男の子の夜が怖くなる 第四夜 年下のいとこが…

第四夜 「年下のいとこが…」

 夏休みに入ってまもない頃、沙也夫の家に久しぶりの来客があった。沙也夫のママの妹、つまり叔母にあたる者が、ひとり娘、つまりこれも沙也夫にとっていとこになるが、その久美子をつれて二年ぶりぐらいかでやってきたのである。

「まあ、ひさしぶりね。ずっと、いったいどうしてたの?」

「だんなのお父様が倒れて入院していて、ずっと付き添いを手伝っていたんだけど、いまはだいぶよくなったわ。沙也夫ちゃんは元気かしら?」

「あのこも恥ずかしがりやだから、あんまり外に出てこないのよ。とりあえず呼んでみるわね」

「沙也夫ちゃんって?」

 久美子がすかさず母親にきいた。

「あなたにとってはおにいちゃんよ。たしか、少学生のもう、高学年でしょう。」

「久美子ちゃんはまだ、幼稚園ね。だけど、見ないうちにすっかり大きくなっているのね。」

 幼稚園でも久美子は背が高いほうで、髪の毛を長くしてふたつに分け、耳元にピンク色のリボンをそれぞれとめておさげに垂らしている。その髪の毛先もお尻にとどくぐらいある。

「おにいちゃんに会いたいな」

「まあ、むりもないわね。ひとりっこで、男の兄弟いないから、おにいちゃんをほしがってしょうがないのね」

 沙也夫は、自分の部屋で三面鏡を見ながらゆっくり髪の毛を整えていた。男の子でありながら、髪の毛を伸ばして肩からもう少しで脇の下に毛先がとどくくらいあった。髪の量も多く巻いているゴムも長めで太く、リボンのように見えるちょうちょ結びをしていた。髪の毛を長くしているのは、やはりあこがれている、クラスはちがうが同じ学年の女の子に髪の毛を腰まで長くしている者がいるためである。もちろん、ただ思うだけで、その相手は彼の好意に気付いてない。

 沙也夫は、学校へは髪の毛をいつもうなじのところに黒いゴムを巻いてひとたばにまとめて通学していた。沙也夫の住む街は都会的ファッションセンスの比較的進んでいる山の手の高級住宅街にあり、少学生でもロン毛と呼ばれるように髪の毛を伸ばすことが男の子のあいだでも少しずつ流行しはじめていた。事実、六年生や厨学生には腰まで長くしている男の子もいるが、沙也夫の学年では彼ほどあるいは彼以上髪の毛を長くしている男の子はいなかった。髪の毛をほどくという姿も決して他人に見せたことはない。加えて色白でおとなしいため、オカマとも呼ばれているが本人は抵抗がなく、自分の髪の毛を気に入っているので、たとえ女の子みたいに思われても髪を腰までは伸ばし続けたいと思っていた。毎日の入浴や洗面でも髪の手入れには女の子以上に入念にしているため、女の子よりもきれいな髪に見えると学校では言われて、また少女マンガにも出てくるような、美形の顔によく似合っている長髪だった。両親もロングヘア好きだったから、沙也夫の髪を伸ばす希望を認めていた。学校の成績も良かったことで伸ばすことを許されているようである。

「沙也夫ちゃん、久美子ちゃんが来たわよ。会いたいって呼んでいるわ」

「久美子ちゃんって、あの女の子?」

 ずっと会っていなかった沙也夫にとっては、久美子はまだ胸ぐらいの髪の毛の時のイメージしかなかった。しかし、見違えるような姿でまもなく本人が訪れようとしていた。久美子には、以前会った時の沙也夫がまだ耳が半分隠れているようなおかっぱ頭のイメージが残っていた。

 沙也夫はうなじのところで髪をゆわえたゴムともう一箇所、髪の毛先のところにも同じ太さのゴムをゆわえていた。ほんとうは一本の三つ編みをしようと思っていたが、呼び出しがかかったため、あわててもう一本のゴムを毛先にとめていたのである。

「おばさん、久しぶりですね、そこにいるのが久美子ちゃん?大きくなったね」

「わあ、沙也夫にいちゃんだわ。ねえ、ママ、沙也夫にいちゃんって、ずっと見ないうちにすごくきれいになったみたいね」

「きれいだなんて、女の子みたいないいかたよ。おにいちゃんは男の子なんだからきれいっていうのはおかしいわよ。でも、よく見ると色白のせいか女の子みたいに見えちゃうのかしら。沙也夫ちゃん、ごめんなさいね」

「いいんですよ。ぼくはそう言われるの、むしろ…」

「ほほほ、この子はわりときれいといわれてうれしがるほうなのよ。あまり活発じゃないし、女の子みたいなところはたしかにあるけど、そういう、きれいになりたがる男の子も最近は多いらしいから」

「そういえば、そうねえ。女の子のおともだちも多いの?」

 それを聞いて、久美子がムッとしだした。

「久美子ちゃん、おこっちゃってるわよ。だいじょうぶよ。この子はそんなもてる子じゃないから」

「やだ、ママ。いたずらしにくる女の子は多いけど…」

「まあ、女の子にいたずらされるの?」

「この子のかよっている学校は女性上位なのよ。男の子たちがみな弱いから」

「そうだ、そろそろ塾へ行かなくちゃ」

「えっ?塾?晩ご飯までには戻ってくるんでしょう?」

「今日は夜も遅くて外で食べてくる日でしょ」

「まあ、たいへんねー」

「ぼくは、わりと勉強好きだし、それに…あ、なんでもない。行ってきまーす」

 実は、塾に例のあこがれている同学年の女の子がいて唯一同じ教室で授業を受けられる楽しみがある、それを言おうとしていただけである。

「じゃあ、夜にならなきゃ、おにいちゃんと遊べないの?」

「久美子ちゃん、おにいちゃんは勉強でいろいろいそがしいのよ」

「わたし、夜になったらたっぷりと遊んでもらうから、その間寝ているわ」

「まあ」

 沙也夫が塾から帰宅した時は、久美子もすでに就寝を始めているところだった。

 久美子の母、つまり沙也夫にとっての叔母も、旅行の疲れで早く久美子といっしょに寝ていたし、沙也夫のママも一日疲れて早く寝ていた。パパのほうは出張中で今夜は帰宅しない。すでにわかされていたお風呂が残っていて、沙也夫はそのひと風呂をあび、例によって長い髪の毛は念入りにシャンプーしていた。

 その時、久美子が目をさました。沙也夫のシャワーを使っている音にめざめて、ゆっくりと起き出して、いっしょに寝ていた母親にも気付かれないようそっとふすまのあけしめをして、洗面所のほうへゆっくりと歩いていった。沙也夫は、夏の気候の暑さとみんなもう寝ているからという思いとで洗面所の扉をしっかりしめてはいなかった。その、少し扉があいているのを久美子は見つけて、ゆっくりと扉にちかづき、扉を動かさずにそのすき間から沙也夫がすでにパジャマを着て髪の毛をドライヤーで乾かしている姿をのぞき始めた。

「沙也夫にいちゃん、あんなに髪の毛長くしてたんだわ。ひるまは気付かなかったけど」

 女物のくしを使って鏡を見ながら自分の髪の毛をていねいにとかす姿を見て、久美子は思わずめらめらとしてきた。自分も生まれた時から髪の毛を切らずに伸ばしている久美子だが、男の子のくせに女の子よりきれいな髪の毛をしていると思うと許せないという気持ちが起きていた。沙也夫の美しい黒髪を乱したい、わしづかみにして引っぱりたいとまで思いこみ始めた。

 のぞかれていることにまだ気付かない沙也夫は、髪の毛をとかし終えると、髪の毛を半分に分けて両方の手首に巻いていた黒いゴムのうちにひとつをゆわえようとした。いつもはまとめて後ろに束ねている髪の毛を、この夜はそれこそあこがれている同学年の女の子のようなおさげ髪で沙也夫は一夜を過ごそうとしたのであった。しかも、三つ編みを結いはじめている。

「沙也夫にいちゃん、男のくせに三つ編みするなんて、ますます許せない」

 双方ともに、四、五回ぐらい交差させて毛先をゆわえた三つ編みの髪の毛を沙也夫は両方いっしょに肩の後ろへぱらっと払って洗面所を出ようとした。久美子は扉の横で沙也夫の出てくるのを待ったが、沙也夫が洗面所を出た時に扉をしめようとすぐ身体を一回転させて久美子に気付かず背中のほうを向けた。ここぞとばかりに久美子は、沙也夫の両肩からわきの下あたりに垂れ下がっていた三つ編みのおさげ髪の毛先にそれぞれ手首をのばし、まとめられていたゴムのあるところからほぼ同時にひっつかんでしまった。

「痛い、だれ?髪の毛ひっぱるの」

「うふふふふ」

 その笑い声で、沙也夫は久美子に初めて気付いた。

「もしかして、久美子ちゃん?起きてたの?やめて、髪の毛ひっぱるの痛いから」

「じゃあ、おかえしにわたしも三つ編みじゃないけどおさげにしてるから、わたしの髪の毛ひっぱってみて」

 久美子は、昼間の時と同じようにふたつに分けた髪の毛を、それぞれ耳の上にピンク色のリボンでとめて垂らしていた。

「もう、夜遅いから寝よう。あした、たっぷり遊んであげるから」

「今じゃなきゃいや。ずっと沙也夫にいちゃんのこと待ってたのよ。そうだわ、沙也夫にいちゃんのおへやでひとばんすごしたいな。いいでしょ。わたしのともだちも自分のおにいちゃんといっしょのおへやでまいにち寝てるっていうから、おにいちゃんのいないわたしにはうらやましくって」

 そりゃ、幼稚園の女の子とそんな歳もはなれていないおにいさんとそのおともだちは寝てるんだろうと言おうとした沙也夫だったが、久美子の純真な願にも弱く、すぐ眠くなってくれば叔母の寝ている部屋に運んでいけるだろうと思って、その場はとりつくろうようにした。

「じゃあ、おにいちゃんのへやにちょっとだけ入れて遊んであげるから、髪の毛を離してね」

「うふっ、やったわ。うれしいな」

 沙也夫も、他人に気付かれないようにしてゆっくりと廊下を歩き、一番奥にある自分の部屋へ久美子を連れて薄い灯りをつけながら入った。久美子も入ると扉を閉めた。沙也夫も、久美子のような髪の毛を長くしている女の子は好みであるだけに、久美子の髪の毛に見とれてくる気持ちもわきおこっていた。

「さ、ぼくのおへやだよ。みんな寝ているから静かにしようね」

 沙也夫は、いつも寝ているベッドの上に腰掛けて久美子もその横にすわらせた。久美子の長い三つ編みではないおさげ髪がベッドに敷かれたふとんにとどき、毛先がはうように見えた。久美子はその毛先をぶきみに払いのけて沙也夫のほうを振りむき出した。

「ふふふふ。でも、沙也夫にいちゃんのその髪の毛、すごくにあうわよ」

「ママにもこんな姿見せたことないんだから」

「でも、わたしね、自分で三つ編みできないんだ、だから、沙也夫にいちゃんに編んでもらおうかな」

「久美子ちゃんはそれでじゅうぶんかわいいよ。せっかく長くした髪の毛、いためないほうがいいよ」

「ねえ、わたしのこと、ほんとうにかわいい?」

「うん、かわいいよ」

「じゃあ、うっふふふ」

「あっ」

 久美子がとつぜん沙也夫の身体に正面からひざの上にとびついた。そして、肩の上から両手をのばしてまた沙也夫の三つ編みにしている双方のおさげ髪の、今度はまんなかの編み目あたりをわしづかみにしたのである。

「沙也夫にいちゃんのこと、離さないわ」

「やだ、また痛いから髪の毛を離して」

「もう、沙也夫にいちゃんはわたしのものよ。うふふふふ。ふふふふ」

 その時、沙也夫は久美子のようすがなんとなくおかしいように感じた。急にぶきみな笑い方になって、声もだんだん変わっているようだった。

「久美子ちゃん、髪の毛ひっぱるのやめて」

「沙也夫にいちゃん、わたし、わたしね…沙也夫にいちゃんの三つ編みした髪の毛見てね」

「はっ」

 久美子の目がとつぜん赤く光り出した。笑顔が急に消えて不気味な顔つきになり、口の両側から白いものがまたキラッと光り出した。出てきたのは鋭くとがった牙だった。

「沙也夫にいちゃんを見てこうふん…してきたの…わたし…沙也夫にいちゃんの…血、血がほしい」

「久美子ちゃんが吸血鬼、ああっ」

「そうよ。わたしは吸血鬼よ。沙也夫にいちゃんも、吸血鬼になるのよ」

「うわあーっ!」

「叫んでも誰にも聞こえなくなってるの。特に男の子は女の子の吸血鬼につかまったらぜったい助からないわ。わたしから逃げようとしてもむだよ」

 とうとう、久美子は沙也夫ののど首に牙をつきさして血を流させ、その流れた血に唇を寄せて懸命に血を吸い上げるのであった。両手首はあいかわらず沙也夫の三つ編みにした髪の毛をつかんだままでまた頭からゴムのとめられた毛先をなでて沙也夫を興奮させていた。久美子のかたほうのおさげ髪も沙也夫の肩上にぱらっと垂れてきては、久美子の血を吸い上げるために何度も揺り動かした身体のために、沙也夫の肩の上で超ロングの黒髪がはげしく揺れておおいかぶさり、沙也夫をより興奮させるのだった。

「ううっ、ううっ…」

「くくくく」

「ああっ、ああ…ああ…」

「うふふふ、沙也夫にいちゃん、ほんとうに女の子みたい」

「ねえ、どうして、久美子ちゃん、吸血鬼になったの?」

「ママに血を吸われたのよ」

「えっ?叔母さんも、吸血鬼なの?」

「そう。パパもよ。ふふふふ」

 久美子は、また沙也夫の性器も上からつかもうとしていた。

「ああ…、そこ、だめえ、うう」

「くくくく」

 苦しみうめく沙也夫に、いさいかまわず久美子はかみつき続け、傷口から流れ出てくる沙也夫の血を何度も吸い上げていくのであった。こうして約一時間が過ぎた。

「く、久美子ちゃん…」

「なあに、沙也夫にいちゃん」

「血、血がほしいよ」

「おほほほほ、沙也夫にいちゃんも、わたしの仲間になったわね」

 こうして、沙也夫も年下の幼女によって、牙のはえた恐ろしい吸血鬼となってしまったのである。

 そのまま、沙也夫は久美子に誘われて夜中に家を出た。沙也夫が憧れているという同学年の髪の毛が長い女の子を襲わせるためである。しかも、三つ編みの姿のまま、その女の子の部屋に現われたので、女の子は沙也夫をよりいやらしい男として見るようになった。女性上位の彼等の通う学校では、まず男子の立場はもともと弱く、久美子が美形と思う沙也夫でも決して評判はよくないのである。

「きゃあーっ!あんた!なに?ううっ!」

 だが、傍らにいた久美子が光線を発してその女の子も身動きができなくなり、沙也夫に抱きつかれて吸血鬼にされてしまった。久美子は、また後ろから沙也夫のパジャマをぬがし、沙也夫のトランクスに手をつっこませて性器をまさぐり、沙也夫を興奮させていた。

 こうして、沙也夫は久美子に興奮させられながら、同学年の女の子を吸血鬼にしていったのであった。

< つづく >

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