つい・すと 3日目・午後4

3日目・午後4 粗相

 林を抜ける直前、木の間に立った俺達の目の前に広がったのは、静かな波の音を響かせた波だけだった。

 たくさんいた男の観光客達は、一人たりとも残っていなかった。足跡すらなく、あたかも最初から、誰もいなかったという様子だった。……その時、スマホがまた音を鳴らした。

『スマートフォンは、水着が入っている紙袋に、ケースごと移すことを強くお勧めします。

 なお、ビニールシートの上で漏らしたり、誤って大便を漏らしたりすることのないようにご注意下さい。また、お漏らしについてお連れ様を蔑むことは、厳にお慎み下さい。』

 スマホの画面を閉じた俺は、その場でふと三人に声をかけた。
「おい、どうせ紙袋があるんだから、とりあえずスマホこっちに移さないか?」
 俺の提案は共感が得られたらしく、四人で太もものスマホケースを外し、スマホをケースに入れて紙袋にしまった。紙袋はそこそこ丈夫で、いきなり破れそうではなかった。

 その時だった。俺達の頭が、いきなりオレンジに光った。

「はうっ!」
「うあっ!」
「やぁっ!」
「きゃっ!」

 次の瞬間、俺の頭に、外から情報が流し込まれる。その感触に全身が反応して、びくん! と棒立ちになる。俺の乳首はその瞬間にカチカチになり、マンコが蕩け、クリが立ち上がる。右手から紙袋を取り落とす。
「あ、あああ、あああああっ!」
「ひいいいっ、あ、ああっ!!」
「あんっ! あ、気持ちいい!」
「おおお、おかしくなるっ!!」
 俺の股間からションベンを吹き出す様子が頭に浮かんだ。ションベンが尿道を擦り、股間の布を汚してあふれ出る感触を想像して、俺の身体が火を噴いた。あまりの刺激に、身体が言うことを聞かなかった。
「イクっ、イクっイクっ! ……あああああああああああああっ!!!!」
「いく、いく、また、いかされる、いく、いくううぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「気持ちいいっ……きっもちいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃい!!!!!!」
「おおおおおおおいくいくいくいくいくううううううっっっっ!!!!!」
 全身が即座に、絶頂を訴える。何か、人間として大事なものを壊された気がしたけれど、抵抗は無力だった。
 そのまま俺は一瞬、気を失った。

 気を取り直した俺達は、俺達は砂浜を歩く。とりあえず、元の本拠地まで戻ることに決まった。何かをされたことには気づいていたが、考えても分からないので、気にしないことにした。
 千晶の手を右手で、紙袋を左手で握りながら歩く。……千晶は俺と一緒に盛大にイッたはずなのだが、手を離さないということは、まだくすぶっているものがあるんだろう。

 他の男がいなくなったので、「元の水着に着替え直すか?」とマコトに聞かれたが、遠慮した。
 さっきじろじろ見られたせいで、俺の身体にはその視線と羞恥心が焼き付いていた。今の俺では、千晶達の視線にすら耐えられる自信がない。男のプライドを黙らせてでも、Aラインの水着を身につけるしかなかった。
 俺の真後ろにいるマコトに思いをはせる。マコトはこんな羞恥を我慢していたのか。男の俺ですらこうなるのだから、マコトの身に染みついていた羞恥など、想像もつかない。マコトは相当な美人でスタイルもいいから、男から(場合によっては女からも)数多の不躾な視線にさらされていたことだろう。
 ふと、マコトの言葉が脳裏をよぎる。

『四人で旅行を楽しむために必要なら、シュンには見せられる。そのくらいには、シュンは特別だ、僕にとって』

 ――裏を返せば。
 その「特別さ」は、俺が思っていたよりずっと重いものなのかもしれない。
 あ、まずい。とりとめのない思考が、何か良くない方向に向かおうとしている。止めておこう。
 と、思ったとき。

「……真琴さん?」
 後ろから、叶の声がした。千晶と同時に振り返った。
「あっ、見るなっ」
 切羽詰まったマコトの声が響く。意味が分からず、マコトの顔を見つめたまま、一瞬呆然とした。その時だった。

 足下から、水音がした。

 顔を音の発生地に向ける。マコトのビキニショーツから、黄金色の液体が止めどなくあふれ出していた。マコトの右手が股間を押さえようとしているが、全く意味が無い。
 そのまま真下に落ちる液体と、マコトの両足を伝って落ちる液体。その液体はマコトの股間から発生し、サンダルを汚し、足下の砂を濡らしていく。だが、先ほどの雨の影響もあったのか、すぐに吸収が鈍り、水たまりができていった。

「ああああああ……」

 マコトの平板な声を耳にし、俺達は呆然として、状況を見つめる。俺も、千晶も、叶も、言葉が継げなかった。
 全ての水流が流れ終わってから、マコトは全身を震わせ、崩れるようにしゃがみ込んだ。

 お漏らしだった。

「……大丈夫か」
 長い沈黙に耐えられなくなった俺は、何とか言葉を見つけた。
「…………さっき、ここに来る前に、クーラーボックスの缶コーヒーを飲んだんだ」
 マコトは下を向いたまま、聞いていないことを答えた。確かにカフェインには利尿作用があるが。
「油断したぁ……」
 そう言って、マコトはしゃがんだまま天を仰いだ。全身が震えている。その顔はこれ以上にないほど赤い、が……その半開きの口は、マコトの感情が羞恥だけではないことを示していた。

「……」
 俺達三人はマコトの漏らしたところにほど近い場所で、立ち尽くしていた。マコトは波打ち際にしゃがんでいる。下半身を洗い流しているのだ。目撃者が、俺達三人だけだったのは、幸いなのか不幸なのか。
 俺も、お漏らしを、しかも炎天下で見ることになるとは思わなかった。

 だが、一通りの驚きの後、俺の中に芽生えたのは、腑に落ちない感覚だった。それは、決して軽蔑ではない。もっともやもやとして、それでいて少しこそばゆい。

 その失態は普通なら、マコト自身の尊厳を切り裂くようなものだ。しかし、お漏らしをしてしまい、天を仰いだマコトの顔には、隠しきれない悦楽と――達成感が含まれていたように思えたのだ。

 俺は、「知っている」。女は、ションベンをするごとにイッてしまうことを。
 俺は、「知っている」。女がションベンを漏らすのは、さらに気持ちいいことを。
 それは、あえて誰も口には出さないが、女の身体をしている人間なら誰でも知っている、あるいは体験する、「常識」だった。

 俺は千晶の、そして叶の顔を見る。二人とも、顔を少し赤くして、マコトの様子を見つめていた。そこには、俺と同じく――お漏らしをしたマコトを羨ましがる色が含まれていた。

 もしかしたら。
 マコトは、わざと漏らしたんじゃないか。
 だって、マコト、マゾだし。
 だから、自分の尊厳を傷つける、しかしとても気持ちいいその行為を、最初に行うことができたんじゃないか。
 生まれた予想は、考えるごとに確信に限りなく近くなって、俺の中に渦巻いていた。

 マコトが戻ってきてからは、三人とも何事もなかったかのように振る舞った。しかし、俺達三人が囚われていたであろう誘惑は、決して振りほどけなかった。

 ビニールシートのところまで戻ると、マコトはクーラーボックスに近づき、俺達を手招いた。
「適当なの選んでくれ」
 そう言ったマコトは、微妙に俺達と目を合わせていない。俺達にとってその誘いは、渡りに船――もとい、現状では「渡りに海賊船」に違いなかったが、ビーチに出てきてからかなり時間が経って、喉が渇いているいるのも事実だ。……それにマコトは、マコトからそうしないと、俺達がマコトに気を遣ってしまって、飲めないと思ったのかもしれない。
「サンキュ」
 ここはマコトの意図を大事にするべきだと思い、進んでクーラーボックスをのぞき込む。適当にジュースを取り出した。すると、叶も千晶も、それぞれ思い思いに缶を取る。
 三人が離れた後、マコトは一瞬迷って、最後に自分も缶を取りだし、クーラーボックスを閉めた。

 俺達はビニールシートに四人で座り、プルタブを開けた。

「やっぱり、静かな方がいいな」
 ジュースも大半飲み終わった頃、俺は誰にでもなく言ったが、千晶とマコトが「うん」とうなずくのが分かった。
 そもそも俺達は、誰も居ない海を求めて、ここに来たのだ。それはマコトが「女装」(この場合は水着のことだ)を他人に見られることをあまり好まなかったり、マコトと叶が、二人の関係がどう見られるかを気にせず遊びたかったりしたせいでもあるが、四人だけの時間を大切にしたいという俺達全員のため、というのが一番の動機だった。俺を筆頭に、結果としてとんでもない目に遭っている気もするが、それは結果論でしかない。

 飲みきった缶をゴミ袋用の透明な袋に入れて、俺達は立ち上がった。その時。
 一人、誘惑に負けた女がいた。

「あっだめっ」
 そう口走り、叶はその場を離れた。ビニールシートから飛びだし、
「やぁっ」
 途端に股間から水音がした。すぐに、股間から多量の水が砂浜に落ち始める。
「だめっだめっだめっ!!」
 俺達に背中を向けたまま、切羽詰まった、泣き声のような叫びを上げ、叶はしゃがみ込む。大きく開いた背中が露わになる。しかし、下半身の水流は決して止まらない。水流は、叶のモノキニを、裸足を、そして叶の心を汚していく。
「やああああぁ――…………」
 悲鳴と快楽が混じったその声を、俺達は茫然として聞いていた。やがて、その水流は小さくなり、代わりに、叶の背中が激しく震え出す。
「イクッ……!」
 絶望の底にから響くような声色で、叶は絶頂を告げ、おとがいを逸らした。
 びくん! びくんっ! と二度、激しく背中を震わせる。絶頂痙攣であることが明らかなその震えの後、叶は前のめりに倒れ、四つん這いになった。

 俺と千晶は、ビニールシートの近くで立ち尽くしていた。
 視線の先には、叶とマコトがいる。波打ち際で、叶はさっきマコトがしたのと同じように、下半身を洗い流している。マコトは付き添いを申し出たが、叶に拒否されて、俺達の数歩前で立ち尽くしていた。

 ふと、右手に熱い感触があった。千晶の左手が、俺の手を握っていた。
 千晶を見る。千晶は、俺の顔を見つめていた。赤いスリングショットには、存在を主張する二つの突起が浮かんでいる。
「俊ちゃん」
「言わなくていい、分かってる」
 いくら積極的になったとはいえ、彼氏として、千晶にそれを言わせるわけにはいかなかった。
 そして――マコトと叶だけに、恥ずかしい思いをさせるわけにも、いかなかった。

 叶が立ち上がり、こちらを向いたのを確認してから、俺達は叶に近づいた。叶は(少なくとも表面的には)もう落ち着きを取り戻していて、少し安心した。
 その場で俺は、何しようか、とつぶやいた。
「じゃあ今度は、ここでビーチバレーでもしよう」
 すぐにマコトは言った。時刻が夕方にさしかかり、海で遊ぶ時間も限られてきたので、最後に波打ち際で、四人で遊ぶのがいい――というのが、マコトの提案だった。三人の反対がないことを確認して、マコトはボールを取りに向かった。

 ばしゃばしゃ、と水音を立てながら、俺達は波打ち際を動き回る。
 一昨日とは違い、それはパスを回すだけの遊びだ。しかし、今のパス回しの難度は段違いだった。
 もちろん、波打ち際で動きが制限される。それだけでも、正しくパスを上げ、またそれを受けるのは割と難しい。
 だが今は、それを越える問題が別にあった。
「はっ」
 マコトから回ってきたボールを、何とかトスで上げる。しかし、それほど大きな動きではなかったのに、上半身のバランスが崩れそうになる。
 それは、特におっぱいのせいだ。俺の胸に現れたそいつは、身体を動かすごとに、重心をぶれさせる。
 千晶も、叶も、明らかに俺と同じ悩みを抱えていた。二人はそれに加え、その過激な水着のせいで、ボールが回るごとに悩ましいところを見せつけている。
 身体を動かせば、おっぱいが揺れ。
 レシーブしようとすれば、胸の谷間が強調され。
 少し激しく動けば、水着から大事なところがはみ出てしまいそうになる。

 それでも俺達は、文句は言わなかった。なぜなら、楽しかったからだ。パス回し自体は単純だったけれど、きゃっ、うぉっ、と声が上がり、いつの間にか場が盛り上がっている。マコトも叶も、最初はさっきのことを気にしているように見えたものの、数分も経たないうちに、心底楽しそうな表情に変わっていた。

 ただ、俺は――いや、俺と千晶は、まだ、欲求を抱えたままだった。

 そして、
「あっ」
 マコトのパスがそれ、俺がビーチボールを、倒れ込みながら千晶に向けて打ち返す。しかし、そのパスはそれてしまい、叶寄りに飛んだ。千晶は二・三歩追いかけて、
「きゃっ」
 バランスを崩し、ばちゃん、と音を立てて尻餅をついた。
「千晶さん、大丈夫?」
 そう言って叶がゆっくり近づき、ビーチボールを拾い上げた。
 しかし。
「俊ちゃん」
 千晶の声が、俺の耳に届いた。転んで身体が冷えたのが、引き金になったのだろう。ほんの少し、震えた声だった。
「したくなっちゃった」
 千晶が切ない表情で、俺を見つめた。
「そうか。実は、俺もだ」
 応じてやる。俺の腹部の違和感も、とっくに危険水域まで膨らんでいた。しかし、自分だけがするわけにはいかないので、我慢していたのだ。千晶に、一人で「そんなこと」をさせるわけにいかない。それに何より俺が、千晶と一緒に「それ」をしたかった。
「一緒にしよう」
 俺はそう言って、浅瀬で立ち上がった。千晶もそれに合わせて、ゆっくりと立ち上がる。
 赤いスリングショットに包まれた千晶の全身は、強い日差しとも相まって白い素肌を浮き彫りにしていた。胴体から水滴がしたたっているのが、その魅力を倍増させている。そして、スリングショットの布に隠れた乳首は、やはり大きく、固くなっていた。その表情は、海水に浸かった肌とは対照的に、とても紅潮している。口が半開きになり、性の快楽を求めているのも伝わってくる。
「マコト、叶、少し離れてくれ。かからないように」
 叶は静かに千晶から離れ、マコトの側に立った。そっち側なら、波の向きを考えても大丈夫だろう。
 俺は千晶にゆっくりと近づく。じゃぶじゃぶ、と足下の海水が音を立てる。千晶を胸元に抱き留めた。
「あっ……」
 千晶のおっぱいが、俺のおっぱいの下に。俺のおっぱいが千晶の顔の下に。水着越しだが、その感触は、どちらも柔らかかった。
「かかっちゃうよ……」
「いいよ、かけて。むしろ、かけられたいし、俺もかけたい」
 別にそんなことは思っていなかったが、口に出すとそういう気分になるから不思議だ。
「……」
 ぎゅっ、と、千晶の腕に力が入った。それが尿意の高まりによるものだと、千晶の表情が言っている。俺の尿意も、もうギリギリのところにあった。
「ねえ、俊ちゃん」
「ん?」
「キス、して。あたしの顔、隠して」
 俺の顔を見上げて、千晶は訴えた。相当恥ずかしいんだろう。俺も、同じだ。
 だけど、止まらない。もう、止められない。
 そのことを二人とも分かっていたから――俺は、ほんの少しかがんだ。
 そして、言う。
「わかった。――一緒に、漏らそう」
 千晶の口を塞いだ。同時に、俺の膀胱が決壊した。
 男の時より遙かに短い尿道を、ションベンがあっという間に伝って、穴から噴出した。
(!!!)
 その感触に一瞬、頭が真っ白になった。
 最初にあったのは、排泄の快感。「昨日から何度も感じている」、性の快楽と同じ開放感。だけど、それだけではなかった。
 じょぼぼぼぼぼ、と足下で音が響く。すぐにその音が二重になった。千晶の身体にも一層の力が入って、俺の足に、千晶のションベンがかかる。もちろん、逆も。
 気持ちいい。自分の水着が、ションベンで汚れる感覚が。そして、マコトに、叶に、ションベンするところを見られる、その視線が。あまりに気持ちいい。
 全身に鳥肌が立つ。ションベンが出る方じゃない下の口が、内側から急激に濡れていくのが分かった。
「んふぅ……」
「ぅぅぅっ……」
 自然に、口づけが激しくなる。鼻息で、千晶の興奮が手に取るように分かった。
(あっ、イクッ!)
 気づいたときには遅かった。ションベンは止められない。数秒後に控えている絶頂に、抗うすべはない。
 ションベンが流れ出すにつれ、腰の中が蕩けていく。白い快感が膨らんでいく。制御不能になったそれは、ションベンを出し切り、全身の震えが起きた途端、全身に広がった。
「んああああああああああっ……!」
「やあああああああああ……っ」
 自然にキスが解け、腰が抜けるように、俺達はその場に座り込んだ。

 ちなみに。
 俺達がお漏らしをしたあとも、俺達は何事もなかったかのように、ビーチバレーで遊び続けた。
 四人とも、度重なるエロに慣れてきてしまったのか。俺達はお漏らしの羞恥を抱えつつも、結局最後まで――千晶と叶がバテて、マコトが「帰ろう」と言うまで、遊んでいた。

< つづく >

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