数学する豚 奈緒編

奈緒編

 男の価値は外見で決まる。
 いくら性格がよかろうと、いくら頭が切れようと、いくら運動ができようと、外見が悪くては相手にされない。
 当り前の話だ。超能力者じゃないんだから、第1印象は見た目で決めるしかない。そして第1印象ほど重要なものは無い。
 それじゃあこんなこと言ってる俺、倉内満夫の外見はどうかというと、小学校時代から高校2年の現在まで、あだ名が一貫して『豚』だったと言えばだいたいわかるだろう。ただ太ってるだけじゃない、自分で言うのも悔しいが、顔も豚に似ている。
 そんな俺だからこそ、自信を持って言える。
 どんなに他の要素が優れていても、外見が駄目な奴はその時点で敗者だ。

 つい1ヶ月前までそう思っていた。

 俺はマンション1階のロビーで、奈緒ちゃんの帰りを待っていた。
 残り少なくなったジュースの空き缶を片手に、ロビーにあるクッションの効いた椅子に座って、エントランスの自動ドアの方をじっと見つめる。
 もう11月で肌寒い気温のはずなのに、汗がじっとりとわきでてくる。4キロもあるA4のノートパソコンが入ったリュックを背負っているので、背中が汗で蒸れて気持ちが悪い。さっきから座っているだけなのに、心臓の鼓動がだくんだくんと通常の三割増で俺の体を揺すっている。
 俺はジュースの残りをぐいっとあおった。胃に冷たさが降りてきて汗はとまったが、心臓ははりきったままだ。無理もない。『これ』が成功するか否かで、俺の人生の明暗が決まるのだ。
 俺は立ちあがって辺りを見まわした。
 白を基調とした、上品で広々とした空間を演出するロビーは、マンションの入り口に相応しくゴミ箱がどこにあるのかわからない。
 と、ロビーの中心にある大きな柱の陰に、目立たないようにゴミ箱があるのを見付けた。俺は100キロを越える自分の巨体を揺らしながら、空き缶を捨てる。
 立ちあがったついでに、ポケットの中に入れてあるPDAで時間を見る。もう奈緒ちゃんが帰ってきてもおかしくないはずだが……。
 と、まるで見計らったかのように自動ドアの開く音。俺は慌てて、入り口からは死角になるところへ移動した。なにしろ、俺は外見のせいで奈緒ちゃんには嫌われているのだ。
 あぶないところで、俺は壁の陰に身を隠した。ただ太ってるだけじゃなくて運動不足だから、あまり機敏な方では無い。緊張と急な運動でまた汗がどっと噴き出し、俺はポケットからハンカチを出して額と首のまわりを拭う。
 壁にはりついた状態で耳をすますと、とたとたとた、という軽い足音。足音はエレベーターに向かった。あの位置なら、ちょうどこちらに背を向けている状態のはず。俺はそっとそちらの方をうかがった。
 赤いランドセルを背負った、年齢の割にやや小柄な体。そして見間違えようも無い、照明を受けてきらきらと輝く金髪のツインテール。間違い無く奈緒ちゃんだ。
 奈緒ちゃんは、何かを見つけたのかふと横を振り向いた。俺は気づかれたかとギクリとする一方、奈緒ちゃんの東欧人特有の、線の細い顔立ちにもドキリとした。
 名前も生まれも育ちも日本だが、イリエスク・奈緒ちゃんは両親とも、ルーマニア人なのだ。
 東欧系というと、なんだか出稼ぎにやってきたダンサーみたいなイメージがあるが、ここは各種設備の充実したそこそこ上等のマンションである。イリエスク氏はれっきとした商社の重役だ。
 俺は近所づきあいが悪い方なので詳しくは知らないが、日本支部の偉いさんだそうで、もう日本に来てから15年にもなる。イリエスク夫妻はまだアクセントが若干あやしいところがあるが、娘の奈緒ちゃんは完璧な日本語を話せる。
 もちろん、日本人なのは中身だけで、外側は別だ。
 かつて、ルーマニアの新体操選手、ナディア・コマネチが「白い妖精」と呼ばれたことがあったが、まさに彼女の姿は妖精の一言につきる。
 ときどき、マンションの近くにとまってる車から、冗談のようにバカでかいカメラがのぞいていることがあるが、間違いなく奈緒ちゃんを追いかけていた。
 俺は奈緒ちゃんがエレベーターが降りてくるのを待つ間、再びポケットからPDAを取り出して操作した。PDAの画面には俺にしかわからない数字やアルファベット、数学記号などがずらずらとスクロールする。
 心臓が、ぴょんっと跳ねあがった。よし、理論通り、そして計画通りだ。
 ようやくエレベーターがやってきて、奈緒ちゃんがそこに乗り込む。ドアが閉まるのを待って、俺は飛び出した。
 エレベーターは4台が並んでいる。そのうちの一つに俺は突進し、昔のシューティングゲームのようにダダダダダダと「上」のボタンを連打する。じりじりと焼け付くような10秒間。ようやくエレベーターが来た。
 奈緒ちゃんがエレベーターの自分の階で降りてから、部屋に入るまでのわずかな間に作業を終えなければならない。この計画の中で一番条件がシビアな部分だ。
 奈緒ちゃんが俺に気づくほどタイミングが短ければ失敗。
 作業が終わる前に奈緒ちゃんが家に帰ってしまったら失敗。
 理論通りに機械が動かなかったら失敗。
 俺と奈緒ちゃん以外に誰か他人がいたら失敗。
 我ながらあきれるほど穴の多い作戦だ。この日のために、高校をズル休みしたってのにな。
 俺は、はやる気持ちを抑えつつ、刻々とあがっていく階数表示をにらむ。
 ポーンと音がして、エレベーターは11階──奈緒ちゃんの家がある階だ──で止まった。
 エレベーターから出た俺は、すばやくあたりを見まわす。エレベーターホールに、人影は無い。と、ホールの出口に目をやれば、今まさに自動ドアが閉まろうとしているところ。
 俺は足音を立てないように、しかし奈緒ちゃんとの距離を少しでも縮めようと大股にドアへ歩み寄った。
 距離が近過ぎるのはまずい、しかしどうにも足が止まらない。
 ホールを出た。ほんの10メートル先に奈緒ちゃんの揺れるツインテールと赤いランドセル。願ってもない絶好の距離だ。奈緒ちゃんの部屋につくまでおよそ1分。この1分が勝負だ。
 俺はPDAを取り出した。画面には数字と記号の洪水。米粒が並んだようなキーボードをできる限りのスピードで叩く。くそ、入力ミス。自分の太い指が、涙が出るほど恨めしい。
 スクロール。スクロール、くそ、スクロールが遅い。変数がおかしい? いやここはlogだから問題無い。インターフェイスが。もっと改良しておけば。あんなに練習したのに。畜生なにがなんでも間に合わせてやる。こんなチャンス2度と。あと22行。ここで1.69だ。αは45。落ち付け。2πt、いや2.1πtか。これで。はは。理論通りだ。また入力ミス。くそ、あせってぶち壊しにする気か。きた。きたきた。この反応。よし、よし、よし!
 俺は顔をあげた。奈緒ちゃんは今まさにドアに鍵を差し込もうとしている。間に合ったぞ畜生。
 俺は万感の思いを込めて口を開く。
「奈緒ちゃん!」
 いつもなら、まるで生ゴミの臭いでも嗅いだかのように露骨に顔をしかめるはずだ。
 だがしかし……。
「なんですか?」
 こちらを振りかえった天使は、万年雪をも溶かす笑顔を見せた。青い瞳を輝かせ、色素の薄い頬にうっすらと朱が入り、はにかんだ唇でかすかに小首をかしげる。
 俺の心臓はいまやいつ破裂してもおかしくない。俺はうわずった声で言った。
「これから、俺の家に遊びにこないかい?」
 奈緒ちゃんはちょっと考える仕草をしたあと、「いいですよ!」と元気よく答えた。
 この時俺は、薄明かりの霧の中をさまよっていた俺の人生が、急にまぶしいほどの光に満ち溢れ出したことを知った。

「ところで奈緒ちゃん、奈緒ちゃんのお父さんとお母さんはいつ帰ってくるかわかるかい?」
 イリエスク夫妻は共働きで、奈緒ちゃんはいわゆる鍵っ子というやつだ。この辺は、親に対するいいわけを考える必要が無くて非常に都合がいい。一方、俺の方は一人暮らしでさらに都合がいい。
「えっと、お父さんが帰ってくるのは9時頃で、お母さんは、今日は7時頃だと思います」
 よし! と俺は心の中でガッツポーズ。少なめに見積もって、3時間は余裕がある。いやまて、親だけでなく友人も心配しておいた方がいいな。
「奈緒ちゃん、今日、お友達と遊ぶ予定はあるかい?」
「ないです。でも明日香苗ちゃんとゲームをすることになっています」
 これで障害は全て取り除かれた、な。
 そう思った瞬間。
 俺の股間が物凄い勢いで元気になった。
 ええいこらえ性のない奴。あせったら駄目だ。段階を踏んで、一つ一つ確かめながら進まなくちゃいかん。
 と、いくら脳が言い聞かせても、馬鹿息子は心棒でも入れたかのようにガチガチになっている。こういう事態を予想して、家を出る前に2発も抜いてきたってのに。
「どうしたんですか?」
 奈緒ちゃんは首をかしげて聞いてくる。その愛らしい仕草のせいで俺の股間はますます張りきった。
 俺は少し前かがみになりつつもなんとか平静を装った。
「なんでもないよ。それじゃあ、俺は先に行ってまってるから、奈緒ちゃんはランドセルを降ろしたり、明日の準備をしたりしてからおいで。俺の部屋は417号室だよ。『倉内満夫』って表札があるからね」
「はい、417号室ですね。わかりました、満夫おにいちゃん」
 俺の外見はいわゆる「デブオタク」そのものだから、奈緒ちゃんと一緒に歩いているところを見られるのはそうとうヤバイ。奈緒ちゃんも俺も、まったく逆の理由でマンション内では目立つ存在だからだ。一応、人の少ない時間帯とはいえ、危険は最小限に止めるべきだろう。
 さて、奈緒ちゃんと別れた俺は、すぐさま4階の自分の部屋へ戻った。
 奈緒ちゃんがやってくるまでの短い間に、いくつかやらなければいけないことがある。
 まず俺はリュックを空け、A4のノートパソコンを取り出した。まずはこいつのバックアップだ。
 無線LANでメインマシンにデータを送る一方、さっきまでのログを呼び出して再確認。C3構造体の値を0.003だけ下げて、あとは計画通りだな。第4定理はこの結果からほぼ立証されたと見て
 ピンポーンとチャイムが鳴った。
 俺は大慌てで玄関にすっとんでいき、やってきた奈緒ちゃんを迎え入れる。
 奈緒ちゃんはさきほどとは違い、水色のワンピースを着ていた。
「ちょっとおめかししてきました」
 はにかんでそう言う奈緒ちゃんに、俺の息子がまたしても自己主張する。
「来る途中、誰かに会ったかい?」
「ううん、誰にも会いませんでしたよ」
 唯一の懸念はこれで欠片も残さず吹き飛んだと言えよう。今日俺は、ツキにツキまくっている気がする。ものごとがうまく行くときは、こういうものかもしれない。
 俺が手を差し出すと奈緒ちゃんはぎゅっと俺の手を握った。ふにふにとやわらかく、そしてなめらかな感触が俺の胸と股間に揺さぶりをかける。
 俺の家は、このマンションの中でもっとも狭い部類に入るが、それでも2DKある。1室を寝室に、1室を図書室兼物置にし、ダイニングルームは勉強部屋にしている。俺は奈緒ちゃんをダイニングルームに案内した。
 ダイニングルームにはパソコン2台を片側の壁に、反対側に本棚を配置し、廊下側にテレビを配置してある。フローリングの真ん中に絨毯を敷き、その上にテーブルを置いてあるのでけっこう手狭だ。
「うわー、難しそうな本がたくさんありますね」
 奈緒ちゃんは本棚を見ながら言った。そこにはよく使う各種辞書と数学とプログラムの本が200冊ほど置いてある。
「俺はコンピュータが好きだからね。テレビの近くに座って」
 台所の冷蔵庫からオレンジジュースと葡萄ジュースを出しながら言った。オレンジジュースは1リットル入りのペットボトル一杯に入っているが、葡萄ジュースはコップ一杯分しかない。
 俺はコップとジュースを持ってパソコンのある側に座り、奈緒ちゃんと自分のコップをテーブルに並べた。そして奈緒ちゃんのコップに葡萄ジュースを空になるまで注ぐ。俺のコップにはオレンジジュースを注いだ。
 事前に考えたシナリオ通りに、だ。
「はい、ジュースだよ」
「ありがとうございます」
 さて、ここから慎重にやらなければならない。
 奈緒ちゃんがこくこくとジュースを飲む間、俺はテーブルの下にPDAを取り出して、そっと画面を盗み見る。
 C-22は現在、92%に設定している。これは俺に対する奈緒ちゃんの評価基準の主要なパラメーターで、普段なら10%を切っているはずだ。とにかく俺の家に誘わなければ話が始まらないので、恐怖心もあってこんな高い値に設定してしまった。
 しかし、あまりに大規模な変動は、他の部分に悪影響を及ぼす可能性がある。できれば90%台にはしたくないし、そうしなくても理論上、「俺のやりたいこと」はできるはずだ。
 俺はまず、C-22を68%にまで引き下げた。計算上、俺の家にいることに、不信感を抱かない程度の数値だ。
 奈緒ちゃんがジュースを3分の1ほど飲み終えたのを見計らって、俺は言った。
「そのジュース、おいしそうだね。満夫お兄ちゃんにも飲ませてくれるかい?」
 奈緒ちゃんは、「え?」と少し眉を寄せた。自分の飲んだジュースに俺が口をつけることに、嫌悪感を抱いているのだろう。ま、68%ではその程度ということだ。
「もう1つコップを用意して、そこに注げばいいんじゃないですか?」
「でももう葡萄ジュースはなくなっちゃったんだよ」
 空になったペットボトルを振って見せる俺。我ながら白々しい演技だ。こうなることを予測して、葡萄ジュースをコップ一杯分だけにしておいたってのに。
 俺は片手でPDAを操作し、少しずつ数値を上げていく。
 69……70……71……。
 奈緒ちゃんの表情から、険が取れたが、まだ悩んでいるようだ。もう少し上げた方がいいか?
 72……73……。
「駄目かな? 奈緒ちゃん」
 数値を上げるだけでなく、こっちからも水を向けてみる。
 すると奈緒ちゃんは少しはにかみながら、こっちにコップを差し出した。
「うん、いいですよ」
 俺はすかさず、奈緒ちゃんが口をつけたところからジュースを飲んだ。金髪美少女との間接キスだ。俺の股ぐらが痛いほどに張り詰める。
 奈緒ちゃんの表情を盗み見ると、こっちから視線を外して赤い顔をしているが、俺の行為に不快になっているわけではないようだ。
 俺はジュースを3分の1だけ残すと、コップを奈緒ちゃんの方に戻した。
 そのまま少し待ってみたが、コップに手をつけない。俺は再び数値をあげはじめた。
 74……75……76……。
 奈緒ちゃんは、コップをじっと見つめている。
 77……78……79……80……。
 まだか? と俺が思った瞬間、奈緒ちゃんはコップに手を伸ばした。
 俺が、この醜い豚そっくりの俺の唾液がついた部分に唇を寄せ、目を伏せて頬を赤らめながら、奈緒ちゃんはジュースを口に含み、残りを飲み干した。コップから口を離すと、ちらりと俺の方を見てからすぐ視線をそらす。
 その仕草に俺の頭はぼうっとなり、あやうくPDAを取り落とすところだった。
 いかんいかん、この程度で悩殺されてどうする。
 さて、次の段階に行くか。80%でこの反応ということは、83%ぐらいでどうだ?
「奈緒ちゃん、ウチはお風呂がとっても広いんだけど、入っていかないかい」
「え、お風呂ですか?」
「そうだよ。奈緒ちゃんはきれい好きだろ? 今日、外は風が強かったじゃないか。小さい砂が気持ち悪くないかい?」
 奈緒ちゃんはうーん、と考えこんだ。俺はもう1%だけあげるかどうか考え出したが、やがて彼女はこっくりとうなずいた。
「ありがとうございます。お風呂使わせてください」
 俺は内心飛びあがらんばかりだが、もちろん冷静を装って、ダイニングルームの扉を開けてやる。
「この廊下をまっすぐ進んで、突き当たったところを右がお風呂だよ。黄緑色のかごがあるから、脱いだものはそこにいれてね」
「はあい」
 奈緒ちゃんは元気よく返事して、風呂場へ向かった。他人の家の風呂とはいえ、1人で入るものと考えているから、83%でも受け入れたのだろう。もちろんこっちは1人で入らせるつもりなどまったく無い。
 しかし、下半身的には今すぐにでも風呂場へすっとんで行きたいところだが、もう少し辛抱だ。もう一発くらい抜いときゃよかったな。
 俺は奈緒ちゃんが来る直前にリュックから出した例のノートパソコンを机に置いて、奈緒ちゃんの反応のログを分析しはじめる。
 ふーむ、む、む。なるほど、妙に閾値が高いと思ったら、俺の予想よりC群とD群の連動定数がずっと低いわけか。神経症関連の影響じゃないとすると、気分障害の防衛機制が影響してるのか? あとでこの辺りも計算してみないと……。C-22を89%にするとして、隣接要素のC-20とC-19を16ポイント上げて、D群全体を7ポイント下げれば、くそ、4次方程式は暗算じゃ無理だな。計算ソフトを使わんと……。よし、ここの定数は21、いや21.3だ。
 これで行けるとこまで行ってみよう。シナリオはB-3-1だな。
 さあやるべき準備は全てやった。後は突撃あるのみ。

 俺はどすんどすんと重量級の体重を廊下に叩き付けながら風呂場に向かい、脱衣所の扉を開けた。
 入ってすぐ左に洗濯機があり、そのすぐそばに、黄緑色をしたかごがある。俺が指示通り、奈緒ちゃんはそこに着た服を入れていた。水色のワンピースをきれいにたたみ、その上に2つにたたんだ下着がある。へえ、スポーツブラとはいえ、もうつけてたのか。服の上からではほとんど脹らみはわからなかったが。
 ブラもパンツも、おそろいの薄いピンク色だ。どちらも胸と腰をしっかりと包む子供らしいタイプだが、ふちどりにはレースがついている。大人びた色気はかけらもないが、逆に背徳的な幼い色気がそこから漂ってくる。
 いますぐにでもむしゃぶりつきたいところだが、これから「中身」をたっぷり味わえるわけだし、ここは我慢我慢。
 俺は着ているものをいまだかつてないほどの早さで脱いでいく。む、汗でシャツがひっかかって……、この、この、ええい焦っていると何事もうまくいかんな。
 脱いだものをまとめて洗濯機の中に放り込むと、風呂場の曇りガラスをノックして言った。
「奈緒ちゃん、満夫お兄ちゃんも入っていいかな?」
「え?」
 と、かすかにとまどいの色を帯びた声。しかしすぐに
「恥ずかしいですけど……満夫お兄ちゃんとならいいです」
 その返事を聞くやいなや、俺はドアを開いて中へ入った。
 俺の家の風呂は、奈緒ちゃんにいった通り、少々広めにつくってある。浴槽と洗い場を合わせて、八畳くらいだ。そしてその半分が浴槽である。俺の太った体に合わせたというわけではなく、元来俺は風呂好きなのだ。
 奈緒ちゃんはツインテールをほどき、湯船に浸かっていた。こちらをうかがう天使の頬が、湯船の熱のためかそれとも別の要因か、桃色に染まっている。俺のモノはもう破裂しそうなまでに張り詰めている。
 俺は軽くシャワーを浴びて汗を一通り流してから、言った。
「奈緒ちゃん、こっちにおいで、体を洗ってあげるよ」
「はい」
 勢いよく立ち上がった少女の姿態を見て、俺は思わず唾を飲み込んだ。
 水滴の伝う新雪の肌はしみ一つ無く、滑らかな光沢を放っている。
 凹凸の少ない体だが、将来を予感させる程度にふくらんだ胸とその先端の桜色がなんとも色っぽい。
 股には飾りのように毛が生えているが、金髪なのであまり目立たず、粘土にベラですじを入れたような割れ目がはっきりと見える。
 奈緒ちゃんは俺の視線を感じるとはにかんで、自分の胸を軽く隠すように両腕をクロスさせて湯船から出た。
「それじゃあまず石鹸をつけようね」
 俺は石鹸を自分の両手のひらにこすりつけて泡立てると、奈緒ちゃんの脇腹を抱えるように触れた。
 美少女の肌は想像以上の感触だった。柔らかな中に張りがあり、氷のように滑らかなのに暖かい。俺はおもわず「おお……」と声を漏らしながら、膝立ちになって彼女の腹と背中を思う存分撫で回す。
「あ……ん……お兄ちゃん、変な手つきです……」
「丁寧に洗ってるんだよ。奈緒ちゃんのきれいな肌がもっときれいになるようにね」
 そしてついに両手は、少女のまだ薄い胸に覆い被さった。そのまま、やさしく撫でたり軽く揉んだりする。
 少し強くおせばすぐ肋骨に当たる薄い胸。しかし奈緒ちゃんの体の中でも、そこには特別な弾力があった。
 俺は荒く息をつき、股間のモノをギンギンにしながら奈緒ちゃんの胸を揉みほぐす。
 奈緒ちゃんはくすぐったいのか、それとも幼い性感を感じているのか、上気した顔で「ううんっ」と時折声を漏らしながら身悶える。
 いつまででも触っていたいと思う奈緒ちゃんの胸だったが、さすがにそうもいかない。俺は適当なところで胸を愛撫するのを切り上げ、次いで肩、首まわり、両腕の感触を楽しんだ。両手のひらを前に出させ、ぷにぷにした触感を味わいながら指の一本一本まで泡だらけにしていく。
 そうして、俺の手は下半身にうつった。それぞれが微妙な触り心地の違いを持つふくらはぎ、太ももを撫でまわした後、とうとう最後の部分に到達する。
 俺はまず、奈緒ちゃんの股間を包み込むように右の手のひらをピタリと当てた。
「あっ、そこは……」
 奈緒ちゃんが反射的に、俺の手のひらを押さえた。しかし、
「ここも洗わなきゃ駄目だよ」
 俺が左手で奈緒ちゃんの手をそっとどかしながら、性器にあてがった右手をゆっくりと前後に動かす。
「あっ……は、はい。きれいにしてください……」
 どうも奈緒ちゃん、本格的に感じているらしく、呼吸がだいぶ荒くなり、俺が右手を動かすたびに腰が震えるようになってきた。性感の方はまったく干渉していないので、もとから感じやすい体質なのだろうか? まあ奈緒ちゃんも最近の子だから、自慰の経験があるのかもしれない。
 俺は右手で奈緒ちゃんの性器全体を、揉み込むように刺激しながら、左手で柔らかなお尻をなでまわす。
 奈緒ちゃんは顔を真っ赤にして、はあっはあっあえぎながら腰を振っている。
 人差し指で割れ目をなぞりあげてやると、「あうっ」と声をあげてのけぞる。美少女の想像もしていなかった痴態に俺の方もだいぶ限界が近い。
 さらに、俺はふと思い付いて、尻を撫でまわしていた左手の人差し指を、奈緒ちゃんの後ろの割れ目に押し込んだ。
「ちゃんとここもきれいにしなきゃ駄目だねー」
「え?」
 予想もしていなかった場所への侵入に、奈緒ちゃんは目を見開いて俺の方を見る。俺はかまわず、後ろの穴に人差し指を当て、すべりこませた。
「きゃあっ!!」
 可愛い悲鳴をあげ、背が弓なりになるまでのけぞる奈緒ちゃん。
「だめっ! そんなところ駄目です!」
 両腕を後ろにまわして俺の手を押さえ、濡れた金髪を振り乱して叫ぶ奈緒ちゃん。
 む、かなり拒否感が強いな。さすがにこの辺りが限界か? などと思いつつ、俺は第1関節まで入った指を軽く円を描くように動かした。
「きゃああああ! 許してくださいっ! お願いですっ!!」
 奈緒ちゃんの目から涙がこぼれる。少しやりすぎたか。俺は奈緒ちゃんの望み通り、指を抜いてやった。
「ひどいですよう……はやく洗ってください……」
 奈緒ちゃんは俺の返事を待たずに、シャワーを出してさっきまで自分の肛門を洗っていた俺の指を自分で洗い流した。まだ涙目になっている。ずいぶん抵抗感があるようだ。
「ごめんごめん。でも、石鹸を洗い流さなきゃいけないから、もうちょっと我慢しようね」
 俺はシャワーで奈緒ちゃんの体を流しながら言った。奈緒ちゃんは頬をふくらませ、不満の意を示す。全裸の天使は、怒った顔にもそそるものがある。
「あんまり激しくしないでください……」
 奈緒ちゃんはそう言うと、俺の体に抱き付いてきた。この体勢で耐えるつもりなのだろう。俺はちょっと驚いたが、もちろん大歓迎だ。
 俺はシャワーを彼女の腰の辺りに当て、左手の人差し指をゆっくりと、美少女の肛門に指し入れていった。
 俺の体にしがみついた奈緒ちゃんの体がビクリと震える。そっとほぐすように、広げるように動かすと、耳元での呼吸が荒くなった。
「あ……もっとそっと……」
 奈緒ちゃんの要望に答えて、俺は指の動きを少しおとなしくした。
「うん……あ……あ……ふう……」
 なんかこの奈緒ちゃんの声、「不快なことに耐えてる」ってよりは、感じてるような気がするな。お尻に対して感じている嫌悪感はあくまで道徳的なもので、実際には快楽を感じてるんじゃないだろうか? この辺りは、後でログを見てみよう。俺の予測が当たっていたら、今後の「お楽しみ」の幅も広がるだろう。
 さて、シャワーで奈緒ちゃんの体を覆っていた泡を落としてから、俺は言った。
「それじゃあ奈緒ちゃん、僕がやったように、今度は奈緒ちゃんが僕の体を洗ってくれるかな?」
「はあい」
 奈緒ちゃんは肛門責めから逃れることができて、ちょっとほっとした様子で言った。
 俺がさっきまでやっていたように、手で石鹸を泡立て、スポンジを使わずにその泡を俺の太った体に塗りたくっていく。
 醜く突き出した乳房やたるんだ腹を、奈緒ちゃんは真剣な表情で撫でまわしており、気持ちがいいのはもちろん金髪の美少女を奉仕させているようで気分も最高だ。
 さて、奈緒ちゃんはとうとう俺の上半身の作業を終え、下半身へと入った。
 俺の固く張り詰めた肉棒を眼前にして少し赤くなりながら、両手で包みこむようにそれを握る。
「うあっ」
 奈緒ちゃんの柔らかく、泡でぬるぬるになった手のひらに包まれた瞬間、俺は発射してしまった。
「あ……」
 白い液が、奈緒ちゃんの胸にかかる。
 奈緒ちゃんは自分の脹らみかけの胸に付着した白濁液と俺の顔を交互に見つめ、驚いたような顔をした。
 む、この歳の子は、保健の授業でもう習ってるわけか。下手ないいわけは意味が無い。むしろ、高められている俺への好意をあてにするのが得策だろう。
「ごめんね。僕の大好きな奈緒ちゃんがあんまり丁寧に洗ってくれるから、思わず出しちゃったよ」
 奈緒ちゃんは、少しうろたえたように身じろぎした。
「満夫おにいちゃん……わたしのこと好きなんですか?」
「そうだよ。とっても大好きだよ。授業でならわなかったかい? 好きな女の子だからこそ、僕は精液を出してしまったのさ」
「は、はい。習いました……」
 奈緒ちゃんはちょっとうつむく、自分の胸についた俺の汚い精液を、人差し指で拭った。そしてそのドロリとした液体を、なにやら愛しそうにみつめる。と、彼女は俺の視線に気づき、慌ててシャワーで指と胸の汚れを落とし、俺の体に石鹸を塗りたくる作業へと戻った。
 毛むくじゃらで脂肪のたっぷりついた俺の両足が泡だらけになると、奈緒ちゃんはシャワーを手にとると思いきや、膝立ちになって俺の腰に抱き付くように手を尻にまわしてきた。
 奈緒ちゃんの細い指が俺のどでかい尻を這いまわったかと思うと、尻の割れ目にすべりこんで肛門に触れる。
「うおっ!?」
 正直、これはまったく予想してなかった。驚いて反射的に奈緒ちゃんの顔を見ると、少しいたずらげな微笑みを浮かべている。
「ちゃんとここもきれいにしなきゃ駄目ですよー」
 どうやらさっきの仕返しのつもりらしいが、こ、これは……。
 豚のように醜い俺の体の中でも、特に汚い部分を、こんな美少女が進んで掃除してくれている。しかも水からの芸術作品のような美しい指を使ってた。
 その驚愕の事実に、肛門の中にさし込まれて動く指の感触に、俺は「おう、おうっ」という無様な声をあげてのけぞった。
 先ほど三発目を発射した俺の肉棒の角度が、自分でもびっくりするほど急激にあがっていく。
 ようやく、俺への仕返しアナル責めに満足したのか、奈緒ちゃんはシャワーからお湯を出して俺の体をながしはじめた。もちろんその時、彼女の指が俺の肛門を再び探ったのは言うまでも無い。

 体を洗った俺たち二人は、再び湯船に浸かっていた。
 長時間入ってものぼせないように、お湯の温度はやや低め、温水プール程度にしてある。
 さきほどいった通り、浴槽は結構広いが、奈緒ちゃんは足を伸ばして座る俺の腿の辺りに、俺に背をむけるようにして座っている。
 俺はマッサージと称して、奈緒ちゃんの胸にうしろから手をまわし、じっくりと揉んでいた。
 少女の乳房独特の絶妙な弾力は、いつまで触っていても飽きることがない。
 頭を洗った奈緒ちゃんの後頭部に口付けるようにして、顔を寄せる。シャンプーの匂いがするのは言うまでも無いが、いったい美少女というのは、何か特別な種類の皮膚で覆われているのだろうか? あきらかに香料とは別種の、男心をくすぐる不思議な余ったるい匂いがする。
「気持ちいいかい」
「はい、なんだか、へんな気持ちですけど……気持ちいいです、満夫おにいちゃん」
 首を伸ばして奈緒ちゃんの肩越しにその横顔を見れば、頬を染めてうっとりとしている。
 俺は視線を奈緒ちゃんの表情から、自分が揉む彼女の幼い胸へと移した。俺の手の中で、奈緒ちゃんの発展途上の、しかしある程度女を感じさせる脹らみが、くにくにと形を変えている。
 俺はある衝動を覚え、それを実行するために奈緒ちゃんに話かけた。
「ところで奈緒ちゃん、奈緒ちゃんておっぱい出る?」
「ええ~?」
 奈緒ちゃんは俺の言葉に思わず笑った。
「出ませんよ~。わたしまだ胸小さいし、第一赤ちゃんができないとおっぱいは出ないんですよ」
「わからないぞ~、さっきからずっとマッサージしてるから出ちゃうかもよ。ちょっと吸ってみようか?」
 くすくすと笑う奈緒ちゃんは、いったん立ちあがってこちらの方を向き、少し胸を突き出した。
「絶対出ないと思いますよ」
「ほんとかな~?」
 などとしらじらしいことを言いつつ、俺は奈緒ちゃんの右の桜色の突起に吸い付いた。
 500円硬貨ほどの乳輪を舌でこするようにぐりぐりと舐め上げ、口の中に乳房を吸い込むようにしてしゃぶりつく。奈緒ちゃんは「うんっ」と小さな声をあげて、ピクっと震えた。
 当然味などあるわけないのだろうか、なんというか、自分の口が陵辱しているのが美少女の胸だと思うとほのかな甘味があるような気がする。
 唇と舌で思う存分、片方の胸の味と感触を楽しんだ俺は、左の乳頭に取りかかり、さきほどに優るとも劣らぬ勢いで舐め、甘噛みし、吸い込み、なぞり、思い付くありとあらゆる方法で奈緒ちゃんの乳房を弄んだ。
「んっ……ほら、出ないでしょ? あっ……そんなに強く吸ったって……ダメですよぅ」
「わかんないよ。もうしばらく吸ってたら出るかもよ」
 俺はそんな言い訳をしながらえんえんと奈緒ちゃんの胸を吸っていた。
 しばらくして、ようやく俺が口を離すと、奈緒ちゃんの胸は俺の唾液でべとべとになっており、やや赤くなっていた。うっすらと歯型までついている。む、ちと乱暴だったか。
 しかし奈緒ちゃんの顔をうかがっても、怒るどころか瞳をとろんとさせ、うっとりしているようにも見える。感じてたのかな?
「やっぱり出ませんでしたね」
 とここで彼女はくすりと笑い、
「満夫お兄ちゃん、ほんとに赤ちゃんみたいで可愛かったですよ」
 うーむ、操作を行ったのは俺自身だが、おそろしい威力だな。この俺を可愛いとはね。
 と、ふと上を見上げた俺は、時間のことが頭に浮かんだ。
 奈緒ちゃんは髪を洗っているから、乾かす時間を考えるとそろそろ上がった方がいい。俺は奈緒ちゃんにそう告げ、一緒になって脱衣所に上がった。
 タオルでお互いの体を拭きっこする。股や尻の谷間まできれいに拭いてやると、奈緒ちゃんは恥ずかしがりながらも、おそるおそる俺の肉棒にタオルを巻き付けて水分を取ったり、睾丸を持ち上げて裏側を拭いたりした。
 その後、部屋に戻った俺は、奈緒ちゃんを膝に乗せてテレビゲームなどやって時間を過ごした後、彼女を家に帰した。もちろん、今日のことは秘密にするよう充分言い含めてある。
 さて、奈緒ちゃんを帰した俺は、さっそく風呂場に舞い戻った。
 洗い場の壁に並んだ洗面用具の奥から、防水シートに包まれた、一抱えもあるビデオカメラを引っ張り出す。この時の為に、30万も出して買ってきた最新型だ。
 録画をストップし、再生してみると、見事に俺と奈緒ちゃんが戯れている様子が映っていた。
 そう頻繁に奈緒ちゃんを呼べば怪しまれる。俺は奈緒ちゃんと遊ぶのは週に1回程度にする予定なので、その日以外はこいつで代用するのだ。どこかに売りつけて儲けようなどというつもりはまったくない。ま、うまく撮れているようでよかった。
 カメラを回収した俺は、次いでダイニングルームに戻った。コップとジュースを片付けた後、デスクトップパソコンの前に座ってマウスをいじり、キーボードを叩く。モニタは膨大な数字と記号で埋め尽くされた。
 実は俺の家の全ての部屋──それこそ風呂場からトイレまで──をカバーするようにPDA改造の測定機が配置されており、さっきからの奈緒ちゃんの精神の動きは全てモニターされていたのだ。
 ディスプレイには、1時間強の間に収集された、奈緒ちゃんの精神活動の膨大なログが映し出されている。
 奈緒ちゃんとの甘美で淫らな遊びは実のところおまけ、強いて言えば役得に過ぎない。俺の真の目的は、干渉を受けた人間の精神が、どのような刺激にどのような反応をするかというデータの取得である。このログを解析し、理論をさらに完全なものにするのだ。
 そして、俺は欲しいものを手に入れる。
 今後の解析でさらに洗練されるであろう、この『心理数学』の力を使って!

< 続く >

 あとがき

 皆さんはじめまして。
 プロフェッサーというものです。以後よろしくです。
 このサイトを見てはじめてMCモノというジャンルがあることを知り、いたく感動して涙やら違う汁やらを出しました。
 感謝の意味を込め、私もMCモノを書いてみようじゃないかそうだそうだそうしようというわけで書かれたのがこの話というわけです。もっともまだ完結はしてませんが。
 
 さて次回予告(?)。

 エロ優先でいくつかの謎を放り出したまま終わった奈緒編。早百合編ではもう少し、世界設定が明らかになります。
 主人公、倉内満夫はなぜ高そうなマンションに一人暮らしをしているのか?
 奈緒ちゃんを意のままにあやつった『心理数学』とは?
 そして彼を駆りたてる目的とはいったいなんなのか?
 遅筆&ちょっと忙しくなりそうな本業のため平気で1ヶ月はかかるので気長に待てぃ!
 すみません待っててくださいお願いです見捨てないでください。

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