凶宴

 聖なる夜の、邪悪な願い。

 それによって一人の男が蘇ろうとしていた。

 不幸を撒き散らす為に・・・。

 此処は大陸の中心、“央都ユートピア”。

 あらゆる物の中心都市である。

 此処は政治・経済・文化・権力・・・全てが集まる場所なのである。

 そして今は年末。

 毎年恒例、“連合政府”が主催する宴会・パーティーがある。

 それは大陸中の要人達が招かれ、王宮さながらの会場で一晩中飲食し、歓談するのである。

 ちなみに、費用は・・・全て自腹。

 税金を全く使わない、というのでこれは黙認されているのである。

 今年も後僅かとなり、ほぼ変わらない顔ぶれが集まった。

 お互いの挨拶も済ませ、パーティーが始まった時、その楽しい筈の時間は惨劇と絶望のそれに変わった。

 突如会場に侵入して来た、たった一人の男によって。

「ハーッハッハッハッ!」

 緊張と恐怖に支配された雰囲気の中、一人の男が中央で剣を片手に哄笑していた。

 パーティーの出場者は、青い顔をしたまま全員壁際に寄っていた。

 震えている者、泣いている者・・・肩を寄せ合っている者。

 その誰もが、男の方を見ようとしなかった。   

 男も周りには何十という死体が転がっていた。

 全員、青い制服を着ており、手には銃や剣が握っているものもあった。

 彼等は侵入者を倒そうと、勇敢に戦った者達であった。

 男に撃った銃弾が自分の体を貫こうとも、得体の知れない力で操られて仲間を殺そうとも。 

「オラァッ、テメー等こっちに来やがれっ!」

 男の声を聞いても、誰も近寄ろうとしない。

 それを悟った男は、剣で勢い良く床を叩いた。

「オラァッ、今この場を支配してるのはこの俺っ、狂八様だっ!従わねえ奴はぶっ殺すぞっ!?」

 そう言われると、人々はお互いの顔を見合わせた後、数歩前に出た。

 だが、それは逆効果だった。

「おいっ!俺を舐めてんのかっ!アアンッ!?」

 そう怒鳴りつけられ、やはり数歩前に出る。

 狂八のこめかみはピクピク引き攣っている。

「いいか、今からこの中の誰かが一回逆らう事に一人ぶっ殺す!」

 その宣言を聞いて、人々は再び顔を見合わせる。

「分かったなっ!」

 何人かは頷いた。

「よーし、そこのネーちゃんかも~ん」

 狂八が指名したのは、オレンジの服に白いエプロンを身に付けた女性だった。

 黒く艶やかな髪を後ろで束ねた、可愛らしい顔立ちをしている。

 彼女は早く行け、という周りの無言のプレッシャーに押され、今にも泣き出しそうな顔して狂八の前に出る。

「メイドか?それとも給仕か?・・・まぁどっちでも良いか」

 狂八はその女を上から下まで舐めるように見、舌なめずりをした。

(思った通りコイツ・・・巨乳ちゃんじゃねえか・・・)

 狂八は喉をゴクリと鳴らす。

 顔とスタイルは中々。

 特筆すべきは、体型を分かり難くする筈の服を着てもなお、それと分かる程自己主張している胸。

(俺の好物・・・)

 狂八は何とか涎を垂らすのを堪える。

(な、何なのよこの男・・・)

 今までも似たような反応をした男はいた。

 でもここまで正面から露骨な反応を示されたのは今回が初めてであった。

「よ~し脱げっ!」

 狂八の口調が変わってきているのに、誰も気が付かない。

 逆らうわけにもいかず、女は黙って脱ぎ始めた。

 服を脱ぎ、下着も脱いだ。

 巨大な胸がブルン、と音を立てて現れた。

 そしてきっと狂八の方を睨む。

 彼女にしてみれば、これが精一杯の抗議であった。

 だが、それ故に彼女は気が付かなかった。

 自分の胸を食い入るように見つめるのは、何も狂八だけではない事を。

 男女問わず、彼女を胸を見ていた。

 大きな紡錘型をした美しいラインを形成し。

 己を束縛する物が消えても、垂れたりはせず。

 ピンク色の先端を、狂八の方へ向けていた。

「おお~っ!!」

 その一種の『芸術』に、唯一露骨な反応を示せる男・狂八。

「スケベヤロ~が、喜んでいるぜ」

 そう言ってニタリと笑う。

 女の顔が不意に紅潮した。

 自分の姿を見ているのは、一人だけじゃないと思い出したのである。

 ・・・実は自らが形成した三角テントを隠すのに、男達は苦労していた。

「跳んでみな」

 狂八はそう言って、手にした剣で自分の肩を叩いた。

 その意図を察し、女は俯いた。

(嫌だけど・・・逆らったら・・・)

 誰かが殺されるかもしれない以上逆らうわけにもず、言われた通りにした。

 彼女が跳び上がる度、着地する度に、大きな胸がブルン、ブルン、と揺れる。

「お~し、お次はコイツだ」  

 狂八は自分の固く、立派なモノを取り出した。

 経験のある彼女は、次に狂八は言う事を予測し、手でそれを掴んだ。

 だが、狂八はそれを止めた。

「上に乗れ」

 近くにあったテーブルをボンボンと叩く。

(そ、そんな事出来る訳が・・・え?)

 流石にためらった彼女の意思とは関係なく、体が勝手に動き出す。

 彼女はテーブルに座ると、自分で足を開いた。

(な、何で私がこんな事をっ?嫌っ!見ないでっ!)

 女は目に涙を浮かべるが、どうしようもなかった。

 狂八もゆっくりとテーブルの上に乗る。

「二人乗っても大丈夫か・・・」

 そう言って、ニタリと笑う。

 だが我慢の限界が来た女は、それを見ていなかった。

(こ、来ないでっ!私を見ないでっ!み、見ちゃ『良い』駄目っ・・・え?)

 不自然な思考が入り、戸惑う。

(い、嫌よっ、こんなのっ!どうして私がっ!どうして『気持ち良い』、え?どうして?)

 拒否している筈なのに、正反対の声が割り込んでくる。

 しかも自分の声で。

(嫌、嫌っ!『でも気持ち良い』・・・ち、違うっ!『あんっ』)

 女は自慰を始めていた。

「あ・・・あっ・・・あんっ・・・あんっ、あんっ」

 最初は遠慮がちに、そして段々と激しく。

「あんっ、あんっ、あんっあんっ」

 傍目も忘れ、女は手を動かしている。

 他の人々は固唾を飲んでそれを見ていた。

 不意に彼女の動きが止まる。

「ハァ、ハァ、ハァ、ど、どうして・・・体が動かない・・・」

 女は切なげな声を出した。

 全てを知っている狂八は、それを見てニタニタしていた。

 狂八が操っていたのである。

「おいっ!そこのお前っ!」

 狂八は一人の中年男性を指した。

「イカせてやれよ」

 ニタニタ笑いながら言う。

 指名された方は、困惑顔であった。

「あなた・・・」

「パパ・・・」

 側にいた二人の女性が心配そうに声を掛ける。

 内容からして、妻とむすめだと想像出来る。

 どちらも美しい金髪と青い眼の持ち主であった。

 男はゆっくりと、女へと近づいていった。

「別に気が済むまでヤッていいんだぜ?」

 そう言って笑いかけた狂八の顔を、男の双眸がとらえた。

「何だぁテメー?そのツラはよォ?」

 興奮していると思った男が、冷静であり、真剣な顔で自分の方を見つめている。

 狂八の表情は一気に険悪になる。

 男は少しの沈黙の後、意を決したように口を開いた。

「もう止めたらどうだ?」

 その言葉を聞いた瞬間、狂八は男の顔を殴っていた。

 鈍い音と悲鳴が聞こえ、男は倒れ込んだ。

「フザケた事ぬかしてんじゃねーぞアアッ?」

 そう言って男の手を踏みつける。

「あなたっ!」

「パパッ!」

 悲痛な声を狂八は無視する。

「逆らうとぶっ殺すっつったよなァ?テメーの女と子供、ヤッて殺してやろうか?」

「うっ・・・」
 
 殴られても何も言わなかった男が、呻き声をもらした。

「オラァ、結局テメー等が可愛いだけじゃねえか。ゴタゴタいうんじゃねえよ、分かったかよ?アァ?」

 狂八はもう一度踏みつけるた後、男から離れて男の妻子の下へと歩いていった。

「家族の失態はどうやって償うか、分かってるよなぁ?」

 そう言われ、二人は唇を噛んで下を向いた。

 周りからも冷たい目で見られている。

「逆らうのか、従うのか・・・どっちなんだ?」
 
「・・・・・・・」

「二人共気持ち良くなれ」

 そう言われた途端、二人の体に快感が走った。

「あぁんっ・・・」

「ああっ・・・」

 膝から崩れ落ちた二人に、狂八は声を掛けた。 

「ぱーてぃーはこれからだぜえ?」

 その宣言は、一同にとっての絶望を意味するものであった。

< 終 >

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