恵の先生

「お久しぶりです。春野先輩」
 その女の子は喫茶店に入ってくると、目当ての人物を見つけるなり駆け寄ってそう言った。
「恵(めぐみ)さんも元気そうね」
「それだけが取り柄ですから」
 恵と呼ばれたその女性は、可愛らしく舌を出した。店員にストロベリームースパフェを注文する。
「三ヶ月ぶりくらいかしら」
「そうですね。先輩が卒業されて以来ですから。でも先輩、変わりましたね。もうすっかり女子大生って感じですよ」
 眩しそうに春野を見つめて恵が言う。今の恵にとって先輩の春野は目標であり、憧れでもあるのだ。
「そんな事ないわよ」
 春野は上品に笑いながら答える。しかし、それこそ大人の余裕なのだ。高そうなブランド物の小物を身につけ、それがすごく似合っている。少し前まで恵と同じブレザーを着て学校に通っていたとは思えない。
「いいなぁ、私も先輩みたいになりたいです」
 春野が大人の女性という感じなら、恵は年頃の女の子という感じだ。化粧もしておらず、髪型もポニーテール。いかにも校則通りという地味な格好だが、素材の良さだけで目立つ存在だ。よく動く大きめの瞳が、感情豊かな彼女の性格を現していた。
「恵さんも、来年の今頃は私と同じようになっているわよ。それでどう?受験勉強の方は」
「それが・・・」
 恵が下を向く。
「勉強は、私なりにがんばっているつもりなんです。でも成績が良くならなくって。私、先輩と同じK大志望なんですけど、最近は担任の先生にもK大は無理だから志望校を変えなさいって言われているんです」
「そうなんだ。でも、恵さんはK大が諦め切れないのね?」
「はい。私の家って父も母もK大出身なんです。兄もK大だったし、もう大学はK大に行くって家では小さい頃から決まっていたようなものなんです。でも、私だけ頭が悪くって・・・。先輩はいいですよね、頭良くって」
「馬鹿ね。私だって頭は良くないのよ。去年の夏頃までは、K大なんて絶対無理って言われていたのだから」
「で、でもぉ先輩は現役でK大に合格されたし。その、どんな勉強をされたんですか?」
 身を乗り出すように、恵が尋ねる。今はワラにもすがりたい心境なのだろうか。
「私の時は、すごく優秀な家庭教師に勉強を教わったの」
「家庭教師・・・」
「そう。T大工学科の大学院生の人なんだけどね。その人に勉強を教えてもらえるようになってから、私の成績も良くなって、K大に合格できたのよ。そうだ。ね、もし良かったら、その人紹介しようか?」
「本当ですか?ぜひお願いします。私、親に話してみますから」
 恵は頭を下げた。
 春野は不思議な笑みを浮かべていた。感情を感じさせない、無機質な人形の笑み。しかし、その事に恵が気づく事はなかった。

 田所は、初めて会った女の子に年甲斐もなく胸を高鳴らせていた。恵は、かつて家庭教師をしていた春野から紹介してもらった受験生だ。
「それじゃ、今日は最初だから、恵ちゃんの実力が知りたいんだ。まずテストしようか」
「はい」
 恵が問題と格闘している間、斜め後ろから恵の様子を眺める。
 写真では見ていたが、実物はもっと可愛い。真っ黒で光沢のある髪を、濃い緑のリボンでポニーテールにしていた。ただそれだけの事だが、これだけ素材が良ければ、それだけで素晴らしくよく見えた。
 それに比べて自分は不釣合いな存在だ。機械いじりが好きな、いかにもオタクという風貌。今は家庭教師と生徒という関係だから親しくしていられるが、そうでなければこんなかわいい女の子と親しくする事など、絶対にないだろう。

 田所は、恵の答案を採点していた。横で、恵が神妙な顔をして控えている。結果に自信がないのだろう。
 恵の学力は決して高くない。特に数学と英語はひどい。これではK大合格は難しい。志望校の変更を提案する学校の先生の言い分はもっともだ。
「うーん」
 田所は唸った。そして、恵の方に向き直る。
「正直言って、恵ちゃんの学力ではK大は無理だと思う。英語と数学がこれだけ悪いとね。どちらも一朝一夕に学力を伸ばすのは難しい科目だし、受験まであと半年しかないしね」
「やっぱりそうですか・・・」
 田所が少し間を置く。恵はうつむいて悲しそうな顔をしている。その様子に、田所は内心、ゾクゾクするような背徳的な感覚を覚えていた。
「僕は恵ちゃんをK大に合格させる為に家庭教師になったんだけど・・・これは生半可な方法では無理だな・・・。これを使ってみる?」
 田所はポケットから、透明のケースを取り出し机の上に置いた。
「なんですか?これ」
 透明のケースの中には、銀色に輝く短めのペンシル状の物体が見えた。
「これはマイクロマシン。肉眼では見えないくらいのサイズなんだけど、このペンシル状の機械の先端にセットされているんだ。ここを、頭部に当ててお尻のボタンを押すと、マイクロマシンを埋め込む事ができるんだ」
 マイクロマシンを指差して、田所が説明する。
「マイクロマシン・・・」
「そう。僕のいる研究室ではマイクロマシンをいろいろ開発していてね。これは僕が作った受験用のマイクロマシン。この中に受験で必要な知識が入っている。これを付けていると、脳の電気信号を受け取って、必要な情報を電気信号に変換し、放出する。要するに、これがあると試験の時『正解』がわかってしまうというわけさ」
「あのぉ、それってカンニングじゃ・・・」
 遠慮がちに恵が言う。育ちがいいのだろう。そのような行為、自分がやるなど思いもよらない、という様子だった。
「マイクロマシンを付けて受験を受けてはいけない、という規則はないよ」
 苦笑しながら田所が答える。
「それにマイクロマシンはその大きさ故に、無関係の第三者が発見する事は極めて困難なんだ」
「でも、これって安全なんですか?」
「安全だよ。もう僕の研究室では臨床実験も終わっているんだ。そうだ、次の模試っていつあるの?」
「今度の日曜に全国模試があります」
「そうか、それじゃそれまでこの機械は恵ちゃんに預けておくよ。方法はさっき言った通り、頭に当ててボタンを押すだけだから。使うも使わないも恵ちゃんの自由だよ。そうそう、実は恵ちゃんを紹介してくれた春野さんも、このマイクロマシンを使ったんだ」
「春野先輩もこれを?」
 恵は驚いた様子だった。
「ああ。ちょうど去年の今頃だったかな。僕が彼女にマイクロマシンを手渡したのは。結果は、君も知っての通りさ」
「春野先輩も・・・」
 人間は、自分の身近な人がやってみせると安心してしまうものだ。田所には、恵の中でマイクロマシンを使う事への障害が、次第に薄れていくのを感じていた。
「私、考えてみます」
 マイクロマシンを見つめたまま、しばらくして恵はそう呟いた。

 模試と模試の休み時間。実力を出し切った満足感、実力を出し切れなかった徒労感、それらが混ざり合い、予備校の教室は気だるい雰囲気に包まれていた。後は数学の試験を残すのみというこの時間、恵は半ば呆然と参考書を眺めていた。
 結局、恵は今朝マイクロマシンを使用した。少しチクッとする感覚があったが、それだけだった。なんら変わった所はない。三日も悩みに悩んだのが嘘のようなあっけなさだった。
 しかし田所が説明したような、問題を見ただけで答えがわかる、なんて事は一切なかった。これでは点数も良くないに違いない。
 試験官が教室に入ってきた。これから恵のもっとも苦手な数学の試験が始まるのだ。恵は憂鬱な気分になっていた。
「それでは数学の試験を始めます。チャイムが鳴るまでテスト用紙は裏返していてください」

 チャイムが鳴った。
 恵はテスト用紙をひっくり返し、問題を見た所で息を呑んだ。
「!」
 問題を見ただけで、使用する公式、解法、答え、それらが全て、一瞬のうちに脳裏に浮かんだ。その中には、今までの自分なら考え付くとは思えない「答え」がいくつもあった。
 これがマイクロマシンの効果に違いなかった。
「すごい・・・」
 恵は小声で呟くと、『答え』を書き込み始めた。

「先生!ありがとうございます」
 試験の翌日、田所が恵の部屋に入るなり、恵は丁寧に頭を下げた。
「その様子じゃ、試験はうまくいったみたいだね」
「はい!あの、数学だけでしたけど、あんなに問題解けたのは正直言って、小学生の時以来だと思います」
 余程うれしかったのか、恵はにこにこしている。
「ああ。渡したマイクロマシンは数学用だからね。実はマイクロマシンは教科毎に一つづつあって、五教科なら五種類のマイクロマシンが必要なんだ」
「そうだったんですか。それであの、先生」
 遠慮がちに恵が言う。
「実は明日、学校で英語の小テストがあるんです。もしよろしければ、英語用のマイクロマシンを今日いただけませんか?」
 最初の頃は持っていた、マイクロマシンを使う事への恐れ、抵抗感を恵は既に喪失しているようだ。試験で劇的な効果があった事もその理由の一つだろうが、マイクロマシンによる「調整」も順調のようだった。
「ああ、いいよ。ちょうど持ってきていたしね」
 田所はマイクロマシンを取り出した。
「見ていてあげるから、今使えばいいよ」
「はい、ありがとうございます。ちょっと待ってくださいね」
 恵はさも当たり前という様子で、服を脱ぎ出した。シャツを脱ぐとデニムのパンツを下す。上下お揃いのオレンジ色の可愛い下着だ。意外と恵の胸は大きかった。着やせするタイプらしい。
 テキパキと恵はブラを外した。今まで誰の目にも触れた事がないであろう、可憐な乳房が露になる。
 続けて恵はショーツを脱いだ。スクール水着の跡の残る裸体が全て露になった。
 恵の生まれたままの姿を見て、田所は恵をこの場で犯したいという、雄の衝動を押し殺すのに必死だった。
 恵は全裸になってから、ようやくマイクロマシンに手を伸ばした。
 マイクロマシンを使う時は全裸になるのが当たり前であり、その時だけはまったく恥ずかしくない。そんな事は恵の中では『常識』だ。
 計算通りの効果に、田所は大いに満足した。
 プシュっという音がして、恵は自分の頭に二つ目のマイクロマシンを埋め込んだ。
「先生、これで英語はバッチリですか?」
 期待感に、恵の瞳は輝いている。
「ああ。“効果”は保障するよ」
 田所は暗く、密かに胸躍らせていた。

 クラスの英語担当の教師はテスト好きだ。よく授業中に小テストをやらせる。恵はそれがいつも苦痛でならなかった。
 しかし、今日は違う。K大合格レベルの学力がある今の恵には、小テストなど遊びにもならない。
 恵は問題の英文を一読するなり、すぐに答えを書き始めていた。
『どうして今までこんな簡単な問題が判らなかったのかな?』
 答案用紙を戻す時、いつも点数の悪い恵は教師に嫌味を言われていた。今度の答案を見たら、一体どんな顔をするだろうか。
『ん…』
 恵の下半身に、突然痺れが走った。それは、甘美で危険な、不思議な感覚だった。
 恵は自分の下半身が、熱く息づいているのを感じていた。
『生理?でもまだ早いし、それにちょっと違う感じ・・・ン・・・』
 恵の顔が赤くなっていく。心臓の鼓動も早い。まだ性的な経験に乏しい恵には知る由も無かったが、恵の肉体は勝手に発情し始めていた。
『だめ、今は試験を解かないと・・・』
 恵は両足をギュッと閉じ、左手を股間に押し付けた。恵は必死に試験も問題を解きながら、自分を翻弄する不思議な欲情に耐えていた。

「どうだった?英語は」
 田所は家庭教師に来ていた。今日の恵の様子はおかしい。なんだかぼんやりしている。
「恵ちゃん?」
「は、はい」
 慌てて恵が返事をする。
「今日英語の小テストあったんでしょ?」
「あ、小テストはバッチリでした」
「そう。ちゃんとマイクロマシンは作動したようだね」
 確かにマイクロマシンは作動している、そう田所は確信した。昨日使ったマイクロマシンは、英語の効果だけではなく、恵の淫乱化をもたらすような細工がしてあった。今日一日、恵は欲情している状態のままだったはずだ。
 と、言っても恵は知識として「性欲」は知っていても、「経験」はほとんどないらしい。自分が発情しているという感覚になじみがあるはずもなく、ただひたすら戸惑い、耐えるしかなかったはずだ。
 性的経験のない女の子が無理やり発情させられ、自分の性欲を持て余している様子は、田所を興奮させていた。
「今日は残りの三つのマイクロマシンも持ってきたんだ。どうせだったら、全部今日使ってしまおうよ」
「はい、そうします・・・」
 もはや恵が拒否する事は有り得ない。恵は生気を感じさせないぼんやりした瞳のまま、当たり前のように服を脱ぎだした。

 プシュという音がして、恵は自ら三つ目のマイクロマシンを自分の頭に埋め込んだ。
「ああ・・・」
 恵の反応が変化した。全裸のまま、立ち尽くし、腰をもじもじさせている。三つ目のマイクロマシンを使っても、恵の発情状態が治まるわけではない。
 恵のふとももを一筋の愛液が流れ落ちるのを、田所は見逃さなかった。
「フフフ、そんなにいいのかい?恵。だったらベッドに横になって、オナニーでもしたらどうだい?僕の事は気にしなくていいからさ」
 田所は恵、と呼び捨てにした。
 今恵の母親は買い物に出かけており、家には田所と恵以外誰もいない事は確認済みだ。
「そんな事、できないです・・・」
 わずかに残った理性で、田所の提案を拒否する。だが、恵の体は自然にベッドへ向かっていた。
 恵はベッドで横になると、足を大きく開いてオナニーを始めた。
「体が、勝手に・・・」
「恵には言っていなかったけどね。マイクロマシンは受験用だけではなく、他の効果もあるんだ」
 自慰を始めた恵の横に立ち、田所が勝ち誇ったように言う。
「一つ目のマイクロマシンは理性の支配。『マイクロマシンを使っても安全だ』とか『使う時は裸になるのが常識だ』なんて事を思うようになったのもそのせいさ」
 おかしそうに田所が続ける。
「二つ目のマイクロマシンは本能の支配。これは恵の性本能を増幅させた。今日一日、恵は激しく発情していたはずさ。さかりのついたメス犬にようにね」
 恵のあそこは、おしっこをしたかのように太ももまでぐっしょりと濡れていた。恵のいやらしい汁の臭いが部屋に充満する。
「そして今使った三つのマイクロマシンは筋肉の支配。もう恵の肉体は、自分の意志より僕の命令を聞くようになっている。僕がオナニーしろって命令したら、この通りさ」
「そんな・・・あ・・・あ・・・!!」
 田所の悪魔の告白を聞きながらも、恵はオナニーを止める事ができない。
 恵の体はここから逃げだしたいと思う自分の意志を無視して、オナニーをしろという田所の命令に忠実に従っていた。恵指は激しく自分の性器を愛撫し続けている。
「それじゃ四つ目のマイクロマシンを使ってみようか」
「い、嫌!」
 田所は、四つ目のマイクロマシンを、愛液まみれの恵の手に握らせた。
 恵は右手でオナニーを続けながら、左手に持ったマイクロマシンを自分の頭に埋め込んだ。
「ああ・・・」
 恵が絶望の声をあげる。
「数年前、僕の研究室に警察から捜査協力依頼があった。日本に進出してきた外国の売春組織が摘発されたんだが、その組織は女性の頭部にマイクロマシンを埋め込む事で、女性をセックス用生体ロボット、つまりセクサロイド化させていたらしい。僕は組織が使っていた娼婦改造用マイクロマシンの構造解析を行った。そしていつか、自分でも作ってみようと思っていたのさ。さあ、そろそろ四つ目マイクロマシンが恵の脳とつながって稼動し始めるぞ」
「あああああ!!」
 恵の声が甲高くなる。自らの股間に手を置いたまま、恵の体が弓なりに反った。
「四つ目のマイクロマシンは感覚の支配。今、恵の性感は極限まで高められる」
 押し寄せる快感の強さにビクンビクンと恵の体が痙攣する。
「ああ、私、一体どうなっちゃうの?」
 快楽に溺れる恵の瞳が、田所を捉える。
「僕はマイクロマシンを製作するにあたって、受験用に改良したけど、こっそりコピーしておいた売春組織のプログラムは、そのまま残しておいた。最後の五つ目のマイクロマシンは完全支配。これが埋め込まれると、恵は僕専用のセクサロイドに生まれ変わるんだ」
「そ、そんなぁ…」
「ふふ、しかしイイだろう?今恵の感じている快感は、普通に生きていたら絶対に味わえない程のものだ。こんなに気持ちよくなれるなんて、恵は幸せだね。恵は一生この快楽の中で生きていくんだよ」
「かはぁ、あああああ!!」
 恵の瞳は大きく見開かれ、空気を求めてあえぐ。恵の顔は、涙と涎でベトベトだ。自らの許容範囲を大きく越える快感に、せっかくの美貌が激しく歪む。
 恵の存在自体、そのほとんどが支配され、わずかに残った自我も押し寄せる快感の中で、ドロドロに溶けていった。
「いい!気持ちいい!!」
 恵は絶叫した。それはマイクロマシンが言わせたのではなく、恵の「生の声」だと田所は確信した。
「それじゃあ最後のマイクロマシンだよ。これを埋め込んだら受験は合格間違いなしさ」
「受験なんてもうどうでもいいの!イイの、気持ちいいの!もっと気持ちよくなりたいの!マイクロマシンをちょうだい!!」
 恵の瞳はある種の『狂気』をはらんでいた。それは、自ら快感に溺れる絶望と歓喜を同時に感じた恵の、最後に見せた感情だった。
 恵は、田所から最後のマイクロマシン受け取ると、自分の頭に埋め込んだ。
「あああああ!!」
 恵の歓喜の声が部屋中に響き渡った。

 恵は黙って田所に腕を絡めて寄り添っている。その顔は、ほのかに赤く上気していた。今の田所は、恵の家庭教師であり、彼氏でもある。
 受験という事もあり普通なら親がこの時期に恋愛などいい顔はしないものだ。しかし、家庭教師をしてから恵の成績が急上昇した事もあり、田所は恵の両親に絶大な信頼を勝ち得ていた。
 恵はというと、すっかり田所に夢中な様子だった。
 今は夏休み。夏季集中ゼミの最中だが、もう恵には関係ない。恵の学力はK大合格ラインを大幅に上回っているのだから。
 田所は恵を始めてホテルに連れ込んでいた。今日、恵の処女を奪うつもりだった。もちろん、恵もそれを察してるはずだが、特に嫌がる様子はなかった。
「うわーおっきいお部屋」
 部屋に入るなり、物珍しそうに恵は部屋を見回した。始めて来たモーテルに、興味津々といった感じだった。
「へーお風呂も広いんだ。うわ、ジャグジーも付いているよ。これは、マット?」
「ふふ、これでいろいろ楽しめるんだよ」
「やだぁ、田所さんのエッチ」
 恵は真っ赤な顔をしている。このウブな反応は、出会った時から変わらない。
 恵は、特に命令がない時は恋人として振舞うように『設定』されていた。
 しかし恋人状態の恵とごく普通に結ばれるつもりなど、まったく田所にはなかった。
「恵、ちょっとおいで」
「なぁに、田所さん」
 恵は素直に田所の元へ駆け寄ってくる。
「セクサロイドモード、起動」
 田所が高らかにそう宣言した瞬間、恵から一切の表情が消える。焦点の定まらない瞳が虚空を見つめる。それは、血の通わない美しい人形そのものだった。
「セクサロイドモード起動します・・・起動完了。セクサロイド・メグミ起動しました。ご主人様、本日のセックスプログラムを選択してください」
 機械の音声のような声で、恵が言う。恵は田所の命令によって、完全にコントロールされる存在なのだ。
「モード18」
「モード18、ロードします」
 田所は、恵の用意が整うのを待った。セクサロイドとして、恵には複数のセックスプログラムが用意されている。恵の所有者として田所は、その日の気分で好きなセックスパターンを選択する事ができた。記念すべき初体験のパターンは、前々から田所は心に決めていた。

 田所は、浴室のマットの上で恵の『奉仕』を受けていた。全裸になり、泡まみれになった恵が、滑るように田所の体の上を動き回る。
 田所がこのモーテルを選んだのは、マットを始めいろいろな道具が充実しているからだ。
 カップルが浴室でもいろいろ楽しめるような嗜好だが、恵の『奉仕』はそんな遊びレベルを超えている。その動きの練達さは、プロのソープ嬢のそれであった。
「ご主人様、いかがでしょうか?」
『モード18』
 今の恵は、ソープ嬢のテクニックを完全にマスターしている。
「恵、気持ちいいぞ」
 嬉しそうな顔をする恵。その表情は、まだ子供っぽさを残した少女のそれである。しかし顔から下は、田所の性感を刺激する為自らの肉体をこすりつける。そのアンバランスさに田所は激しく興奮していた。
「処女の美少女にソープ嬢並の奉仕をさせる、か。こんな事ありえないだろうな。マイクロマシンのおかげだ」
 恵は田所をうつぶせに寝かせた。後ろを向き、田所のももをまたぐと、足を取り、足の裏を自分の胸にこすりつける。
 自らの存在を主張するようにピンと立った乳首を、田所の足の裏で押しつぶす。恵の胸は残忍なまでに歪んでいた。
 同時に、恵の腰も怪しく動く。恵は自分の性器も田所に擦り付ける事も忘れない。
 恵の愛撫は、田所の全身隅々にまで及んでいた。

「それではご主人様。失礼します」
 恵は田所をあお向けに寝かせた。愛情の篭もった恵の奉仕を受けて、田所の肉棒は硬くそびえ立っていた。
 恵は田所の上にまたがり、自分の性器を肉棒にあてがうと、一気に腰を降ろした。形の良い恵の眉が痛みに歪む。
「い、痛い!」
 二人の結合部から、血が滴り落ちる。それは恵が処女を喪失した瞬間だった。
「痛みを消す事もできるんだがな。せっかくのロストバージンなんだ。痛みを感じないと勿体無いだろう。さあ、いつまでもじっとしていないで、腰を動かすんだ」
 田所の肉棒は、狭い恵の性器の中を押し広げ、完全に根元まで突き刺さっていた。
「は、はい!」
 恵の中で、肉体の痛みより、田所の命令は上位に位置している。恵は腰を動かし始めた。
 次第に、恵の反応が変化しだした。マイクロマシンが『ご主人様』に恵の乱れた様子を楽しんでもらえるよう、快感を誘発し始めた。恵は初体験であるにも関わらず、痛みを大幅に上回る快感に、夢中になっていった。
「ご主人様のチン○、素敵です。ああ!!」
 田所は恵が意識的に卑猥な言葉を使うよう、『調整』していた。恵は快感に溺れた嬌声を上げながら、顔に似合わない淫語を連発する。
「恵のオマ○コがしびれて!ああ!!ご主人様のチン○が出し入れする度にカリがゴリゴリ引っかかって、気持ちいい!私、ご主人様とのセックス大好きですぅぅ!!どうか、恵をこれからもいっぱい使って、白くて臭い精液をいっぱい恵の中に出してください!!」
 田所の限界も近づいていた。
「出る!出すぞ。恵!!」
「ああ…ご主人様!恵の、恵の一番奥に出してください!!」
 田所は恵の中に精を放った。同時に恵の体が痙攣する。
 『ご主人様』に精液を出してもらえる事こそ、田所専用のセクサロイドとなった恵の最大にして唯一の存在意義であり、田所を射精させた感激だけで恵は人生最大の幸福感に浸っていた。
 恵は肉棒を入れたまま、田所の上に倒れこんでくる。
「ご主人様・・・これからも恵を可愛がってください・・・」
 田所の胸に顔を埋めながら、恵は幸せそうに呟いた。

「先輩、お久しぶりです」
「秋田さんも元気そうね」
 一年が過ぎた。
 恵は無事K大に合格した。
 秋田は恵の後輩で、めがねをかけた可愛らしい感じの女の子だ。今日、久しぶりに会ってお茶しようと、恵が秋田に声をかけていたのだった。
 恵はすっかり大人びて見えた。生来持っていた美しさが磨かれ、今では道を歩けば通行人が振り返るほどだ。
「秋田さんも今年受験でしょ?どう調子は?」
「それがだめなんです。この前の模試の成績も良くなくって・・・」
「ねぇ、私、いい家庭教師の先生を知っているんだけど」
 恵は、感情を感じさせない、人形のような不思議な笑みを浮かべていた。

< 完 >

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