おねえさんの下僕になって 3

第三夜

(ひい…ひい…いたたた。
 【会場より、犬どうした、の声】
 しっぽを…、しっぽを、ほら、このとおり。人間の女性にかみつかれたんですよ。
 犬が人間にかみつくことはありますが、人間に犬がかみつかれるなんて前代未聞ですよね。
 えっ?どうしてかみつかれたかって?その人間の女性の…お尻をなでたらかみつかれました。
 【そりゃ、かみつかれるに決まってるじゃんか、という再度会場からの声】
 とにかく…、いたい…、あ、もう勝手に始めてください。)

 百合樹を誘って互いに裸になり、仰向けになっている百合樹の身体の上に覆いかぶさる美子が、再び百合樹の首にかみついて血を吸おうとしているのであった。
 美子に憧れている百合樹は、美子の長い三つ編みの髪に見とれて意識ももうろうとなり、美子にならどんな襲われ方をしてもいい、殺されても本望と思うぐらいに幸せを感じる気分になっていた。しかも、美子のその髪にも触れている。髪の編み目の感触を、百合樹はたまらないほど味わっていた。

「はあ、はあ。」
「くくくく。」

 百合樹の性器が大きく勃ち、その肉棒が美子の恥部も突くのだった。いやでも精液が潮を吹いて飛び出ようとしていた。
 どくどくっ、じゅるじゅるう~…。

 その心地よい気持ちも、出し切ってしまうと目覚めるようなものである。

 がぶーっとかみつかれた瞬間、思わぬ出来事が起こり始めたのだった。

「おねえさん、どうしたの?」
「もしかして、あんた、血液型は?」
「僕はABだけど。」
「そうか、あんたは誰からでも血が吸えるんだけど、わたしはそうはいかないわ。あんた、A型の子から血を吸っていたみたいね。B型のわたしには吸えないわ。」
「ええっ?吸えないって…。」

 前代未聞、血液型の違いで吸血鬼が血を吸えないというのは、希有な話である。

「おねえさん、そしたら、おねえさんが血を吸える人、つれてくるよ。」
「無理しなくていいわよ。それより、シャワーあびて体を洗ってお帰り。」

 百合樹は、美子のために手ごろな者はいないか、探しまわっていた。

「あ、あの人はどうかな?」

 百合樹は、学生服の男子生徒を見つけて声をかけた。

「あの、おにいさん、とつぜんでお願いがあるんだけど。」
「はあ?なんだい。」
「実は、ぼくのおねえさんが…。」
「なんだよ、おねえさんだって?」
「うん。おねえさん、女子高校生なんだけど…。」
「女子高生か。それがどうしたんだい?」
「だから、女子校だから、男の人と会う機会がないし。」
「それでなんだ?俺に紹介してくれるって言うのか?」
「そうそう。そうなんだ。」
「おまえ、ませたやつだな。もしかして、こづかいほしさに悪いことに誘われたんじゃないのか?」
「そんなんじゃないってば、ほんとうに男の友達をほしがっていて、やつあたりされてとばっちり受けてるんだよ。」
「わかったわかった。まあ、ほんとうにつきあうかどうかはわからないよ。好みというのがお互いにあるんだからな。」
「よかった。じゃあ、さっそく。」
「ところで、そのおねえさんというのは、かわいいのかい?タレントだったら、誰に似てるとか。」
「えーと、わかんないや。あ、そうそう、髪の毛長いよ。」
「髪の毛なんて、興味ねえな。」

 ここで、百合樹の好みとは全く違うようで、ちょっと自信をなくしそうであった。

 それでも、百合樹はようやくその男子高校生を美子の家の前までつれてきたのであった。が…。

「おいおい、この家って、小川美子の家じゃねえか。」
「えっ?もしかして、知ってるの?」
「知ってるもなにも、同じ小学校と中学校で、俺も家は近くに住んでるし。」
「じゃあ、入ろうよ。」
「ちょっと待てよ。あいつはだめだよ。」
「えーっ?だめって。」
「はて、小川美子に弟なんかいたなんて聞いたことないぞ。同じクラスで先生と一緒に家庭訪問とかしていたから、みんな何人家族とかいうのは小学校の者はみんな知ってる。小川はひとりっこのはずだぞ。」

 とうとう、百合樹は、連れてきた相手がまずかった、しまったと思った。

「もしかして、おまえが一目ぼれしたんじゃねえのか。おまえも物好きだな。あんまりもてない女なんか好きになるとは。」
「でも、せっかくここまで来たんだから。」
「悪いけど、あいつだけはかんべんしてほしい。じゃあな、あばよ。」
「ああっ。」

 結局、男子高校生は足早に去っていってしまった。

 百合樹は仕方ないからと自分の家に戻っていた。そして、台所に入って包丁をとりだし、まな板の上に腕を乗せて自分で腕を切ろうとしたが、すぐに母親が後ろから現われて、息子の行動に驚き始めていた。

「ちょっと、百合樹、何をする気なの。リストカットなんて、あなたまでがするなんて、やめなさい。」

 結局、取り上げられてしまった。自分の血を流して、美子と血液型の合う血を他人から吸えばと思った百合樹だったが、あまりにもそのための行動としては安易な考えであった。

 その夜、けたたましい救急車の音がしていた。

「なんだか、よくない予感がする。」

 百合樹は気になって、その救急車の走っていたあとを追い始めた。

「や、やっぱり…。」

 担架に、美子の運ばれていた姿を見たのである。

「おねえさんが、病院に…。」

 百合樹は呆然とするだけであった。

< つづく…なお、犬は治療のため出ていっていなくなりました >

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