EDEN 3rd 第三章

第3章

─ 1 ─

 待っていたのは史上最強最悪の不愉快さだった。
 あたしは自分の意思を大事にしてる。あたしが椎名祐美である為に、あたしは努力を惜しまない。例えそれで自分一人が孤立しても、あたしはあたしを曲げる気は無い。それが、『EDEN』なんて訳の判らないモノで、あたしの意思はあっさりと犯された。本当の意味で、これは精神的なレイプだ。
 この怒りは、直子を手伝うという『お願い』に抵触しないから、持つことが出来た。しかし、直子の手伝いはあたしが怒っている、いないにかかわらず、実行することになってしまうのだろう。なら、あたしの感情は、意思は、自由はどうなると言うのか。

「なんだよ、あれはっ!」

 あたしは大声で、直子に怒鳴りつけた。あたしの余りの勢いに怯えたのか、直子は目の端に涙を浮かべながら、神名の後に逃げ込んだ。それから恐る恐る顔を出して、あたしの怒りに満ちた視線にまた引っ込める。いつもなら毒気を抜かれる仕草だけど、今日は許さないし、許せない。

「ゆーみちゃんが、いぢめるーっ」

 いや、この場合、あたし達が被害者だし。
 しかし、神名は優しく微笑むと、背後で怯えている(ように見える)直子の頭をぽんぽんと軽く叩いた。そのままあたしの方に視線を向ける。

「まぁ、本気でボク達に酷いことをしようとしてる訳でも無いし、あまり怒らないで上げて欲しいな」

 いつも通りのキザったらしい泰然自若とした神名の口調に、あたしはいつも以上の苛立ちを覚えた。コイツは良い思いをしたからいいのかも知れないが、あたしは全然嬉しく無い。怒るなと言われて、そう収められるものでもない。

「ふざけるなよ。十分に酷い事だろう、これは!」

 あまりの怒りに、語尾が震えた。
 あたしは踵を返すと、出口に向かって歩き始めた。今ここにいると、息が詰まりそうだ。それこそ殴りかかってしまうかも知れない。だから、頭を冷やす必要があった。

「ゆーみちゃぁん・・・」

 後で直子が捨てられた子猫のような声を出しているが、あたしは振りかえらなかった。
 それに、あたしは考えなきゃいけない事がある。
 今まで、頭の中で渦巻いていた、疑問。普通なら有り得ないはずの3人の関係。今回のコレは、その解に至る手掛かり・・・いや、答えと言っても過言じゃ無い気がしていた。
 本当に、そんなことがあるのだろか。しかし、それを可能にするものが、ここにはある。なら、不可能では無いという事になるはずだ。
 ぐちゃぐちゃになったあたしの頭で、それでもがんばって考えなきゃ、いけない。

 ───アイツと、友香と、かなたの事を───

─ 2 ─

「ちょっと、いいか?」

 そう声を掛けられたのは、ぼくが食事の準備のお手伝いをしている最中の、リビングでの事だった。声を掛けてきたのは椎名さんで、なんだか雰囲気がいつもよりも固い。それどころか、敵意を隠そうとすらしないその様子は、なんだか殺気だっているようにすら思えた。丸い眼鏡が、なんだかぼくを威圧しているようだった。

「・・・うん、大丈夫だけど」

 そう答えながら、ぼくは椎名さんの服が先程までと違う事に気が付いた。着替えるにしては変なタイミングだし、もしかしたら、部屋の花瓶を落としてしまったとか、そんな用事だろうか。ただ、それを聞き辛い雰囲気に、ぼくは余計なことは何も口に出来なかったんだけど。

「じゃあ、二人だけで話したい事がある。外に行こうか」

 言いたい事だけぼくに告げると、椎名さんはさっさとぼくに背を向けて、玄関へと歩き始めた。やっぱりその背中は、背が低くてもまっすぐに伸びて、颯爽としていた。
 ぼくはかなたと友香に席を外す事を告げると、椎名さんの後を追った。視界の片隅に映ったかなたの心配そうな表情が、少しだけ気になった。

 ・
 ・
 ・

 椎名さんは歩調を緩める事無く、ずんずんと歩いて行く。玄関を出て外へ、庭を抜けて桜並木へと。そこから更に奥へ、人目につかない方へ。

「どこまで行くの?」

 ぼくが声を掛けると、椎名さんは周りを見渡してから、不機嫌な顔のままで立ち止まった。桜の木が多くあるので、ここからだと館も見えないくらいだ。

「・・・話しって?」

 ぼくを睨む椎名さんに気圧されながら、それでもこちらから話しを振った。ずっと睨まれてると、精神衛生上良くないと思ったから。悪い予感だけが胸の中で膨らんでいく・・・そんな状況に我慢出来なかったという事もあるけど。

「地下室で、『EDEN』を見付けた。二人にアレを使ったのか?」

 椎名さんの鋭い声が、ぼくの胸を貫いた。思わず、ふらふらとよろめいてしまう。

「二人の心を、勝手に弄り回したのか?」

 ぼくは、何も言えなかった。何て言ったらいいか、判らなかった。ただ、ひたすらにぼくを糾弾する声が、胸に痛かった。まるでぼくの周りだけ空気が無くなったかのように、呼吸が苦しい。

「そうして、身体も弄んだのか?」

 一歩椎名さんに詰め寄られて、無意識のうちに一歩下がってた。ぼくを睨む椎名さんの瞳は、ぼくの罪を容赦無く、慈悲も無く、徹底的に白日の元に晒している。
 なんで椎名さんがそれを知ったのかなんて、大した事じゃない。問題は、椎名さんが全てを知っている事と、この弾劾が言い訳のしようが無いほどに正しいという事だ。

「おまえ・・・最低だ!・・・ばかぁっ!」

 椎名さんは叩きつけるようにぼくを怒鳴ると、近くに寄るのも汚らわしいと言わんばかりに、大きく迂回しながら館へと走り去った。
 あとには、茫然と立ち竦むぼくが残された。

─ 3 ─

「・・・さん・・・雄一さん・・・」

 ぼくはどれだけの間呆然自失していたのか、ふと我に返ると、目の前にはかなたが泣きそうな顔で跪いている。それでもぼくと視線の高さが一緒なのは、いつの間にかぼくが座り込んでいたからだ。

「・・・かなた・・・?」

 ぼくが呼ぶと、かなたがひしっとしがみついてきた。ぼくの胸に頭を押し付けるようにして、小さく震えているみたいだった。

「・・・みてたの?」

 勿論、椎名さんとぼくの会話を、だ。
 かなたはぼくの胸に縋りついたまま、小さく頷いた。

「怒られちゃったよ・・・。はは、まいったね」

 我ながら乾いた笑い声だと思った。
 人間じゃないものが、ムリに人間の振りをしたら、こんな笑い声を出すのかも知れない。

「雄一さんは・・・雄一さんは、悪くないんです。悪いのは・・・私です・・・」

 ぼくはかなたの頭をそっと撫でた。気遣いは嬉しかったけど、ぼくの罪が赦される訳でも無い。例えかなたと友香が赦してくれたとしても、それは結局のところ、『EDEN』で操作された結果というだけの事だ。
 今まで考えなかった訳じゃない。でも、椎名さんの糾弾は、そんなぼくの浅はかな思いを打ち砕く威力を持っていた。

 ───二人を幸せにする事が贖罪だなんて、なんて酷い傲慢───

 ぼくは、力無く項垂れた。こんな男、死んでしまえと思った。
 果てしなく自己嫌悪に陥ったぼくの頬を、かなたがそっと触れた。今にも壊れそうなモノに触れるように、やさしく。

「ね、雄一さん・・・。雄一さんは、『EDEN』を絶対のものって思ってませんか?」

 唐突なかなたの問い。ぼくは顔を上げて、かなたに目を向けた。かなたは酷く真摯な瞳で、ぼくをじっと見詰めている。

「私が・・・私と友香ちゃんが、『EDEN』の力だけで、雄一さんのことを好きになったんだって、そう思ってませんか?」

 質問の意味が判らなかった。だって、それ以外に理由があるはずが無いから。

「思ってる・・・。それしかないと、思ってる」
「・・・立って下さい」

 またも唐突な言葉。ぼくはかなたの言う通りに立ち上がった。かなたも立つと、ぼくと向き合う。かなたは何かを決断するように深呼吸すると、口を開いた。

「雄一さん・・・私に暗示を掛けて下さい。雄一さんを殴りたくなる、そんな暗示を・・・」
「・・・かなた・・・」

 ぼくは、何となくかなたがしようとしている事に気が付いた。だけど、それが出来るとは、とても思えなかった。分の悪い賭けなんてものじゃない。それこそ素手で車を壊すような、物理的に不可能な事としか思えない。

「雄一さん・・・お願いします・・・」

 ぼくは、かなたに頷いて見せた。かなたが失敗するとしても、今のぼくには丁度良いぐらいだ。殴られたぐらいでは、罰としては足りないにしろ。でも、一つだけ言っておかなければいけない事がある。

「いいけど・・・無理だよ、かなた」

 失敗すると判っているのだから・・・せめてかなたには失敗してもしょうがないのだと、言っておきたかった。それでかなたが傷つくのは、嫌だったから。

「雄一さん・・・『EDEN』は、『絶対』じゃありません。私が、それを証明して見せます」

 決意を秘めた目で、かなたが言う。ぼくは、小さく首を左右に振った。でも、無理という言葉は口にしなかった。代わりに、かなたを暗示に掛ける為の言葉を囁いた。

「かなた・・・『催眠状態』になって」

 何度も使った、絶対の言葉。いつもと同じように、かなたの顔から感情という色が落ちた。

「いまから3つ数えると、かなたは目が覚める。そうしたら、ぼくの事を殴りたくてどうしようも無くなる。身体も勝手に動いて、ぼくを殴ってしまう。・・・絶対に」

 ゆっくりとした口調で、ぼくはかなたに暗示を埋め込む。絶対に抗えないように、心も身体もがんじがらめに縛り上げる。

「これから、かなたは目が覚めるよ。1、2、3、はいっ!」

 ぼくの声を合図に、かなたの目に意思の光が宿った。人形が人間に生まれ変わるように、劇的な変化だ。
 かなたはぼくの顔を見ると、苦しそうに表情を歪めた。
 まるで、したくない事を突然したくなったみたいに。
 まるで、自分の身体が意に添わない動きを始めたみたいに。
 まるで、自分の中に抗いがたい衝動が生まれたかのように。

「んくっ!」

 かなたが小さく呻いた。心の底からぼくを殴りたいと思ってるはずなのに、それでも必死に抵抗しようとしているのだろうか。だとしたら、一つの心で暗示に掛かっている部分と、暗示に掛かっていない部分が同時に存在しているという事になる。本当にそんな事があるんだろうか。
 とはいえ、ぼくがこのまま見詰めていると、かなたが殴り辛いかも知れない。ぼくは目を閉じた。

 ・
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 ・

 それからどれくらいたったんだろう。目を閉じていると、時間の感覚が際限無く狂って行くようだった。まして、いつ殴られるかも判らない緊張のもとでだ。これで正確な時間を言い当てられる方が異常だと思う。
 そろそろ目を閉じているのが辛くなってきた時、ふと頬に掌の感触を感じた。ただ・・・殴られたとか、叩かれたとか、そんなに勢いのあるものではなくて、そっと触れるような感じだった。ぼくは、閉じていた目を開いた。

「かなた・・・?」

 かなたが目に真珠のような涙を湛えて、それでも嬉しそうに微笑みながら、ぼくを見上げている。

「どうして?」

 ぼくは人差し指でかなたの涙を拭いながら、どこか茫としたままに問いを口にした。
 どうして泣いているんだろうとか。
 どうして微笑んでいるんだろうとか。
 どうして、ぼくを殴らなかったんだろう、とか。

「・・・っ」

 かなたは感極まったように俯いてから、再び顔を上げた。その顔にはどこか誇らしげな、満面の笑みが浮かんでいる。笑顔が輝いているようにすら感じられた。

「・・・って・・・じゃ・・・ですか」
「え?」

 かなたの言葉が、小さくて、震えていて、ぼくには聞き取れなかった。恐らくは酷い間抜け顔で、ぼくは短く聞き直した。

「『EDEN』だって、『絶対』じゃないって・・・言ったじゃないですか・・・」

 くしゃりと、かなたの顔が泣き笑いの形に歪んだ。
 きっと、かなたはこの言葉を心の中で、まるで万能の呪文のように唱えながら、『EDEN』の暗示を耐え切ったんだろう。それがどれほど辛い事か、ぼくには判らない。でも、額に少し汗をかいた様子から、簡単な事では無かったんだろうと思った。

「私が・・・私と友香ちゃんが雄一さんを大好きなのは、『EDEN』の暗示のせいじゃありません!例えきっかけが『EDEN』だったからって、ずっと好きでいつづけるのは、私の・・・私たちの、意思です」

 かなたの言葉が、ぼくの心を優しく癒していく。枯れた大地に優しい雨が染み込むように、ぼくの心にかなたの想いが染み渡った。

「だって、『EDEN』の暗示が本当に嫌だったら、抵抗できるんですから。今、私がやったように」

 かなたは、両手で自分の大事なものを守るように、自分の胸・・・心臓の上に手を当てた。

「だから、私のこの大切な『想い』まで、『EDEN』のせいなんて安っぽくくくらないで下さい。この『想い』は、私と・・・友香ちゃんと雄一さんの、3人で育んできた、とっても大切なものなんですから」

 ぼくは、その姿勢のままのかなたを、傷付けないように、ふわりと抱き締めた。その胸の『想い』も一緒に。
 一人の言葉で、こんなに心が安らぐなんて、思っても見なかった。ぼくにとって、この腕の中にいる人がどんなに大切か、本当に思い知らされた。

「ありがとう・・・かなた・・・」

 ぼくが自分の罪でダメになる度に、かなたや友香に支えられてる。ぼくはもっと強くならなくちゃいけないと、心の中で誓った。

─ 4 ─

 もぞ・・・と、腕の中のかなたが、小さく身体を揺すった。知らない間に腕に力がこもってしまったのかと思ってぼくが身体を離そうとすると、今度はかなたからぴたっとくっついてきた。

「かなた?」

 問い掛けると、驚く程近い場所で、かなたがぼくを見上げた。潤んだ瞳がぼくを見詰めている。

「かなた?」

 ぼくが再度身体を離そうとすると、かなたは両手をぼくの腰に回して、まるで腰同士を擦りつけるようにした。なんだか変な気分になってしまいそうで、ぼくは焦った。

「だめだよ、かなた」

 ぼくが言うと、かなたの顔が真っ赤に紅潮した。耳まで赤くしながら、恥ずかしそうに少しだけ顔を俯かせる。

「だって・・・あんなに優しく抱き締められて・・・雄一さんの匂いに包まれちゃったら・・・し・・・したく、なっちゃうじゃないですか」

 口篭もりながら、かなたは恥ずかしそうに口にした。つられてぼくの顔も熱くなる気がした。

「でも、みんなも待ってると思うし、まずいよ」

 これ以上くっついていると、顔だけじゃなくて、身体まで熱くなってしまいそうだ。第一、身体の一部は既にそうなってきてる。

「ふふ・・・私は暗示で操られてる訳じゃ無いですから、雄一さんがダメって言っても、したい時は、したくなっちゃうんですよ。あ、でも・・・こんなにえっちになっちゃったのは、雄一さんのせいなんですから、責任・・・取って下さいね」

 かなたは酷く蠱惑的な目でぼくを見上げると、悪戯っぽく笑った。ちろっと舌を出して笑う顔は、こちらの方が参ってしまうほど魅力的だった。
 するりと、かなたはぼくの足元に座り込んだ。もうとっくに窮屈なほどに硬くなったぼくのモノを、ワクワクと弾む顔付きで取り出した。かなたの手の感触と外気に、意識していないのにビクンとなるソレに、かなたはゆっくりと顔を寄せた。

「んくっ」

 涼しげな外気から、熱いかなたの口腔内に。そしてねっとりと絡まる舌。
 かなたが昂ぶって行くのが、苦しそうな呼吸や、とろんと潤んだ瞳から伺える。
 ぼくも、今にも出してしまいそうな程、酷く興奮している。

 ジュボ。ジュブ。

 桜の木に囲まれて、かなたのフェラチオの音が響く。まるで羞恥という言葉を忘れてしまったみたいに、かなたは一所懸命に奉仕する。

「んふ・・・ん・・・あむ・・・ぴちゃ・・・はん・・・」

 今、かなたは凄くいやらしい顔をしている。目を閉じてしているそれは、ぼくに対する奉仕なのか、悦びを味わっているのか。もしかしたら、その両方なのかも知れない。

「んぅ・・・あ・・・は・・・」

 茫とした顔で、かなたはぼくのモノを口から出した。軽く開いた唇と、名残惜しそうに出ている舌が、酷く扇情的に見えた。

「ね、ゆういちさん・・・これ、ください・・・。もう、がまん・・・できないんです・・・」

 はぁ、はぁと熱い吐息混じりに、かなたが上目遣いで懇願した。ぼくもかなり興奮していたので、それに反対するつもりは欠片も無い。
 かなたを立たせると、近くの桜の木に手をつかせて、お尻を突き出させた。スカートを捲り、ショーツのボトムの部分をずらす。そこはもう、すっかり濡れそぼっていた。興奮の度合いを示すように、少し開き気味になっている。

「今日は大丈夫?」

 さすがに避妊具は持っていないので、かなたに確認した。最悪の場合は、お互いに擦れ合うようにするしかないし。でも、かなたは首を上下させてこちらを振り向いた。

「あの・・・だいじょうぶですから・・・たっぷり・・・くださいね」

 かなたの目が、欲情に濡れていた。後からかなたを貫こうとしているぼくのモノを見て、期待に息を荒げている。

「いくよ」

 かなたが頷くよりも早く、先端をかなたの入り口にあてがう。それだけでぼくのモノを飲み込もうとするような吸いつきが感じられた。熱く濡れた粘膜が、奥に奥にと引き込もうとするのに、ぼくは堪えることも出来ない。

「んぅう、あ・・・焦らさないで・・・ください・・・あっ・・・」

 じゅぶじゅぶと湿った音を立てて、ぼくのモノがかなたの中に沈んでいく。熱くて、柔らかくて、締めつけて、擦り上げる・・・複雑で矛盾めいた感触が、快感となって背筋を走りぬける。何度しても、飽きる事も慣れる事も出来ない感触だった。

「すごく・・・あついよ・・・」

 一番奥まで挿入すると、かなたの背に覆い被さるようにして、耳元で囁いた。息が耳に掛かったのか、ビクンっとかなたの身体が震えた。

「・・・ゆういちさんのも・・・すごく・・・あつい、で・・・んあぁっ」

 かなたに最後まで言わせずに、腰を動かした。かなたの柔らかそうな唇から、明らかに快楽を示す悲鳴が上がる。

「ああっ、あっ、あっ!!ひんっ!あ、はぁっ!ひぅっ!はぁっ、はぁっ!」

 かなたが喘ぐ。時折耐え切れないという風に、頭を振る。艶やかな黒髪から垣間見える首筋は、快楽に火照っていた。それが酷く艶めかしく感じた。
 ぼくはかなたにもっと気持ち良くなって欲しくて、抽送するリズムや深さ、当たる場所を変えて見る。まるでそれぞれの場所にスイッチがあるように、喘ぎや身体の反応が変わる。
 ビクンと背中が跳ねたり、締めつけがきゅっときつくなったり、一際高い喘ぎ声が洩れ出たり。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あああっ!!」

 浅い場所で捏ねるように何度も抽送してから、深い所に突き込んだ。
 まるで、ぼくのモノがかなたの喘ぎを身体から押し出しているように、同じリズムで喘ぎが響く。

「やはっ!ああっ!ん!ひんっ!」

 一番奥でぐりぐりと掻き回す。かなたが悩乱したように、髪を振り乱す。頬に汗で張りついた髪の毛が、かなたの顔をイヤらしく彩る。

「はふっ、あ!ゆういちさんっ、きちゃ・・・きちゃいますっ!あっ、だめっ!」

 かなたが、絶頂の予感を口に出した。それに合わせるように、きゅっと締め付ける動きがぼくを苛む。ぼくも、それほど我慢出来そうになかった。

「ぼくも・・・いくよっ!」

 ぼくの言葉に嬉しそうに頷くと、かなたもぼくに合わせるように、腰の動きを速めた。一番奥のコリっとした場所を、何度も突っつく。

「んぅっ、あ、ああっ!ゆっ・・・ゆういちさ・・・き、きてっ!ひんっ!きて、くださいっ!!」

 気持ち良過ぎるのか、苦痛にも似た表情で、かなたが叫ぶように懇願する。それが、ぼくの我慢の限界だった。激しい衝撃を感じながら、かなたの中・・・一番奥に精液を射ち込んだ。

「ひ!イク・・・っ!イっちゃうっ!!ああっ!あぁあああっ!!」

 かなたも同時に絶頂に達した。身体を仰け反らせて、切ない程にぼくのモノを締め付ける。まるで、精液の最後の一適までも、搾り取られるようだった。

「あぁ・・・あつい・・・はぁ・・・ん・・・」

 ぼくのモノが抜けると、かなたは力尽きたように地面に膝をついた。荒い呼吸を繰り返しながら、時折身体をビクっ、ビクっと震わせている。深い絶頂の余韻が、まだ続いているみたいだった。

 ・
 ・
 ・

 暫くして、ぼくとかなたは近くにあった大き目の石に腰を降ろした。すぐに戻るのが気恥ずかしいからだけど、もう少し二人でいたかったからかも知れない。かなたはぼくにぴとっと寄り添って、肩に頭を預けている。その表情は穏やかに笑みを浮かべて、うっとりと瞼を閉じていた。

「ありがとう」

 ぼくがそう口にしたのは、更に暫く経ってからの事。まるで眠ってしまったんじゃないかと思えるほど静かなかなたに、呟くように囁いた。

「ぼくは、いつも助けられてばっかりだね」

 ぼくの感じている感謝の気持ちの、100分の1でも伝わればいいと願いながら、独り言のように言う。かなたが小さく身動ぎした。

「・・・そんなの、当たり前の事なんですから、気にしないで下さい。・・・その代わり、私に何かあったら、助けてくれなくちゃ、いや、ですよ」

 かなたは少しおどけたように言うと、小さくふふ、と笑った。

「約束するよ」

 ぼくは顔を動かして、かなたを見下ろした。かなたはぼくを見上げている。
 言葉が無くても、かなたが何を求めているか、ぼくには判った。
 ぼく達の顔が、お互いに引き合うように近付いて行く。
 ぼく達は、蕩けるようなキスをした───。

< 続く >

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