仮装行列綺談 それまでと、祭りの後

それまでと、祭りの後

面之五 亮太(天狐の面)

 初めて見たときから、このお面を気に入っていた。

 この里の神社の家に生まれた僕が、古くから伝わる祭りの準備を最初に手伝ったのは中学2年の時だった。
 面引きの神事のための面を出していたときに、なんとなく惹かれるものを感じて手に取った包みを開けると、その面があった。
 まるで、笑っているように目を細めた狐の面。
 それを見ているうちに、どうしてもその面が欲しくなった。

 そのことを父さんに言うと、少し驚いた様子でこの祭りのこと、面のことについて話をしてくれた。

 この里で昔から続いてるこの祭りを取り仕切り、祭りで里の人が使う面と衣装を管理するのが、この神社の神主の最も重要な仕事だということだった。
 その時はまだわからなかったけど、この祭りがどのようなものなのか、その本当の意味は、後々祭りの進行と後始末を手伝うようになってから知るようになった。

 この祭りに初めて参加する者は、面引きの神事で自分が引いた面を被って祭りに臨む。
 自分の面を被って祭りに参加すると、その人の性格は面の持つ性質に従って変化していく。
 それは、その人の人格が面の持つ属性に支配されるといってよいほどのものらしい。
 祭りが始まると、里の人たちは面に応じた相手を見つけて、夜明けまで激しくセックスをする。
 そして、面の定めた相手と結ばれて、それ以降は里のために生きることになる。

 どうしてそんなことになるのか、祭りで使う面になぜそんな不思議な力があるのかはわからない。
 父さんの話では、この祭りが始まった700年ほど前に、この家の祖先に神様が降りてきて、まる一年をかけてこの里に伝わる全ての面をひとりで造り上げたという言い伝えがあるらしい。
 また、この神社に祀られている、里の神様は男の神で、山の神様は女の神で、ふたりは夫婦ということになっている。
 代々の神主に伝えられてきた話では、旧暦の10月に出雲に出かける前に、ふたりの神様は激しくセックスをするのだそうだ。
 その、神様の交わりの気に当てられて、この祭りで里の人たちはそれぞれの相手とセックスをするのではないかと父さんは言っていた。
 ただ、はっきりした記録も証拠も残っていないので、本当のところは何もわからない。

 とにかく、この祭りと神社に伝わる面に不思議な力があるのは事実だった。
 この面を付けて祭りに参加し、そのまま夜明けを迎えると、面はその人の人格を完全に支配する。
 そして、面の結びつけた相手と一生を添い遂げる。
 ただ、どちらかが早く亡くなった場合には、いったん神社が引き取った面をその後の面引きの神事で誰かが再び引いて、新たにパートナーとなることはある。
 それに、初めて面を引く者も、面引きの組み合わせによってはその年にパートナーとなる面を持つ者が出てこないこともある。
 ただ、それでも何度か面引きを繰り返すうちに必ずパートナーになる面を引く者が出てくるのだけど。

 この面は、里の人たちとその人生をこの里に縛り付けると言っていい。
 面引きの神事で引いた面に人格を支配され、面の結びつけた相手と結婚し、子供を作って一生を終える。
 たとえ仕事の関係などで一時里を離れることになっても、最後には必ずこの里に戻ってきて子孫を残す。
 そして、里の者が死ぬと、その人が持っていた面を神社で回収し、次にその面を引く者が現れるまで管理する。
 それが、数百年続いた神主家の務めだった。

 一度、この面と祭りは里を守るためにあるのかもしれないと父さんが言っていたのを聞いたことがある。
 僕も、そうかもしれないと思わないでもない。
 こんな、農業以外にこれといった産業もなく、都会から遠く離れた山里は、この面と祭りがなければとうの昔に過疎化の波に呑まれていただろう。
 この祭りがあったからこそ、今でも若者が里を離れることなく、山奥にしては多いといえるほどの人口を維持できているのだと思う。

 そして、この神社の神主を代々受け継いできた僕の家には、ひとつの決まりがあった。
 里の者は面引きの神事で自分の面を引くのだが、神主家の男子だけは自分で自分の面を決める、というものだ。
 決める、というよりも、面に惹かれる、という方が正しいのかもしれない。
 僕がそうだったように。
 ただ、僕の手にしたこの狐の面、名前は天狐の面というらしいけど、この面を手にした者は代々の神主の記録の残っているこの200年ほどの間にひとりもいないらしい。
 ほとんどの神主は、禰宜(ねぎ)や祝(はふり)など、神職に関係のある面を手にするのが普通で、詳しいこともほとんどわかっていない天狐の面を僕が手にしたことに父さんは驚いたらしい。

 ともあれ、僕は天狐の面に惹かれて、それを自分のものにした。

 だけど僕は、18歳になっても祭りに参加することはなかった。
 小さい頃から一緒に遊んでいた友達が、この祭りの本当の意味を知らされることもなく、自分の引いた面にその後の人生を決められていくのを僕は父さんの手伝いをしながら見ていた。
 それは別に、神主を継ぐ者としてずっと前からこの祭りの本当のことを聞かされていたから、祭りに参加するのが嫌になったからとか、里の風習に反発したからとか、そういうのじゃなかった。
 僕自身、自分の天狐の面が気に入っていたし、祭りの全てを知った上で、この面を被って自分が祭りに参加したらどうなるのか知りたかった。
 ただ、なんとなく気が乗らなかった。それだけのことだ。
 しかし、どのみちいつかは祭りに参加しなくてはいけないし、神主を継ぐと祭りの日は忙しくて参加したくてもできなくなるので、父さんは僕に早く祭りに出て欲しいみたいだった。

 僕がその気になったのは、今年の祭りの直前のことだった。

 祭りの前々日、母さんに頼まれたお使いの帰り道でのことだった。
 歩いていたら、後ろからププッとクラクションの音が聞こえた。

 僕のすぐ隣に車を止めて顔を出した女の人を見て、胸がドキドキと高鳴るのを感じていた。
 間違いなく僕よりも年上なのに、目のくりくりっと大きな、すごくかわいらしい感じの人だった。

 完全に、僕の一目惚れだった。

 話を聞いて、父さんが言っていた、祭りの取材に来た人だとすぐにわかった。
 区長の帯刀のおじさんがうちに来て、その人たちをどうやって祭りに参加させるか話をしていたことも思い出した。

 この祭りには、18歳になった里の子供だけじゃなくて、よそからこの里に来た人が参加することがある。
 そのほとんどは、新しく学校に赴任してきた先生など、仕事の関係でこの里に住むようになった人たちだった。
 だけど、ごく稀に祭りの調査や取材に来る人がいるらしかった。
 父さんの話では、なんでも僕のひい祖父さんの頃に東京から偉い学者の先生が祭りを調べに来たことがあって、祭りの本当の姿を知られないようにごまかすのに相当苦労したらしい。
 それ以来、祭りの調査や取材に来た人間は下手にごまかさずに、祭りに参加させてそのまま里の人間にしてしまえばいいということになったらしい。
 特に、今回は若い女の人が来るとあって、帯刀のおじさんはかなり乗り気だった。

 それが彼女、更衣さんたちだったというわけだ。

 こんなかわいらしい人が僕の相手だったらな……。

 初めて彼女を見たときに芽生えたその思いは、次の日に更衣さんが神社に取材に来るとますます膨らんでいった。

 だから、僕は祭りに参加することを決め、彼女にも祭りに参加することを勧めて、尾裂の面を神事で使う面に忍び込ませた。
 これも父さんに聞いた話だけど、狐憑きのことを別名でオサキ憑きと呼んで、尾崎、もしくは尾裂の漢字を当てることがあるらしい。
 尾裂の面とはまさに僕の天狐の面に憑かれる者で、天狐の面と対を成す面だった。
 狐が憑くのは多くが若い少女で、だから尾裂の面も少女の顔をしていた。
 ただ、天狐の面を手にする者が長い間いなかったため、尾裂の面を被る者もずっとおらず、天狐の面同様、尾裂の面についても詳しいことはわからないみたいだった。

 それに、神事の面に尾裂の面を入れたのはいいけど、ひとつ問題があった。
 神主の息子の僕は自分の面を自分で選ぶことができたけど、他の者は面引きの神事で引かなければならない。
 更衣さんが尾裂の面を引いてくれるとは限らないのだ。
 だから僕は祈るような思いで面引きの神事を見守った。
 そして、更衣さんが尾裂の面を引いたときには、神社の息子がこういうことを言うのもなんだけど、僕は生まれて初めて神様に感謝したのだった。

 それと、今回の面引きの神事では、もうひとつちょっとしたサプライズがあった。
 更衣さんたちと一緒に取材に来た服部さんが、娼妓の面を引いたのだ。

 この里に伝わる面のほとんどは、対になっていて一組のカップルを作る。
 たとえば、僕の天狐の面と更衣さんの尾裂の面や、父さんの禰宜の面と母さんの白巫女の面。
 他には、更衣さんのところの女社長さんが引いた婢女の面と帯刀のおじさんの長者の面、あのカメラマンの人が引いた手弱女の面と益荒男の面、他にもひょっとこの面とおかめの面など、いろんな組み合わせがある。
 この里にたったひとつしかない天狐の面とは違って、長者や婢女、手弱女と益荒男と言った面は何組かあり、面の色合いや顔立ちの微妙な違いでそれぞれの相手が決まることになっていた。

 だけど、服部さんの引いた娼妓の面には、対となる相手の面がない。
 初めて祭りに参加する男女の人数が毎年同じとうことはありえないし、相手に先立たれたりするといった理由もあって、祭りのときにカップルになれない男は必ずそれなりの人数出てくる。
 それを一手に引き受けるのが彼女の引いた娼妓の面なのだそうだ。
 娼妓の面を引いた女の人は、祭りのときだけでなく祭りの後もずっと、パートナーにあぶれた男の相手をすることを宿命づけられる。
 それだけ聞くとひどい話のようだが、娼妓の面を引くと自分からそれを求めるようになり、そのことで幸せを感じるようになるのだから良いのではないかと父さんは言っていた。
 父さんの話では、前に娼妓の面を持っていた人が亡くなってからかなりの年数が経っていて、毎年面引きの神事のときには娼妓の面を入れていたというのに、不思議と誰も引くことがなかったらしい。

 それだけに、服部さんが娼妓の面を引いたことで里の男たちの話題は持ちきりだったけど、僕にとっては更衣さんが尾裂の面を引いたことの方がよっぽど重要だった。

 そして、祭りの当日、天狐の面と衣装に身を包んだ僕は、尾裂の面を付けた更衣さんを僕たちの列の方に引っ張り込んだ。

 彼女も最初は戸惑っていたみたいだけど、面の効果が現れたのか、すぐに祭りになじんだみたいだった。
 行列についていく更衣さんは、まるで無邪気な女の子みたいにはしゃいでいるように見えた。
 たぶん、あの尾裂の面がそうさせているんだ。

 そして、僕たちの行列が神社まで来ると、僕は彼女の手を取ってお社の裏手へと連れて行った。
 その時までは、まだ、僕は自分がどうしたらいいのかわからなかった。
 面を被って祭りに参加したけど、自分になにか変化があったようには感じなかったから。

 でも、そこに行ったときにふっと思い出したことがあった。
 そこには、稲荷社がひとつあった。
 本当に小さな、祠に毛の生えた程度の社だったけど、この神社の本殿よりも古いと言われていた。
 その稲荷社には大昔から、白狐が住みついていたという言い伝えを小さい頃に祖母ちゃんから聞いたのを思い出したんだ。

 祖母ちゃんは、その白狐はお稲荷様の化身じゃないかって言っていた。
 そして、白狐は時々、里の者に憑くことがあったそうだ。
 白狐が憑くのは、決まって若い娘で、それも純粋で無邪気な娘ばかりだったんだって。
 もちろん、祖母ちゃんも稲荷社の白狐に憑かれた娘を見たことはなくて、そういう言い伝えを祖母ちゃんの祖母ちゃんから聞いたらしい。
 その言い伝えのことを父さんにも聞いてみたことがあるけど、知らないって言ってた。
 たぶん、神社にではなくて、里の方で伝わってきた話みたいだった。
 祖母ちゃんの話では、白狐に憑かれた娘は狐の声だけを聞き、その声だけに従って生きることになったそうだ。

 白狐に憑かれて、その声だけを聞いて生きる娘……。
 まさに、オサキ憑きの娘だ。
 祖母ちゃんの話を思い出して、対をなす天狐の面と尾裂の面は、その白狐と狐に憑かれる娘を現しているのに違いないと、そう思った。
 もしかしたら、この神社で一番古いとされるこの稲荷社と、この祭りにはなにか関係があるのかもしれない。
 もちろん、今となっては本当のところはわからない。
 だけど、僕が無意識のうちに尾裂の面を被った更衣さんをこの場所に連れてきたことも、ここで祖母ちゃんの昔話を思い出したことも偶然ではないと、そんな気がした。

 それになにより、今僕が被っているこの面が言っているような気がした。
 僕には、尾裂の面を被ったこの子を、僕の言葉だけを聞いて僕の言葉だけに従うようにできるんだって。

 そう……。
 それはこんな感じで。

「このお祭りの間、僕の言いつけを守ること。いいね?」

 見えないものに突き動かされるように、更衣さんの肩に手を置いて顔を寄せる。
 まるで、自分の中に、僕を動かす別の存在がいるような感じだった。
 きっと、これが面の効果。
 今、僕という人間がこの面の性質に従って変わろうとしているんだ。
 だけど、恐怖はない。
 むしろ、進んで受け容れようとすら思う。
 そうすることで、彼女を、更衣さんを僕だけのものにできるんだから……。

「言いつけを守るっていうことは、僕の言うことには絶対に従うってことだよ。わかる?」
「……うん」
「僕の言うことに従わないと、きみはお祭りを楽しむことができないからね」
「……うん」
「じゃあ、指切りしようか?指切りしたら、きみは僕の言いつけを絶対に守るようになる。僕の言う通りにするようになるんだ」
「……うん」

 更衣さんに顔を近づけて、さらに言葉を重ねる。
 僕の言葉に返事をするその声に、元気がなくなっていくように感じる。
 尾裂の面の両目に開いた穴から見えている、薄暗くてもよくわかるくらいにキラキラと輝いていていたその瞳がどんよりとしているのがわかる。

 ……感じる。
 面を通じて、何かが僕から更衣さんへと流れて行っているのを。
 魂というか、気というか、僕の意識の一部みたいなものが更衣さんの中に入り込んでいく。
 これが、狐が憑くってことなんだろうか?

 たぶん、これで彼女は僕の言いなりになる。
 あとは、それを確かめればいいだけ。

 指切りを済ませると、僕は更衣さんをふたたび祭りの中に連れて行く。
 僕の言葉に従うかどうかを単に確かめるだけなら、彼女に命令してみたらいいだけのことだ。
 だけど、それは無粋な気がした。
 まずは、里のみんなが祭りを”楽しんでいる”姿を見せて、彼女も祭りを楽しみたいと思うようにさせる。
 そして、その上で彼女の方からしたいとせがんでくるようにさせる。
 その方が面白いと思った。

 きっと、そうさせているのは僕じゃない、天狐の面だ。
 こいつの性質は、遊び心たっぷりで、手のひらの上で踊らせるように玩具を弄ぶやつなんだ。
 でも、もう僕もその方が楽しそうだと思ってしまっている。

 だから僕は、面を被ったままでセックスしている里の人たちの姿を彼女に見せて回った。
 それも、わざと彼女の仲間のところに連れて行って。

 あの女社長さんは、完全に婢女の面の虜になって帯刀のおじさんのチンポを自分の胸で扱いていた。

 手弱女の面を引いたカメラマンさんは、益荒男の面を被った男に抱きついて、夢中になってセックスしていた。
 たしか……あの益荒男の面を今年引いたのは、麻田商店の息子だったな……。

 そして、娼妓の面を引いた服部さんは、大勢の男たちに取り囲まれて、自分から男に跨がって激しく腰を動かしていた。
 それはもう、見ていると僕の股間が膨らんでくるくらいにいやらしい姿だった。

 興奮を覚えて更衣さんの方を見ると、もどかしそうにモゾモゾとふとももを擦り合わせていた。
 その仕草がかわいらしくて、さらに僕を興奮させる。

 そして、とうとう彼女の方から僕としたいとねだってきた。

 だけど、まだまだ。
 もっと焦らして、困っている姿を見てみたい。

 そう思っているのは僕なのか天狐の面なのか、もう自分でもわからなかった。
 きっと、その時点で僕の人格と天狐の面はひとつになっていたんだ。

 だから、僕のことをお狐様って呼ばせることにした。
 そして、僕の質問に狐の鳴き真似で返事をさせる。
 これでもう彼女は僕のものだ。
 そう、僕だけのもの。
 僕という狐に憑かれて、僕の言うことだけを聞いてくれる女の子。

 試しに着物をはだけるように言うと、なんの躊躇いもなく紐を解いて着物をはだけて見せた。

 でも、そこに下着を着ているのを見て、また意地悪したくなる。
 下着だけ脱ぐように言うと、素直に僕の言うことに従ってくれたけど、さすがに恥ずかしそうにしている。
 それがまたかわいくてしょうがない。

 それに、今まで祭りの手伝いをしてきて、女の人の裸はいくらでも見てきたけど、僕だけの、僕のための裸を見るのは初めてだった。
 思わず、手を伸ばしてその股間を触ってみると、びっくりするくらいに濡れていた。
 そうか……だからここに僕のが入っていけるんだ……。

 もう、彼女は準備万端なんだね。
 じゃあ、次は僕の番だ。

 そう考えて、彼女の手で僕のを大きくさせる。
 いや、本当はもうだいぶ膨らんでたんだけど、一度こういうのをさせてみたかった。

 更衣さんは、嫌がる素振りもなく僕の言う通りにする。
 それどころか、あんまり一生懸命に扱くものだから、あっという間に出てしまいそうになる。
 慌ててその頭を軽く叩いて止めさせると、首を傾げてこっちを見上げてきた。
 その仕草がまたかわいく思えて、そのうえ、彼女がすっかり大きくなった僕のを見て嬉しそうにしているのを見ると、さすがの僕ももう我慢ができなくなった。

 そのまま彼女を押し倒して、足を広げさせる。
 なにしろ、僕にとっては初めての体験だから、期待に胸が膨らんですごくワクワクする。

 でも、その前に更衣さんに初めてかどうか聞いてみる。
 それは、本当に確認のためだった。
 もし、初めてだったら痛くさせるのは悪いなと思ったんだ。
 僕は、意地悪して困らせるのは好きだけど、痛がらせるのは趣味じゃないから。

 どうやら、更衣さんはセックスした経験があるみたいだった。
 それを聞いて、僕はむしろ安心していた。
 これで、心おきなく彼女とセックスできるから。
 その代わり、僕とのセックスで思い切り気持ちよくさせてあげる。
 もう、僕じゃないと満足できないくらいに。今までのセックスなんか忘れてしまうくらいに。

 そして、いよいよ更衣さんのそこに僕のを押し当てて、ぐっと腰に力を入れる。

「きゃふぅうううううううううん!」

 背筋を伸ばした更衣さんの悲鳴に、びっくりしてしまった。
 痛がらせてしまったんじゃないかと思って確かめてみると、どうやらそうじゃないみたいだった。
 だから、おっかなびっくり腰を動かして、僕のチンポをゆっくりと出し入れさせる。

「あっ、きゃふっ!んぎゅっ、んんっ、やあっ、すごいっ……!」

 すぐに、更衣さんが甘い声を上げはじめる。

 すごいと思ったのは僕も同じだった。
 女の人の中って、こんなに暖かいんだ……。
 それに、柔らかい感じがするのにきゅうって、吸いつくように締めつけてくる感じがして、そう、まるで柔らかくて大きな吸盤に包まれているみたい。
 でも、これ、気持ちいいや。

「あふっ……気持ちいいっ、気持ちいいよっ、お狐様ぁっ!」
「うん、きみの中もすごく気持ちいいよっ。まるで、吸いついてくるみたいだっ」
「だってっ、お狐様のがすごく大きいからっ、それにっ、すごく気持ちいいから、あそこがきゅうってなっちゃうの!」

 僕がチンポで中を突くたびに、体を悶えさせながら上げる更衣さんの声がすごくいやらしくて、どんどん興奮してくる。
 自然と、腰の動きが大きくなってくる。

 そうすると、すぐに彼女が体を反らせて、チンポをきゅうううって締めつけてくる。

 すごいや、これ。
 もしかして、これがイッたってことなのかな?

 ぎゅっと咥え込むようにして更衣さんの中がチンポを締めつけてきて、思わずくらっとなるくらいの快感がこみ上げてくる。
 でも、まだまだ僕のチンポは元気だった。
 さっき手でしてもらったときにはすぐに射精しそうになったのに、今はまだまだこの気持ちいいのを味わっていたかった。
 すぐに出してしまったらもったいない気がして、僕はさらに彼女の中を突いていく。

 あれ?なんかコツンって当たってる?

 腰を突くと、更衣さんのアソコの奥の方に当たる感触がする。

「あふうううっ、おっ、奥に当たってるっ、あうっ、きゃふぅううん!」

 奥の方にコツコツと当たるたびに、彼女が激しく体を悶えさせる。

「イッちゃうっ!またイッちゃううううううっ!」

 僕に思い切りしがみついてきて、更衣さんが体をビクビクと震わせた。
 また、更衣さんのそこがチンポを思い切り締めつけてくる。

 すごい……僕が、こんなに彼女をイカせてるんだ……。
 もっと、もっとふたりで気持ちよくなりたい。

 僕もそろそろ限界が近いけど、ラストスパートとばかりに腰を突き動かす。
 もう、更衣さんの中は暖かいというよりもすごく熱くなって、ぎゅううっとチンポに絡みついていた。
 少し動かすだけでチンポが擦れて、ものすごく気持ちいい。

 それでも夢中になって腰を動かして、いよいよその時が来た。

「くっ、ぅうううううううううううう!」
「きゅふぅうううううううううううう!」

 更衣さんを思いきり抱きしめて、その中に思い切り射精する。
 彼女も僕にしがみついてきて、それを全部受け止めてくれた。
 そればかりが、吸いつくようにチンポを締めつけて、一滴逃さず搾り取ろうとする。
 その、頭の中が空っぽになるような、じんと痺れてくるような恍惚とした感じと開放感。
 セックスって、こんなにいいものだったんだ。
 もっと、もっといっぱい彼女とセックスしたい……。

 それから、僕は更衣さん、いや、唯と何度も何度もセックスをした。
 僕のチンポを受け入れるたびに唯は快感と僕への愛情を叫んで体を悶えさせ、そして何度も何度もイッてくれた。

 そして、たぶん7回目の射精だったと思う。

「きゅふぅうううううううう!来るぅっ、またっ、お狐様の熱いのがいっぱいっ、くるぅうううううう!ふあっ、あ………」

 全身を大きく震わせて僕の射精を受け止めた後で、唯は気を失ってしまった。
 そのまま、ぐったりとなってしまった唯の裸を見ていると、愛おしいと思う気持ちが溢れてくる。
 ずっと僕のものにしたいと思う。

 それなのに、その時僕はそれと正反対のことを思いついてしまった。

 このまま唯を帰してみようか……?

 なんでそんなことを思ったのかという理由は、その方が面白そうだったからだ。

 面を被って夜明けまで祭りに参加した者は、一生その面に囚われる。
 だけど、夜明けが来る前に面を外したらどうなるのかは誰も知らない。
 今まで、そんなことをした者はいなかったから。
 だいいち、この祭りに参加して、自分の意志で面を外せる者がいるはずがなかった。
 だけど、僕なら唯に命令して面を外させることができるはずだ。
 面を外しても、もしかしたらもう面に囚われたままなのかもしれないし、本来の自分に戻るのかもしれない。
 もし、元に戻っても、どこかに面の影響が残っているかもしれない。

 その時、唯はどうなるんだろうか?
 面を外させて都会に戻らせて、泳がせてみるのも面白いんじゃないかな?

 そんなことをして、この祭りの本当のことが外に知られたらマズいとか、そんなことは考えもしなかった。
 せっかく手に入れた自分の女を手放すのはもったいないとか、そんな思いもなかった。
 その時点で僕には、彼女はもうこの尾裂の面から逃れられないんじゃないかっていう予感があった。
 だったら、一度逃がしてあげて、唯がどういう行動を取るのか待ってみるのも面白いじゃないか。

 だって、僕は遊び好きな悪戯狐だもの。
 唯は僕のものだから、僕の好きにしていいんだよ。
 彼女のことを大好きだから、いや、大好きだからこそ、もっと弄んで困らせてみたい。

 その時点で、僕の心は決まっていた。

 気を失っている唯をそっとしておいて、急いで帯刀のおじさんのところへ行く。
 あの家には子供も老人もいないから、今はみんな祭りに出ていて無人のはずだった。
 父さんに連れられて何度も行ったことがあるから、だいたい屋敷の中のこともわかる。
 そこで唯たちの部屋を見つけ出して、その服と鞄を持ち出した。

 そして、唯を起こして面を外させた。

 面を取った唯は、一見祭りの前の状態に戻ったように見えた。
 彼女に服を着させると、腕を掴んで走り出す。
 目指すのは、里の外の県道にあるバス停だった。

 唯は他の仲間のことを気にしてたけど、それは僕にはどうしようもできないことだった。
 彼女は僕のものだから僕の自由にできるけど、他の人たちはそうじゃない。
 女社長さんとカメラマンの人にはそれぞれの相手がいるし、服部さんはいわば、里全体のものだ。
 僕にどうこうできるものじゃない。
 だから、彼女たちのことは諦めてもらうしかなかった。

 そして、バス停まで唯を連れて行って、そこで別れる。
 その後どうなるかはお楽しみだ。

 その別れ際、唯が言った。

「亮太さん、私を助けてくれたんですよね。……ありがとうございます」

 お礼なんかいいよ。
 だって、僕はきみを助けたんじゃないから。
 これは、僕にとってはゲームなんだから。
 きみが僕のところに戻ってきたら僕の勝ち、戻って来なかったらきみの勝ち。
 でも、きっと僕が勝つと思ってるけどね。

 だから、待ってるよ唯……。

 そう心の中で呟くと、僕は里へと戻っていった。

終之面 唯、ふたたび

 あの後、やってきたバスに乗り込むと、バスと電車を乗り継いで私は東京に戻った。
 体も頭もふらふらで、その道中のことはほとんど覚えていない。
 なんとか自分の部屋まで戻ってきた私は、そのままベッドに倒れ込んで泥のように眠った。

 そして、翌朝。

「やばっ!寝過ごした!」

 目が覚めたらもう朝の10時を過ぎていて、慌てて体を起こす。

「遅刻だよ~!急がな……い、と……」

 そこで、ふとあの里でのことを思い出した。

 そうだ……私、亮太さんに助けられて戻ってこれたけど、みんなはまだ……。

 今、私はここにいるけど、聖美さんたちはまだあの里にいるはずだった。
 あの、祭りのときに見た聖美さんやミチルさん、彩奈ちゃんの姿。

 あの後、みんなはどうなっちゃったんだろう?

 ……いや、それ以前にあれは本当にあったことなの?

 ふと、そんな疑念がわき上がっている。

 秋とはいえ、この時間になると明るい日射しが差し込んできている。
 見回すと、見慣れた、何も変わりもない自分の部屋。
 あんな経験をしたことが嘘みたいにいつも通りの朝。

 もしかして私、ものすごくリアルな夢を見ていただけなんじゃ?

 それは、私がそうであって欲しいと思ってただけなのかもしれない。
 でも、考えれば考えるほど、あの祭りの光景は現実離れしていて、本当の出来事とは思えない。

 そ、そうよ、きっと夢よ。
 夢に違いないわ。

 自分で自分に言い聞かせると、身支度を整えて会社に向かう。

 だけど、本当は夢じゃないって、現実の出来事だってわかってた。
 いつも通りに見えて何かがおかしいことに気づいていて、気づかないふりをしていた。
 本当なら、とうに出勤時間を過ぎてるのに誰からも連絡がないこと自体がおかしいんだから。

 案の定、オフィスには鍵がかかったままだった。
 誰も来た気配がない。
 それに聖美さん、ミチルさん、彩奈ちゃんの携帯に電話をかけるけど、誰も出ない。

 やっぱりあれは本当だったんだ……。

 その現実を思い知らされて、むなしく自分の部屋に戻る。

 でも、やっぱり信じられなくて、信じたくなくて次の日も、その次の日も会社に行ってみる。
 だけど、結果は同じ。
 電話をかけても誰も出ないのも全く同じだった。

 私、どうしたらいいんだろう?
 みんな、どこに行っちゃったの?

 いや、みんなのいる場所はわかっている。
 あの里に決まってるから。

 でも、どうしたらいいのかわからなかった。

 警察に知らせようかと思ったこともあった。
 でも、あんな話、信じてもらえる自信がない。

 それに、なんのために警察に相談するっていうの?
 聖美さんたちを助けるため?
 ……助ける?本当に助けることになるの?

 そんな疑問が頭から離れなかった。
 あの、祭りの夜に見た聖美さんたちの姿。
 すごくいやらしくて、楽しそうだった。
 いや、みんな、実際に楽しくて、すごく幸せだったに違いない。それだけは断言できる。
 だって、途中まで私もそうだったから。
 すごく気持ちよくて、幸せな気持ちでいっぱいになってた。
 あんな経験をしたら、きっと戻りたくなくなる。
 私は亮太さんに助けてもらったから戻ってこれたけど、もしあのまま朝までいたら私だって……。
 だから、みんなが自分の意志であそこに残ったのなら、もう私にはどうにもできないのかもしれない。

 そう思うと、何もできなくなる。

 でも、やっぱりみんなのことが気になって、何かわかるかもしれないと思ってネットでもいろいろ調べてみたけど何もわからない。

 ただひとつわかっているのは、あの里に行けば、間違いなくみんなに会えるということだけ。
 でも、あそこに戻るのは怖いように思えた。

 そうやって2ヶ月近く経ったある日、聖美さんと親しくしていた出版社の人のことをふと思い出して電話をかけてみた。

”もしもし?”
”あ、私、サトミ・プランニングの更衣です”
”ああ、久しぶり。聞いたよ。聖美さん、結婚して寿閉業したんだって?”
”えっ?”

 携帯の向こうから聞こえてきたのは、思いがけない言葉だった。

”いやー、会社を閉めるって葉書が来たときにはビックリしちゃったよ。あんなに仕事命の人だったのにね。そうそう、聖美さんの今の名字は帯刀なんだよね”
”そんな……”

 帯刀って?
 あの里の、区長の帯刀さん?

 携帯を握ったまま、私は呆然としていた。

”ちょっと、どうしたの、更衣さん?”
”あ、いえ、なんでもないです!”
”で、今きみはどうしてるの?”
”それは、次の就職先を探して……”
”そうか、大変だね。僕で役に立つことがあったら相談に乗るよ”
”あ、ありがとうございます……”

 そのまま、適当に話をしてから電話を切る。

 その後、私は久しぶりに会社のあったビルに行ってみた。

 そこには、”貸しテナント”の張り紙がしてあって、そして、その横に、サトミ・プランニング閉業のお知らせが貼ってあった。
 ワープロ打ちで、会社を閉める旨が書いてあるその紙の最後には、間違いなく聖美さんの筆跡で、帯刀(旧姓 衣笠)聖美、て署名してあった。

 それを見て、ああ、やっぱりって思った。
 たぶん、会社を閉める手続きをしたのも、関係者に連絡をしたのも聖美さん本人だ。
 もちろん、強制されてやむなくそうせざるを得なかったという可能性もあるかもしれないけど、それはないと私には思えた。

 やっぱり聖美さんは……ううん、聖美さんだけじゃなくて、たぶんミチルさんも、彩奈ちゃんも自分の意志であそこに残ったんだ……。

 オフィスのドアに貼ってあった張り紙がその証拠のように思える。

 もう、私にできることは何もないんだ……。

 そんな無力感にうちひしがれて、私はその場を後にした。

* * *

 それからというもの、私は何事も手に付かなかった。
 何かしなくちゃいけないとは思うんだけど、何もやる気が起きない。
 仕事もせずに貯金を切り崩しながら、部屋の中でぼんやりとしたままの日々。
 それじゃダメだって思って外に出ても、行く当ても特にしたいこともない。
 街を歩いてると、ぽっかりと胸に大きな穴が開いたような喪失感がこみ上げてくる。
 自分でもなんでそんな気持ちになるのかわからない。
 でも、何かなくしてしまったような、大切なものをどこかに置き忘れてきてしまったような、そんな思いが頭から離れない。

 それに、それだけじゃなかった。

 ……目の前に、白い狐の面を被った人がいる。
 その、笑ったような細い目が、じっと私の方を見ていた。
 だから、私もその人を見つめ返す。
 そうやって見つめ合ってると、胸がドキドキしてくる。

 その人が、一歩こっちに踏み出してきて、私の手を引いた。
 その手が触れた瞬間、体中をぞくぞくずるものが駆け巡った。
 そのまま、ぐっと腕を引かれて抱きしめられる。
 とても暖かくて、幸せな気持ちになれる、この感じ……。
 相手に体を預けるようにして頬を胸に当てると、トクントクンとその人の鼓動を感じる。

 すると今度は、私を抱いていたその人の手が動いて服を脱がせていく。
 でも、嫌な感じはしない。
 むしろ、期待すら感じてしまっている。

 あふっ……。

 おっぱいを掴まれると、キュンッて甘く切ない刺激が走る。

 んっ……くふっ……ああんっ!

 むぎゅ、むにゅっておっぱいを揉まれて、声にならない声を上げて悶える私。
 他に誰もいない、しんと静まりかえった空間で、その人と私のふたりだけ。
 そこで体を密着させて胸を弄られていると、どんどん体が熱くなってくる

 と、不意に私の胸を揉む手が止まった。

 せっかく気分が高まっていたのにおあずけを食らった気がして、その人を見上げる。
 でも、もちろんその顔はお面だから、何を考えてるのか表情は全然読み取れない。

 と、その時……。

 はうっ!んふううううっ……!

 不意打ちでアソコの中に指が潜り込んできて、ビリビリって電気が走る。
 体がキュッて仰け反って、喉を震わせて喘ぐ。
 でも、そこに入れられた指は、からかうように動き回る。

 やんっ……私のアソコ、玩具にしちゃだめだようっ!

 もう、グショグショになってるのをわざとわからせるように指がアソコの中をかき回していく。
 クチュクチュと湿った音が聞こえるみたいで恥ずかしいのに、でも、やっぱり気持ちよくて全身がヒクヒクと打ち震える。

 やだ……そんなにされたら、私、おかしくなっちゃう……。

 もう、体が疼いて疼いてどうにかなりそうだった。
 アソコにおちんちんを入れて欲しくて我慢できない。

 そんな私の気持ちを見透かしたみたいに、その人は私のアソコを捏ね回す手を止めた。
 そして、自分が穿いている袴を脱いだ。

 あ……おちんちんだ……。

 露わになったそれに、視線が釘付けになる。
 でも、まだそれは少し下を向いていて、全然大きくなっていなかった。

 おちんちん、大きくしないと……。
 でないと、アソコに入れてもらえないよ。

 私は、その場に膝をつくとおちんちんを手で握る。
 そのまま手を動かして、おちんちんを扱いていく。

 早く大きくなって……。
 あっ……。

 私の手の中で、おちんちんがムクムクと大きくなっていく。
 熱くて、トクトクッて脈打ってる。
 この後のことを想像すると、幸せな気持ちがいっぱいに膨らんでいく。
 すっかり嬉しくなって、さらに熱心に扱いていくと、どんどん大きく固くなっていく。

 ……え?

 夢中になっていた私の頭に、ポンと手が置かれた。
 そのまま、上を向かされる。

 私と目が合ったその人が、コクリと頷いた。
 その人も準備ができたんだって、それでわかった。

 私はその場に寝転ぶと、その人に向かって大きく足を開く。
 その人も、私の上に覆い被さるようにしてきて、アソコの入り口に固いものが当たる感触がした。

 私の期待と興奮は、そこで最高潮に達した……。

「……あ、またあの夢かぁ」

 ベッドの上で、私は目を覚ます。

 あの里から戻ってきてから、たまにこの夢を見るようになった。

 夢の中で私は狐の面を被った人に抱かれている。
 いや、抱かれる前と言った方がいいかもしれない。
 いつも、その直前のところで目が覚める。
 その人に気持ちよくしてもらって、欲しくて欲しくて堪らなくなって、いよいよ入れてもらえるってところで。

 ……私、どうしちゃったっていうの?

 あのお祭りの夜のことははっきり覚えているから、夢でのことはあのときのことだって私にもわかる。
 でも、どうしてそんな夢を見るのかわからない。
 ただ、夢の中の私はあのときの私そのままだ。
 感覚だけじゃなくて、感情まで。
 あの人に抱きしめられているときの、すごく幸せな気持ち、胸がきゅんとなる切なさ、その人に気持ちよくしてもらえる期待と胸の高鳴り。

 私、自分から求めちゃってるの?
 そんなの、あの人に申し訳ないよ……。

 そう、私がこんなんじゃ亮太さんに申し訳ない。
 せっかく、私を助けてくれたのに。
 私だけは、あそこから逃がしてくれたというのに。
 それなのに、私がこれじゃ……。

「んっ!……やだ、またこんなになってるよ」

 股間に手を伸ばすと、ショーツがぐっしょりと濡れている。
 薄い布の上からアソコをなぞると、鈍い刺激が体を駆け巡る。

 この夢を見たときにはいっつもこうだ。
 起きたときには、すっかりショーツがぐしょ濡れになっている。
 朝から体がじんじんと疼いて、火照った体を一日中持て余す。
 

 そんな夢を見るのが、最初は1ヶ月に2、3回程度だったのが、時間が経つにつれてだんだん見る頻度が上がってきてるように思えた。
 そして、あれから3ヶ月、半年と過ぎていって、次の夏が終わる頃になると、ほとんど毎日その夢を見るようになった。
 毎晩、あの人に抱かれる夢を見て、その直前のところで目を覚ます。
 起きた後も、体が発情したみたいに疼いて、夢の続きが欲しくなってくる。

 ……このままじゃ、私、おかしくなっちゃうよ。

 疼く体を持て余して外に出るけど、体の火照りはいっこうに治まらない。

 そのまま9月も過ぎて、街のショーウィンドウにカボチャのランタンがディスプレイされる季節になった。
 街にハロウィンの雰囲気が高まってくると、いやがうえにもあの里のお祭りのことを思い出してしまう。

 そして、10月も終わりに近づいた頃、私はいてもたってもいられなくなった。

* * *

 バス停から里までの距離は、思っていたよりも長かった。
 あの時はわけがわからないうちに亮太さんに手を引かれて、それも裏道伝いに走ったから気づかなかった。
 いや、本当にあの時はふらふらだったから、実のところは帰りに乗ったバスも電車のこともよく覚えていなかった。
 もう一度ここに来ようと決めてからちゃんと調べてきたけど、かなり朝早く出たのに、里に着いたのはもう昼過ぎになっていた。

 去年と同じ、稲の刈り入れの終わった長閑な田園風景が私を出迎える。
 たった一度訪ねただけなのに、四方を山に囲まれた里の光景がひどく懐かしく思えた。

 どこに行けばいいのか、私にはわかっていた。
 里の神社だ。

 向かいの山の麓にある神社に向かうため、小さな商店の連なる目抜き通りを歩いて行く。

 その時だった。

「唯?唯じゃないの!?」

 後ろから名前を呼ばれて振り向くと、一軒の雑貨屋の前でエプロン姿の女の人が手を振っていた。

「……ミチルさん?」

 短かった髪を伸ばして結い上げていて、随分と雰囲気が変わっていたけどそれがミチルさんだってわかった。

「やっぱり唯だったのね!どうしたの、随分と久しぶりじゃない!」

 そう言うと、ミチルさんは嬉しそうに駆け寄ってくる。

「ミチルさんこそどうしたんですか?エプロンなんか着けて?」

 いっつもジーパンに愛用の革ジャン、頭にバンダナを巻いた男っぽい格好ばかりしてたミチルさんだから、薄手のセーターに丈の長いスカート、それに赤いエプロンを着けた姿は、まるで別人のようだった。

「ふふふ、私ね、この店の息子さんと結婚したのよ。今は、この店の手伝いをしてるの」

 そう言ってミチルさんが指さした先には、”麻田商店”という看板が出ていた。

「けっ、結婚ですか!?」
「そうよ。口下手だけど、すごく頼もしい人なのよ。て言っても、今年で19歳だから、私よりもだいぶ年下なんだけどね」
「19歳って!?」
「やだ、唯ったらそんなに驚かないでよ。まるで私が若い子をたぶらかしたみたいじゃないの」

 そう言って恥ずかしそうにしているミチルさんは、どこから見てもおしとやかな大人の女性だった。
 前は、しゃべり方も行動もすごく男前な感じで、自分のことを、あたし、とか言ってたのに。

「誤解しないでね、唯。それは、私が彼に惚れたのは事実だけど、彼が私を愛してくれてるのも本当なのよ。私、ここに来て、あの人に出会えて、本当に幸せだわ」

 そう惚気たミチルさんは、本当に幸せそうな笑顔を浮かべていた。

「ミチルさん……」
「ごめんね、唯。結婚したことをあなたに知らせなくて」
「いえ、それは別に……」
「ところで、どうして唯はここに?」
「あ、いえ、ちょっと人を訪ねに……。そういえば、聖美さんもここであの帯刀さんと結婚したんですよね?」
「あら?聖美に会いに来たの?」
「いえ、そうじゃないんですけど……」
「聖美なら、時々うちに買い物に来るわよ。帯刀さんと結婚して、聖美も幸せだって言ってたわ」
「……そうですか」

 その時、店から男の人が出てきてミチルさんを呼んだ。

「あ、彼が呼んでるから、じゃあ、またね、唯。こっちにはいつまでいるの?」
「え、と……決めてないけど、お祭りの日まではいると思います」
「そう?今年のお祭りは3日後だったわね。ああ……お祭りの日が楽しみだわ……」

 そう言ったミチルさんは、うっとりしたような表情を浮かべる。
 そして、またね、と小さく手を振ると、店の中へと入っていった。

 ……ミチルさん、すっかり感じが変わっちゃったな。
 でも、すごく幸せそうだった。

 ミチルさんと別れて、また歩き始める。
 なんか、別人みたいに変わってしまっていたけど、やっぱり、ミチルさんは自分の意志でここに残ったんだ。
 無理矢理ここに留められてるって感じじゃなかった。
 もしそうだったら、あんなに幸せそうな表情ができるわけがないもの。

 そんなことを考えながら歩いていた時だった。

「唯さん?」

 目の前で、名前を呼ばれた。

「もしかして、彩奈ちゃん?」
「はい、唯さん」

 そこに立っていた女の子は、私のことを唯さんって呼ばなければ彩奈ちゃんとは気づかなかったかもしれなかった。
 前は、お化粧もほとんどしてなくて、でも、すごくかわいらしい感じで、服装もおとなしめの格好ばかりしてたけど。
 今、私の前にいる彩奈ちゃんは、髪をアップにして少し濃いめの化粧もしていて、着ている服も以前よりはずっと派手になっていた。

「彩奈ちゃんも、ここの誰かと結婚したの?」

 ミチルさんと同じく、すっかり雰囲気の変わった彩奈ちゃんの姿に思わずそう訊いてしまっていた。

「……いいえ」

 別に気を悪くした様子もなく、微笑みながら彩奈ちゃんは首を振る。

 でも、じゃあ彩奈ちゃんはどうしてここに残ったんだろう?

「彩奈ちゃんは今、何をしているの?」
「はい、お店を一軒任せてもらっているんです」
「お店を?」
「ええ。この里の人の、オアシスになるような場所です。私が里のみんなを楽しませてあげる、そういう店です」
「へえ……」
「私、ここに来てよかったです。今のお店、すごくやりがいがあって、私にぴったりのお仕事で、今、本当に幸せなんです」

 そう言って笑った彩奈ちゃんの顔は、私よりも年下なのにずっと大人びて見えて、そして、ビックリするくらいにきれいだった。
 それに、本当に幸せそう……。

 それから、何気ない会話をいくつか交わして彩奈ちゃんと別れた。

 歩きながら、ミチルさんと彩奈ちゃんのことを考えていた。

 ふたりとも、すっかり雰囲気が変わってしまった。
 それこそ、以前と比べたら別人と言っていいくらいに。
 でも、ふたりとも幸せだって言ってた。
 実際に、ミチルさんも彩奈ちゃんもすごく幸せそうに笑っていた。

 私も、夜明けまで里に残っていたら、そんな幸せを手に入れることができたのかな?
 ふと、そんなことを思った。
 だって、実際私はあの時、すごく幸せな気持ちだったんだから……。

 そんなことを考えながら、神社への石段を上がっていく。
 そして、石段を登り切った私の目に、お社の前を掃いていた亮太さんの姿が飛び込んできた。

「あっ、亮太さん……」
「え?更衣さん?」

 私の方を見て、亮太さんが掃いていた手を止める。

「どうしたの?」

 そう言って、亮太さんが私の方に歩み寄ってくるけど、どう説明したものか、いい言葉が見つからない。

「とにかく、家に上がって、更衣さん」

 亮太さんの言葉に、私は黙って頷いていた。

* * *

 お社の脇にある亮太さんの家に上がらせてもらって、私は亮太さんとふたり向き合って座っていた。

「更衣さん、どうしてここに?」

 改めて、亮太さんが尋ねてくる。

「あの……東京に戻ってから私、変なんです。あのお祭りの晩のことを夢に見るんです。狐の面を被った人が夢に出てきて、すごく幸せな気持ちになって、胸がきゅんってなって……。でも、目が覚めたら全部消えちゃって、想いだけが募って、私、どうにかなっちゃいそうで……。またあのお祭りが近いって思うと、この気持ちを抑えられなくなっちゃって……」

 あの日、里から戻ってからのことを、私は亮太さんに話した。
 私の話を、亮太さんは黙って聞いていてくれた。

 そして、私の話が終わると、亮太さんは少しの間何か考えた後で口を開いた。

「そうか……やっぱりきみは逃げることができなかったんだね」
「……えっ?」
「ちょっと、僕の話を聞いてくれるかな?」

 私の目をじっと見つめてそう言うと、亮太さんはいろんな話をしてくれた。

 あのお祭りの本当の意味を、お面の持っている不思議な力のことを。
 お面を付けて祭りに参加した人の人格は、そのお面のものになってしまう。
 そのまま朝までお面を付けていると、お面の人格は完全にその人のものになってしまって、お面の結びつけた人と一緒になることを。

「……そうだったんですか」

 亮太さんの話を聞き終えた私は、不思議と怒りや戸惑いは感じなかった。
 ミチルさんや彩奈ちゃんが変わってしまった理由がわかって、むしろすっきりした気分だった。

「で、更衣さんはどうしたいの?」
「えっ……」

 亮太さんに訊かれて、私はしばしの間黙り込んでしまう。

 私、どうしたいんだろう?
 そもそも、私はなんでここまで来たの?
 ……それは、あの夢の続きを見たいから。
 でないと、満たされない体の疼きを持て余してどうにかなりそうだから。
 じゃあ、なぜ今頃になって?
 それは……。

「……私、もう一度お祭りに参加したいです。……亮太さんと一緒に」

 しばらく黙り込んで自問自答した後で、私は躊躇いながらもそう答えていた。

「本当に?」
「はい。……ごめんなさい。私、せっかく助けてもらえたのに。亮太さんに逃がしてもらったのに、自分からまた戻ってきてしまって」
「ああ、そのことなら気にしなくていいんだよ。別に、きみのことを助けたわけじゃないんだから」
「えっ?」

 思いがけない言葉に、私はハッと亮太さんの顔を見つめる。
 だけど、笑っているようなその細い目からは、どういうつもりでそんなことを言ったのか読み取れない。

「だって、あれは遊びだったんだから」
「……遊び?」
「そう。夜明けぎりぎりまでああしてて、もうきみは面の力から離れられないんじゃないかって思ってた。そんなきみを一度僕のところから離してみるのも面白いんじゃないかなって思ったんだ。もし面の力が残っていたら、きっときみは戻ってくるだろうなって。さっき、登ってきたきみの顔を見て思った。欲求不満が募って、欲情を抑えられない女の人の表情って、こんなになるんだって」

 そう、私のことをからかうような亮太さんの口調。

「そんな……」
「ひどいと思うかい?」
「だって……」
「でもね、僕はあの時、朝まで面を付けてたんだ。僕の面……天狐の面って言うんだけどね、あれはこういうふざけたやつで、僕はあの面を付けて祭りを終えた。だから、僕という人格はもう天狐の面と一緒になってしまったんだよ。今の僕は、去年初めてきみと会った、祭りの前の僕じゃないんだ」

 そう言う亮太さんの顔は、どこか楽しそうだった。
 だけど、すぐに真剣な顔になって尋ねてきた。

「だから、本当にいいの?」
「……え?何がですか?」
「今の話を聞いても、天狐の面と一緒になった僕が、悪ふざけの好きなひどいやつだってわかってもまだ、僕と一緒に祭りに出たいと思う?」

 そう言われて、私はまた考え込む。

 やっぱり、亮太さんの言ったことはひどいとは思うけど、怒る気にはなれなかった。
 たぶん、私にはもう選択肢はないんだと思う。
 このまま東京に戻っても、きっとこの気持ちと体の疼きを持て余す日々が続くだけ。
 胸に穴が開いたような、大切なものを置き忘れてきたような想いを抱いたまま、二度と満たされることはないだろう。
 そのまま放っておくと、きっとおかしくなってしまうに違いない。

 それに……。

 さっきの、ミチルさんと彩奈ちゃんの幸せそうな表情が思い浮かんだ。
 このまま戻ってしまったら、あんな幸せを手に入れることはできない。
 それはここに残らないと手に入らないものに違いないのだから。

「どうする、更衣さん?今年のお祭りに出たら、もう僕はきみを逃がしたりしないよ。きみを手放すつもりはないからね」

 もう一度、亮太さんが尋ねてくる。
 私を手放さないっていうその言葉が、とても甘くて魅力的な言葉に思える。

 だから私、もう、そうするしかないんだよね。
 いや、そうしたい……。

 私は、黙ったまま亮太さんの顔を見つめて頷いていた。

「そっか。じゃあ、これを……」

 そう言うと、亮太さんは部屋の隅から取りだしたものを私の前に置いた。

「……これは」

 それは、去年のお祭りで私が身につけていたお面と衣装だった。
 それを見た瞬間、まるで、なくしていた自分のピースを見つけたように思えて、思わず手に取ってみる。

「僕はきみが戻ってくるって思ってたからね。その時はこれを渡さなくちゃいけないと思って、出しておいたんだ。……とにかく、祭りまであと3日あるから、それまでうちでゆっくりしててよ」

 じっとお面を見つめる私に、亮太さんはそう言ってくれた。

* * *

 そして、その年のお祭りの日。

 私は、自分の衣装に着替えると、狐の衣装を身につけた亮太さんと学校のグラウンドに向かった。
 そこで、お祭りが始まるだいぶ前からお面を付けて、亮太さんと手を握って開始の合図を待つ。

 そしていよいよお祭りの始まりを告げる笛の音が鳴り、集まった人たちが動き始める。
 私のすぐ隣には、狐の面を被った亮太さんがいる。
 握った手に力を入れると、亮太さんもぎゅっと握り返してくれた。
 それだけのことで、嬉しさがこみ上げてくる。

 お祭りが始まってすぐだっていうのに、これからのことを思って期待に胸を膨らませ、はしゃぎはじめている私がいた。
 まるで、無邪気な女の子みたいな誰かが、私の中で目覚めていっているような感じがする。

 亮太さんの話を聞いたから、今の私にはわかる。
 はしゃいでいるのは、私じゃなくてこのお面だ。
 このお面が、私を突き動かしている。
 でも、恐怖とかは全く感じなかった。
 だってもう、このお面は私なんだから。
 私とお面はひとつ。去年の秋からなくしていた、私の心の欠片が戻ってきただけ。
 だから、何も怖がることはない。

「ふふふふっ!楽しみだね、亮太さん!」

 全てを受け容れると、すごく楽しくなって自然と笑いがこみ上げてきていた。

 そして、私たちの行列は石段を登って神社の方に向かう。

「じゃあ、僕たちはあっちに行こうか」

 登り切ると、亮太さんは私の手を引いてお社の後ろに連れて行く。

 そこは、去年も連れてこられた場所。
 あの、古いお稲荷さんのあるところだった。

 そこまで来ると、亮太さんが私の方に振り向いた。

「さてと、じゃあ、唯はまず何がしたい?」

 唯って名前で呼ばれて、胸がきゅうってなった。
 ものすごく嬉しくて、幸せな気持ちでいっぱいになる。
 それでスイッチが入ったように、いろんなことが蘇ってきた。

「あのね、また、お狐様の言う通りにしてると楽しくて、幸せな気持ちになるようにして欲しいの。そして、お狐様に気持ちいいこといっぱいいっぱいして欲しいの」

 ごくごく自然に、亮太さんのことをお狐様って呼んでいた。
 すると、お狐様がクスッて笑ったような気がした。

「うん。じゃあ、いいかい、唯?」

 そう言うと、お狐様が私の肩に手を置いて顔を近づけてくる。

「唯は、僕の言うことに従うのが大好きな、僕の使いなんだよ」
「……はい」
「僕の言う通りにしてると、唯はそれだけで楽しくて、幸せな気持ちになれるんだ」
「……はい、お狐様」

 久しぶりに感じる、まるでお狐様が私の中に入り込んでくるような、私の心がお狐様でいっぱいになるようなこの感じ。
 それを感じるだけで、うっとりとした気分になってくる。

「じゃあ、着物の紐を解いて前をはだけて見せてよ」
「はい、お狐様」

 お狐様に言われるままに、私は紐を解いていく。

「あれ?下着は着てないんだね?」

 着物をはだけて見せた私の姿に、お狐様が驚いたような声を上げる。

 だって、去年のことを覚えてたし、今年は最初からそのつもりだったから下着はつけてこなかった。

「まったく、これじゃ下着を脱がせる楽しみがないじゃないか」

 そう言って、お狐様が舌打ちをする。

「ごっ、ごめんなさい、お狐様……」

 私がシュンとなって項垂れると、むしろ楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

「ははははっ、冗談だよ、冗談。まったく、唯はかわいいやつだな」
「もうっ、お狐様ったら意地悪なんだから……」

 うん、でも、しょうがないよね。
 お狐様はそういう性格だもんね。

「でも、唯は本当にかわいいよ。ほら、もっと肌をよく見せて」
「こ、こうですか?」

 お狐様に言われて、服をはだけさせている両手を大きく広げる。
 こうしてるの、すごく恥ずかしいけど、でも、やっぱりお狐様の言う通りにするのってすごく幸せ。

 すると、お狐様がまた私の方に顔を近づけてきた。

「そうだ。唯はね、僕に裸を見られてるとそれだけで感じちゃって、すごくいやらしい気持ちになっちゃうんだ。いいね?」
「……はい」

 お狐様の言葉が、すっと私の中に入ってくる。

「それじゃ、もっとよく見せて、唯。うんうん、唯の胸って、本当に形がいいよね……」

 お狐様が私のおっぱいを見てる……。
 ごく間近に、お狐様の視線を感じる。
 そう思うだけでゾクゾクと快感が背筋を駆け上がり、体が熱くなってくる。

「あれ?なんか、唯の乳首が上を向いてきてるような気がするけど?」
「だって……お狐様があんまりじっと見るから……」

 やだ、すごく恥ずかしいのに、とっても気持ちいい。
 こうやって見られてるだけで体がじんって痺れてくる。

「んっ、んふう……」
「おやぁ?ふとももを擦り合わせてどうしたの?……へえぇ、唯のここ、もうこんなに濡れてるんだ」

 お狐様に裸を見られていると、すっごくいやらしい気持ちになってしまう。
 アソコの疼きが我慢できずにもじもじしてると、お狐様がしゃがみ込んで私の股間を覗き込んできた。

「あん、恥ずかしいとこ、そんなにじろじろ見つめちゃやだ……」
「恥ずかしいの?でも、気持ちいいんでしょ?ほら、こんなにどんどん溢れてきてるよ」
「やんっ、お狐様の意地悪……」
「もしかしたら、こうやって見てるだけでイッちゃうかもね」
「んんっ……お狐様ぁ……」

 私の恥ずかしいところがすごくいやらしくなってるのを、お狐様がじっと見てる。
 その視線を感じるだけで、アソコから熱いのがこみ上げてくる。

 ああっ、ダメッ、私!

「んん……ふぁああああああっ!」

 快感の波に呑まれて、体を大きく震わせる。

 ……私、見られているだけでイッちゃった。

 また、ひくひくと痙攣している体を震わせながら、絶頂の余韻に包まれて大きく息をする。

「へえぇ……本当に見てるだけでイッちゃったんだ」
「んんっ……それは、お狐様がそういう風にしたからだよぉ……」
「でも、それだけじゃ足りないんでしょ?」

 そう言うと、お狐様は袴を脱いで、私の目の前におちんちんが現れる。

 ……あの、何度も夢で見たのと一緒だ。
 でも、今のこれは夢じゃない。
 このおちんちんを大きくすると、その後の続きが待ってるんだ。

 期待に胸を膨らませ、私は跪いてお狐様のおちんちんを握り、扱きはじめる。
 それは、夢の中と同じ。
 いや、夢の中以上に気が急いていた。
 いやらしい気持ちがどんどん溢れてきて、もう自分の体を抑えることができない。
 この、熱い疼きを早く満たして欲しい。
 だから、早くおちんちん大きくするの……。

 大きくなったおちんちんを入れてもらえることだけ考えて一生懸命扱いていると、手の中でおちんちんがムクムクと膨らんできて、どんどん固く熱くなってくる。

 ……もっと大きくした方がいいかな?
 いや、大丈夫だよね?
 だって、こんなに固くて大きいんだもの。
 ほら、先っぽからヌルヌルしたお汁が出てきてる。
 だから、きっと大丈夫だよ。

 そう思った私は、お狐様を見上げておねだりする。

「ほら、お狐様のおちんちんこんなに大きくなったよ。だから、早くこのおちんちんを入れてちょうだい。いっぱい気持ちよくしてちょうだい」
「ははは、唯はせっかちだなぁ」
「だって!もうアソコが痛いくらいに疼いて我慢できないの!もう、ずっとずっと、1年もおあずけされてたんだから、早くおちんちんが欲しくてしかたがないの!」
「そうは言ってもね、1年の間おあずけを食らってたのは僕も一緒なんだよ。僕だって、ずっと相手がいなくて欲望を持て余してたんだから」
「ひどいよ、お狐様!それはお狐様が私を逃がしたからじゃないの!」

 もう!本当にお狐様ってば意地悪なんだから!

 と、不意にお狐様が私の体を抱き起こした。

「……えっ!?」
「ははは、冗談だよ。じゃあ、始めようか、唯。さあ、去年の僕とのセックスを思い出して。あのとても気持ちよくて、何度も何度もイッて、すごく幸せになれたセックスを」
「お狐様……はい……」

 間近に寄せられた、お狐様の細い目を見つめながらぼんやりと返事をする。

 そうだ……去年は入れられただけでイッちゃって、その後何度もイッちゃって、イッたまま降りてこれなくなっちゃって、最後には気を失っちゃったんだ。
 でも、本当に気持ちよくて、すごく幸せだった。

 また、あんな風にいっぱい気持ちよくして欲しい。
 あんなセックスをいっぱいいっぱいしたい。

「んふう……お狐様ぁ……」

 ただ息を吐いてお狐様を呼んだだけなのに、自分でも驚くくらいに甘くて切ない、いやらしい声が出てきた。
 そんな私の片足を抱え上げると、こちらに腰を押しつけてきたおちんちんの先がアソコに当たるのを感じる。

「じゃあ、行くよ、唯」

 お狐様の声に、抱きついたままコクリと頷く。
 すると、アソコに宛がわれた固くて熱いのがグッて入ってきた。
 私のアソコもこの瞬間を待ち望んでたから、ヒクヒク震えておちんちんを迎え入れてるのがわかる。
 固いのがアソコの襞々を擦って……。

「んきゅうぅうううううううっ!」

 呻き声を上げながら、お狐様にぎゅってしがみつく。

 やっぱり、入れられただけでイッちゃった……。
 私の中を、熱いのがみっちりといっぱいに埋めているこの感じ。
 アソコがすごく喜んで、うねうね動いて締めつけてるのがわかる。
 まだ動いてもいないのに、この、アソコを押し広げる感じがすごく気持ちいい。
 入れただけなのにこんなに気持ちいいなんて、お狐様のおちんちん、やっぱりすごいよ。

 だけど、もっともっと気持ちよくなりたい。
 こうしてもらうのを、ずっと待ち望んでたんだから。
 心の底で求めていたことが、やっと叶えられるんだから。

「ん……んきゅ、んん……はうっ、ああああっ、お狐っ様ぁあ……!」

 慣れない姿勢でぎこちなく腰を動かしはじめると、お狐様の方から腰を突き上げてきた。
 それでグッて中を擦られて、奥の方までおちんちんが届いてきて、一気に体が燃え上がる。
 お狐様がアソコを突き上げるたびに大きな快感の波が押し寄せてきて、目の前が真っ赤になったみたいに体が熱い。

「くうっ、やっぱり唯は最高だよ!唯の中、僕のに絡みついてきてっ、すごく気持ちいいよ!」
「んんっ!私もっ!お狐様のおちんちん気持ちいいっ!きゃふっ、んきゅうううううううううううう!」

 私の体を軽く持ち上げるようにして、落としながらお狐様が腰を突き上げると、ズンッ、ていう衝撃と同時に目の前で火花が散る。

「だめっ、それすごすぎっ!きゃうっ、んふうううううううううっ!やあっ、ホントにだめぇっ!くぅうううううううううっ、あうっ、イクイクッ!私っ、イッちゃうぅううううう!」

 何度もズンズンと突かれて、頭の中が真っ白になる。
 お狐様のふかふかの毛で覆われた衣装にしがみついて、ビクビクと体を震わせる。

「うううぅー、お狐様ぁあ……」
「まだまだだよ、唯」
「きゃうん!だめぇっ、まだイッてるのにぃいいいい!」

 余韻に浸る間もなく、まだまだ固さを保ったおちんちんがアソコの中をかき混ぜはじめる。

「あうんんっ!お狐様ぁっ、だめだようっ!」
「大丈夫だよ。だって、去年はあんなにいっぱいイッたじゃないか」
「ううっ、それはそうだけどぉっ!」
「だけど、唯だってそんなに腰を動かしてるじゃないか」

 お狐様の言うとおり、私はしっかりと抱きついたまま腰を大きく動かしはじめていた。

「だって!やっぱり気持ちいいんだもん!ずっとこれが欲しかったんだもん!」

 そう言いながら、もっと気持ちよくなれるように角度を変えながら腰を振る。

 そう、ずっとこうして欲しかったんだから。
 この疼きを早く満たして欲しかったんだから。
 一度火の付いた体が、1年分の欲求不満を見たそうとしてるみたいに腰が勝手に動いちゃう。

「ああっ、、すごいよっ、唯!」
「私もっ、お狐様!ああんっ、すごいっ、気持ちいいっ!んっ、きゃふっ!あうっ、イクッ、またイッちゃうううう!」
「ああ、唯!すごい締めつけてるよ!」
「だってっ、お狐様の気持ちいいから、すぐイッちゃうんだもん!」
「唯!唯!」
「お狐様!お狐様ぁああ!」

 お互いに相手を求めながら、貪るように腰を動かす。
 もう、私はとうの昔にイッたままで降りてこれなくなっていた。
 体をヒクヒクと痙攣させながら、それでも無我夢中で腰を振る。

 ……そして。

「くうううっ!イクよっ、唯!」
「来てっ!お狐様のっ、いっぱい出してぇえええええっ!」

 アソコの中でおちんちんがビクッて震えたかと思うと、弾けるように熱いのが迸り出てくる。
 頭の中はずっと前から真っ白なままでなにも考えられないけど、体はきゅうっておちんちんを締めつけて溢れ出る熱いのを搾り取ろうとする。

「くううううっ、唯!」
「ふぅううううううっ!熱いっ、お狐様の熱いのがっ、いっぱいぃいいい!」

 固く抱きしめ合ったまま、体を震わせる。
 なかなかイクのが止まらない。

「ふぅううううう……んん……」

 ようやく絶頂が収まると、全身から力が抜けてクタッてなるのをお狐様が支えてくれた。

「あ、お狐様ぁあ……」

 なんだかトロンとした気持ちで、私を抱きしめてくれるお狐様を見る。
 すぐ目の前に、笑っているような細い細いお狐様の目があった。

「すごく良かった……唯、これでもうきみは僕のものだよ」

 お狐様が、そう囁いてくれる。

「ふぁい……私は、お狐様のものですぅうう……」

 そう返事をする私は、フワフワした、すごく気持ちいい感覚に包まれていた。

 そう、私はお狐様のもの。
 これでやっと、満たされないものが満たされた。
 この場所に置き忘れてきたものを取り戻した。

 ……ううん。
 本当は、とうの昔に取り戻していた。
 1年ぶりにこのお面を付けてお祭りに参加したときから。
 私は、1年前のあの時からもうお狐様のものだったんだから。
 それが、お狐様の意地悪で自分を見失っていただけ。
 それを、やっと取り戻せた。

 ……あっ!大事なことを忘れてた!
 私は、お狐様のものなんだから、ちゃんとそれらしく振る舞わないと!

 だから……。

「もう二度ときみを離さないよ、唯。今夜は、いや、これからもずっと、いっぱい気持ちいいことをしようね、唯」
「……こんっ!」

 お狐様の言葉に頷き返す代わりに、私はそう一声鳴いてみせたのだった。

< 終 >

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