ビッチシステム 3日目夜

3日目・夜 泥沼の入口

 気づいた時には、留香はメイアに対峙していた。今のメイアは今朝とは異なり、「サキュバスらしい」ドレスを身につけている。胸元や股間が却って強調され、扇情的なことには代わりはないが。

「今日もご苦労様」
 何も悪びれる様子なく、メイアはさらりと言ってのけた。
「……ええ。ところで、一つ聞きたいんだけど」
 メイアの物言いに腹の底からの苛立ちを覚えた留香だが、ぐっと堪える。今は、どうしても聞いておきたいことがあった。
「何?」
「めぐ姉さんは、いつから感染していたの?」
 その質問は、単なる興味からではない。答えてくれるかも分からないし、メイアが知っているかも分からない。しかし、留香にとっては聞かないわけにはいかない質問だった。
「ふぅん?」
 留香の思いを見透かさんばかりに、メイアはにんまりと笑いながら、留香の顔をのぞき込んだ。
「罪悪感で一杯の顔だこと」
「…………!」
 図星だった。
 そうなる可能性が高い、と予測はしていた。だが、実際にその場面を目にして何も負い目を感じないほど、留香は冷酷ではなかった。
 見透かされた、という屈辱に、留香の顔が一瞬、大きく歪む。その表情を見たメイアは、ぷっ、と噴き出す。
「ぷっははははっ。分かったわ、その顔に免じて、教えてあげる。……あの子は昨日の段階で感染してたわ。進行が遅かっただけ」
 さらりと、メイアは回答を口にした。
「あなたが押しつけたもう一人の子を引き受けたのも、感染でガードが甘くなってたのが原因だったんじゃないかしら」
 せっかくだから教えてあげるわ、とメイアは付け加えた。
「だから、あんたの判断は正解。よくできました」
 留香の意識が再び遠のいた。居住空間に飛ばされる。
 メイアの言葉は留香の欲しい言葉にとても近かったが、何の慰めにもならなかった。

 食器をダストシュートに放り込み、ゆっくりと風呂に歩を進める。
 上半身は裸のままで、乳首も完全にしこり立ったままだった。恵は唯一身につけていた、ライトグリーンのショーツを引きはがすと、その船底はぐっしょりと濡れている。
(濡れてるよね……)
 何の違和感もなく、当然のことだと理解する。自分の身体は扇情的な作りをしているのだから、乳首はいつでも立つし、ふとしたことで股間が濡れるのも当たり前――そう恵は納得していた。女性が興奮した時に股間が濡れる、という知識くらいは、恵も持ち合わせていた。その代わりに、今の恵には、凜に襲われたという事実は正しく残ってはいない。忘れていないわけではないが、恵の頭の中で、現状とは繋げられていなかった。
 全裸になった開放感を感じつつ、風呂場に進入する。いつも通り、しかしいつもよりゆっくりと、茶髪ボブの髪を洗う。次に、顔。
「……」
 恵は、唇に指を揺れた。そこで初めて、凜から受けたキスの感触を思い起こす。
 キスは初めてだった。確かに男にされるのは拒否感があったけれど、だからといって初めてのキスを女とすることになるとは思わなかった。
 最初は、驚いたし、嫌だったような気もする。でも、いつの間にかすっかり、恵は凜とのキスを楽しんでいた。
「ふふ……」
 恵の口から、自然に笑みが漏れた。
 もっとしたかった。興奮した。
 女としてもこれなのだから――男とキスしたら、どうなるんだろう。
 恵はそんな考えに頭を占拠されながら、洗顔石鹸に手を伸ばす。

 そして洗顔が終わり、胴体を洗い始める。しかし、その手は、
「あっ……」
 ナイロンタオルが胸の頂を擦ったところで止まった。

 昨日まで経験のなかった刺激を胸に感じ、恵は身体を震わせる。凜に襲われるまでは、二人でする「恥ずかしいこと」どころか、一人ですることさえ経験がなく、方法も知らなかった恵だが、凜に襲われ、さらにウイルスに性欲を散々煽られていた恵の身体は、その刺激を逃さなかった。
(今の、ビクッときた……)
 その刺激が快楽であるとはまだ理解できていない恵だったが、本能に導かれ、興味を失うことはできない。
 恵はボディソープがついたままのナイロンタオルを、ゆっくりと両手に巻き付ける。「次の行動」とその結果を想像し、恵の鼓動が高鳴る。
 両手に巻き付けたナイロンタオルを、恵は胸の両頂にゆっくり押しつけ、その手をそっと横に動かした。
「っっ!」
 突き抜けるような刺激に、恵はがくっ、と身体を反応させる。大きな胸がたぷん、と揺れた。
 性の経験値があまりに低い恵には、その刺激が快感であると、体感的にはまだ十分に認識できない。しかし、持ち合わせている僅かな性知識から、これが快楽への第一歩であることが予想できた。
 タオルを巻き付けた両手で、恵は自らの胸を優しく包み込むようにした。
「はぅぅ……っ」
 脱力するような声が漏れる。
 恵はそれから数分間、快楽と認識しきれない快楽を、両胸から受け続けた。
「はんっ……やぁん…………んふぅっ!」
(あー……すごい、ふわふわなかんじがする……)
 胸を一擦りするたび、一撫でするたび、自らの思考が濁っていくのを感じる。自らで自らを調教するその時間は、身体を洗うという本来の目的すらすっかり恵の頭から失わせていた。

(痛い……)
 恵が僅かに理性を取り戻したのは、時間が経ちすぎて泡がしぼみ、ナイロン素材の刺激が強くなってきたためだった。体内から熱に煽られながらも本来の目的を思い出し、恵は一旦胸から手を離す。
 恵はナイロンタオルに水とボディソープをつけ直した後、全身を擦り続けた。脇の下、ふくらはぎ、膝裏。そういった部分を擦ると、何とも言えない刺激が身体を突き抜ける。しかし恵は、その刺激にいちいち反応しなかった。感じないのではない。何かしらを「感じる」のが当たり前になってきたのだ。
 そして、何となく寂しく感じたら、指で乳首を一擦りする。びくん、と自分の意思を無視して跳ねる身体が、気持ちよくて。何となく面白かった。
(あー……これ、きもちいいんだ……)
 そこで、やっと気づく。自分自身が、その感覚を喜んでいることに。

「あはぁ……」
 ある一部分を除いて身体を洗い終えた恵は、シャワーで泡を流す。恵には、シャワーから身体に叩きつけられる水の一粒一粒すら、自らを刺激しているように感じられた。
 恵は泡を流し終え、立ち上がる。
(あとは、マンコ……)
 一番美味しいものを最後に取っておくかのように、恵はそこだけを洗っていなかった。そこはナイロンタオルで擦ることはできないので、普段ならば自らの指で丁寧に洗うところだ。
 しかし、その部分に灼熱が控えていることを体感していた恵は、別のことを考えていた。
 恵は、壁に掛かっている別のタオルを手にする。それはナイロンタオルとは違ってすべすべとしており、敏感なところにこすりつけても傷つきそうではない。
 恵はそれに水を、続いてボディソープを、丁寧に塗りつける。立ち上がったままゆっくりと泡立てた恵は、両手に持ったタオルをまたぎ、ゆっくりとタオルを股間に押しつけた。
 右手を前、左手を後ろにして――腕を前後させて、タオルをマンコにこすりつける。
「……ぁぁっ……!」
 二擦り目でマンコが事態を認識し、脳に反応を送り始める。それはマンコが蕩けるような、恵の堕落を誘う悦楽だった。
「ああっ……いい……めちゃくちゃいい……」
 不格好な自慰の体勢を気にもとめず、恵は激しくタオルを前後させる。刺激はますます高まり、恵の意識を、脳を白く塗りつぶしていく。
「ああ、すごい、すごいっ」
 想像した以上の刺激に、恵は歓喜の声を響かせた。神経を直接擦るような感覚は、恵にとって全く未知のものだったが、それは純粋な快感だった。あまりに快楽が純粋すぎて、その快楽以外、何も頭に入ってこなくなるほどに。
 恵はタオルだけでなく、腰も前後に振り出した。腰を突き出すと同時にタオルを後ろに引き、
「はうっ!」
 腰を引くと同時に、タオルを前に引っ張る。
「ひんっ!」
 その動きと刺激がもたらす快楽は、恵の身体には本来強烈すぎるものだったが、拒絶反応は起きない。今の恵の全身は、性感に飢えることはあっても、多すぎる性感に苦しむことなどあり得なかった。
 無限大の性欲に取り憑かれ、淫ら極まりない恵のダンスを目撃するものは――恵自身も含めて――誰もいない。

 しかし。

 がくんっ
「あっ! きゃっ!」
 永遠に続くかのように思われたその快楽は、自らの膝が折れることによって終焉を迎えた。力が入らなくなったのだ。
 同時に、タオルに体重がかかり、左手からタオルがすっぽ抜ける。
「っ!」
 尻餅をつく恵。痛くはなかったが、ひんやりとしたタイルの感触を受けると、急速に白けていくのを感じた。
 ゆっくりと身体を風呂椅子に乗せ、シャワーノズルを手に取る。温水で下半身を洗い流す。シャワーの水が股間に刺激を与えないではなかったが、興をそがれて失意を抱いていた恵に、反応する元気はもうなかった。
 そのまま湯船に入る恵。前夜の寝不足、日中の行動、そして一人での「やらしいこと」の疲れが祟った彼女は、うっかりそのまま、意識を手放した。

 凜はもうたまらなかった。風呂に浸かっている間にも身体の疼きは勢いを増し、気分が落ち着かない。それでも風呂の中で「恥ずべき行為」に至らなかったのは、凜の中では、一人でのその行為は「ベッドの上でするもの」という、凝り固まった観念があったからだった。
 今の凜は昨日と同様、化粧台の前に座っているが、腰がどうしても落ち着かず、じっと座っているだけでも苦痛だった。それでも髪と肌の手入れを何とか続けるが、おざなりになるのはどうにも避けられない。
「破廉恥な……っ」
 僅かながら正気を取り戻していた凜は、熱に浮かされつつも、いつもの言葉を吐き捨てる。もし日中の彼女の行動を見たものがそこにいれば、自らの行為を棚に上げた一言だと思っただろう。しかし今の凜は、日没前に恵を襲ったことを、全く覚えていなかった。ウイルスによる感染が進行し、記憶がまだらになっているのだ。それに凜は、実際には吐き捨てるほどには嫌悪を実感していなかった。
 さらには、仮に日中の凜の狼藉を知らずとも、今この場を端から見ている者がもしいれば、その言葉を自虐的な冗談としか取らなかったであろう。
 その理由は、凜の今の格好にあった。上半身が下乳のはっきり見えるミニタンクトップ。下半身はパジャマ用のミニスカート。黒で統一されたそれは、明らかに異性を誘惑するための格好だった。さらに、凜はショーツを穿いていない。普段の凜は決してしない格好だが、今の凜にとっては、その格好は「どうせ上着はめくるし、下着は汚れるのだから」ということでしかなかった。
 雑ながらも手入れを終えると、凜は電気を消す。ベッドに倒れ込もうと思ったが――据置戸棚から青い光が漏れていることに気づいた。凜の意識はそちらに吸い寄せられて、ふらふらと戸棚に近づく。
 凜が扉を開けると、その最下段に、細長い、少し反った物体が置かれている。一昨日そこを開けた時には、間違いなく存在していなかったものだった。
 凜はそれを手に取る。まじまじと見つめて――気づいてしまった。

 凜には、性具の知識はない。というより、性具という存在自体を知らない。従ってそれが「ディルドー」と呼ばれるものであることを知っているはずもなかった。しかし、凜に直感をもたらしたのは、その物体のサイズだ。
「あぁ……っ」
 凜がその用途に思い当たった途端、きゅうっ、と、凜の恥部が反応する。凜は全く無意識に、熱い吐息を漏らした。その瞳に残っていた正気が、急速に失われていく。

 凜はそのくらいの太さと長さが欲しいと思っていたのだ。
 凜がそれを手に取り、立ち上がると同時に、青い光が消え、暗闇が再び支配する。同時に、じわっ、と股間が潤う感触があった。
 その感触を恥ずべきものとする知性は、凜には残されていなかった。

 その道具を持ったまま、凜はベッドに身を投げる。
「んふぅっ」
 乳首がタンクトップ越しにベッドと擦れ、くぐもった声を上げた凜。そのままの姿勢で膝を抱えた格好になる。その間は僅か数秒。しかし凜は、
(あぁっ……!)
 寝っ転がったことでスイッチが入り、男と破廉恥なことをすることしか考えられなくなっていた。手に持ったものを一旦側に置いた凜は、タンクトップの下から両指で両乳首を捉える。
「はぁっ」
 両乳首を弾くようにひっかくと、断続的に衝撃が突き抜ける。うつぶせの状態で顔だけを背けた凜は、既に妄想の中で男に愛撫されていた。

「いやぁ……わたくしの胸、そんなにしないで……」
 全く嫌がる気配のない拒否の言葉をつぶやき、凜は自らの胸を蹂躙する。
「はぁっ……はぁっ……」
 それは、興奮する凜の吐息。しかし凜の耳には、「背後にいる男」の興奮した吐息と重なって聞こえた。それは間違いなく妄想だったが、凜はその吐息を、女としての自尊心を満たすものと受け取った。
「破廉恥に、なる……っ」
 それは、抵抗の言葉ではなく、降伏の言葉だった。その言葉を最後に、凜は男に抱かれることを積極的に受け入れ始めた。
「おまんこを、いじめて下さい……」
 妄想の男に懇願し、凜は右手を股間に与える。花びらは既に膨らみ、十分な潤いを見せていた。
 そこへの刺激を恍惚として味わいながら、凜はゆっくりと仰向けになる。凜の今日の目的ははっきりしており、それに向けて胸がときめいていた。
「はぁっ、ああっ、いぃ……っ」
 右手で股間を擦りながら、左手でベッドをまさぐり、性具を探し当てる。凜は道具を使ったことはないが、指での経験が数多あるため、その挿入に抵抗感はほとんどなかった。それに、凜の頭の半分は、今からすることを性具によるオナニーではなく、男とのセックスと捉えている。凜の激しい鼓動は、どちらかといえば性具を使用する緊張ではなく、男を迎え入れることに対するものだった。
「ふぅっ」
 性具の先端を、おまんこに擦りつける。少し冷たい性具が愛液に濡れ、少しずつなじんでくる。ふと、その先端が、自分の入口に、ぴったり填まった感覚があった。
(ここだ……)
 凜は、性具をそこにゆっくり押し込んだ。
「んふぅっ!」
 凜の体内を犯す性具、いや男のちんこは、凜の指が犯せる限界を易々と突破し、凜の奥まで突き刺さる。
「入った……」
 男に貫かれるという感覚に、凜は感動すら覚える。
 凜は目をつぶり、その股間の感覚に意識を集中する。
(ああ……気持ちいい……犯されてる……)
 時折、身体がぴくん、ぴくんと不随意に反応する、その感覚も凜には快く思える。
 しばらく、その感覚に夢中になった凜。僅かに頭脳が働き始めると、凜の目に前には思い人の「高橋君」の顔が浮かんだ。彼の顔は、苦痛に歪んでいる。
(動きたい……)
 そう、感情を読み取る。凜は挿入以来、ちんこを動かしてはいなかった。
「だめよ……」
 このままで気持ちいいのだから、と凜は却下する。
 そのまま凜は、左手を自らの全身に這わせ始めた。
「うっ」
 おなかや脇に手を這わすと、それだけで快感が貫く。以前も同じように触ったことがあるが、股間に大きい挿入物があると、快楽が股間と共鳴する。
「感じる……!」
 凜のつぶやきは驚きを含んでいた。身体の奥に突き刺さったそれに対する、自分の身体の反応が面白かった。そして……そのつぶやきを泣きそうな顔で見る「彼」の顔が面白かった。
「やぁん」
 「彼」を刺激するため、おまんこを締め付けてみる。思いの外、自分自身が反応してしまうが、「彼」にとっては不十分なようだった。「彼」を生殺しにしている感覚になり、爽快感を得る。
 おまんこを貫かれる感覚が新鮮だった凜にとっては、その僅かな刺激を長く味わうだけで、しばらく満足だった。目の前の「彼」に主導権を決して与えないまま、快感と精神的な充足感を味わっていった。

 ふと、「彼」ではなく、他の誰かに貫かれたらどうなるのか、気になった。そう思った途端、目の前には「彼」ではなく、別の男が現れていた。その男は、以前読んだ少女小説の挿絵にあった、主人公の相手によく似ていた。図書室にあったので、暇な時にたまたま読んだのだ。
「はうっ!」
 そう思った途端、股間にあるものを動かさなくてはたまらなくなった。凜の胎内で完全に暖まったそれを、ゆっくりと前後させる。
「んうっ! んうううぅっ!」
 押し込まれるたび、頭に閃光が走る。何度目かの閃光の後、凜は自分の隣に「彼」――高橋君が立っている気がした。
(おあずけ……)
 「彼」に対する僅かな罪悪感と共に、灰色の笑みが浮かぶ。「彼」の痛められつけたような表情は、なぜか心地よかった。
 その向こう側には、少女小説のヒロインが見えた。「彼女」は凜ではなく、凜の上に乗っている男を悲しそうに見ている。
「ああんっ!」
(ざまあみろ……)
 今度は、はっきりと嘲笑が浮かぶ。凜は、そのヒロインが好きではなかった。うじうじしながら周りに迷惑をかけることが多く、それでいて複数の男性に媚びを売る。その作品はシリーズものだったが、結局、凜が最後まで読むことはなかった。
「あっ! いいっ!」
 性具の動かし方にも慣れてきた凜は、自分の中の反応が良いところを集中的に刺激する。性具は非電動式だったが、凜の手はだんだん的確に、自らの弱点を刺激していく。
「あっ! ……あっあっあっ!」
 勝手を理解したちんこは、凜の弱点を集中的に攻撃する。凜はそれに身を任せ、頭を真っ白にしていった。
 凜の目の前から幻想が消え、おまんことちんこが全てになっていく。凜はただでさえ壊れかかっていた理性を完全に手放し、本能のままに貫かれ始めた。
「おおっ! おああああああっ!!」
 獣の咆哮と聞き間違えるような凜の声は、凜自身の耳に最早届かない。
 凜の腰が浮き上がり、ブリッジのような体勢になる。性具と腰の動きに合わせ、ミニスカートがひらりひらりと揺れ、そこに実在しない男を誘惑していた。めくりあがったタンクトップの下は凜の胸が現れ、その頂点は固くしこっている。
 凜自身による際限なく激しい蹂躙に、凜の身体は悦びの悲鳴を上げ――やがて、痙攣を起こし始めた。
「おおおっ! うおおおおおおおっっっ! ほあああああああっっっ!!!」
 快楽を貪り尽くした凜の身体は限界を突破し、激しい絶頂に打ち震える。
 凜はその勢いのまま、意識を散らした。

「辛そうね」
 翌朝、居住空間から活動空間に送り出される途中で、玲奈はメイアと対面していた。
「誰のせいだと思ってるのよ!」
 即座に反発する玲奈。玲奈は冬物の制服をしっかり着込み、化粧も整えていたが、精神的な消耗は隠せていない。
 何より、
「お腹空くわよ、あれじゃ」
「……」
 食事がなかなか喉を通らなくなっていた。夕食もほんの数口。朝食に至っては、固形物が喉を通らず、ヨーグルトを流し込むのがやっとになってしまっていた。自分でも、限界が近づいているのが分かっていた。

「しょうがないから、これを持って行きなさい」
 そう言って、メイアは玲奈の目の前に小さい箱を浮かべた。
 その黄色い箱は、玲奈もCMで知っている、栄養補助食品と呼ばれるものだった。

 黄色い箱を二つ手にした沙奈に、メイアは言った。
「あんたのお姉ちゃんには受け取りを拒否されちゃったから、お姉ちゃんの分も渡しておくわ。ポケットに入れておきなさい。お姉ちゃんもあんたと同じで、ご飯食べられてないから」
 メイアに、玲奈の状態を知らされた沙奈は、さらに不安になった。沙奈が頼っている玲奈でさえそんな状態だったら、沙奈は誰を頼ればいいのだろう。
「じゃ、行ってらっしゃい。あと四日よ」
 メイアは明るく、沙奈を送り出す。しかし沙奈は、「あと四日もある」という事実に、絶望を感じずにはいられなかった。

< つづく >

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