帝国軍特別女子収容所 FILE 1

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 机の上を写真が滑ってきた。
「エミリア=エルセラン。レジスタンスのサハ地区リーダーとされる女だ」
 でっぷりと太ったワッツ将軍が苦い顔で言う。
「いい女ですね。レジスタンスにしておくのは勿体無い」

 数ヶ月前まで、リルダール共和国と言われた国。今は帝国の『開放政策』で帝国領となって10ヶ月ほど過ぎている。
 しかし軍政監部の奮闘にもかかわらず、レジスタンスによる激しい抵抗が、都市部を中心に続いていた。
 とにかくこのレジスタンスがしぶとい。ドブネズミのように地下道を這いずり回り、駐留部隊に攻撃を加え続ける。しかも構成員は兵士ではない。普通の市民だ。女も子供も戦闘に参加している。このままこの状態が長引けば、せっかく『開放』したこの国が荒廃して廃墟のかたまりになるだけだ。
 状況は芳しくない。掃討作戦の指揮を執っているワッツ将軍の顔には、焦りがはっきりと見えていた。

「この女を、先週偶然捕まえた。たまたま保安隊が踏み込んだ家が、レジスタンスの隠れ家に続く通路になっていたらしい」
「すごい成果じゃないですか」
 俺は答えて、写真をもう一度見る。
 金髪碧眼。鼻筋の通った美形だ。ややキツめの目が印象的である。ぴっちり戦闘服を着込んでいるが、その分見事な胸が張り出すように強調されている。
 もちろん軍服より豪奢なドレスが似合うタイプの女だ。
「問題はこれだ」
 机の上に今度はA3大の写真が出される。
「これは、レントゲンですか?」
「心臓のところを見ろ」
「……なんです、これ?」
 心臓の場所に、食い込むように楕円形の影が見える。何か人工物だ。
「同時に捕まえた他の捕虜に、シオメトロを注射したら即死してな。調べた結果がこれだ。シオメトロやDA239、ソレント20を打つと動脈をブロックし、死に至らしめる」
 驚いた話だ。今出た薬物はどれも自白剤で、捕虜の尋問に常に使われている。それが心臓に到達した瞬間に、死ぬように機械を埋め込まれているらしい。
「摘出はできないんですか?」
「できていたら、お前を呼んでいない」
 そりゃそうだ。それにこれだけ心臓の近くに埋め込まれていたら、ちょっとやそっとでは摘出できない。
「しかし思い切ったことをしたもんですね」
「他にもベント、ベントなんとか……」
「ベントニク1966。今はもう使われていない自白剤です」
「それにも反応して、動脈をブロックした」
「ははあ。それはまた実に徹底している」
 俺は感心した。
「尋問官が尋問したが、一切口を割らない。激しく拷問して、殺すわけにもいかん。貴様を呼んだ理由はそこだ。あの女を吐かせろ」
 ワッツ将軍は、俺の目を見据えて命令した。ひさびさに捕まえた、レジスタンスの中心的な人間だ。へたな拷問で殺したら事態は悪化するだけということだろう。
「とにかく2ヶ月でレジスタンスを根絶やしにせんといかんのだ」
「2ヶ月? それはまたどうして?」
 冷えかけたコーヒーに手を伸ばして、一気に飲み干すワッツ将軍。
「大総帥が2ヵ月後にいらっしゃることが決定した」
「それは……なるほど、『開放式』を2ヵ月後にすることに決まったということですね」

 実はこの国の『開放式』を、半年前に一度延期している。レジスタンスの抵抗が激しくて、危険だと判断したためだ。もちろん上層部には、そんな報告はしていない。季節外れの豪雨で、堤防が決壊したと報告してある。地下道を水攻めにするという名目で、工作班が堤防を爆破したのを、脚色して報告したわけだ。
 しかし情報部はレジスタンスの抵抗の事実を掴んでいるだろう。だから将軍は焦っている。

「この件で成果を修めたら、中央司令部にお前の研究の支援を掛け合ってやろう」
 それは嬉しい話だ。もっとも事態が切迫してなければ、俺の研究のことなど思い出しもしなかったろうが。
「わかりました。やりましょう。ただし、2つ条件が」
「なんだ?」
「1つ。今回の件で私が預かった捕虜の処遇は、全て私に一任させていただきたい」
「まぁ、いいだろう。好きにしろ」
「2つ目。これから捕まえた捕虜は、全て私が管理します。もちろん全員尋問することは不可能なので、何人か他の尋問官に引き渡しますが、基本的に私の許可なく捕虜を尋問したり、殺したりはしないでいただきたい」
「む。まぁ、仕方がないな。それだけか?」
「はい」
「よし、それでは直ちに仕事にかかれ。期限は2ヶ月だ」

 殺風景な尋問室。10メートル四方の鉄の棺桶と言った方が早い。これまで何人もの血を吸ってきた壁は赤黒く変色している。
 その中央で、エミリア=エルセランは天上から手錠でつながれていた。囚人服を着せられていても、その胸の大きさがわかる。自殺しないよう猿轡を噛まされているが、気の強そうな目がぎらぎらと光っていた。殴られたらしい痣が左の頬にあるが、その他は特に傷はないようである。
 しかし本当に美しい女だ。怒りに打ち震えている今でさえ、整った顔の優美さは崩れない。金髪をポニーテールにしていて非常に活動的な印象を与えている。身長は170cmほど。すらりと足が長い。年齢は28歳ということだった。

「自己紹介しておこう」
 俺は上着を椅子に掛け、そこに座って足を組んだ。
「通称アルファ。階級は中尉になる。一応尋問官の1人だが、今までお前さんを相手にしてきた人間とは系統が違う。あっちは拷問専門。俺は洗脳屋だ」
 エミリアが眉を寄せた。
「知らんのも無理はない。尋問官の中にも派閥があってね。洗脳屋は実は俺しかいない。拷問専門の連中に鼻で笑われて、冷遇をかこってるよ。中央司令部もあまり洗脳に関しては、熱心でなくてね。研究はほとんど進んでない。今回、お前から情報を引き出せれば、1つ成果を認められるというわけだ」
 俺は立ち上がって、エミリアの頬に触れた。嫌そうに顔を背けるエミリア。
「体内にあんな機械を埋め込むなんて大したものだな。その分だと拷問の訓練もしてるんだろう?」
「……」
 エミリアは顔を背けたまま、じっと冷たい目で睨んでくる。
「やっぱりそうか。しかし……」
 俺はエミリア顔を無理やり向けさせ、顔を覗き込んだ。
「『快楽』の訓練なんかしないよなぁ?」
「……?」
 意味がわからず不思議そうな顔をするエミリア。
「人間は痛みに耐えることはできる。単純に精神力の問題だからな。だが『快楽』は違う。1度でも知ると、身体の方で求めずにはいられない。しかもそれには際限がないんだ」
「……フン」
「鼻で笑ったな? まあ、これから嫌でもわかる」
 俺は無針注射器を取り出した。
「本当はもっとじっくりやりたいところだが、なにしろ時間が限られててね」
 首筋に押し当て引き金を引く。
 プシュ!
 中身は媚薬である。薬が効いてくるまで10分ぐらいかかるので、その間にやらねばならぬことを片付けよう。
「レジスタンスと言っても、所詮女。男を求めずにはいられない。思想信条に限らず、真実はそんなものだ」

 自分で言っておいてなんだが、実は男も女もそんな単純ではなかったりする。
 これは挑発だ。怒らせて、目の前の『敵』と戦うことを思い出させる。
 なぜか?
 会話をするために猿轡が邪魔なのだ。もちろん取らなくても陥とす方法はあるのだが、俺の場合話をさせた方が何倍も早く、確実に陥とせる。話せるというのは大事な要素なのだ。最後はやはり、自分の口で認めさせなければならないのだから。

「へっへっへ。違うと言いたいか? ん? だがこれは真実だ。この真実が理解できたとき、お前は尻尾振って、帝国の為に身も心も捧げるようになるわけだ。楽しみだろ?」
 俺は下卑た笑いを浮かべて挑発を続ける。
「この間の女の捕虜が、どうなったと思う? 自分で腰振ってイキまくったあと、ごめんなさいって言って自殺したよ。ごめんなさいだぜ? レジスタンスを裏切って許しを請うて死んだんだ。俺はがっかりしたね。
 なにがごめんなさいだよ。そりゃ単に死に逃げただけだろ? レジスタンスに身を投じたなら、戦って死ねよ。それが負けて許しを請うて死ぬんだから、レジスタンスのレベルも知れるよな。結局お前らは駄々をこねる子供だ。戦う勇気もない」
 猿轡がギリギリと悲鳴を上げていた。エミリアは凄まじい目で睨んでくる。俺はその目を見て満足した。
 まず怒らせることだ。そして死は逃げだと断言する。
 ついでに怒って血圧が上がると媚薬の効果も良くなる。
「なんか言いたい事があるなら聞くぞ。今のうちだけだからな」
 俺は言いながら、慎重に猿轡を解いた。舌を噛もうとしたら直ちにやめなければならない。

「このゲス野郎!」
 エミリアは開口一番吠えた。炎のように怒り狂っている。それでも魅力が崩れないほど、この女は美人だ。
「帝国の犬め! 必ず私たちが叩き潰してあげるわ! 最後の1人になるまで戦い、必ず私たちは勝利する! その腐りきった傲慢な顔が、敗北に歪むのももうすぐよ!」
 素晴らしい啖呵だ。予想通りの気の強さらしい。
「誰が叩き出すって?」
「私たちがよ!」
「お前は捕まって吊るされてるじゃないか」
 ぐっとエミリアは詰まった。
「私が捕まっても、私の仲間が必ず貴様らを叩き出してやるわ!」
「まぁ、ここまで帝国に抵抗してるんだから、確かにお前の仲間はそれなりに優秀だ」
「そうよ!」
 勝ち誇ったように言うエミリア。
「今回の保安隊の突入でも、ほとんどの奴に逃げられてしまったしな」
「のろまな帝国だけのことはあるわね!」
「捕まえた連中も、護送中に逃げ出した奴がいてな。結局捕まえたのは1人だけだ」
「ざまぁみろだわ!」
「結局尋問できるのはお前しかいない。他のレンジスタンスは実に優秀だ」
「え?」
 エミリアが固まる。
「と言うか、本当にお前はサハ地区のリーダーなのか?」
 俺は真面目に聞いた。
「……別にリーダーってわけじゃ……」
「たとえリーダーでもお飾りだな。みんな女をリーダーにして何を満足してたんだ?」
 エミリアの言葉を遮って、俺は話し続ける。
「帝国はそこで迷っている。実はいっぱい食わされたんじゃないかってな。またしても優秀で狡猾なレジスタンスにしてやられたんだと」
「……」

 エミリアの息が荒くなっていた。媚薬が効いている。だがエミリアは自分の変調に気付いていない。さっきまでの激情が注意力を奪っている。ちなみに今回捕まったレジスタンスは7人。3人自白剤で既に死亡している。その他の連中は他の尋問官が尋問中であった。

「つまりこういうことだ。帝国は女のリーダーが、市民のレジスタンス参加を促していると見ていた。女が最前線で実際に戦っていることが、どんどん他の女や子供をレジスタンスに引き込んでいる。だからなんとしても、サハ地区リーダーを捕らえなければならない。サハ地区のレジスタンス狩りが他より強いのは、そういう理由だ」
 この分析は情報部の分析だから、おそらく真実だ。
「今回リーダーの居場所のタレコミが入って、見事に問題のリーダーを捕まえることができた。最初はみんな喜んださ。これでやっと一段落するってな。でもそんなに簡単に捕まるもんか? これだけ苦しめられた狡猾なレジスタンスがこんな簡単なミスをするか? 今まで生きて捕まえたレジスタンスのリーダーなんて1人もいないんだぞ?」

 射殺、暗殺は3人いる。しかし無傷で捕らえたのは今回が初めてだった。
「タレコミがあった?」
 エミリアは慎重に聞いてきた。
 俺の言葉を信じる理由は何1つないが、レジスタンスの分析と、逮捕者ゼロの実績は事実だ。そしてエミリアはそれが事実であることを知っている。
 事実は言葉の重みを変える。どんな場合でも。

「そう。リーダーの居場所を教えるってな。ちなみにそんな情報は1日に何本もある。ほとんどがレジスタンスによる攪乱情報だ」
「……」
 エミリアは視線を逸らせて何か考えている。たぶん情報を売った奴が誰か考えているのだろう。
 だが、今回の逮捕劇が完全に偶然だったことは、ワッツ将軍自身が認めている。。
 もちろん俺がレジスタンスの内部分裂を狙って、裏切者をでっち上げているかもしれないと疑っているに違いない。
 それでも、「もしもいたら」と考えてしまう。なにしろ自分が今実際に捕まっているのだから。
「だが俺はお前をこうして目の前にしてわかったよ」
「何がよ?」
「レジスタンスにとって君は女だったってことだ。レジスタンスの大切な広告塔であり、同時にリーダーに祭り上げられて、その気になってるイイ女……」
「無礼なことを! あんた達帝国の連中と一緒にしないで!」
 また炎のように怒声を発するエミリア。俺は心の中で苦笑いした。否定しなかったことで自分がリーダーだってことを認めている。
「じゃあ、聞くがな。お前はレジスタンスの中で、男たちの視線を感じたことはないのか? その胸、尻に吸い寄せられる男の視線を」
「それは……」
 ないわけがないよな。これだけイイ女なんだから。
「男なんだから、多少は……仕方がないわ……」
 消え入りそうな声だが、答えたくない質問にも答えている。いい傾向だ。
「それじゃお前も女として仕方がなく、男に欲情したか?」
「するわけないでしょう!」
「どうして?」
「私はこの身を全てを抵抗活動に捧げている! そんなこと思う暇さえないわ!」
「酷いこと言うなよ。それじゃお前に色目を使った連中は、中途半端にレジスタンスをしてることになるぞ?」
「う……」
 してやられて悔しそうな顔をするエミリア。
「これは真実だ、エミリア。男は女に欲情するし、女は男に欲情する。男は女が自分に『男を感じる』と嬉しいし、女は男が自分に『女を感じる』と嬉しいんだ」
「だから、私は違うって言ってるでしょう!」
 おいおい。そこまで否定すると後がつらいぞ。これは真実だ。別にレジスタンスだろうが、農家の娘だろうが、自分の女を意識するのは当たり前のことだ。
「レジスタンスのリーダーでも女は女だ。それを否定することはできない」
「私は、抵抗運動に身を投じた瞬間から、女を捨てたわ」
 エミリアは真正面から俺の目を見据えて言った。
 強烈な意思がほとばしる、いい目だった。
「そうか。それじゃあこれから、捨てた女を思い出させてやる。たっぷりとな」
 俺は前動作ナシに、ヒョイと胸を揉みあげた。
「んはあぁぁん――」
 白い喉をのけ反らせて喘ぐエミリア。
「――えっ?」
 自分で自分の喘ぎ声に驚いている。
「あまり優しい触り方じゃなかったはずだが、感じたのか? エミリア」
 俺は罪のない笑顔をエミリアに向ける。
 しかし弾力のある胸だった。鍛えているから張りが違う。これから仕事とはいえ、この女を蹂躙するのかと思うと心が躍った。
「さっき打った薬ね。本当、貴様ら帝国の人間はゲスだわ」
 変わらず炎のような目を向けてくるエミリア。また『貴様』に戻っちゃったが、その表情には以前のような余裕が消えている。
「最初に言ったろうが。『快楽』の訓練は受けていないだろうって。まぁ、お前が24時間頑張ったら、解毒剤をあげるよ。とりあえず自分が女だってことを思い出してもらえればいいしな」
「くっ……」
 エミリアが自分の唇をかみ締める。気の強い女の悔しそうな表情は、実に色っぽい。特に媚薬が効き出して首筋に朱が混じり出している時は最高だ。
「それじゃ始めるか」
 今度は両手で両方の胸を包むように触る。囚人服の上からでも大きすぎるおっぱいが、手から溢れてるのがわかった。
 ゆっくりと円を描くように揉み込む。
「うっ、ふっ、……っく」
 今度は喘ぎ声を出さなかった。歯を食いしばって耐えるエミリア。
 彼女にとって長い長い夜が始まった。

< つづく >

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