第4話
《 1 》
朝、登校する生徒達の間に『彼女』の姿を見かけたときには、思わず笑ってしまいそうになった。
あんなことがあった翌日なのに、きちんと学校に来るとは。
愉快な気持ちで、教室に入る。
だけどそんな気分は、長続きはしなかった。
「なあ須藤。本当に、天川先輩に何したんだ?」
クラスメイトの田中がそう話しかけてきたのは、昼の休憩時間が終わりかけた頃だった。
僕は、うんざりする。しばらくは、こんな日々が続くのかと。
とはいえ、心の中に余裕が出来ていたのも、また確かだった。なにしろこの気に入らない事態の原因、円さんを、僕はさんざんに汚し、気を晴らしていたのだから。
「何もしてないって。なんだよ、お前」
しかし、その考えは、甘いものだった。思っていた以上に、僕を取りまく状況は、ずっと悪い物になっていたのだ。
「でもさあ、結構噂になってるぜ。俺も、なんか三年の先輩に、お前のこと訊かれたし」
「なんだ、それ」
「部活の先輩がさ、天川先輩の友達なんだけれど。彼女の様子がおかしすぎる。お前が何かしたに違いないから、どんなヤツなのか知りたい……って」
なんてことだ。今朝、円さんを僕の前から連れ去った女生徒を思い出し、心の中で悪態を付く。
連中の仕業か。あいつらが、学校中に僕の悪い噂を広めているのだ。
(畜生……っ!)
昨晩、円さんを犯すことで晴らした鬱憤が、再び心をどす黒く埋め尽くす。
こんな不快な学校生活が、あと何日続くことになるのか。耐え難い屈辱に、歯ぎしりする。
(円……あの野郎っ)
その怒りの矛先は、当然の事ながら、原因を作ってくれた円さんに向かう。
ただでは、済まさない。あの高慢な女を、メチャクチャしてやりたい。泣きわめく彼女を、ズタズタに踏みにじるのだ。
「それで……おい、須藤。聞いてるのかよ」
うっとうしく、不快な話題を続けようとする、田中。
そのにきび面に目をやったとき、僕の中にちょっとしたことが思い浮かんだ。
そう。これ以上ないほどに、愉快な余興だ。
「わかったよ。全部話してやるから、ちょっとこっちに来いよ」
田中は、その言葉を聞いて、嬉しそうな表情を浮かべる。本当に、単純な男だ。
僕は彼を連れ、人気のない場所を探して歩き始めた。
放課後、麻美さんに電話をかけた。
携帯電話を取りだし、短縮ダイヤルを操作すると、すぐに相手が出る。
『はい、もしもし』
「麻美さん、ちょっといいかな。今、その辺に誰かいる?」
『あ、はい。大丈夫です。ご主人様』
どうやら、話の邪魔をする人間は、周囲にはいなそうだ。とはいえ、今回電話を書けた用事は、別に麻美さんの近くに人がいても、あまり困らないのだけれど。
「円さんって、もちろん携帯持ってるよね。番号と、あとメールアドレス、教えてくれる?」
『ご主人様……』
僕の言葉に、電話の向こうで麻美さんがはっと息を飲む気配が感じられた。
その雰囲気に、僕は彼女に尋ねた。
「どうしたの? 何か、あったの?」
『あの、いえ……』
逡巡するような、沈黙。
(さすがに、ヤバかったかな?)
昨晩、円さんを犯した後。僕は彼女を公園に放り出して、そのまま家に帰ってしまった。
その後、彼女が暴行されたことが周囲に知られたとか、あるいは別のトラブルに巻き込まれたとか。
「麻美さん、何かあったのなら、言うんだ」
僕は、今、苛ついている。絶対の服従を示さなければならない、一番の奴隷である彼女が、僕の質問に答えることを迷うことなど、許せない。
多少語気を強めてそう命令すると、従順な僕の麻美さんは、たどたどしくその質問に答えた。
『昨晩、円ちゃん、ランニングから帰ってくるのが遅かったんです。みんな、心配して……それが、いつの間にか部屋に帰っていて。
今朝も、なんだか顔色が悪くて、本当は学校を休めって言ったんですけど……』
――なるほど。円さんは、きちんと上手くやっているらしい。
指先の魔法で刷り込んでおいた通りに、誰にもバれたりしないよう、必死に行動しているということか。
彼女の惨めな様子を思い浮かべると、少しだけ気が晴れる。
思わず洩れだしそうになる笑いを抑えて、僕は本来の用件を済ませることにした。
「まあ、そんなことなら、麻美さんが心配することじゃないよ。それより、さっきの話しに戻ろう。円さんの携帯の番号とメースアドレス、教えてよ」
『……はい』
僅かな沈黙の後、従順な返答が聞こえてくる。
とりあえずは、それに満足した。
「じゃあ、いったん切るから。メールを送ってね」
『あ……待って下さい、ご主人様っ』
耳から離しかけたところで、麻美さんのそんな声が聞こえた。
「なに? どうしたの、麻美さん」
『その、ご主人様……』
迷うようなその声に、眉をひそめる。
(もしかして、円さんのことを、どうこう言うつもりか?)
恐らく彼女は、妹である円さんの不調の原因に僕が関わっていることを、察したのだろう。それは、話の流れ的には、当然だ。
だけど、もしそれに対してあれこれと口を出して来るつもりであれば、それは許すことは出来ない。麻美さんは、僕の『奴隷』なのだから。
奴隷である彼女が、主人である僕の行動に疑問を抱くなど、それはあってはならないことだ。
『ご主人様、今日……』
しかし、そんな僕の苛立ちは、杞憂からきたものだった。
『もし宜しければ、今日、またあの部屋で、私のことを可愛がっては頂けないでしょうか?』
その言葉に、頬が自然にゆるんでしまった。
「奴隷が主人に何かをしろなんて、そんなことを言って、いいと思ってるの?」
『あ、あの、すみませんっ。ごめんなさ……』
僕の不興を買うことを恐れたのだろう、慌てたように言う彼女の台詞を遮って、続ける。
「でも、麻美さんは僕の一番大事な奴隷だからね。まあ、お願いは聞いてあげるよ」
『はい……ありがとうございます、ご主人様』
お礼を口にする彼女の声は、だけれど想像していたような明るいものではなく、むしろ少し沈んだものだった。
(……?)
訝(いぶか)しさは感じたが、それを確認するのは後回しにした。
そろそろ、休み時間も終わる。
「じゃあ、メールよろしくね」
最後にそう告げると、僕は今度こそ通話を切った。
麻美さんから送られてきたアドレスに、メールを送る。
ちょっとしたメッセージと、それに画像を添付して。
(明日は、休日だし。楽しみだな……)
この後行うべき幾つかの計画を立てながら、暗い悦びを胸に、僕は携帯電話を折り畳んでポケットにしまった。
《 2 》
チャイムの音が、マンションの部屋に鳴り響く。
正午にと指定したのだが、十五分ほど遅れて、待ち人が来たようだ。
ドアのカギを解除し、扉を開けると、そこには少女がひとり立っていた。
「いらっしゃい、円さん」
促すと、彼女はしぶしぶといった感じで玄関に入ってきた。
「ちゃんと、誰にも見られないように来たよね」
「うるさいわね。そんなの、私の知った事じゃないわ」
目を逸らしながら反抗的に言う彼女に、僕は確認するように言って聞かせる。
「円さんにだって、関係あるよ。とても重要なことだ。だって、僕の言うことに逆らったら、この前のメールで送った写真が、学校中に広まることになるんだもの」
屈辱に唇を噛み、耐える彼女。拳はぎゅっと握りしめられ、関節の所が白くなっていた。
昨日、彼女にはこのマンションに来るよう、メールを送ったのだ。住所と、そして一枚の写真を貼付して。
もちろんその写真は、夜の公園で撮った、無惨にレイプされた彼女の姿だった。
写真がある限り、彼女は僕に逆らえない。どうしても、だ。
そう、指の力で、刷り込んだのだし。
「なんなの、このマンション」
広々とした部屋を見渡しながら、円さんが訊ねてくる。
もっともな質問だ。誰が見ても高級なマンション。金持ちでもない僕が好きに扱えるものでは、本来あり得ない。
彼女の問いに、僕は肩をすくめて応える。
「親切な人がいてね、格安でもらったんだ」
嘘ではない。限りなく、タダに近かったのだから。
もっとも、その“親切な”マンション経営者からは、毎月ごとに多少のお小遣いももらっているので、正確な表現ではないかもしれないけれど。
「良い部屋だよ。防音もしっかりしていて、試してみたけど、いくら騒いでも外からはぜんぜん聞こえないんだ」
「……っ!」
僕のその言葉に、円さんは小さく身体を竦めた。
今日の円さんの服装は、ジーンズの上下に、飾り気のないシャツという、どう見てもおしゃれにはほど遠いものだった。
髪は後ろでそっけなくまとめられているだけで――要するに、どうやら僕など、格好に気を使ってみせるような相手ではない、というジェスチャーのように思えた。
あるいは、僕に犯される恐怖から、出来るだけ色気を感じさせない格好を、選んでしてきたのかもしれない。
多少残念ではあったが、そこは、これっぽっちも重要な点では無かった。
「さて、と」
フローリングの床に置かれた、大きなソファーに座ると、僕は立ったままの円さんに、単刀直入に命令した。
「じゃあ、さっそく服を脱いでよ」
「あなた……」
今日初めて僕に顔を向けると、眉をつり上げ、睨み付けてくる。ぎしりと音が聞こえてきそうなその目つきは、僕をとても心地よくしてくれる。
これほどに美人で、気位の高い彼女が、これから屈辱にまみれた痴態を、見せてくれるのだから。
「言い争いをしても、何も出てこないと思うけどね。どのみち、最後には、円さんは服を脱ぐことになるんだし」
「――姉さんに、言いつけるわよ」
ああ、それが円さんのカードか。
僕はつい、苦笑をもらしてしまう。
「まあ、麻美さんになら、いいか。言ってみたら?」
「え……?」
わざと、にやにやと嗤って見せながら、年上の美人をいたぶる。
「だから、お姉さんに言いつけてみたら? もしよかったら、今すぐ電話をかけて、来てくれるようにお願いしたらいい。麻美さんは、この部屋の場所を知ってるから」
強気な女性の顔色が白くなっていくのを見物するのは、とても気持ちが良かった。
「麻美さんは、確かに円さんの味方かもしれないけれど。でも、今回は助けてくれないと思うな。あの人は、僕の、奴隷だし」
円さんは以前に、僕と麻美さんがセックスをしているところを、覗き見たことがある。そのときの事を思い出せば、僕が全くの嘘を言っているのでは無いことが、推測されるだろう。
なにせあの時、麻美さんは僕を“ご主人様”と呼び、痴態を繰り広げていたのを、彼女は知っているのだから。
「姉さんのことも、私みたいに脅迫したの?」
歯ぎしりしそうな彼女に、きっぱりと首を横に振る。
「違うよ。麻美さんには、そんなことはしない。僕にとって麻美さんは、いちばん大切な女性(ひと)だし、彼女にとっても、僕がこの世でいちばん大事なんだ。……それだけのことだよ」
「……」
力無く、首をうなだれる円さん。彼女の中では、今きっと、僕の言葉がどういう意味を持つのか、そんな疑問が渦巻いているのだろう。
だけどそんな彼女の迷いを、ゆっくりと待ってやるつもりは、僕にはなかった。
「いい加減に、服を脱いだら? もともと、その覚悟があって、この部屋に来たんでしょうに」
「……分かったわ」
僕の脅迫には、逆らいたいけれども、逆らえない。それもまた、僕が彼女に刷り込んだ暗示のひとつだった。
小さく震える手が、ジーンズ地の上着にかかる。円さんは唇を引き結びながら、それを脱いだ。
続いて、シャツのボタンを外していく。その隙間から現れた下着は、やはりあまり可愛げの無いデザインの、ベージュの色をしたものだった。
ズボンに手を掛け、指の動きが、止まる。
「円さん」
促すように声をかけると、彼女は小さなうめき声のようなものを洩らした後、動作を再開させた。
のろのろとした動きで、ズボンを脱いで下着姿になる。そのまま諦めた様子で、背中をこちらに見せると、下着を脱ぎ去り全裸になった。
手で、胸と股間を隠しながら、こちらを振り向く。
昨夜は暗がりであったのではっきりとは見えなかったのだが、今日、明るい部屋の中で見る円さんの裸は、やはりキレイだった。
乳房や腰つきは、麻美さんと比べるとボリュームで劣るが、そのぶん全身的にスラリとした曲線を描いている。色気では劣るが、より健康さを強調して感じさせる体型だ。
「綺麗だね、円さん」
その言葉は、とても素直に口からこぼれ落ちた。
だが言われた方の円さんは、侮辱と受け取ったように、眦をつり上げる。
「ま、いいけどね」
僕は、準備しておいたカバンを手に取ると、ファスナーを開けて中身を物色し始めた。
目星を付けておいた品を手に取ると、円さんの腕を掴む。
「きゃ……っ、やめてよ、この……変態っ!」
甲高い声で浴びせられる罵声を無視して、僕は円さんの両手を後ろに回させて、手首を縛り付けた。
革製の、手錠。こすれて怪我をしづらいように、輪の内側にクッションがなされたベルト状のそれを、彼女の細い両手首に巻き付ける。
二つの輪をつないだ短いクサリが、彼女がなんとかそれを振りほどこうとする度に、金属同士が擦れてキシキシと音を立てた。
「そんなに必死で抵抗しなくても……大丈夫だよ。全部新品で、汚くないから」
フローリングの床に、ダブルサイズのウレタンマットレスを敷いて、その上に円さんを引きずり倒す。
更に、別の道具を手に取って、これも彼女に装着していく。
膝を折った状態で、太股とふくらはぎの部分を固定する、拘束具だ。
「痛くはないでしょ? 面白いよね、SMグッズって。こんな見かけをしてるくせに、怪我とかしないように、いろいろ工夫がされててさ」
これらは、つい先週末に手に入れた物ばかりだった。都心の、呆れるほどに大きなアダルトショップで購入した。
高校生の僕が入店すれば注意を受けるかと、老けて見えるような服装やサングラスを着用して行ったのに、店内には同世代に見えるヤツらも何人かいて、拍子抜けした。
はじめは店員に指を使って『お願い』をして、それで手に入れようと思った。が、あの手の店は防犯カメラがついているし、指の力を使うだけでは対応が難しいと判断して、購入する方を選んだ。
この程度の額で買える品物であれば、お金を払った方が早いし安全だ。今の僕は、高校生としてはかなり金持ちなのだし。
「姉さんにも、こんなことをしてるの」
身動きが取れない格好で顔だけを上げ、憎しみの視線を僕に向けてくる円さん。
そんな彼女を見下ろしながら、僕はひとつ肩をすくめてみせた。
「そのつもりで買ったんだけれど、実際には気が向かなくて。昨日も、けっきょく使わなかったし」
「な……っ、昨日って……!」
「うん。昨日の昼間、電話で話したとき、麻美さんにお願いされたんだ。『今夜、私のことを可愛がって下さい』って」
麻美さんの名前を出して、露骨に話しをしてやる。
「それで、夜になってこの部屋で会ったんだけれど。
麻美さんは、こんな道具なんて使わなくても、十分に僕のことを、気持ちよくしてくれるんだ。だから僕の方も、道具まで使って苛めて楽しむつもりには、なれないんだよね」
円さんにとって、姉の麻美さんは理想の女性像のひとつだ。だからこんな形で麻美さんを話しに出してみたり、あるいは円さんと比較してみせると、とても効果がある。
「まあ、そんなわけで。実は昨晩ヤリすぎて、今日はちょっと疲れてるんだ。だから、悪いけど、円さんにはコイツで楽しんでもらうね?」
僕が床に並べ始めた品物を見て、円さんの顔が恐怖に歪む。
それらは、大小さまざまなバイブだった。僕のと大きさがあまり変わらない物もあれば、もっとずっと細く作られた物もある。それ以外にも、卵形の、ローターと呼ばれる品も。
「や……やだ、そんなの……」
イモムシのように、拘束された身体をくねらせて、なんとか逃げようとする円さんを、うつ伏せの格好にさせる。
こうすると、顔をマットに埋め、膝立ちにお尻を突き出した格好を取ることになる。
「変態っ、止めろって言ってるでしょ!」
あんまりうるさいので、ちょうど目の前にある陰毛を数本乱暴にひっぱってやると、「きゃっ!」となんだか可愛らしい声をあげて、騒ぐのを止めた。
それを確認して、今度はうって変わって出来るだけ優しく、秘所を指先でさすってやる。
「この格好だと、全部丸見えだよね。アソコも、後ろの孔まで、すごくよく見える」
「いやだ……止めて、やめてよぅ……」
口ではなんと言おうと、言葉でいたぶりながら辱めてやると、躰は簡単に反応してくる。これも、一昨日の暗示による成果だ。指先に、湿り気を感じてくる。
ぬちゃりとした感触が指に絡みついたのを確認すると、僕はやや乱暴に、秘裂に指を立てた。
「ぅくう……っ、あぁぁ……」
円さんが、背筋を硬直させる。そのまま刺激を続けてやると、あっという間に彼女の股間は、粘液で滑りを良くしはじめた。
「なんだよ。人のことを変態呼ばわりして、自分だって、好きでもない奴にいじられてるのに、こんなに濡らしてるじゃないか」
「……違う、こんなの……違うよぅ」
「何が違うって言うのさ。一昨日だって、僕に処女膜破られて、イっちゃったくせに」
もちろんそれは、僕が人差し指の力でそうさせたのだが、円さんはそれを認識していない。そのことにつけ込んで、彼女ができるだけ傷つくような侮蔑の言葉を並べ立てて、追い込んでいく。
中指を淫隙の間に差し込むと、十分に濡れたその場所は、ぬるりと、あっけなく指の根本まで迎え入れてしまった。
「ひ……っ!」
気をよくして、僕は指の数を増やしてやる。
二本の指を侵入させ、乱暴なくらい大きく動かしてみせる。グチュグチュと音を立てて遊んでやると、円さんはますます淫らな粘液を垂れ流した。
「やっぱり円さんは、変態だよね。こんなコトされて、よだれを垂らして悦ぶ、変態のマゾ女だ」
「っっ……、違……私、マゾなんかじゃ……」
「だって、実際にこの場所は、僕の指を一生懸命咥えてるよ?」
涙を流せば、その分いやらしい液も太股の内側を濡らす。
たとえそれが作られた特性だとしても、男の嗜虐心をそそるには、これ以上のものはない。
「さてと。じゃあ、そろそろ……」
準備も出来ているだろうと、僕は床からバイブを取り上げる。男のペニスと同じ形をしたそれを、彼女の中心に押し込んだ。
「ぃああ、抜いて……やだぁっ!」
じたばたと暴れようとするが、拘束された不自由な体では、さほどの効果はない。
片手で腰を押さえつけると、僕は半ば強引に、シリコン製のそれを根本まで挿入した。
「うぁ、ああ……」
串刺しにされ、あえぐ円さん。まだ一昨日初体験をしたばかりの彼女には、キツイのだろう。もっとも、彼女はそれで悦ぶようにされているのだけれど。
実際、いっぱいに広がってバイブをくわえ込んだ秘裂は、ひくひくと蠢き、それ以上の事をせがんでいるようにも見て取れた。
「まだ、これからだからね」
一声かけてから、僕はバイブのスイッチを入れる。
低いモーター音と共に、男根を模したオモチャが、うねうねと動き始めた。
「ひぐっ、あああ……気持ち、悪い……止めて、お願いぃ……」
さっきまでの生意気な態度などかなぐり捨てて、円さんは泣いて哀願する。
それは同時に、円さんがどうしようもないほどに追い詰められている――つまり、身体が感じ始め、心を浸食している証拠でもあった。
実際、彼女の息遣いはどんどんと早く、湿ったものに変わってきていたし、股間を濡らす蜜の量も増えて、今では太股の内側を滴が垂れ落ちていた。
「ははっ、スゴイ濡れてるよ。本当は自分でも、分かってるでしょう? ……やっぱり、マゾのメス豚だね、円さんは」
「ぅう……そんなこと、……ない……あああぁっ」
どれほど口では否定しようとも、身体は反応する。いや、“身体だけが”彼女を裏切り、快楽を供しし続けるのだ。
「なんか、これはこれで、自分のを入れるのとは違う興奮があるね」
しばらくは、バイブをこねくりまわして楽しんでいた僕だったが、ふと、秘裂の上でひくひくと蠢いている小さな窄まりに目が行った。
人工の性器で責められているアソコと一緒に、まるで連動しているように見える。
「こっちも、ヒクついてるよ」
指先にアソコから滲み出た愛液を十分にまとわりつかせると、僕はその指を、後方の孔に触れさせた。
「――ぅっっ!!」
びくんっ、と円さんの白い背中が、これまでで一番激しく緊張した。
跳ね上げるように、顔を後ろに向け、驚愕の表情を浮かべて僕を見る。
「なっ……なにを……!?」
「うん。なんだかこっちも、物欲しそうに動いてたから」
「そんな……っ、やだ、変なことしないで!」
それでは、これまで僕がやってきたことは、変なことではないと言うのだろうか?
彼女の抗議を無視すると、僕は指先を窄まりに突き入れた。
きつくて、滑らせた指でも第一関節まで入れるのが精一杯だったけれど、中に入った分を小さく動かすだけで、面白いように全身で反応してくれる。
「……ぇ、いぁ……ああ」
だけど、それ以上はどうにも指を入れられない。買ってきたアダルトグッズの中には、アナル用のおもちゃも含まれているのだが、これではどうにもならなそうだ。
エロマンガとかにあるように、少しづつ、受け入れることが出来るよう調教しなければならないのだろうか。
そこまで考えて、ふと気が付く。
僕には、別の方法があるではないか。
手を伸ばして円さんの髪を掴むと、顔を上げさせる。そのまま、右手の人差し指の先端にある痣を、彼女の額に突きつけた。
「え……?」
指先に籠められた魔力が働き、顔からは全ての表情が消え失せ、彼女が深い催眠状態に入ったのが分かる。
僕は彼女に囁いた。
「いいかい、円さん。これからバイブを入れてあげるから、お尻の力を抜くんだ。バイブが入ったら、力を入れてもいいからね」
こくんと頷く彼女を確認して、手を離す。
「はあっ……、ああ……ぁっ」
とたんに催眠状態は解かれ、彼女は再び喘ぎ声を洩らし始めた。
僕は円さんに入れているのとは別の、鉛筆のように細いバイブを手にとって、それを彼女の股間になすりつけた。表面に、愛液を十分にまぶす。
表面がてらてらと濡れるそれの先端を後門に押し当てると、円さんは焦ったような声をあげた。
「ちょ……ちょっと、そこは、違う……っ」
「いいんだよ。このバイブは、ちゃんとこっち用だし。それにメス豚の円さんには、やっぱり尻尾があった方が自然でしょう?」
彼女の抗議を聞き流すと、僕は一気に彼女のアナルを、バイブで貫いた。
「ぅぐっっ……あああぁぁっっ!」
魔力による催眠のおかげで、小さな肛門が、イヤらしい玩具を簡単に受け入れていく。
押し潰されたカエルのような悲鳴を上げて、円さんは、ほっそりした背をくねらせてもがいた。
「ふぅっ、……ああ、はあ……ぁっ」
額にじっとりと脂汗まで浮かべて、耐える円さん。その様子を見物しながら、僕はさらに、後ろに入ったバイブのスイッチを入れる。
「ん、……ぅああっ」
前後の坑を同時に責め付けられ、円さんは奥歯を噛みしめる。奥歯が擦れる音が、僕にまで聞こえてきそうな表情だった。
だがやがて、彼女にかけられた暗示が、苦痛を押し越える。堤防がひび割れ、その隙間から水が漏れ出すように、彼女の息遣いが、再び悦楽の艶を帯びはじめた。
「わた……し、壊れる、こわれちゃ……う……よぅ、ぁあ」
苦痛と、屈辱と、そして快感。それらが彼女を、グチャグチャに責め立てているのが、傍目にもよく分かる。
僕は、凄惨ともいえる彼女の姿に、自分が限りなく亢奮しているのを自覚した。言葉も忘れて、ただ、見続けることしかできない。
ズボンの中では、いきり立ったモノが窮屈さを訴え、痛いほどだ。
「こわれ……ちゃう、……うっ、ぅぅっ」
これは、ただセックスをするだけのときとは、全く別のもの。もっと暗くて、身体を焦がす、そんな欲望。ただ射精すれば、それで満足できるものでは、まったくない。
僕はただ、じっと円さんが身をよじる様子を、だまって見続ける。
「ぁあ、……やだ……来る、きちゃう……っ」
円さんの声が、いよいよ切迫したものになっていく。もう、保たないのだろう。
涙とよだれ、それに鼻水でぐしょぐしょになったマットに顔を擦り付けながら、彼女は最期の時へと辿り着く。
「くる……ああ、ぁ……ぁぁああああっっっ!!」
全身を痙攣したようにビクビクと震わせながら、円さんは、苦痛の中に絶頂を迎え、そのまま意識を手放した。
《 3 》
“~~~♪ ~~♪”
玄関の呼び鈴が鳴る。床にうつ伏せになっている円さんは、まだ意識がはっきりと戻っていないのか、反応しない。
「……ああ、来たのか」
僕はちょっとだけ考えてから、彼女のことは放っておいて、部屋から出て玄関へと向かう。
部屋に戻ったときには、円さんはまだ呆然とした顔をしていた。が、のろのろと顔を上げ、僕と――そして僕の後ろに目をやると、悲鳴を上げた。
「キャ……や、やだっ、見ないで……見ないでぇっっ!」
両手を後ろで縛られた彼女には、身体を隠す術がない。それでも必死に、体を丸めて、少しでも恥ずかしい部分を守ろうとする。
でもそれはやっぱり無駄な努力で、僕と――僕の後ろにいる三人の男達には、何も隠せはしていなかった。
「おいおい、マジだよ。本当に天川先輩じゃん」
「うわっ、スゲー。何アレ、バイブ? もしかして、ケツに入ってるんじゃねえか?」
興奮して騒いでいるのは、クラスの友人達。田中と、それに佐藤に木村の三人だった。
エロ雑誌の写真などではない、本物の女の子の裸――しかも、学校でも美人で有名な先輩の艶姿を前に、目を血走らせながら興奮している。
「助けて、やだ……見ないでよぅ」
絶望したように泣き崩れる、円さん。
そんな彼女に歩み寄ると、僕は彼女の頬を出来るだけ優しく撫でてあげながら、説明してやった。
「こいつら、僕の同級生なんだ。
一昨日の、円さんが犯されて、処女だったくせにイっちゃった話しをしてやったら、どうしても信用してくれなくてさ。それで、円さんは本当に淫乱なメス犬だってことを教えてやりたくて、呼んだんだ」
「あなた、……まさか」
何かに感づいたように、顔色を真っ青にする円さん。その表情があまりに愛おしくて、僕はまた意地悪をしてやりたくなる。
「うん、そう。こいつら、まだ女とシたことが無いって言うから。それなら、ちょうど良いから、変態の円さんで体験させてあげようと思って。だから、連れてきたんだ」
「いや……いやぁ……」
必死に首を左右に振り、顔をマットに埋めて啼き始める。
そんな彼女の様子を見て、怖じ気づいたのだろう。部屋にやって来た連中のひとり、木村が、おずおずと僕に話しかけてくる。
「おいおい、やばいんじゃないか? そりゃ、天川センパイとヤれるなら、嬉しいけどさあ。後で、警察に逮捕だとか、いやだぞ」
この期に及んで怖じ気づく木村に、僕は馬鹿にした笑いを返してやった。
「なんだよ。気が進まないなら、帰れよ」
言い捨てて、円さんのところに行く。
「ああ……やぁ、……いやなの……ねえっ」
壊れたCDのように繰り返す円さんを、道具でも扱うように、ひっくり返して仰向けにする。そのまま、コントロールスイッチを操作して、前後に刺さったバイブの振動を、オンにしてやった。
「ひあっ、あああ……っ!」
悲鳴のような声をあげる、円さん。
縛られて不自由な格好になっているにも関わらず、細く引き締まったからだが跳ね上がったように揺れる。
「ふぁ、やめ……これ、止めてっ……お願い!」
だがその声には、明らかに悲痛以外の感情が混じっている。
当然だ。僕が、そうしたのだから。この右指の力で、彼女は屈辱を感じれば感じるほど、躰が勝手に快感を生み出すようになっているのだから。
プライドの高い円さんが、見知らぬ少年達の眼前でバイブで嬲られて、よがらないはずがないのだ。
「そろそろ、いいかな」
十分にほぐれたと判断し、バイブのスイッチをオフにする。
後ろのは入れたままで、前のバイブだけ抜き取ると、代わりに僕のペニスを突き込んでやった。
「あ、あああ……」
本人がどれほど心では嫌がっていようが、円さんのソコはぬかるんだ感触で、心地よく僕を迎え入れる。ただキツイだけだった、処女を失った一昨日の夜とは、感触が違う。
彼女にそれを思い知らせるように、そして固唾を呑んで見物している三人の男達に見せつけるように、僕は腰を大きく動かし始めた。
「ぅあ、ああ……やだ、なんで、わたし……」
身体に感情を裏切られ、円さんの口からうわごとのように、恨みの言葉がもれる。でもそれさえ、官能の色が混ざっているのは、聞いた誰もが分かっただろう。
すすり啼く彼女に、そのことを自覚させるべく、わざと繋がった場所から大きな音がするように、腰を使う。
「うあ……ああ、……いや、ぁ」
さんざんバイブで身体をいたぶられた円さんの膣は、ようやく本来受け入れるべき、男のペニスという侵入者を得て、歓喜に震えている。
どれほど彼女がそれを否定しようと――いや、否定すればするほどに――円さんの柔肉は甘く男を歓待し、その悦びを彼女へと伝えていく。
だが簡単に高まってしまったのは、彼女だけというわけでは無かった。
僕もまた、円さんの乱れる姿をずっと見ながら焦がしていた亢奮に、腰の奥からせり上がってくるものを感じている。
「円さん……また、胎内で出すからね」
「いゃ、ああ、あ……」
ガタガタと身体を揺する円さんを、追い詰めていく。
僕たち二人の上に、田中たちの視線が釘付けになっているのを、肌で感じる。それは、円さんも当然気づいているはずだ。
だからこそ、彼女の官能は、際限なく全身に燃え広がっていく。
「ぁあ……なんで、また……私、イヤなのにぃ……ぃぐっ!」
否定の言葉を口にしながらも、その声の響きは、濡れた淫猥な甘さをますます強めていく。
さざめきながら肉棒に絡みついてくる膣壁の感触に酔いしれながら、僕は円さんの一番奥で、弾けた。
「あぁっ、くぅ……っ!」
同時に、円さんが背筋を反り返らせて、硬直する。僕のモノを包む媚肉が、ギュうっと収縮し、胎内に吐き出されたものを一滴なりとも逃がすまいとしているようだった。
「あ、あぁ……また、中で……」
昨夜、何度も麻美さんに出したはずなのに、それでもまだ、自分でも呆れるほどの量を円さんの中に注ぎ込む。
絶頂の余韻と悲しみが混ざり合った表情で、彼女僕の顔を見上げていた。
「おい、あれマジでイってねえ?」
「すげぇ……」
初めて目にする本物のセックスに、田中たちがひそひそと感嘆の声をあげる。
全てを吐き出し終わり、円さんの中から自分のモノを抜き取ると、僕はヤツらの方を向いて、言った。
「どうするんだ? これでまだ、帰るって言うなら、もう止めないけど」
最初に反応したのは、田中だった。
「俺が、一番な」
かちゃかちゃとベルトを外して、下半身を露出させると、むしゃぶりつくように円さんに手を伸ばす。
腰を持ち上げさせて、うつ伏せにさせると、身動きの取れない彼女に、後ろから挿入する。無我夢中になって、腰を振り始めた。
「クソ……っ」
佐藤が短く叫ぶと、ズボンを降ろして勃起したペニスを取り出す。
そのまま、田中に犯される円さんを血走った目で見ながら、自分の手で自慰を始める。
「お前、なにやってるんだよ。勿体ないじゃないか」
苦笑いしながら、僕はソイツの為に、用意をしてやることにした。
アダルトショップで買い込んだ道具の内、適当と思えるものを取り出す。
「はぁ……やめてっ……、んぐ、んんぁぁ……!」
名前はよく分からないが、口枷の一種だろう。口に当たる部分に穴が空いていて、そこからペニスを入れられるようになったヤツだ。装着されれば、口を閉じることも噛みつくことも出来なくなる。
哀願の声を無視して口に押し込むと、頭の後ろでベルトを止める。
「ほら、これでいいだろ?」
「ああ……、すげえよっ」
顔を猿のように真っ赤にした佐藤が、さっそく円さんの頭を抱える。そのまま、口枷に空いた穴から、彼女の口内に隆起した物を押し込んだ。
「ふごっ……へぁ、ああ……っ」
喉の奥を突かれ、えづく円さん。口を閉じて反抗することもできない彼女の喉を、しかし手加減も分からない佐藤は、夢中になって突きまくる。
出遅れて残された木村は、夢中になって上級生の形のいい胸を揉み始めた。
「柔らけぇ……ホントに、触るだけで気持ちいいんだ」
初めて体験する女の胸の感触に、夢中になって手を動かし、円さんのバストを揉みしだく。
三人に犯されながら、円さんは身動きがとれないままに、身体を震わせていた。彼女の中で、今どんなことが起きているのかを想像すると、嗤いがこみ上げてくる。
苦痛や屈辱、悲しみを与えられれば与えられるほど、勝手に身体は悦楽に痺れていく。
絶望と、快楽と。その両方に挟まれ、潰れそうになっている彼女は、とても可愛らしく見えた。
「う、ぁっ!」
田中が短く吼えると、腰を円さんの腰に押しつけたまま、ビクビクと蠢かせた。
彼女の胎内に、射精しているのだ。
それとほとんど同時に、口を使っていた佐藤も、欲望を輩出する。
「うぇ、えええ……」
口枷の所為でマヌケにしか聞こえないうめき声を出しながら、円さんの口から、白濁した粘液が、唾液と共に垂れ落ちた。
「次は、俺だからなっ」
場所が空いたことを見てとり、胸に夢中になっていた木村が、慌ただしくズボンと下着を脱ぎ去る。二人を押しのけ、円さんの腰を掴むと、もう我慢できないとばかりに、勃起した肉棒を突き込んだ。
「ぅえ、あ……あぁ」
顔を涙とよだれ、そして精液で汚しながら、円さんはただ声をもらす。今の彼女に出来ることなど、他に何も、無いのだから。
そんな彼女の肌に、佐藤と田中も、再び手を伸ばす。
「ふあ……あぁぁ、……あああぁ」
際限ない凌辱に、滂沱と泣き声をこぼす、円さん。
その彼女の惨めな姿を見ながら、僕は暗い満足感を、胸一杯に感じていた。
三人がやっと満足したのは、もう夕方近くになってだった。
まったく、半日かけて好き放題してくれたおかげで、事が終わった頃には、円さんは三人の出した精液でドロドロの状態だった。
綺麗な顔や黒髪はべとべとに汚され、膣からも白い粘液がこぼれ落ちて内股を濡らしている。彼女は壊れた人形のように、マットレスの上に横たわっていた。
「ぁぁ……ぅ」
犯し抜かれた円さんは、惨めな姿で、ぐったりと身動きもせずに、呆とした視線を宙に彷徨わせている。
どうにも動けそうにない彼女に、指の力で身体を洗うように命令し、シャワーを浴びに行かせた。その間に、三人を使って部屋の掃除をさせる。マットレスは汚れきって、もう使う気になれないので、これも処分した。
部屋がキレイになると、彼等をとっとと追い返した。
心配はない。連中は、指の支配下にあるのだから。
もともと、三人をこのマンションに来させたのも、円さんを犯させたのも、僕が学校で彼等にそう“仕込んで”おいたからだ。ひとりひとり、順番に物陰に呼び込んで、集めた。
当然の事だが、今日のことは全て忘れてしまい、どこかゲーセンかカラオケで遊んでいたという偽の記憶が残るだけにしてある。このマンションや円さんのことは、脳裏には残らない。
僕の聖域が他人に知られることは、絶対に許されないのだ。
マンションを出て駅に向かう三人をベランダから見送り、ふと気が付いた。
「あれ?」
円さんが、まだ浴室から出てきていない。もう、ずいぶん時間が経ったのに。
「……やばいっ」
最悪の事態が、頭を掠めた。慌てて、浴室に向かう。
今更思い出したが、あそこには、カミソリ――手首の動脈を切るには十分だ――も置いてあるのだ。
輪姦され、ボロボロにされた少女がそのことを考えても、まったく不思議ではない。
“ザ――……”
浴室から聞こえてくるのは、シャワーから出るお湯が流れる、単調な音だけ。
「くそっ」
バタンと音を立てて、乱暴に扉を開く。
そこには、僕が心配していたような光景は無かった。少なくとも、床が赤く染まっているなどということは、ない。
もうもうとした湯気の、円さんは、浴室の床に座り込んでいた。出しっぱなしのシャワーが、彼女の身体に降り注いで、髪を重く濡らしている。
「あ……」
ゆっくりと顔が上げられ、彼女が僕を見る。指を使っての指示通り、身体は洗い終えたのだろう。髪や肌についた精液は、洗い流されているようだった。
はじめは呆然としていた視線が、僕を認めたらしく、徐々に焦点を合わせていく。
「あ、ああ……」
だらりと開けられた口元から、意味を成さない声が漏れる。
そうして彼女は、力の入らない下半身を引きずるようにして、僕の足元にすり寄ってきた。
力無く、そのくせまるで何かに取り憑かれているような懸命さで、縋り付くように、僕の腰にしがみついてくる。
「円さん?」
もどかしげに、僕が着ているジャージのズボンに手を掛けると、トランクスと一緒に降ろす。
何も言わずに、むき出しになった僕のペニスに、円さんは顔を寄せた。
「ん……んんっ」
勃起していない、柔らかいままの僕のベニスを、ピンク色の唇に含む。そのまま不器用な舌使いで、フェラチオをはじめた。
「はあ、……んぅ、れぁ……」
一昨日、処女を失ったばかりの彼女だ。もちろん、口での愛撫の仕方など分かっていない。
そんな、まったく慣れていない動作での奉仕だとしても、こそばゆい刺激に、僕のモノは反応を見せ始めた。
だけど僕は、彼女の口から半分勃起した陰茎を抜き出して、円さんに尋ねた。
「円さん、何がしたいの?」
わなわなと唇を震わせながら、円さんが泣き顔で、僕を見上げる。
「お願いします、何でもします。もう、何をされても逆らわないから……」
顔には濡れた髪がかかって張り付いているが、それさえ払おうともしないで、彼女は僕に懇願し始めた。
「直道君の言うことは、何でも聞くから。だからもう、他の男の人とは、させないで……したくないのっ」
「……」
「助けて……なんでも、するから……」
恥も何もかもを捨てて、歳下の凌辱者に懇願し、許しを請う。
彼女の瞳には、いつもそこにあった強い意志が、粉々に砕けて姿を消していた。
(折れたか……)
そう。円さんは、挫けたのだ。
勝ち気な美人で、それに見合うほどに頭も良く、スポーツもできる。周囲からの賞賛を集め、その自信に満ち溢れていた、彼女。
その彼女が、ねじ伏せられ、屈服して、自ら僕に縋り付き、淫らで惨めな奉仕を懸命に行っている。
公園で写真を撮ったとき、彼女を指で操り『僕を許すな』と刷り込んでおいた。なのにこの様子でるというのは、それほどまでに――許す、許さないなど、そんな拘りが意味を持たないほどに――彼女は、徹底して絶望したということだ。
僕は、おおよそ最高の美少女を汚し抜き、脚で踏みにじり、そうして彼女を奴隷のように服従させたのだ……
なのに、
「――つまらないな」
「え……?」
とても、つまらない。何故か?
(ああ、僕は、そうだったのか)
――僕は、理解する。
僕が魅力を感じ、惹かれていたのは『格好のイイ、天川円さん』だったのだ。
いつもすらりと、キレイに背筋を伸ばして歩いていた、円さん。
文武両道で、周囲から尊敬と羨望をもって見つめられていた、彼女。
クラスの男達は、みんな彼女を遠くから眺めていた。惹かれはしても、どうせ手には入らないものだと、はじめから諦めのため息を吐いていた。
そんな円さんを汚すのは、楽しかった。
新雪を、靴でメチャクチャに踏みつけ、その美しさを蹂躙する快感。……だが、その後に残るもの、手に入るものは、何も無い。
たまらない興奮が過ぎ去った後に残るのは、ただ、空しさだけ。自分の足跡でぐちゃぐちゃになった雪面を見下ろしたとき、それを理解できない人間など、いないだろう。
だからこのゲームは、いったんこれで終わり。これ以上は、続きようがない。
「お願いします。私を、抱いて……お口でも、アソコでも、どこでもいいからぁ」
「いいよ。もう、黙って」
必死に言葉を並べ立てようとする彼女の額に、人差し指を突きつける。
指の魔力が発動し、円さんの顔から速やかに表情が消えていった。
「さて、と。じゃあ、どうしようか」
しばらくの間、思考を巡らす。
そして自分なりに納得できる方法を見つけると、僕は彼女の耳朶に口を寄せると、囁き始めた。
「いい? よく聞くんだよ、円さん……」
《 4 》
「須藤直道君、今いますか?」
週明け、月曜日の教室。昼休みも半ば過ぎ、ほとんどの生徒が食事を取り終わった頃、ひとり自分の机で雑誌を読んでいた僕の耳に、そんな声が聞こえてきた。
顔を上げれば、出入り口の所で、クラスの女子が誰かと話している。
「須藤クン、用事があるって、先輩が来てるよ」
クラス中の視線が、僕に集まる。
それをひしひしと感じながら、僕は出入り口に向かった。
「こんにちは。天川先輩」
そこには、円さんと、彼女の友人が立っていた。
挨拶をした僕に対して、円さんは、綺麗な顔にばつが悪そうな表情を浮かべて口を開いた。
「その……須藤君に、謝りたくて。ゴメンね、変な誤解をして、怒鳴ったりして」
隣の友人は、「仕方がないなあ」といった表情で、謝る円さんを見ている。僕の方にもちらりと視線を向けてきたが、そこには警戒心はあるものの、先日までのギスギスした感情は浮かんでいなかった。
「いいんですよ。誤解が解けたなら、それで僕も、ホッとしました」
僕と、円さん。このところ、皆の噂の的になっている二人。周囲の生徒達が、僕らに注目し、聞き耳をたてている。
「でも、私、酷いことを言っちゃって……」
「僕にも、誤解を受けるような行動があったわけですから。気にしないで下さい」
これで、良いだろう。
周囲の僕に対する好奇心が、少しづつ失われていくのを感じた。
もちろん、円さんが教室に来て僕に謝罪しているのは、僕が彼女をそう操ったからだ。 一昨日、つまらない壊れ方をしてしまった彼女を、指でいじったのだ。
今回の騒動に関して、都合の悪い記憶――彼女が覗き見た僕と麻美さんの行為や、僕が彼女を脅迫したこと、レイプあるいは輪姦したこと――は、全て封印するよう命令した。
同時に、新しい記憶を植え付けた。ここ数日、僕と円さんが学校で衝突したのは、彼女の誤解が原因だった、と。誤解だったからには、周囲の疑惑を解き、須藤直道の名誉を回復するためにも、みんなの前で謝らなければならない。
そして僕の思惑通り、衆人に囲まれての円さんの謝罪は、僕に対する周囲の疑惑をすっかり薄めてくれた。
「それじゃあ、ね」
立ち去り際の彼女は、すっかり元通りの円さんだった。
真っ直ぐな長い黒髪をたなびかせ、自信にあふれ、勝ち気そうな表情を浮かべた、完璧な美少女。
背筋を伸ばして歩み去る彼女の姿を見送ると、僕は自分の席に戻った。
机に突っ伏し、顔を隠す。
――にやける口元を、クラスメイト達に見られたくなかったのだ。
今は、これでいい。忘却の内に、ゆっくりと、傷を癒すがいい。
そして、もとの強くて綺麗な円さんに、心が治りきった、そのときには……
『またいつか、今度はもっとちゃんと、円さんの魅力を活かしたやり方で“壊し直してあげる”から……ね』
焦げるような期待を胸に、僕はこみ上げてきそうになる笑い声を噛み殺していた。
< 了 >