ガツン’

(『ガツン』はジジ様の作品です)

「課長!」

「友里恵ちゃん!」

 都心から離れると辺り一面真っ暗になる午前零時。
 こんな時間に男と女がやる事と言えばSEXしかないだろう。
 もちろん多少の例外はあるかもしれないが少なくとも日本ではSEX一色だ。
 今、『課長』と『友里恵』と呼び合う二人ももちろんSEXの真っ最中なのである。

「本当に大丈夫なの?」

「んっ?」

「もし奥様が今帰られたら・・・・」

「心配しなくても良いよ。あいつは今頃温泉宿でアホ面さげて寝てるよ」

 彼はそう云うとスケベ面を下げて一気にズボンをずり下ろした。
 そう、実は彼等は日本人なら一度は経験するという不倫という間柄なのだ。

「友里恵、今度のプロジェクトは全てお前に任せるからな」

「嬉しい!でも・・・・・原口さんは」

「分かっているよ。適当な離れ小島の支社にでも転勤してもらうよ」

「課長大好き」

 しかも思いっきりセクハラも入っている。

「あぁん、課長。そこは」

ぺろぺろぺろぺろぺろ

「ひぃぃぃ~」

 親父のねちっこい舌技は彼女のツボを的確に捉えている。

「もう課長ったら甘えたなんだから」

「駄目だよ友里恵ちゃん、会社じゃないんだから今は『ひろりん』と呼んで」

 先月40歳の大台に乗った博文は舌足らずなしゃべり口調で実の娘ほど歳の離れた彼女に甘えている。

「ひろりんかわいい。じゃぁ私の事も『ゆりゆり』て呼んで」

「うん、ゆりゆりのおっぱい欲ちぃ」

「もうしょうがないわね。はいはい」

「うわぁ~い、はむはむはむじゅるじゅるじゅばじゅばじゅば」

 口調とは裏腹にその行為は飢えた野獣そのものだ。

「歯を立てちゃ駄目、ひぃ、ひぃぃぃぃ~」

「あれ?ゆりゆりのここ変だよ」

「えっ?」

「いっぱい濡れちゃって。しかもねばねばだ」

「あぁん、ひろりんの変態」

 二人の行為は一時間にも及んだ。

「はぁん、ゆりゆりもう我慢出来ない」

 親父のしつこい前戯で彼女の我慢は限界に来ていた。

「欲しいの、ひろりんの欲しいの」

「んっ、何が欲しいんだい」

 彼はそう言うと人差し指と中指の二本を彼女の口に突っ込んだ。

「ひんひん、ひんひんほひぃの~」

 彼女はたまらず彼の体に巻きつけている細い二本の腕に力を入れた。

「ゆりゆりかわいいよ」

にゅるっ、にゅるにゅるにゅる

 既にぬるぬるで滑りやすくなっている彼女の下半身の一部は容易に彼のペニスを受け入れた。

「あぁん、ひろりん。焦らさないで。もっともっと突いて」

 もちろんそんな言葉に容易に乗る彼ではない。
 腰痛持ちの彼にとってそんな二十代のようなSEXは自殺行為なのだ。

にゅるっ!・・・・・にゅるっ!・・・・・・・にゅるっ!

「あぁん、ゆりゆりおかしくなっちゃう」

 彼はますます調子に乗り彼女の中で『のの字』などを書いている。

「ひぃ~、いいの、いいの、凄く・・・・・いい」

 枕元に置いてあるゴムへと伸びた彼の腕を彼女が制する。

「駄目!」

「ゆりゆり」

「ひろりんを生で感じたいの」

「でも」

「心配しないで。ひろりんには迷惑かけないから」

「ゆりゆり」

 彼は『なんて理想的な展開なんだろ』と思いながら全力でピストン運動を始めた。

「あっ、あっ、こんなの初めて~」

「ゆりゆり、僕もう」

「イキそうなの?」

 彼は首を小さく縦に振った。

「イッていいのよ。一緒にいこう」

「ゆりゆり!」

「ひろりん!」

 まさに二人が絶頂をむかえようとするその時ベッドと対をなすように置かれている洋服タンスの扉が開いた。

「あなた!」

 彼は反射的に友里恵の中に入っていたペニスを引っ込めた。

「和江、どうして、温泉に行ったんじゃ」

 鬼のような表情をした彼女はこの男の妻である。

「あなたの様子が変だったからずっとここで隠れて見張っていたのよ」

 それも異常な行為だ。

「お、俺をはめたのか」

「はめてたのはあなたじゃない」

 彼のペニスの先から白い液体が勢いなくどくどくと流れ出した。

「いや、違うんだ。誤解だ」

「何が違うのよ」

 言い逃れの出来ない状況に彼は混乱している。

「ほら、これはあれだ」

「あれって何よ」

「ほら、ガツンだ。そうそう、ガツンのせいなんだ」

 博文の思いつきの言葉で辺り一面に白けた空気が漂った。

「いやぁ~参ったよ。ガツンには逆らえないから」

「あなたいったい何を言ってるの」

 妻は鬼のような表情のままで彼に詰め寄った。
 もちろんそれに対し適当に『ガツン』などと意味不明の言葉をでっち上げた彼にまともな言い訳が出来る筈がない。

「ほら、その~ガツンだよ。なぁ、ゆりゆり」

「えっ、そ、そうそうガツンなんですよ奥さん」

「『ゆりゆり』ですって」

 怒りの頂点に達した彼女の手が彼の首に伸びてきた。

「ぐ、ぐるじぃ~やめろ和江」

「奥さん落ち着いてください」

 まさに地獄絵図。
 その場は修羅場と化した。

 そして3ヵ月の月日が流れた。
 当然の事のように博文と彼女は離婚の方向へと進んでいる。

「先生なんとかしてください。このままだと100パーセント私の方が悪いという事になります」

 今、博文は離婚調停に向けて弁護士の元へ相談に来ている。

「でも浮気現場を目撃されたんですよね」

「そこをなんとか浮気じゃなく『ガツン』だったんだという事に出来ませんか?」

「出来ません」

 当然のことながら弁護士はきっぱりと言い切っている。

「だいたいそのガツンて何なんですか」

「それは・・・・・」

「突然人を支配する正体不明の物でしたっけ」

 博文は弁護士の顔色を伺いながら首を縦に振っている。

「冗談はやめてくださいよ。だいたいガツンのせいだなんて言ったら弁護している私もいい恥をかきますよ」

「やっぱりそうですか。無理がありますかね」

「無理だらけです。だいたいどうやったらそんな馬鹿な発想が生まれるんですか?」

 人間追い詰められればとんでもない発想が生まれる物だ。
 今まさに博文がその状態なのである。

「そんな話しはアホらし過ぎて流石の猫もツッコミませんよ」

「はい」

 弁護士にいいように言われても博文は言い返せない。

「それにしてもね」

 弁護士はとうとう笑いだした。

「ガツンですか」

「は、はい」

「こんな状況ですから混乱されているのは分かりますがガツンはないですよね」

「お恥ずかしい」

「まさか他にも変な事を考えていらっしゃるとか?」

「それが実は昨晩、真剣に『ガツン特捜部』なんていうのも考えていたんですよ」

「えっ、特捜部ですか」

「更に『ガツン保険』なんて物も」

「保険ですか。それは傑作ですな」

 弁護士は大笑いしながら右手に事務所のロゴの入ったポケットティッシュを掴み博文に手渡した。

「じゃぁお帰りはあちらなので」

「あっ、先生」

 博文は当然の如く弁護士事務所から追い出された。

「う~ん、やっぱり小庶民だという事を前面に押し出した方が同情も得られるかな」

 弁護士事務所を追い出されてから二時間後、博文は『あぁでもない、こうでもない』とつぶやきながら夜の街を歩いていた。

「『小庶民同盟万歳!』なんて言って」

 博文はそうつぶやきながら何気なし前方を歩いている女性に目をやった。
 その瞬間。

ガツン!!

 女性の後頭部から鈍器で殴られたような音が発せられた。

「えっ?」

 突然の出来事に呆然とする博文のもとへその女性が近づいてきた。

「実は今ガツンにやれましたの。ですからおちんちんなめさせて」

「はぁ?」

 設定ぶっ飛ばしの展開に博文はすっかり混乱している。

「いや、あの、君、その~保険が・・・・」

 博文の言葉は全く無視して彼女は博文のズボンをずり下ろしている。

「うわぁ~おいしそう」

「いや、美味しそうじゃなくてこんなところで困るんですけど、うっ」

 彼女は有無を言わさず博文のペニスにむさぼりついた。

「ぱくっ、まむっまむっまむっまむっ」

 何処からか『きゃ~変態』という女性の叫び声がしている。

「ち、違うんです。彼女はガツンによってですね。うぅ~」

 彼女の舌は裏筋を巧みに刺激している。

「みなさん誤解しないでください。これは私の趣味じゃなくガツンが、・・・・あっ、そこは」

 いつしか博文の周りには多くの人だかりが出来ている。

「あぁ、これはフェラチオじゃないんですよ」

 思わず博文は自ら腰を振っている。
 その時だった。

ガツン!!

 再び鈍器で殴られたような音が周囲に鳴り響き一人の女性が博文に近づいてきた。

「あぁん、私もガツンにやられちゃった。お願いエッチして」

「えっ、そんな連発で出来ないよ」

ガツン!

「えっ?」

ガツン!ガツン!ガツン!

 堰を切ったようにあちらこちらでガツンという音が乱れ飛んだ。

「いや~ん、ガツンだわ。お願い、私のオナニー姿見て」

「あぁん、なめて、なめて、美紀の体いっぱいなめて」

「無茶苦茶にして~」

 すぐさま周囲は全裸の女性達で溢れかえる。

「おぉ、俺もガツンにやられたぞ」

「私もやられちゃった」

 便乗する者も出て来て周囲は乱交パーティー状態だ。
 こうなれば警察も迂闊に手を出せない。
 遠巻きから拡声器を使い警告するだけだ。

「皆さん、落ち着いてください。皆さんのやっている事は犯罪です」

ガツン!!

「でもガツンだからしょうがないですね。では、私も」

 博文は混乱に紛れなんとかその現場を抜け出した。

 翌日、博文は同期の今川と馴染みの喫茶でくつろいでいた。

「いやぁ~ひどい目にあったよ」

「そうか、俺は羨ましいけどな」

「笑い事じゃないよ」

 そう言って博文は今川に目をやった。
 この二人は入社時からなぜか馬が合い課長、係長と役職に差が出た今も深い付き合いを続けている。

「でもお前があの騒動の中にいたとはなぁ」

 街中での乱交パーティー騒ぎは当然の事ながらその日のトップニュースとして伝えられていた。

「でも本当なのか、ガツンて?」

「本当の事だよ。世間じゃあれは全員いかれたカルト宗教信者のせいだとか言っているけど本当にあるんだよ」

「良いなぁ、俺も味わいたいな」

「そんな良いもんじゃないよ」

「でも有無を言わさずいきなり美女から『私を抱いてっ!』というのは男の夢じゃないの」

「それはたしかにそうだけど」

カラン!カラン!カラン!

 その時、扉に備え付けられたクラッシックな鐘の音を鳴らし美しい女性が入ってきた。

「私を抱いてっ!」

 美女はそう叫ぶと博文に近づいてきた。
 もちろんテーブルの下では博文と今川の右手が堅く握られている。

「いきなりですいませんがガツンなんです」

「はぁ、ガツンですか」

 彼女は首を縦に振ると上着に手をかけた。

「参ったな、彼女ガツンらしいぞ」

「それは仕方ないな」

 男性二人はそう言いながらズボンをずり下ろしている。

「お客さん困ります」

 そんな状況の中、この喫茶でアルバイトをしているウエイトレスが当然の如く飛んできた。

「いや、でもこのお嬢さんがガツンなんで」

「お客さんふざけないでください。ここは」

ガツン!!

 ウエイトレスの後頭部から鈍い音が発せられた。

「私も抱いて!」

 彼女は押し倒すように博文に飛びついた。

「では俺はこのウエイトレスのお嬢ちゃんを助けるから」

「分かった!俺はこちらの姉ちゃんを助けよう」

「今、助けてあげるよ!」

 またもや乱交パーティーが始まった。

「はぁ~ん、こんなねちっこい愛撫初めて」

「欲しい!欲しいの!」

 親父達は互いに競い合うかのように自らの舌と指に全神経を集中している。

「あぁん、気持ち良い。私を彼女にして」

「したるがな、したるがな」

「良いのか今川、お前はまだ家庭持ちじゃないか」

「はぁ?聞こえんなぁ。うりゃ!」

「あは~ん」

 客の来ない店内で歓喜の声がこだまする。

「あんっあんっあんっ、痺れちゃう、あそこも体も痺れちゃう」

「どうだ!役職レースではお前の方がリードしているがSEXは俺の方が上だぞ」

「なんのなんの、勝負はこれからだ」

 腰痛持ちなのも忘れ博文は無理な体勢でのピストン運動を始めた。

「いや~ん、こんなのありえない。凄いよ~!久美子壊れちゃう」

「あんっ、こっちの方が凄いわよ。さっきからイキっぱなしよ。あっ、また」

 いつの間にか女性二人も競い合っている。

「あんっ、いくいくいくいくの~」

「もう~駄目!」

 女性二人の体がほぼ同時に震えだす。

「久美子愛しているよ!」

「俺も愛しているぞ!」

 どさくさ紛れに無茶苦茶な事を言っている男達は頂点に達した。

どくどくどくどくどくどく・・・・・・・

「あぁん、入ってる。久美子の中にいっぱい入っているよ」

 彼等は彼女達をしっかりと抱きしめた。

 そして一ヶ月の月日が経った。
 鼻歌交じりの博文はとっても幸せそうだ。
 実はあの後、街中の乱交騒ぎをテレビのニュースで見た妻が帰ってきたのだった。

「ごめんなさい。あなたの言っていた事は本当だったのね」

 彼女は涙を流しながら博文の胸に飛び込んできた。

「ごめんなさい。私あなたを信じてなかった」

「いいんだよ。もう過ぎた事だ」

「でもあなたはガツンにやられたあの人を救う為にやっていただけなのに私ったらあんなひどい言葉を」

「分かれば良いんだよ」

「あなた」

「和江」

 こうして若きウエイトレスを愛人に持つ二重生活が始まったのである。

「それにしても昨晩の久美子は激しかったな」

 博文は腰を押さえながら後ろめたさの塊であるお土産のケーキを手に家に帰ってきた。

「ただいま!」

 博文は声を上げてみたが誰も玄関に現れない。

「もう、驚かせようと思って折角早く帰ってきたのに」

 博文はそうぼやくと背広を脱ぎながら廊下を奥へと進んだ。

ギ~ギ~ギ~

「なんだ?この音は?」

 廊下を進むにつれ奇妙な音がより大きく聞こえてきた。

「ここからだな」

 そう言うと博文はノブノアを右へ回し扉を押し開けた。

「和江居るのか?」

「あ、あなた!」

 何が起こったのか理解出来ず博文は立ちすくむ。
 目の前にはベッドの上で裸で抱き合う妻と見知らぬ男性が居たのだ。

「ち、違うのあなた。誤解よ」

「何が違うんだ」

「ほら、これはあれよ」

「『あれ』?」

「え~と、そう、これはガツン!ガツンのせいなのよ」

 気まずい空気に耐え切れず間男が和江の後ろに回り込んだ。

「ガツン!」

 間男の鼻にかかった声が部屋中に響き渡る。

「あれ~、またガツンだわ。今の聞こえたでしょ。ねっ、ねっ」

「・・・・・・・・・・・。」

 博文は最後にガツンとやられた。

< おわり >

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