TEST 4th-day Vol.5

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 【4th-day あらすじ】
 本物の陣内瑠璃子の身柄が拘束されて接見に行った園美と樹里は自我を喪失した瑠璃子に催眠面接を試みた。園美が瑠璃子との面接に入ったとたん、園美は逆に瑠璃子の目を見てその場で失神して病院へと運ばれていった。

【チーム6 チーフ室】

「それでよくおめおめと自分ひとりで帰ってこれるものだわ」
 チーフデスクの前でうなだれる樹里に祐実は冷たく言い放った。
「申し訳ありません・・・・・・・・・・」
「伊部は?彼女はどうしたの」
「局長に報告をしています。本物の陣内瑠璃子の聴取ができましたので」
「ふん、本物も偽者もないわ。事件当夜にいたあの女子校生の身柄を確保しておきながら、真実を引き出せなかったあなたはチームのなに?」
「・・・・・・・・・・」
「恥の上塗りの失態ばかりを繰り返して、それでよくチームの一員といえたもんね」
「・・・・・・・・・・」

そのとき電話が鳴った。
「はい、明智です・・そう、わかったわ。報告だけはしてもらう、それで今日は帰りなさい」
 受話器を置いて祐実は樹里を一瞥した。
「園美が回復したそうよ」
「えっ・・・・」
「東京警察病院から今戻った、園美本人がスタッフルームからかけてよこしたわ」
「彼女はなんと」
「医師の診断でも原因は不明、疲労により誘発された失神とでもいうしかないそうよ」
「彼女は、園美は元気なんですか?」
「えぇ、声のカンジからしていつもと変わらない。自分でも自覚のないうちに意識を失っていたそうよ」

「失礼します」
 樹里の背後からドアの開閉音とともに入ってきたのは園美だった。
 すでに制服から普段着に着替えていた。
「ご心配おかけしました。直接お断りしてから帰ろうと思って」
「園美さん、大丈夫?」
「うん。ごめんね樹里、心配かけて・・・・・」
 園美は疲れきった表情を見せながらも微笑んだ。

「園美、具合はどうなの?」
「すいませんでした、チーフ。今はもう・・大丈夫です」
「およその状況は樹里から聞いた。あなたの口から詳細を聞きたい」
「保護された本物の陣内瑠璃子は記憶喪失にも似た状態であると判断しました。おそらくはショック症状か事故による外傷的な要因、そう思って彼女に催眠による記憶の引き出しができないかと思って誘導を始めたんです。誘導のために彼女の視線を自分に合わせた・・・・・自分が思い出せるのはそこまでです」

「体に変調は?」
「ありません。念のために受けた精密検査でも特異な点は発見されませんでした」
「違うわ」
「えっ?」
「私の心配は別にある。今のあなたの話を聞いてその心配がさらに大きくなったわ」
 園美と樹里は祐実の次の言葉を待った。

「私が危惧しているのは、園美、あなたが以前から言ってる『本人の意識下の範疇外』に、あなた自身が異常をきたしてないかということよ」

「そ、それは・・・・・・・・」
「言い切れないはずよ、大丈夫だと」
「うっ・・・・・・・・・・」
「でなければ、人の瞳を凝視しただけで失神なんかしないでしょ」
「冷静に分析すればチーフの考えを否定できる材料はありません。今までの事件の流れを考えていけば、私が別人とはいえ陣内瑠璃子の催眠誘導時に逆に彼女からなにか影響を受けたために失神したと考える方が自然なのかもしれません」

「今日中にメディカルサイエンスセンターに赴いてメンタル面での再チェックを受けなさい。作戦はもう間近よ、些細な不安でも解消しておきたいわ」
「・・・・・・・・・・わかりました」
「仮にもしマインドコントロールを受けたような痕跡が判明した時点で園美には今回のオペレーションを外れてもらう、当然よね」
「はい・・・・・失礼します」
 園美は祐実の言葉に反論できず、一足先にチーフ室をあとにする。

【PD 正面ゲート】

 園美は足早に駅へと急いでいた。
(『園美、あなたの言う『本人の意識下の範疇外』にあなた自身が異常をきたしてないかということよ』)
「まさか・・・・まさかね。あんな短時間に堕とされて暗示を刷り込むなんて理論上無理よ、ありえないわ」
 脳裏に浮かぶ祐実の言葉に園美は一人で反論した。

「まあでもチーフの命令だからメンタルチェックは受けとくしかないか・・・・・折角早く帰れるって言うのに。まあ、終わったら折角だから外でゴハンたべよ」

 時計はまだ午後5時半を回ったばかりだった。
「連絡入れとこうかな、京香さんに予約入れといてもらおっと」
 バックから携帯を取り出した。
「お疲れ様でした!」
「お先に」
 携帯を操作しながら、ゲート脇に立つ歩哨の敬礼に『おさきに』と笑顔で答える。
 パンツスーツ姿とはいえ、そのいでたちからはすでに特務機関の一員としての雰囲気は消え、ごく普通の家路に向かうOLの姿だ。
「あっ・・・・・・・・・・!」
 園美が敷地を1歩出た瞬間に、それは起きた。
 まるで雷に撃たれたように脳天から足の先まで痺れるように突き抜けた衝撃とマグマのように沸き起こってくる抗いきれない『使命感』に襲われた。
「わた・・し・・・・・電話・・しなくちゃ・・・・・・・・・・・・・・・」

 急に降って湧いたように園美の心の奥底から出現した抗いようのない強い使命感のようなものに突き動かされて園美は携帯を手に取った。
 まるでフラッシュバックのように、目の前に先ほどの陣内瑠璃子の意思のない吸い込まれそうな瞳が視界を覆った。
 病院で瑠璃子から耳元で囁かれたうわごとのような不規則な数字の羅列は、今は園美の指をして携帯にその番号を刻み始める。
「0・・70・・・68・・2・・4・・・15・・」
 足早だった園美の歩調は明らかにペースダウンした。
 園美の視線は真正面を見てゆっくりとした歩みで駅へと進んでいるものの、その表情から意思の光は消え失せていた。
 呼び出し音は3回目に止んだ。
「もしもし、どなたかしら?」

 電話の先から聞こえる声に園美自身の心は動揺を隠せない。
(わたし・・・わたし・・・・・・なにをしているの)
 でも次の瞬間には答えなければならないという義務感と確固たる答えをもって唇が動き出す。
「ジ・ン・ナ・イ・ル・リ・コ・・・・・・・・・・・・・・」
「あら、ご新規さんね。ルリちゃんからの交代の方ね。あなたのお名前は?」
「あ・・・・あす・・か・・・い・その・・み」
「そのみちゃん?あすかいそのみちゃんね、素敵な名前だわ。勿論LSのメンバーの方よね」
「はい・・・・・」
「結構よ、なら今から来てもらおうかしら。場所は赤坂の・・・・・」

「は・・い・・・・・・・・・」
 園美は携帯をバックにしまうと帰路とは別の地下鉄の駅へと引き寄せられるように歩き始めた。
 すでに園美に自分が絡めとられたという自覚はなく、何かに突き動かされる人形になっていた。

【赤坂 FOREST】

「フフフ、『あすかいそのみ』さん、楽しみだわ。とてもかわいくてスタイルもよさそう」
 店のカウンターに斜に腰掛けたママは笑いを隠しきれないといった表情でさっきまでの通話を思い出して携帯電話を撫でる。
 さっき投げつけて傷ついた痕が残っている携帯電話だ。

「連絡を入れてこなかったのは勘弁してあげようかしら。『打ち上げ』に思いがけずいいものが入ったわ」

 カウンターに置かれたモバイルパソコンには園美の顔写真まで表示されたLSのデータベースが液晶に映し出されている。
「NewFaceのコですか」
「どう?結構イカすコでしょ」
 ママはカウンター越しのバーテンにノートの液晶を向けた。
「ママ、なにも本職のスワットなんて・・・・しかもこんな情報ファイルどこから持ってきたんですか!」
「フフフ、園美チャンはね、あの例のコが堕としてきたのよ。しかも課題のひとつ、自分の持つ攻略テクニックが2つ以上あることを証明してきた」
「で、どんな方法ですか?」
「とぼけないで。クラッカー、あなたでしょ、あのコに自分のテクニック教えたの。甘ちゃんね、あなたも」
「えっ?」
 ママの問いかけにバーテンは顔をしかめた。

「このコは今朝解放した『ルリ』から感染した。園美チャンは『ルリ』からバックゲートを埋め込まれたのよ、初めてにしては出来すぎね」
「ルリって昨日までウチで働かせてたあの高校生?陣内瑠璃子でしょ、もう解放しちゃったのォ、勿体ない。まだ稼げたのに!」

「あのコ、自分から渦中に顔さらけ出して向こう見ずだと思ったけれど、この展開を読んでいたとすれば驚きよね」
「まあ、普通、ブリーダーが平気でサツや客には面を割らせないからね。失敗すれば致命傷だよ」

「フフ、ねぇ、クラッカー、聞いていい?」

「ママ、やめてよ。店にいる時にはコードネームで呼ばない約束でしょ」
「まだ準備中じゃない、しかもあなたと私のふたりっきりだわ」
「じゃあ、ママの後でお化粧に余念のないそのコたちは数に入ってないの?」
「これは商売道具、わかる?道具よ。みんな。あなたが揃えてくれた選りすぐりの人形ばかりじゃない?クラッカーちゃん」

「ママ、お願いだ。仕事以外ではその名前使わないでよ」
「なら正直に答えてちょうだい。あなた、あのコに手ほどきしたの?テスト期間中だとわかっていたのに受験者に力を貸すのはルール違反よ、それも重大な。それを知った以上テストは中止してあのコを処分しなくちゃ」
 クラッカーと呼ばれた男は顔色を変えてカウンターに乗り出してきてママに顔を付き合わせた。

「ママ、俺が彼女に会ったのは、この間、この店にきた1回きりだよ。どうやってバックゲートを感染させるようなテクをそれだけの時間で教えられるっていうの。後催眠より格段に難しいんだぜ。しかも人形に成り下がったヒトから感染させる方法は俺の専売特許!これが出来るから数いる術者の中で俺は常にランキング上位でいられるんだ。それをやすやすとかわいい女の子とはいえ簡単に教えるもんか!それに教えたってできるもんじゃない、俺以外はできないよ」

「そうよね、それができるんだったら誰だってあなたのテクニックは欲しいもの、私でさえも」
「どう?ママ、出来る?これだけ長くつきあってて、俺のやり方を目の当たりにしてたって真似できないっしょ?」
「うん、認める」

「あのコがこの店に来たとき、俺のこと仲間の1人だって話したでしょ、ルール違反なのに。ヒトのテクどころか誰が仲間なのか教えちゃいけないのに」
「悪かったわ、あれは謝る。まさか本物の高校生の女の子が正規のメンバーとしてテスト対象にノミネートされるとは思わないじゃない。私も興奮を隠しきれなかったわ」

「あの時のママの浮かれようったらなかったよね。なんでもペラペラしゃべっちゃってさ」
「反省してるわ。私、是非あの子を自分のカードに加えたかったのよ。私の目が確かだった証だわ、そう思ったらウキウキしちゃって」

「わかるよ、それは傍から見ててもね。あのコが普通じゃないこともすぐに俺も感じ取った」
「でしょ!組織外の自生モンで自力レベルがもともとあれほど高いなんて信じられない」

「もしかしたら、ママをハイな気分にして何でもペラペラ話させたのも、あのコのテクかもしれないね」
「・・・・・・・・・・怖いこと言うわね。あなた」

「笑わないで聞いてくれよ、俺はあの子と目が合ったとき瞬間的に違和感を感じた。ママが仲間としてのTESTを受けさせると聞いて、それはあのコに対する恐怖心に変わったよ」
「え~、なに言ってるの。まだ高校生よ、あのコ。ただのガキじゃない、それにクラッカーともあろう超売れっ子が恐怖ぅ~!アハハハハハアハアハ・・・・」

「ママ、俺は笑わないでくれと言ったはずだぜ」
「アハ・・・アハ・・・ゴメン、ゴメン・・・・・・・・ごめんなさい」

「なんていうか、感じるんだ。いつかコイツ仲間になったら必ず俺は追い落とされるって」
「まさか、そこまで・・・・考え過ぎよ」

「いや、違うな。俺の直感だよ。ママにだけは言っとくよ、俺はアイツが怖い。アイツは間違いなくこのTESTを高得票でクリヤするよ」
「わかったわ。あなたの話、私の中に留めておく」

「くどいようだけど、あらためて言う。俺はアイツに俺のテクニックは教えていない」
「わかったわ、信じる」

「もしこのスワットの女が本当に『ルリ』を媒介して感染してたら、アイツはママの話だけを聞いて俺のテクを模倣したんだ」
「そう考えたら、私はとんでもない掘り出し物を見つけてきたわけね」

「原爆並みの危険物をね」

【赤坂 ブティック『ハニー』】

 ドアを開けると小気味よいカウベルが鳴り、店主に来客を知らせる。
 ビルの谷間に挟まれ、ひっそりとたたずむ古びた洋館に園美は足を踏み入れていた。
「いらっしゃいませ・・・・・・・・・」
 落ち着いた物腰の婦人が陳列された商品の間から姿を見せた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 園美は無表情だった。
 店内に足を踏み入れた時からまるで人形のようにピクリとも動かない。
「あら、あら、「FOREST」さんからのご依頼の方ですわね。飛鳥井園美さん、お待ち申し上げておりました、さ、奥へどうぞ、別室へ」
 婦人の言葉に促されるがままに園美はゆっくりと歩き出す。
 園美の服の上から婦人は何の遠慮もなく触り始めた。
「この間、ご来店いただいた方、加納様でしたっけ。その方も素敵なプロポーションをお持ちでしたけど、なかなかどうして。あなたも素敵な素材でいらっしゃいますわ。今回はママからあなたの情報を事細かに頂いてるの。あなたは学生の頃、お父様に処女を獲られて以来、度重なる乱暴を受けていらしたのね。かわいそうに・・・・それ以来、あなたは強くなりたいという願望が強くなったのね。お父様の近親相姦を自ら司直に訴えて、自らは女性のために働きたいとスワットなんて大変なお仕事に就かれたのね。えらいわ、あなたの強くなりたいという願望を私があなたに贈る服にこめてあげるわね。わたしが精一杯選んで差し上げますわ、淫靡でそれでいて高貴な『QeenBee』のアンダーウェアーを、ウフフフ」
 園美は表情ひとつ変えず視線は遠く一点を見据えて店主である婦人の前にたたずんでいた。

【赤坂 FOREST】

 ママとクラッカーの前に酔ったように腑抜けたような気だるい表情で園美が立っていた。
 目は半ば開いて虚空を見つめ、口元は淫靡にそして妖しげに意味もなく微笑んでいる。
 口に塗られた派手なルージュと『ハニー』で施されたであろう化粧で園美はまるで別人だった。

 ほかの女たちはまるでマネキンのように店の入り口から続くエントランスにきれいに1列で整列したまま正面を向きピクリとも動かない。

「ふ~ん」
 ママは園美の顔、化粧、表情、そして上から下、下から上へと舐めるように見入っていた。
「ママ、これがホントにあの写真のコ?」

「園美ちゃん、コートをお脱ぎなさい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 クラッカーの声を無視してママは園美に命令する。
 園美はどこを見るともない視線を宙に動かしながら全身を包み込んでいたコートのベルトを解いた。
「フォーっ、エナメルに革のコルセットぉ・・・SM・・ボンデージかよ、これ、フォーっ」
 クラッカーが思わずあのハードゲイを真似て声を上げた。
「ったく!あの『かぼちゃババア』に任せるといっつも余計な事までしてくれるわね!」
 渋い顔でママは唇を噛んだ。その時、カウンターの店の電話が鳴った。

「もしもしっ!」
 電話の相手をすでに察知してママは怒りの声を電話にぶつけた。
「あら、お気に召していただけると思ってたのにその声・・・・・なにか不満でも?」
 電話の主はママが嫌味を込めて言ったあの『かぼちゃババア』だった。
「大有りだわ!『パンプキン』!あなたっていつもそう!人の獲物を黙っていじるのはやめてくれない!」

「とんでもない。私は指示通り人形にあつらえるランジェリーやドレスの用意をしているだけ。でも人形のもった素質を十二分に引き出すためにココロを覗かせてもらってはいるけれど。内なるココロの求めを具現化させる服を提供するのが私の役目よ」

 そう言って『パンプキン』は能天気にカラカラと笑った。
「聞き飽きたわ、あなたの能書き。あなたの人形に対する服のセンスを見込んで信用しているから人形の経歴を明かしてるのよ」
 ママの機嫌は直らない。怒気を含んだ言葉がトゲトゲしい。

「わかったわよ、悪かったわ。ちょっとここんトコ、あなたの持って来る素材は羨ましいくらい素晴らしいのばっかりだったから我慢できなかったのよ。今回のお人形さんは特に経歴にしても、下地にしても興味をそそられて、いてもたってもいられなかったの!」

「下地?」
 ママの眉がピクリと反応した。
「そう、今まで色んな人形を調製前にあつらえさせてもらったけれど、どれも皆、術者の癖が付いていてなかなか扱いづらいものよ。トランス状態が浅くていつ覚めてしまうかおっかなびっくりのもの、深くかかりすぎのマグロ状態で着せるのにひと苦労するもの。変に変質じみた暗示によって多動で手こずる者、いつだって私のコーディネーターの立場なんか考えないヤツらばかりの中で、今回のソノミは実に手だれた仕上がり具合だわ。あれなら、その後に調製暗示を任される者だってすごいやり易いはず。そう思ったら、まるで自分が堕とした獲物のようにいじりたくなって抑え切れなかったのよ」

「ふ~ん、あなたも・・たまには、いいコト言うわ。それメールでTESTページのクリップボードにレポート入れておきなさい」
「なんですって?」
 パンプキンの声が裏返った。
「TEST、TESTよ。今回の園美を堕としたのは正規メンバーじゃなくてTESTケースだってこと」
「そ、そんな・・・・・・。今日のコは前回のミカより何倍も扱いやすくていじり甲斐があったのに、このコ堕としたのTESTケース?」

「やっぱり!あなた前回のミカにもイジリを入れたんでしょう!モニターになった大事なお客様を危うく失うところだったのよ、あんなSEX狂いにして!」

「私は人形のココロの暗闇の奥に潜んだどす黒い欲望を引き出すのがスキなのよ。今回のソノミもとっても良くってよ!」
 パンプキンは自慢げに言ってのけた。
「モグロフクゾウみたいなこと言わないで、見ればわかるわよ。もう始終ニヤけてしまりのない人形にしてくれちゃってさ!」
 ママの怒りは収まらない。
「KEYWORDで豹変するわよ、楽しんでね」
「いいわ、許してあげる。今回の素材はどうせ使い捨てだから」
「まあ、もったいない。KEYWORDは『汝、隣人を愛せよ』」

「わかったわ。今回は報酬なしよ、人形を勝手にいじったペナルティだわ」
「な!・・・・・」
 パンプキンと呼んだあのブティックの女主人の反論も聞かずにママは電話を切った。

「ママ、使い捨てなんてもったいない。今度のパーティーでミカがオークションに出せなくなったってオカンムリだったじゃないか。このコだってミカなみにいい線言ってるのに使い捨てだなんて一体どうし・・て・・・・・あーっ!!!!」

 クラッカーはママの意図を察し、急に大声を出した。
「フフフ、なぁに?急に大声なんか出して」

「わかってるくせに!ママ、今日のこの店のファイナルにこのコ使うんでしょ!」

「そうよ、陣内瑠璃子を解放したのも友釣りさせるためにワザと放したのよ。こんないいコが釣れるなんて思ってもみなかったけど」

「ママ、わかってるの?今日この店がファイナルなのはサツの手入れがあるからなのに。聞いてるよね、ポチから・・・・・」
「ポチ?あぁ、飼い犬のポチね。私には何日も前に『子猫』が教えてくれたわ」
「同じだよ、ポチだろうが子猫だろうが、あいつらの情報は確実さ。今夜間違いなくサツに踏み込まれてこの店とはオサラバなのになぜそんな時にこんな商品価値の高いコ使っちゃうのさ」

 ママは平然と言って園美を使い捨てだと言い切った。
「こんな時だからこそ使いたいのよ」

「わからないなぁ」
「さぁ、開店間近よ。あなたは警察が踏み込んできた時の私の逃げ場をしっかり確保して頂戴ね」
「へいへい・・・・・オレこの店気に入ってたのになぁ」
「あなたなら星の数ほどいるバイヤーのお客様から、またいい店をあてがってもらえるわよ」

「だといいけどね、バイヤーはいつだって移り気さ。きっとこれからはあのTESTケースが人気ナンバー1になるんだ、オレは今ほどいい思いできないさ」
 クラッカーはそういいながら店内のライトをONにする。

「さあ、あなたたち、今日はイチゲンさんの『ご新規』のお客様を店いっぱい集めていらっしゃい。自分たちの体を目一杯使って誘い入れていらっしゃい、さぁっ!」

 パン・パン・パンっとママは手を叩く。
「はいっ、ママ!」
 ママの拍手に、まるでスイッチの入ったおもちゃのように生気を取り戻した女たちが店の外へと飛び出していった。

< To Be Continued. >

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