洗脳魔法少女ヒプノちゃん 第21話

第21話「ペットのいる生活」

「いいなぁ…、かわいいなぁ…」

 僕はペットショップのガラスに顔と手を押しつけるようにして、店の中の様子を外から眺めていた。
 ガラス越しに見えるのは、ドッグケージの中にいる色々な種類のかわいい子犬たち。僕は大の犬好きで、猫やその他の動物も好きだけど、中でも犬が好きで、ペットショップの前を通りかかると、ついついこうしてのぞき込んでしまう。
 でも、お店にいる子犬や子猫がうちに来ることはない。僕の家はマンションに住んでいて、犬や猫を飼ってはいけない決まりになっているからなんだ。だから僕はこうして見るだけで満足しなくちゃいけない。わかってはいるんだけど、でもやっぱり…。

「わあ~、かわいいですの~」

 ふと気づくと、僕の横に、僕と同じようにして子犬を眺めている、同じ歳ぐらいの女の子がいた。髪の毛は頭の左右で二つにまとめて、ピンク色の服は普段着とは思えないほどひらひらふわふわしていた。あと、変わった形のバトンを持ち、肩には四色の猫…のような動物のぬいぐるみみたいなのを乗せている。
 服装があれなのを抜きにして、ぱっと見、ちょっとかわいい。
 僕は思い切って、その子に声をかけてみた。

「ねえ君も、犬、好きなの?」
「…? ああ、これも『イヌ』っていうんですの? 勉強になりますの~。ヒプノの国にはこんな動物いませんから、ついつい見入っちゃいましたの」
「へ、へえ、そうなんだ…」

 言葉はずいぶんうまいけど、外国の子なんだろうか。でも犬を知らないなんてことがあるのかな。
 とりあえずそのことを置いておいて、僕は女の子との会話を続けた。

「僕は犬も猫も大好きなんだけど、うちで飼っちゃいけないから、こうして見てるんだ」
「どうしてですの?」
「うち、マンションなんだ。鳴き声とかふんの始末とかで近所の人に迷惑かかっちゃうから、飼っちゃいけないんだって」
「それはかわいそうですの…。でも飼ってみたいんですの?」
「そりゃあもちろん! …でも無理なのは無理だから、もうあきらめたんだ」

 最後の方は自分に言い聞かせるようにして、僕は言った。
 その時、女の子は急にきらりと目を輝かせて僕に向かって言った。

「では、ヒプノがなんとかしてあげますの!」
「なんとか…って、どうするの?」
「ヒプノはこう見えても魔法少女ですの。魔法の力であなたのお悩みを解決するのが、ヒプノのお仕事ですの☆」
「…へーそうなんだー、じゃーお願いしようかなー」

 あまりのありえない答えに、僕は露骨なまでに棒読みで答えたが、女の子は気づいていないようだ。いくらなんでも魔法で、って。あそこまで自信満々に言えるのって、どこからそんな自信がくるんだろう。
 僕が心の中で苦笑していると、その子はどんと自分の胸を叩き、

「ヒプノにおまかせですの! じゃ、ヒプノは魔法をかけに行ってきますの。あなたが家に帰ったら、ちゃんとペットを用意しておきますの~」

 と言うなり、たーっと駆け出してしまった。あっけにとられた僕を、その場に取り残して。

「変な子だったな…」

 僕はぽつりとつぶやいた。
 魔法なんかあるわけないのに。たぶんあの子は、大きなことを言い過ぎて引っ込みがつかなくなって逃げちゃったんだろう。だいいち、僕の家のことなんか全然聞かずに行っちゃったじゃないか。どうやって魔法をかける気なんだろうな、まったく。

「まあいいや。動物好きに悪い人はいないって言うし」

 僕は気を取り直して、家に帰ることにした。
 10分ほど歩くと、僕の住むマンションに着いた。僕の家族は7階建ての5階に住んでいて、そこまではエレベーターで上がる。エレベーターから降りて、歩いて2軒目が、僕の家だ。
 ママが家にいる時間なので、鍵は開いていた。

「ただいまー」

 そう言ってから、僕は靴を脱いで家に上がった。

「おかえりなさい。どこ行ってたの?」
「ん、ちょっと散歩」

 台所の方からママの声がしたので、僕は軽く返事した。今の時間なら、夕ごはんを作り始めている頃かな。
 そこで僕はひらめいた。そうだ、もう少しで僕の誕生日だし、プレゼントにハムスターを買ってもらおう。ハムスターなら鳴かないから近所から文句も来ないだろうし、外に散歩に連れて行かなくていい。本当は犬や猫の方がいいけど、この際我慢だ。よし、お願いしてみよう。
 僕は台所に入った。予想通り、台所ではママが夕食の支度をしていた。
 僕のママはちょっとたれ目で、友達によく「お前の母さん、美人だよな~」とよくからかわれるぐらいに美人だと思う。僕が言うのはちょっと照れくさいことなんだけど。でも優しくて、料理がうまくて、自慢のママだ。

「あら、どうしたの? おやつならもう遅い時間よ?」

 ママは料理の手を止めて、僕の方を振り返って言った。

「ううん、違うよ。おやつじゃなくて、ちょっとお願いがあるんだ」
「なあに? お願いって」

 僕は、思い切って言ってみた。

「あのさ…、その…僕、ペットがほしいんだ」

 軽く緊張していたので、思わずペットって言っちゃったけど、欲しいのはハムスターなんだからちゃんとそう言うべきだし、誕生日のプレゼントに、って付けるのも忘れちゃってる。いけないいけない。
 さっそく言い直そうとしてママの方を見ると、ママはなぜか深刻な顔をしていた。

「………」
「ママ…?」
「そう…、もう気づいちゃったのね…」

 僕は何か変なことを言ってしまったんだろうか。そう不安になるぐらい、ママの顔はさっきまでのにこにこ顔と全然違っていた。
 ママはコンロの火を止めると、僕に改めて向き直って言った。

「あなたのお誕生日まで黙っていようと思ってたのだけど…、実は…」

 僕は思わずどきっとした。実は、僕はこの家の子じゃないんだろうか。でもペットの話をしていて急にそんな話になるわけもないし。僕は黙ってママの話の続きを待った。

「実は…ママね…」
(ごくり…)
「ママね…、あなたのペットだったの」

 …は?
 何かの聞き違いと思いたい言葉がママの口から出てきて、僕は一瞬真っ白になってしまった。
 一拍置いて我に返った僕は、とりあえず混乱をごまかすように笑いながら言った。

「ま、ママ? あはは、やだな、冗談きついよー」
「いいえ、これは本当のことなの。お誕生日にびっくりさせようと思って、今まで黙ってたのよ」

 申し訳なさそうにそう言うなり、ママは手を後ろに回してエプロンを取り、そして…、

「えっ、ちょ、ちょっとママ!?」

 僕が慌てているのを無視するかのように、着ている服をどんどん脱いでいった。ブラジャーをはずして少し大きめなおっぱいがぽろんと出てきた時に、僕は見ちゃいけない気がして思わず目をそらしてしまった。
 その間にママの服を脱ぐ衣擦れの音が続き、少しして恐る恐る目を開けた僕の前には、下着もすっかり脱いでしまい、ママは何も着ていない状態になってしまっていた。でも、ママはそれを恥ずかしがってはなく、むしろそうするのが当然のような顔をしていた。そりゃ、何年か前まで一緒にお風呂に入ってたから、僕に対しては恥ずかしいことはないんだろうけど、今の僕はそれなりに年頃なわけで、目の前に急に裸になられたらどぎまぎしてしまうし、目のやり場に困る。
 そしてママは、立ってることもやめてしまった。膝を床につき、続いて両手も床に下ろして四つん這いの格好になった。

「ママ、やめてよ。どうしちゃったんだよ…」

 裸を見れてちょっとうれしい、という感情はもうどこかに行ってしまって、僕の心の中は不安でいっぱいだった。僕はもう一度呼びかけてみた。

「ねえ、ママ…」

 その時、僕の耳に信じられないような声が飛び込んできた。

「わん?」

 …今、なんて言いましたか?

「ママ?」
「わんっ」

 ママはうれしそうに、犬のような鳴き声を出した。さらに「はっ、はっ」と舌を出しながら息までしている。
 あまりのショックに、僕は反射的にありえないことを口走っていた。

「お手」
「わんっ」

 ママも反射的に、僕の差し出した手に自分の手を乗せてきた。

「へえ、ちゃんとお手もできるんだ………ってそうじゃなーーい!」
「きゅうん!」

 僕がノリツッコミで大声を出したのに驚いたのか、ママは台所の隅に器用に四つん這いのままで駆け込んでしまった。

「ああっ、ママごめん! 別に怒ったわけじゃないんだよ」
「くうん?」

 首を傾げながら、ママは四つん這いで僕に近寄ってきた。その立ち振る舞いは、完全に犬そのものと言っていいぐらいだった。
 僕の機嫌をうかがうような表情をしながら、ママが僕の方へ近寄ってくる。僕は恐る恐る姿勢を低くして、「ママ…?」と呼びかけてみた。
 するとママは、急に「わんっ!」と言うなり僕に飛びついてきた。体格差がある僕はあっという間に押し倒されてしまう。大きくて柔らかなおっぱいが僕の顔を押し潰す。
 さらにママは、押し倒された僕の顔をぺろぺろとなめ始めた!

「わああっ、ママ、しっかりしてよ!」
「わん、わんっ」
「いや『わんっ』じゃなくて。ママ、本当にどうしちゃったんだよ…!」

 僕がママと台所でドタバタ騒ぎをやっていると、玄関の方でがちゃりと音がして、

「ただいまー」

 と、お姉ちゃんの声がした。
 いいところで助けが来たと思った僕は、上にのしかかってうれしそうに僕の頬をなめ続けているママを全力で押しのけて脱出すると、玄関に向かってダッシュした。
 玄関では、セーラー服姿のお姉ちゃんが靴を脱いでいるところだった。

「お、お姉ちゃん、たたた大変なんだ!」
「なによ、帰ってくるなり騒々しい…」

 お姉ちゃんがちょっと迷惑そうな顔をしていたが、そんなことには構ってられない。

「ママが、ママが犬みたいになっちゃったんだ!」
「えっ?」
「わんっ」
「そうそう、こうやってわんわんって…わあっ!」

 気がつけば、僕の後ろには裸で四つん這いの姿勢のママが、僕を見上げていた。逃げられないようにしたわけじゃないから後ろにいてもおかしくないんだけど、事情を知らないお姉ちゃんがいきなりこんな姿を見たらびっくり………してない。
 お姉ちゃんは、部活動の関係でショートカットにしている髪をかきながら、やれやれ仕方ないという表情をしていた。

「…お姉ちゃん、驚かないの?」
「驚くも何も…、もうママったら、もうばらしちゃったの? 誕生日まで黙ってようって決めたじゃない」
「わんっ、わんっ」
「…へ?」
「ま、ばれちゃったもんはしょーがないわね。あたしも人間のふりするの疲れちゃったし」
「お、お姉ちゃん…?」

 お姉ちゃんがさらっととんでもないことを言った。
 まさか、お姉ちゃんまで…と思っていたら、お姉ちゃんはセーラー服のスカーフを抜き取り、上着をがばっと脱ぐと、ホックをはずしたスカートを落とした。

「おおお姉ちゃん、何やってるんだよ!」
「なにって…あんた、ペットに服を着せる趣味でもあるわけ?」

 お姉ちゃんは僕をきっとにらんだが、なんでそんなことでにらまれなきゃいけないんだろう。
 おたおたしている僕にママがかまってほしそうに「わんわん」とまとわりつく。お姉ちゃんはその間にも、玄関で下着までも脱いでいく。この前、お姉ちゃんの着替え中に僕が間違えてドアを開けたら、問答無用で僕をぶっ飛ばしたあのお姉ちゃんが。ああ、もうわけがわからない。
 そしてすっかり服を脱いで裸になってしまったお姉ちゃんが、ちょこんとしゃがみ込んだ。ひざをMの字みたいに開いて、股の間に両手を置くような格好だ。お母さんほどじゃないけど大きな胸と、黒い毛の生えたあそこが丸見えになってしまっている。
 僕は嫌な予感を感じつつも、お姉ちゃんに呼びかけてみた。

「お、お姉ちゃん…?」

 そして、予想は当たった。悪い方向で。

「…にゃあ♪」

 お姉ちゃんはさっきまでの仏頂面とうって変わって、満面の笑みで言った。いや、鳴いた。

「ああっ、やっぱりぃぃぃ!」

 僕はどたどたと駆けて玄関からリビングに舞い戻り、パニックで震える指をなんとか操りながら電話のボタンを1個1個押した。単身赴任で家にいないパパに電話をかけるためだ。今の時間なら、残業してなければ問題ないはず。
 5回ぐらい呼び出し音がした後、電話がつながった。僕は一気にまくし立てた。

「パパパパ、パパ? ああああのさ…」
『おお、なんだお前かぁ。急にどうしたんだ? そんなにあわてて』

 のんびり屋なところがあるパパが、いつものようにのんびりとした口調で言った。
 もう頼りになるのはパパしかいない僕は、一家の危機を伝えようと必死だった。

「たたた大変なんだよ! ママとお姉ちゃんがおかしいんだ!」
『そりゃ大変そうだな。おかしいって、どういうことなんだ?』
「なんか急に自分がペットだ、って言い出して、で、その…」

 裸になった、と言うのがちょっと恥ずかしくて、僕が口ごもっていると、パパがのんびりと、でも明るい口調で言った。

『なんだ、そんなことかぁ』
「そ、そんなことって…!?」
『お前の誕生日にびっくりさせてやろうと黙ってたんだけど、もうばれちゃったなら仕方ないなぁ。ちゃんと責任もって飼うんだぞ?』
「うわーーーっ、パパまでおかしくなってるーーー!!」

「にゃぁーん、にゃぁーん」
「くうーん、くうーん」

 ドアの向こうで悲しそうな二人の鳴き声が聞こえる。ついでに、たぶんドアを爪で掻いているような、かりかりかり…という音も聞こえる。ドアを開けられなくなってるんだろう。
 僕は部屋に閉じこもって、頭からふとんをかぶって現実逃避していた。動物みたいになってしまったママやお姉ちゃんを、正視できなかったからだ。

「どうしてこんなことになっちゃったんだろ…」

 とつぶやいてみた。
 そこでふと思い出す。ペットショップの前で出会った、変わった女の子のことを。確かあの子は『魔法でペットを用意する』と言っていた。まさか、このこと!?
 そう考えると、全部のつじつまが合うような気がする。パパまでおかしくなっているのがわからないけど、魔法の力なら何でもありなのかもしれない。というか、それ以外に理由が考えられない。僕にドッキリを仕掛けようとしてるなら、何も裸になるようなことをしなくてもいいはずだ。第一、天然なところがあるママはともかく、あのお姉ちゃんがそんなことをするはずがない。
 でも、原因がわかっても、これからどうすればいいんだろう? あの女の子を見つけて元に戻してもらうのがいいんだろうけど、どこにいるのかもわからないし、探しに行っている間にママとお姉ちゃんを家の中に残していかないといけない。ママやお姉ちゃんが、何かの間違いで外に出ちゃったり、近所の人に見られたりしたら、近所の噂になるだけじゃなく、もしかしたら警察に逮捕されちゃうかもしれない。そんなことになったら大変だ!
 僕のせいだ。僕のせいでこんなことになっちゃったんだ…。あの時、軽い気持ちであんなこと言ったからだ…。どうしよう、どうしよう…。
 その時、電話でのパパの言葉が頭の中に浮かんできた。

『…ちゃんと責任もって飼うんだぞ…』

 …そうか。僕のせいなんだし、元々ペットを飼うのはそのペットの命を預かることなんだ。
 僕は、無責任にペットを捨てたりするような飼い主のことが嫌いだった。道端に捨てられてる犬や猫を見ると、そのペットがかわいそうと思うと同時に、捨てた飼い主に対して腹を立ててたじゃないか。そんな飼い主と僕は同じことをしようとしてたんだ。
 ママやお姉ちゃんが頼れるのは、今は僕しかいない。こうなったら、僕がママたちの世話をしないといけないんだ。
 決心した僕は、ベッドから跳ね起き、そして、ドアを開ける。
 ドアの外にいたママが、ぱっと僕を見つけて、うれしそうにすり寄ってきた。

「わん、わんっ!」
「ごめんね、ママ。寂しかったでしょ? 僕がこれからちゃんと面倒見るからね」

 僕は姿勢を低くして、ママの頭をなでてあげた。そのお礼のつもりなのか、ママは僕の顔をぺろぺろとなめ始めた。

「あはは、ママくすぐったいよ~」
「おんっ、おんっ」

 そうやってママとたわむれていると、お姉ちゃんがいないことに気づいた。さっきまで部屋の外で鳴き声がしていたと思ってたけど…。
 僕はママを連れて、リビングに戻ってみた。
 いた。お姉ちゃんが、僕の方に背を向けるようにして、部屋の中央でしゃがみこんでいた。たぶん、今のお姉ちゃんは猫だから、僕が部屋から出てこなくて飽きちゃったのかもしれない。
 しかしお姉ちゃんは、何か小刻みにふるふると震えているように見える。そしてお姉ちゃんは四つん這いになると、後ろ足(?)でさっきまでいた所を軽く蹴るような動作を…まさかこれって…!
 僕はあわてて現場に駆け寄って、状況を確認する。予想通り、フローリングの床に暖かな水たまりができていた…。

「お、お姉ちゃん…! 何てことを~!」

 僕は近所に怒られない程度に大声を上げた。当のお姉ちゃんは「何が悪いのか」という澄ました顔をしていたけれど。
 とにかく、後始末は僕の仕事だ。トイレからトイレットペーパーを引っぱり出してきて、水分をしみこませる。つくづく、うちがフローリングで良かったと思う。それと、おしっこだけで済んだことも。
 でも、いつまでもおしっこだけ、というわけにもいかないから、早いうちにトイレを用意してあげないといけないのか…。あと、ちゃんとそこで用を足すようにトレーニングもしなきゃいけないんだろう。元は人間なんだから、早く覚えてくれるといいんだけど…。
 そんなことを考えていると、僕のおなかがぐうと鳴った。よく考えてみたら、もう夕ごはんの時間をとっくに過ぎている。あまりのドタバタ騒ぎに、おなかがすいていたことも感じられなかったんだ。
 その夕ごはんは、作りかけたままでほったらかしになっている。ママもお姉ちゃんもあてにはできないし、僕にはこの続きを作るにはちょっと無理そうだ。
 仕方ないので、僕は冷蔵庫から冷凍食品のコロッケを出して、それを電子レンジで温めて食べることにした。これなら僕にでもできる。ご飯の方は自動的に炊きあがってたから、これは自分でよそえばいい。量は少ないけど、これぐらいで十分だ。
 問題は、ママとお姉ちゃんのご飯をどうするかだ。さっきドアを開けられなかったんだから、箸やスプーンは使えないだろう。というか、こんな状態で箸を器用に使ったらサギだ。
 少し考えて、僕は牛乳のパックを冷蔵庫から出して、カレーを食べる時に使っている底が浅めのお皿を2つ出した。牛乳は別の容器に入れて軽くレンジで温め、そのお皿に分けて入れる。
 
「ごめんね、とりあえずこれで我慢して」

 とひとりごとのように言って、僕はそれを…テーブルに置いても飲んでくれなさそうなので、床に直接置いた。
 ママは僕にさっきからずっと離れてなかったのですぐに、お姉ちゃんはどこからともなくお皿の周りに集まってくれた。おなかがすいていたのか、お姉ちゃんが真っ先にお皿に舌をのばした…が、

「ぎにゃああああっ!」

 と大声を上げて飛びずさった。そしてお尻の方を高く上げて、

「ふーっ、ふーっ!!」

 と興奮したように僕をにらみつける。
 まさかと思うけど、熱すぎたんだろうか? 確かにちょっとレンジにかける時間が長かったかもしれない。でも、普段のお姉ちゃんは熱いものが得意で、むしろ僕の方が猫舌だってからかわれてたぐらいなのに…。
 僕は牛乳をほどよく冷ました後、興奮するお姉ちゃんをなんとか落ち着かせて、飲んでもらうことに成功した。その間、ママの方は何事もなかったかのように、お皿に口をつけてぴちゃりぴちゃりと飲んでいた。
 やれやれ、やっとこれで僕の食事ができる。僕は椅子に腰掛けて、コロッケに箸をのばした。僕のコロッケは少し冷めてしまったけど、これはこれでおいしい。
 でも…、お皿を置く位置がまずかったのか、僕の視線の先には、どうしてもお皿に口を付けて牛乳を飲んでいるママとお姉ちゃんのお尻が入ってしまう。うう、目のやり場に困る…。
 結局、僕はなるべく二人を見ないように苦労しながら、コロッケを平らげた。

 夕食後は、いつもならテレビを見る時間だが、今日はそれどころじゃなさそうだ。特にお姉ちゃんが、自分が興味を持った物にすぐ手を伸ばすし、あっちこっちにのぼろうとするので目を離せない。

「お姉ちゃん、危ないからそこから降りてよ~」
「にゃー」
「だからそれ触ったら危ないってば!」
「なー?」

 その間ママは、おとなしくリビングで寝そべって(?)いてくれたので助かった。
 とにかく、あちこち飛び回るお姉ちゃんに振り回されて、僕はへとへとになってしまった。気がつけば随分と遅い時間になってしまっている。
 お風呂は…、今からお湯を張るのは面倒だから、シャワーで済ませてしまおう。でもやっぱり、ママとお姉ちゃんは僕が洗ってあげないといけないんだろうな…。
 ママはやたらと僕になついているので、たぶんおとなしくしてくれるだろうけど、問題はお姉ちゃんだ。猫のような行動をしているから、もしかしたら水を嫌がるかもしれない。体格差があるから、暴れ出したら手が付けられないのは、さっきまでの騒ぎで証明済みだ。
 でも、どっちかというと洗ってあげないといけないのは、色々なところを歩き回ってほこりだらけのお姉ちゃんの方だし…。
 とりあえず僕は、膝の上で丸くなっているお姉ちゃんに声をかけた。正直言って重いので、お風呂にかこつけてどいてもらいたかったのもある。

「お姉ちゃん、お風呂行こうか」
「にゃー」

 納得してくれたんだろうか?
 僕が浴室の方まで行くと、お姉ちゃんもついてきてくれた。さっき言ったこと、本当にわかってたのかな。ところが、置いて行かれたと思ったのか、ママまでついてきてしまった。

「おんっ」
「うわ、二人まとめてかぁ…。まあ何とかなるかな…?」

 僕は頭をかいたが、ママを追い返すわけにもいかないし、そのまま浴室に入れた。
 僕は服を脱いで脱衣かごに入れていったが、そこで今更ながら気づいてしまった。
 おちんちん、立ってるの忘れてた…。
 最後の方はもう裸になってるのが当然のようになってたような気もするけど、女の人の裸を見たらそりゃ僕だって立っちゃうわけで…。それを他人、それも家族に見られるのは恥ずかしくてたまらない。でも、今のママもお姉ちゃんもそれを見て笑ったり怒ったり、ということは考えられないだろうし…。とりあえず、タオル巻いてごまかそう。
 そういう小細工をしてから、僕はお姉ちゃんたちが待つ浴室に入った。

「よし、今から洗ってあげるからね」
「なー」
「わんっ」

 熱くなりすぎないように加減して、シャワーをまずお姉ちゃんにかけていく。不思議とお姉ちゃんはおとなしくしてくれていたので、本当に助かった。ただ、髪の毛にお湯がかかろうとすると嫌がったので、やはりその辺は猫っぽいのかもしれない。
 ボディソープを付けたスポンジでこすってあげると、お姉ちゃんは気持ちよさそうな声を上げた。それにしても、お姉ちゃんというか女の人って、柔らかいんだ…。
 いけないいけない、意識したらどんどん変な気持ちになっちゃう。心臓もどきどきいって、何となく顔も熱くなってきた。あうう、お姉ちゃんのおっぱいとかお尻とか、どうしても目がいっちゃうよ…。
 そこで僕はやらかしてしまった。集中がそれているうちに、うっかりシャワーのお湯をお姉ちゃんの髪にかけてしまったのだ。

「にゃーーっ!!」

 驚いたお姉ちゃんが僕に飛びかかるような格好になった。あっという間に僕は押し倒されて、背中をバスマットに叩きつけられてしまう。

「ご、ごめんよ、お姉ちゃん。ついうっかり…」
「ふーーっ!」

 お姉ちゃんは興奮の面もちで僕をにらんでいたが、不意に視線が僕の目線から別のところに行っていたことに気づいた。するすると僕の体から離れても、じーっとその一点を見つめている。ものすごく興味ありげなその視線の先は…僕の股の間にあるようだった。
 し、しまった! タオルがはずれて丸見えになっちゃってる!
 僕はあわてておちんちんを隠そうとしたが、その前に、

「にゃー♪」

 興味津々なお姉ちゃんの手が、そこをなでた。

「はううううっ!」

 あまりの刺激に、僕は思わずのけぞってしまった。なに、今の…。頭の中を突き抜けるような、それでいて気持ちいい感覚は…。なんかくらくらしてしまいそうだ。
 僕が抵抗もせずされるがままなのを見て調子に乗ったのか、お姉ちゃんは顔をおちんちんに近づけて、さらにいじりだした。

「にゃんっ」
「ああっ」
「にゃうん」
「はうっ」
「にゃーん」
「いいっ…」

 そうされているうちに、僕のおちんちんの方に何かがこみ上げてくるような感じがしはじめた。それは押さえようとしても押さえきれず、むしろ出したくて仕方なかった。

「お、お姉ちゃん、なんか、なんか出ちゃうう…」
「にゃー?」

 僕はお姉ちゃんにやめてもらいたかったが、お姉ちゃんは首をかしげただけでやめてはくれなかった。逃げればいいとはわかっているけど、なぜか心のどこかでお姉ちゃんにいじってもらいたい気持ちがあって、それが体の動きを妨げているようだった。
 そして、もう限界だった。

「お姉ちゃん! 出ちゃう! 出ちゃうっ!」

 僕が叫んだ瞬間、おちんちんから白く粘り気のある液体がぴゅっぴゅっと飛び出して、お姉ちゃんの顔を汚していった。
 僕の頭の中はもう真っ白で、何も考えられなかった。ただ、液体、確か保健の授業では精液って言っていたその液体がびゅっって出るたびに、とても気持ちのいい感覚が全身を駆け抜けていた。
 はあはあ、と荒い息を整えて、僕が顔を上げてお姉ちゃんを見ると、お姉ちゃんはとろんとした目つきで、僕が顔にかけてしまった精液を手でかき取ると、それをぺろぺろとなめていた。なぜかはわからないけど、その光景は、僕をとてもドキドキさせた。

「お、お姉ちゃん、汚いよ、そんなの…」

 と弱々しい声で僕は言ったけど、お姉ちゃんはやめなかった。おいしい…のかな?
 そしてお姉ちゃんは言った。

「にゃあ~ん…」

 それはさっきまでの感じとは全く違っていた。まるで、僕を誘うような甘い声。
 さらにお姉ちゃんは、四つん這いのまま僕の方にお尻を向けた。その姿勢で僕の方を見ながら、もう一度鳴いた。
 僕の心臓は爆発寸前だった。目の前には、お姉ちゃんのきれいなお尻と、少し毛で覆われたあそこが丸見えだった。見ちゃいけないと思いつつも、どうしてもその神秘的な割れ目から目を離せなかった。

「にゃあ~ん☆」

 お姉ちゃんがさらにもう一度鳴いてみせた。そして僕を誘うかのようにお尻を軽く振る。
 僕はもう何も考えられなかった。体を起こし、お姉ちゃんに近寄っていった。さっきまでよく見えなかったけど、お姉ちゃんのあそこは、お湯以外の何かでしっとりと湿っていた。
 どきどきとする心臓と同じように、痛いぐらいにおちんちんが堅くなっている。僕の頭の中は、おちんちんをお姉ちゃんのあそこに入れてみたくて仕方なかった。まるで、そうすることが当然のように。
 僕は、その通りにした。

「お姉ちゃん、僕、おちんちんを入れるからね…」
「にゃあ~」

 お姉ちゃんの鳴き声を同意と勝手に考えた僕は、ふらふらとお姉ちゃんの後ろに近づくと、腰を持った。そこはふわふわとしながらも、どこかぴっちりとしていて、とても感触が良かった。
 僕は、ゆっくりと堅くなっているおちんちんを、お姉ちゃんの割れ目に近づけていった。お姉ちゃんも、後ろにいる僕の方を見て、期待に満ちたまなざしで見ている。
 そして、にゅるんという感じで、お姉ちゃんのあそこに僕のおちんちんが吸い込まれた。

「にゃあ~~ん♪」
「うわっ…」

 僕は思わず声を漏らした。お姉ちゃんの中はとても暖かくて、それでいて僕をぐいぐいと締め付けるようなきつさがあった。さらに、前に動かしても後ろに引いても、とても気持ちいい感じが僕の体の中にびんびんと伝わってくる。
 僕は夢中になって、腰を前後に動かした。

「はあっ、はあっ、お姉ちゃん…!」
「にゃあん、にゃっ、にゃあ、にゃあ~ん」

 僕の腰の動きにあわせて、お姉ちゃんが気持ちよさそうに鳴く。浴室の中には、僕たちが動くことで発するぐちゅぐしゅといったいやらしい音と、僕の腰とお姉ちゃんのお尻がぶつかるぱしんぱしんという音が響きわたっていた。
 やがて、またあのおちんちんから精液が出そうな感覚が下半身に感じられてきた。僕はお姉ちゃんをもっと感じていたかったが、出したときのあの気持ちよさを考えると我慢できなかった。

「お姉ちゃん、で、出ちゃうう…っ!」
「にゃあ、にゃあーん?」
「出る出る、出るーーっ!」
「にゃーーーーっ!」

 僕がお姉ちゃんの中に精液をまたびゅっびゅっと吐き出すと同時に、お姉ちゃんもびくびくと体を震わせてぐったりとしてしまった。僕はちょっと心配になってしまったけど、お姉ちゃんのとても幸せそうなゆるみきった表情を見て安心した。
 僕はぬるんという感じでお姉ちゃんの中からおちんちんを抜いた。僕のおちんちんはぬるぬるになっていたけど、まだまだ堅くなったままだった。
 その時、

「くぅーん、くぅーん…」

 と、僕の後ろでママの鳴き声がした。いけない、ママがいるのに夢中になってこんなことを…。
 僕は振り向くと、ママもさっきのお姉ちゃんみたいなうっとりとしたような顔をして、小刻みに「はっはっはっ」と息をしながら僕を見つめていた。

「ママも…したいの?」
「わんっ」

 返事をした後、ママは僕の方にお尻を向けた。そして、ふるふるとお尻を振る。
 僕はママにもお姉ちゃんと同じことをしてあげないといけないと思った。お姉ちゃんだけというのは不公平だ、というのは建前で、本当はただママの中にとても入れてみたくなっただけだった。
 ママのあそこはお姉ちゃんより毛深くて、少しびらびらがはみ出している複雑な形をしていた。股の間はしっとりどころかぐっしょりと濡れていて、それが足を伝って下の方へと流れていた。その様子が僕をとても興奮させていた。ママのあそこに入れてみたくて仕方ない。入れたい。とても入れたい。

「ま、ママぁっ!」

 お姉ちゃんの時と違って、今度はママのお尻に僕は飛びついた。そしてぬるぬるのあそこに、僕はおちんちんを突っ込んだ。

「おんっ!」

 お姉ちゃんのあそこはきついのが気持ちよかったけど、ママの中は暖かく包み込むような感じがして、どっちがいいとは比べられないぐらい気持ちよかった。

「ママ、ママぁ…!」
「わんっ、わふぅ、わうんっ!」

 僕はさっきと同じように夢中で腰を振った。もう何も考えられない、ただおちんちんをママのあそこの中で動かしたかった。

「はぁ、はぁ、いいよ、気持ちいいよママぁ…」
「はっはっはっはっ…」

 だんだんとぼーっとしてくる頭の中で、そろそろまたおちんちんから精液が出そうな感じがしてきた。でももう僕はそれをママに伝える気力もなかった。ただ、

「ママぁ、ママぁ…」

 とうわごとのように繰り返すだけだった。
 やがて、腰ににぶい衝撃が走って、僕はママの中に精液をどぷどぷっと出していた。ような気がする。もう目の前も真っ白で、何も考えたくなかった。僕はママの背中にもたれかかるような格好になった。
 ただ、遠くなる意識の向こうで、

「わおーーーんっ!…」

 とママは気持ちよさそうに吠えたのが聞こえたような気がした…。

「…きろー、起きなさいよ…!」

 誰かが僕を呼んでいた。体も揺すぶられている。でも僕の体はとても重くて、動かすのもしんどかった。僕はゆっくりと目を開けた。
 僕の目の前には、お姉ちゃんの顔があった。

「…お姉ちゃん?」

 僕はぱっとお姉ちゃんと視線をそらそうとした。だってお姉ちゃんは裸………じゃないぞ。ちゃんと服を着込んでいる。それに、寝ている僕を上の方からのぞき込んでいるんだから、少なくとも四つん這いではない。

「なに寝ぼけてんのよ。あんた、休みだからっていつまでも寝てたら、朝ごはんが片づかないでしょ。さっさと起きなさいよ」

 もちろん「にゃー」と鳴くこともなく、いつものようにきつい言い方で言うだけ言うと、お姉ちゃんはさっさと僕の部屋を出ていってしまった。
 僕は混乱する頭を整理させながら、体を起こした。

「もしかして…夢?」

 そうだよ、夢だ。夢に決まってるよ。やっぱり魔法なんかあるわけないよ。でも夢だとすると、僕はなんてエッチな夢を見ちゃったんだろう。なんか、ママやお姉ちゃんと顔を合わせるのが恥ずかしいよ…。
 でも、これ以上ぐずぐずしているとお姉ちゃんに殴られるかもしれないから、僕はベッドから降りてパジャマを着替え、食卓の方へ向かった。

「あらおはよう。今日はお寝坊さんね」

 ママが優しい笑顔で僕を迎えてくれた。当然ながら、ママも裸じゃなかった。僕は良かったと思ったものの、夢の中の出来事を思い出して、ちょっと顔を赤くした。

「たるんでるだけよ。もっと厳しくしないとこいつはつけあがるだけよ、ママ」

 コーヒーカップを口につけながら、お姉ちゃんはぶつくさ文句を言っていた。夢の中じゃ、あんなに文字通り『猫をかぶっていた』のに。

「まあまあ、寝る子は育つって言うじゃない」
「まったく甘いんだから…」

 そんな会話を耳にしながら、僕は椅子に座った。テーブルの上にはトーストと牛乳が用意されている。僕はトーストにかぶりついた。
 そこへ、ママが僕に聞いてきた。

「ねえ、今日はどこかお出かけはしないの?」
「ん? 今日は別に用事ないから、家にいようと思ってたけど…?」

 するとママは、なぜかお姉ちゃんもほっとしたような表情を見せた。
 僕は疑問に思って尋ねてみた。

「どうしたの? どっかみんなで出かけるの?」
「ううん。どこにも行かないんだったら…」

 首を横に振ってからママがそう言いかけたとたん、二人はばっと服を脱ぎ始めた!
 僕は一瞬にしてパニックになってしまった。

「あわわわわ…。ママ!? お姉ちゃんもどうしたの!?」
「どこにも行かないなら、今日は一日中ペットでいられるわね」
「ほーんと、人間の服って窮屈で嫌になっちゃう。早く脱ぎたくてしょうがなかったわ」
「うふふふ、そうね。それに、二本足で歩くのだって大変よね」
「さーて、今日は何をして遊んでもらおうかなっと♪」

 あっけにとられる僕をよそに、二人はにこやかに会話しながら服をぽんぽんと脱いで、あっという間に裸になってしまった。
 そして、床に手を付けて四つん這いになり…、

「わんっ!」
「にゃぁ~♪」

 と鳴いて見せた。そんな、そんなバカな…。あれは夢じゃなかったの…!?
 僕は、楽しそうにじゃれついてくるママとお姉ちゃんを両脇に抱えて、空に向かって叫んだ。

「うわーーん、そんなのってないよーーーっ!」

< ギャフン >

 木を隠すなら森の中。マンションでペットを飼えないなら、ペットを普段は人間に偽装してしまえば周囲にはばれませんの。それに、人間界では『雌犬』とか『雌豚』という人間みたいなペットを飼っている人がいるらしいのは、この前ゴミ捨て場にあったマンガでリサーチ済みですの。あと、そのペットはしょっちゅう発情するらしいから、ついでにそうなるようちゃんと魔法をかけておきましたの。だから、これでバッチリですの~!
 みなさんも、ペットは責任をもって飼ってくださいですの☆

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