黒と白 02.隷属

02. 隷属

 男は窓際に置かれた椅子に腰掛け、窓枠に肘を付きながらつまらなそうに外を眺めていた。

 ここに移動してから1時間、なんの成果も上がらず半ばふてくされた様な表情で道行く人々を睨み付けている。

 その交番の入口には大柄な警官が全ての通行人を射すくめる様な視線で仁王立ちしている。
 そのわずかな隙間から内部を覗く勇気のある者には、交番内部に漂う異様な雰囲気に気がついたかもしれない。
 だが、その警官にとってそこは命を懸けて守るべき砦であり、そこを通る者は射殺でもされかねない。そんなオーラを発しており、事実警官の前を通り過ぎる者は無意識のうちに歩く軌道をねじ曲げて敬遠していた。

 ぴちゃぴちゃ、ぐじゅっ、ちゅばっ、ずるっ。

 座る男の前に置かれたスチール製の机の下からは淫猥な効果音と時折漏れる呻き声が響きわたり、牝の臭いが交番内に充満している。

 その婦警につい先程まで宿っていた、理知的でふれる者全てに攻撃的だった鋭い眼光も今は無く、焦点の合っていない瞳をふらふらさせながら一心不乱に頭を前後させ、いやらしい音と共にその唇から出入りする男の肉棒を大事そうにさすり、隅々まで味わい尽そうと舌をまとわりつかせている。

「あ..はあぁぁぁー」

 熱い溜息を股間に吹きかけながら、裏すじに舌を這わせ、かりの周りを舌でほじくり、中身を吸い出す様に全体を吸い上げる。時折陰嚢を口内で転がす事も忘れない。

 自信に溢れ、早足で街を闊歩していた婦警の下半身には支給品である革靴と白いソックスしか身についておらず、小さめで真っ白な双丘の間からはどろどろした汁が絶え間無く流れ、床に大きな水溜りを作っていた。

 そんな必死の奉仕活動がしばらく続いた後、男が”ぱちん”と指を鳴らすと彼女の顔が急激に喜悦の表情につつまれる。
 その唇から名残惜しそうに肉棒をちゅぽんっと離し、四つん這いのまま のそのそと後ろへ向きを変える。
 そしてその双丘を高くかかげたまま、まったく動く気配のない男の足元ににじり寄り、凶悪に蠢く男のそれを別の穴から再び自分の中に取り込んでいった。

 にゅるっ、じゅぶじゅぶっ。

「ぁはあぁぁー、う、んくぅぅぅっ!」

 それが自分の中におさまっていくにつれて先程 口淫奉仕で感じていたのとは比べものにならない程の快感が背筋を走り抜け、そして通常の生活では感じることの出来ないであろう幸福感が身を包んでいく。

 彼女は挿入するなり 待ちわびたかのように激しく腰を振りたて、快楽の底なし沼へと自らを埋没させていく。

(あぁーっ。今度こそっ)

 半ば開け放たれた口の端からは舌がだらんとこぼれ、その先から垂れる涎が先程の水溜りに微かな波紋を作っている。

 黒く長い髪を激しく振り乱し、垂れ下がった大きな乳房を前後に揺すりながらも、手足や瞳、脳や内臓までもが機能を停止し、男にふれる部分すべてで快感を感じ取るべく全神経を集中し喰い締めていった。

 そんな彼女の願いを聞き届けたかのように今までで最高の波が押寄せて来た。

 全身が震え、待ちに待った最後の時がまさに訪れようとした..そのとき.....

 ”ぱちん”

 頭の中にかかっていた白い靄が急速に暗転し、絶望の中に落ちていく自分がいた。

(そ、そんな。そんな...)

 そう。今日、彼女はこれらを数十回と繰返しながら、今だ一度も達せずにいたのだ。

 頭を犯されているかのような激しい口淫奉仕で男に奉仕する喜びを植えつけられた後、座っているだけの男に自ら処女を捧げ、あそこをどろどろに溶かされるまでの快楽を教え込まれた。そして最高の絶頂と幸福感を感じ取れるかと思えた矢先、あの指の音が鳴り響く。
 それがくり返される度に前回よりもさらに高い所へと追いやられ、また頂の直前で振り落される。
 口淫内でも通常の性行為以上の甘美な感覚をもたらされてはいたが、それをいくら続けたところで決して達する事は出来ず、じりじりと頭の中を焼かれるような快感を感じるのみであった。

「お、おねがい。もう、いかせて。何でも、するから。も、もうだめ。おね.....い..」

 男は感情を全く表すことなく、その言葉を遮った。

「ふん。ばかやろう。お前みたいな野良犬に誰が餌をくれてやるかよ。この俺にあんな態度を取った奴でまともに生きてる奴はいねーんだよ。お前はこの先、一生いけないまま誰にでも腰を振り続けていくんだ」

 男の言葉に彼女は今までよりもさらに深い絶望の中に落された。
 さんざん弄ばれてはいてもいつかは頂へたどり着けると思っていた。
 彼女の中には今はもう一切の希望も断ち切られ、機械のように頭と尻を振りながらも体はやはり絶頂を求め続けてやまない。

「あぁ。...なさい。おね、がい。ゆるして。おねがい。ごめんなさい。ごめ、んな、んっはっぁー、さ、い。お、おね、が、い」

 ほとんど聞き取れない、譫言の様な言葉を延々と繰返しながら、わずかな希望の光を探して瞳は彷徨っている。

 冷めかけたコーヒーをゆっくりと啜りながら、そんな哀願など意にも介さず、男は机の上に転がっていた極太のマジックペンを無造作に掴むとその柄の部分を目の前で収縮を繰り返すアヌスへ何の前触れもなく埋込んでいった。

「んはぁーーーーー」

 突然訪れた鈍い痛みに、一瞬 目の前の靄が晴れかけたが、女の体の奥深くの本能が感じ取れる全ての感覚を絶頂への礎にするべく痛みを快感へと変化させていく。

 にちゃっ、にちゃっ、ぐりぐり

「あうっ。あぁー、はぁーうぅーっ、くぅぅっ、あはぁぁぁぁん、んんんっ...」

 喘ぎとも呻きともつかない声を上げながらも彼女の瞳にすでに生気は無く、意識も思考も、牝としての感情すら崩壊しつつあった。

「もう、そろそろ壊れる頃だな...」

 冷たいうすら笑いを浮べながら、満足げな表情で、男はこの日初めて室内をまじまじと眺める。

 どこにでもありがちな交番内の風景を目で追っていた時、ふと一つのロッカーの名前に目を留めた。

「ん?おい」

 男の呼びかけにも気づかないまま婦警は腰を振り続けている。

「おいっ!」

 ぱしーんっ という尻を打ちつける音と共に男がもう一度声を上げた。

「ぁはぁぁぁー」

 だがその婦警の体はすでに与えられる全ての感覚を快感としてしか受入れられなくなってしまっている。

「ぱしーん。ぱしーん」

 何度も打据えられる尻の感覚にも婦警は恍惚の表情を浮べるのみだ。

 男は苦笑いを浮べながら、今度はつま先を彼女の下腹めがけて打込んだ。

「ぐふっ。ぐぇっ」

 鈍く強烈な痛みは流石に快感とはかけ離れており、婦警は嗚咽を漏しながら僅かに生気を戻した瞳を男の方に向ける。

「お前の名前は?」

「は?」

「お前の名前は と聞いている!」

「は、はい。堂島綾香と申します」

「堂島重三の娘か?」

「はい」

「出身校は?」

「東京大学法学部です」

 婦警は何が起ったのかわからず、しかし”この男に逆らってはいけない”という本能のままに答を告げていた。

(堂島の娘が警察官僚にいるってのは聞いていたが、まさか卒配されたてで 現場研修中だったとはな。
 ...壊すのはいつでも出来る。素材はまあ合格レベルだし、さっきのお返しは調教で痛い目に遭ってもらう事にして..しばらく飼ってやる事にするか...)

「おい!」

「はい」

「いきたいか?」

 婦警は、その問いを一瞬理解できない様な素振りを見せたが、見る見るうちに喜びが満面に広がり体中が小刻みに震えだしていた。

「はいっ!いきたいです。お願いします。お願いしますっ。なんでもします!お願いしますっ!」

「なんでもってのはどんな事だ?お前は俺のなんだ?言ってみろ!」

「私の体でっ...」

 彼女は今までの考えをすぐに答えようとするのを押し留めた。

 暗闇にやっと降りてきた細い蜘蛛の糸を切ってはいけないと、必死の思いで男との今までの僅かな関わりを思い出しながら、少しの間をおくと、彼女はゆっくりと座を直し、頭を下げ、三つ指をつきながら言葉を紡いだ。

「私の全てを、髪も、指も、顔も、胸も、全ての穴も、そして、私の地位と、血縁も、貴方様の思うように、お使いいただき、もしも、お役にたてたなら、貴方様の忠実な飼犬として、餌を恵んで頂ければ、幸せに、思います」

(もし、これでだめだったら、死ぬしかない。でも、出来るのか?あの方は一生このまま過せとおっしゃられた。それに逆らうことが果して...)

 全身全霊を込めた誓いを終えた後も彼女の白い背中は雨中の子犬の様にふるふるとうち震えている。
 期待と恐怖に彩られながら、自分がいざなわれるのは享楽の園か?永遠の炎獄か?...予想もつかず、男のわずかな逡巡を永遠にも感じながら額を床に擦り付けている。

「ふん。流石にキャリアは卒がないな。可愛げも無いが、ま、よかろう。尻を出せ。いかせてやる」

 彼女の全身に喜びが溢れると共に、今までの淀んだ暗闇の中に暖かい光が一斉に差し込み、全てを包んでいった。

「あ、あ、あり、あり、ありがとうございますっ!」

 恵まれた歓喜の言葉に吹っ飛んでしまっていた知性をかき集め、ようやく礼の言葉を告げると、自らの尻を捧げるように手を添え高々と掲げていく。

「いくぞ。俺への隷属を誓え!お前が心の底からそれを願った時、最高の幸福と絶頂を感じる事ができる。そいつを体の奥に刻み込め!」

 男は立ち上がり、高らかに宣言すると、先程の平手打ちで赤く腫れあがった尻に指を食い込ませ、乱暴に左右に割り広げながら、先程までよりもさらに一回り大きく膨張した自らの剛直をねじ込んでいった。

「んああああああああああああああああああああああああああっ!」

 男は激しく腰を前後しながら、垂下がった乳房の形を様々に変形させ、乳首を強く抓り上げる。
 時折、アナルに刺さったままのマジックペンをぐりぐりとこね回したり、真っ赤な双丘に平手を叩込んだりしながら快感の波を操っていく。

「ぁあー、はぁーん、あぅぅー、くぅぅー、あ、あ、あ、あぐっ、うっ、く、んぐぅぅぅ」

 待ちに待った歓喜の時である..始めてすぐにでもイけると思っていたが、男の突き上げに果てがあるのかどうかも分からないまま益々高い所へと押しやられるばかりだ。
 しかしやがて喘ぎ続ける彼女の中から、信念、理性、人格、思い出などが、一つ、一つ剥れ、落ちて行く。

(あの方への隷属など、とうに誓ったと思っていたのに、未だにそれを妨げる心が自分の中に有ったなんて...。でも、このままあの方に体を委ねていればいいんだわ。きっと、私は生まれ変われる。あの方の望まれる牝犬に....)

 数分後、喉の奥から絞り出される様な叫び声と共に一匹の忠実な牝犬が誕生していた。

「今日の所はとりあえず一匹..か。」

 白目をむいて気絶している綾香を、奥の休憩室にほうり込むと、警官に後始末を命じ、男はネオンの中に溶け込んでいった。

< 続く >

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