6. 闇からの視線
「むぐぅぅっ.....くっ、あぅぅっ....ん、ふぁっ..くぅぅ、ぐ、うぅ」
響子の感覚はもう意思から切り離されたかのように、女達の愛撫に翻弄され続けていた。
宏美のついばみが胸の穂先を熱く焦がし、舞の舌が足先をとろかせる。
ケイトの吐息が首筋を切なくなぞり、香蘭の指が脇腹を丹念に刺激する。
そして響子の感覚を支配している茜の手管が、思考を麻痺させる囁きが、最奥にしまい込んだ筈の女を、ヴェールを剥ぐように一枚々々剥き出していく。
今響子の肌は、吐息は、もう既に彼女の物では無かった。神経の、細胞の一つ々々が個々に操られているかのように踊らされている。
そんな中、あくまでリードするべき女達の中で、最も経験の浅い佳奈が先にネを上げた。
「あはぁぁぁん....茜、さぁん....このコの肌、すごいんですぅ。柔らかくて、もちもちとして、私のココに、吸い付いて来るぅぅぅっ!」
にゅちゃにゅちゃと自らの股間を響子の二の腕に擦り付け、恍惚の表情で訴えかける佳奈。
優しげに響子を見つめていた茜の目の奥に、刺すような光が灯った。
「佳奈ちゃん?このコより先にイったら.....野良犬よ」
「!?!!はっ、はひっ!ごめんなさいっ!」
恍惚の色を醸していた彼女の頬は瞬く間に血の気が抜け落ち、慌てて股間から腕を引き抜くと姿勢を変え響子の指先に舌を絡め始めた。
それでも刺激を欲し続ける腰はゆるゆるとうねり、パックリと開いた淫裂はなにかを喰い締めるようにヒクヒクと痙攣している。
僅かな刺激でもイってしまう程まで追いつめられていた佳奈は、響子の肌に触れる事すら恐れながら舌先だけをなんとか滑らせてはみたが、それは強く拒否の意思を示し続ける響子の性感を開かせるには程遠い愛撫だった。
「くっ...」
弛緩したように体を投げだしていた響子の左腕が、息を吹き返したかのように空を掻き掴み始める。
佳奈が慌ててそれを押さえつける程に、響子の心は、身体は、覚醒していく。
それを見留めた茜が一気に股間に指を差し入れると、ぐちゃぐちゃと淫靡な音と共に撹拌を始めた。
「あぅぁっ!....ああっ....あぅ、く、はぐぅ...んむっ」
茜の指が増えていく。二本...三本.......内襞を、淫唇を、肉核を、絶妙な強さで、巧妙なタイミングで責め嬲る。
響子の思考がまたも靄に覆われてゆく。
だが左手だけが違う生き物のように、響子が以前持っていた意思をなぞるかのように、足掻き続ける。
「響子ちゃん...ダメよ、ここに居て。私と一緒に居て...私は響子ちゃんの味方よ。一緒にがんばろうね」
響子の目尻から、封じ込められた意思を主張するかのように滴がツーと溢れ流れた。
ピクピクと震える左手は佳奈の舌先を振り切り、真っ赤なマニキュアに彩られた爪が掌の肉に食い込む程に堅く握りしめられている。
このままこの調教が失敗に終われば、自分はどうなるのだろう?茜に見放されればそれはすなわち主人からも捨てられると言うことだ。佳奈は自分の失態から徐々に広がる響子の抵抗を、為す術もなくガタガタと震えながら見つめていた。
そんな佳奈の肩にそっと置かれた美しく、細い指先。
「え......?」
驚いたように佳奈が見上げたそこには、まさしく名工の手により造り上げられたと思える美しい人形が、深い笑みを携え置かれていた。
「ま、麻里さん....」
この館で、主人以外には未だ晒された事の無かったその真っ白な裸身は、淫蕩に耽る他の女達をさえ一瞬我を忘れさせてしま程の物だった。
麻里は、子犬のように怯え震えている佳奈の前にそっと割り込むと、堅く握りしめられていた響子の拳を取り上げ胸に掻き抱いた。
(?...なに、この感触は....滑るような、それでいて、包み込むような....)
薄く開いた瞳に飛び込んできた裸体を、しばし固まったように見とれる響子。
少し緩んだ掌に自らの乳房を包みこませ、そこから延びる腕に細い指先を這わせていく麻里。
その指が滑るように、戯れるように、響子の裸身を伝い、翻弄する。
やがて辿り着いた首筋に優しくその華奢な腕を絡みつかせ、添い寝をするように響子に身体を摺り寄せた。
(ああ、この肌、なんて柔らかいのかしら...。すべすべして、気持ちいい....)
恍惚の表情でそっと開いた瞳に写った切なく見つめ掛けるその視線に、自らの”人であるが故の汚れた部分”を見透かされた気がして、思わず眼を背ける響子。
(やめて...そんな目で見ないで....。私だけが悪いんじゃないわ。私だけが汚れてるんじゃないわ)
そんな思いなど麻里には露程もないのだろう。だがその余りにも純粋な光は人の黒い部分をより際だたせ、自らを恥じ入らせるに充分な物だった。
伏せ目がちに見つめ返そうとする響子の視線を通り過ぎ、甘える仕草で頬と頬を合わせると、麻里は耳の奥に吐息混じりの囁きをそっと流し込む。
「四宮様......愛しゅうございます」
その時、響子の堅く閉ざされていた城門が、この世の物とは思えない茜達の愛撫にも明け渡さなかった心の扉が、麻里の零した唯それだけの言葉で、一気に開いた。
「ま、まり...まり.....」
本人の意識とは異なる所で紡がれたその言葉は、譫言のように響子の口から零れ落ちていく。
その様子を黙って見ていた茜は、二人のの慰め合いを見守ろうとでもいうのか、他の女達と共にそっと響子から肌を離した。
「四宮様....麻里を...一人にしないでください...どうか、麻里を、守ってください....」
響子の胸の内に熱い物がこみ上げ、切なく、きつく、締めつける。
これは...愛情か?それとも...母性?
そんな言葉一つでは表せない、人の心に忍び込む、童女の哀願。
今まで、母が逝ってからずっと閉ざし続けてきた響子の心、誰も立ち入る事の出来なかったそこは、通常の人では覗く事すらためらうような、孤独と、恐怖と、渦巻く黒い霧で満ちあふれていた。
そこへ突然迷い込むように入ってきた少女。
彼女は儚く、か弱く、悲しげだった。
響子の目尻に落とされた一粒の熱い滴が、しっとりと頬を濡らした。
ふと見上げ、眼に写ったその滴の源は、切なく潤み、一心にこちらを見つめ掛けて来る。
”ああ、私はこの為に生まれてきたのか”....そんな思いが胸を過ぎる。
そして、”この白く細い体を抱きしめる左手は二度と離せない”...そんな決意に囚われた。
「、...四宮様、しのみやさま....もっと強く抱いて下さい。もう二度と離さないとおっしゃって下さい。ああ、.....きょうこおねえさま」
そっと塞がれた唇を柔らかいモノが割り入ってきた。
その時は既に響子の頭から信念も敵愾心も剥がれ落ち、今この瞬間、この舌に応える以外に響子が求める物は無かった。
「まり、まり....ああっ...わたしの.....まり...」
一心に麻里の舌を貪りながらもその隙間から譫言のように零れる響子の喘ぎ。
”麻里を守る”...その一心で只々腕に力を込める響子。しかしそれは、込めれば込める程に何故かひどく頼りなく思い始めた。
進むべき方向も、今居る場所さえも見失った今の自分に、この触れるだけですぐに壊れてしまいそうな人形を守る事など出来るのだろうか?
もっと力が欲しい、失った信念が惜しい。だがそれを探し彷徨うばかりの響子の心は、腕の中でうち震えるこのいたいけな少女と同じでしかなかった。
真っ暗な迷宮の中で麻里と二人きり、どこからか差し伸べられるだろう救いの手をただじっと待っていた。
「.......ゃん......こちゃん.....きょうこちゃん.......ここに居るよ。私はここに居るよ。...こっち、こっちよ....さあ、一緒に行こう....」
心地よい囁きが靄掛かった耳に届いてくる。
(誰?誰なの?....この声....いつか、聞いた事のある、この声....)
再び母のような優しい笑みを讃え、茜が愛撫が始まった。
優しく、柔らかく、肌をまさぐり、太腿が絡み合う。
撫でるように摺り合わされる、白く細やかな肌と肌。
ずりゅっ、ずりゅっ....
淫賄な音と共に花弁を弄ぶ茜の腿が、響子の媚肉を擦り上げる。
太腿の表面を滑る性器の感触、そこから広がる粘液のぬめり、互いに同じ物を感じながら溶け合っていく二人。
「響子ちゃん...私はここに居るよ。私と行こう、ずっと一緒に居よう。麻里も、みんな一緒よ....大丈夫、心配しないで...とっても気持ちのいい所だよ....」
白けた響子の頭に今は、茜の言葉がとても心地いい。
(また.....これは...私の心の声?...違う...誰?私を導いてくれるのは......この声に従えば....もう、迷わないの?)
茜の舌が胸の頂へと滑り降り、指先は響子の最も敏感な部分を撫で上げている。
「あぅっ...あん...ああん....いきたい....わたしも...いっしょに...いきたいよ...」
迷宮の中で置き去りにされていた響子にようやく差し伸べられた手に向けられた口調は、舌足らずな、甘える少女のような物だった。
「あはぁぁぁっ!んふぅっ.....んっ、あ、あああああぁぁぁぁっ!」
これまでもトロトロと股間を濡らしていた物がその迷いを振り払ったかのように一層その量を増やし、茜の手首までをも塗れさせる。
「いいわ、響子ちゃん...可愛いわよ、とっても。そんな響子ちゃんが好きよ。私と来れば、もっともっと、気持ちよくなれるのよ」
(もっと?気持ちよく?....なりたい....)
麻里の指先が響子の左乳房をそっと揉み込み、堅く突き出した蕾を優しく摘み上げる。
「はぅっ!」
「四宮様...私も、置いて行かないで。こんなにお慕いしておりますのに....。私も一緒に...茜おねえさまと、私と、ずっと一緒に...ねぇ、私の事も感じてくださいな。ねぇ、私の身体で気持ちよくなってほしいの。ねぇ」
(感じて?ああ、麻里を感じる。私も、感じてるわ、これほどに...麻里の身体を....ああ、気持ちいい。心が.....揺らめく)
右半身から沸き立つ安らぎと快感、左半身から流れ込む愛情と恍惚。
麻里を抱きしめる手を、茜に引かれる手を、離したくない、離れられない....。
響子の心が、時には溶け合うように、時には引き裂かれるように、導かれるまま、ゆったりと流されてゆく。
(これが...身を委ねるってコト?....これが...心を解き放つってコト?)
これほどの快楽が、これだけの安らぎが、この世にあったのか?果たしてこれだけの幸福を感じられる人間がこの世にどれだけ居るというのか?
”この感覚に全てを委ねたい”
彼女がそう思ったとしても、今まで培ってきた物全てを捨て去ろうとしたとしても、人ならば、女ならば、仕方のない事なのかもしれない。
「くっ、くくっ、茜と麻里の二重奏か。ひとたまりもねぇな。先に壊されちまいそうだぜ」
影一はそう言いながらも嬉しそうな顔で最後の一服を吸い込むと、膝の上に差し出された灰皿に短くなった煙草を押し潰した。
「んっ、んん...」
ほんの一瞬、眉の間に苦悶を浮かべた綾香だったが、その吸い殻を大事そうに包み込んだ両手を胸に抱き、うっとりと目を閉じた。
その感覚が外へ流れ出てしまわないように、忘れてしまわないように...。
掌から伝わるジンジンとした疼きが胸に染み込み、背筋を震わせ、やがて女の中心へと奔流のように流れ込む。
「ん...んんっ.....んくっ...んぁぁっ!」
数秒間、堅く強ばらせていた身体がブルブルッと震えたかと思うと、プシュッという淫靡な音を伴い綾香の股間から透明な粘液が飛沫いた。
押しつけられた煙草の焼け付く痛みだけで、主人に受けた被虐の証だけで、達してしまった綾香は恍惚の表情で目を閉じる。
幸福とは自分の思いが変わるだけでこうも享受出来うる物だったのか。
今まで感じていた全ての不幸は自らが創り出したに過ぎないのではなかったか。
綾香は堅く握りしめていた手を少しだけ開き、そこから漏れ出る香りを胸一杯に吸い込んだ。
今はこの香りだけが、掌の痛みだけが、自分と主人を繋いでくれている。その思いと共に呆けた瞳でそっと見上げる。
だがしばし続いたその恍惚の表情はやがて、思いだしたように怯えの色へと取って変わり、大きく見開いた目で主人の顔色を窺った。
「も、申しわけ...ございませんでしたご主人様。...勝手に....イってしまって....」
影一はそんな綾香の謝罪に耳も傾けず、相変わらず冷たい視線のまま組んでいた脚を若干開き気味に降ろすと、指をパチンと鳴らした。
綾香の怯えきっていた表情が一気に明るく、嬉しそうに綻びると、額を床に擦り付けた。
「はははははいぃっ!...ご、ご奉仕、させて頂きますっ!」
大事な吸い殻を脇にそっと置き、正に発情した犬の如き様相で主人の股間に這い寄ると、ジッパーをゆっくりと降ろし、指を忍び込ませる。
そっと、大事そうに、愛しそうに、それを取り出した綾香は、嬉しそうに細めた目でしばし眺めた後、頬刷りをし、舌を這わせた。
「あ...はあぁぁぁぁっ.....」
舌先から伝わるピリピリとした官能が綾香の脳を犯し、影一の股間に熱い、肉をとろかすかと思う程に熱い吐息が吹き掛かる。
あの時、初めて主人の寵愛を受けた交番では、この指の音が快楽と絶望の響きを交互に伝えていた。
だが今は違う。主人が自分に手向けるあらゆる行為が喜びであり、快感をもたらす事を綾香は知っている。
愛しい人の感じる姿が、その欲望に応えられる事が、自分をより高い頂へと誘なう事を知っている。
現に綾香の口内はまるでもう一つの性器と化していた。その巨大な肉棒の感触は突き上げる頭を真っ白に染め上げ、舐め絡める舌先はクリトリスと直結したかのようにジンジンと甘い痺れを股間に伝えている。涎を垂らしながら影一の剛直を締めつける唇は、正に彼女の股間と同じ様相を呈し、それらを証明するかのような愛液は、股間から数センチ離れた床にまで途切れる事なく流れ続け、絨毯の染みを黒く、大きく広げていた。
生来教えられた事の吸収は人一倍早く懸命な綾香が、正に誠心誠意、命掛けの奉仕を施せば、それは影一の満足を得るには充分な物だったのだろう。
そんな綾香に今まで足りなかった物は、唯一つ.....。
股間へ与えられる感触を確かめるように堪能していた影一と、頬をへこませながら嬉しそうに細めた目でそっと見上げる綾香の視線が合った時、いつものその冷笑にほんの少し温度が含まれたように思えた。
「綾香、ようやく一人前になったようだな」
(!っ!!)
その言葉に綾香は全てを悟った。
今までの冷たい仕打ちも、任じられた仕事も、そう、あの目の前でみどりに情けを掛けた事さえも、自分に課せられた調教だったのだ。
(ああ、ご主人様...申しわけ有りませんでした。これほどに御心を砕いて下さっていたという事をさえ、理解できていなかった綾香は本当に未熟な奴隷でした。もう、これからは、迷いません。綾香は今、やっと心も御捧げできた気がします)
先程指摘されたばかりだと言うのに、綾香の顔はまたも涙に塗れしまっていた。
ただ化粧を施していない綾香の瞳からいくら溢れ出たとしても、嬉しそうに見上げる頬をいくらその滴が流れたとしても、それは彼女が持つ美しさを際だたせる物でしかなかった。
再び影一の口端が吊り上がり、指が鳴る。
うっとりと主人を見上げながら頭を前後させていた綾香の瞳に、少しの驚きに混じり大きな喜色が浮かび上がった。
「ああ、ああっ、そんな、私のような者に、お情けを、頂けるなんて...あり、あり、がとう....す」
声も出ない程に嗚咽を詰まらせながら、床に這った綾香はいそいそと反転する。
頬を床に擦りつけながら尻を高々と上げ、後ろに廻した指で主人の眼前に自らの性器を目一杯に割り開いた。
与えられた物への感謝の気持ちを、主人への忠誠を、その証として、その滴に込めて...。
その最も敏感な部分に微かにかかる主人の吐息にさえ、愛おしさと悦びを感じとり、その目をも楽しませたいという思いが綾香の腰を何処までも淫らにくねらせる。
目の前で息づく蕾をひとしきり弄ばれた後、その遊びに主人が飽いたのを察した綾香がゆっくりと腰を降ろしていった。
夢にまで見たそれが次第に近づいてくるのが分かる。
まるで軽い口付けでもするかのようなその接触に、綾香の堪えに堪えていた官能が頭を白に染め上げる。
「あぅっ!あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
亀頭の半分も入りきらない内に絶頂の叫びを上げてしまった綾香だったが、それでもピクピクと痙攣する腰を押さえつけるように、一気に降ろした。
にゅぷっ、ずりゅじゅぶじゅぶじゅぶぅぅぅ.......
「あぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!........く、ぐ、はふぅぅっ...はっ、はっ、はっ、くむっ...んぅ....」
締め付ければ締め付ける程に体中を駆けめぐる快感と戦いつつ、飛びそうになる意識を必死で保ちながらも綾香は、主人の快楽を少しでも引き出そうと、その内臓の機能を最大限に蠢かす。
「はふっ、はふっ、はふっ、あはぁっ...んぐっ....んぁっ!んっ....ふぅぅっ、はふっ、はふっ、はふっ、はふっ...」
恐らく次に絶頂を迎えれば、正気を失ってしまうだろう。それによって主人を最後まで導けないような者はこの方の牝犬としては相応しくないかもしれない。そんな恐れにも似た感情の中、苦悶の表情を浮かべる綾香にとってその快感はまるで拷問のような物だったかも知れない。
その様子を黙って見ていた影一が、不意に腰を一つ突き上げた。
「きゃうっぁぁあぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっ!!」
予想外に与えられたその激しい刺激に綾香の身体は意思で制御出来る範囲を軽く飛び越えた。
絶頂と共に強烈に締め付ける膣襞の収縮に影一の眉が少し寄せられたが、その精は放たれる事無く、頽れた綾香を堅く抉り込んだ剛直で繋ぎ止めていた。
激しく気をやり幸福そうに呆ける綾香の横顔を愛でる気などさらさらない影一は、その細くくびれた腰を掴み更なる快楽と絶望の境地へと突き上げる。
「はぅっ、んふっ、かっ、がぐぅっ.....はふっ、はふっ、はふっ....ご、ひゅじん、さま...あぅっ!も、もうひ、わけ...あああ、あり、ま、せん...あふぅっ.....お、ゆるし....あああっ!」
許し無くイってしまうという失態を延々と謝罪しながらも、次の頂が目の前に近づいて来る予感に身体を震わせ、綾香の瞳から意思の光が抜けてゆく。
「綾香、褒美だ。好きなだけイけ」
影一は手を伸ばし、下向きに揺れている大きな乳房を爪が食い込む程に鷲掴むと、綾香の上半身を引き寄せた。
女性にしては長身な綾香の体重が敏感になった結合部に全て掛かり、奥深くまで突き入った肉棒の先端が子宮の入り口までを押し広げる。
「がはっ!かっ.....がぐっ.....」
影一の珍しく優しい許しの声は、果たして綾香には届いていたのだろうか?
もしそれが無かったとしても、綾香にそれを留める事など出来はしなかったのだが...。
その時の綾香はもうこれまでの調教で培ってきた奉仕の技術も、自ら貪ろうとする牝の貪欲ささえも、失くしてしまったかのようだった。乳房と股間から広がる快感は、彼女の身体を満たそうというのか、溶かそうとしているのか、分からないまま、ただ受け入れる事しか出来ないでいる。
いつも鋭く輝いていた意志の光など片鱗も残さず、虚ろな瞳で正面を見据えたまま溢れ出るのは、壊れたような笑みとキラキラと美貌を飾る滴だけだった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ....ああっ!」
(もう、私は、私じゃなくなった...。私は.....誰なの?これからどうなるの?どこへ行くの?ううん、もう、そんなコトを気にするのはやめよう。そんなコトはきっと、この人が決めてくれる)
それは、諦めだったのか?いや、響子の表情に滲み出るのは安堵以外の何物でもない。
自分の掌の上でコロコロと転がる響子の表情を楽しげに見つめていた茜の頬が妖しく吊り上がる。
「響子ちゃん、もう我慢するのはやめたの?もう強い響子ちゃんは居なくなってしまったの?」
(強い、私?....私は...強かったの?一人がこんなに怖いのに....誰かの手に引かれないと歩けもしない私が....強い...?)
「そう、もう昔の響子ちゃんは居なくなってしまったのね...。いいのよ、そんな響子ちゃんも大好き。ならもう私の手を放さないでね。これからはみんなで一緒に歩くのよ。そして、みんなでご主人様に守って頂くの。その為にあなたもご主人様の物になるのよ。その選択を出来た響子ちゃんはとっても強い子。えらいわ。だから、もう、我慢なんてしないで....私と一緒に気持ちのいい所へ行こうね....」
(...もう、いいの?....我慢しなくてもいいの?.....そうだ....きっと、これ程の快楽を、これだけの安らぎを....もう忘れる事など出来はしないんだから....これは、人だから...女だから...仕方の無い事なんだ....恥ずかしい事じゃない....操られてるんじゃない...これは...私が自分で出した、答えなんだ)
ようやく達した結論が響子の心に染み渡るにつれ、その顔はどんどんと嬉しそうに綻んでいく。
眉間に寄っていた皺は無くなり、僅かに強ばっていた筋肉も弛緩しきっている。
そうして全てを茜に委ねきった響子の貌は、どんどんと幼くなっていくようだ。
「響子ちゃん、いいわよ、ずいぶんと可愛い顔になってきたわ。そんな響子ちゃんが好き。大好きよ。もうあなたは私のモノ。何処にも行かないでね、ずっと私のお人形で居てね」
茜の指が膣内でクルッと回転し、柔肌を一時震わせると、響子の目が甘えたように垂れ下がる。
「はぅっ!あ、あ、かね....さん......わ、たし、も....お、にん、ぎょう....なり、たい.....」
重ねられた唇の中で、二人の舌が求め合い、高め合う。
「四宮様...私を一人にしないで....私も連れていってください。私も可愛がってください....」
麻里のしがみつく腕に力が籠もり響子の乳房に顔を埋める。
「まり、まり....わたしの....まり.....」
唇を茜に奪われながらも精一杯の優しげな視線を胸元に送り、廻した腕で小さな背中を撫でさする響子。
「ああ、ああっ!....きもち、いい、の....きょうこ、うれしいの....まり、と、あかね、さんと、いっしょに....ずっと...いっしょに....ああっ!」
響子の体が、心が、全てが、二人の掌に握られた。
「そうよ、ずっと一緒、ずっとあなたは私のモノよ。さあ、イきなさい。あなたがずっと望んでいた頂へ。一杯に感じるのよ、私達を。もう何も考えたりはしないで、あなたの望む場所へ、あなたが安らげる場所へ」
「四宮様....響子おねえさま...私の指で、私の体で、イってください。おねえさまがイク時の素敵な顔、私に見せて下さい」
時に激しく、時には優しく、翻弄する指と舌が響子の神経を奪い去ってゆく。
乳房が、太腿が、花弁が、蕾が、子宮が、二人の慰みを待ち望んでいる。
二人の染み入る囁きが、響子の心を縛りつけていく。
迸る快感はもう激流のように出口を求めて暴れ狂っていた。
朦朧とする意識の中、その情景はいつから視界に置かれていたのだろう。ふと気付けば、両脚を大きく割開かれたまま男の膝の上で翻弄されている綾香の痴態があった。
なすすべもなく揺さぶられ、恍惚の表情で快感を貪り続けるその獣は体中から体液を垂れ流しながらも全身から滲み出る幸福は疑いようもない。
(ああ、綾香...綺麗よ......私も、行くわ....あなたの所へ...ごめんね、あなたの言葉を聞き入れてあげられなくて...。でも、これからは一緒よ。私も、ずぅっと一緒。あなたと共に、あなたと、同じ幸福を.....)
反り返り、高い喘ぎを漏らし続ける二人の喉が、ハモるように淫靡なハーモニーを奏で響かせる。
激しく揺さぶられる綾香の身体と同調し、響子の腰が淫らにくねる。
そして綾香の淫裂にいやらしく出入りを繰り返す肉棒が、まるで自分の性器をも犯しているかの錯覚包まれた時、二人の悦楽はより強く結びつき、同化していった。
影一の指が綾香の乳房に半ば陥没する程に握り込まれた。
「「ひゃぅっ!」」
響子の胸にも心地よい痛みが走る。
その大きく歪んだ双丘の姿は果たしてどちらの物だったのか?
きつく食い込んだ爪跡に滲む血は一体誰が流した物なのか?
そんな事はもう響子にとってどうでもよかった。ただ綾香に与えられる影一の嗜虐が、自分にも感じ取れる事がとても嬉しく思えた。
その先端を強く引っ張られたまま身体を揺さぶられ、紡錘を上へ下へと形を変える綾香の乳房。
その刺す様な、しかし甘美な痛みは、切ない快楽として響子へと紡がれる。
「ひゃぅっ、うぐっ、はぐっ、あぅっ、ごっ、しゅじん、さまぁっ!」
「あぅぁぁあっ!イイッ!もっと、もっと強く、激しく...ああっ!」
だがそれらの感覚は確かに同じ種類の物だったのに、響子の感じているそれはひどく頼りなく思え始めた。
綾香と同じ恍惚を醸し出している筈なのに、何かが足りない。
それは茜の手管により作り出された不満だったのだが、そんな事が今の響子に理解出来よう筈も無く、少しずつの不満だけが澱のように溜積されていく。
乳房をくちゃくちゃに揉みし抱いていた影一の手が綾香の腿の裏に回り、大きく広げられた脚の付け根の淫唇をグイッと引き裂いた。
そのまま今度はゆったりと綾香の腰を持ち上げ、そっと降ろす。
大きく見開きその部分を凝視する響子の瞳にその出入りの部分がはっきりと映し出され、全ての意識はそこへ囚われた。
内側の花弁を引きずり捲り開げながら姿を表す逞しい肉塊。
それはぬらぬらとてら光り、浮き上がる筋の一つ一つが、大きく開いたカリの形状が、響子の脳裏に焼き付けられていく。
「ああ、すごい....」
震える喉がゴクッと鳴り、下腹にキュンッと切ない物が刺し込むと、その飽食の淫口が茜の指をきつく食い絞める。
間もなくその憧れの剛直は周りの肉を巻き込みながらゆっくりと埋没していった。
無惨に割広げられた綾香の淫裂に飲み込まれていくそれを、名残惜しげに必死の形相で見つめる響子。
ニュチャッ!
ぴっちりと填め込まれたその肉棒に押し出されたかのように内部から白く濁った粘液が溢れ出してくる。
その官能の証はまるで、隷属を示した彼女にのみ与えられた褒美であるかのように、それを拒絶した彼女に対する罰だとでも言うように、響子の渇望を深く、大きく、えぐり出す。
「んぁっ、う、はぁぁぁぁぁ....んふぅぅっ」
突き込まれた子宮で女の悦びを堪能する綾香。
同じくして響子の股間にも茜の指が目一杯にまで入れられたのだが、到底影一のそれに及ぶ物ではない。
そのゆったりとした上下運動はしばし続けられた。
見せつけるように、焼き付けるように、淫靡な音を奏でながら、淫蕩の香りを漂わせながら....。
綾香の身体が上がる度に、響子の喉が鳴り、切れ長の瞳が大きく開かれる。
綾香の身体が下がる毎に、響子の眉が悲しそうに、羨ましそうに歪み、見開いた眼が細められていく。
(あぁ、私にも....欲しい...あそこに、行けば、私にも....アレが......ああ、ほしい...私も、彼女のように、メチャクチャにされたい....狂いたい...味わいたい...あの、太くて、堅い、男性を......そうすれば......ああ、私が、壊れる..壊されたい.....私の、心も、アソコも...そうよ...アレを私のココに突き入れて、メチャクチャに、掻き混ぜて、このいやらしいトコロが一杯に満たされる程に、奥で切なく疼く子宮を突き破る程に、ああっ!もっと、もっと激しく......)
上と下の口から止めどなく涎を垂らしながら目の前の綾香に羨望の眼差しを送る響子の瞳は、既に彼女と同じ牝犬のそれだった。
その色を見逃さない茜の愛撫が影一の腰と共にピッチを上げ、激しく、強くなっていく。
「あっ、あぅっ、あぅっ、あぅっ、んふっ、くぁっ、ああっ!おねがい、もっと、はげしく、きょうこのからだを、きょうこのいやらしいトコロを...壊れてもいいの。おかしくなってもいいの....ねぇ、ねぇ、もっと....めちゃくちゃにしてよぉぉぉぉっ!」
響子の望みを全て見透かした茜の手管が裸身を滑る。
ともすれば響子を崩壊させてしまう程の強烈なその快感と渇望を、麻里の愛撫が優しく柔らかい物へと変えていく。
「あんっ、あぅああっ!...わ、たしにも....ほ、しい、よぉ....あぅっ...きょうこにも...あん....あの、おっきぃの....ちょうだひぃ.....ねぇ、ねぇ....はっ、はっ、はっ、はっ、はふっ、あっ、あぅっ、あぁぁっ.....」
「響子ちゃん....あれはとっても大事な物なのよ。だから誰にでも頂けないの。たとえ私にでも....。それが欲しいのなら、もっと思いなさい、ご主人様を。あなたの心をお捧げして、あなたの全てを賭けて、お仕えするのよ。...そしてあなたの全てが本当にご主人様の物になった時、きっと受け入れてくださるわ。その時まで、がんばろうね」
「そ、んなぁ....いやぁ、ほしい、ほしいよぉ、きょうこもアレがほしいよぉ」
「ダメよ我儘は。でもね、あなたはもう私の物になったのよ。ホラ、今の心地よさだってこれまで感じたコトなど無かった筈よ。こんなに気持ちいいのはあなたが心を開いたからなのよ。どう、感じるでしょう?ご主人様の快楽の片鱗を。あなたもイく事が出来るのよ。これまで感じた事のない高みへと....」
「あっ、んんっ...ホ、ホント?イ、イけるの?イッても、いいの?あうっ!...わ、たし、もう、いいの?いきたい..イ、イク....やっと....いける....あそこに....あ、あんっ、ひっ、いぃぃぃぃぃっ..」
影一の腰の動きが一層激しくなり、綾香の豊かな乳房が、尖った顎先が、美しい黒髪が、上下に為す術もなく舞い踊る。
茜と麻里を抱きしめていた響子の腕がそこへ目一杯に延ばされ、瞳に映る像を掻き毟るように開閉を繰り返している。
にゅっちゃにゅっちゃと粘膜を擦る音が響き渡り、そこに見え隠れする肉棒は響子の羨望の意識を捉えて離さない。
「あぁっ、あふぅ、あぅっ、あぅっ、あぅっ、ごっ、ごっ、ご主人様ぁぁっ!あっ、あやかは、あやかはぁ、しっ、しあわせっ、ですぅ、もっと、もっと、つかってくらはぃぃ。あやかの身体をもっとこしゅしんはまのおこのみの、からだに、してくらさぃぃぃっ!」
「あぁっ、わたしも...わたしの、からだもぉ....おねがいっ、あぁぁぁっ、もっと、もっと、あぅぁぁぁっ!イ、イクっ!あっ、ああっ、あぅあああぁぁぁぁ...ご...ゅじん....ま、あぁぁぁぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
『ご主人様』。最後に放たれたその言葉とも取れない声は、響子のこれまでの人生を全て覆すに充分な程の官能の渦を一気に巻き起こした。
白目を剥き、全身を硬直させ、何度ものけぞった響子の背中が激しく床を叩きつける。
茜の指を弾く程に飛沫かせた愛液が三人の体に降り注ぐ。
それでも尚堅く引きつらせた両腕は、激しくもつれ合う二人に向かい差し伸ばされていた。
全身はピクピクと痙攣し、壮絶に拡散する意識の中、虚ろに濁った視界で悶え続ける綾香の方へ足掻くように這いずり寄ろうとする響子。
汚れて尚美しい、獣の様相を呈す二人の女は来たるべき享楽の刻へと思いを馳せながら、思う様淫靡な肢体を見せつけ合っていた。
しかしそれは、いつからの事だったのだろう....。
響子の薄れゆく思考などでは理解できていなかったに違いない。
その瞳の焦点が、綾香の背後、漆黒の闇に紛れて光る、破戒の視線に搦め捕られていた事に.....。
一年後
静かな海岸に面し、豪華な屋敷が建ち並ぶ別荘地で、微かな月明かりを頼りに蠢く十数人の人影があった。
真っ黒な衣装に目出し帽、数々の装備と厳めしい防弾チョッキを身に纏う男達は、イヤホンから流れる指示の元、規則的に、迅速に、各々の任を果たすべく闇に紛れていく。
その傍らの路上に駐車されたグレーのバンの中、幾つものモニターに視線を走らせていた男の視界の端でLEDの一つが点滅した。
「ガガッ、総員配置完了しました」
ゆったりとした動作でマイクを取ると、男はそれまでと同じ淡的な口調で続けた。
「突入体勢のまま指示を待て」
「ガガッ、了解」
指示が一段落ついた男は軽い吐息を吐いた後、傍らのボリュームスイッチをゆっくりと廻していく。
「......ぅ....ぁぁ...ああっ、あんっあんっ、んっ、あふぅ....んんっ、あっ、あぅぅっ、あんっ、くふぅぅ、あ、あ、あぁあぁぁん....」
車内に反響するその淫靡な声に苦笑を浮かべつつ、その男はヘッドフォンを耳に掛け、そのジャックをスピーカーの端子に差し込んだ後、背もたれに体を預け、環境音楽でも聴いているかのようにそっと目を閉じた。
敷地外でのそんな動きを察知できないまま、屋敷内の警備室では全員が一つのモニターに見入っていた。
十数個も並べられ、数人で見張るべき他のモニターを放置したまま、その一つに群がるように、にやけた笑みを隠そうともせず。
豪華な調度品に飾られた寝室、優に10人は寝そべられるだろうベッドの上で一人の女が激しく上下に揺れている。
目には恍惚を讃え、ほのかに紅く染まったうなじには妖艶を、うねうねとくねる背中には玉の汗を浮かべ、大きくグラインドし続ける腰はただれた淫蕩を思わせる。
忙しなく動き回る細い指先は、男の腹をまさぐり、自らの乳房を弄ぶ。反り返った喉は時折唾液を飲み込む他は淫靡な喘ぎを止めどなく垂れ流すだけの物だった。
そしてダラダラとだらしなく愛液を溢れさす股間に組み伏せられ、呆けたように一心に腰を突き上げている男は虚ろな目で女の痴態をただ眺めていた。
「ああぅぅっ、んんっ、く、うぅぅっ....あっ!んっ..あはぁぁぁっ、あ、イイ、イイわ、もっと、もっと突いて、奥まで...ああっ!ねぇ、もっと、激しく、壊れる位に...ねぇ、ねぇ...あぅっ、ん、ああぁぁぁぁぁん....」
「うっ、くぅっ...や、はり、おまえは...さっ、さいこうだっ!.....ぐ、うぅっ、もう、イきそう、だ.....」
「ああっ、うれしい、早く、ちょうだい、おいしいざーめん...ああっ、ねぇ早くぅ...中に..来て...来て、来てぇぇぇぇっ!」
「侵入包囲っ!」
車内で眠っていたかのように微動だにしなかった男が、女の叫びに弾かれたように突然ヘッドフォンを放り投げ、マイクに向かって叫んだ。
バシュッ!バシュッ!
街路樹の上でカムフラージュされていた狙撃手から二発の麻酔弾が発射され、玄関前に仁王立つ二人の男の胸に正確に突き刺さった。
ほぼ同時に庭園で巻き起こった白煙の中、十数人の男達が建物の各入り口に向かい散開してゆく。
「ガガッ、玄関確保!」
「ガガッ、西勝手口確保!」
「ガガッ、東勝手口確保!」
「ガガッ、二階バルコニー確保!」
「ガガッ、後方支援準備よし!」
「突入っ!」
ガァーーーンッ!!
爆発音のような音を轟かせ、各入り口のドアが破られた。
悲鳴のような音と共に、各侵入口のガラスが飛散する。
ドカドカドカドカッ!
邸内のあちこちから重厚な安全靴が駆けまわる音が鳴り響く。その一つが玄関脇にある警備室のドアを蹴破ると、一人が銃口を突きだしながら叫んだ。
「警察だっ!おとなしくしろっ!」
傍らに固まっていた屈強そうな警備員達が慌てふためきながら散開していく。
バシュバシュッ
各自の席に置かれたままだったサブマシンガンに手を掛けた何人かが、麻酔弾を叩き込まれた。
その内の一人が倒れ際に押した非常ベルが、全館に鳴り響く。
「なな、なんだっ!?」
女の下で気をやる寸前だった男が慌てて起きあがろうとしたが、しがみつかれた女に再びベッドに押し戻されてしまった。
「あんっ、いやっ、まだ抜かないで、もう少し、ねぇ」
しなだれかかる女をはじき飛ばし、男はふらつく足取りで立ち上がると、机の引き出しから拳銃を取り出した。
装填を確認しながら出口に向かい、正にドアノブに手を掛けようとしたその時、向こう側から蹴破られたドアが男の鼻先を掠める。
急ぎ、男がとっさに突きだした拳銃の先には、既に三丁のライフルの銃口がこちらを睨み付けていた。
「警察だ、おとなしくしろ。他の従業員は既に確保した。無駄な抵抗はやめろ!」
苦虫を噛み潰したような顔の男はワナワナと唇を震わせていたが、銃を握り締める力が少し緩むと、トリガーを中心にクルッと回転しながら、床に落ちた。
警官の一人が男の腕を取り、後ろ手に手錠を掛ける。
その背後のベッドの上では、頬杖をついた女がじっと事の成り行きを楽しそうに見つめていた。
ふと気怠げに髪を掻き上げ立ち上がると、床から拳銃を拾い上げ、背後からそっと頑丈そうな男の肩にしなだれかかった。
「うふん、残念だったわ、もう少し遅れてくれれば頂けたのにね。あなたのザーメン」
目を大きく見開き、驚きの色を隠せないといった表情で男は女を見つめている。
「おお、お、お前.....サツの..犬...だったのか?」
「いやん、私は犬だけど、”サツの”じゃないわ。うふふふっ。
ね?ところで、例のブツはどこにあるのかしら。教えてくれたら続き、してあげてもいいわよ」
「くっ、ふざけるなっ!」
ペッと顔面に吐きかけられた男の唾を、しなやかな指先ですくい取った女はさも旨そうにそれを口に含んだ。
「あらん、私ってそんなに魅力ないかしら、心外ね」
女は拗ねた素振りで唇を尖らせながら、そっと突きだした拳銃を男の太腿に向け、弾いた。
ドギューーン!
「ぐわぁぁぁぁっ!.........おお、お前ぇっ、けっ、警官のクセにぃ...」
床に広がる血糊の上を男が呻きながらのたうち回る。
「ねぇ、ブツの場所教えてよぉ、ねぇ、あれがないとご主人様にしかられちゃうんだ、私」
男の太腿に開いた傷口に銃口をグリグリと突き入れながら、甘える女。
「ぐわっ、あぅっ!...あ、あれは...もう、ないんだ。もう、出荷しちまったんだ」
またも唇を尖らせた女は、銃をもう片方の太腿に当て、なんのためらいもなく、弾く。
「ぐあぁぁっ!」
「ウソはダメよ。取引がまだ終わってない事くらいちゃぁんと分かってるんだから。ね?いいコだからお話して頂戴。そしたらとっても気持ちイイ事して、あ、げ、る」
女はそっと男の傍らに膝を着き、血まみれでぐったりと萎れているペニスを口に含んだ。
ベチャ、ベチャッ、ズリュッ、ジュボッ、ジュボッ、ジュボッ...
女のその激しく熱烈な奉仕にもそのモノに血液は一向に流れ込んでこない。
周りの警官達のズボンは堅く張りつめているというのに。
だが女のその細い指先が男のアナルを揉み込み、ズボッと突き入れられるとそれは、瞬く間に直立した。
妖艶で冷ややかな笑みが女の顔に浮かび上がる。突き入れた指を巧みにこね回しながら、素早く男を跨ぎ、中途半端に終わった先程の続きが再開された。
ただ一つ、さっきまでと違っているのは、下から見上げる男の瞳が恐怖に塗りつぶされていると言う事だ。
「あ、んんっ...んふぅぅぅん...ああん、いいわぁ、やっぱり惜しくなってきちゃった。せっかくこれだけのモノを持ってるのに、殺しちゃうのは忍びないわねぇ...」
自分の腰の上で跳ね回る女のその台詞に、男の血の気が引いていく。
だが、肉棒に集められた血液は蠢く淫裂に囚われ、下る気配はないようだ。
あんあんと可愛く喘ぎながら、女の指が男の胸を撫でさする。
その度にあちこちを向く銃口が男の恐怖を揺さぶり続ける。
「あっ、あん、あぁぁん、うぅっ、あ、イイッ!あぅっ、あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
女の喘ぎが一際大きくなり男の胸の肉に真っ赤なマニキュアが食い込む、と同時に、暴発したように銃が火を噴いた。
「うがぁぁぁぁぁぁぁっ!」
男は千切れかかった右腕を揺らし、後ろ手に填められた手錠をカチャカチャと鳴らしながら、ただ身悶えている。
「あら、ごめんなさぁい。つい力が入っちゃったの。許してね」
そんな謝罪は正に口だけという風に、女の腰がまたもくねり始める。
だが胸の上に置かれた手が握り締める銃口は、今は男の顎の下、真っ直ぐに脳天に向かっている。
「あんっ、あはぁぁん、んっ....くふぅ....あんっ、あぅっ、あ、あぁぁっ....」
女が漏らす喘ぎのオクターブが上がる程に、男の目が血走り、恐怖に彩られていく。
その思いに反するように男のペニスがビクビクと痙攣し、女の秘奥を刺激する。
「あ、んふぅぅっ...ああっ、んっ、あぅっ、あっ、あっ、あぅあっ、イイッ!イ、イク、イっちゃう.....んくぅっ、あぅっ、あっ、あっ、あっ、あっ、ぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ.....」
「ままま待てぇっ!言う、言うからやめろっ!やめてくれぇぇぇ!!」
男の必死の叫びが女の霞がかった頭にもようやく届き、ゆっくりと腰のペースが落とされていった。
「ん....んふっ、んんっ.....く..ぅ...はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、んはっ......ふぅぅぅっ...あん!もう少しだったのにぃ。いい所で邪魔しないでよね!言うんなら早く言いなさいよ」
未だ腰を僅かに揺すりながらも女は、唇を尖らせふてくされたような顔をしている。
「ブ、ブツは....プールサイド、の...タイルの、下...スイッチは、ポンプ室の、テンキー...番号は...1、6、5、3、2...はぁ、はぁ、はぁ....い、医者を...」
女が胸に置いていた手を床に着き直し、腰のグラインドを再開しつつ背後の警官に向け指をパチンと鳴らす。その合図に弾かれたように、その内の一人が部屋を駆け出て行った。
蒼白な顔ではぁはぁと切れ切れな息を漏らし続ける男。その股間の上で飛び跳ねる女の喘ぎが再び大きくなり始めた頃、バンの中で指揮を執っていた唯一スーツ姿の警官が部屋に入ってきた。
「げ!!.....あ、あ~あ~、こんなにしちゃって...はぁ...まぁたもみ消しだよ」
「あふっ、んっ.....かっ、かつもとクン、じゃない。ひっ、ひさしぶり、ね.....あうっ!」
「もう課長、いいかげんにしてくださいよ。被疑者はおもちゃじゃないんですからね。せめて脚の一本位にしといて貰わないと、死んじゃったりしたら取り調べ出来ないじゃないですか」
「あぅっ、んっ...かっ、堅いコト、言わない、の...ああぅっ...昔..あっ、あんだけ、めっ、めんどうみて...あげた、でしょ....んっ、んふぅぅぅっ!」
「う。まぁそうなんですけど....ま、しょうがないか。今回は天野様御依頼のブツだし。課長が必死になるのも無理ないってトコですね」
”天野”。その名前を聞いた瞬間、響子の腰がビクンッと跳ね、奥底でくすぶっていた官能が一気に吹き出した。
「あっ、あっ、あっ、あぅぁぁぁぁっ!ごっ、しゅじん...まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ドギューーン!
不意に発射された拳銃の弾が、響子の下で喘ぐ男の耳たぶを削ぎ取った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!やっ、やめろっ、やめてくれっ!頼むからこの女をどかしてくれぇぇっ!」
「はぁぁぁっ.....」
勝本が大きな溜息と共に、響子の傍らに歩み寄る。
「課長、もうそのへんで....署に帰ったらみんなで一杯シてあげますから」
響子の腰がピタッと止まる。
嬉しそうな顔で勝本を見上げるその瞳はまるで無邪気な子供のようだった。
「ホント?!一杯?」
「ええ、今日はこの突入メンバーの打ち上げがあるんですよ。SATで体力の有り余ってるのが一杯居ますからね。もうすり切れるくらいシて貰えますよ」
「やたっ!なんせ三ヶ月も潜入してたからコイツ一人のチンポじゃずっと物足りなかったんだ。どうせなら三つのお穴に同時に欲しいじゃない?さっ、早く行こっ!」
その言葉と共に響子が立ち上がり、ズボッと股間からようやく解放された男のペニスは持ち主と同じように既にぐったりと力を失っていた。
そそくさと勝本の腕を取り、全裸のまま、内腿に官能の証を張り付けたまま、部屋を足早に出て行こうとする響子。だがその腕をグイッと振り切った勝本がふてくされる響子を残し、男の傍で丁寧に権利を読み上げ始めた。
「ああ、お前には黙秘権がある。弁護士を呼ぶ権利が.....」
「無いわよ、そんなの」
ドギューーーーーーン!
慌てて立ち上がり、制止しようとする勝本の横をすり抜けた銃弾が、男の眉間を貫いた。
瞬間、室内の時間は止まり、警官達は大きく見開いた眼で時折ピクッと痙攣するだけの男を呆然と見つめている。
何も動く物の無い空間に銃の残響が徐々に吸い込まれていった後には、ピチャッピチャッと勢いよく流れ出す液体の音だけが流れていた。
当の響子はと言えば、後ろ手にくるくると銃を指先で弄びながら、いたずらを見つかった少女のようにペロッと舌を出し、小首をかしげている。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ..........」
永遠に続くかのような溜息を垂れ流す勝本の腕を強引に搦め取ったその少女は、彼の重い足取りごと引きずるようにして部屋を出て行った。
まるでスキップでもするかのような、軽い足取りで。
< 終 >