第3話
《 1 》
少しだけドキドキしてしまっているのを隠しながら、僕は扉をくぐる。女の子の部屋にはいるのは、正直これが初めてだった。
「ふーん。やっぱり、ちゃんと片づいてるんだ」
麻美さんの部屋の中は、本人のイメージ通り、きちんと片づけられていた。僕の部屋とは、えらい違いだ。
柔らかな色使いと木目調の家具で統一されたレイアウトの部屋の空気に、なんとなく麻美さんの匂いがしたように感じた。
「でも、あんまり、ぬいぐるみとか無いんだね」
棚に二つ三つほど飾ってある、小さなぬいぐるみを見ながら、そう口にする。
あまり女の子と付き合いがある方ではない僕は、女の子が何歳くらいまでぬいぐるみを持ちたがるかは、よく知らない。それでも車の中にぬいぐるみを並べている女の人もよく見るし、もっとあってもおかしくないのでは? とは漠然と感じた。
「高校生の時には、たくさん持っていたんですけど。大学に進むときに、ほとんどは整理しました」
自分の部屋を見せるのが、恥ずかしいのだろうか? 部屋のあちこちに視線を巡らす僕に、麻美さんはちょっと顔を赤くしながらそう説明してくれる。
「ほとんどは、未玖ちゃんにあげたんです。あの子の部屋は、ぬいぐるみでいっぱいですよ。それと、円ちゃんの部屋にも、ゲームセンターでとってきたというぬいぐるみが並んでますし」
ちょっとだけ、意外だ。
可愛らしい女の子といったタイプの未玖ちゃんがぬいぐるみに囲まれているのは、まあ、想像がつきやすい。
だが、あの凛々しくてカッコイイと評判の円さんが、ゲーセンでUFOキャッチャーに夢中になっている光景というのは、ちょっとピンとこなかった。是非一度、見てみたいものだ。
「あの、それじゃあお茶でも……」
言いかけた麻美さんを抱きしめて、唇を奪う。
舌を深く差し込むと、応えるように彼女も舌を絡めてくる。
「ん……んっ」
その感触に興奮しながら唾液を送り込むと、麻美さんはうっとりしたような鼻声をもらしながら、それをコクリと飲み込んだ。
「ふ……んぁっ」
背中に回した掌を下に滑らせていき、丸みを帯びたお尻に強く押し当て、引き寄せた。
既に半ば隆起している僕の肉棒を、彼女の下半身に押しつけ、その存在を伝える。
「んんっ……はあっ、……あの、ご主人様」
吐息を甘く湿らせ、頬を上気させながら、麻美さんはそれでもなんとか僕から身体を離しながら言った。
「あの、すみません。私、さっき庭の手入れをしていて、汗をかいていて……」
そういえば、腕の中の麻美さんからは、なんだか緑くさい匂いと、そして汗の匂いがした。
これはこれで魅惑的に感じるのだが、女性としては恥ずかしさを覚えるらしい。麻美さんは困った顔をして、僕を見上げた。
「それじゃあ、一緒にシャワーを浴びようよ」
「え……その、この家のお風呂で、ですか?」
うろたえるように言う彼女の唇を、僕はキスで塞いだ。
「いいじゃん。だって今日は、ほかに誰もいないんでしょう?」
「……あ、はい」
さらに顔を寄せ、耳から首筋にかけてのラインを舌でなぞってやる。僕の首筋にかかる麻美さんの熱い息遣いが徐々に荒くなるのを感じて、僕のズボンの下では、ますます下腹部の緊張が増していった。
休日の昼前、家の門を出ると、ちょうど未玖ちゃんが自転車に乗って出かけて行くところだった。お尻を上げ、立ち漕ぎになって、懸命に飛ばして去っていく。
「こんにちは、麻美さん」
家の前で妹を見送ったらしい彼女に、僕は挨拶しながら近づいた。
麻美さんも、笑顔を返してくれる。
「未玖ちゃん、なんだか急いでるみたいでしたね」
あの子は、ぱっと見は大人しくて礼儀正しそうな娘だが、実はけっこうにぎやかな、慌てん坊なところがあったりする。
もちろん、そのミスマッチなところが、なかなか可愛らしくて魅力的なのだが。
「友達との約束に、遅れそうなんだって言って」
麻美さんも、微笑ましげな表情で、妹のことを話す。
「みんな出かけちゃったし、お昼、どうしようかな」
呟いたその言葉を、僕は聞き逃さなかった。
「今日は、他の皆さん、お出かけなんですか?」
「え……ああ、うん。お父さんとお母さんは抽選で当たった温泉旅行に行ってるし、円は今日は部活の練習があるって」
つまり現在、天川家には麻美さん一人しかいないということだ。
「ねえ、麻美さん」
こうして僕は、久しぶりに麻美さんの家の中に入った。
以前にもおじゃました事があるといっても、客間と、あとはダイニングでご飯をごちそうになったことがある程度だ。
そのほかの個室とか、ましてやバスルームにお邪魔するのは、もちろん初めてのことだった。
隠れ家であるマンションよりは少し小さめだが、十分に広いバスルーム。僕はボディーソープの泡にまみれた麻美さんの肌に、手を這わせていた。
「あっ……ふあっ」
背後から抱きしめるように腕を前に回し、たわわな乳房を両手で好きなように玩ぶ。手の平から僅かにこぼれ落ちる大きな胸は、指に力を入れようとすると泡で滑りながらふにふにと形を変える。
「く……ふっ、……ん、んんっ!」
指先で乳首を刺激すると、麻美さんは快感の声を洩らす。だけどそれは、いつもよりずっと喉の奥に抑え込んだものだった。やはり、普段家族と共に住んでいる家の、その浴室での行為ということが、彼女を緊張させているのだろう。
「大丈夫だよ。だって、おじさん達は明日まで泊まりだし、円さんや未玖ちゃんも夕方まで帰ってこないんでしょう?」
鼻先で髪の毛をかき分けながら、うなじに顔を埋め、白い肌に舌を這わせる。
僕の愛撫に敏感に反応して、腕の中で彼女の身体が小さく震えるのが、触れ合った肌を通して伝わってきた。
「あ……だって、もし……誰かが……はあっ!」
そう言いながらも、麻美さんの息遣いはだんだんと、耐えきれないというように荒くなっていく。
その喘ぎ声は、必死に抑えているにもかかわらず、浴室の中で反響しながら耳に大きく届いた。
「そんなこと言いながら、麻美さん、こんなに感じてるじゃない。
乳首だって立ってるし、ここだって……」
「ひあっ!」
片手を太股の間に差し込むと、小さな悲鳴を上げる。
その場所は、グッショリと濡れていた。シャワーの水とは明らかに違う、ヌルヌルと粘度をもった熱い液体が、そこを湿らせている。
「ほら、こんなに気持ちいいって言ってる。
――それとももしかして、麻美さん、いつもよりも感じてるでしょ?」
ふるふると、力無く首を左右に振る麻美さん。だけどそれは、全く説得力を感じさせない否定の仕草でしかなかった。
それが僕の言葉を肯定している証拠でもあり……だから僕は、よけいに興奮してしまった。股間のソレは、もう余裕を失ってビクビクと張りつめている。
「そこの壁に、手をついて」
お尻を突き出させる恰好をとらせると、僕は彼女を、後ろから一気に貫いた。
「はあ……あっ!」
苦痛にも似た声があがり、白い背中がぎゅっとしなる。
なんど入り込んでも飽きることなど無い圧倒的な濡れた質感が、僕の敏感な部分を包み、抱きしめる。
柔壁が小さく蠕動し、猛りきったペニスの至る所を刺激し、ただ入っているだけでも気持ちがよかった。
だけどそれだけでは、やはり満足できない。
僕は麻美さんの腰を掴むと、腰を大きく振って、欲棒を出し入れさせはじめた。
「ふあ、ああ……、……はあっ、あぁぁっっ!」
下腹の内部を抉る律動に、麻美さんは全身を揺らせながら快感を受け止める。
やはりいつもよりも興奮しているようだ。胎内が熱を持ち、吐く息はさらに温度を上げる。
「うんっ……だめ、こえ……出ちゃう、……ふあ、んんんっっ!」
一度高まりだした声は、止まらなかった。僕の一突きごとに、いっそう大きな声で、麻美さんは啼き、すすりあげる。
「や……あっ、きもち……気持ちいいですっ、ごしゅじん、さま……ご主人様あっ!」
やがて、快感に立っていることができなくなったのだろう、麻美さんはずるずると壁を崩れ落ち、浴室の床に膝をつく。
僕もそれに合わせて腰の位置を調節すると、彼女に応えるように、いっそう強く腰を打ち付けた。
「嬉しい、です……、ご主人様が、わたしのなかで……こんなに、大きく……っ!」
さっきまでの脅えているような仕草は、もう無かった。ここが家族と一緒に共有している場所だなどということはもはや忘れ去り、ただ身体を快楽のための道具と化して、むせび泣く。
「ああ……ご主人様、お願いですっ。わたしのからだで……ふあ、あっ……気持ちよくなってください……私の中に、ご主人様のを、くだ……さいっ!」
その激しい乱れ方と締め付けに、僕も長くは持たなかった。
急激に、下腹の奥の方で熱い圧力が激しく高まっていくのを、はっきりと感じる。
「なか、に……っ、ご主人様のを……おねがい、します……。わたしに……ふあっ、気持ち……イくっ……あああっ!」
全身を痙攣するようにガクガクと揺らし、麻美さんが絶頂を迎える。その緊張で僕を包んでいた柔壁がギュッと、引き絞られ、僕も限界を迎える。
「出すっ、よ………麻美さんっ!」
そのとき、
“ガタ……ッ”
何か物音が、耳に入ったような気がした。
(なん……だっ?)
だけど快感の限界を迎えていた僕には、そちらを確認する余裕など無かった。
「く……うっ!」
“どくんっ、どくん……っ!”
胎内に、限界を超えて堰が切られた白い欲望が、音を立てて流れ出していく。
あまりの気持ちよさに、その脈動にあわせて、足腰がビクビクと震えた。
「はあっ、はあ……っ!」
「ふう、ふう、ふう……っ」
二人のぜいぜい言う呼吸が絡み合い、ひとつになり、浴室の中に反響する。
「今、の……」
よろよろと頭を上げ、脱衣室の方を確認する。
目を凝らし、耳を澄ませ、少しの気配も見逃すまいと神経を集中する。が、そこに人がいるような気配はいっさい感じられなかった。
「はあ、はあ……どう、しました……? ごしゅじん、さま」
こちらも、未だ思考力を取り戻してはいなそうな麻美さんが、そう訊ねてくる。
「いや、なんでもないよ」
そう答えながらも、一応は脱衣室を確認しようとした僕の足に、柔らかなものが絡みついた。
麻美さんが、僕の足にすり寄り、乳房を押しつけていたのだ。
「でしたら……ご主人様。私に、ご主人様の身体を、綺麗にさせて下さい」
そう言って、身をすり寄せてくる。
蠱惑的なその仕草に、僕の股間は再び力を取り戻しつつあった。
(まあ、やっぱり気のせいだったのかな?)
そう自分を納得させ、僕はさっきまで麻美さんの中にあり、愛液と精液とでぐちゃぐちゃに濡れたペニスを、彼女の顔の前に突きつけた。
「あ、そうそう」
部屋に戻ると、麻美さんは机の引き出しを開け、なにか紙で包まれたものを取り出した。
「はい、これ。ご主人様へのプレゼントです」
「え……プレゼントって?」
戸惑いながらも、差し出されたソレを受け取る。
「特に理由はないんですけれど、このあいだ出かけた店で気に入って買ってしまったんです」
麻美さんは何か期待するような目で、じっと僕を見ていた。どうやら、開けて欲しいらしい。
ガサゴソと紙包みを開けると、中からは小さな、凝った綺麗なデザインをした箱が現れた。表面に、英語の飾り文字でなにか書いてある
「私、妹が二人でしょう? だから、『もし弟がいたら、どんな物を買ってあげたいなかあ?』って、いつも思ってたんです。
それが、たまたまデパートで、それを見かけて……」
そこまで言って、ハッとしたような顔をして黙る。『ご主人様』であるはずの僕を、『弟』呼ばわりしたことに憂慮したのだろう。
ただ僕は、くすぐったい気分で、喜んでそれを受け取った。
「ありがとう、麻美さん。……って、コレ、香水?」
箱の中には、小さく高級そうなガラス瓶が入っていた。蓋の部分は、精巧な飾りを付けた噴霧器になっているらしい。
頭を押すと、“シュ……ッ”と音を立てて、何かいい匂いのする霧が少量出た。よくは分からないが、男性用の香水というヤツなのだろう。女性が付けるそれとは、なんとなく違う種類の香りだった。
「うん、いい匂いだね。気に入ったよ。大事に使うからね」
くすぐったしさと、照れくささ。そしてなんだか大人っぽい贈り物をもらったことに対する嬉しさもあって、自然にそうお礼の言葉が口から出た。
麻美さんはそんな僕に対して、とても嬉しそうに笑った。
《 2 》
僕の通う学園は一学年六クラスほどで、建物の構成の都合上、違う学年の教室が並んでいる階がある。
僕のクラスの教室と、上級生である円さんのクラスの教室は同じ階にあり、だから廊下ですれ違うことも多かった。とはいえ、もちろんお互い学校では挨拶程度で、廊下で会話をする機会は、よほどの用がない限りは無かったけれど。
「何だよ、ニタニタして。気持ち悪いなあ」
昼休み、学食からの帰り道で、クラスの友人である伊東から、そんなことを言われてしまった。
「してないよ、そんな顔」
「ウソつけ。幸せそうな顔して……よっぽど良いことでもあったのか?」
まあ、『良いこと』は、あった。ポケットにつっこんだ手で、小さなガラス容器をさぐる。昨日、麻美さんからもらった香水瓶だ。
麻美さんからのプレゼントが嬉しくて、本当は使いたくてたまらなかったのだが、さすがに学校に香水をつけてくるわけにもいかない。だからせめて、ポケットの中に大事に持って歩いていたのだ。
廊下は昼休みということもあり、大勢の生徒が、学年入り乱れ、にぎやかに歩き回っていた。
そんな中、向こうから見知った女生徒が歩いてくるのに気づいた。
「あ、天川先輩だ。相変わらず、美人だよなあ」
伊東のささやきは、本当の事だった。
円さんは、人目を惹く美人だ。
顔の作りや長く真っ直ぐな黒髪、スラリとした体型、長い手足ももちろん魅力的だが、それだけではない。
綺麗に伸びた背筋。涼しげな目元。凛とした雰囲気。――そうした身にまとった空気が、周囲に感嘆の想いを抱かせるのだ。こういうのを、カリスマとでも言うのだろうか?
「……でさあ」
「………なんだって?」
友人達だろうか? 何人かの女生徒と一緒におしゃべりしながら歩く円さんを、見つめる。
……麻美さんを抱き、童貞でなくなってから、僕の女性を見る目は変化した。
それまでの僕は、例えば魅力的な女性を見る場合、例えばグラビア写真のような鑑賞対象として眺めていた気がする。
それが今では、性の対象として、その肉体を審美する自分が生まれていた。
そういう目で見ても、やはり円さんは魅惑的だった。
麻美さんほどグラマラスではないが、そのぶん引き締まって、しなやかそうな肢体。あれを自由にできるなら、それはどれほど気持ちがいいことか。
(おっと……)
その円さんの視線が、ふとこっちを向いた。姉の麻美さんとは逆に、ちょっとつり目の、きつそうな目元。
整った顔に思わず見とれそうになると同時に、その目線に気後れを感じてしまう。
(あんまりじろじろ見てるのに気づかれると、イヤだな)
さりげなく、目をそらす。
だけど円さんの端正な顔は僕を見て……そして、目元を歪めた。
(え……?)
敵意さえ感じさせる、睨み付けるような目。
……だけどそれは一瞬のことで、彼女の目は僕から離れてしまう。
さっき見たと思ったのは、気のせいだろうか? 円さんの顔は相変わらず綺麗で、隣にいる女生徒と、楽しそうに会話をしている。
(………)
なんとなく、目を合わせないように注意しながらすれ違った。ここは、そうした方がいいような気がして。
お互いから顔を逸らしながら通り過ぎようとしたそのとき、僕の視線の隅で、何かが床に跳ねた。
「あれ?」
そこには、小さなマスコットのようなものが落ちていた。
携帯ストラップの、飾りだろうか? ともかく、おそらくそれは、円さんが落としたものだった。
身をかがめて、床の上のそれを拾う。プラスチック製と思われるそれは、最近女の子の間ではやっているキャラクターの製品だった。
やはり、ストラップの部品なのだろう。頭の部分に、紐か何かを取り付けるための金属製の小さな輪がついていた。
「天川先輩」
遠ざかろうとしていた背中に、声を掛けた。
呼びかけが、聞こえなかったのだろうか? 円さんはなんの反応も無しに、そのまま歩み去ろうとしている。
「あの、先輩。これ、落としましたよ」
早足で追いついて、もう一度声を掛ける。
「え?」
肩越しに振り返った円さんの顔の前に、落とし物を差し出す。
彼女の目が突き出された手を見て、それから僕の顔を確認し……そして円さんは、サッと顔色を変えた。
「やだっ、触らないでっっ!」
“バシ――っ”
マスコット人形を渡そうとした僕の手が、彼女の手で乱暴に払われた。
放たれた大声に、廊下中の視線が何事かと僕らの方に集まる。
「え……ちょ、ちょっと、天川先輩……」
とっさに状況を理解できず、戸惑ってしまう僕。
そんな僕を睨む円さんの目には、怒りや、憎しみや、軽蔑や……そういった嫌悪感がありありと浮かび、僕に突きつけられていた。
「僕はただ、落とし物を……」
「いいからっ! そんなのいらないから、私に話しかけないで――この、“変態”っ!!」
僕から身を守るように、距離を取る円さん。
訳が分からず、それでもなんとか状況を修復しようと彼女に話しかけようとした僕の前に、彼女と一緒にいた女生徒が二人、割り込んできた。
「ちょっと。円は、近寄らないでって言ってるでしょ!?」
「なによ、アンタ。二年生? 円に何したか知らないけど、あっちへ行ってよ!」
ぎゃんぎゃんと、鏡を突きつけてやりたくなるような醜い表情でそうわめき立てる彼女らの向こうで、円さんは他の女生徒に連れ去られるように彼女の教室へと姿を消す。
ざわざわと、周囲の無関係な生徒達ががささやき合いながら僕をじろじろ見る中、昼休みの終わりを告げるチャイムが、廊下に鳴り響いた。
午後の授業の間、僕の周りではずっと、ひそひそ声や携帯のメールをコソコソと打つ音が絶えなかった。
もちろん、みなの話題は、昼休みの一幕についてのうわさ話に決まっている。
「くそ……っ!」
小さく、舌打ちする。
これが授業中でなく、周囲に人目がなければ、辺りのものを蹴り飛ばしまくりたい気分だ。
円さんは、学校では有名人だ。美人で、勉強もスポーツも優秀で、人望もある。
その彼女があんな風な態度をとった。それが、噂を聞いた人間の好奇心を刺激しないわけはない。
今頃、もしかしたら学校中で、さっきの一幕のについての情報と、そして天川円が過敏な反応を示して怒鳴りつけた自分についての詮索や陰口が、生徒間で飛び交っているのに違いないのだ。
(畜生……)
耐え難い苛立ちに、ぎゅっと、右の人差し指を握り込むように拳に力を込める。
万能にさえ思えるこの指の力も、明確な限界がある。至近距離で、しかも個人相手にしか使えない。これは、克服のしようがないラインだ。
どれほど気に障ろうとも、僕についての口さがない噂を黙らすことは、この魔法の力の及ぶところではない。
それが歯痒くて仕方がなかった。
(あの、彼女の反応は……やっぱり、あれかな?)
円さんは僕のことを、『変態』と呼んだ。
その理由として思いつくことは、やはり昨日の件であった。
(お風呂場での、あの物音。気のせいだと思っていたけれど……)
やはりあの場で、僕と麻美さんが行為をもっている場面に、居合わせた人間がいたのだ。
そう考えれば、先ほどの一件もすんなりと納得がいく。油断したというか、不用意に楽観しすぎたおかげで、このザマだ。
そしてそれが事実であれば―――これはとても危険な状況のようにも思えた。
「……面倒だな」
マンションを用意したり、スグルを遠くへ追い払ったりと、せっかく手間ヒマをかけ作り上げた、僕と麻美さんの二人で心地よく過ごせる現在の環境。
それが、崩壊する危険性さえある。
そんなことは、耐えられない。
全力を尽くして、この指の力を最大限に活用して、それだけは避けなければならない。
そして、
(…………)
胸の奥に、グラグラと煮え立つモノがある。
“あの”天川円に、変態と罵られたのだ。最低でも、これからしばらくの間は、周囲は僕に冷たい視線、嘲りと揶揄の態度を向けることだろう。
この責任を、僕のこの抑えようのない怒りに対する代償を、『誰か』に払ってもらわなくてはならない。
集団ではなく、個人に対してしか作用を持ち得ない、指先の魔力。
……だとすれば、使うべき対象、その個人が誰であるかは、決まっているように思えた。
(円さん……この償いは、きちんとしてもらわないと)
僕は暗い憤りの感情を抱えながら、じっと授業が終わるまでの時間を、奥歯を噛みしめながら耐え続けた。
《 3 》
以前に麻美さんから聞いた話では、陸上部員である円さんは毎晩のこと、ランニングに出かけるという。
実際に僕も、暗くなってからトレーニングウェア姿で出かける彼女の姿を、何度も見たことがあった。
『女の子なんだし、危ないから止めろって何度も言ったんだけど。大丈夫だからって言って、聞いてくれなくて……』
麻美さんが、そう心配そうに言っていたのを思い出す。
そして彼女の懸念の通り、円さんはその不用心な行動を、僕につけこまれることになる。
円さんはいつも、家から少し離れたところにある高台の小さな公園までの往復を、ランニングのコースにしているそうだ。
だからその公園で、彼女を待つことにした。
公園は住宅街の中にあり、小さい割にはたくさんの木々が植えられており、周囲の家から中を伺うのは難しそうだった。
このことは間違いなく、このあと僕がやろうと思っている事には、有利であった。
薄暗い街灯の下、手すりにもたれながら眼下に広がる街の明かりを見下ろす。
それは悪くない眺めであり、この公園にこれほど人がいないのが不思議なくらいだった。
……と、僕の耳に規則的な音が聞こえてきた。軽やかに、地面を蹴る足音。
僕は公園の入り口に、向き直る。ややあって、トレーニングウェアを着た人影が、邪魔にならないよう後ろで軽くまとめた長い髪をなびかせながら、姿を現した。
「……っ!?」
公園に入ってすぐ、街灯の明かりの中に立つ僕に気づいたのだろう。
彼女はハッとした様子で、入り口付近で立ち止まった。
「こんばんは、円さん」
そんな彼女に、声を掛ける。
そのまま立ち去ろうかどうしようか迷う気配の後、円さんは結局、公園の中に入ってきた。
彼女の勝ち気そうな性格からいって、多分そうしてくれるのではないかと期待していたのだが、思った通りだ。
もしそのまま後ろを向いて逃げられたとしたら、また別の手段を使わなくてはならないと考えてはいた。が、どうやら上手くいったようである。
彼女はまるで挑むような目で僕を睨み付けながら、こちらに歩いてきた。
「こんなところで待ち伏せだなんて。やっぱり、イヤらしい人間ね」
少し離れたところで立ち止まると、円さんはそう話しかけてきた。
眉をひそめ、挑発するように言う彼女に、僕は軽く肩をすくめて応えた。
「だって、こうでもしないと円さん、話をしてもらえないでしょう? 学校では、話しかけられるような状態じゃないし」
それに対する彼女の反応は、「フンッ」と鼻で笑うようなものだった。
「まあ、いいわ。どうせ私も、あなたに言ってやりたいことがあったし。
……先に言っておくけど、もし変なことをしようとしたら、大声で叫ぶからね。どうせあなたじゃあ、私の逃げ足にも着いてこれないだろうし、ね」
彼女の態度に、カチンとくる。
とはいえ、あまり怒りを顔に出してはいけない。
こんな風に軽蔑するような態度を好き放題に作らせてやることが、彼女を油断させることに繋がるのだ。
少しだけムッとした表情を、あえて浮かべてみせる。
その反応に、僕のことを言い負かしたと見て取ったのか。円さんは、満足げな表情を浮かべた後、改めて僕のことを睨み付けてきた。
「昨日のアレ、どういうつもり?」
――やっぱり。この台詞で、はっきりと理解した。
円さんは、昨日どうしてだか予定よりも早く家に帰り、僕と麻美さんの風呂場でのセックスを目撃していたのだ。
「どうしてそうなったかは知らないけど、別にあなたと姉さんが付き合おうがどうしようが、それは勝手よ。
だけど、よりによって、ウチのお風呂場であんな……しかも、二人して変態みたいな呼び方で……っ!」
どうにも、その台詞から判断するに、円さんはよほどじっくりと僕らの行為を覗いていたらしい。『変態みたいな呼び方』というのは、ようするに麻美さんが僕のことを『ご主人様』と呼んでいることだろう。
「あんな事、他人の家のお風呂場でなんて、二度としないで。汚くて、使えなくなっちゃうじゃない」
思わず笑いそうになるのを、堪える。この態度にこの台詞からいって、円さんはほぼ間違いなく処女に違いない。
そう感じさせる、過敏な態度だ。
相手が興奮すればするほど、こちらは冷静になってくる。
彼女がいい気分で、言いたい放題に僕を攻撃するのを黙って聞きながら、徐々に距離を縮める。
「あんな、犬みたいにただHがしたいなら、他にもいくらだって場所があるでしょうに……」
僕の目的はただ一つ。この人差し指を、彼女の額に押しつけることである。
とはいえ、もししくじれば、その後は面倒なことになる。彼女がさっき口にした通り、一度逃げられたら、僕では彼女の足に追いつけないだろうし、大声を出されたらそれこそ収集がつかなくなるだろう。
僕はその為に『用意してきたモノ』を、ズボンのポケットに入れた手で、ぎゅっと握り締める。
これをこんな用途に使うなんて、ついさっきまでは思ってもみなかったのに。
……僕が言われるがままになっているせいで、調子に乗ったのだろう。
円さんは馬鹿にしたような目で僕を見ると、言葉を続けた。
「だいたい、理解できないわよ。確か姉さん、大学に卓さんとかいう彼氏がいたはずなのに。
それが、何でアンタみたいに大して取り柄も無さそうな……」
自分が口にしたのが、僕に対する最大の禁句であったことを、もちろん彼女は気づいてはいなかっただろう。
だけどその台詞は、僕の背中を強く押す役目を果たした。
「――言っておくけど、僕だって、麻美さんにしてあげられることだってあるんだ」
そう言い返す僕に、円さんは疑わしそうな目を向ける。
彼女の関心を引いたことを確認しながら、僕は出きる限りさりげなく動いた。
「例えば、これだとか……」
ポケットから手を出す。その手に握られた物を、円さんはつい確認しようとしてしまい……
“プシュ”
その隙をついて、僕は彼女の顔に、麻美さんからもらった香水を吹きかけた。
「きゃ……っ!?」
目を押さえ、たじろぐ彼女。それだけの一瞬が、僕が目的を果たすには十分なものだった。
「あ……っ」
逃げ出す余裕も、大声を上げる間も与えず、僕の人差し指が、円さんの額に突きつけられる。
「…………」
きつい攻撃的な光を浮かべていた瞳が、すみやかに茫洋としたものに変わった。
両手を身体の脇にだらりと垂らし、力無く立ちつくしている。
「さて、と」
ようやく、獲物が手に落ちた。僕は満足しながら、このひとつ年上の先輩の、学校でも一・二を争うと言われる整った顔を見つめる。
浮かび上がってくる嗜虐心に、僕は自分がちょっとした誤解をしていたことに気づいた。
さっきまで、僕は自分が冷静なつもりでいた。僕をなじる円さんが熱くなるのを見ながら、その分自分は冷めていると。
……だが、それは違った。僕は、冷静だったわけではない。冷たい怒りを、ずっと燃え上がらせていたのだ。
「どうやって、お仕置きしてあげようか」
麻美さんにしたのと同じように、円さんにも僕の奴隷になってもらおうか。
そうも考えていたのだが、どうにも物足りなく感じる。
この綺麗な上級生を、奴隷にして服従させるのは魅力的だが、ただそうするだけでは、僕の気が納まる気がしなかった。
もっと、苛めて……泣きわめき、僕に必死で謝らせる。そんな姿を見ないことには、この怒りは薄れない。
結論に達した僕は、催眠状態の円さんに、指示を下した。
「いいかい、円さん。円さんは、身体が疼いて、仕方がなくなる。アソコが熱くなって、身体が痺れて、足も自由が利かなければ、声もまともに出せなくなる。
心の方とは全く別に、身体が気持ちを裏切って、セックスを求めて歯止めが効かなくなるんだ」
そして僕は、指を離した。
《 4 》
「あ……」
夢から覚めたように、円さんはぱちぱちとまばたきする。
そして意識を取り戻し、僕の方を向いた目が焦点を取り戻したとたん、円さんはフラリとよろめいた。
「きゃ……っ!」
混乱したように声を上げ、自分の身体をかき抱くと、そのまま力無く地面にお尻をついてしまう。
「な、なんで……!?」
立ち上がろうとあがくが、腰が抜けたようにまともに足が動かない。
それだけでは済まずに、やがて彼女の顔色はこの暗がりでも分かるほどに見る間に赤く染まり、全身が小さく震え始めた。
「あっ……やあっ、……こん、な……っ!?」
呼吸が早く、荒くなる。肩を上下させながら必死で息をする彼女を見下ろしながら、僕は意地悪く訊ねた。
「どうしたんですか、円さん。気分でも、悪いんですか?」
声をかけられ、顔を上げる。ぼうっと赤くなった目元に、泣き出しそうに潤んだ瞳。
それが、僕の顔を見て、ハッとしたようにつり上がった。
「あ……さっきの、……さっきのクスリは、いったい何なのっ!?」
「クスリ?」
何を言われたのか分からなくて、聞き返す。
だけど円さんは必死に唇を噛みしめながら、表情を歪ませ僕を見ながら言った。
「とぼけ……ないでっ! はあっ……さっき私の顔にかけた、あの変な……ふ、ううっ」
熱い吐息を懸命に抑えながら話す円さんの言葉に、彼女が何を言いたかったのか、やっと理解できた。
「ああ、なるほどね」
今までの経験から察するに、催眠状態の間における記憶は残らないらしい。
だから円さんにしてみると、顔に香水を吹き付けられ、次の瞬間身体がおかしくなったと。そう認識しているわけだ。
つまり、今彼女の身体を縛っている疼きを、香水の所為だと勘違いしているのだ。
(まあ、それも面白いかな?)
心の中でニヤニヤしながら、僕は円さんに答えた。
「さっきのは、まあ、“媚薬”ってやつだね。どう? 効果があるでしょう。
円さん、男が欲しくって、たまらなくなってるんじゃない?」
「この……卑怯者っ!」
なんとまあ、楽しい反応をしてくれる人だろう。思わず僕は、吹き出しそうになってしまった。
(こんなに単純に信じるなんて……バカだなあ。そんな便利なクスリなんて、現実にあるわけがないじゃないか)
もっとも、これはちょっと公平でない評価だったかもしれない。
なぜなら、そもそも僕のこの人差し指の魔法だって、『現実にあるわけがない存在』なのだから。
(さて、ちょっと、ゆっくりし過ぎたかな?)
いくら人気がない公園とはいえ、いつ、たまたま人が来ないとも限らない。確かにここは木立のせいで周囲から視線が閉ざされているが、入り口の所を誰かが通りかかったら、すぐに目についてしまう。
「ここじゃあ、誰かに見られるかもしれないからね。そっちの植え込みの方に行こうか」
腰をかがめ、円さんの身体を抱え上げる。
「あ……っう、いや……っ!」
大きく悲鳴を上げようとするが、力が入らない。さっきの催眠下での指示が、効果を出しているのだ。
力無く抗う彼女の身体を抱えると、引きずるようにして、脇にある植え込みの方へと連れ込んだ。
「誰か、たす……助け、て……っ!」
植え込みの影に入ってしまえば、ちょっとかがみ込めば入り口からは見えなくなる。これでもう、人目を気にする必要もなくなった。
僕は地面にしゃがみ込む円さんの額に、あらためて指を当てた。
「あ……」
黙り込む彼女に、新たな指示を出す。
「円さんは、自分では気づいていない、マゾヒストだ。それも、筋金入りのマゾってヤツなんだよ。
これから僕に好き放題に苛められて、それが悔しくて、悲しくて仕方がないくせに、痛ければ痛いほど、惨めであれば惨めであるほど、身体の方は心を裏切って、どうしようもなく感じちゃうんだ」
陰惨な喜びが、僕の心を満たしていく。
これからこの、学園で多くの生徒達から崇拝を受けている美少女が、どんな魅惑的な姿で、どんな素敵な顔で、泣いてくれるのか。
それをもっとも味わえるように考えながら、命令を続ける。
「自分では否定したくて仕方がないけど、円さんの身体は、スケベで淫乱な、変態なんだ。
それを、よく覚えておくんだよ?」
指を引き、催眠を解く。
そしてそのまま、円さんを地面に押し倒した。
「や……やああっ……!」
弱々しく声を上げる彼女の胸のジッパーを、一気に下ろした。
「いやっ!」
下には薄いTシャツを着ているが、じっとりと汗をかき、白い下着が透けて見えていた。
Tシャツの裾から手をもぎり込ませると、僕は無遠慮に彼女の胸の膨らみをまさぐった。
「あ……あああっっ!?」
まだほとんど揉んでもいないのに、円さんの口から、明らかに肉の快感を伝える、喘ぎ声がもれる。
僕は調子に乗って、そのままTシャツとブラとを、強引にずり上げた。
白い裸の乳房が、薄暗い街灯の明かりのもと、僕の目に晒される。
麻美さんと比べれば小さな胸だが、十分に手の平に心地よく、男の興奮を誘う柔丘だった。
「やめ、て……いやっ、この……変態っっ!」
バタバタと手足を振り回すが、その動作にはまったく力が入っておらず、僕はその両手首を、易々と片手で押さえ込むことができる。
開いたもう片手で、円さんの胸を弄ぶ。乳首を軽く摘んでやると、彼女の口から「ひっ!?」と焦ったような悲鳴がもれた。
「僕のこと、変態呼ばわりするのはいいけどさ」
可愛らしい耳朶に口を寄せて、言ってやる。
「円さんだって、他人のこと言えないでしょ。ほら、自分でも分かるんじゃない? 乳首、勃ってるよ。気持ちよくて、興奮しちゃってるんだ」
「な……っ」
僕の台詞に、言葉を失う。同時に、この薄暗い夜の木陰の中でもハッキリと分かるほどに、彼女の顔が真っ青になるのが分かった。
「そ、そんなこと、あるわけ……ああっ!?」
意味のない言い訳には耳を貸さず、勃起した乳首を思い知らせるように強めに擦りあげてやる。
それだけで、押さえつけられた身体がビクビクと小さく震え、彼女の口からは喘ぐような響きをはらんだ嗜虐心をくすぐる声が洩れた。
「なに言ってるの。ちょっといじってるだけなのに、そんな可愛い声出して。ぜんぜん説得力が無いよね」
意地悪く、できるだけ彼女に屈辱心を与えるようなバカにした声で、そう言ってやる。
「くっ……や、こんな……くんぅっ!」
眉を歪め、目をギュッとつぶり、首を左右に振る円さん。
涙を浮かべながら、苦痛に耐えるかねるように噛まれた唇の間から、抑えきれない嬌声が、悲鳴と共に溢れ出す。
さっきまで罵倒していた男に抑えつけられる恐怖、好きなように肌をまさぐる手への嫌悪感――僕の『力』でもって頭を弄られた円さんにとって、それらは彼女の心が痛めば痛むほどに、更なる快感となって身体中を縛り付けているのだった。
「いや……あ、あああ……っ」
いったい何が自分の身体に起きているのか、分からないのだろう。パニックですすり泣きはじめた彼女の身体から、抵抗の力が抜け落ちる。
それを利用して、僕はさっきまで円さんが首に書けていたタオルを使うと、彼女の細い手首を交差させるように一つに縛り上げた。
「やだ……っ、誰か、助け……ふぐっっ!?」
大声を上げかけた口を手で覆い、黙らせる。
そうしながら、僕は彼女の顔に自分の顔を近づけると、あえて抑えた口調でゆっくりと言ってやった。
「円さん、助けを呼ぶのはいいけど……誰か来ちゃったら、困るのは円さんじゃないの?」
「んんんっ!?」
懇願と恐怖で見開かれた瞳が、僕を見上げている。さっきまでの強気な光は、もはやそこにはない。
暗く歪んだ征服心を心地よくくすぐられながら、僕はいたぶるように、嬲るように、彼女に語りかけた。
「ちょっと弄られただけで、乳首をこんなにしちゃうんだもの。もしかして下の方も、もう濡れちゃってるんじゃない?」
「――――っっっ!!」
表情を強ばらせ、息を飲む円さん。
その隙をついて、僕は彼女の身体をひっくり返してうつ伏せにさせると、腰だけ上げさせるように掴み、トレーニングウェアのズボンを強引に下着ごとずり降ろした。
「やぁああっ……っ!」
さすがに脚をばたつかせながら悲鳴を上げる彼女だったが、指先の魔力に縛られた今の状態では、その四肢の動きも声も、弱々しいものにしかならなかった。
木々の間を抜けて差し込む街灯の弱々しい光しかないこの暗がりの中で、円さんの白い柔らかそうな二つの曲線を描くお尻が、やけにハッキリと僕の前に現れる。
「さて、と。じゃあ、確かめてみようか」
両脚の付け根を割って、円さんの股間に手を差し込む。わざわざ探るまでもなく、僕の指先に彼女の分泌したややぬめった体液が『くちゅり……』と絡みついてきた。
「うわ、びっしょりじゃない。そんなに期待してるの? 円さん」
「うう……あぁぁぁ……」
もはや抵抗する気力もなくしてしまったように、円さんは小さな嗚咽の声をもらす。額を地面に擦り付けるように、左右に振る。
その仕草は、僕の言葉を否定するためのものではなく、自分の心を裏切って浅ましい反応を示してしまった彼女自身の躰と、そしてそれを嫌悪すべき僕に知られてしまった汚辱を否定しようとしているように見えた。
“ごくり……っ”
今にも沸騰しそうな暗い亢奮に、思わず唾を飲み込む。
僕は片腕で彼女の腰を抱えたまま、もう片手で自分のズボンのベルトを緩める。下着の中であまりに高まりきったペニスが引っかかって、ひっぱり出すのに少しだけ手間取った。
「じゃあ、円さん。もう準備は十分出来ているらしいし、円さんのココ、僕がもらうよ?」
イヤらしく、惨たらしく。出来るだけ彼女を傷つけ、なぶるように、わざわざそう耳打ちしてやる。
そして僕の指先の魔力に操られた彼女の心は、さっき僕が命じた通りに、傷つけば傷つくほど、屈辱に歯がみすればそうするほどに、どうしようもないほどに身体を熱くさせるはずであった。
「あ……や、やぁ……っ」
後ろから覆い被さった僕の身体の下で、円さんのスレンダーな身体が小さく震えている。
伏せた顔の下からもれるすすり泣きの声からは、しかし間違いようのない、浅ましい興奮に濡れた響きが籠もっていた。
“ぴた……”
四つ足の動物が交尾する姿勢で、僕の猛りきった先端が、粘液をまとった彼女の熱い粘膜に触れる感触。
「ひ……っ!」
先端を擦り付けるようにして位置を確認すると、僕は何の手加減も無しに、思い切り腰を突き上げた。
「ふぐっ……あああああっっっ!」
ブチブチと、なにか抵抗を引きちぎる感触と共に、僕の欲棒が強引に、彼女の狭苦しさときつさを感じさせる秘裂の中に入り込んだ。
最も敏感な部分が、求めるべき心地よい胎内の感触に包まれ、歓喜の快楽を僕の脳に伝えてくる。
「あ、がっ……うぅ……っっ」
恐らくは男には理解の出来ない、引き裂かれるような苦痛に襲われているであろう。背中を折れてしまうのではないかと心配になるほどに反らせ、肺の中の全ての空気を絞り出すかのような苦悶のうめき声を出す。
しかし同時に、その身体が小さくビクビクと、強ばるように震える。僕を包む媚肉がはじめて体験するきつさでもって、何度もギュッギュッと、引きつるようにペニスを締め付けた。
「――――ぁ、あぁ」
おそらく十秒には満たないだろう間、細い身体を痙攣でもさせるように緊張させた後、全ての力を失ってしまったかのように、円さんの身体から力が抜け落ちた。
「はあっ、はあっ……」
僕が抱え上げた腰以外を全てぐったりと地面に預けながら、円さんは荒く浅い呼吸で喘いでいた。
「円さん……」
一瞬の後に、彼女に何が起きたのか理解する。心の中に、醜悪に歪みきった、しかし抑えきれない暗い悦楽の波が、浮かび上がってくる。
「円さん、今、イっちゃったでしょう?」
「……ぅ、…………っっっ!」
円さんは、何も応えない。しかしそのこと自体が、僕の質問に対する肯定の反応だ。
「あはははは、スゴイや円さん。嫌がってるくせにアソコをグチャグチャに濡らしてるから、きっとマゾなんだろうなとは思ってたけど。まさか、ここまでだとは思わなかったよ」
学校での一件以来、一日中くすぶらせてきた怒りと屈辱が、洗われるように心から追い払われていくのが分かる。
だがその下から現れるのは、晴れ渡った心などではなく、ドロドロと渦巻く欲望。気に入らない、それでいて極めて魅惑的な相手を、屈服させ、引き裂き、踏みにじる、そんな堪らない快感。
「さんざん口ではヒトのことを変態だなんだって、けなしてたくせに。
そのくせ自分は、その変態に犯されて、しかも処女のくせに入れられただけでイっちゃったんだ」
「う……ぐすっ、うあ……あっ、あぁ……」
生意気な女がむせび泣く声が、僕の耳から全身にしみ込み、背筋を痺れさせる。それは未だ胎内に入ったままのペニスをくるむ気持ちのいい感触以上に、僕の精神を快感で揺さぶった。
「この……変態の、メス豚」
《 5 》
「――っっ!?」
息を飲む気配と共に、僕が分け入った柔肉が、ぎゅうっと力を込めて僕を締め付けた。
「うっ!?」
浴びせかけられた嘲りの言葉に、身体が反応したのだろう。欲棒に加えられた唐突な刺激に、思わず声をあげてしまう。同時に、新たな快楽への欲求が浮かび上がり、僕はゆっくりと腰を前後しはじめた。
「う……ぁ、……ぅぅ」
押し殺したような啼き声が、僕の動きに合わせて吐き出される。
やはり、これが処女ということだろうか? 円さんの中は、麻美さんのソコと比べ、はるかに狭苦しく、引きつるように僕を締め付ける。
その乱暴とも思える摩擦に、僕はうっとりとしながら腰を動かし続けた。
「はあっ、はあっ、……ぁ、あぁ」
やがてゆっくりと、円さんのすすり泣きの声が、別の息遣いへと変化していく。
それとともに彼女の膣壁と僕のペニスとの間の擦れ合いの感触が、徐々にイヤらしい潤いを含んだものへと変化していくのを、僕はゾクゾクとした快感をもって味わっていた。
“ぬちゅ……、ぶちゅ……”
僕と円さんの絡み合った場所から、いやらしい水音が立ち上り、二人の抑えた息遣いと混ざり合って、静かな夜の空気に溶け込んでいく。
肌寒い夜の気温と、繋がった部分にのみ感じる円さんの体温とのギャップが、性交の質感をより鮮明なものとして僕に感じさせていた。
しかし僕の起立を締め付ける肉道とは反して、円さんの身体はただぐったりとして、人形のように僕の動きに合わせて揺さぶられているだけだった。
これはこれで倒錯した興奮を覚えるシチュエーションだったが、しばらく同じことを続けているうちに、だんだんと物足りなく思えてくる。
「円さん」
僕は黒髪の間から覗く円さんの可愛らしい耳朶に口を寄せると、聞き取りやすいようにゆっくりとささやいてやった。
「円さんの中、すごく気持ちいいよ」
彼女の中を擦りあげる動作は止めずに、そう話しかける。
「僕のが、よっぽど気に入ってくれたんだね。一生懸命締め付けて、僕のを感じさせてくれてる。
ホント、きつさだけなら、麻美さんよりも気持ちがいいよ」
びくんっ――と、円さんの背中が震える。
それは強姦しておきながら好き勝手なことを並べる、僕の言葉に対する反応か。あるいは、他の女の子――しかも自分の姉妹と比べられるという、あまりに恥知らずな論評に対するものか。
どちらにせよ、そのことが、彼女の中に新たな火を灯したのが、僕には嗅ぎ取れた。
「すごく、気持ちがいい。……あんまり気持ちがいいから、このまま円さんの胎内で出しちゃいたいくらいだよ」
「……っっ!?」
僕の言葉に、なすがままに身体を揺すぶられていた円さんの身体が、ぎょっとしたように強ばった。
首を後ろにねじり、乱れた黒髪の間から、見開かれた瞳が僕の顔を凝視する。その涙でぐちゃぐちゃになった目には、驚愕と、明らかな恐怖が浮かんでいた。
「や……、そん、な……」
唇を震わせながら、絞り出すように声を出す。
「やめ……て、お願いだから……おね、がい……!」
その懇願の表情こそが、僕が望んでいたものだった。
ついさっきまで居丈高に、見下すような目を僕に向けていた女が、今では涙をこぼしながら、こうやって僕に縋り付くような、哀願をこめた視線を向けてくる。
――そして、それを踏みにじる、快感。
「やだね。決めたよ。こんなに気持ちいいんだから、最後まで楽しまなくちゃ損だもの」
どっと、ねじくれた悦楽が、音を立てて心に満ち溢れる。
この歪みきった享楽を否定するなど、到底出来ない。
「それに、円さんだって、これだけ淫乱なマゾのメス豚なんだから。胎内に出してもらった方が、きっと嬉しくて、思いっきりイっちゃうに決まってるよ」
「やだ……、やだぁっ!」
ジタバタと、だけどやっぱり力の籠もらない身体で、僕の下で懸命にもがく円さん。
手を縛られ、ズボンと下着を中途半端に脚に絡ませ、自由にならない手足でのその動きは、むしろ僕の興奮を焚き付ける働きしかもたらさなかった。
そして、彼女の躰は、僕が指の力を使って命令した通りに――
「う……っ、スゴイよ。円さんの中、なんか、急に締め付けが良くなった」
彼女のそんな心になど関係なく、いやむしろ彼女のそんな悲壮な心を裏切って――円さんの躰は、心を溶かし、屈服させる圧倒的な快感で、彼女の精神を塗りつぶしているのだ。
「や……あたし、こんな……こんなの、イヤだよう……っ」
自分を襲う全てを否定したくて、必死にそう口にする。
そんな彼女を、僕は嘲りながら、犯す。
「はあ、はあ、……円さん、そろそろ、出すよ」
「やだ、……やめて、……ああぁっ!」
一気に昂まったテンションに、僕の下半身で煮えたぎっていた欲求は、圧力を跳ね上がるように高め、決壊する。
「う……くぅっっ!!」
最後に思い切り腰を突き上げ、彼女の一番奥に入り込み、そこで、弾ける。
“ドク――ッ、ドク――ッ!!”
「やだ、やだっ……あ、あああぁっっ!」
そして同時に、彼女の全身が強ばり、僕を受け止める熱い柔肉がぎゅっと収縮して、僕は円さんが絶頂に達したのを感じ取った。
《 6 》
「そん、な……本当に、中で出すなんて……」
呆然と、円さんの唇から、そんな言葉がこぼれ落ちた。
凛として、綺麗で格好のいい美少女として、学園銃で有名な円さん。だけど今の彼女は、まるで羽根をもがれた蝶のような惨めな姿で、公園の地面に横たわっていた。
いつも意志の強さを感じさせていた瞳は今では茫然と宙を彷徨い、きりりと整った顔はだらしなく涙と唾液で濡れ、そこに砂や土がこびり付いている。
ぐったりと投げ出された脚の間からは、彼女が汚された証である、赤と白が混じり合ったどろりとした粘液が生々しく肌を伝わり落ちていた。
心地よい疲労感と脱力感に包まれながら、そんな無惨な姿をさらす彼女を見下ろす、僕。
やがてゆっくりと、彼女の顔に表情が戻りはじめた。焦点を失っていた両の瞳が、僕の方に向けられる。
「……て、やるから」
ぼそりと、円さんが何かを呟いた。
「こんなことをするなんて……ぜったいに、許さない」
僕を見る彼女の目から、新たな涙が頬の上をこぼれ落ちる。
しかしその瞳には、さっきまでとは違い、本来彼女が持つ強さが戻りつつあった。
「ぜったい、訴えて……あんたのこと、警察に訴えてやるんだから」
「………」
その怒りに溢れた目を見れば、彼女が本気であることが分かった。
レイプをされて、泣き寝入りをするつもりは、全くないということだ。
たとえ自分がその被害にあったことを周囲に知られたとしても、それでも僕を訴え、それによって罰を与えるのだと。怒りを伴ったそんな意志が、彼女の目には浮かんでいた。
「それも、面倒だね」
一度は治まった苛立ちが、再び頭をもたげる。
この女を、どうにかしてやりたい。
指の力を使って、例えば誰にも言うなと命令することは、簡単だった。
だけど、それでは物足りない。それだけでなく、もっと何か、この気に入らない女をメチャクチャに切り刻んでやれるような、そんな方法で彼女を縛り付けてやりたい。
――そう決心すると、僕はポケットから、携帯を引きずり出した。
「……なに? なにを……」
力の入らない腕にすがって、よろよろと上体を起こそうとする円さん。
僕は携帯のデジカメを起動させると、彼女に向けた。
「っっ! やめ……っ!!」
縛られた手で、それでも何とか肌を隠そうとする。だけどいくら身を縮めようとしても、生々しい暴行の跡を隠すことはできない。
僕は半裸に剥かれて、汚れきった彼女の姿を、何枚か写真に収める。
“ジー……カシャッ、ジー……カシャッ”
わざとらしい電子音と共にフラッシュが焚かれ、映像が記憶されていく。
「そんな……そんなことしたって、無駄だからっ。
私、ぜったいに、アンタの脅迫になんて負けないんだから!」
わめき声を適当に聞き流しつつ、写真の写り具合を確かめそれなりに満足すると、僕は携帯をポケットに戻した。
そのまま無言で、円さんに近づく。
「なに……やだっ、近寄らないでっ!」
ズルズルと後退する彼女を苦労もなく追いつめると、僕はその額に指を伸ばした。
「あ……」
目がとろんとして、いつもの通り、指の魔力が正常に働いたのがわかる。
その彼女の耳ハッキリと聞こえるように、僕は告げた。
「円さんは、僕に犯されたのが悔しくて仕方がない。だから、ぜったいに僕を許すなんてことはしない。
でも、写真を撮られて、それがばらまかれるなんて、円さんには耐えられない。
だから、僕の脅迫に従うしかないんだ」
一区切りして息をつき、言葉を吟味する。
そして、再び命令を続けた。
「写真を撮れれてしまったからには、もうどうしようもない。そう思うんだ。
こんな写真なんて、幾らでも複製ができるからね。僕から取り上げることなんて、不可能だ。そう考えれば、あとは僕の言いなりになるしかない。
学校でも、家族でも、誰かに訴えたりしたらこの写真の存在がその誰かに知られてしまう。警察に訴えれば、写真は必ず、警察の人や裁判官とかに見られちゃう」
目の前の少女を、追いつめて、汚し尽くしてやる。
サディスティックな興奮に半ば乾いた唇を、舌で湿らせる。
「そう考えれば、誰にも言えないし、あとはこのことを誰にも知られないようにして、そのためには僕が言うことには、服従するしかない。
どんなに嫌なことでも、これからは僕の言いなりになるしかないんだ――いいね?」
こくり、と円さんが頷く。
それを確認して、僕は指を彼女の額から離した。
「あ……」
催眠状態が解けた円さんの瞳に、光が戻る。
しかしそこには、さっきまでの意志の強い怒りの表情はなかった。あるのはただ、悲痛な、諦めとと絶望が同居した、見る影もなくやせ細った怒りだけ。
「う……うわあぁぁぁ……」
地面に崩れ落ち、両腕に顔を埋めてむせび泣く。
そんな円さんの両手を縛るタオルをほどいて地面に投げ出すと、僕は立ち上がった。
「じゃあ、この写真のこと、忘れちゃダメだよ? もしも円さんがいらないことを誰かに言いでもしたら、これがメールに乗って、日本中の人が見ることになるからね」
数歩離れてから、背中を向ける。
「とりあえずは、家に帰るまでの間にすれ違う人達や、家族の人にバレないように、せいぜい注意して帰るんだね。
それと……また後で遊んであげるから、待っててね」
「う……、うあ……ぐすっ」
帰ってくるのは泣き声だけで、まともな返事などない。
それでもそのことに満足し、僕は彼女を公園に残し、家への道を歩いた。
< 了 >