幻市 第五章

第五章

 《シンイチ》が性欲を身につけるのと反比例して《てん》の活動は納まりつつあった。

 《てん》は《シンイチ》の性欲の目覚めと自慰によって慰められ、靄(もや)の中から《シンイチ》を眺める生活に戻った。

 このころの僕は市民体育大会、金沢市中学陸上大会、国体少年の部県予選大会と、地元の主立った陸上競技大会の5000m、10000mで優勝、特に国体予選では高校生を敗って優勝し国体候補合宿に参加するなど華やかな成績を残している。

 しかしそういった記憶はあまり定かではない。《てん》(=僕)は《シンイチ》の心から溢れ出てくる情欲を養分に靄の中で暮らしていた。

 平和な夏を過ごしたと言っていいと思う。

 そして『ひので国体秋季大会』を目前に控えた10月、3ヶ月ぶりに病院に行った。

 雨の土曜日。病院に向かう。水たまりの多い砂利道がうっとうしいが、久しぶりに野杖医師に会えることもあり《シンイチ》の気持ちは明るい。

 待合室で名前を呼ばれ診察室に入った《シンイチ》を出迎えたのは野杖医師ではなく熊のような体格をした部長先生だった。

「おう、信一君、久しぶりやな。どんながや、調子は?」

「調子?」

「走る方、走る方」

「ああ、今度、代表候補に選ばれました」

「国体のやろ?・・・知っとる知っとる、高校生を破ってやからな、大したもんや」

「野杖先生は・・・?」

「ああ、野杖先生な・・・」

 部長先生は一瞬口ごもった。

「野杖先生はな、任せてあった何人かの患者さんの処置が決まってきたさけ東京の病院に戻ることになったがや。・・・信一君もほぼ状態が落ち着いて問題なさそうやしな。・・・だから野杖先生は昨日まででお終いやったがや」

 《シンイチ》が茫然とした様子を示したので部長先生が慌てて言い添える。

「今日は研究室の片づけに出てはるがやて・・・、なんやったら後で覗いてやってみ、きっと喜ぶさけ」

 診察を終え長い廊下を歩いて別棟にある研究室に向かう。例の部屋だ。ノックをすると佐伯看護婦が扉を開けた。扉のすぐ傍で荷造りをしていたらしい。今日は看護婦服を着ていない。艶のあるシャラシャラした素材のトレーニングウェアの上下だ。

「あ、東君。・・・聞いた?」

《シンイチ》がうなずく。

「残念やねぇ、ホントに。・・・先生、すぐ戻って来なさるわ」

「佐伯さんも辞めるの?」

「はは、そんな訳ないわいね。今日はお引っ越しの手伝いやちゃ。・・・力仕事やったらお手のもんやさけ」

 大柄な身体で豪快に笑う。168cmの《シンイチ》よりも身長は高い。恐らく5cm程も佐伯看護婦の方が大きかった。着ているウェアの背に『K女子商業高校ソフトボール部』と書いてある。

「佐伯さん、それ、・・・背中」

「おいね、そやちゃ。剛速球投手やったんやわいね。・・・今日は力仕事やし昔のんを引っ張り出して来たんやちゃ」

 肩幅も広く確かに力は強そうだ。《シンイチ》も黙って本の箱詰めを手伝い始める。

「エエ先生やったんやけどな。・・・先生と私、2歳違いで歳も近いし結構気ぃ合ったんよ。・・・先生の部屋で一緒にお酒飲んだり。・・・残念やわ。」

「あらぁ、東君、信一君じゃない?・・・来てくれたの?」

 野杖医師が戻ってきた。

「ごめんね。急にこんな事になっちゃって・・・」

 簡単に事態を説明した後、野杖医師は寂しそうに微笑んだ。今日は勿論白衣を着ていない。下はジーンズ、上はデニムのワークシャツを腕まくりしている。襟元から下に着ている白いTシャツの襟が覗いている。花柄の布で髪を後ろに束ねている。

 荷造りと掃除を手伝う。会話が楽しい。

「いつ引っ越しするの、先生」

「東京の病院は12月からだから急ぐ必要はないんだけど、このチャンスだからハワイにでも行ってパーッと遊んで来ようと思って・・・。だから明日から東京に行って、住むところを決めたらすぐ引っ越し」

「ハワイかぁ、エエなぁ」

「佐伯ちゃんも来る?一緒に・・・」

「行けたらエエんやけど、ナカナカなぁ」

「おいでよ」

「本気?」

「うん。・・・真面目に考えてみて」

 二人の話題がハワイ旅行に飛ぶ。

「信一君が手伝ってくれたから思ったより早く終わっちゃった。・・・ありがと、信一君。・・・ちょっと早いけど夕御飯奢ってあげようか。ううん、奢らせて・・・、ね?」

「エッ?でも・・・」

「奢って貰おたらエエがね、信一君」

 《シンイチ》も別れがたい思いがある。

「うん、じゃぁ、待って。家に電話してくるから」

 東山の方にでも出て小料理屋などと言うのが二人の希望のようだったが、中学生連れてお酒でもないし、雨もひどくなってきたし・・・と言う事で野末医師の家に行くことにした。

 近江町市場で材料を買う。佐伯看護婦がソフトボールの合宿で覚えた『スタミナちゃんこ』の材料だ。海の幸をふんだんに使った北陸ならではの鍋料理。あのころの僕が酒が飲めたらきっと驚喜していたんだろうけど・・・。

 野杖医師の家は県庁の近くにある単身者用のマンション。7階建てのマンションの最上階4部屋だけが女性で、後は金沢に単身赴任で来ているビジネスマンが住んでいる。

「小林さん、7階に男性を入れるよ。・・・男連れ込み」

「エッ?」

 マンションの管理人が目をむく。

「フフッ。私の患者さん。・・・中学3年生。信一君、あそこにサインして。本当は男子禁制なの。・・・いいよね、管理人さん。・・・彼、まだ男になる前なの」

 管理人が笑いながら《シンイチ》を見る。

「おいおい、なめられたらあかん。・・・男やって言うこと見せたれ」

 野杖医師と佐伯看護婦が大笑いをしながらエレベーターに乗り込む。《シンイチ》も慌ててエレベーターに飛び込む。

 野杖医師の部屋は10畳程度の部屋を持つ1Kで大した家具は置いていない。男っぽい部屋だ。

「何にもないでしょう?」

 野杖医師が笑いながらカセットコンロを置く。

「お鍋が小さいんだよね」

「何でもかまいませんよ。普通の両手鍋でも同じやから」

「ちょっと待ってね。聞いてみる。・・・いるかなぁ?」

 野杖医師が電話をかける。

「レイちゃん?・・・野杖でっすぅ。レイちゃん、この間の土鍋、貸して。・・・うん、部屋でお鍋するの。・・・あはは、そう。・・・エッ?違うよ。男も呼んでるもん。・・ふふっ、来るぅ?・・・今晩はアルバイトは?・・・そう、OKッ、酒、持ってこぉい」

 笑いながら電話を切る。

「土鍋、確保。・・・一人メンバー増えるからね。京都からK大に来てる学生。隣の隣の子。おもしろい子だよ。夜は香林坊のスナックでアルバイトしてるの」

ドアがノックされ淡いグリーンのモヘアのミニを着た女性が入ってきた。細身の派手な雰囲気の女性だ。

「レイでぇすっ」

「こんばんわ」

 佐伯看護婦と《シンイチ》が挨拶する。レイが挨拶を返しながら僕を見て目を丸くする。

「ねえ、先生。お、男ってコレ?」

 《シンイチ》が苦笑いをする。

「せっかく営業用のミニを着て来たのに・・・。鍋持って帰るわ、ウチ」

「あははっ、待ってよ、レイちゃん。あなたも男を見る目がないわねぇ。信一君は日本陸上界の至宝よ。今に化けるから。・・・大体あなたと五つ違いでしょっ?スポーツ界ではそれくらいの姉さん女房は常識よ」

 レイが腰に手を当て僕を眺める。ニットのワンピースの中でおっぱいが存在を誇示する。

「マ、エエか。青田刈りや」

「それを言うなら青田買い。青いウチに刈っちゃったら何にもならないでしょ」

「あははっ、先生、博識っ」

 調子がいい女性だ。

 宴もたけなわ。

 野杖医師も佐伯看護婦も酒が入った上にレイにのせられて大騒ぎだ。僕は3人の女性の勢い、特にレイの雰囲気に飲まれて口を挟む余地もない。黙々と箸を運んだ。味噌味のだしにニンニクを大量にすり下ろした『スタミナちゃんこ』はうまい。

 4時頃から始めたのにあっという間に表は暗くなる。

「先生、僕、そろそろ」

「あらっ、もう、そんな時間?・・・あら、まだ5時半よ。・・・まだ良いでしょ?」

 《シンイチ》は実はさっきから股間の硬直を隠すのに苦労していた。妙齢の女性3人に囲まれて刺激されてしまったらしい。

「もうそろそろ失礼します」

「そう、下まで送るわ。雨降ってるしタクシー呼んであげる」

 レイと佐伯看護婦に挨拶をして部屋を出る。

 エレベーターを待ちながら野杖医師がシミジミとした声で《シンイチ》に話しかける。

「最後まで信一君の治療を担当したかったんだけど、ホントにゴメンね、信一君、なんか中途半端になっちゃって。とっても不本意なんだけど・・・。信一君も頑張ってね」

 野杖医師が右手を差し出す。

「先生も・・・」

 野杖医師の手を握り返す。

 柔らかい野杖医師の手・・・。(先生の手、離したくない。)《シンイチ》の胸が高鳴る。

「痛いっ。・・・信一君、痛いよ。そんなに強く・・・」

 野杖医師が《シンイチ》の手を振りほどこうとする。

「・・・し、信一君。・・・どうしたの?」

 手の痛さに顔が歪んでいる。

「信一君。離して・・・痛い。・・・ど、どうしたの?」

 《シンイチ》が震え始める。

「信一君っ、しっかりしなさいっ、信一君」

あ゛あ゛あ゛あ゛~

 握手をしたまま野杖医師の膝が割れのけぞる。そのまま仰向けに崩れる。《てん》が握った手のために辛うじてコンクリートに頭を打ち付けずに崩れ落ちる。

 《てん》は握手をした手で野杖医師を引きずり部屋に戻る。

「おかえりっ」

 レイの明るい声。

「あれっ、信一君。どうしたの。・・・先生は?」

 佐伯看護婦が《てん》に問いかけ、引きずられている野杖医師に気がつく。

「ど、どうしたの?・・・先生っ、先生っ」

 レイも慌てて立ち上がる。

 かけよる佐伯看護婦に《てん》は波動砲を放つ。

あ゛~あ゛、あ゛

 佐伯看護婦がもんどり打って転ぶ。

 レイが立ちすくむ。

「な、何よ、これ。・・・どうしたって言うん?・・・ああ、やめて。・・・ねぇ、助けて。」

 野杖医師を片腕で引きずったまま佐伯看護婦を跨ぎ部屋に入る。レイが後ずさる。

「ちょっと、あなた、何を・・・。キャア」

 壁に背中を貼り付け、悲鳴を上げかけるレイに波動砲。

あ゛~あ゛~あ゛~

 壁により掛かるように尻を落とすレイ。ミニスカートがめくれ上がる。

 《てん》は満足げに回りを見わたす。

 足元で崩れている野杖医師。玄関で俯せに倒れている佐伯看護婦。部屋の奥にはミニスカートの足を拡げて壁を背に座り込んだレイが床を見つめている。

 《てん》は迷った。自分に許されたのが一回の射精だという事は解っている。

 足元の野杖医師を見つめる。横倒しになっている野杖医師をスニーカーを履いたままの足で転がして仰向けにする。野末医師の瞳に天井の蛍光灯が映っている。ワークシャツの胸の膨らみに足を載せユックリと体重をかける。野杖 医師の口が苦しそうに開く。

 そのまま振り返ってレイを見つめる。

 フェロモン一杯のレイは《てん》の好みだ。ミニスカートの奥の下着が見えている。

 佐伯看護婦を見る。トレーニングウェアを履いた良く発達したお尻が見える。《シンイチ》は佐伯看護婦に大した興味を抱いたことはなかったが、男っぽい彫りの深い顔をして大柄な佐伯看護婦は《てん》の興味の対象だった。

 もう、我慢が出来ない。

「ふんっ。」

 鼻から大きく息を吐くと《てん》は佐伯看護婦に歩み寄った。靴を脱ぎ、おもむろにズボンを脱ぎ去る。

 うつぶせの佐伯看護婦の腰に手を当て膝をつかせてお尻を高く掲げさせる。グラリと横に倒れそうなお尻を支えながらトレーニングパンツを引き下げる。腰から太股の一部までを覆う下着が出てきた。《てん》がそれを撫でさする。

 尻を抱くようにしながら上半身の服を持ち上げる。背中が露わになる。しばらく背中から腹をさすっていた《てん》の呼吸が荒くなる。佐伯看護婦のきつい下着を腰から太股に引き下げ足から抜き去る。あぶなっかしく左右に揺れる佐伯看護婦の筋肉の発達した尻を抱え直すと一気に貫いた。

 ゆっくりと腰を動かす。《てん》の身体の動きに合わせ佐伯看護婦の頭が床をこする。

 《てん》の動きが激しくなり腰を強く抱いたために佐伯看護婦の上体が宙に浮く。その状態で大きく揺さぶられた後、「アフッフウ」という《てん》の声とともに佐伯看護婦の頭が床に落ちる。ゴンという大きな音がした。

 《シンイチ》は眼を覚まして、そのままの姿勢で辺りを見わたした。誰かの髪に顔を埋めている。だ、誰かの背中の上だ。野杖医師か・・・?確か野杖医師とエレベーターの前で・・・。いや、ここは玄関、しかも女性の上・・・。

 顔を上げて驚愕する。目の前の玄関のドアが開いていてマンションの通路から丸見えだ。慌てて体を起こすとドアを閉じてノブにつかまりしゃがみ込んで息をつく。

 後ろを振り向く。予想されていた事態が起こっていることを確認した。深い溜息・・・。

 自分の下にいたのは佐伯看護婦だ。こちらにショートカットの頭を向け俯せに倒れている。下半身が裸だ。

 部屋に入ったところに仰向けに倒れている野杖医師が見える。その奥に緑のニットのワンピースが倒れているのが見える。

 《シンイチ》は立ち上がって部屋に向かう。佐伯看護婦が目を開けているのを確認しながら彼女を跨いで部屋に・・・跨ごうとしてギョッと立ちすくむ。佐伯看護婦のうつぶせの股間から濁った液体が・・・血。どす黒い血が床を汚している。

 怪我をさせてしまったのか・・・慌ててひざまずく。濁った血は股間を汚している。回りを見渡した《シンイチ》は佐伯看護婦の丸まった下着の中に汚れたナプキンを見つけた。《シンイチ》もそれを知識としては知っていた。どうやら怪我ではないようだ。ホッと息を付く。

 今までの何回かの行為でこうした事態にぶつからなかったのが不思議なのだ。女性の10人に一人は生理中だ・・・と、保健体育の授業を思い出す。

 野杖医師が倒れている。床に仰向けに倒れたまま野杖医師が《シンイチ》を見上げている。見てはいるが何も判断していない。野杖医師の乱れた髪をそっと直してやってからレイを見る。

 大丈夫だ。レイも怪我はしていない。レイを引きずって野杖医師と並んで寝かせる。二人を眺めながら《シンイチ》は膝を抱えた。

 レイのミニからストッキングに包まれた形の良い足が伸びている。野杖医師のワークシャツの形の良い膨らみが静かに上下している。

 忍を操った時のことを思い出した。唾を飲み込む。息が荒くなる。

 佐伯看護婦の処置が必要だ。《シンイチ》は立ち上がると佐伯看護婦に近づき、その重い体を仰向けにする。膝の上に佐伯看護婦の頭を抱き上げる。造作のはっきりとした佐伯看護婦の顔、開いた眼の下にそばかすが浮かんでいる。力無く開いた口を見た時、《シンイチ》は自分の心の中に獣欲が拡がっていくのを感じた。佐伯看護婦の唇にむしゃぶりつく。舌で歯茎をなぞり下唇を吸い上げる。股間に手を伸ばしまさぐる。血で汚れた手のひらで彼女の腹をこする。息を荒くして佐伯看護婦の身体を抱きしめた後、《シンイチ》は尻を下ろした。

「佐伯さん、立ち上がろう」

 体を起こす佐伯看護婦を助けてやる。佐伯看護婦の下の名前は・・・?

「佐伯さん、名前を言ってごらん。・・・君の名前を言うんだ」

「・・・佐伯恵子」

「恵子、よく聞くんだ。・・・シャワーを浴びろ。身体をきれいにするんだ。新しいナ、ナプキンはあるか?生理用品だ。・・・返事」

「はい、・・・ある」

「それを持って風呂場に行け。身体をきれいにして出てこい。下着を着けたら僕を呼ぶんだ。・・・僕が『はい』と言ったら君は行動を起こす。僕が命令したこと以外は出来ない。・・・はいっ」

 落ちている下着を手渡す。佐伯看護婦が部屋に入る。床の二人を見つけて、一瞬、足を止めるが、そのまま部屋に入って自分のポーチを持って戻ってくる。強ばった顔のまま横目で《シンイチ》を見ながら《シンイチ》の前を通過する。《シンイチ》は裸のお尻をペチャッと叩いてやる。

 《シンイチ》は後について風呂場に行き、彼女が上着を脱いでいる間にシャワーのお湯を出してやる。裸の佐伯看護婦が入ってくる。《シンイチ》はシャワーのノズルを渡して風呂場を出る。

「恵子、・・・シャワーが終わったら僕を呼ぶんだよ」

 彼女が汚れた股間を洗い始めるのを確認する。女性が絶対に他人に見せない姿・・・《シンイチ》は気持ちが沸き立つのを感じていた。

 部屋に戻る。玄関口の廊下が汚れている。

 野杖医師の脇にしゃがみ上体を起こさせる。

「先生、廊下が汚れている。・・・僕が先生の頭を叩いたら先生は廊下を拭くんだ。他のことには一切関心を持たなくて良い」

 頭を叩く。野杖医師が座ったまま振り返る。廊下の血を見て息をのむ。そそくさと立ち上がり洗面所にはいると雑巾を絞り始めた。

「レイ、レイ、返事をしよう。」

「・・・はい。」

「立ってごらん。」

 レイが立ち上がり、香水が香る。真純と二歳しか違わないとは思えない大人の女の雰囲気。チョット蓮っ葉な雰囲気のレイだが、しゃべらずに静かにこうして立っていると《シンイチ》には一層近寄りがたい雰囲気となる。街で出会っても中学生には話をするチャンスすら無いタイプの女。

 栗色に染めた髪・・・今でこそ中学生でも金髪にしてる連中が町中にウヨウヨいるけれど当時の金沢で、少なくとも《シンイチ》の身の回りには白髪染め以外の染髪はいなかった・・・染めた髪をサラッと横に流している。髪よりはやや濃い色で整えられた形の良い眉。

 レイの額をつついてみる。脱力した手を握ってみる。すべすべで色が白く静脈が浮いている。指の長い大人の女性の手。ルージュに合わせたパールピンクのマニキュア。

 まっすぐ前に突き出したおっぱいを触ってみる。予想に反して固い感触・・・下着の影響だろうか?

 何をさせてみよう。中学生の言う事に素直に従わせるんだ。レイが「子供」と馬鹿にしている中学生の言う事に・・・。

「レイ。鼻をほじくってごらん」

 レイが細い指を形の良い鼻の中に突っ込む。眉根を寄せながら一生懸命ほじっている。《シンイチ》はゾクゾクした。

「レイ、ハナクソはもう良いよ。・・・今度はスカートをめくってみよう」

 レイが素直にニットのミニをめくる。下に不思議な物を着ている。パンストの上に固いパンツの様な物・・・。《シンイチ》はしゃがんでレイの股を覗く。股の真下にホックが付いている。(うっ、下開きのパンツだ・・・。)《シンイチ》は妙に感心した。

「レイ。トイレに・・・」

 いや、この指示の仕方では一挙手一投足を指示しなければならない。

「レイ、僕が君に『はい』と言ったら君はおしっこがしたくなる。トイレに行っておしっこをするんだ。何があっても気にならない。僕の言うことは絶対だ。・・・はいっ」

 ううむ、《シンイチ》の名誉のために言って置くけれど決して《シンイチ》が中学生にしてスカトロに目覚めていた訳じゃあない。大人の女性が絶対に人前ではやらない事をやらせてみたくて、結局、思いついたのがトイレだったという事。ふふっ、今の僕ならいろいろ思いつくけどね。

 レイが四つん這いで床を拭いている野杖医師の脇を通ってトイレに向かう。《シンイチ》は付いていく。

 後ろ手に閉めようとするドアを押さえる。レイが「エッ?」と振り向く。

「気にしなくても良い」

 レイがスカートをたくし上げながら向きを変える。僕と目が合いギョッとしたように身体を強ばらせる。

「気にするな」

 股下のホックを開くと下着が前後に割れる。その下のパンストと小さなビキニを膝下まで引き下ろすと便座に腰を下ろす。驚くような勢いで小水が噴射された。

「信一君・・・信一君」

 風呂場から《シンイチ》を呼ぶ声がする。佐伯看護婦だ。

「レイ、ここで待ってるんだ」

 と、言い置き風呂場にはいると野杖医師が雑巾をすすいでいる脇にショーツ姿の佐伯看護婦が立っている。僕を見て慌てておっぱいを隠す。

「洗い終わった?」

 佐伯看護婦が胸を隠したまま緊張した様子で頷く。事態が理解できずに動揺した目を泳がせる。

「・・・な、何・・・」

「黙ってるんだ」

 部屋に連れて戻る。事態が飲み込めないのだろう、さかんに野杖医師の方を振り向こうとする。裸の背中を押して強引に部屋に戻る。佐伯看護婦は胸を隠したままだ。

 部屋の隅に仰向けに横たわらせる。首を持ち上げてキョロキョロしようとする。

「全て夢だ。眠るんだ」

 頭を支えてやる。佐伯看護婦の瞼が震えながら閉じ寝息を立て始める。一生懸命胸を隠していた手を下ろしてやる。体格の割りには小振りなおっぱい。(これが彼女のコンプレックスなのかも知れないな。)乳首をつまんでみる。佐伯看護婦は気がつかずに眠っている。

 佐伯看護婦は今日はもうお役ご免。(幸い生理中だったから妊娠の心配もないし・・・)勿論それは当時の《シンイチ》の無知から来る安心ではあったけど。

 (ああ、忙しい・・・。)と思いながらトイレに向かう。野杖医師は玄関前の床を磨いている。廊下全部を磨くつもりみたいだ。

「もう、良いよ。手を洗って部屋に戻りなさい、先生」

 トイレを覗くと立っていたレイが僕を睨む。ジッと待っていたみたいだ。微笑みかけて水洗を流してやる。声をかけて歩かせ肩を抱いて部屋に連れ帰る。部屋の入り口に立っていた野杖医師と揃えて部屋の中央に並ばせる。二人の正面にソファを運び《シンイチ》は腰を下ろした。二人は《シンイチ》を見ているが何も理解していない。判断していない。

 奴隷二人。一切の反抗心を持たない奴隷。《シンイチ》の鼻息が少し荒くなる。

 (どちらを抱こう。)忍の時は記憶を失わなかったけれど、今回も失わないとという保証はない・・・《シンイチ》はまだ、自分が女性を暴行して射精すると逆行性の記憶喪失になるという風に理解していたんだ。

 《シンイチ》は立ち上がり二人の前に立つ。レイの頬をピタピタと叩いてみる。野杖医師の髪をモシャモシャとかき回す。レイが目を見開き、野杖医師がちょっと眉を寄せ、そして二人の表情が静かに元に戻る。

 野杖医師の前に立つ。

「野杖先生、レイちゃんの服を脱がしてあげよう。レイは先生の言う通りにするから優しく脱がしてあげて。他のことは一切やったらイケナイよ。・・・『はい』って言ったら始めるんだ。・・・はいっ」

 野杖医師がピクッと反応して瞳に彼女の意志が映える。瞬きをしながら僕を見て、それから横のレイに気がつくとレイに向き直る。

「レ、レイちゃ・・・」

 と呼びかけ眉を寄せる。開きかけた口が閉じる。彼女の中で何かが葛藤しているようだ。

「先生、続けて」

「レイちゃん、ふ、服を、お洋服を脱ぎましょうね」

 ちょっと引っかかりながらレイに話しかける。まるで小児科の医師が子供の患者に話しかけるような口調だ。

 野杖医師が腰をかがめてミニのワンピースの裾を持ち上げる。さっきの不思議な下着が剥き出しになる。腰の方まで繋がっているようだ。

「レイちゃん、手を挙げてね」

 野杖医師がレイの両手を持って高く掲げさせる。そのままワンピースをめくり上げる。胸から尻までを覆うオールインワンの固そうなボディスーツが現れた。まあ、今みたいに矯正下着が発達していない時だからね。

「先生、ちょっと待った」

 《シンイチ》が声をかける。セーターを抜き取ろうとしていた野杖医師が動きを止めた。《シンイチ》はこの不思議な下着を自分の手で取りたいのだ。

 レイの頭とバンザイをした腕はワンピースの中に包まれている。妙な格好のミロのビーナスだ。

 レイのワンピースをを抜き取るために腕を思いっきり上に伸ばしている野杖医師に声をかける。

「先生、それで良い。・・・今度は自分の服を脱いでください。・・・返事は?」

「はい」

 先生がワークシャツのボタンを外し始める。《シンイチ》はレイに向き直るとガードルの胸のファスナーの小さな金具に指をかける。ファスナーを引き下ろすと、その布の鎧をレイの身体からそっと引き剥がした。大きなおっぱいがブルンと言う感じで飛び出し《シンイチ》は息をのんだ。真っ白なミロのビーナス。縦に引き延ばされたおっぱいに静脈が透けている。ミロのビーナスよりは身体は細い。ウェストのくびれが深い。あばら骨の輪郭をなぞることが出来る。

 乳首を親指と人差し指でツマミながら手の平で乳房の弾力を楽しむ。股間が張りすぎて痛い。最後まで保たないかも知れない・・・《シンイチ》は先を急ぐ。ワンピースを抜き取る。パンスト姿でバンザイをしているレイが現れた。表情を変えずに眼だけが動いて僕を見た。

「レイ。僕が『はい』と言ったらレイは元に戻る。全てを見、聞き、考えることが出来る。ただ僕の指示なしでは身体を動かすことが出来ない。いいか、身体を動かすことが出来ない。しゃべれない。・・・はいっ」

 レイがブルッと震えハッと目を見開いた。何か言いたそうに口が動きかける。唇が震える。さあ、これからどうしよう。

 ふと気づくと野杖医師が裸になっていた。細身の野杖医師だが、さすがにレイと並べると身体の線が丸みを帯びている。見覚えのある適度な片手サイズのおっぱいが素敵だ。ショーツを脱いだところで指令完了となったのだろう。立ったままジッと手に持ったショーツを眺めている。

「先生、終わった?」

 声をかける。野杖医師がハッとしたように僕を見、慌てて胸を隠ししゃがみ込んだ。肩が震えている。《シンイチ》は野杖医師が正気に戻ったのかとドキッとした。

 でも正気に戻ったのであれば、しゃがむくらいでは済まないだろう。良くは解らないけれど僕が思うに・・・。《シンイチ》《てん》の関係をHD1、HD2の関係で説明しただろう?

波動砲を受けた人は、多分、HDが切り替わっちゃうんだ。ただ切り替わった先のHDは空っぽ。だから自我のない何も出来ない状態になる。その段階でいろいろな指示を受けると徐々に自我が生じてくる。それがその時の野杖医師の状態。勿論、本来の自我とは連続性を持っていない。僕はそう考えている。

 しゃがんでいる野杖医師の髪を掴んで上を向かす。野杖医師は僕を見上げてイヤイヤをするように首を振る。眼には涙が浮かんでいる。《シンイチ》はそれを見て嗜虐的な気持ちになる。

「先生、立って。・・・ホラ」

 手を貸してやり先生を立たせる。左手で胸を、右手で股間を隠しながら野杖医師が立ち上がる。肩をすぼめている。

「先生、女の人もオナニーってするの?・・・答えなさい」

「え、あ、・・・し、します」

「先生はオナニーをした事ある?オナニー。・・・答えるんだ」

「あっ、はい。・・・イエ」

 野杖医師が泣きそうな顔で首を振る。《シンイチ》が誰なのかを解っていない。

「どっちなんだ。オナニーをしたのか?」

「・・・す、少し」

 《シンイチ》はニヤッと笑う。 

「先生、どうやってするの?教えて・・・・僕が『はい』と言ったら、先生は身体の中で一番敏感で気持ちの良いところを触る。一生懸命触る。止まらない。触っている内にもっともっと気持ちよくなる。・・・はいっ」

 股間を隠していた右手の中指が少し動く。茂みの中に潜っていく。両足がすぼまり指を挟み込む。野杖医師がうつむく。すぼめていた肩がもっとすぼまる。胸を隠していた左手の指が動き長い薬指が乳首を探す。

 身体を動かせないレイが《シンイチ》を睨んでいる。そう、今の彼女には全てが聞こえている。《シンイチ》はレイを見て微笑んだ。レイの怒りに満ちた瞳が《シンイチ》を睨み返す。《シンイチ》の嗜虐的な気分が更に膨らむ。

「レイもしてみる?・・・答えろ」

「し、しない。・・・アホなことを言わんといてっ」

 レイが突然大きな声を上げた。

「い、一体全体これは何・・・・」

「聞かれたことだけしゃべるんだ」

 レイが黙る。唇が半開きで震えている。《シンイチ》は震えるキスをした。

「レイ。僕が『はい』って言うと君はオナニーがしたくなる。」

 レイの目が見開かれる。そこに浮かぶのは怒りではなく恐怖。

「とってもとってもしたくなる。それしか考えられなくなる。イッてしまえ。・・・はいっ」

 レイの手が降りて両手が股間に行く。パンストの上から両手で股間を擦り始める。《シンイチ》はしゃがんでパンストとその下の申し訳ばかりの布地を足首まで引き下げてやる。茂みが顔を出す。レイの指がそれを待っていたように茂みの奥に攻撃を開始する。膝が開き身体が前傾する。「ンアッ・・・アウッ。」レイの高い声が漏れる。

 野杖医師は・・・と見ると、さっきと姿勢は変わらない。指は動いている。うつむいた野杖医師の顔を覗き込む。眉を寄せ眼を固くつむり口を軽く開いている。

 《シンイチ》は二人の前に置いたソファーに戻り眼をつむった。休憩しないと《シンイチ》のモノは暴発しそうになっている。

 レイの声が高くなる。見ると身体を完全に前屈させ髪を振り乱しながら「あ・あ・あ・あ・」と声を上げ続けている。

 レイの膝がガクッと崩れ膝をついた。アッと思う間もなくそのまま後ろに倒れ込む。ドンという音を立ててレイの背中が床に落ちる。背中を丸めていたために後頭部をぶつけることは無かったようだ。

 畳んでいた膝が崩れ仰向けの身体が反り返る。仰向けに寝たまま爪先が立つ。股間とそこを責め立てる指が正面に見える。レイの左手の指はクレバスに埋まり、ナンと右手の中指が肛門に埋まっている。「あうっ、ああああ、ふぬっ。」と声が上がる。

「・・・・す、すごい。」

《シンイチ》は呟く。

 野杖医師は先ほどと変わらない。俯き立ったままだ。静かに指は動いている。時々内股に震えが走る。《シンイチ》は野杖医師に近づき顔を覗き込んだ。薄く開いた唇の端に涎が溜まっている。顎を支えて上を向かすと涎をなめ取ってやる。

「あっ」

 野杖医師が目を開き軽く声を上げる。

「先生、もっと気持ちよくなる。立ってられなくなる。」

 野杖医師の眉が震える。膝がカクカクと震えている。右手の指の動きが大きくなったようだ。倒れかかってくる野杖医師を静かに横たえてやる。

 レイが大きな悲鳴のような声を上げて仰け反る。《シンイチ》は少し恐くなった。イキ続けてしまっているのかも知れない。

「レイ、レイ、・・・もう良い。眠れ、眠れ」

 レイの手を股間から外してやる。細い腕が震えている。呼吸が荒い。瞼に手を当て眼を瞑らせながら「眠れ」とささやき続ける。少しずつ呼吸が収まり・・・眠りについた。

 野杖医師は身体を丸めて横に倒している。右手は股間に、左手は拳を作り口に当てている。親指の背を噛み、何かに耐えているようだ。足が震えている。

 《シンイチ》は身体を丸めた野杖医師をそのままの格好で苦労して抱き上げソファーに座る。野杖医師は《シンイチ》の膝の上で膝を引きつけ身体を丸めている。固く閉じた両足の間に右手を挟み込んでいる。太股の間から熱い液体が漏れ《シンイチ》の腿を濡らす。固く閉じた瞼の間から涙がこぼれる。《シンイチ》はこの一回りも年上の女性をたまらなくカワイイと感じていた。

 横抱きにした野杖医師のお尻の下で《シンイチ》の怒張が押しつぶされている。痛い。でも《シンイチ》はこのままで良いと考えていた。(このまま先生を抱いていよう)野杖医師が小さく声を出し《シンイチ》の膝の上で震える。

 野杖医師がしゃくり上げるように大きく喘ぎ、身体を強ばらせてのけぞった時、《シンイチ》も体を震わせ押しつぶされた空間に放出した。

 挿入しない。獣欲に対しての《シンイチ》のささやかな抵抗。空間に放出することにより《シンイチ》は初めて《てん》に小さな反攻勝利をした。

< 第六章へ続く >

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