男の子の夜が怖くなる 続 第一夜

続 第一夜

 由美男の住んでいる家の近くでは、以前から由美男の姿を見つけて胸をときめかせている少女もいたのである。
 その少女は、由美男の母親が教員をやっているという女子高校にこの春入学が決まったばかりだった。つまり、由美男より二つ年下になるが、由美男はいつもお尻まである長い黒髪をひとまとめに束ねて通学しており、そのボリュームのある黒髪の姿を見ては素敵に思ってしまう少女だった。通学時間帯が偶然同じ頃になったので、少女は由美男の姿をよく見かけるようになった。
 少女の名は良乃(よしの)といって、自身は髪の毛は長くしておらず、耳がかくれて肩にかからないセミロングだった。だが、身体が非常に太っている、自他ともにもてないと認めている典型的な三拍子揃ったという少女だった。やせている長身の由美男の足もとなどとうてい及ばないと思いながら見つめ続けるだけで、由美男もまず良乃のことなど眼中に入らないという感じだった。女の子なら自分も彼の好みに合うように髪の毛を長くすればと思うところだが、親が長い髪を許さず、本人も伸ばしかけても暑苦しくて太った身体に手入れが行き届かないからと、伸ばす勇気はほとんどないようだった。
 ある土曜日の帰り道に、良乃はかばんを抱えて帰宅する途中の由美男の姿を見つけた。良乃がより興奮したのは、由美男がいつも束ねていた黒髪をほどいていて両方の肩から背中いっぱいに、まるで平安時代のお姫様のように扇がひろがるような美しさで、お尻まで覆うほどおろしていたためである。男の子なのにあんなにきれいな髪…ああ、もっと見つめていたい…とうとう、良乃は由美男の後ろ姿を少し距離を置きながらこっそりとつけはじめたのだった。
 そして、由美男の家までとうとう来てしまったのである。しかし、由美男は後ろを全く振り向くこともせず、良乃の姿にも気付かないまま、家の中に入っていたようである。
 しまった、帰り道がわからなくなったわ…良乃は、由美男を追いかけて道に迷ったようである。その時、急に空模様が怪しくなりはじめた。雨がぽつりと降ってきて、夕立ちが起こったのである。傘などを持ってきていない良乃は、由美男の家の前でどうしようかと、その場に呆然と立ちすくむだけだった。
 その後、良乃のクラス担任になっていた由美男の母親があらわれてきたのである。
「まあ、良乃さん、こんなところで何をしているの?あなたのおうち、もっと別の方じゃなかったかしら」
「せ、先生」
 由美男の母親は、良乃の行動に感づいたようである。やはり、吸血鬼であるから相手の心理もすぐ読み取っていた。
「うふふふふ、こんなに濡れていては風邪を引くわ。うちに入りなさい」
「先生、この家にお住まいだったんですか」
「そうよ」
 良乃は、由美男の入っていった家とたしかに同じだと思った。だから、もしかしてこの家のなかであこがれていた由美男に会えるかもしれないと思うと、また胸をときめかせたのだった。

「先生、お邪魔します。でも、こんな濡れた身体のまま上がるなんて…」
「良乃さん、いまちょうどお風呂がわいているから、はいるといいわ。そのまま廊下をまっすぐ行って右に曲がるとつきあたりがお風呂場よ」
「先生、ありがとうございます」
 しかし、良乃の担任で由美男の母親でもあるこの女はすぐに口に手のひらをあてて不気味な笑みを浮かべたのであった。
「うふふふ」
 この女も、息子の由美男も吸血鬼になっていると知らず、良乃は安心したように風呂場に向かったのであった。
「あら、誰かもうほかにおふろに入っているのかしら」
 風呂場の前の脱衣室には女もののスカートや下着とブラジャー、ガードルなどがきれいに整えられていたので、べつに女の子が入っているのかと良乃は思った。しかし、良乃も濡れた身体を早くあたためたいという思いから、急いで着ていた制服や下着を脱ぎ始めたのであった。
「お邪魔します」
 良乃は、ふろ場の引き戸をあけて入り、すぐその扉を閉めた。なかは広そうでふたりが一緒に入ってもじゅうぶんなスペースのようだったが、家のなかの内側に位置していたために窓がなく、湯気がもうもうと立っていて、浴槽に誰かが入っていてもよく見えなかった。
 ようやく、湯気の間からすでに浴槽に入っていた者の姿がわかってきた。頭のまわりに三つ編みにまとめたふたつの髪の毛を巻きつけて互いに重ね合わせ、最後は分け目のところに合わせてうなじのところで髪止めを使っているようだった。それくらい、長い黒髪の持ち主のようだった。
「あの、よろしいでしょうか。ちょっとお湯を使わせていいですか?あっ」
「うふふふ」
「あ、あなたは…」
 口に手をあてて不気味に笑っていた三つ編みの髪の毛の主が良乃のほうを振り向いた。実は由美男だったのだ。立ち上がって、とうとう露骨な性器を良乃の前に現わしたのである。
「きゃあーっ!」
「うふふふ、よく来たね」
 良乃は、おどろきの余り、ほんらいならその姿を見せられると目をそむけたくなるところだが、あこがれていた由美男だったために、そむけることも忘れてしまったようである。
「いったい、外には女ものの下着などが置かれてあったのに、どういうことなんですか?」
「うふふふ、今日は女の子に化けようと思って、下着を用意していたのさ、ほら」
 由美男は、後頭部にとめていた髪止めもはずし、ぱらっと二本の三つ編みにしていた髪の毛を前に垂らしたのであった。その姿を見て良乃はまた興奮してきたのであった。女の子顔負けにきっちりときれいに編まれて、双方の黒髪の毛先にも黒いヘアゴムがしっかりと結ばれていた。前髪もきつく何本ものピンで押さえられていた。そして、そのまま良乃の身体に迫ってきたのである。
「あの…、先生の息子さんだったんですか」
「そうだよ。ふふふふ、ママの学校に通っている子だね。おいしそうだな。たっぷりとあるからだで」
「あ、あの…、なにをするんですか」
「ふふふふ」
 由美男は、太っている良乃の両肩に手をかけてきた。良乃も、由美男に対してなにも抵抗できないという感じで呆然とするだけだった。ただ、由美男の両肩から前に垂れている長い三つ編みのおさげ髪にぼーっとなってしまっているようだった。その右側の三つ編みの髪の毛が、良乃の胸のあたりにふれ始めてきた。
「く、くすぐったいわ。あなたの髪の毛が」
「ふふふふ、さわってみる?」
 良乃は、由美男に言われたように由美男の右側の髪の毛の編み目のあたりを左手でまずさすり始めた。もうかたほうの髪の毛も、右手で毛先をつまみ始め、顔に近づけて香りをかぎ始めていた。
「きれいな髪の毛、男の人なのに。どうしてこんなに長くきれいに伸ばしていらしたんですか」
「うふふふふ、君の髪の毛に結んであげようか」
「ええっ?」
 由美男は、良乃の首を両側から両手で巻きはじめ、良乃の髪の毛をまんなかからふたつに分けてそれぞれの手でわしづかみにしはじめた。
「うふふふ」
「あの、ちょっと痛いです。わたし、そんなに髪の毛長くないから」
「まだ、三つ編みはむずかしそうだね。でも、ちょっとしたおさげにまとめることはできそうだね」
「いったい、なにをするんですか。はっ」
「うふふふふ」
 由美男の下半身で、性器がぼっきしていた。良乃の股の上あたりの位置にぼっきした先がなでられ、精液も出てきて良乃の下半身を濡らしはじめていた。
「わ、わたし…」
「ふふふふ。ほら、君がすごく魅力ある子だと思ったから、もっと興奮したんだよ」
「あの、べとべとしてきたんで、からだを洗いたいので、からだを離していただけませんか」
「ぼくのからだもいっしょに洗えばいいから、そのまえに」
「あっ」
 由美男は、自分の左側の髪の毛先にとめてあった黒いゴムを少しゆるめ、それに良乃の右半分にまとめた髪の毛を結び付けはじめたのである。そして良乃の耳の下あたりのところまで自分の髪をまとめたゴムを移した。もうかたほうの髪の毛も同じように結んだ。良乃のそれぞれの耳元には由美男の三つ編みの髪の毛が結び付けられたのである。
「うふふふ、自分の髪の毛が長くなったみたいでしょう」
「わたしの髪の毛に…」
「さ、これで君はぼくから離れられなくなるんだよ」
 由美男はこんどは両腕で良乃の太った身体を抱きしめようとした。
「あの、からだを洗いたいのでもう離してください。この髪の毛もほどいて、あっ」
「くくくく」
 良乃は、自分の耳もとにゆわえられた由美男の三つ編みの髪の毛をなかほどからわしづかみにしてはずそうとしたが、ひっぱってもはずれなかった。
「どうして、ほどけないのかしら」
「ふふふふ。ぼくも髪の毛を女の子にさわられたりひっぱられたりすると興奮しちゃうよ」
 その時、由美男の目が光ってつり上がりはじめ、また大きく口が開き始めた。カパッとあいたその口のなかからはふたつの鋭い牙が出てきて光り始めた。とうとう、由美男が吸血鬼の正体を良乃に現わしたのだった。
「きゃ、きゃあーっ!」
「くくくく、君も吸血鬼になるんだよ」
 由美男はがぶっと良乃の太った身体を両腕で抱きしめながら首にかみつき始めた。
「ああ…ああん」
「ちゅばっ、ちゅばっ、くくくく」
 ふろ場の床には、吸い切れなかった血と、また興奮して出ていた白い精液もぽたぽたと流れおちていたのであった。

 脱衣場では、由美男が女ものの下着を身につけ、スカートをはこうとすると、由美男の母親がやってきた。
「由美男ちゃん、くちびるの下に少し血が残っているわよ」
「あ、ママ」
「女の子の血の味、どうだったのかしら」
「うん、とてもおいしかったよ。髪の毛を結びながら吸ったし」
「おほほほほ。じゃあ、さっそく、ママが由美男ちゃんから血を吸う番ね。そうだわ」
 母親は、由美男の背中にまわって由美男の編んでいる三つ編みの髪の毛のねもとに白いリボンをそれぞれ結びつけ、髪の毛先もそのリボンにまとめて、三つ編みの髪が輪になるようなヘアスタイルになった。由美男は脱衣場にある鏡でその姿を見ていた。
「ママ、すっかり女の子になったみたい」
「うふふふ、じゃあ、こんどはあなたがおふろで女の子を襲った時のように、ママの髪の毛をあなたの髪の毛に結びつけるわ。ほら、ママも三つ編みのおさげに」
 由美男の母親は、身の丈ほどもある長い黒髪をふたつに分けてそれぞれ三つ編みにすると、由美男の正面にまわっていま由美男の髪につけたリボンにまたそれぞれ結んだのであった。
「ママ…」
「うふふふ、またおちんちんたってるじゃない。女もののパンティー、よごれたら困るから、おろしておいたほうがいいわよ」
「ああっ」
「くくくく」
 母親は、また息子の首にすかさず牙をとがらしてかみついていたのだった。
「ああ…ママ、きもちいい…」
「うふふふ、さあ、今夜の学校のパーティーで、また女の子の血を吸うのよ。その女の子たちを由美男ちゃんの学校に連れてっておやり。女の子たちにも男の子を襲わせてあげるといいわ。うふふふふ」

< つづく >

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