髪射へび少女 第九話

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どくどくっ、じゅるじゅるじゅるうー。

小さな少女の生まれてからほとんど切ったことのないような三つ編みにした長い黒髪が、心いやらしい少年の精液に覆われてゆく。髪を汚された少女は少年と同じように恐ろしい心の持ち主であるへび女となってしまう。少女の口から牙や長い舌が、顔にはうろこがあらわれ、またべつの仲間をさがしにずずずずと、不気味に地をはっているのである。

自分の兄である雅美也がそうした恐ろしいへびになっていることを初めて知った暁子は、その兄に薬液のワクチンが入った銃を向けようにも、驚きのあまり手がふるえて指を動かせない状態になっていた。

田崎博士「どうしたのですか?撃てないのですか?」
暁子「は、はい。驚いている場合ではないわ、今、やります…はっ。」

侵した少女を見送った雅美也は、ずりおろしていた下着をあげてはいていたスカートのホックをはめ、またへびがはうような下半身の歩き方で川に面しているくさむらに入っていた。そして岸辺の前にたたずむと、ポケットからヘアブラシを取りだし、ツイン・テールにしていた自分の髪からヘアゴムをほどいて両方の手首にそれぞれはめ、腰まで届く髪をそのヘアブラシですきはじめたのであった。暁子は、あまりに兄の女っぽすぎるしぐさにまた戸惑うばかりであった。

暁子「たしかに、顔はおにいちゃんだけど、あっ。」

暁子は、自分の兄が川の水面を鏡代わりにうつしながら髪をとかしているその水面を見ると、兄の顔がうろこだらけの恐ろしい姿としてうつっていたのがわかって、また驚くのであった。

雅美也「うふふふ…。」

不気味な笑いを浮かべてヘアブラシをポケットにしまったかと思うと、今度はまた水面を見ながら自分の髪を等分して三つ編みを結いはじめたのであった。さきほど手首にはめた黒いヘアゴムをまたその毛先に結びつけ、古風な女学生のようなおさげの姿になってゆく兄を見て、ますます暁子はどうしていいのかわからなくなってしまった。

暁子「おにいちゃんが、あんな女の子みたいなことするなんて、もういいわ。」

やっと、暁子が兄に向けて引き金をひいて、液が飛び散っていたが、雅美也は少し身体をのけぞらせたようになったため、当たったのかどうかわからないような飛び方であった。しかし、二本にまとめた三つ編みの髪をはねかえさせながら前のめりになって倒れるとそのまま地をはっ
てくさむらに入ったため、手応えはあったのではないかと暁子は感じた。だが、雅美也はそのままくさむらに横になって入ると、暁子の見ている範囲から急に姿を消してしまったのであった。

暁子「どういうこと?急にいなくなったわ。」
田崎博士「行けるかどうかわからないが、車を入れてみよう。」

田崎博士の運転する自動車がやっと土手に入ってきて、くさむらの前ではさすがに入るのは難しそうだからと、銃を持ちながら降りて入ることにした。

田崎博士「気をつけなさい、本物のへびもいるかもしれないし。」
コロ「ワン、ワン…。」
暁子「あらっ、コロが…。」

コロが急にくさむらに入って走りだし、しばらくすると立ち止まってまたほえたのであった。

田崎博士「コロが何かを見つけたみたいだな。」

暁子と田崎博士はそのコロがいる所に近づいてみた。

暁子「まあ、これは…。」

彼らが見つけたのは大きな穴であった。といっても、人の入れるほどのものではなく、やはりへびになった兄がここに入って姿を消したようであった。

田崎博士「このなかに入るのは危なさそうだな。コロも拒否反応を起こしている。しかし、暁子さんのおにいさんとやら、ここに入ったのはまちないようだ。」
暁子「どこに通じているのかしら。」
田崎博士「しかたない、とりあえずあなたの学校に行ってみるしかない。」
暁子「わかりました。」

思い出したようにまた田崎博士の運転する車に暁子はコロを抱えて戻っていた。

学校に着くと、真里のしわざによって学校じゅうの生徒がほとんどへびと化したため、大騒ぎになっていたとも知らない暁子は、また驚きの光景を目にするのであった。

栄美子「くくくく。」
明美「くくくく。」
暁子「きゃあー、あの子たちも、みんなへびに…、男の子もみんな…。」

校庭に入ってきた田崎博士の自動車を、へび女になっている生徒たちが取り囲み始めた。

暁子「どうしよう。これでは、銃をいくら撃っても、窓も開けないわ。」
田崎博士「ううむ、こんなに大勢いては…、車を発進させて暁子さんのお友達をひき殺すわけにも…。」
暁子「やめてみんな、と言っても、わかりそうにもないし。」

しきりに窓ガラスをたたく暁子の級友たちは、みんな首や胴体が伸びてうろこだらけの肌になっていたり、口から舌を垂れ$

気擦討爐蕕・辰討い拭# ・

田崎博士「そうじゃ。急遽、警察を呼ぼう。」
暁子「警察ですか、へびになった者たちに対応できるのかしら。」
田崎博士「最初にへび女になった女子高校生がいた学校にも来たことがある。事実、私が呼び出されたのもその警察から応援を受けてのことだから、ここしか頼れる者はいない。」

ポケットから携帯電話を取り出した博士は、その警察署に電話して救援を依頼していた。

田崎博士「もしもし、はい…。あ、暁子さん、ここの学校の名前教えてくださらんか。」
暁子「はい。」

電話を受けた所轄警察署の車が、後方に大きな装甲車をしたがえて校門の前に現われていた。最初に、松田良子や荻野奈美がへび女になった時にも出動してきた戦車のような巨大な車である。田崎博士の車の周囲にはへびになっていた生徒以外、人間はいないことを見計らってすぐに大砲を発射させた。

田崎博士「暁子さん、いちおう、麻酔銃が来るがガラスが割れるかもしれん。座席の下にコロといっしょに身を伏せなさい。」
暁子「わかりました。」

その命令通り、暁子が座席の下にもぐってすぐ麻酔銃が撃たれ、車にむらがっていたへびの生徒たちを次々に直撃して生徒たちは倒れた。なかには近くで折り重なっている者も、将棋倒しのように悲鳴とともに、その場によこたわっていた。

田崎博士「はい、…ああ、そうですか、どうもありがとうございます。暁子さん、もうだいじょうぶだ、みんな倒れたから。」

うずくまっていた暁子はようやく顔をあげ、おそるおそる窓の外側を眺めた。多くの者はうつぶせになっていた。

暁子「これで、みんなをワクチンでかけて元どおりにできますか?」
田崎博士「ううん、こんなにたくさんいては、ワクチンが足りるかどうかわからないな、ちょうど警察のひとたちも来ていることだし、手伝ってもらうことにしよう。」
暁子「そうですね。」

ようやく、自動車の扉を開いて、到着した警察の署員とともに生徒たちの髪の毛を目がけて銃から薬液を発射し続ける暁子だった。

暁子「はっ、この髪の毛を長くしている子は、もしかして真里ちゃん?」

暁子は、尾藤真里の髪が長くて多いからと特に念を入れて銃を撃ち続けていた。となりには水無川芳美も並ぶように横たわっていた。

暁子「これで、じゅうぶんかもしれないわ。残りがなくなったから、も
っと薬液を入れないと…。」

暁子が、銃にまた薬液を入れるために車に戻ったその時、ワクチンの銃を撃たれていたはずの真里が、身体を動かしはじめていた。そしてまた、不気味に手を口に当てながらにやっとしていたのであった。

真里「うふふふ、暁子ちゃんは気づいていないみたいだわ。」
芳美「いますぐ逃げるの?」
真里「そうする必要はないわ。このままつかまってあの博士の研究所に忍び込み、ワクチンを作るもとをみんな破壊するのよ。そうすれば、わたしたちは無事よ。」
芳美「そうね。栄美子ちゃんも、明美ちゃんも人間に戻ってるとあの子は思いこんでいるだろうね。」
真里「あっ、また来るから。」

真里と芳美は、倒されていたふりをしていたのである。そしてまた、恐ろしい計画も考えていたのであった。ワクチンをかけられているのに、真里たちには通じていなかったのである。彼女らの会話からすると、寺田明美や西崎栄美子もへび女のままのようである。

雅美也「あっ、ああっ、うーん。」
留璃子「うふふふ、出したわね。」

ここは、真里の家で、少女を襲った後にへび穴を通ってきたと見られる雅美也が、真里の姉である留璃子と戯れていたのであった。真里はもちろん学校に行って、妹の理美も遠足に行っており、母親も外出中であった。この日は授業もない女子大生の留璃子が家で留守番をしていて、ひとりで寂しいからと真里が雅美也に相手をするよう命令していたため、家のなかでふたりきりになっていたのであった。

雅美也の首を股ではさんで、留璃子は雅美也をさかんにいたぶっていた。下着だけを着た半裸の状態で、ポニー・テールの超長い後ろ姿の髪を雅美也に見せながら、雅美也を興奮させていたのである。この日の留璃子は両サイドの前髪を後ろの髪の根元にくくって交差させながらまとめ、まんなかの髪を垂らしていた。雅美也はさきほど暁子が車のなかから見ていた時にしていた二本にまとめた三つ編みのおさげ髪の姿である。また、留璃子の服を借りて女装していたが、雅美也も下着姿になっていた。しかし、これも留璃子のもので女もののパンティーなどである。

雅美也「う、うーん…ああ…。」
留璃子「ほーら、わたしの貸しているもの、汚したらもっとこわい目にあわせるわよ。」
雅美也「ああ…、うーん、おねえ…さん…。」
留璃子「えっ?いま、なんて?もういちど言って$

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雅美也「お、おねえさん…。」
留璃子「まあ、うれしいわ。わたしのこと。本当に姉として認めてくれたのね。よかったわ。」
雅美也「おねえ…さん…。」
留璃子「そうよ。あなたはわたしの実の弟。ほら、このおちんちんのところのあざ、あなたが生まれた時に、わたしがけとばした時のものがそのまま消えないでいるのよ。わたし、わたしももちろん小さい時だったけど。ママがやめなさいと言ったにもかかわらず、生まれたてのあなたのおちんちんをいたずらしてみたくなってね。にぎってみたら、あなたはわたしがその時ツインテールの三つ編みにしていた両方の髪の毛を引っぱったから、それでわたしはおこってここを片足で強くけとばしたのよ。」
雅美也「ぼく、おねえさんの…髪の毛ひっぱってたの?生まれながらにして髪フェチだったんだね。」
留璃子「そうみたいね。わたしのせいであなたが死んだと思ったわ。真里はそのあと生まれてきたけど、真里はおにいちゃんのほうがいつもほしかったらしくて、わたしが死なせなければおにいちゃんがいたんだと言っていつもわたしのこといじめてね。いつも真里のわがままきいて、真里はほしいものを絶対に手に入れないと気がすまないから、わたしのものみんな譲っていたし。でも、おにいちゃんが戻ってきたから、もう真里もわがまま言わないって、今日なんか、珍しくわたしにあなたを貸してあげるからなんて言ってくれてね。ほんとうにあなたのおかげで、あの子もかわったわ。」

留璃子は、雅美也をけんめいに抱きしめていた。

だが、その静寂を破るように、留璃子の携帯電話が鳴り出したのであった。

留璃子「あっ、はい、ああ、真里?そう…、わかったわ。あと10分したらでいいのね。」
雅美也「どうしたの?」
留璃子「真里が大至急、お呼びだわ。10分ぐらいしたら出発して、穴を通って研究所に行ってって。」
雅美也「ひとり残ってだいじょうぶ?」
留璃子「また、いつでもあなたと遊べるから、わたしはいいわよ。」

学校では、暁子が田崎博士や警察官らとともにへびになっている生徒たちをもとに戻すためのワクチンを銃に入れて撃ち続けていたが、やはり半分ほどいかないうちに車のトランクに入れてあった残りもなくなってしまったため、眠っている生徒たちを救急車で研究所に運んで、助手にも応援を頼んで研究所で生徒たちを治そうと、田崎博士は
思いついたのであった。

田崎博士「私の机のなかに製造方法が手書きで書いてある。ちょっと見づらいかもしれないが、なんとかがんばって作ってみなさい。」

博士は、助手のひとりに電話をしていた。
救急車も多く駆けつけてきて、生徒たちを全員乗せた。警察の車を先頭に、装甲車がまんなかに入って警備を厳重にし、最後の救急車の後ろを田崎博士の車が暁子とコロを再び乗せて研究所に向かっていった。

暁子「みんな、無事にもとどおりになるかしら。」
田崎博士「ワクチンが間に合えばな。」
暁子「だけど、それにしても…。」

暁子の表情がまたうつむきかげんになった。

田崎博士「どうしたのかな?」
暁子「あの、おにいちゃんのことなんですが…。」
田崎博士「そうか、さっきの川のところにいた、女の子のようなかっこうをしていたのが…。」
暁子「どうして、あんな髪の毛長くしているのが好きだったのか、同じ家にずっと住んでいても一度も気付かなかったのに。」
田崎博士「意外と、そんなものかもしれんな、まあ、私は特別どういう女性が好きかというのが昔からなくてな。」
暁子「えっ?女の人を好きになったことがない、仕事ひとすじですか?」
田崎博士「はっはっは、そんなもんだな。妻はいるよ。私が研究に没頭してばかりいたから、親がいいかげん見合いでもやってみたらどうかと言って紹介されてね。うるさく言われるのがいやだったから、私はいいと言ったら、相手もいいと言ったもんで、あっさり決まってたがいに特別好みにこだわらないで結婚したんだな、ただね…。」
暁子「まあ、ただって…。」
田崎博士「妻はちょうどその頃、学生の頃に好きだと思っていた男性の方が結婚したという知らせを聞いてさびしい思いをしていたから、私を身代わりのように見ていたんだな。そこらへんが理由はちがっていたけどね。」
暁子「うふふ、でも、いまはおたがいにご結婚されてよかったと思っているんじゃないですか?」
田崎博士「もちろん、そうじゃよ。けれど、ちょっとびっくりしたと思ったことも新婚の時にあったけどね。」
暁子「びっくりしたことって…。」
田崎博士「妻が自分の子どもの頃からのアルバムを見せてくれたんじゃ。私と会ってからはずっと髪形は短くしていたが、学生の時は腰からお尻まで長くしていたという写真を見せられて、その時だけは
こんなに姿が変わるものなのかと、妻に対して唯一女を意識したような…。」
暁子「奥様はずっとショートカットなんですね。でも、長かったというのは…。」
田崎博士「さっき言った、好きだった男の人が長髪だったから、きっと長い髪の毛の女性が好きだったんだろうと思っていたら、意外にその男性より短い女の人と結びついたとかで、それでショックでばっさり切ってしまったとかでね。」
暁子「まあ…。」

田崎博士とこうしてしゃべっているとまた苦しみを忘れてなごんでくる暁子であった。
そうこうしているうちに、田崎博士の研究所に再び暁子は訪れたのである。
麻酔銃を撃たれて眠っている生徒たちも、次々に救急車から運ばれて研究所内に設けられているおりに入れられていた。最初に良子や奈美が入れられていた時とちがって部屋が限られたため、分けて寝かせるわけにもいかなかったが、どうにかして全員を入れることができた。

暁子は、ひとつのおりのなかで、同級生の寺田明美や西崎栄美子が眠っているのを発見した。

暁子「みんな、早く治してすぐ学校でいっしょになれるよう…はっ。」

明美や栄美子の寝ている間から、怪しい手が出てきたのである。

暁子「なに?あれは、あっ…。」

その手に胴体をつかまえられて明美と栄美子が引きずられるようにずずずっと動きだし、ふたりの姿がまもなく消えて、そのあとには穴が見えていた。さきほど、兄の雅美也が消えた川の土手にあるくさむらにも、この穴があったことを暁子は思い出した。

暁子「たいへん、田崎先生に知らせないと…。」

あわてて田崎博士を探しに行った暁子だったが、追加のワクチンがまだできあがっていなかったようで、博士は研究室に助手とつきっきりで作業していたのであった。

田崎博士「どうした、暁子さん。」
暁子「たいへんです。へび女が来ていて、またさらわれてしまった人が…。」
田崎博士「うーん、もうかぎつけてきたのか、暁子さん、まずワクチンを入れた銃ができたから、これらを持っていってまた撃ちにいってきなさい。」
暁子「わかりました。」
田崎博士「あっ、駐車場にコロがいるから、鎖を離してつれてな。」

ほかのおりからもガラスなど割る音がして、まだ薬液をかけられていなかった者たちが目覚めてへびの胴体を伸ばしたまま、脱走していたのであった。

暁子「た
いへん、あんなに…。」

暁子は、へびになっている同級生の姿を見つけて撃ち続けた。
その者たちは倒れていったが、どの者にも通じていたわけではなかった。
研究所の建物の外に出ると、髪の長い者でしかも男子生徒と女子生徒がまじっているようであった。

暁子「えいっ、はっ…。」

後ろ姿になっているへび女たちの髪を狙って銃をうちこんだはずだが、その者たちが振り向くといぜんとしてうろこだらけの顔や牙が見えていて、なお暴れ続けるのであった。しかも、暁子を襲いにかかる。

暁子「やめて、みんな、はっ。」

暁子を襲おうとしていた生徒たちが、急に足元をすくわれたようになって倒れ、事実引きずられていた。

暁子「これは、どういうこと?あっ、真里ちゃんだわ、おにいちゃんも…。」

まさに、そこにはまた女学生のような三つ編みおさげの姿をした雅美也と、髪の毛をポニー・テールにして白いリボンで頭をとめていた真里の姿があった。へびになった者を元の人間に戻すためのワクチンを作る製造元を破壊しようと研究所に来ていたのである。

真里「うふふふ。」

暁子は、真里や雅美也をめがけて何度も銃を撃ってみたが、真里たちにはびくともせず、銃のワクチンが通じないようであった。

暁子「いったい、ワクチンがきかないなんて…。」
真里「おほほほ。暁子ちゃんは、どうやら仲間にはなりたくないようねえ。」
暁子「仲間なんて、そんな…。」
真里「うふふふ、それならあなたを襲わせないようにしてあげるわ。」
暁子「真里ちゃん、おにいちゃん、どうしたというの?」
真里「うふふふ、あたしたちのことをお話してあげるから、よくお聞き。」

真里たちの秘密とは…。

< つづく >

いよいよ、次回は最終回

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