其は打ち砕き、破壊せしモノ Vol.3

Destruction.3 ~其は聖浄なりし、白き巫女~

- 序 -

 松明が、薄暗い室内をゆらゆらと揺れる炎で照らしている。決して明るくは無いが、その者達にとっては、十分役に立っている。
 そこは、広い場所だった。部屋というよりも、まるで城の謁見の間のように見える。ただし、与えられる印象はまったく別のベクトルではあったが。
 切出した石で組み上げられた床は、なにかぬるぬるした液体がこびり付いて、松明の灯りに黒く映っている。
 重苦しい印象の壁が、あちらこちらから上がる呻き声を響かせている。
 床を埋め尽くすほどに溢れかえっているのは、全てがヒトだった。半裸で、全裸で、汗を撒き散らし、愛液をしたたらせ、精液を浴びて、まるで軟体動物のように絡まりあっている。
 それは、淫祠邪教の秘儀のようだった。
 ただの乱交パーティのように、軽く浮かれた雰囲気などは微塵も無い。まるで生を繋ぐように、真摯ともいえるほどに、快楽を貪っている。
 自分の孫ぐらいの少女を、後ろから犯す老人がいる。
 豊満な胸も、たっぷりとした尻肉も、穴という穴も、全てを駆使して数人の男に奉仕する女がいる。
 自分の妹だろうか、そっくりの顔立ちの少女を組み敷いて、ねっとりとキスを交わす少女がいる。
 そこには、ありとあらゆる快楽のエッセンスが、高純度で渦巻いていた。

「ふむ、皆さんもお楽しみのようだね」

 まるで王座のように一段高い位置から、初老の男が見下ろしていた。柔和な顔には年相応の皺が年輪を刻み、回りの者達の痴態を見詰める瞳は、優しそうに弛んでいる。
 その表情といい、着ている神父風の衣装といい、教会で説法させれば、信心深い信者が集まってきそうではある。

「はい。高純度の精神エネルギーを検知しています」

 初老の男の隣に付き従うように立っている少女が、琥珀色の瞳を男に向けて、抑揚の乏しい声で答えた。
 少女は金色の艶やかな髪を無造作に後ろに流しているが、腰まで続くその髪は、それがもっとも自然で似合うのだと、そう感じさせる。室内に満ちる淫靡な風も、少女の髪の毛を乱す事が出来ずにいるようだった。
 少女は、その身体に薄い絹を纏っていた。それは、服ですら無い。ただその華奢な身体にまとわりつかせ、銀の小さな鎖で押さえているだけのものだ。しかし、人形のように現実離れした美貌の少女には、その格好はどんなドレスよりも似合っていた。上等の絹が少女の肌を透かせて、女神のような美しさを演出している。

「EGW_X1・・・もう少し、快楽のレベルを上げるとしよう。皆さんがもっと楽しめるように、ね」
「はい」

 少女は命じられるままに、細くしなやかな両手を頭上に差し伸べた。長く美しい金髪が、風も無いのにさらさらとなびく。しゃらん、しゃらんと髪の触れ合う音が、天上の音楽のように小さく響いた。
 届くはずも無いその音に合わせる様に、犯し、犯される者達の喘ぎが大きくなった。まるで気が狂ったように絶叫し、どこであろうと舌でねぶり、両手で愛撫し、腰を打ち付けた。正常な人間が見れば、恐怖を感じるほどの狂態だった。

「・・・」

 ふと、少女はなにかに気が付いたという風に虚空を見上げ、初老の男に顔を向けた。言葉少なく、初老の男に報告する。

「また、邪神の力が揮われたようです」

 初老の男は「ふむ・・・」と呟いて、髭の生えていない顎に手をやった。暫くその姿勢で熟考する。

「やはり、一度は挨拶に行かなくてはいけないね」

 慈愛に満ちた笑顔のその奥に、鋭く尖った刃物のような酷薄な雰囲気を漂わせて、初老の男は口にした。それは、宣戦布告にも似ていた。

- 1 -

 もうすぐ日付も変わろうかという頃、人通りの少ない路地裏で、一人の女性が襲われていた。
 仕事帰りなのか、きっちりとスーツを身に纏った女性が、いかにも不良という風体の少年4人に囲まれている。
 まだ20代も半ばという感じの女性は、確かに顔も整い、スーツ越しに伺えるボディラインもそれなりにめりはりの効いたものだった。それがこんな時間にこんな場所を一人で歩いていれば、不良少年達に目を付けられても、文句は言えないかも知れない。

「お前達クズには、少し勿体無いな」

 その場に、新しい声が混ざった。
 特に威嚇するような響きは無いのに、明らかに力があると思わせる声。
 少年達は、一斉に背後を振り返った。そこに、薄暗い路地裏にあって、さらに薄暗い人影があった。少年達は、まるで闇がヒトの形を取っているような、そんな錯覚すら覚えた。

「てめぇ、死にてぇのかよ」

 他の少年を押し退けるように、リーダー格の少年が前に出た。ニキビが残る顔に、年齢にはそぐわない凄惨な表情を浮かべている。恐らく、心のどこかが壊れた、人を傷付ける事に感慨を覚えないタイプの少年のようだった。

「ふん・・・」

 闇が凝り固まったような男・・・魔王は、その恫喝めいた言葉を詰らなそうに受け流すと、右手の人差し指を立てた。ふ、とその指先が淡い光を浮かべた。

「なっ!?」

 特になにも持っている訳ではない指先が光る・・・その異常な光景に、少年達は茫然と、吸い寄せられるように魅入ってしまった。魔王は満足そうに唇の端を歪めると、指先を空に走らせた。微かな残像が残り、それはまるで空中に図形を描いているようにも見えた。
 最後に、すっ、と自らの目の前を横切るように指を動かし、魔王は指を止めた。時間にして、2秒も掛かっていないだろう。少年達は、魂を抜かれたように、茫と佇んでいた。
 これは、一種の催眠術だ。ただし、魔王の魔力による呪が練り込んである為、ただの人間に解呪する事は出来ない、強力な術。

「女、こっちへ来い」

 それまで事態の推移に付いて行けずにいた女性が、魔王の言葉に身体を震わせた。

「えっ?」

 女性が、驚きの声を上げた。自分の身体が少年達を掻き分けて、勝手に魔王に近付いて行くのに気が付いたからだ。必死に身体を止めようとしているが、まったく女性の意のままにならなかった。

「てめぇ、なにしやがった!」
「殺すぞ、ぉらっ!」

 少年達は粗暴な声を出すが、身体はぴくりとも動かない。魔王はその様子を詰まらなそうに見て、小さく「ふん・・・」と鼻を鳴らした。

「お前達は、生きていても無駄だな。自分で最も嫌だと思う遣り方で・・・死ね」

 そう宣告すると、魔王は女性を伴って、その場を後にした。
 一人は、自らの指で自分の首を絞めた。まるで別の生き物のように、首の骨が折れるまで、その指から力が抜けることは無かった。
 一人は、自分の身体のいたる所に指を突き立て、肉を抉り続けた。
 一人は、壁に顔を打ち付け続けた。鼻が潰れ、顔面が血に染まっても、衝撃に頚骨にひびが入っても、それは続けられた。
 一人は、自らの腕を口に押し込んだ。唇の端が避けても、喉が詰まっても。窒息するか、喉が裂けるか・・・時間の問題だった。

「Oh!さすがハ悪魔。酷い事をするものですネ」

 いつの間にか、そこには白人の神父と修道女が立っていた。二人は、不愉快なものを見たというふうに、少し顔をしかめている。
 神父は、30歳になるかどうか、というぐらいだった。細身の身体に、納まりの悪いブロンドの髪。何故か手には槍を持っている。
 修道女は、20代も半ばだろうか。ボリュームのある身体を、やぼったい服で包んでいる。手には、使い込まれた聖書を持っていた。
 腕を飲み込み続ける少年は、目から涙を流しながら、二人に救いを求める視線を向けた。神父はその視線の意味を読み取って、慈愛に満ちた笑顔を浮かべた。

「それは、悪魔の呪いデス。残念デスが、私たちにはYouを助けることは、出来ませんネ」

 少し日本語に慣れていないイントネーションで明るく神父が言うと、少年の目に絶望が浮かんだ。

「それに、神さまがお造りになったのハ、白人だけデス。黄色いサルは、慈悲の対象外デスヨ」

 神父が優しく諭すように言う言葉を聞きながら、少年は絶命した。その顔には、絶望と恐怖と混乱が、色濃く浮き出ていた。

「それではソアラ、悪魔を主の名の元に、討ち滅ぼしましょうカ」
「ええ、レイブン」

 二人が立ち去った後には、ただ無惨な死体のみが残されていた。

- 2 -

 オレは連れて来た女───田畑良子といった───を伴って、人気の無いビルに不法侵入した。
 指の一閃でシャッターに穴を開け、真っ直ぐに広い空間のあるオフィスに入る。
 良子を犯す為だが、自分に敵意を向ける存在を、迎え撃つ為でもある。そう、まるで風に乗って漂う蜘蛛の糸のように、不愉快な気配が微かにあった。

「全ての衣服を脱いで、そこのソファーで犯される準備をしておけ」

 オレが命じると、良子の頭の中で、それが当たり前で必要な事という認識に置換された。恥ずかしいという感覚は残っているが、オレの命令に従う、それが全てにおいて最大の優先順位となっているのだ。

「はい、魔王様」

 犯されるという言葉に反応して心と身体を熱く火照らせながら、良子は嬉しそうに返事した。このビルに来るまでに、オレの放った呪は良子の魂の奥深くまで浸透し、完全に支配していた。
 良子はオレの視線を意識しながら、ゆっくりと服を脱ぎ捨てて行った。
 一枚一枚脱ぐ毎に、良子の肌が晒されて行く。ブラとお揃いの白いショーツを脱ぐ時に一瞬躊躇したが、オレの促すような視線に押され、すぐに脱いだ。
 良子の身体は、出る所と引っ込む所が絶妙なラインを描いている。性的な経験もそれなりにある、自らの魅力を知っている身体だった。それが軽く汗をかいて、ぬらりとした光沢を放っている。

「んふっ」

 まるで男を誘うような声を出して、良子は3人が余裕で座れそうなソファーに腰を下ろした。右膝を抱えるようにして、脚を大きく開く。窓からの光だけの薄暗い室内でも、良子の秘裂が愛液で濡れ光るのが見えた。

「あは・・・んぅ・・・あん、いい・・・いいよぉ・・・」

 甘えるような喘ぎ声を漏らしながら、良子は自らの秘所に指を這わせた。くちゅ、という濡れた音を響かせながら、次第に激しく指を躍らせる。良子は膣内も感じるらしく、最初から指を2本挿入して、掻き混ぜるように自慰に耽った。

「そろそろ、出てきたらどうだ?」

 オレが言うと、オレの身体を拘束するように、宙に文字が浮かんだ。その文字は身体の周りを回転し、オレの身体に深海の中にいるような圧力を加えていた。ぎし、とオレの身体のどこかが軋んだ。

「Oh!ソアラの『聖典攻性結界』を受けて、平気な顔をしているとは、なカなかに強力な悪魔のようですネ」

 いつドアを開けたのか、室内に新たに2人の人間が増えていた。槍を持った神父と、聖書を開いた修道女だ。神父はその服にふさわしい慈愛に満ちた笑みを浮かべている。修道女は、驚く程魅惑的な身体だったが、それを打ち消すようなやぼったい修道服を身にまとっている。

「それも、聖別された槍を受けるまでの事でしょうがネ。主の名の元に、悪魔よ、滅しなさイ!」

 神父・・・レイブンが気迫を込めると、それに呼応するかのように、手にした槍の穂先がぽう、と淡い光を放った。レイブンはぶんと音をさせて槍を振りかざすと、オレに向けて槍を構えた。

「この程度で、勝てると?」

 槍を突き付けられても、オレは平然とした口調を崩さずに、横目で良子の自慰行為を眺めていた。その眼中に無いと言う様子に、レイブンが怒りを顕わにした。

「キサマっ!この黄色いサルめがっ!」

 ぞぶり。
 湿った音を立てて、槍がオレの心臓を貫いた。
 瞬間、噴き出した血がレイブンの顔を赤く染めた。
 しかし・・・。

「この一撃、『屠月』にも劣るぞ。避ける必要も無い」

 オレはにやりと嘲笑うと、右手で槍の中ほどを掴んだ。

「キ、キサマっ、結界を・・・」

 レイブンとソアラは、造作も無く結界を無効化したオレに、蒼白となった顔を向けた。成すすべも無く茫然とする二人を尻目に、オレは槍をへし折った。

「ふふ、面白い趣向を思い付いた。まだ、あと少しは生かしておいてやろう」

 オレのその言葉と同時に、オレの身体中から肉の触手が生え、レイブンとソアラに襲い掛かった。避ける事さえ出来ずに頭を触手に激しく殴打され、二人は抵抗ひとつ出来ずに意識を失った。

- 3 -

 オレが見詰めていると、ソアラは目を覚ました。
 室内には激しい呼吸音が満ちている。ソアラはこの音で目を覚ましたのだろう。
 ゆっくりと覚醒に向かうソアラの意識は、その呼吸音が誰のものか、無意識のうちに理解していた。

「ん・・・レイブン・・・もう朝?」

 目を擦りながらソアラが身体を起こすと、そこはいつもの二人の部屋では無い事に気が付いた。それどころか、悪魔に攻性結界をあっさり破られて、反撃されて意識を無くした事も。ソアラは急いで立ち上がり、身構えた。

「レイブンっ!!」

 激しい呼吸音のする方に視線を向けると、そこには全裸のレイブンが床に大の字に磔にされていた。何故か男性のシンボルは激しく屹立している。レイブンと逆向きに被さるように、先ほど悪魔と一緒にいた女性が、四つん這いで淫らに微笑んでいた。

「目が覚めたか」

 自分の背後から突然声を掛けられ、ソアラは危うく悲鳴を上げる所だった。しかも、その声は悪魔のものだった。振り返ろうとして、ソアラは自分の身体がまともに動かない事に気が付いた。言葉を発する事も、目を逸らす事も封じられていた。

「目の前のショーに集中しろ。お前の恋人が堕ちる所を、さ」

 そう、レイブンの荒い呼吸は、性感を刺激されての事だった。激しく呼吸する毎に、股間のアレがびくびくと震え、半透明な液を洩らしている。それを、女性が焦らすように、熱い吐息を吹き掛けているのだ。

「た・・・頼む・・・シてくれ・・・気が、狂いそうダ・・・アツい・・・」

 女性は艶笑を浮かべ、しかし直接触れる事はせずに、レイブンにぎりぎり触れそうな位置で、熱い吐息を洩らした。それを受けて、レイブンのモノがビクりと震える。

「だめですよぉ、魔王さまのお許しが無いと、しちゃあいけないんですよぉ」

 まるで小さな子供をたしなめるように、甘く柔らかい口調で女性が口にした。

「くくく・・・聖職者ともあろう者が、酷いものだな・・・。まぁいい、してやれよ、良子」

 途端にレイブンの喘ぎ・・・いや、悲鳴が大きくなる。良子がその口にレイブンのモノをねっとりと咥え、舌を使い出したからだ。魔王がレイブンの脳を弄った時に、凄まじい程の感度に改造したから、今レイブンが感じている快感は、女がクリトリスを嬲られた時の数十倍といったところか。しかし、魔王が弄ったのは、感度だけでは無かった。

「Shit!なんで・・・なんでイケないんダッ!」

 快感を与えられながら、絶頂に達する事は出来ない。レイブンは狂おしい表情で、吼えるように叫んだ。まるで精神が崩壊したように、人間性という仮面が剥がれ落ちていた。

「ちゃんとイケるようにしてやろうか?」

 それこそ悪魔のような笑みを浮かべながら、魔王はレイブンに問い掛けた。まるで灼熱の砂漠で水見付けたかのように、レイブンは何度も首を縦に振った。

「タのむっ!なんでも・・・なんでモ、すルからっ!!」

 その言葉に頷いて、魔王は良子に合図を送った。良子は口からレイブンのモノを吐き出すと、蕩けるような笑みを浮かべて身体の向きを変える。

「うふふ、欲しいのぉ?じゃあ、入れてあげる」

 良子は腰をくねらせて、レイブンのモノを受け入れた。日本人のモノよりも大きいそれを、悩ましく眉をしかめながら、気持ち良さそうに飲み込んでいった。

「あぁん、いいよぉ・・・いっぱい・・・いっぱいなのぉ・・・ね、あなたも・・・いいでしょ・・・んぁっ」
「イイのにっ!イイのにイケないっ!うぐぁあああっ!!」

 魔王は横目でソアラを見遣ってから、レイブンに声を掛けた。

「イカせて欲しいか?あのオンナをオレに差し出せば、いくらでもイカせてやるぜ」
「ああっ!やる、やるからっ!」

 レイブンは、ソアラがそばにいて茫然と目を見開いているのも目に入らない様子で、魔王の誘いに即答した。魔王はソアラを振り返ってその絶望の表情を堪能すると、レイブンに許可を与えた。

「よし、楽しみな」
「うぉおおおおッ!!」

 魔王の許可と、レイブンが獣のように吼えたのは、ほぼ同時だった。腰を突き上げ、良子の膣内に大量の精液を放出する。良子の中に納まり切らない分が愛液と混ざり合って、どろりと良子の太腿を伝った。
 それで良子も小さく絶頂に達したようで、腰の動きを止めて、身体をぷるぷると震わせていた。まるで快感の塊をやり過ごそうとするように、目をぎゅっと閉じている。

「うぐぉ・・・がぁああああッ!」
「え?あ、ひゃぁあんっ!」

 快楽の余韻に浸る間も無く、レイブンは獣性を剥き出しにした顔で吼えながら、良子を激しく突き上げ始めた。始めは驚いた顔をした良子だったが、すぐさまレイブンの腰の動きに合わせるようにして、嬌声を上げた。
 魔王はそれを嘲るように見詰めていたが、ふいに視線をソアラに移した。ソアラは、先程の絶望の表情から、少しずつ違う表情へとその色を変えていった。即ち、憎悪。今、ソアラは視線だけでライオンを圧倒出来そうなほど、その整った顔に憎悪を浮かべていた。魔王は愉しそうに笑みを浮かべると、食い入るようにレイブンを見詰めるソアラの背後に回って、手に余りそうなほどの質量を湛えた胸を揉みしだいた。

「んっ!」

 ソアラは短く声を洩らしたが、それはただの身体の反応だけのようで、熱く暗い闇を湛えたソアラの瞳には、欲情の欠片も浮かんではいなかった。魔王は詰らなそうに鼻を鳴らすと、ソアラの背中に密着するように身体を近付けて、耳元に口を寄せた。

「レイブンがお前をオレに売ったワケだが・・・お前がオレのモノになるなら、お前の言う事も一つ、なんでも聞いてやろう・・・」

 一言一言を区切るように言うと、ソアラの表情が動いた。

「なんでも・・・?」

 ソアラが視線を魔王に向けた。ただし、縋るような瞳では無い。まるで、強力な武器を手にしたような、そんな物騒な光を孕んでいる。

「じゃあ、レイブンを・・・レイブンと、あの女を殺してッ!!」
「殺すだけでいいのか?」

 激しく言うソアラに、魔王は揶揄するように聞き返した。

「いいからッ!はやく・・・殺してッ!!」

 魔王は左手を揮うと、レイブンと良子の首を切り落した。二つの首は、まるでナニカのオブジェのように、並んで首を下にして立った。しかし、残された身体は最初からそういう機能の物体だとでも言うように、激しく腰を打ち付けあっていた。それどころか、床に落ちた生首も、快楽を高らかに奏するように顔を歪ませ、口をぱくぱくと動かしていた。

「なんでッ!なんでぇっ!なんで死なないのよぉ!死んでよ、もう、そんなセックスを見せないでよッ!!」

 ソアラは狂ったように声を荒げたが、レイブンと良子の身体は止まらない。まるで首を落とされたのが嘘のように、激しく腰を蠢かしている。ソアラは憑かれたように自らの髪を掻き毟り、絶望にどんよりとした目で二人を見詰めた。

「こっちも、対抗して見せ付けてやれよ。気が狂う程、身体中、ぐちゃぐちゃになる程、激しくするんだ」

 魔王は、意地の悪い笑みを浮かべて、そう誘惑した。その言葉に反応したのか、揉みしだいていた胸に、密着した背中に、ぴくんと小さく反応があった。それまでは触れられている事すら感じていないようだったのが、次第に呼吸が熱くなっていく。

「ぐちゃぐちゃに・・・アナタに犯されるの・・・?」

 振り返って魔王に目線を合わせる瞳は、すでに欲情に潤んでいた。頬も紅潮し、少し厚目の唇が、ナニカを期待するかのように、少し開いていた。

「ああ、あいつらの事なんて、考えられないぐらいに犯してやる」

 その宣告と同時に、指を伸ばして修道服を切り刻んだ。白い肌にまとわりつく服の残骸が、ソアラの身体を淫らに飾った。
 魔王はソアラの腰をくいっと突き出させると、前戯も無く突き入れた。ソアラの秘所は、既に熱く濡れそぼっていた。なにか別のイキモノのように、ソアラの秘所は魔王の男根を咥えて奥に引き摺り込もうとする。

「ひぃあッ!!おぉおああああああっ!!」

 ソアラは、周囲の建物にまで聞こえそうな程の声で、快楽の悲鳴を上げた。魔王の宣言のままに、もうソアラはレイブンの事など頭から消え去っていた。もうどうなっても構わない・・・それ程の快感が、カラダもココロもタマシイさえも、闇色の悦楽に染め上げていった。
 悦楽の表情を浮かべる生首達を前に、ソアラの狂宴が始まった。

- 4 -

 オレが家に帰り着くと、深夜だというのに、中には2つの気配があった。どちらも馴染みのある気配だ。オレは小さく舌打ちすると、家の中に入った。

「・・・でね、魔王様のお身体を洗って差し上げながら、『もっと広い場所には移らないのですか』って聞いたら、『オレとお前しかいないから、別にいい』って!魔王様ってば、世界に君臨出来る程のお力があるのに、なんて謙虚なのかしらね」

 榊め、笑いながら何を話してやがる。

「榊さんって、本当に真ちゃんの事が好きなんですね」
「え?うふふっ、沙姫ちゃんってば、いやねぇ」

 オレは、そのまま二人のいる居間に足を運んだ。これ以上放っておいたら、何をネタにされるか判ったもんじゃない。

「魔王様、お帰りなさい」
「真ちゃん、お帰り。真ちゃんがいなかったから、榊さんと沢山お話しちゃった」

 ソファーから下りて傅く榊と、ふわふわした笑顔の沙姫が、にこやかにオレに声を掛けた。オレは不機嫌な表情のままに、沙姫に言った。

「真はオレに吸収されて、人格は消えた。オレの事は魔王と呼べ」

 オレの言葉に、沙姫は悲しそうな笑みを浮かべた。

「だって、真ちゃんは真ちゃんだもん。急に魔王様なんて、呼べないよ」

 オレは、榊が座っていた場所に腰を下ろした。いつものように、榊が床に座ったまま、頭をオレの腿に擦りつけた。その猫のような媚態から視線を外すと、こちらをにこやかに微笑みながら眺めている沙姫を睨みつけた。十分に殺気を込めたつもりだったが、沙姫は気にした風も無く、のほほんとした顔に微笑を浮かべている。

「お前、オレが何もしないからって、図に乗ってるだろう?別にお前の事を、壊れるまで犯してもいいんだぞ?」

 そう言いながら、またも感じる違和感。何故オレはこんな中途半端に脅すような事をしているのか。
 もう、何人も惨殺しているのだと、言ってやればいい。お前の命だって、戯れで握り潰される程度のモノなのだと。
 しかし、オレが口を開く前に、沙姫が言葉を紡いだ。

「それは・・・告白してくれてからの方が嬉しいなぁ、なんて・・・ね」

 指先をもじもじと絡ませながら、頬を赤く染めて沙姫が呟いた。目線も落ち着かなげにあちこち移動しながら、時々オレを窺うように見上げる。

「ふん、期待されているなら、そうしてやらないのは失礼というものだな」

 オレは、足元に傅く榊に目を向けた。榊は話の流れを興味深く聞いていたが、オレの言葉に視線をオレの方に向けた。期待するかのように、命令を待ち受けるかのように、微笑んでいる。

「榊、さっきは沙姫と仲良く話してたな」

 榊はオレの問いに、目を細めて「はい」頷いた。話し掛けられるだけでも嬉しい、そう感じている為だろう。オレは戯れに、榊の頭を撫でるように手を置いた。

「沙姫を犯す。ほぐしておけ」
「はぁい」

 オレの言葉に嬉しそうに頷くと、榊は立ち上がって自ら服を脱ぎ始めた。沙姫に見せ付けるように全裸になると、ポニーテールを解いてさらさらの髪を後ろに流した。さっきまで普通に話していた沙姫を嬲る・・・その事に、何の疑問も感じていない様子だった。

「ひとみさん・・・綺麗・・・」

 魅入られたように、沙姫は呟いた。少し頬が上気している。近付いて来る榊から、逃げると言う考えにはならないようだった。これから犯される・・・その事に恐怖を感じていないように見える。

「ありがと。沙姫ちゃんも脱いで、わたし達に見せてね」

 明るく言うと、榊は沙姫のワンピースを丁寧に脱がせた。沙姫は抵抗せずに、成すがままになっていた。恥ずかしそうな顔はしているが、普通はこの状況で流されはしないだろう。こいつは一体、何を考えているのか。

「沙姫、オレの目の前で肌を晒して、恥ずかしくないのか?」

 オレが聞くと、沙姫は熟れたトマトのように赤く染まった顔を伏せて、それから微笑みながら顔を上げた。目尻には涙が溜まっているのに、まるで何でも無いかのように、明るく笑う。

「だって、見るのは真ちゃんとひとみさんだもの。それに、逃げちゃダメだって・・・そう、思うから」

 榊は沙姫の言葉に構わずに動き続け、ついにはショーツを残すのみとなった。さすがに辛いのか、沙姫は胸を隠すように腕を組んでいる。

「沙姫、手を後で組めよ。隠すな」

 オレが言葉短く言うと、沙姫は上目遣いにオレを見上げた。

「だって・・・ちっちゃいんだもん・・・」

 小さくぽそぽそという沙姫に、何故かオレは絶句した。

「いいのよ、別におっきければいいってものじゃ、ないんだから・・・ね?」

 榊が沙姫の背後から優しく言うと、沙姫の手を取って、胸をあらわにした。
 それは、確かに榊と比べれば、小さいと言っても言い過ぎでは無いだろう。ブラなど、いらないのではないかとすら思える。しかし、沙姫という生命全体からすると、それは欠点にはならないと思えた。
 華奢な身体に細い手足。それをきめこまかな肌が彩り、まるで大理石から切り出された女神像のような美しさを醸し出している。胸が小さいのは、全体のバランスからすれば、必然と感じられるのだ。

「ほら、魔王様も見惚れてるもの」

 くすくすと笑いながら、榊が言う。
 忌々しげな声を作り、オレは榊に命じた。

「始めろ」

 榊は「はぁい」と笑みを含んで弾んだ返事をすると、沙姫の背後に回り、首筋に音を立ててキスをした。それから舌を伸ばし、耳の後ろまで這わせる。

「うっ、ん」

 こそばゆそうな顔をして、沙姫は身体を震わせた。それでも微かに気持ちの良い感じを覚えているのか、嫌がりはしなかった。榊はそのまま沙姫の右耳に唇を寄せると、熱い吐息で愛撫するように声を出した。

「ねぇ・・・キス、したこと・・・ある?」

 沙姫は恥ずかしそうに目を瞑ると、無言のまま首を小さく左右に振った。それを見て、榊はにまりと微笑む。

「じゃあ、キスはしないでおくね。ファーストキスは、魔王様の為に取っておくから」

 うふ、と揶揄するように笑って、榊は両手を沙姫の脇の下から胸に回した。肌を愛撫するように、その繊細な身体のラインを確認するように、ゆっくりと脇腹を通り、お腹を経由して、二つの胸に到達する。

「んっ!」

 沙姫が、びくっと身体を震わせて、一層顔を赤らめた。その顔には、羞恥の他に戸惑いが浮かんでいた。恐らくは、自分で触れるのとは違う気持ち良さを感じた戸惑い。

「沙姫ちゃんの肌、すべすべしてて、とっても綺麗よ」

 榊はうっとりと言うと、胸を隠すように触れていた指を、やわやわと動かし始めた。小さな膨らみを撫でさすり、ピンク色のつんと尖った乳首を掠るように刺激する。

「あっ、やっ、ひとみさっ、だめっ・・・あんっ!」

 榊の指先で、面白いように沙姫は乱れた。熱くなった身体が汗を分泌し、沙姫の身体を光で彩る。

「本当にだめなのぉ?だって、胸の先が固くなってきたよ?」

 意地悪な口調で榊が言う。沙姫は涙目で、「いやぁ・・・」と呟いた。それは、榊が予想した流れだったのだろう。またもにやりと笑う。

「ここが嫌なら、こっちにしちゃおうっかな」

 そう歌うように言って、榊は両手を沙姫のショーツの中に、するりと入れた。どうやら、左手で秘所を、右手でクリトリスを、それぞれ同時に弄っているらしい。

「ひゃんっ!」

 沙姫は目を見開くと、榊の両手を手で掴もうとした。ショーツから榊の手を抜こうとしたのだろうが、力の入らない今の沙姫では、敵う訳も無い。それどころか下半身から力が抜けて、かえって足で榊の手を挟み込むような態勢になってしまった。

「ひとみさん、へんっ!へんになっちゃうよぉ!」

 脚をがくがくと震わせ、前屈みの姿勢のまま、沙姫が泣きそうな声を出した。それでも倒れ込まないのは、榊が浅く秘所に挿し込んだ中指があるからだろう。しかし、それは同時に沙姫に快楽を与える元凶でもある。
 身体を支えるようにあてがわれた指が快楽を送り込み、快楽に負けて倒れ込めば指が深くに入り込む・・・沙姫は必死に快感に耐えながら、少しずつ最後の瞬間に向けて進んで行った。

「うふふ、沙姫ちゃんって、敏感なのね。・・・魔王様、どうなさいますか?」

 指を動かす毎に敏感に反応する沙姫を愉しみながら、榊は顔を上げて、オレに問い掛けた。この場合、それは当然このままイカせるか、オレが手を出すかという問いだ。

「ああ、良い感じにほぐれたようだし、オレも混ざるとしよう」

 オレは、ソファーから立ち上がった。

- 5 -

 オレはわざと乱暴に沙姫の顎を掴むと、その唇を奪った。この行為に愛情など無いのだと、荒々しく貪る。舌を突き入れ、歯茎や舌、喉の入り口まで、思うがままに蹂躙する。沙姫の喉から苦しそうな呻きが洩れたが、そんな事では赦してやらない。
 舌を絡める。付け根をねぶる。裏側をなぞる。表側を擦る。
 いつしか、沙姫の喉から洩れる声に、甘いものが混じっていた。
 沙姫の舌も、ぎこちないながらも、オレの舌を迎え入れるような動きを始めた。

「ん・・・ふあ・・・」

 暫くして口を開放すると、目を閉じてとろんと蕩けた顔のまま、沙姫は舌を唇から突き出すようにしていた。
 オレの舌を追いかけて来たのだ。
 紅く染まった頬が、緩く微笑むような表情が、口を犯された事が気持ち良かったのだと、伝えていた。

「随分・・・良かったみたいだな」

 オレの揶揄する言葉に、沙姫はうっすらと瞼を開いた。どこか夢見るような瞳が、オレを見詰めてくる。

「ちょっと激しかったけど・・・とっても嬉しかったよ」

 沙姫は、気持ち良いとは言わなかった。それよりも、伝えたい気持ちがあったからだろう。何故かそれが判って、オレの心に焦りにも似た気持ちがざわめいた。
 自分の心の動きを無視して、オレは服を脱いだ。今すぐにも悲鳴を上げさせてやる。甘ったるい雰囲気などぶち壊して。そうしなければならないと、酷く危機感を覚えていた。

「うわぁ・・・」

 オレのものを見詰めて、沙姫は感嘆の声を上げた。もう少し恥ずかしがるか、怯えるかするかと思っていたが、まったく予想外のリアクションだった。余計なギミックなど何も付けずに人間のモノの形をしてはいるが、それなりの大きさと凶悪さはあるはずだった。それなのに、沙姫の珍しい生き物でも見たかのような反応に、どこか憮然としてしまう。

「お父さんのと、ぜんぜん違うよぉ?」
「比べるなよ、そういうのと」

 沙姫の右手を捕まえて、オレのモノを握らせた。触れた瞬間にビクっとしたが、それからは自分の方からおずおずと触れてきた。

「熱い・・・。それに、凄く硬いんだね・・・」

 沙姫の声に、怯えは無い。どこか潤んだような目で見詰めながら、無邪気な子供のように触る。その手は根元から先端まで、形を覚えようとするみたいに撫でていた。

「コレを今からお前に入れてやる。心配するな。気が狂うほど気持ち良くしてやる」

 オレの言葉に、沙姫はきょとんとした表情を浮かべた。手の動きも止まってしまっている。その不思議な言葉を聞いたと言わんばかりの態度に、一瞬オレも反応出来ずにいた。

「だって・・・他のコ達の話しだと、初めてはとっても痛いって言ってたよ?」

 どういう交友関係だ、それは。

「ダメだよ、真ちゃん。女のコの初めては、とぉっても大変なんだからね。切れちゃうんだよ。血がでちゃうんだよ。だから、優しくしないと泣いちゃうんだよ」
「ぷっ・・・くふっ・・・う、うふふふふっ」

 沙姫の背後から、榊が堪え切れないという風に噴き出した。ひとしきりクスクスと笑うと、沙姫の肩越しにオレに目を合わせた。

「ですって、魔王サマ。ちゃんと優しくしないと、後が大変ですよぉ」

 榊はそう揶揄するように言って、お気に入りのぬいぐるみのように、沙姫をぎゅっと抱き締める。そのまま可愛くて仕方が無いという風に、唇の届く所全てに、キスの雨を降らせた。

「やんっ・・・もう、ひとみさんってばぁ」

 沙姫は照れた様に言うが、避ける様子もない。こそばゆそうに目を細めるだけだ。

「言ってろ」

 オレは乱暴に答えて、自分の身体で勢いを付けるように、一気に沙姫のショーツを下ろした。沙姫は一瞬ビクっと身体を震わせたが、悲鳴は上げなかった。脚も少し開き気味で、顔だけを恥ずかしそうに逸らした。そのくせ、オレの表情を盗み見るように、ちらちらと視線を送る。

「なんだよ」

 オレが跪いた姿勢で見上げながら聞くと、沙姫は一層顔を火照らせて、顔を臥せた。

「・・・ソコ・・・変じゃ・・・ない・・・?」

 オレは右手の指で、秘所を開くように触れた。毛は薄く、秘裂は美しいサーモンピンクの色を晒している。榊の愛撫が巧みだったからか、うっすらと開き、愛液を分泌していた。

「確かめてやるよ」
「ひゃあんっ!あ、あっ!」

 敏感なのか、触れるほどに沙姫の身体が踊る。ゆっくりと指を挿し込むと、驚く程きつく締まって、指を離そうとしない。まるで、大切なモノを大事に抱え込むように、奥に引き込もうとする。

「んぅ・・・ふあ・・・んっ!」

 指を浅く前後に動かすと、沙姫の喘ぎ方が変わった。どこか力むような、歯を噛み締めているような感じだ。それでも、他の存在を自分の中に受け入れているというのに、拒絶する雰囲気の欠片も無い。
 このまま挿入しても、沙姫は笑って受け入れるだろう・・・ふと、それが判った。胸の中のどこかが、ざわめくのを感じた。
 オレは立ちあがると、沙姫の両足を抱え込んだ。それも、肩に乗せるようにしているので、沙姫の大事な所や尻の窄まりまで全て、余す所無く晒されている。

「いくぞ」

 オレは言葉少なく宣告すると、モノを沙姫の秘所にあてがった。そのまま身体毎押し込むように、じわじわと挿入した。

「くぅう・・・んっ・・・んぅ・・・っ」

 沙姫は苦しそうな顔で、唇を噛み締めていた。それでも、苦痛の呻きが洩れる。オレのモノから伝わる圧力からすれば、どれほど沙姫が苦痛を感じているか、想像に難くない。しかし、何故か催淫液を分泌する気にならなかった。沙姫の苦痛を心地良く感じていた訳では無い。ただ、胸の中の衝動に従った結果だった。
 ぷつん。
 音にすると、そんな感じだろうか。
 沙姫の中で、乙女の象徴を破り、汚した音だ。
 沙姫の中の、初めてを奪い、オレを焼き付けた音だ。

「くぅッ!!」

 沙姫の身体が、跳ねるように仰け反った。いつの間にこれほど噴き出したのか、沙姫の汗がキラキラと宙を舞う。榊が厳粛な顔で、「おめでとう、沙姫ちゃん」と言いながら、沙姫の頬にキスをした。それは、沙姫が自分の仲間として対等な立場に立った事に対する、祝福のキスだ。
 そのまま、オレは一番奥まで進めた。ギチギチとオレのモノを押し潰そうとするように、沙姫の中は容赦無く蠢く。知らず知らずのうちに、オレも歯を食い縛っていた。

「はぁッ・・・はふぅ・・・」

 オレの動きが止まった事で安心したのか、沙姫は安堵の吐息にも似た喘ぎを洩らした。沙姫は苦痛の中にも、どこか夢見るような、うっとりとした表情を見せる。

「どうだ・・・”女”になった感想は?」

 荒い息を小刻みに吐きながら、沙姫はそれでも嬉しそうに微笑む。それは、オレがした事を全て赦すと、そう言わんばかりに。いつも通りの眠たそうな瞳は、聖なる輝きを秘めて、オレを見詰めていた。

「やっぱり、すごく痛いよ。でも、何だか嬉しいの。だから・・・もっともっと、好きにしてもいいよ」

 そう言って、オレの背中に手を回した。まさぐるように撫で回して、「えへへ・・・」と微笑む。その笑みに、またも胸の奥で微かな痛みを覚えた。それが酷く悔しく、もっと無茶な事をしたくなった。

「ご褒美だ。めちゃくちゃに良くしてやる」

 唇の端を吊り上げて笑い、そう宣言した。
 口の中に催淫液を分泌し、沙姫の顎を右手で押さえて強引にキスをした。舌で唇を割り、催淫液を強引に流し込む。

「んっ?・・・んぅうーっ!」

 驚きに目を見開いた沙姫に構わず、舌での愛撫もおざなりに、沙姫の口腔内に催淫液を送り続けた。唇の端から洩れた分が滴ったが、それ以外の殆どは沙姫に嚥下された。

「くぷっ・・・まことちゃん、何これ・・・ひぅッ!!」

 すぐに効果を発揮した催淫液が、質問の途中で沙姫の身体を仰け反らせた。膣内の破瓜の血を押し流すように、大量の愛液が分泌され、床に滴る。

「まことちゃ・・・せつない・・・よぉ・・・」

 今にも泣きそうな顔で、沙姫は身体の異変を訴えた。無意識のうちにか、オレのモノを絞るように、膣内が蠕動する。もどかしさを伝えるように、微かに腰が蠢く。

「どうして欲しい?言って見ろ」

 ワザと意地の悪い聞き方をしてみる。案の定、どう言っていいか判らずに、羞恥に染まった顔を伏せてしまう。それでも催淫液の効力には勝てず、腰をうずうずと蠢かしていた。

「・・・て」
「なんだ?聞こえないぞ」

 聞こえない振りをして、聞き返した。沙姫を後ろから抱き締めている榊が、オレの方に顔を向けて、苦笑を浮かべている。

「動いて・・・お願い・・・。せつなくて・・・くるしいよぉ・・・!」

 とうとう、沙姫は涙声でそう口にした。両目からは、涙の滴がぽろぽろとこぼれている。榊が手を回して、沙姫の涙を優しく拭った。
 ぐちゅっ。

「ひあぁっ!」

 ちゅぐっ

「あくっ、あ、ああッ!!」

 ぎちゅっ。

「ふあっ!あつ・・・あついよ、まことちゃあんっ!」

 オレが腰を使い出すと、沙姫が激しく乱れ出した。顔を左右に振り、悶える身体が踊るように宙に舞う。蛍光灯の灯りの下、汗にまみれた沙姫の身体が、キラキラと輝いて見えた。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あ、あ、あ、あ、ああああぁっ!!」

 異常な程敏感になった身体は、あっという間に絶頂へと掛け上がった。断続的な喘ぎが、快感の上昇に伴って連続した喘ぎへ、そして悲鳴へと変わって行く。
 薄く瞑った目には、もう回りは見えていないのだろう。実際、何がどうなっているのかも判らないほど、激しく感じているようだ。
 オレは、沙姫の絶頂に合わせるようにして、大量の精を沙姫の中に放った。その衝撃に、またも沙姫の身体が仰け反る。

「あっ、ああああああああッ!!」

 その絶頂が何度もぶり返しているらしく、沙姫は半分意識を無くした状態で、ぴくん、ぴくん、と身体を震わせている。
 オレが沙姫の中から自分のモノを抜くと、榊もタイミングを合わせて沙姫を床に横たえた。沙姫は自分が床に降ろされた事にも気付かない風で、「あっ・・・ぁん・・・」と小さな喘ぎを洩らしていた。

「魔王様、綺麗にさせて頂きますね」

 榊がオレの足元に這って来ると、オレを見上げて奉仕を始めた。嬉しそうに、随分と情熱を込めて、舌を躍らせる。それは、綺麗にすると言うよりも、愛撫と言った方が良いくらいだった。

 その後、沙姫が目覚めるまで榊を犯した。沙姫が恥ずかしそうに起き上がると、今度は沙姫と榊を同時に犯した。二人だけでレズ行為もさせたし、オレに犯される榊を見せ付けながら、榊に沙姫のオナニーを指示させたりもした。
 性の饗宴は、朝になるまで続けられた。榊はともかくとして、沙姫は不思議と体力が尽きる様子を見せずに、最後まで快感を享受し続けた。
 沙姫は精液と愛液と汗と涙と涎にまみれながら、その美しさを汚される事は無かった。

 ・
 ・
 ・

「こんなスゴイ体験、きっと他のコ達はしたこと無いよね?」

 えへへー、と頬を両手で押さえて、照れたように沙姫が言った。全裸で床にぺたんと女の子座りをしながら、沙姫は朝日に自らの全てを晒している。取り敢えず風呂に入って来いと言おうと思ったが、その幸せそうな様子に、つい毒気を抜かれて言う気にならなかった。

「で、何でこう言う事をしようと思ったんだ?」

 それが、どうにも判らなかった。相手が『真ちゃん』ならいざ知らず、オレと真はその人格が違い過ぎる。進んででは無いにしろ、抵抗もしない理由が見当たらなかった。

「えっちなことを始めたのは、真ちゃんだよ?」

 オレの疑問に、小首を傾げるようにして答えた。それから、顔をふにゃ、と笑みの形に崩して、柔らかく言葉を続ける。

「あのね・・・わたし、変わった?」

 小鳥のようにオレを見上げる沙姫に、瞬間、言葉に詰まる。
 変わったと言えば、確かに変わっただろう。何しろ、今はもう非処女だ。肌を見せる事に対する心理的抵抗も、だいぶ薄れたようにも思う。
 しかし───。
 しかし、沙姫の本質は、その聖性は、歪みも欠けもせず、今も聖浄なるオーラを放っている。それは、心に傷を負わない・・・変質しなかった事を意味していた。
 沙姫は、愕然としたオレを宥めるように、酷く柔らかい笑みを浮かべながら、言葉を続けた。

「もしわたしが変わらなかったら、わたしは真ちゃんの心の強さを、信じられると思ったから。ううん・・・今の真ちゃんも、真ちゃんなんだって・・・信じられるから」

 言葉も無いオレを見詰めて、沙姫は続けた。

「だから、やっぱり真ちゃんは真ちゃんだよ。ちょっと素直じゃなくて、でもとっても優しいの。悪ぶってみたってダメ。だって、わたしの大好きな真ちゃんのままなんだから」

 頬を染めながら、沙姫は微笑んだ。
 それはまるで、愛の告白にも似ていて。
 結局オレは、何も言えなかった。

 ・
 ・
 ・

「じゃ、今日はもう帰るね」

 ちゅ、と音を立てて、沙姫はオレと榊の頬にキスをした。
 くるりとその場で半回転すると、顔だけ振り向かせて「またね」と言う。照れた顔を隠すように、リビングから出て行った。とたたたたた、という足音が小さくなっていく。

「さすがは沙姫ちゃん。魔王様、負けちゃいましたね」

 人の悪い笑みを浮かべながら、榊が言う。

「別に、勝ち負けじゃ無いさ」

 自分でも負け惜しみに聞こえる言葉だった。
 その時、凶悪な程強力な魔導の気配を、オレと榊は察知した。身の毛がよだつような感覚。世界が狂気に犯される実感。

「チッ!!」

 オレは家の外に飛び出した。背後から、榊が追いかけてくる気配があった。

「真ちゃん、なんか変だよぉ」

 沙姫が家のすぐそばで、途方に暮れたように立ち尽くしていた。沙姫も、この気配を察知したのだろう。
 魔導の気配が、秒単位で高まって行った。
 その圧力に、空間が歪み、軋む。
 そして───。

- 6 -

 そして、世界が、その在り様を変えた。
 黒い空に星は瞬かず、血の色をした月が3つ、空から地表を照らしている。
 周りから家屋は消え去り、不毛の荒野が視界の全てを埋め尽くしている。
 これは、結界の一種なのだろうか。少なくとも、オレのものとはまったく異質な力が揮われた結果のようだった。そして、その異質の中心に2つの人影があった。

「やぁ、邪神くんに挨拶しに来たのだが・・・素晴らしい素材を発見出来て、重畳重畳」

 神父風の服を着た初老の男が、柔和な顔に笑みを浮かべて、拍手をしながら言った。どうみても外人だが、その日本語は妙に流暢で、危な気なく遣われている。
 その隣には、華奢な身体に薄い絹を纏った少女。要所要所を銀の鎖がまとめて、まるでドレスのように飾り立てていた。それは神話の幼い女神のように、完璧な美しさだった。

「まずは挨拶を。私はサイズという。とある宗教の教祖をしている。そしてこちらはEGW_X1という。呼び辛ければ、イギーと呼んでくれれば良い。まぁ、長い付き合いにはならないだろうがね」

 サイズは、にこにこと微笑みながら、そう言った。しかし、その笑みの奥、瞳の中には、無限の悪意と狂気が垣間見えた。

「どうだい、EGW_X1・・・邪神くんを滅ぼすのは、難しいかな?」
「いいえ・・・難しくはありません」

 まるで明日の天気を聞くように、神父風の男は少女に問い掛けた。そうしていると、まるで少女と祖父の語らいのようにしか見えないが、その内容はおぞましいとしか言いようが無かった。
 封印の巫女も、自衛隊も、教会の手の者も、根底にあるのは邪悪に対する戦意だった。しかし、この初老の男には、それが無い。ただ、目の前にゴミがあるから片付けよう・・・その程度の意味しかない。オレの中を、怒りが満たした。

「よくも言ってくれる。榊・・・やれ」
「はいっ!」

 榊は緊張に顔を強張らせながらも、両手を握りこぶしの形で突き出した。指と指の間から光が洩れる。「はっ!」という裂帛の気合の声と共に、指の間から炎がレーザーの如く、八条の光となって空を焼いた。
 榊には、オレの力を分け与えてある。以前は連続して出せない・・・しかも一筋の光だったが、今ならば八条の光を連続して撃つ事が出来る。しかも、それは榊の意思によって、複雑な軌跡を描く事も可能となった。今の榊の攻撃力は、ただの魔道士程度なら瞬殺してのける・・・それほどのものだった。しかし───。

「ほお」

 八条の光は全て、二人を護るように空に描かれた魔法陣に阻まれ、爆発的な光と共に相殺された。その光の向こうから、感心したようなサイズの声が聞こえる。

「素晴らしい力だよ、お嬢さん。でも、こちらとしても、二人も要らないのでね。EGW_X1・・・返礼をなさい」
「はい」

 EGW_X1は頷くと、両手で何かを捧げ持つように、目の前にかざした。そこに、いつの間にか黒い蝶・・・アゲハ蝶がいる。漆黒のアゲハ蝶は一つ羽ばたくと、ふわりと宙に浮かび上がった。それは、異常な風景の中にあって、どこか爽やかなものを感じさせた。もちろん、それが普通の蝶の訳が無い。

「ひっ!!」

 後ろで沙姫が、喉を詰まらせたような短い悲鳴を上げた。
 沙姫の視線の先で、蝶が分裂したからだ。1匹が2匹となり、2匹が4匹に。4匹が8匹に増え、それはあっと言う間に、空を覆い尽くすばかりに増殖した。

「なんのっ!」

 榊は左の手の平を上に向けて、顔の前で開いた。すると、その手の平の上で、無数の黒点が発生した。それは、宙を舞う蝶の位置とシンクロしている。例えるならば、3次元立体レーダーのようなもの。

「はっ!!」

 榊が手の平の上の黒点に向かって右手を揮うと、全ての黒点が、一気に赤い色に変化した。同時に、空中を舞う蝶が発火する。空が燃え上がったように感じられるほど、凄まじい火力だった。しかし、その炎を嘲笑うかのようにひらひらと、雲霞の如く蝶が舞う。その蝶は燃えないのか、それとも燃える以上に増殖したのか、知る術は無かった。

「魔王様っ!」

 一匹の蝶が、オレが差し伸べた指に止まった。その瞬間、最初から何も無かったかのように、蝶と・・・オレの指が消えた。食われたのでも、溶けたのでも無い。オレは、この蝶の力を理解した。
 それは、反物質のようなものなのだろう。物質と反応し、最初から無かったものとして触れた物質を巻き添えに、この世界から消え去るという。これだけの蝶が一度に襲いかかれば、消せないものなど何もない、そう思う。

「榊、沙姫を連れてここを離れろ」

 オレの声に、榊が一瞬躊躇する。それもそうだ。この異常な空間の、どこに逃げ場があるというのか。しかし、榊の力では抗すべくも無いのもまた事実。

「邪魔なんだよっ」

 そして、オレは両手の指を伸ばし、分裂させ、全ての蝶を迎え撃つ。
 蝶が消える。最初から、そんなものは無かったという風に。
 指が消える。最初から、そんなものは無かったという風に。
 まるで、穏やかな波が砂の城を浸食するが如く、身体を緩やかに蝕まれていく。黒い蝶が織り成すカーテンの向こうに、サイズとEGW_X1が佇んでいるのが見えた。
 サイズは慈愛に満ちた笑みを浮かべ───。
 EGW_X1は人形のように整った顔に、なんの表情も浮かべずに───。

「テメェ・・・ッ!」

 突然EGW_X1が右手を下に向ける。そこには、一瞬前には何も無かったというのに、可憐に咲く、闇色の花が生えていた。花も茎も葉も、目に見える全てが黒い。それは当然のように、地中に張った根ですらも。

「どうしたのかな、EGW_X1?」
「いえ、何も」

 オレの奥歯が、ぎりっと異音を発した。
 表面的には見えないだろうが、オレが足の指を伸ばして地下から攻撃しようとしたのを、EGW_X1はあっさり見切って防いだのだ。指は、闇の花の根に絡まれ、最初から無かったかのように消滅した。それを、『何も』の一言で片付けるとは・・・。

「EGW_X1、そろそろお終いにして差し上げなさい。時間も無いし、そろそろお暇するとしよう」

 その言葉に、EGW_X1はこくんと頷く。
 両手を肩の高さに広げると、魔法のようにそこに闇色の小鳥が2羽現出した。

「お行きなさい」

 鈴が鳴るような美しいが声が命じると、闇色の鳥が小さく羽ばたいた。手から飛び立ち、まっすぐオレに突き進む。

「おおおおぉっ!!」

 オレは、気合を込めて、右手の指を左手に、左手の指を右の手に、ぐしゅ・・・という音を立てて、突き刺した。その状態から両手を広げる。指が伸び、指と指の間に淡く輝く皮膜を張って、オレの目の前に半円状の対魔導結界を構築した。
 一羽目の小鳥が結界に突っ込み、その身と引き換えに大きな穴を開けた。その力は、蝶などとは比べ物にならないほど、強大な力だった。
 二羽目の小鳥はその穴を通り抜け、一直線にオレに向かう。途中で姿がぶれたかと思うと、数え切れない程の数の小鳥に分裂した。それは、酷く絶望的な光景だった。

「魔王様っ!!」

 一瞬、それが誰の声か、判らなかった。
 だから、誰がオレの目の前に飛び出して来たのか、誰が闇色の小鳥に胸の中心を撃ち抜かれたのか・・・判らなかった。

「まおうさ、ま・・・にげ・・・」

 だから、誰がオレにそう言ったのか、誰がそのまま足元に崩れ臥したのかも、判らなかった。酷く・・・静かだった。

「いやぁああっ!ひとみさんっ!!まことちゃんっ!!」

 沙姫の声が、悲痛な響きを伴ってオレの耳に届いた。その時、初めて自分の身体中が数え切れない程の小鳥達に撃ち抜かれ、穿たれ、蝕まれたのか、気が付いた。体重を支えきれない足が付け根からもげて、身体が重力に引き摺られて倒れ込む。身体を支えようとした右腕が、肘から消失する。

「エネルギーの消失を検知。もう暫くすれば、その個体を維持する事も出来ず、崩れ去ります」

 オレを倒したという感慨も無く、ただどこまでも美しく響く声で、EGW_X1はそうサイズに報告した。その言葉通り、オレの身体から力が洩れて拡散するのが感じられた。

「それでは、こちらの女性をご招待するとしよう。あぁ、それはもう放っておきなさい。構う価値も無いからね」
「まことちゃんっ、ひとみさんっ!死なないでっ!いやあぁああっ!!」

 オレは、まともに動かない身体を、なんとか声の方へと動かそうとした。いつの間にか、身体に触れる感触は、荒れた大地からアスファルトに戻っている。
 まともに見えない目で、必死に顔を上げて、サイズを睨む。そこには、沙姫を拘束するサイズがいた。オレを侮蔑するかのように、傲然と見下ろしている。

「こちらのお嬢さんは、確かに頂きました。そこで朽ちていく貴方には、全き神のご加護を」

 そう穏やかな口調で、無限の冷酷さを込めて、オレに祈りの言葉を送る。
 3人を包み込むように魔法陣が発生した。EGW_X1が、小さな声で呪文を紡いでいる。
 光が爆発的に高まると、次の瞬間には魔方陣の内側の3人を伴い、全てが消え去っていた。

「・・・沙姫ぃーッ!!」

 オレの慟哭が、無慈悲な空に響き渡った。

- 跋 -

 雨が降る。
 まるで地上の穢れを洗い流すように、激しく、峻烈に。
 オレは、榊の遺体に、這う様に近付いた。

───無様だな───

 もう、身体を修復するだけの力も残っていない。それなのに、このコワレかけたカラダを突き動かす物は、ココロの奥底に蠢く・・・ぐつぐつと音を立てる溶岩のような、何か。それが、倒れたまま朽ちてしまいそうなこのカラダを、動かし続けている。

───榊・・・───

 あれほど表情が豊かだったのに、今はもう動く事は無い。どこか満足そうな顔は、オレの無事を疑う事無く逝けたからだろうか。それとも、オレを守って死ぬ・・・その自己犠牲の精神が、満足したからだろうか。
 オレは、手を伸ばして榊の顔の汚れを拭った。
 奥歯が、ぎり、と異音を発した。

───チクショウっ!!───
───チクショウっ!!───
───チクショウっ!!───

 何が悔しいのか、自分ですら判らない。
 オレの攻撃が通用しなかった事か。
 オレを無様に地に這わせた事か。
 榊を無惨に殺した事か。
 沙姫を連れ去った事か。
 それとも・・・。

 オレは、天を睨むように見上げた。

 雨が降る。
 オレの頬を、雨が伝う。
 まるで、涙を流す事の出来ないオレの代わりと言わんばかりに。
 雨は、いつまでも止む様子を見せなかった。

< つづく >

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