ノノちゃんの日記

本文章は
 観測記録『世界№1132。クシュウ王国、王都クマト』
 (世界内時間2005年6月18~19日の記録)
 ミッションログ『ラヴリィ・ノノ作戦』
 ラヴリィ・ノノ作戦遂行者の証言
 を元に作成されている。より正確かつ詳細な情報は上記を参照のこと。

 スーツを着た中年の男が扉を開け部屋に入ってきた。部屋に設置されたディスプレイに向かって熱心に作業していた二人の若い男は、どちらも手を止め、中年の男のほうを向いた。
「さぁ、始めるぞ」
 中年の男は部屋の中央にある机に着いた。そこにもディスプレイが設置されていて、様々な情報が表示されている。広くない部屋の中は装置や機器、コンソールで埋め尽くされていた。
 若い二人の男はともに作業を再開し、次々に報告を始めた。
「S.G発生装置を起動。ゲート発生を確認」
「ゲート半径20、50、100。ゲート安定。半径十分」
「1132に向けマーカーを射出」
「1132に到着。目標を確認。マーカー、目標をロック。ロック完了。帰還マーカー射出」
「帰還マーカー到着。帰還マーカーをロック。ルートを確保」
「ルート確保完了。主、副、予備、往復すべて問題なし」
「同調開始」
「感情子、順調に流動。目標と感情子循環を開始しました」
 
 
 女の子は、公園のブランコに腰掛けていた。足をプラプラさせながら、楽しげに鼻歌を歌っている。ふと、大きな猫がこちらを見ていることに気付いた。首にはきれいな青い宝石の付いたアクセサリ、そして胴体は包帯でぐるぐる巻きにされていた。
「ネコさん、どうしたの?ケガしたの?」
 女の子はブランコを下りて、猫のほうに向かった。
「あれ?あれれぇ?」
 その足取りが不意にぐらつくと女の子の目からフッと光が消え、その場に倒れた。猫は、眠っているように公園の地面に倒れている女の子の側まで歩いていく。女の子の横にちょこんと座った。
 しばらくして、女の子は目を開けると立ち上がった。
 
 
「同調、完了しました」
 若い男の一人が告げた。部屋に静けさが戻る。
「こちらスネーク。目標への寄生に成功した。聞こえるか?」
 静寂を破り、部屋に設置されているスピーカーから声が響く。少女の声だ。
 中年の男はハンディマイクを取り付けると、少女の声に返した。
「良好だ、スネーク。その体の調子はどうだ?」
「問題ない。しかし、目の高さがいつもよりかなり低い。妙な感じだな」
 中年の男はクックッと苦笑をもらした。
「女の子だからな。今回の君の任務は、ターゲット『葦原トモコ』を妹の葦原ノノ、つまり今の君の虜にすることだ」
「分かっている。しかし、なぜそんなことを?」
 中年の男は少しだけ困った顔をした。嫌な話題だなと思った。
「実はターゲット、トモコはキミヒロ王子に好意を持っている」
「キミヒロ?あの姐さんのお気に入りの男か…」
 少女の声はげんなりしている。
「そうだ。いつもなら彼も相手にしないが、1433のキミヒロがナナミを捨てた。その影響でそちらの二人も現在なんとケンカ中だ。1433の二人にも干渉してはいるが…」
「つまり1433の二人の仲を取り持つ間、トモコを引き付けておけということだな。キミヒロを奪わないように。しかし、これは完全に姐さんの趣味だな。いったいあの二人の何がいいんだ?」
「噛み合ってるようで、噛み合ってない二人を見るのが面白いそうだ。スネーク、たとえこれが課長の趣味でも仕事は仕事。それに俺達は雑務課だ。こんな仕事は俺達以外、誰もやらん」
「やる必要があるか分からんがな。俺たち向きではある」
 少女の冗談に二人はしばらく笑い合った。
「スネーク、君の装備だが…」
「ああ、猫、『にゃふ』が持っている」
「首のアクセサリはS.G.MCSだ。手首にはめろ。君の魅力を倍増してくれる。それがあればトモコを虜にするのも簡単だろう。それから包帯の下に日記帳がある。経過報告はそれを使ってくれ。スネーク、いやノノ。この作戦の成否は君にかかっている。頼むぞ」

「了解…じゃなくて、はい!」
 女の子は元気よく言った。手首には青い宝石の付いたアクセサリが付けられ、手には日記帳が握られていた。
「ノノー、もう帰るわよー」
 公園の入り口のあたりで女性が手を振っている。何も身に着けているものがなくなった猫は、ナーと鳴いた。
「じゃあ、またね。にゃふりん」
 ノノは猫に笑いかけると、姉のもとに走り出した。

「おねぇちゃーん!」
 ノノは走ってくると、そのまま私に抱きついた。年の離れた妹。かわいくて、ずいぶん甘やかしたせいか年の割にひどく子供っぽいと思う。
「ほらノノ、もう帰るわよ」
「うん!」
 ノノは抱きついたまま私の顔を見て、えへへ、と笑った。
 あっ!?
 なに?なんだろう?なんだか少し…少しだけ、ノノのことを見て…ドキッとした。
 今日のノノ、いつもと違う。なんだか、かわいい。いつもかわいいとは思ってたけど、違う。いつもと違って、かわいい。すごく、かわいい。抱きつかれてると、照れる。
「ほ、ほら!いつまでも抱きついてないで帰るよ」
 ノノが離れると自分の服が土で汚れていることに気付いた。よく見るとノノは地面に寝そべっていたみたいにドロだらけになっている。
「ちょっと!なにしてたの、ノノ?あなたドロだらけよ」
「ご、ごめんなさい」
 しりすぼみになりながら謝るノノ。今にも泣き出してしまいそうで…あぁ、まただ。またノノがとても…お願い、泣かないで、ノノ。
 なんだろう。なんだか、ヘンだ。ノノのこと見てると…なんだろう、この気持ち。
「もう!ノノ、帰ったらいっしょにおフロ入るよ。お姉ちゃんが洗ってあげるから」
 ダメよ。もう一人で入らせなきゃ。いつもはそう言うのに。甘やかしちゃダメ。でも、私…いっしょに入りたい。まぁ、いいか。妹なんだし。姉妹なんだから、何もいけないことなんか、ないもの。いいよ、たまには。
「ほら、早く帰るよ。ノノ」
 ノノの手を取って歩き出す。ノノとおフロ、ひさしぶりだな。いっしょに入るんだ…ノノと…おフロに。早く入りたい。ノノとおフロ…早く。早く、早く、早く、早く…。
「いっ、痛いよ。お姉ちゃん!」
「あっ!ご、ごめんね、ノノ。痛かった?」
 なにしてるんだ、私。なに考えてるんだ、私。ノノの手をこんなに強く握ってたなんて。あんなにグイグイ引っ張って。小さいノノの手を…ノノの手…小さくて、やわらかくて、あたたかくて…もっと、もっと、ふれていたい。
 ダメ!ダメだ!ノノと手を繋いでたらいけない!私はノノの手を振り解いた。ノノをおいて歩き出す。
「え?お姉ちゃん?」
「ノノ!手なんか繋いでなくても歩けるでしょ。もう大きいんだから」
「う、うん…」
 きっとノノは今、とても寂しそうな顔をしている。
 だから、見ちゃダメだ。ノノがとても気になる。だから、見ちゃダメだ。見ちゃったら私、また。今日のノノ、いや今日の私はなんだかおかしい。いっしょにおフロに入るのもなし。甘やかすとかじゃなくて、きっとそんなことしたら私……。だから、ダメ。
 私が気をつけなくちゃ。私がお姉ちゃんなんだから。私が気をつけて、もうこんなことは…。

「ただいま…」
 やっと家に着いた。あれからは、一度もおかしくなってない。大丈夫、大丈夫だ。
「ただいまぁー」
 ノノはいつもどおり元気に入ってきた。私を追い越して、廊下の奥のおフロ場に向かう。ノノの後ろ姿…平気、平気、平気、大丈夫。
「おねぇちゃーん、おフロ、おフロ!」
「ごめん、ノノ。やっぱり一人で入って。入れるでしょ」
「えぇー!ノノ楽しみにしてたのに。いっしょに入ろうよ」
 廊下の奥から顔だけ出して、私を誘う。もう上着を脱いでいて、白い肩がいっしょに見える。ノノの肌、白い。雪みたい。あっ、ダメ!とても、きれい。いけない。
「ねぇ、お姉ちゃんお願い」
 ノノも楽しみにしてたのに。ダメ、私たち姉妹なの。そうだよ、いいじゃない姉妹なのに。違う、こんな気持ち。私は平気なの。こんなの平気。平気、平気…そう、平気だよ。姉妹でおフロに入っちゃいけないなんて、ない。そうだよ。いっしょに入ろう。私も入りたい。
「分かった、ノノ。いっしょに入ろう」
 ノノうれしそう。私も、うれしいよ。

 ノノの背中を流してあげる。泡を立てて洗う。ノノの身体、どこだってとてもやわらかい。白くて、きれいで、もっとさわっていたい。泡を流してあげる。
「ほら、きれいになったよ」
 本当に、きれい。いっしょに湯船につかる。狭いから、向かい合って入ると脚同士が触れ合って、うれしい。ノノが私のほうをじっと見てる、うれしい。
「どうしたの、ノノ?」
「いいなぁ、お姉ちゃん。ムネが大きくて」
 かわいい、ノノ。
「ノノだってすぐに大きくなるよ」
 そう言って私はノノのムネにそっと触れる。ノノはくすぐったそうにキャッキャッとはしゃぐ。かわいい。さわってるんだ、今…ノノのムネ。うれしい。もっと、もっと、もっと…。
「お姉ちゃん!」
 ノノが大きな声を出した。私の手の動きが止まった。ノノ、少し怒ってるみたい、どうしたの?
「おフロでふざけちゃいけないって、いつも言ってるの、お姉ちゃんだよ」
 あっ、そうだね、ノノ。ごめんね、私お姉ちゃんなのに。
「だから、お仕置きだよ。それっ!」
 そう言って、ニコニコしながらノノの手が私のムネに…。
「あんっ」
 びっくりしたのか、すぐに手が引っ込んだ。目をまん丸にしてノノは私を見ている。
「ご、ごめんね、ノノ。大きな声出して、びっくりしたよね。もう大丈夫だから。ほら、お仕置きして」
「え?……で、でも…」
 困った顔をしてるノノの手を取って、導く。今度は声、出さないようにしなきゃ。
「不思議…今日のお姉ちゃん、いつもと違う。なんだか、とてもかわいい顔してる」
 ノノがかわいいって言ってくれた。私がかわいいって。うれしい。ノノ、もっとさわって。ノノ、ノノ、ノノ…。

 最低だ。私は最低だ。最低だ、最低だ。ノノにあんなことするなんて。あんなことさせるなんて。今だって、早く寝てしまおうと思ってフトンに入ったはずなのに。今日の私はおかしいから、もう寝ようって。なのに、こんな、こんな…。
「ああっ」
 おかしいよ、私。こんなことしてるなんておかしい。昨日までは、キミヒロ君を絶対ゲットしてやるんだ、とか、彼女がいても諦めないぞ、なんて考えながら眠ってたのに。彼だって、こんなことに使わなかったのに。
「ノノ!いいよ!もっと、もっと!」
 ノノのこと考えながらこんなことしてる。おかしいよ。ヘンだよ。私、お姉ちゃんなのに。私たち姉妹なのに。ダメ。おかしいの。こんなのいけないの。
「でも、気持ちいいのぉ」

「お姉ちゃん、これもいい?」
 ノノはまたひとつ買い物カゴにお菓子を入れた。
「ノノ!ホントにこれで最後だからね!」
 トモコはもう自分が何回このセリフを言ったか分からなくなっていた。
「うん!」
 ノノはうれしそうに笑って、トモコに抱きついた。
「お姉ちゃん。今日はいっぱいお菓子買ってくれて、ありがとう!」
 そう言ってまた、にっこり笑った。トモコは、自分の顔が赤くなるのを隠すことはできなかった。

6月19日

 今日は、お姉ちゃんといっしょに買いものに行きました。いつもは、おかしばっかり買っちゃダメって言うのに、今日は、いっぱい、いっぱい買ってくれました。うれしかったです。お姉ちゃんありがとう。
 お姉ちゃんはもう、ノノのトリコです。きっと、ノノの言うことなら何でも聞いてくれます。ネコさんにもらったアクセサリのおかげだと思います。すごいなぁと思います。
 でも、お姉ちゃんがあんまりノノのトリコになっているので、すこし心配です。私が、ノノの頭からいなくなって、アクセサリの力がなくなってもお姉ちゃんが元のもどらなかったらどうしようって思います。心配してもどうにもならないのかなぁ。
 1433のおしごとは、まだ時間がかかりそうです。もうちょっとノノのトリコになっててね、お姉ちゃん。

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使用上の注意
 本文章は、妄想補助文です。本文章は妄想の発生の補助、及び携帯火器の待機モードから戦闘モードへの移行の補助を目的としています。ミッションコンプリートまでは想定しておりませんので、ご了承ください。
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 世界情報収集機構  雑務課

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