EDEN 3rd 第一章

第1章

─ 1 ─

 いつものように神名と直子を誘って階段の踊場に行こうとして、あたしは立ち上がった。待ちに待ったお昼休みに、周りの生徒達も浮かれた笑みを浮かべている。仲の良い相手と一緒に食べようと、机をがたがた言わせる音と、バカ話に笑う声が耳につく。
 もうすぐこのクラスともお別れ・・・そんな状況が、この浮かれた雰囲気を作っているのかも知れない。あたしにとっては、デジタルな思考で必要と不要の色分けをしているせいか、こうした馴れ合いにはなんとなく白けてしまう。

「あ、佑美ちゃん、ちょっといいかなぁ?」

 とてててと元気良く走ってきた友香が、あたしの背後から抱き付くようにして声を掛けて来た。瞬間的に跳ねあがる鼓動を悟られないように、平然とした顏を友香に向けた。友香の後ろには、かなたも付いてきている。

「うん、なに?」

 満面の笑みを浮かべた友香は、思わず抱き締めたくなるくらいに愛らしい。あたしが自制心を必死で働かせていると、神名と直子も近付いて来た。

「ねー、おひるー。あ、友香ちゃん達も、いっしょするー?」

 直子がその手にもった重箱を掲げて見せると、一瞬かなたの顏が引きつったのが見えた。それはそうだろうと、あたしは同情を込めて頷いた。あたしも最初はナニカと思ったから。普通、毎日重箱でお弁当を持って来る女子高生なんて、いないぞ。

「ううんっ!今日は止めとくね。それで、来週の土日って空いてる?」

 友香は気にしたふうもなく話を続けた。
 友香は直子と仲が良いせいか、意外とこういう奇矯な行動をありのままに受け止めているような気がする。もっとも、友香からすれば、気にするほどのことでは無いだけかも知れないけど。
 友香の質問に、あたしは神名や直子と顏を見合わせた。なんとなく話の展開が想像出来るような気がする・・・。

「空いてるけど?」

 あたしの左右で、神名や直子も首肯している。直子は嬉しそうににこにこしながら、頭をブンブンと縦に振っている。それはいつもからは想像も出来ない勢いで、頭に付属しているリボンとポニーテールが宙で踊っているようだった。

「じゃあ、雄一さんの家で、お泊り会しようよ!この間のスキーのお礼も兼ねてるんだよ!」
「私が腕によりを掛けて、美味しいご飯を用意しますから」
「それに、春休みに突入してるから、遊び放題だよっ!」

 友香とかなたが交互に言う。二人の笑顔に、思わずあたしは圧倒されそうになった。裏表の無い二入は、あたしにとって眩し過ぎるのかも知れない。

「いくー。わたし、いくよー」

 えへへ、などと笑いながら、直子が立候補した。重そうな重箱を片手に持ち替えて、わざわざ片手を上げている。

 まぁ、友香と一緒にいられる時間が増えるのならそれもいいか、なんて思ってもみる。例え、それがアイツの家でアイツと一緒という状況でも。
 それに、アイツがどういう環境でああいう特殊な人格に育ったのか、興味もあるし。

「じゃあ、あたしも行くね」
「なら、ボクも行くよ。ゆーみが行くならどこだってお伴するからね」

 神名があたしの肩を抱く様にして、そんな問題発言をした。ご丁寧に、発言は友香じゃなくて、あたしの耳に話し掛けている。瞬間あたしの身体がぞくっと震えたのは、気持ちが悪かったからに違いない。

「あれっ!二人とも、そういうカンケイだったんだ?」
「友香ちゃん、あんまりそういう事を言っちゃぁ・・・」

 ナゼか嬉しそうに言う友香と、それをたしなめるかなた。あたしの顔が、瞬間的にまっかに染まったのが感じられた。

「あははー。ゆーみちゃん、お顔まっかー」

 それを面白そうに指摘する直子。もう、あたしは口をぱくぱくとさせて、否定の言葉すらまともに出てこない。

「みんなありがとう。ボクは、ゆーみを幸せにする事を誓うよ。絶対だ」

 そんなたわ言を抜かしながら、神名は空いた方の手を握り締め、空を見上げて高らかに宣言した。ここは教室内だと言うのに。
 あまりと言えばあまりな展開に、やっとあたしの思考能力が回復した。肩に置かれた神名の手を振り払って、嬉しそうに微笑む神名を睨みつける。もちろんそんな程度で怯む神名では無いのは知っているのだけど。

「冗談でからかっただけよ、椎名さん。ごめんなさいね」

 とりなすようにかなたが謝ったが、その顔は笑いを堪えているのが一目で判るものだったから、あたしはぜんぜん気分が晴れない。ましてや、友香がいまだに笑い転げてる状況では・・・。

「本当に、そんな事実は無いから。じゃあ、来週の土日は楽しみにしてるから」

 少しぶっきらぼうにそう言って、あたしは歩き出した。友香に聞かれて嫌なはずなのに、それほど嫌な感じがしない自分に訝しがりながら。

─ 2 ─

 今日は、朝からもの凄く天気が良くて、それで土曜日だって言うんだから、まさにいつもの光景がぼくの目の前に展開されていた。

 とたたたた。
 ぱたぱた。
 とたたた。たん。

 まるでなにかの音楽のように、リズミカルな音を伴っている。
 ぼくの目の前で、かなたと友香がこの館を掃除したり、シーツや衣服を洗濯したりといった、家事をしている。その光景で、その音だ。
 いつも『自分の家なんだから、自分一人で出来なくても手伝うくらいなら』と言っているのに、力仕事以外はさせても貰えない。なるべく平日に自分でやってみても、二人からすれば、まだまだ綺麗にする余地があるらしい。結果、手持ち無沙汰で居心地の悪い気分を満喫してる。

「雄一さん、もう少しで終わりますから、その後でお茶しましょうね」

 かなたが洗濯物を庭に干しながら、微笑んでぼくに言った。本当に嬉しそうにしているので、申し訳無いと思う気持ちがいつも、ぼくを落ち着かなくさせる。これは、結婚したばかりの夫が、台所の入り口でうろうろするような、そんな心境なんじゃないだろうか。

「ゆーいちさーんっ!こっちももうすぐ終わるよーっ!」

 庭でぼんやりしているぼくに、2階の窓から友香が顔を覗かせて、元気一杯に言う。ぼくは二人に手を振った。

「あぁ、待ってるから」

 そうしてぼくは笑みを浮かべる。ぼくは二人に何を返してあげられるんだろう。どうやったら二人を幸せにできるんだろう、なんて考えながら。

 ・
 ・
 ・

 天気が良いので、庭の木の下でお茶をする事になった。焼きたてのクッキーと紅茶が、心を落着ける香りを振りまいている。
 かなたと友香は、またもお揃いのメイド服を来ている。エプロンドレスと言うのだろうか、白いフリルのついたエプロンがとても愛らしく感じられた。でも、前に着ていたメイド服と違うものというのは、何を意味しているんだろう。まさか、メイド服をコレクトする趣味が出来たとか・・・。

「あと、一週間ですね」

 馬鹿なことを考えていたぼくに、優雅な手つきでカップを持ち上げながら、かなたが話し掛けた。もちろん、それは来週のお泊まり会(友香命名)の事だ。

「ぼくね、直子ちゃんたちとお泊まりする機会ってあまり無いから、すっごく楽しみなんだ」
「そういえばそうね」
「修学旅行の時なんて、夜が大変だったよね」
「ふふ、ほんとうにね」

 友香とかなたが何かを思い出したように、くすくすと笑いながら、「ねー」とか首を傾げるようにした。

「何かあったの?」

 ぼくが聞くと、二人は顔を少し赤らめて、相手を窺うように見合った。

「女の子のヒミツだから、秘密っ」

 友香が舌をぺろっと出しながら、結局は教えてくれなかった。ちょっと残念に思いながら、ぼくは香ばしいクッキーを口に運んだ。

─ 3 ─

 シン・・・。

 静寂が音として認識されそうな、どこか非現実的な道場の中、神名勇輝は自然体で佇んでいた。白い胴着が、当たり前のように身体にフィットしている。その静かながらも凛とした表情は、おくゆかしい胸とあいまって、見る者にまるで精悍な少年のように感じさせた。

 す・・・。

 まるで水が流れるように、勇輝は緩やかに演舞を始めた。
 右拳が突きを放ち、左腕が防御の構えを取る。
 右足が直線的に疾り、左足が弧を描く。
 一つの動きが次の攻撃に繋がり、攻撃が次の動きを活かす。無限に連鎖する演舞は、勇輝が闘っている相手の姿を幻視させるほどのものだった。
 最初は子供でも受けられそうな速度だったのが、滑らかな動きはそのままに、徐々に加速していく。道場内に、空気を裂く音と震脚の音、勇輝の呼気だけが響く。

「ハッ!」

 裂帛の気合と共に、右回し蹴りを振り抜いた。相手が吹き飛ぶ、そんなイメージを残して、勇輝は動きを止めた。

「ふぅ」

 緊張を解いて、勇輝は大きく息を吐いた。右目を隠す様に伸びた前髪を、鬱陶しげに掻き揚げる。

「素晴らしい演舞でした、師範代」

 勇輝にタオルを手渡しながら、田代が声を掛けた。この道場に通う、弟子の一人だ。年齢は30歳を越えているが、そのいかつい顔に、年下の勇輝に崇拝にも似た表情を向けている。

「ありがとう。ヤルかい?」

 勇輝は疲れを感じさせない口調で田代に聞いた。この場合の”ヤル”は、組み手の事だ。この道場の方針で、かなり過激なものではあるが。

「いえ、今日は遠慮して置きます。師範代も、そろそろお出かけの時間ではありませんか?」
「あぁ、そうだね」

 時間的には余裕があるが、身嗜みの時間もある。勇輝はタオルを首に掛けると、今日は上がることにした。

「田代さんは、まだ続けるのかい?」

 ふと出口で振り返ると、勇輝は田代に聞いた。今日は師範も、他の弟子も来る予定は無い。一人で修行というのも、ストイックに過ぎる気がしたのだ。

「ええ。師範代の『魎眼』を越えるのが目的ですから」

 それは、勇輝の右目の事だ。神名古流柔術が古きより存在し続ける、意味と意義。
 その言葉を口にした時、田代の身体から、押さえきれない闘気が溢れた。

「うん、楽しみにしてるよ」

 田代の闘気を涼風のように受け流して、勇輝は少年のように笑った。

─ 4 ─

 あたしが待ち合わせ場所に着くと、もう神名と直子が来ていた。いつも思うけど、二人のコーディネイトの方向性が違うせいか、普通・・・とはちょっと違うけど、男女のカップルに見えない事もない。

「あー、ゆーみちゃんだー。こっちこっちー」

 あたしの姿を認めて、直子がぱたぱたと手を振っている。別に、誘導してもらわなくても判るっていうのに。

「やぁ、ゆーみ。今日も可愛いね」
「・・・」

 神名のこういうセリフは、あの旅行の時からエスカレートしている気がする。しかも、あたし自身がそれに慣れて行く気がするのも、なんだか怖い話ではあるけど。

「じゃあ行こうか。直子はパジャマが欲しいんだっけ?」

 神名が直子に確認すると、顔を赤らめて直子が身体をくねくねとさせた。ご丁寧に、左右の人差し指を胸の前でくにくにしてたりする。

「えへへー、悩殺ぱじゃま買うんだー」
「それは楽しみだね」

 ひたすら笑み崩れた直子に、神名が普段通りに受け答えしている。コイツ、やはり大物かも知れない。ネグリジェならともかく、パジャマで”悩殺”って・・・なんていうココロの中のツッコミは、かえって疲労が溜まりそうだったので、口に出さないようにする。

「で、誰を悩殺するんだい?」

 神名がさり気無く聞くと、またもくねくねする直子。ここは結構人通りがある場所なのに、目立っているという自覚が無いらしい。あたしは二人から、2メートルほど離れた。

「あのねあのね、雄一さんをのーさつするのーっ」

 まだ横恋慕してたのか、コイツは。

「そうだね、手伝えはしないけど・・・がんばれ」
「うん!わたしもゆーきちゃんの応援してあげるねー」
「ありがとう。ボクもがんばるよ」

 これだけ聞くと、普通のオンナノコの会話みたいだけど、実際は略奪愛(本人にそこまで攻撃的な意志は無いと思うけど)と同性愛だ。
 他人事のようにココロの中でだけツッコんでいたけど、よく考えたら神名が狙ってるのって、”あたし”だ。思わずアノ時の事を思い出して、顔が赤くなってしまったのを感じる。

「あー、ゆーみちゃんまたお顔がまっかっかだー。うん、ゆーみちゃんも、ちゃんと応援したげるからねー」

 ぽんぽんとあたしの肩を叩きながら笑う直子に、あたしは思いっきり脱力してしまった。あたしが誰を好きか、本当にコイツは気付いていないんだろうか。

「もうそれはいいから、早く歩く!」

 あたしは照れ隠しにそう言うと、先頭をきって歩き始めた。

─ 5 ─

 少し早めの夕食を食べ終わって、ぼくたちはリビングでテレビを見ながらくつろいでいた。ぼくを挟むように、ソファーの左右にかなたと友香が腰掛けている。
 テレビは何かのドラマのコマーシャルを映している。どうも、略奪愛がテーマのドラマらしくて、優柔不断そうな男を、女の子が取り合う・・・そんなドラマらしい。

「ねーゆういちさん、もしもこんな状況になったら、どうする?」

 友香がぼくを見上げるようにして、いたずらっぽく笑いながら聞いてきた。特に深い意味は無いんだろうけど、少し答え辛い質問に感じられた。

「さぁ?でも、ぼくは今の幸せを壊す気は無いよ」

 当り障りの無い答えを口にする。でも、本心でもあるけど。
 きゅっ、と右手がかなたに握られた。かなたが、嬉しそうな、悲しそうな、なんとも言えない表情でぼくを見詰めている。その潤んだ瞳が、今にも泣き出しそうな気がした。

「・・・二人を不幸せにする気も無いしね」

 ぼくは、かなたの手を握り返した。
 ことん、と友香がぼくの肩に頭を乗せる。小さく「ぼくも・・・」と口にしたのが聞こえた。

「ね、雄一さん。えっち・・・しましょう?」

 かなたが上気した顔で、ぼくを見詰めている。少しだけ恥ずかしそうで、ものすごく期待した表情で。かなたがそっとぼくに顔を寄せて、ちゅっと音を立ててキスをした。

「あん、ぼくもぉ」

 友香がおねだりするように言うと、ぼくの唇を啄ばんだ。ぼくの唇をまるで綿飴かなにかのように、なんどもなんども小さく。そのキスに、ぼくの身体が熱くなっていくのが判る。下半身に、音を立てて血が集まっていくようだ。
 熱に浮かされたように呆けた頭で、ぼくはいつかの海の光景を思い出した。こんなこと、いつもはお願い出来ないけど、今だったらさらりと言える気がした。

「二人でしてるところ、見てみたいな・・・だめ?」

 ぼくが言うと、一瞬なんの事だか判らなかったかなたが、きょとんとした表情でぼくを見上げた。首を小鳥のように傾げて、本当に判らないという顔をしている。

「えへへ、ゆーいちさんってばえっちなんだからぁ。うん、いいよ」

 友香は頬を火照らせた笑顔で歌うように言うと、ぼくの隣から立ち上がった。やっぱり友香の方が、えっちな事に鼻が利くみたいだった。
 友香はかなたの隣に行くと、とすっと軽やかにソファーに腰掛けた。「えへへ~」と明るい、そのくせどこかえっちな雰囲気を湛えた笑みを浮かべて、かなたにしなだれかかる。
 頭をかなたの上腕部にこてん、とのせて、抱き付くように右腕をかなたのお腹に這わせる。それは、愛撫というよりも、かなたの温度を確かめる動きに見えた。

「え?え?ちょっ、ゆかちゃん?」

 かなたが焦ったように口篭もると、友香はかなたを濡れた瞳で見上げて、艶やかに微笑んだ。それは、いつもの愛撫をねだる顔ではなくて、まるで獲物を狙う豹のような、どこか攻撃的な表嬢だった。

「たっぷり・・・シテあげるね。ゆーいちさんが、混ぜて欲しくて・・・我慢出来なくなるくらいに・・・ね?」

 かなたから目を離さずに、友香はゆっくりとかなたに顔を寄せた。まるで一瞬でもかなたから離れたくないとでも言うように、身体全体を擦り付けるように、淫靡に纏わりつく。
 黒を基調としたメイド服が、二人の身体の間で捩れて絡まり合う。そこから露出した太腿が、黒を背景に一層ぬめぬめと、白く輝くように映えた。

「ね・・・舌・・・だして?」

 まだ愛撫らしい愛撫もされていないのに、かなたは顔を紅潮させて、ぎゅっと目を閉じたまま身体を震わせている。それだけで、かなたが物凄く興奮しているのが感じられた。ぼくに見られるのが恥ずかしいのか、友香に請われても口を開こうとはしない。友香は、意地悪そうに、その目を輝かせた。

「うふ、いやでも口を開かせてあ・げ・る」

 最後はかなたの唇に息を吹きかけるように、抑揚をつけて囁いた。くすぐったそうに身を捩るのを押さえ付けて、友香はかなたの唇に舌を這わせた。舌先でくすぐるようになぞり、ときおり突つくような動きを見せる。

「んぅっ!ふぅぅ、んっ!」

 感じるのか、それとも息苦しいのか、かなたは閉じた口の中で、激しい喘ぎを堪えている。顔は熟れたトマトのように紅潮し、少しずつ汗を分泌してきている。

「かなたちゃん、がんばるね。でも・・・」

 友香は自分とかなたの身体の間をくぐらせるようにして、かなたの股間に腕を伸ばした。半分以上捲れあがったスカートを掻き分け、ひくひくと震える太腿を掠めて、すでに熱をたたえた秘所に行き着く。

 つん。

 友香が爪の先で、明らかにパンツを押し上げている部分を・・・クリトリスを突ついた。その突然の快感に、かなたは目を見開いて悲鳴をあげた。

「きゃぅっ!!」

 貝のように反射的に身を閉じようとするかなたに、友香は自分の身体を割り込ませるようにして、かなたの身体を押さえ込んだ。そのまま固く膨れているクリトリスを、意地悪く笑いながら、何度も何度も刺激した。パンツの上から押し潰したり、くりくりと擦ったり、爪の先で掻いたり・・・。その都度、かなたのメイド服に包まれた身体が、ソファーの上で踊った。

「ほら・・・もう我慢なんてできないでしょ?舌を出して・・・もっと・・・もっと良くしてあげるよ?」
「あ・・・う、うん・・・」

 かなたは快楽に半分意識が朦朧としているのか、茫とした瞳を友香に向けると小さく柔らかそうに濡れ光る唇を開き、チロリと舌を覗かせた。

「それだけじゃ、だぁめ」
「ひゃうっ!」

 友香は揶揄するように言うと、かなたの秘裂をパンツ越しにぐりぐりと指で嬲った。ただでさえ透ける程に濡れたパンツは、やすやすと友香の指ごと秘所に潜り込んでいった。その摩擦感に、かなたの身体がビクっと反応する。

「ほらぁ、もっと舌を出して、ね?」
「ひゃ、ひゃいぃ」

 舌を出したまま、かなたは返事をした。んぅ、と可愛い声を漏らしながら、舌を精一杯伸ばした。
 友香は満足そうにかなたを見て、両手でかなたの頭を固定した。ゆっくりと顔を近づけて、かなたにキスを与える。いや、それはキスじゃなかった。友香の顔が小さく前後し、その口の中では舌がかなたの舌を擦り、絡めているように見える。これは、フェラチオだった。顔の前後運動に加え、捻るような動きでかなたの舌を搾っている。それに、右足をかなたの足の間に割り込ませて、同時に秘所を刺激しているようだった。

───すごい───

 ぼくは、それ以外考えられなかった。ぼくが同じ事をして、これほどかなたを興奮させられるかなんて、まったく自信が無い。いまやかなたは快楽にどっぷり浸かって、ぼくがいることすら忘れているようだった。

「んっ、んっ、んっ、ぁむ、ちゅ、んぅ」

 二人の口の間から、どちらのものとも判らない喘ぎが洩れる。濡れた肉と肉が絡まり、擦れ合う音が、その途切れる事の無い喘ぎに混ざり合う。それは、恐ろしく淫靡な曲だった。

「ふぅ・・・」

 友香は息が苦しくなったのか、かなたの唇を解放した。友香のから、つぅ、と唾液の糸がかなたに繋がっている。かなたは伸ばしたままの舌で、嬉しそうに糸を舐め取った。

「ふぁあ・・・うふふっ、どう、ぼくのキスは?」

 友香が、淫蕩な笑みを浮かべながらかなたに聞いた。友香自身もキスに興奮したのか、瞳が濡れたように潤んでいる。

「・・・うん・・・すごいの・・・あたま、まっしろに・・・なっちゃう・・・」

 かなたが荒い息の合間に答えると、友香はかなたのメイド服を脱がし始めた。かなたは身体中の力が抜けてしまったようで、まったく抵抗できない。

「わ、こんなになっちゃったね」

 友香がかなたのパンツの股間部分を広げて見せると、愛液に濡れて色が変わった領域が晒された。激しく興奮した証を見せ付けられて、かなたは全身を紅潮させた。俯きながら小さな声で、「ゆかちゃんのいぢわる・・・」と呟く。

「えへへっ、まだまだこれからなんだからね。もっといっぱい、恥ずかしくて、気持ち良くしてあげるんだから」

 そう言うと、友香はちらりとぼくにウインクした。それは、ぼくが我慢できなくなるほどえっちな事をするという自信のように思えた。実際、ぼくのものは熱く自己主張していて、我慢するのが一苦労なのだけど。

「ね、この手を見て・・・」

 友香は左手を、人差し指と中指だけを伸ばした”鉄砲”の形にして、かなたの目の前に突き付けた。見せびらかすように左右に振ってから、自分の胸元に抱き寄せるように戻した。

「これはね、ゆういちさんのおちん○んだよ」

 そういうと、立てた自分の指にねっとりと舌を這わせた。かなたは友香を呆然と見詰めながら、「雄一さんの・・・」と呟いた。

「うん、そう。欲しいでしょ?かなたちゃんの涎を垂らしたココに、熱くて固いゆういちさんのおちん○んを入れて、ぐちゃぐちゃになるまで掻き混ぜてもらうの。どーお?」

 友香の問いに、かなたは気圧されたように喉をごきゅ、と鳴らした。その目は欲情に濡れて、ただ友香の左手を見詰めている。

「お・・・おねがい・・・欲しい・・・欲しいの・・・」

 聞いただけで耳が蕩けてしまいそうな、酷くいやらしい声で、かなたが哀願した。

「欲しいの・・・身体が熱くて・・・たまらないの・・・」

 一度哀願すると止まらなくなってしまうのか、焦らす友香にかなたは言葉を重ねた。切なさに、かなたの頬を涙が伝った。

「じゃあ、脚を大きく開いて、入れ易くしてね」

 くすくすと満足げに笑いながら、友香はかなたにそう注文した。おずおずと、それでも内から生じる欲情に堪え切れずに、かなたは膝を抱え込むように、M字に脚を開いた。溢れた密が灯りに反射して、お尻の方までてらてらと濡れ光っていた。

「うふふ、じゃあ、入れてあげる。よーく見ててね」
「ふあ・・・」

 かなたがあごを引くようにして、自分の秘所を見下ろした。それを十分に意識して、友香は左手をゆっくりとそこに近付けた。そこは刺激を待ち侘びて、大陰唇がぴくぴくと震えている。
 くちゅ。
 濡れた肉と肉を開く音。それが室内に響いた。
 友香は自分の上唇をちろりと舐めると、さらに指を膣に埋めて行く。それは見せ付けるように、焦らすようにゆっくりと。

「あぁん、ゆかちゃん・・・せつないよぉ・・・」

 かなたが耐え切れずに、泣きそうな声でおねだりしながら、腰をくいっと突き上げた。それでも友香は笑いながら、指を突き入れるような事はしない。あまりに焦らされて、かなたはすすり泣きを洩らした。
 かなたはまるで苦痛を感じているように、顔を左右に振って、上半身をくねくねと蠢かした。口からはうわ言めいた言葉を呟き、友香から与えられる快感を少しでも多く引き出そうと、全ての感覚を下半身に集中している。

───こんなになるんだ───

 ぼくは、驚きながらかなたの様子を観察した。確かに『EDEN』の力で、ものすごい快感をかなたに与える事はできる。でも、友香が今やっている事は、道具に頼らない技法だ。今のぼくに、これほどかなたを乱れさせる事はできないだろう。ぼくは友香に感心すると同時に、嫉妬めいた気持ちを感じてしまった。

「ふふ、全部入っちゃったよ、かなたちゃん。これからどうして欲しい?」

 自分からは動かさずに、友香はかなたの耳元で囁いた。それはまるで、言葉でかなたの耳の中を愛撫しているみたいだった。
 かなたは強い快感を感じたように身体を震わせると、友香の頭を引き寄せて唇を合わせた。テクニックも何も無く、ただ貪るように唇を味わう。

「おねがい・・・めちゃくちゃに・・・して・・・」

 唇を離したかなたは、友香の目を見詰めながら懇願した。友香が相好を崩して微笑んだ。今までの意地悪なものではなくて、可愛くてしょうがないと言わんばかりの笑み。

「おっけ~♪」

 友香は抑揚を付けて弾むように言うと、それまでとはまったく違う勢いで、左手を動かし始めた。前後に動かすだけでなく、手首を捻ってアクセントを付けたり、指の腹でお腹側の壁を擦ったり、時には人差し指と中指を開いてばらばらに動かしたり。
 それまで焦らされ続けたせいか、かなたは激しく喘いだ。

「ひぃんっ!あくっ、あ、あ、あ、はぁっ!んぅ、あっ!あん、あ、ああっ!!」
「だめだよぉ、かなたちゃん。そんなにきゅって締めたら、うまく動けないよ」

 嬌声を上げるかなたに、くすくすと笑いながら友香が囁く。かなたはぎゅっと瞑っていた目を薄く開くと、友香に抱き付いた。

「だって、あん・・・気持ち良くて、ひゃんっ!・・・あ、あぁ・・・なにも、考えられないよぉ・・・」
「イっちゃいそう?」

 友香の問いに、かなたは友香の胸に頭を擦りつけるように、何度も頷いた。友香の背中に回した手に、いっそう力が入るのが見えた。

「じゃあ・・・」

 友香はかなたの額にキスすると、にこりではなく、にやりと笑った。これからすごいことをやっちゃうぞ、そう顔に書いてある。かなたは友香の顔を見ていないから気付かないけど、ぼくは興奮と期待に喉を鳴らした。

「イっちゃえ~♪」

 そう朗らかに言うと、左手の動きを激しくした。さっきまでの動きが車の街乗りだとしたら、今度のは高速運転っていう感じだった。それとも、荒地を走るラリーだろうか。

「ひうっ!あああああああっ!!」

 友香の激しい責めに、かなたは友香の背に回した手を離して、力一杯のけぞった。快感を告げる声も、どこか濁音混じりの悲鳴のように聞こえた。
 友香は右手を、かなたの身体の上を滑らせた。かなたの喘ぎに合わせてふるふると震える胸や、固く尖った乳首、汗をかいた胸の谷間、可愛らしく窪んだお臍、そして足の付け根へと、優しく触れていく。

「うぁ、あああっ、あっ、あっ、え?ひあああっ!!」

 友香の右手の指が、激しくかなたが興奮している証・・・小指の先ほどにも大きくなったクリトリスをきゅっと摘んだ。容赦の無い愛撫に、かなたの身体がソファーの上で跳ね上がった。

「あ、ああああああーっ!あーっ!ああぁーっ!!」

 かなたの絶頂はかなり深かったようで、その悲鳴に合わせるように、ぴゅっ、ぴゅっと潮が吹くのが見えた。友香の手首どころか、肘の辺りまで愛液と潮で濡れてしまっている。友香は満足そうに溜息を吐くと、かなたの中から指を抜いた。

「ふふ」

 友香は湯気さえ立てそうな指を、荒い息を吐いているかなたに見えるように動かした。そのまま見せ付けるように、舌をだして指を舐める。ぴちょ、ぺちゃという音と、友香の喘ぎ混じりの呼吸音が、熱気の篭もる室内に流れた。

「かなたちゃんのえっちなお汁・・・おいしいよ」

 身体の力が入らないかなたが、それを聞いてますます顔を赤く染めた。

「もう、ゆかちゃんってば・・・ひどいわ・・・」

 上目遣いに拗ねた言い方をしたが、かなたは全然怒ってはいないようだった。第一、口元には笑みが浮かんでるし。
 友香は明るく笑いながら、ぼくの方に顔を向けた。子悪魔的な表嬢で、ぼくにウインクする。

「どう、ゆういちさん?我慢できなくなっちゃった?」

 汗でぬめるような綺麗な肌を、余す所なく晒しているかなた。ソファーに全身を預けて、ぼくの方を恥ずかしそうに照れたような顔で見上げている。
 かなたを愛撫する事で自分も興奮したのか、欲情をその顔に浮かべている友香。かなたに身体を寄せて、どこか挑発的な様子でぼくを見上げている。
 二人のこんな様子を見て、それでも我慢出来るんだったら、それはもう普通じゃ無い。ぼくは二人を見詰めたまま、服を脱ぎ始めた。

「うん、もう我慢出来ない・・・我慢しないよ・・・」

 ぼくの言葉に、かなたと友香が喜びの笑顔を浮かべた。

「じゃあ、して!いっぱい、愛して!!」
───もちろん───

 ぼくは、二人に向かって一歩を踏み出した。

─ 6 ─

 心地良い倦怠感が、ぼくの身体を満たしていた。

───あれから、どれだけシタんだろう───

 興奮のあまり、まるで夢を見ていたように、どこか曖昧な記憶だけが残っている。凄く激しくて、果てしなく幸せな、そんなイメージ。
 いつもだったら後始末するはずが、身動きする気になれなくて、なんとなくソファーに身体を埋めたままで、天井を見上げている。・・・二人分の幸せそうな寝息を聞きながら・・・。

 ・
 ・
 ・

「・・・ふゃあ・・・あふ・・・」

 もうそろそろ起こさないといけない・・・そう思いながら茫としていたぼくの右肩の辺りで、子猫が欠伸するような、友香の声が聞こえた。

「あ・・・ぼく、ねちゃってたんだ・・・?」

 どこか寝起きの頭が働いていない口調の友香に、ぼくは軽いキスを送った。友香は目を細めて嬉しそうに微笑むと、ん、と声を洩らしながらキスを受け入れた。

「雄一さん、私にも、ね?」

 友香の声で目が覚めたらしいかなたが、目を閉じてぼくにキスをねだった。かなたにも軽いキスをして、ぼくはなんとなく、また天井を見上げた。

「3人が来るの・・・楽しみですね」
「うん・・・そうだね・・・」

 かなたの独り言めいた言葉に、ぼくは相槌を打った。両肩に掛かる二人の重みを心地良く感じながら、もう少しこのままでいたくて、この空気を壊したくなくて、幸せな沈黙に身を任せた。

 神ならぬぼくは、未来に何が起こるかなんて、判りはしない。
 だから・・・ぼくはその時、嵐の到来に気付く事は、無かった。

< 続く >

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