そうな前髪と分厚い眼鏡の先輩、佐渡香奈恵さんだ。このクラスの三角関係、BL、蜘蛛の巣のように複雑に張り巡らされたレズっ娘のネット。浮気、スワッピング。日毎の即席カップリング。全てクラスで一番地味な女子である香奈恵先輩が妄想したものだった。彼女の妄想はなかなかにリアルでネチッこくて、Sっ気満載だった。それを面白がったアキミチさんが、全員従順な操り人形となっている3-Eの生徒たちを使って、実現させたのだった。

 佐渡先輩は、自分の妄想が、ある日突如として実現し始めたことに驚きながらも、さらにマニアックでドロドロした恋愛愛憎叙事詩を、クラスメートをモチーフに書き始める。一度インスピレーションに火が点くと、止まらなくなるタイプのようだ。アキミチさんは面白がって、佐渡先輩の地道な妄想の小改編を、実現させ続けた。その後の経過報告や、月ごとの更新を、ケイトに頼んでいった。

 このクラスのリーダー格だった千佳子先輩は、今は少し信望を失って、肩身狭そうにノートを取っている。彼氏がいながらの9股浮気が発覚したからだ。このクラスの最多記録となっている。でも他の生徒たちも、多かれ少なかれ、彼氏や彼女をとっかえひっかえした経験や、ある日突然同性愛に目覚めて何人かを味見させてもらった記憶があるので、千佳子先輩を強く責めることは出来ずにいる。自分の周りの席を見回しても、そこら中に、元カレや元カノ、浮気相手や、憎き略奪者、そして現在の交際相手にセックスフレンドが並んでいる。誰も彼も、悶々としているようだった。そしてケイトから見ると一番不思議なのは、教室の最後尾に座る佐渡先輩は、さんざん妄想の中でクラスメイトたちの乱倫を考えて置きながら、自分は少しもそこに入ろうとしない。このクラスの恋愛関係図の絡み合った矢印は、彼女だけは迂回して張り巡らされている。さんざん級友たちのカップリングを妄想しながら、自分だけは傍観者でいようとしているようだった。

「コケ―――――ッ」

「フォーォォォッ」

「ヒュー、ヒューッ」

 教室の外から奇声が聞こえてきて、ケイトは時計を確認する。30分を過ぎていた。念のために廊下に出て、事態を確認する。騒いでいるのは廊下のずっと先、3-Aと3-Bだ。黄色い嬌声に混じって、鶏の鳴き声も繰り返し聞こえてくる。ケイトが仕掛けた時限爆弾が、計画通りに作動した要だった。廊下まで出てきた3-Aのヌードモデルたちが、同じく制服をはだけた3-Bのパーティーアニマルたちと、張り合うようにお互いの体をアピールし合っている。肩で風を切るように颯爽とモデル歩きをして、パーティー女子たちの間を突っ切る、勇敢なヌードモデルたち。それに対抗するように、ノリとエッチな腰つきで騒ぎ立てる半裸のパーティーアニマルたち。全員が、良家の子息が通う、お嬢様高校の女子高生たちだ。学校の外に出れば、制服を見ただけで、清楚な出で立ちをみたオジサンたちは秘かに色めき立つ。美少女揃いの名門私立学園。その先輩たちが、今は理性もお行儀も忘れ去って、自分たちの裸身のアピールや、半裸でのセクシーアピールに没頭している。頭の上で振り回されるブラジャー。立ち止まって得意げにターンやポーズを決めているモデルさんたち。曝け出されたオッパイやお尻を隠そうともせず、机の上を闊歩したり転げまわる、美少女たち。その周りで、クラスメイトの男子たちは、カメラ小僧になり切って、様々な角度からスマホのレンズで追いかけている。間もなくケイトが準備している捨てアカウントには、大量の面白画像、お宝ショットが殺到するだろう。その様子が確認できたケイトは、3-Aと3-Bのあたりの喧騒にはあまり近づくことをせずに、階段を降りていく。もうちょっと、ベーシックな催眠術の技術を、自分で確認したくなる。2年生の階に戻るべき頃だ。

。。

 2-Cのクラスにも、可愛い女の子たちは沢山いる。ケイトは自分の腕を確かめるには、1年生や2年生を相手にした方が、役に立つ気がする。なんというか、3年生には、アキミチさんの暗示の色が付きすぎているような気がするのだ。

「2-Cの皆さん、落ち着いて僕の手に注目してください。先生もお願いします。この手がゆーっくりと下に降りていくと、それに合わせて、皆さんも深ーい眠りに落ちていきますよ。ほーら、もう体に力が張らない。目も開けていられない。目を閉じると深い眠りに落ちる。何も考えられなくなる」

 3-Dの先輩たちと同じ暗示をかけても、2年生の先輩たちは、3年生ほど、同時に一糸乱れぬ落ち方をする訳ではない。バタバタ、ドサドサと、ばらける形で机に突っ伏する。最後の一人が、虚ろな目をしながらも、船を漕ぐように上体をユラユラさせている、その女の先輩の席に近づいて、ポンと肩を叩いてあげると、最後の一押しをされたかのように、机に伏せた。ケイトは頷く。これくらいの方が、現在のケイトの実力を正しく表しているような気がする。それでも、30人いる年上の男女を、一言で深い催眠状態に落としたのだから、誇っても良い。例えそれが後催眠暗示によって事前に仕組まれた反応だったとしても、日を置いて全員が従ってくれるのだから、大したもののはずだ。こうした自分の実力値が、正確に見えるような気がして、2年生のフロアも楽しい。

「今から女子の皆さんに呼びかけます。僕の言葉の通りになりますから、よく聞いてくださいね。これから皆さんは席から立って、服を着替えます。毎日着飽きている制服から、とてもお気に入りの、新しい服に着替えるんです。買ったばかりの、とっても素敵な服です。下着も新調したんですよね。全部机の上に、綺麗にたたまれています。まるで早く貴方に来てもらいたがっているように、キラキラと輝いていますね。ここは個人用に仕切られた更衣室です。遠慮なくお着替えを始めましょう」

 テキパキと上着を脱ぎ始める子、ノソノソとスカートのチャックに手を伸ばす子、最初にシャツの手首を留めているボタンを外す子。脱ぎ方は人それぞれだけれど、みんな一様に、嬉しそうな表情をしている。女子という生き物は、「新しい、お気に入りの服」という言葉だけで、テンションが2段階くらい上がるようだ。

 同じ年くらいの(ほとんどが1歳上だが)女子たちが服を脱ぐ音というのは、どうしてこれほど魅力的なのだろう。スルスル、サラサラと、柔らかい布が、別の柔らかい肌を撫でながら落ちていく。そして1人、また1人と、肌色の面積が増えていく。その音が、耳をくすぐる。時々、ホックの外れる音や、チャックの降りる音が、衣擦れの音の中に彩を与える。今、机に突っ伏して眠りこけている男子たちが起きていたら、目を皿のように開いて、必死でこの光景を脳裏に焼きつけようとするだろう。ケイトは逆に、覚醒してながら、あえて目を閉じてみる。脱ぎ捨てられていく服の衣擦れの音を、両耳で精一杯楽しんでみる。贅沢な瞬間だ。

 鼻をくすぐるものもある。女子高生たちの匂いだ。服を脱ぎ捨てると、より明確に香る。女子の匂いというものがある。シャンプーや石鹸、制汗スプレー、校則で禁じられているはずの香水。それらの匂いに混じって、運動でかいた汗や、彼女たち自身の体から発せられる肉体そのものの匂い。クラスの女子全員が裸になる頃には、それらの匂いが一体になって、ケイトの鼻から肺までを満たす。主に甘酸っぱい、女子たちの匂いだ。

 教室の机の間を何度も往復しながら、何人かの先輩のオッパイを触ったり、お尻を撫でたり、アンダーヘアーに指を通したりして、手の感触も楽しむ。しばらく遊んだ後で、そろそろ彼女たちの意識を、部分的にでも覚醒させることにする。毎日、少しだけでも、違う操り方で遊ぶ。ケイトが自分に課している課題なのだ。

「僕が手を叩くと、男の先輩たちは皆、目を覚ましますけれどなぜか、椅子から立ち上がることは出来ませんよ。女の先輩たちは、自分たちが裸であることに気が付きます。けれど、服を着ることは出来ません。なぜかというと今から貴方たちの頭の中から、服をどうやったら着られるかという知識が、風船に入って抜けていってしまうからです。ほら、赤い風船が近づいてきて、貴方の頭の近くで止まりましたよ。その風船がプーゥゥっと大きく膨らんでいくと、貴方の頭の中から、服の着方は消えてしまいました。だから、どんなに恥ずかしくても、服が着られない。ほら、パチンッ」

 ケイトが手を叩くと、2-Dの教室は悲鳴と困惑の声に包まれる。女子たちは皆、体を隠そうと縮こまるのだけど、床に脱ぎ捨てられた制服をかき集めたところで、ピタリと手が止まってしまう。みんな、集めた後でどうすれば良いのか、必死で考えるのだが、思いつかない。男子たちはうろたえながら、キョロキョロと周りを見回すだけだ。

「ほら、上に浮かんでいる赤い風船を掴まないと、服は着られませんよ。ジャンプしても、ギリギリ届かないくらいのところに浮かんでいます。弱い風でもゆっくりと押されて、移動していってしまいますね」

 ケイトが言うと、2-Dの女子の先輩たちは皆、顔を真っ赤にしながら、片手で体を隠し、片手を懸命に伸ばして、そこにない風船の紐を追いかけたり、必死のジャンプを繰り返す。腕一本ではとても隠し切れずに、体の様々な部分がブルンブルンと揺れている。胸が腕から零れ落ちるのを、泣きそうな表情でかばう子。胸もお尻も諦めて、股間だけ片手で隠しながら、早く風船を捕まえようと苦戦する子。皆、近くの男子たちの視線を感じて、顔から体まで赤くしながら、ピョンピョンと飛び跳ねている。

「あー。もっと困ったことに………。先輩たちの頭の中から、体の隠し方の知識まで抜けていってしまいますよ。黄色い風船が吸い上げてしまったんです。黄色い風船、赤い風船。両方とも捕まえないと、体も隠せないし、服も着れない」

「やだーっ…………。待ってーっ」

「ひどい………なんでぇ?」

「もうちょっとっ…………やんっ…………取れないっ」

 綺麗で真面目な先輩たちは全裸のまま、体を隠すことも出来なくなって、両手を広げて、2つの風船を追いかけて走ったり、その場でピョンピョンと飛び跳ねたりして、ケイトと男子たちに凄い光景を見せてくれる。華奢な体つきの子、ふくよかで柔らかそうな子、くびれのしっかりある、見事なプロポーションの子。服の上からは想像も出来ないくらいアンダーヘアーが濃かった子や、乳輪が大きかった子。あるいは大人びた顔つきとミスマッチなほど、毛がまだ生え揃っていない子、胸が男の子のように小さくて、乳首だけツンと上を向いている子。全員が両手を上げて、何かを掴み取ろうと、全力でジャンプしながら、所狭しと跳ね回る。しかも、彼女たちから恥ずかしいという感情は一切奪っていないのだから、可愛そうなくらい顔を赤くして、裸で跳びまわっている。ベソをかくような表情の子たちもいる。垂直ジャンプの繰り返しに疲れた子は何人か、諦めたような表情で、自分の目だけに見える赤い風船、黄色い風船を呆然と見送っている。それでも諦めずに追い回している子たちもまだまだいる。普段恥ずかしがり屋だったり奥手だったり、裸を見られることに抵抗感のあるシャイな子ほど、必死で両手を広げて伸ばして、なおも風船を追って跳ね回っている。息を切らせて、肌に汗を浮かべて、あと少しで手が届きそうなところで、意地悪に上下する風船を、必死に追って飛びつこうとしている。そのジャンプのたびに、彼女のオッパイやお尻が、プルンプルンと揺れて、振り回される。それを見ながらクラスの男子たちのほとんどは、不自然な角度に体を曲げて、何かに耐えようとプルプル震えている。

「ほら、クラスメイトの子たちが困っていますよ。男の先輩たちも、やっと体が動くようになりました。勝手に教室を出たり、僕に触れようとしたりすることは出来ませんが、クラスの女子たちを手伝うことは出来ます。皆に、女子の名前が書かれた赤と黄色の風船が見えますよね。これを掴んで、女子の名前を読み上げながら、風船を割ってあげてください。男子の背の高さとジャンプ力なら、なんとか風船の紐に手が届くかもしれません」

「あ…………、ヒロコの風船とれた」

「ありがとっ…………。赤のもお願い」

「川野も手伝ってよっ」

「え…………お前のどこだよ」

「ほら、あっちに浮いてるじゃんっ。私の体ばっか見てないでよ。馬鹿エッチ!」

「…………あ、ほんとだ………。あんじゃん………」

「ミッちゃんはやっぱり恥ずかしがり屋だから、隠すための黄色い風船があんなにデカいのかな?」

「…………それ言ったら、私が、平気みたいじゃん」

「ほんとだ、君原の風船小さっ…………。ま、水泳部だし、…多少は………な」

 女子たちが口々に天井付近を指さして騒ぐと、男子たちも徐々に同じものを見るようになる。この、暗示と空想が催眠にかかっている人同士の間で共有されていく過程の時間も、ケイトは好きだ。妄想が伝播して、あっという間に、そこにないはずのものを、集団で同じように見たりする。お互いの目撃証言が、集団の暗示を一層強化しあったりもする。ケイトにとって、ただ集団が催眠術師の言葉に一様に従うだけというのは、集団催眠の醍醐味ではない。術師の手を離れてしまいそうなくらい、集団の間で暗示が再強化されながら波を打つ。うねる。そのダイナミズムこそが、ケイトの考える集団催眠の面白さだ。

 気がつくと、2-Dのクラスには、なかなか効果的な協力体制が出来上がっていた。全裸の女子を肩車しながら、呼吸を荒くしている男子もいるが、大体は見事なチームワークを発揮している。風船を追い立てる男子、捕まえて割る男子。ホッとして御礼を言いながら、やっと自分の体を隠す女子。席に戻って下着を身に着け、制服を着ていく女子。3-Eの佐渡先輩の妄想による複雑な恋愛ネットワークづくりとは別の形で、このクラスの男女の仲は深まっていくかもしれない。

「2-Dの先輩たち。もうちょっと頑張ったら、女子も全員、服を着れそうですね。皆さんは風船を捕まえるのを手伝ってくれた男子には、ハグをしてチューもして、御礼をするのが、マナーだと、思い出しますよ。普段、仲が良くても悪くても、手伝ってくれた人には礼を尽くしましょう。皆さん、今日あったことは自分の心の中だけに秘めておいてください。きっと、明日には、夢だったと思うようになりますよ」

 それだけ告げて、ケイトは教室を出る。知識を頭から風船に移してしまって、追いかけさせるという、新しく思いついた暗示が成功したことに満足していた。

。。

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。ケイトはふと思い出したように、3階に戻ろうと階段を上がる。3-Aと3-Bの教室まで歩いていくと、そこはまさに「祭りの後」といった雰囲気だった。女子たちはみんな、自分のしていたことに呆然となりながら、ブツブツと弁解のような言い訳を口にしつつ、壁際に身を寄せて、服を着ている。

 学校の女生徒たちを一斉に脱がせる暗示を試し始めた頃のケイトは、当然のように、彼女たちの脱いでいく姿、そして行きついた先の裸を見ることに必死になっていた。それが、そうした暗示を何度も何度も繰り返していくうちに、今では、暗示が解けた後に正気に戻って慌てて服を着ようとしている女子集団を見るのが、楽しみの一つに変わっていた。こちらがメインディッシュとまではいかないかもしれないが、大事なデザートのようなものになっている。

 乱暴に脱ぎ捨てられた制服の重なりからは、一目で自分のものを特定するのは難しい。何とか下着を身に着けた女子たちが、互いに手にした近くの制服を、女子同士確かめ合ったりしながら、苦戦して自分の制服を確認して着ていく。さっきまで散々全裸を見せつけておきながら、服を着る姿を追いかける男子の視線を嫌がって、注意したりする。服を着て、身だしなみが整えられたのを自分で確認すると、コホンと1つ咳ばらいをしただけで、「何かあった?」とばかりに素知らぬ顔をして席に戻ろうとする女子もいる。でもそんな子も、すました顔がまだ赤らんでいたりもする。その、異常な状態から、正気を取り戻した女の子たちが、日常を取り戻そうと四苦八苦する姿も、妙に可愛らしく思えてしまう。なんなら、また合図一つで、スッポンポンにして跳ね回らせてあげようか………。そんな悪戯心にもくすぐられながら、ケイトは3-A、3-Bのドタバタを、微笑ましく見守る。

「………よし。そろそろかな」

 3-Cに行くことにする。さっきの授業中は移動教室のために、教室を開けていた3-Cの先輩たち。ここにはアキミチさんが一番のお気に入りとしていた、峰原史依先輩がいる。シヨリ先輩の綺麗さは、ルックスに秀でた女子生徒の多いこの学園の中でも、ひときわ際立っていた。線が細くて、儚げで、透き通るように白い肌は、なんだかこの世に不自然に繋ぎ止められているような雰囲気まで漂わせている。それでいて、背中までまっすぐ伸びる黒い髪は、母性のような包容力も感じさせてくれる。控えめな態度は崩さないのに、なんだか別格の美人オーラをまとった人だ。

 ガラガラガラ

 扉を開く。3年生の先輩たちは、いつも合図一つで簡単に催眠に落ちてくれるので、気楽なものだ。

「はい、皆さん。お疲れでしょう。ゆっくり眠ってくださーい」

 ケイトが誰の目も見ず、ぞんざいな言い方で暗示を入れようとする。空気がフッと柔らかく弛緩するのを肌で感じるのを待つ…………が、その感触は来なかった。

「………は? ………君、1年?」

 扉の近くの席に座る、女の先輩が、怪訝な声をかける。ケイトは眉をひそめて顔を上げる。何かがおかしい。

「……誰だ? ………こいつ…………」

「眠ってくださいとか言ってなかった?」

 ザワザワと、3-Cの生徒たちが言葉を交わし始める。ケイトの背中の産毛が総毛立っていくのが感じられた。

「皆さん、落ち着いてください。僕のペンライトを見てください。とても綺麗です。ここから目を離したくない。ずっとこのペンライトを………」

「おい、君。何言ってんの?」

「何の用? 急にペンライトとか………」

 明らかに訝しむ声。先輩たちの言葉が投げかけられると、ケイトの頭がスーッと冷たくなるのを感じる。後催眠暗示のトリガーが効かない。こういう時は、瞬間催眠導入? 驚愕法? 30人も同時に驚愕法で落としたことはあったか? 頭の中が急回転を始める。それとも今なら、冗談でごまかして、退散した方が安全か? ………ケイトは、教室にいきなりリスクのある入り方をした自分を悔やんでいた。いや、そんな後悔はあとですべきで、今考えることは、…………あまり時間をあけずに、話を続けること? いや、もう一度、催眠導入にトライするなら、いっそもっと間を取って、散々怪しまれ、クラス全体の緊張感がピークに達したところで、一声発する方が、勝機は大きくなるか? 2秒ほどの間に、ケイトは7個くらいの、次の行動のパターンを考えた。

「お前一体、何な……………………………」

 立ち上がった男の先輩が、口を開いたまま止まった。ケイトはまだペンライトを手にしたまま、予測していない事態をじっと観察する。立ち上がった男子生徒は、その場で立ち尽くしている。他の生徒も、事態を見守っているのではない。全員、虚ろな目をしている。ケイトを見ているようで、見ていない。ケイトの後ろの空間、はるか遠くを見ようとしているような、ボンヤリとした視線。………これは、………催眠状態だ。深い変性意識。トランス状態にある人間の目だ。やっとケイトの心臓がバクバクし始める。確認するために近づいて、3年の男子生徒の顔の前で、手を左右に振る。目は手を追わない。

「答えてください。貴方は今、深い催眠状態にある。そうですね?」

「は…………い。そうだと、思います」

「どうして、さっきは、かからなかったのだと思いますか?」

「…………わかりません」

「いえ、貴方は分かっています。本当はそれを覚えている。今は全て思い出すことが出来て、正直に話すことが出来る。貴方は………アキミチさんに、何か言われましたね?」

 こめかみと、髪の生え際のあたりから、どっと汗が噴き出る。脇の下にも汗をかいていることがわかった。

「あ……、はい。そうです。………アキミチがいた頃、………僕ら全員に言いました。ちょうど70日後、笹川佳斗君が来ても、催眠術にはかからない、15秒は正気を保って、その後で、催眠状態に入る」

 とつとつと、口にする、ボンヤリ立ち尽くしたままの先輩。ケイトは、まだそんな彼に、ペンライトを突き付けている自分に気がついた。ペンライトを持った方の手で額の汗を拭う。アキミチさんの置き土産だった。これは、学園の支配者になって、全員をいつでも催眠に落とせるという状態になっても、気は抜きすぎるなという、師匠の悪戯混じりの警鐘だったのだ。………比率で言うと、悪戯が6割以上だったと思うのだが………。

 ケイトが溜息をつきながら、頭を左右に傾げて首を曲げる。肩から首にかけて、筋肉がグキグキとなった。15秒の緊張のなかで、ここまで筋肉が強ばるものなのだと、ケイトに教えてくれた。ケイトの口元は、笑っていた。

 3年生はアキミチさんが毎日何回も催眠術を繰り返しかけてきた土壌があるから、楽勝。ぞんざいに暗示をかけても、スルスルと受け入れてくれる。そう繰り返し、意識させられる反応を受け取っているうちに、確かにケイトは油断していた。弛緩していたのは、催眠術師の彼の方だった。そんな状態を一度、わざと作ってから、ドキッとさせる。アキミチさんらしい、暇つぶしのサプライズ企画だったのかもしれない。

 ケイトにはビンビン来た。久しぶりにアドレナリンが出た。そして、2秒で考えた、対応のパターン7個。これが本当に今自分が頼れる導入法や行動の選択肢なのだと、明確に理解することが出来た。勉強熱心なケイトは毎日、手数を増やしているつもりでいる。新しい催眠導入法。新たなギミック。つぶしの効く、逃げ方。それでも、いざピンチに立たされた時に、思い浮かんだのは7個のアクションだった。それを明らかにさせてくれたのは、アキミチさんが仕掛けてくれた、ピンチだった。気が付くと、ケイトは声を出して笑っていた。そして、勃起もしていた。この師匠と弟子は、どちらも狂っているのかもしれない。2人とも催眠術に足首から脳天までのめりこんでいた。催眠術を介して、2人だけにわかる会話をしていた。そしてその会話は今では、全くの赤の他人にかけた催眠術を経由している時だけ、腹を割ったコミュニケーションとして成立していた。

「あ………あはは。なるほどね。………うん。催眠術にも、イップスとか、あるかもしれないから。……覚悟は必要だよね。良くわかったよ。ありがとう。……君は、ここでズボンとパンツを下ろして、オナニーでもしてていいよ。………あ、オカズもあった方が良いかな? ………君と、君も、服を脱いで、この人と向かい合ってオナニーしててよ」

 ケイトがポンと肩を叩くと、立ち尽くしていた男の先輩は、ノソノソとベルトを外して、ズボンを下ろし、トランクスも膝まで下ろして自分のモノをしごき始める。ケイトが肩を叩いた、近くに座る女子たちが、虚ろな目のまま立ち上がって、の先輩に向かい合うようにして自分の体も慰め始める。スカートをまくって、ショーツを下ろして、お互いに無表情で自慰行為を見せつけ合う。

 ケイトはもう、この3人の先輩たちには興味を持っていない。ガラスのような眼を前に向けて座ったまま動かない生徒たちの間を縫って、一人の綺麗な女性の席へと近づいていく。峰原史依先輩の席。シヨリ先輩は、他の生徒たちと同じように、真っすぐ前を見ながらボンヤリと座っている。それでも、どこか覚悟を決めてケイトを待っているような佇まいは、彼女の美人オーラのなせる業だろうか? あるいはアキミチさんに別の仕込みをされているのだろうか? ケイトにとっては、どちらでも良いし、どちらでもあって欲しい。

「シヨリ先輩。貴方は今、どんな状態ですか?」

「私は………今、……深い催眠状態です。……どんなことをされても、全てを受け入れる、状態です」

 細い声で、真っすぐ前を向いた美女が言う。ケイトは最後まで聞かずに、彼女の顎からコメカミマまで届くように、頬をベロリと舐めた。シヨリ先輩は真っすぐ前を向いたままだ。

「それは、アキミチさんのかけた深い催眠状態ですね。とても大胆で周到で、芸術的な手際によって導かれた、幸せな催眠状態だと思います。けれど、貴方はこれから繰り返し、別の催眠術師に導かれて、少しだけ違う催眠状態に陥るようになります。アキミチさんの技と比べれば、まだまだ稚拙な技術で導入される、ぎこちない催眠状態かもしれません。けれど、その催眠術師は、アキミチさんよりもずっと不器用でも辛抱強くて、執着が強くて、向上心に満ちています。その催眠術師にしつこく毎日、暗示を擦りこまれていくうちに、貴方は深層意識から変貌していきます。アキミチさんのものではなくて、ケイトのものとして、生まれ変わっていくのです。わかりましたね?」

 ケイトが囁きかけると、ボンヤリと遠くを見ていたシヨリ先輩は、わずかに眉をひそめる。

「でも……私は……」

 ケイトが心の中で小さく舌打ちする。同時にニヤリと微笑む。

「でも、は無いです。アキミチさんは貴方のことも僕に委ねていきましたよ。僕の言う通りになることが、彼の願いでもあります。そうですよね?」

「………はい。そう……です」

「だから、貴方は僕、ケイトの言う通りに、何でもします。はっきりと言いましょう」

「私、……峰原史依は、ケイト君の言う通りに、何でもします」

 アキミチさんの名前を出すだけで、シヨリ先輩は簡単に思い通りになる。これは、ケイトの力ではない。それでも、ケイトは何かを掴んだような感触を持っている。

「ではシヨリさん、立ち上がって、服を一枚一枚、脱いでいきましょう。今来ている服には、和泉昭道と名前が刺繍されていますね。ほら、文字が見えてきた。一枚脱ぐ毎に、貴方の体だけでなく、心が裸になる。誰のモノでもなくなる。完全に無防備な裸の心になるまで、貴方は脱ぎ続けていきますよ」

 ケイトが言うと、椅子を引いて、立ち上がったシヨリ先輩が、ジャケットから腕を抜き、シャツの首元を留めているリボンに手をかけ、ボタンを一つ一つ、外していく。今日も何度も見てきた、女子高生が制服を脱いで、下着を取り去って裸になる仕草。それが、シヨリ先輩のものだと思うと、全く飽きずに見ていられるから、不思議なものだ。白いブラジャーと白いショーツは、クルミがよく身に着けているものと似ていて、柄はとてもシンプルだけど、清潔感に気が遣われているものだとわかる。ブラジャーのカップが外れると、丸くて白いオッパイが零れ出る。けして巨乳ではない。けれどスレンダーで色の白いシヨリ先輩の体にあると、しっかりと存在感を訴えかけてくる、お椀型のオッパイ。柔らかそうにわずかに重力に従って、下の方が肉厚になっている、お餅のような乳房の真ん中で、淡いピンク色の乳輪と乳首が真正面を向いている。指をショーツのゴムにかけると、スルスルと最後の一枚も脱いでいく。アンダーヘアーの面積は大きくはないが、足の間を守るように、股間の割れ目のあたりでは意外なほどみっしりと、密集していた。そして、シヨリ先輩の脱衣は、ここからが長い。既に全裸になっているけれど、ケイトの暗示に従って、想像上の、心の服、心の防具を一つ一つ、外していくような仕草を続けていく。その動きを見ているのは、ケイトにとって退屈な時間ではない。

 さっきの、ケイトのトリガーも誘導も、15秒効かなくなるという、アキミチさんがクラスにかけていた暗示には、心底ドギマギさせられた。それは正直に認めざるを得ない。ケイトは確かに、油断していたのだ。今までの3年生たちの余りの催眠導入のたやすさに。ただ、ケイトは同時に、アキミチさんがこんな暗示を仕掛けていたのが、3-Cだったということに、ほんの少しだけ、引っ掛かりを感じてもいる。達観したように飽きっぽい目で、学園全体を見下ろしていたはずのアキミチさんが、自分のいたクラスとは言え、少しだけ偏った執着を見せたような気がしたのだ。だからケイトは、かつてのアキミチさんの恋人を徹底的に堕とすことに専念することにした。このことをノートに書き記しておけば、気になったアキミチさんが、ひょっこり帰ってきてくれるかもしれない。そう思ったのだ。

 まるで宇宙服の下に十二単でも着こんでいたかのように、シヨリ先輩は様々な服を脱ぐ動きを見せる。背中のジッパーを肩甲骨からお尻のあたりまで下ろしたり、キツメのジーンズを苦労しながら下ろすように、お尻を振って、勢いをつけて想像上のズボンを下ろしていったり、コルセットを縛るいくつもの結び目を胸元からおヘソのあたりまで、順番に解いたり。その仕草は、なかなかにまどろっこしい。それでも、一枚脱ぐごとに、彼女の表情がリラックスしていくようにも見える。

 5分以上、しっかり時間をかけて、ようやくシヨリ先輩は、想像上の心の衣服を全部脱ぎ捨てた。そのあとで「気をつけ」の姿勢になった彼女は、心なしかさっきよりも無防備で弛緩した表情で、立ったまま左右にユラユラと揺れていた。

「最後にもう一つ。………ほら、シヨリ先輩。ここに僕がスイッチを作りますよ。僕と貴方の深層意識しか知らない、秘密のスイッチ」

 全裸のシヨリ先輩の横に立ったケイトは、彼女の後頭部から首へとつながる頭蓋骨のくぼみのあたりをグッと指で押した。

「ここのスイッチを押されると、シヨリ先輩の頭が、パカって開きます。炊飯ジャーの蓋みたいに、ダイナミックに90度。全開になるんです。ほら。パカッ」

 後頭部を強めに押されたシヨリ先輩は、目を丸くするように見開いた。表情はそのまま変わらない。まるで美人がロボットに変形してしまったような機械的な表情だ。

「こうやって、シヨリ先輩の脳に直接話しかけられると、貴方は一切疑問を感じたり、疑ったり、抗ったりすることは出来ません。僕の言葉はそのまま貴方にとっての本当の真実になるんです。良いですね」

 シヨリ先輩はもう、何か言おうとわずかに唇を開いたけれど、言葉は出てこない。頷くこともしない。唇の端から、透明な涎が垂れそうになっている。これが、彼女の想像する、頭がパカッと開いて、完全にケイトの暗示を受け入れるだけの状態になった自分なのだった。

「シヨリさんはこれから僕、ケイトとセックスをします。心の服を脱ぎ去った、一番の裸状態である貴方は、自分を取り繕ったり、理性を保ったりすることは出来ません。一匹の雌として、全部を曝け出して僕とのセックスにのめりこみます。僕の肌に触れるたび、僕に触られるたびに貴方の裸の心と体は、喜びと快感で燃え上がるんです。心のカバーを全て剥がしてある貴方は、僕に触れるたびに、僕の汗、匂い、僕を感じさせるものすべてを、自分の中にしみこませていってしまいます。笹川佳斗と一体になるんです。それを感じるたびに、シヨリさんは蕩けるような気持ち良さで、何も考えられなくなります。僕とセックスをして、僕のものになる。僕の全てを受け入れて、最高の快感と幸せを味わう。わかりましたね。頭の蓋を閉じますよ。……はい」

 頭の上を、押しこむようにおさえてあげると、シヨリ先輩の表情が、わずかに生気を取り戻した。ケイトが顔を近づけていく。それを意識すると、シヨリ先輩は瞼をうっすらと閉じて、キスを受け入れる顔になった。

 唇を奪う。舌を入れると、上下の歯を開いて自分の舌を添わせるようにして、シヨリさんは受け入れる。裸のシヨリさんは平熱が低めなのだろうか、皮膚はヒンヤリ、スベスベとしている。そのぶん、熱を帯びてくるとそれがはっきりと伝わってくる。抱き寄せて、背中を、胸の横を、撫でさするように触っていく。柔らかくてスルスル滑るような肌が、徐々に温かくなってくる。脇腹から脇の下あたりを撫でると、肌がきゅっと収縮して、鳥肌が立つのがわかる。性感帯、敏感な部分がこのあたりにある。オッパイも触る。指を吸いついて吸収しそうな柔らかさと、ゆっくりと押し返してくる若さの反発力。体の特徴は人それぞれだけど、この美女に、クルミや郁恵先生たちとはまた違う体の魅力があることは確かだ。スレンダーで、けれど女性的で優美な曲線があって、色素の薄さが儚げで、なんだか触れているだけで、もっと汚したくなるような、透明感と清らかさがある。それでいて、発情する、快感が湧き出すと暗示を入れると、ビビッドに、オンナの体の反応を返してくる。すでに乳首は歯がゆそうに立ち上がっている。薄いピンクだったはずの乳輪と乳首が、色を濃くしている。淡い桃色に色づいたオッパイの先端で、ここに触れてくれと主張するかのように、シヨリさんの乳首が、ツンと立って発情をアピールしている。オッパイから特別に甘い香気が漂ってくるような気がする。

 華奢な腰回りから股間のアンダーヘアーへと指を滑り込ませると、彼女の粘膜のあたりがもう一段階、体温が上がっているのがわかる。はっきりと熱く、湿っていた。指で押しただけで、プピュっと音を立てて、粘液が噴き出るようにケイトの人差し指と中指を、第二関節まで浸す。ヌルヌルスベスベとした、この美女の分泌した体液だ。

 ケイトは急いでベルトを外して、ズボンを下げる。トランクスを下げるのを邪魔するほどに、彼のペニスは上を向いて膨れ上がっていた。オッパイを揉み続ける。乳首の奥にあると思われる、玉のようなモノを揉み解すように、指で、手のひらで、アキミチさんのオンナのオッパイを弄繰り回す。そしてもう片方の手で、熱く濡れた股間の秘密の場所に指を入れて、じっくりと掻きまわす。全身をヒクヒクと震わせながら、シヨリさんが切なそうな声を漏らす。腰を、背筋を、首をくねらせて、快感に悶える。オッパイをベロリと強引に舐めてみせる。彼女が、自分の肌がケイトの涎をしみこませ、吸収していくところを想像して喘ぐ姿を、じっくりと鑑賞する。今度はオッパイの先端を口に含んで、乳首を舐めまわしたり、甘噛みしたりする。オッパイから、アソコから、全身の皮膚と粘膜から、ケイトの分泌物や匂いを吸収して、ケイトと一体化して欲しい。ケイトのものにしたい。そう思って、ケイトはわざといやらしく、わざと下品に、ジックリとねっとりと、シヨリの体をねぶりまわす。脇の下や膝の裏、脚を割って股間の割れ目まで、舐めまわして、指で弄って、優しく噛む。お尻の穴まで指で広げて、イジメてみせる。学園でも有数の美人は、白い肌を桃色に染めて、体をくねらせ、床に涎を垂らして喘ぎながら、されるがままになっている。床に散らかった自分の制服や下着の上を泳ぐようにして、シヨリ先輩がくねる。

「シヨリさん。全身の細胞が喜んでいるのが感じられるでしょ。僕の存在を受け入れて、発情して、沸き立って活性化していく。貴方の体と心全体が、僕の全てを吸いつくしたくて、貪りたくて、求めているよね」

 ケイトは満を持して、最近「サトミ会長」にもらった表現をヒントに、シヨリ先輩の耳元で駄目押しのように暗示を擦りこむ。ハッと目を見開いたシヨリ先輩は、熱に冒されたような表情になって、コクっと頷いた。そして、彼女の腰が動く。浮かせた腰は、自分から求めるように、ケイトの股間に押しつけらえる。オッパイが、もっとイジメてくださいと、ケイトの口元にねじ込まれる。身をよじって、あのシヨリさんが、体をケイトにまとわりつかせる。自分から求めてきている。

 ケイトは床に押しつけた膝に力をいれて、腰を引くと、グッと自分のモノをシヨリさんのヴァギナの中に押し込む。低めの平熱とのギャップからか、彼女の膣の中は、熱さで痺れるようにも感じられる。膣壁が、ケイトのペニスをギュッと抱きしめる。暗示通り、彼女の全身の細胞が、オンナの喜びにわなないて、ケイトを吸い尽くそうとしているような感触を覚える。シヨリさんの顔を見る。熱で理性をとばしたような雰囲気の彼女が、歯を見せたまま目をうっすらと閉じる。上瞼が下瞼に近づくように目を閉じるのではない。下瞼が上瞼に近づくようにして、薄目になっている。これが、峰原先輩の発情した顔。理性も恥じらいも全部取り払って、心と体を真っ裸にした時、オンナの快感で狂わせ、溺れさせた時に見せる、彼女の、性に没頭しきっている表情だ。

 多分、これまで、アキミチさんにだけ、見せてきた顔なのだろう。けれどケイトはこれからシツコク、彼女を落として責めて、ドロドロに汚して、もっと新しい、アキミチさんが見たことのない表情を曝け出させてみるつもりだ。今日は出来ないかもしれない。けれど、明日も、明後日も、シヨリさんはここにいて、ケイトの思うがままだ。アキミチさんはここにはいない。いない。いない。いない。掛け声のように心の中で繰り返して、ケイトが腰を振る。シヨリさんも、はしたなく腰を振って、打ち付け合うように、性器の結合した部分を擦り合わせる。

 一瞬、シヨリ先輩の姿が、クルミと重なったような気がして、ケイトはドキッとする。見直すと、華奢で儚げな、シヨリ先輩の美しい裸。けれど、さっき、一瞬だったが、ケイトは確かに見たような気がする。クルミを無茶苦茶に抱く、ケイトのまだ見たことがない、催眠術の弟子の姿。ケイトは首を振って、シヨリ先輩とのセックスに集中する。彼女は確かに色っぽく、いやらしく悶えていた。

「あぁああっ、はぁああっ………イクゥ…………ッ…………、もう………イクぅううっ」

 感度を上げすぎたのか、すぐにシヨリさんが喘ぎ声の音階を上げながら、オルガスムが迫っていることを伝えてくる。

「まだ。………シヨリさんは、まだイカない。気持ち良くても、僕が良いというまで、イケないよ」

「ぁああああああ、わぁああああああああああああ」

 いつも大人しい峰原先輩は、顔を左右にブンブン振りながら、襲い来る快感の波に悲鳴を上げている。それでも、腰の動きは止まらない。ケイトのペニスを咥えこんだ彼女の膣が、縋り付くように、ピストンするペニスを締め付ける。

「もう駄目、………壊れるっ…………。壊れちゃうぅぅうううっ」

 顔をクシャクシャにして、体を仰け反らせる先輩。完全にイク体勢。それでも、ケイトが許可をしないから、イケない。切なく背筋を反らせて、胸を揺するだけだ。ケイトは本気で、シヨリ先輩を一度、壊してみたかった。それでも、彼女の苦しそうな顔を見ているうち、自分の股間も爆発寸前になっているのを感じるうちに、口を開く。

「シヨリさん、僕がイクのを感じ取ったら、イっても良いよ。イク瞬間に、僕への愛が爆発する。他には何も考えられない。ホラッ」

 ケイトも思わず早口になる。自分の我慢の限界だったのだ。シヨリ先輩の熱い膣の中に、自分の精をドクドクと放出する。膣壁がギューゥウウッと収縮する。先輩は爆ぜてしまった。たまりたまった快感の炸裂に頭を真っ白にして、脳天からブリッジをするように頭を床につく、そのままの姿勢で体を支えながら、腰を痙攣させるように振る。ケイトのペニスとシヨリ先輩のヴァギナの間から、ジュルジュルと彼女の愛液が噴き出でて垂れた。

 ケイトがしばらくその姿勢のまま、呼吸を整えて、落ち着いたところでシヨリさんからペニスを抜く。糸を引いて精液と愛液の混合体が、シヨリさんの太腿に垂れた。まだシヨリさんは失神したまま、腰をひくつかせている。ケイトはゆっくりと周りを見回した。さっきの姿勢のまま、時間が停止したかのように、3-Cの先輩たちは呆然と前を見つめている。男の先輩1人と、ケイトがあてがった女の先輩2人は、オナニーの指示を受けたまま、放っておかれたせいで、何回もイっていたようだ。靴下までドロドロになって、まだ自分の性器を弄っていた。荒い呼吸で放心しているシヨリと、手だけ動かしている3人の先輩たち以外は、人形のように静止した状態。けれどケイトにはわかる。彼らの深層意識では、教室の中で峰原史依がどう変貌したか、何をしたか、みんな、しっかり認識して、理解しているはずだ。ここはアキミチさんの城だった3-C。その全員に、ケイトが出来ることを知っておいて欲しい。これを繰り返すうちに、いずれケイトのものになるはずだから。

「みんな、服を脱いで裸になって、自分がカエルだったことを思い出そう。ピョンピョン跳ねて、ゲコゲコ鳴いて、僕に与えられたカエルライフを楽しんでください」

 ケイトが言うと、立ち尽くしてオナニーしていた3人の男女も、座って前を見据えていたほとんどのクラスメイトたちも、そして寝そべって失神していたシヨリ先輩すらも、体を起こして、服を脱ぐ動作を始める。ケイトは手の動きで、シヨリ先輩を止めるジェスチャーを見せた。シヨリ先輩はまた脱力して床に体を預ける。まだしつこく、ケイトがシヨリさんのオッパイを揉む。シヨリ先輩は嬉しそうに鼻から息を漏らして、体をくねらせた。

 ケロケロ、ゲコゲコ、グアグアと、様々な音程のカエルの鳴き声が教室に響き始めると、周りは全裸の先輩たちがしゃがみこんで手をついては、ピョコピョコと跳ね回り、騒がしい状態になる。整った顔立ちの、可愛らしい先輩を見ると、全裸で無表情のまま、目をクリクリと回して、想像上のハエに対して舌を伸ばしている。とても観察力があって、想像力が豊かな先輩だと思った。ピョコタン、ピョコタンと近くに寄ってきた、女子のお尻をぺチンと叩くと、体の向きを変えて、ケイトたちから遠ざかるように跳ねていく。男の先輩も近づいてきたのだが、こちらは直接触る気にならなかったので、手首を曲げて「シッシッ」と遠ざかるように指示をした。カエルの頭脳だったらわかるはずのないケイトの意志が、ここではきちんと伝わってくれる。催眠状態の人間の意識の柔軟さは色々と便利で助かる。

「シヨリさんはこれで、僕、笹川ケイトのものになりました。貴方の細胞の一つ一つにまで、ケイトのエキスがしみこんで一つになりました」

(アキミチさんもそれを望んでいます)と、一言付け加えれば、この暗示がシヨリ先輩の中で完全なものとして定着することは分かっていた。それでも、ケイトはその一言は言わずにおいた。峰原史依先輩は、まだわずかに口を開けたまま、視線を彷徨わせて、ボンヤリとした表情でゆっくりと頷いた。

「シヨリさん自身のケイトへの愛を思うと、さっきのセックスを体の細胞が思い出します。子宮がキュンとして、胸が疼いて、オンナの幸せが溢れ出てきます」

「はぁあっ」

 シヨリさんがアゴを上げる。顔を見ると、下瞼が上瞼に近づくようにして、薄目で眉をハの字にしている。彼女の発情した時の雌の顔になっている。

「シヨリ先輩は、笹川ケイトのものとして、生まれ変わることが出来ました。今日、おうちに帰ったら、クローゼットを整理してみるのはどうでしょう? アキミチさんに見てもらった下着、脱がしてもらった服は、一つ一つ、サヨナラしてみましょうか。全部を一度に整理する必要はありません。でも、一つ一つ、新しいお洋服、新しくてエッチな下着に、変えていくのはどうでしょうか。「アキミチ」と刺繍されている服は、もう身に着けていく必要がないものですからね」

「………はい………」

 シヨリさんが素直に首を縦に振る。

「ケイト君はどんな服なら、気に入ってもらえるか。どんな下着を見せたら興奮してくれるか。どんなシヨリになれば喜んでくれるか。そんなことを考えている時、シヨリさんはとても幸せな気持ちに満たされます。貴方はそうやって、毎日もっともっと綺麗になっていきます。幸せで、エッチな女性になっていきます。そうですね?」

「はい。……そうです」

 カエルさんたちの飛び跳ねる音、様々な音程の鳴き声を無視しながら、ケイトはシヨリさんに囁き続けた。シヨリさんは呆けたような表情を少し緩んだ笑顔に変えて、耳元の囁きに何度も頷いては、目を閉じて心の中で反芻していくのだった。

。。。

 3-Cの峰原史依先輩が、ケイトの性教育の場に見学として入らせてもらいたがっている。そう聞くと、クルミもセナもアヤノも緊張しつつも色めき立った。秀玲学園ではレジェンド級の評判を集める、「あの」美人の峰原先輩だ。しかもよりによって、笹川ケイトの性教育個人授業だ。話を聞いて、担任の御堂郁恵先生までもが、顔を赤らめて緊張していた。

「どうぞ、皆様。私にお気兼ねなく」

 歌うように、優雅に語るシヨリ先輩。その独特なトーンの話し方は、どことなく彼女の元彼氏、アキミチさんの喋り方を彷彿とさせた。空いている会議室の後ろ側に、姿勢よく座った3年の先輩。まとっている美人オーラが凄い。郁恵先生は、コホンと咳ばらいをして、ビジネススーツを脱いでいく。

「で、では、今日はシックスナインについて、学んでいきます。笹川君。制服を脱いで、私に跨ってください」

 クルミが間に入って、ケイトが脱ぐのを手伝う、いつもの風景。その中に今日は一人、熱心に見守る美人の先輩の姿が加わっている。シヨリ先輩は、イクエ先生が足を開いてケイトの顔を股間に招き寄せながら、舌を伸ばしてケイトのモノにご奉仕する様を、熱心に見守っていた。時折、両眼を閉じて、想像しながら自分の舌も動かしたりしてみせる。学園内の誰も見たことがないはずの、性教育を熱心に見学してシミュレーションしているシヨリ先輩の姿だった。

 そのシヨリ先輩は、2週間後には、クルミたちをさらに驚かせる変貌を見せる。背中まで伸びていた綺麗な黒髪を、肩にかからないくらいのショートにしてきたのだ。その長さ、前髪の雰囲気。誰かが指摘してケイトも気がついた。シヨリ先輩はケイトの彼女、早坂来海の髪型を真似て、イメチェンをはかったようだった。

「先輩………、どうして、わざわざ私の髪型に寄せてきたんですか? キューティクルの綺麗な先輩のストレート、すっごい憧れだったのに………」

 クルミが素直に、顔を赤くしながら聞くと、シヨリ先輩はくすりと笑う。

「あら、貴方こそ、私の羨望の的よ。私、生まれ変わったら、クルミちゃんみたいになりたいわ」

 言われたクルミがギャーと声を上げながら、手をブンブンと左右に振って恐縮する。

「いやいやいや、そんなこと、他の人がいるところで絶対に言わないでくださいっ。私、シヨリ先輩に憧れられてるなんて噂になったら、皆にイジメられちゃいますってばっ」

 クルミが、騒ぎ立てようとするセナとアヤノを引っ張るようにして、教室へと連れていく。後に残されたのは、ケイトとシヨリ先輩、そして会議室で放心している、全裸の郁恵先生。最近よく見る光景だ。

 シヨリさんは、クルミの後ろ姿を見送った後で、クスリと微笑む。

「本当に、可愛らしくて、性格も最高で。クルミちゃんって素敵な子ね。私の憧れ。本心から言っているのよ」

「………シヨリさんがその髪型にしてると、クルミと姉妹みたいですね」

 ケイトも本心を明かす。

「ホント? ……嬉しい………。私が心底憧れている、クルミちゃんの立場には、入れ替わることは出来なくても。ちょっとだけ近づけたと思うと、それだけで、すっごく幸せ」

 シヨリさんは少しずつ、ケイトに近づいてきて、横に立つ。

「シヨリさん………。アキミチさんからは、まだ連絡ないんですよね? ……Lineとか……」

「ね……。ケイト君………。私、また下着を新調したの。……もしも良かったら、クルミちゃんのいないところで、見てもらいたいのだけど、どうかしら?」

 ケイトが右側を向くと、シヨリさんは新しい髪型を指で気にしながら、真っすぐケイトを見つめて、ほんの少しだけ恥ずかしそうに、ニッコリと笑っていた。

。。

「ケイト君、クルミちゃんたちのこと、幸せにしてあげてね。傷つけたりしちゃ、駄目よ」

 男子トイレのボックスで、服をはだけながら、シヨリ先輩が口にする。

「クルミたちって………、僕の彼女はクルミだけですけど………」

 シヨリ先輩のオッパイから口を話したタイミングで、ケイトが答える。少しだけ、シヨリさんが切なげな表情をしたあとで、いつもの優しそうな笑顔を見せる。

「アヤノちゃん、最近またバストがおっきくなったような気がするんだけど、気のせいかな? セナちゃんも、見るたびに色っぽくなっていくよね。郁恵先生はどんどんイクのが早くなってきていて、まるで誰かさんと体の相性が日増しに良くなっていくみたい。…全部私の気のせいかもしれないけどね。うふふふ」

 シヨリ先輩はオッパイを吸わせながら、ケイトの頭を優しく撫でている。2年先輩のオトナな余裕を見せているのだろうか。それでも、股間からは内腿を伝うほど、愛液が垂れていた。3日ぶりのケイトとのセックス。『全身の細胞が喜んで歓声を上げているんだ』と、シヨリは心の中で思った。自分がいつから、こんな詩的な表現を使うようになったのか、よく思い出せない。それでもこうして日々変わっていく自分を見ているのは、どこか爽快で、楽しくもあった。

「先輩のブラ。……新しくて高そうなのに、もう刺繍入れちゃったんですか?」

 ケイトが尋ねる。豪華で高級そうな蝶柄のブラジャー。そのカップを繋ぐ内側の布地に、「property of Keito Sasagawa」と、筆記体で書いてある。新しい下着や服には全て、ケイトの名前を刺繍するのが、最近のシヨリさんのブームなのだそうだ。刺繍の入ったまっさらな衣服に身を包んでいると、シヨリさんは体の芯から幸せな気持ちで温かくなるらしい。

「ちゃんと全部、内側に入れてるから、心配しないで。………気をつけているのよ。クルミちゃんの得意教科、英語だっていうでしょ?」

 シヨリ先輩は、以前よりももっと色っぽくなった。そして悪戯っぽい瞳に、生命力が満ち溢れている。以前はもっと、儚いというか、透徹とした雰囲気のある美女だったはずだ。それが今は、日々幸せそうで、女性として生き生きしている。

 内心では、クルミに申し訳ないと思い、アキミチに申し訳ないと思いながら、日増しに水位を増していく、ケイトへの愛、一筋に生きている。その、生きる道がはっきりしたことが、シヨリを芯の強い女性へと変えたようだった。

「ケイト君。入れてください。私を、思いっきり突いて欲しいの」

 いつもながら、シヨリさんは平熱の低さとのギャップで、興奮している時には体温や粘膜の温度がより高く感じられる。熱くてヌルヌルしている先輩の内部に、ケイトがグッと自分のモノを入れる。シヨリさんのヴァギナは準備万端に潤い、ケイトのモノを喜び勇むようにして咥えこんだ。

 ケイトは今、この学園の王だ。さっきは美人教師に性教育の実演をさせて、恋人たちを教室へ帰した後は、学園屈指の美女をハメている。誰もが羨む美人の先輩の乳首を吸って、手でお尻の肉を掴みながら、ペニスをヴァギナに突き立てている。

 同時に、彼は恋人の目から隠れて、こそこそと男子便所のボックスで浮気をする、小心者でもある。この両面のバランスが取れている間は、ケイトは師匠のようにフラッと旅に出たくなるということはないだろう。師匠が残していった恋人をトイレで犯しながら、はっきり意図した訳ではなくても、結果的に彼女の服装や髪型のセンスまで変えてしまいながら、ケイトは師匠のアキミチさんの帰りを今も待っている。

 なぜ待っているのだろうか? ………アキミチさんがいなくなって数か月もたつと、時々そんな自問もするようになってきてもいる。師匠が返ってこなければ、シヨリさんという美女も、3年生の綺麗なお姉様たちも、みんなケイトのものだ。

 それでも、ケイトは自分で投げかけた疑問に、自分で答える。

 ケイトはこの、学園全部を手にすることが出来たような不思議な力、催眠術というものに、獲得した女の子たちの体以上に、のめりこんでいる。この技術が上達したら、誰かに認めてもらいたい。腕が鈍ってきたら、誰かに指摘してもらいたい。そう思うからこそ、ケイトはアキミチさんを師匠として、ライバルとして、今もまだ、求めているのだと思う。

 いつかアキミチさんが、ケイトを弟子以上にライバルとして認めてくれた時、彼は帰ってくるのではないか、そう考えると、ケイトの手足に、力がより漲る。シヨリさんを鳴かせるくらい、腰の突き上げに力が入る。

 今日の午後は、クルミとシヨリにケイトへの愛を失わないまま、発情したバイセクシャルに変貌させて、3人で遊ぼう。同じ髪型になった美女2人をはべらせて、2人でケイトのおチンチンを交互にしゃぶらせて、競争させよう。クライマックス間際で、急に2人の態度を変えさせるなら、どんな暗示が良いだろう? これまでにまだ、クルミにもかけていない暗示は、操り方はあっただろうか? 作戦を立てている時、ケイトは独りでに笑みを噛み殺している。いつ頃から、自分がこんな表情をするようになったのか、うまく思い出せない。ケイトは確実に、催眠術に出会う前の自分とは、違う人間になっていると思う。鏡を見た時、映っている表情から、違うのだ。自信に満ちているというか、男らしいというか、傲岸不遜というか………。そうかと思えば、誠実な研究者のような顔をしている自分に気がつく時もある。

 シヨリを見ると、彼女はいつもの、発情した素顔になっている。ケイトは頭の中で、いつも彼を癒しつつそそってくる、クルミの屈託のない寝顔も思い出す。

 今日の午後は、空いている教室で、2人の美女を裸にして、自由気ままに、催眠術で弄ぶ。教室にいながら、彼女たちの想像力の力も借りて、この世に存在しないようなイマジネーションの世界に遊ぶ。もしその、秘密の遊びの最中に、誰かが不意に教室の扉を開けたら、ケイトは一体、どんな表情で振り返るのだろうか。

<おわり>

4件のコメント

  1. 最後までよく見ました。 作家特有の余韻のあるエンディング非常に好きです。 今6ヶ月の再待つなんて非常に悲しくなります。ㅠ.ㅠ 戻り来られるまでの作品をもう一度見てね。
    苦労しました!

  2. 読ませていただきましたでよ~。

    前回、上村先輩が気になったと書きましたが、今回、史依先輩に持っていかれましたでよ。
    アキミチさんを超えたとは完全には言いにくいのでぅが、アキミチさんの暗示を上書きして寝取っちゃうのが凄まじくやばかったのでぅ。
    まっさらにして佳斗君の存在を染み込ませてどんどんモノにしていくのが本当に良かったのでぅ。
    頭を開くスイッチでの暗示挿入をもうちょっと欲しかった気もしますが(必然的に史依先輩にはもうちょっと抵抗してもらってそれを上書きしていく展開になります)

    そして、そのちょっと前。アキミチさんによる時限トラップがいい感じの緊張感を生み出してくれましたでよ。
    正直、さらにもう一人術士(女)がいるのかと思ってしまいましたでよ。その術士(女)を催眠術で攻略をしていくのかと。

    史依先輩は佳斗君の好みに合わせるために来海ちゃんを手本に寄せていくのも根本を変えてしまったという優越感が素晴らしいでぅね。
    個人的な好みとしては長髪の方が好きなんでぅがw(どうでもいい)

    アキミチさんが帰ってくるのか、こないのか。帰ってきたとして奪い合いに発展するのか、しないのか。気になるといえば気になりますが、そこは別に書かないで妄想させる終わらせ方。とても素晴らしいと思いますでよ。

    であ、次回作はまた夏でぅね。楽しみにしていますでよ~(お前も書け)

  3. 読みましたー!
    ケイトとアキミチ先輩の間の師弟であり、目標であり、ライバルである関係。素敵です。
    シヨリ先輩を落とす際の手順として、最初の方ではアキミチさんの名前を利用して信頼させながら、徐々に自分色に染め上げるために物理的な刺繍を利用して衣服を入れ替えさせるという発想が素晴らしかったです。
    でも多分、このあたりもアキミチさんの想定内、というかもともとそんなにシヨリ先輩には執着していなくて、ケイトくんに落とさせるところも含めての修行の一環なんじゃないかなって思ったり。

    あと面白かったのは風船の暗示です。
    存在しない風船のイメージを共有させて、一切細かく指定することなく、本人たちの想像だけで共通の光景を見せるって辺りは、
    かなり高度な催眠術ならではの描写だと感じました。
    もちろん、見られて恥ずかしがる女の子の反応も大好きですw

    それでは、また次回をお待ちしております。

  4. >lswkpさん

    感想ありがとうございます! あと6ヶ月。待つ方には長いかもしれませんが、書くと宣言した方にはすぐなんです(笑)。
    このサイトには、他にも沢山の面白い作品があります。好みにあうものを発掘しながら、ゆっくりお待ち願います。
    貴方の書き込みにとても励まされました。またお会いしましょう!

    >みゃふさん

    毎度ありがとうございます。史依をめぐる展開で多少なりとも留飲を下げて頂いて、ホッとしております。
    時限トラップについては、昨今、きやさんや皆さんとやり取りした中で、「導入過程を重視する」というタイプの作品の
    コツというかエッセンスを考えてみたものです。
    (参考にしたのは銃器の魅力を描く映画と、銃を「手っ取り早く命の奪り合いを発生させる道具」として扱うドンパチ映画との違いです)

    ・導入過程を(様式美含めて、自分なりにツボを押さえて)きちんと描写する
    ・技術や能力を使いこなすまでの、トライアル&エラーを書く
    ・受け手の側の個人差による、掛かり方の違いも書く
    ・一度、術や能力が発生する前の状態に引き戻される(掛け手でも掛る側でも良い)
    ・最終的に掛け手の側のキャラクターの本質的な部分が少しでも変質する(成長でも堕落でも良い)

    こうしたポイントを押さえておくと、過程(というかMCの手段を)重視した作品として、
    ベテランのMC読者の納得も得ることが出来るのではないかと、考えてみました。
    みゃふさんから見て、追加、修正するポイントがあったら、また感想教えてくださいませ。

    >ティーカさん

    ありがとうございます!
    風船の暗示シーンを気にいって頂いて、とても嬉しいです。催眠術は本質的には共同作業だと思っていますので、
    こうした暗示が有効だと思いました。というか、好きなんです(笑)。
    刺繍の暗示にしても、何にしても、術師側の想定を少し超えて暗示の効果が進展していくと、楽しいですよね。
    (この辺はやりすぎると、完全コントロール派は歯がゆい思いをするかもしれませんので、バランス難しいですが)

    それでは、夏にまた、お会い出来るかと思います。またまた!

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