つい・すと 3日目・??2

3日目・??2 Side Rose 開花

 気づいたら、目の前には暗い空が広がっていた。

(あれ……?)

 状況を理解できずにいると、ゆらり、と揺れを感じる。
 あたしは首をひねり、椅子の背もたれの後ろを見た。

(……え?)

 意味が分からなくて、理解するのに時間がかかった。
 あたしは、何かに乗って、水の上に浮かんでいた。視線の先には、水路がある。明らかに人工的な、一本道の水路。あたしの向いた方が後ろ側だったらしくて、船跡の白い泡が立っている。水路の幅は、ちょうど乗り物がはまる程度だった。
 そしてその水路の横には、奈落がある。だけど、何となく身を乗り出して見てみると、暗くはありながら、紫色のキラメキがそこかしこに見えて、ぼんやりと明るさを感じた。

(あ、夢、かな……)

 その非現実的な光景に、あたしはやっと結論を出した。そういえば、こんな不安定な場所にいるのに、全く恐怖を感じない。それに、さっきも違う夢を見ていた気がする。

 体勢を元に戻してみて、乗り物が円形のボートだってわかった。多分、金属製。座る部分はベンチ状で、ぐるりと一周している。遊園地の乗り物みたいだった。そして、そこでやっと、目の前にカナちゃんが座っていることに気づいた。

「なんでしょうね、これ」
「……」
 カナちゃんは首をかしげながら、あたしに話しかけてくれた。でも、答えがわからないので、あたしも首をかしげて応えた。
 あたしもカナちゃんも水着姿なので、まさにウォータースライダーに乗っているような光景だった。そういえば、遊園地で聞くような、軽い曲調の音楽が辺りに響いている。

 ボートは時計回りにゆるやかに回転しているので、四方を見回せるけれど、周りに水路以外、何もない。彼方にはオレンジの光が、地平線の下から裏後光のように差し込んでいる。ただ、その光もまた、天球を取り囲むように三百六十度から放たれている。綺麗だな、とあたしは思った。

 その時だった。

「あ、あれ」
 カナちゃんが何か言って、指をさした。そっちをみると、プラットフォームのようなところがあって、女の人が手を振っていた。さっきまで何もなかったはずなのに。
 ボートはゆっくりと進んで、プラットフォームに入線した。女の人の前で一瞬止まり、女の人がそれに合わせて乗り込んでくる。
「お待たせ」
 それは、あたし達の知っている人だった。
「ミリア……?」
「ええ、ミリアよ」
 カナちゃんのつぶやきに、女の人は応えた。確かにその人は、あたしの知っているミリアさんと瓜二つだし、着ているモノキニも、ミリアさんが着ていたものと同じものだ。
 しかし、その髪の色と表情、そして口調は、あたしの知っているミリアさんとはかなり違った。あたしが知っているミリアさんは、かいがいしさと優しさがにじみ出ている、ブロンズ髪の立派なメイドさんだ。しかし、「この」ミリアさんは、もっと自信に満ちあふれた印象を受けるし、髪の毛も輝くようなゴールドだった。ただ、「この」ミリアさんから、不思議と、怖さを感じることはなかった。むしろ、モノキニドレスを着た、強気のミリアさんは、あたし達の仲間のように思えた。

 どうしてかは、わからなかったけど。

 カナちゃんがちょっと位置を寄って、三人で正三角形の位置に座った。あたしから見て右側がカナちゃん、左側がミリアさん。
「ここからは私が、最終アトラクションの案内をするわ」
 あたしとカナちゃんを交互に見て、ミリアさんは言った。ああ、これアトラクションなんだ、と思った。

 ぷるるるるるるるるるるるるるるるる

 発車チャイムが鳴り、がこんがこんと音を立てながら、ボートが動き出した。

 プラットフォームをあとにしたあたし達のボートは、軽い音楽と共に、一本道の水路を再び進んでいる。
「どう? 旅行は楽しいかしら?」
「……はい、そうですね」
 少し考えて、カナちゃんが応える。あたしもうなずいて……おかしいな、と思った。旅行って、カナちゃんと二人きりだったっけ。
「そう。何して遊んでたの?」
「えっと、ビーチバレーしてましたよ、二人で」
 ミリアさんの雑談に、カナちゃんが無難に受け応える。
「へえ、そうなの。二人ともそのおっぱいでビーチバレーって大変じゃない? 揺れるでしょ?」
「そうなんですよー! これほんっとに重くてー」
 言いながらカナちゃんは、モノキニで隠れた大きなおっぱいを下から持ち上げた。
 あたしもカナちゃんの言葉に、思わずうなずいてしまう。あたしはFカップだけど、これでもとても重くて、肩が凝りそうだ。カナちゃんのHカップなんて、どれだけ重いんだろう。
「ミリアさんも、おっぱい大きいですよねー、それにすっごく綺麗だし」
「ええ、ありがと。おかげで、男を誘うのには苦労しないけどね」
「へええ、ミリアさん結構肉食系なんですか?」
「そりゃガッツリよ、オトコはあたしの食糧だもの」
「あははは、食糧って」
 楽しそうに、カナちゃんが笑う。
「あなた達だって、そのおっぱいだったら、オトコよりどりみどりじゃないかしら?」
「へへ、そうですね、男かあ……」
 カナちゃんが上を向いて、考えるような仕草を見せる。一瞬、カナちゃんの表情が緩んだ。……あれ? カナちゃん、男の人には興味ないんじゃ?
 と思った途端、カナちゃんも緩んだ表情を引き締めて、首をひねった。
「どうしたの?」
「いえ……実は私、男には興味がなくて」
「そうなの? もったいない。まだそんなに興味ないのね」
「まだ? あ、いえそうじゃなくて」
「で、あなたは?」
「えっ……」
 カナちゃんの話を聞かず、ミリアさんは突然、あたしに水を向けた。
「あたしは……興味は、あります」
 カナちゃんに比べれば、だけれど。
「それにしても、二人とも綺麗なおっぱいね。水着めくって全部見せてくれないかしら?」
「「えっ!?」」
 二人の声が重なる。あたしは考えるより先に、胸を両腕で隠した。
「あはは、冗談よ。でも、あなた達の身体なら、大抵のオトコは落とせるわ」
 あたしは思わず、下を向く。
 あたしのおっぱいが目に入った。両腕で隠れているけど、スリングショットなので、あたしからは胸の谷間が完全に見えている。

 ――男の人か……。……うーん?

 ふと、引っかかった。
 何か、とても大事なことを忘れている気がする。
 そしてなぜか、そのことを考えると、もやもやする。
 後ろめたいような、それでいて、なんとなく哀しくなるような。

 一瞬、脳裏に、カナちゃんのおっぱいを、誰かが揉んでいる様子が浮かんだ。
 より一層、もやもやが深くなる。

 だけど、その正体を、あたしは掴むことができなかった。

「そろそろ来るわよ」
「え?」
 ミリアさんの声がして、あたしは顔を上げる。ミリアさんの視線の先を見て、そこに「何もなかった」。
 あれ、そっちは進行方向なのに、と思った途端、ボートが傾いた。
「捕まって!」
 とっさに、ボートの縁を掴む。ボートはそのまま、斜めに滑り落ちていく。
 そこでやっと、着地点が見えて、

 ばっしゃああああああんっ

「「きゃあっ」」

 高波と見間違うような、大きい水しぶきが上がる。あたし達はそれをもろにかぶってしまった。

「びちゃびちゃ……」
 カナちゃんのつぶやき通り、あたしもカナちゃんも、そしてミリアさんもびしょ濡れになっていた。
「水着だからいいじゃない」
 ミリアさんが言う。その通りだけど、これは……。
「…………ぬるぬる……?」
 何気なく指を動かして、水が少し糸を引いているのに気づいた。普通の水じゃないみたいだった。少し、ぬめりがある。
「何このヌルヌル!?」
「大丈夫よ。水に混ぜ物してあるだけだから、気にしないで」
「は? 混ぜ物?」
「ええ。嗅いでご覧なさい」
「え?」
 ミリアさんの言葉に従って、カナちゃんが指を鼻に近づけた。黙っていたあたしもそれに倣う。
「あ、いい匂い……」
 カナちゃんが声を漏らした。

 確かに、指についた液体からは、何となく爽やかな、甘い香りがする。
 あたしとカナちゃんは、その香りにつられて、しばらく嗅いでいた。なんだろう、クセになるなあ……とぼんやり思ってたら、少しずつ、心がわくわくしてきた。
 身体の芯が、ほんのりあったかくなる。

「あはは、これ本当にいい匂いですねー」
 気づいたら、カナちゃんが楽しそうな声で笑っていた。
 あたしはカナちゃんを見る。すると、頭の上のバラが、明るい緑色に光っていた。

 ……いくつか色が混ざってるみたい。青と、黄色と、あとは白、かな?

 黄色が、エッチな気持ちに関係あるのは、覚えていた。そうわかって、あたし自身が昂ぶっていることに気づく。そして、気づいたときにはもう、身体の芯は熱く、火照り始めていた。
 おっぱいの先が、固く尖っていく。

 だけど。

(あれ?)

 ゆっくりと、でも確実に、胸の中で膨らんでくる、エッチな気持ち。
 普段なら、すぐ息が上がって、何にもできなくなるのに。
 それを受け止めている今のあたしには、不思議な余裕があった。
 その代わりに頭の中で、何かがじわじわと溶けているような感じがする。ほんの少しだけ。

「降ってきたわね」
 ミリアさんが言うまでも無く、雨音が響きだしていた。だけど、雨は冷たくはないし、もう濡れているし、今さらだ。
「あれ、この雨も同じ匂いしません?」
「え?」
 カナちゃんが言うので、鼻を利かせてみる。確かに、雨で湿った空気は、水路の水と同じ匂いがするような気がした。もしかしたら、ぬるぬるなのも同じかもしれない。
「ホントだー、不思議」
「ねー」
 そんなことが面白くて、あたし達は顔を合わせて笑う。雨はけっこう強くて、少し乾きかかっていたあたし達の身体は、再び湿っていった。
「あー、やっぱりぬるぬる」
 カナちゃんが身体を撫でながら、確かめるように言う。気のせいか、動きがちょっといやらしい。
 あたしもカナちゃんにつられて、腰から脇を撫でてみる。
 ぬめった指が、脇腹を擦る感触に、ぞくっ、とした。
 さっきから火照っていた身体はすっかり燃え上がって、あちこちが疼いている。なんで平気でいられるのか、自分でも分からないくらいだった。
「すっかりぬるぬるになっちゃったわねー」
 ミリアさんがあたし達を見て言う。そういうミリアさんも、ヌルヌルなのは同じだ。
「ちなみにこれ、美肌に効果覿面なのよ」
「本当ですか!?」
「へーすごい」
 カナちゃんが食いついた。あたしももちろん興味がある。腕を撫でてみると、確かに何となく、すべすべになっている気がする。カナちゃんは顔に液体をすり込んでいた。
「あなた達、せっかく大きいおっぱいなんだから、おっぱいにも塗ってあげたら?」
 そう言って、ミリアさんはあたしにほほえみかけた。興味があったので、あたしはおっぱいを突き出す。
「水着、外しちゃった方が良いんじゃない?」
「あ」
 確かに、その方が邪魔がなくて、良さそう。
 あたしはスリングショットの布に両指をかけて、大きく横にずらした。
 あたしのおっぱいは、乳首を中心につんと立ち上がっていた。雨があたしのおっぱいをあっという間に濡らして、色合いが変わっていく。
「千晶さんのおっぱい、綺麗ですねー」
「え……」
「あなたが言う? それ」
「だって、これ大きすぎますもんー」
 そう言いながら、カナちゃんもモノキニの布を横に追いやった。
 あたしのよりも重量感があるカナちゃんのおっぱいが、目の前で露わになる。それはあたしのより大きいのに、全然下を向いていない。とっても綺麗。
 見ているだけで、胸の奥がもっと熱くなる。
「ふふ、二人ともおっぱい出したわね」
「「あっ」」
 また、二人の声が揃った。でも、あたしもカナちゃんも、おっぱいを隠そうとはしなかった。
 きっと、理由は同じだと思う。
 おっぱいを見せていると、何となく、気分がいいのだ。そして、何かもっと刺激的なことをやってみたくなるような、ふわふわどきどき、とした気持ちになる。じきに、頭の中のじわじわとした感覚と共に、あたしの意識はだんだん、自分のおっぱいに吸い込まれていった。

 スリングショットを掴んだままの両手で、おっぱいを中央に寄せる。
 大きくなった二つの乳首が近づいて、それでもぶつかることなく、目の前で何かを、誰かを誘っているように見えた。

(ああ……これ、触ったら、気持ちいいんだろうなあ……触りたくなってきちゃった……)

 ついにあたしは、自分の中にある欲望を自覚する。
 それは、性欲というより、性を感じる期待と、好奇心だった。

 布を横にずらしたままでは手を離せないので、諦めて一旦、スリングショットを元に戻した。スリングショットも完全にぬるぬるなので、多分大丈夫。
 元に戻ったスリングショットに、一層大きくなった乳首が浮き出ている。生地が薄いから、乳首の形が分かってしまうくらい、大きいポッチだった。
 そして、おっぱいの下から手を入れて、持ち上げるようにした。スリングショットの布と下乳の間に両手を入れて、ゆっくり揉む。
「あ、千晶さん始めましたね」
「えっ」
 気づいたら、カナちゃんが自分の胸元を開いたまま、あたしをニヤケ顔で見ていた。
 さすがに恥ずかしくて、下を向いてしまう。けれど、もう手は止まらなかった。

 おっぱいには重量感があって、Fカップ――という大きさ以上に、張りがある。ぬるぬるになったおっぱいは両手から少し滑って、鞠のような感触を伝えてくる。何より、おっぱいを揉む手が気持ちよくて、揉むのを止められなくなっていた。
「あん、変な感じ……」
 きゅっ、と一瞬、おっぱいを強くつかむ。全身がぶるん、と反応する。
 今度はやっと、おっぱいの方から快感が伝わってきた。

「おっぱい、気持ちいいですか?」
 自然に、首がタテに動いた。
 息が荒くなるのを感じながら、あたしはおっぱいを上の方向に撫でていく。
「っ!」
 両手が乳首を擦って、あたしの指と、身体の芯が歓声を上げた。
 二回、そして三回、水着の下からおっぱいをなで上げる。
「んぅぅっ」
 すごく気持ちよくて、あたしのアソコが火を噴くように熱くなった。
 おっぱいとアソコに、エッチな熱がどんどんたまっていく。
 ぱつん、ぱつん、と水着が音を立てて、あたしの耳の中まで愛撫していく。

「どう気持ちいいのか、教えてください、千晶さん」
 意地の悪いカナちゃんの声に、だけど答えたくなるくらい、気持ちよかった。
「あのね、おっぱいが、つるつるしてて……擦れると、どんどん、身体の中が熱くなるの」
 おっぱいが大きくなった分、快感の容量が大きくなったみたいな気がする。「だから焦らしてるんですね」
 うなずく。そして、そこでやっと、あたしは自分自身を焦らしちゃってるんだって気づいた。
 それに気づいてしまうと、もう、我慢なんてできなかった。

 あたしは、と下から手を差し入れて、ゆっくりと、おっぱいを撫でていく。そのまま、指を両方の乳首に近づけて。
 同時に、きゅっとつまみ上げた。

「あっ! ……ああああっ!」

 水着の布が谷間の方にずれて、乳首があらわになってしまう。と同時に、頭を突き抜けるような快楽があって、身体が一気に小高い坂道を駆け上がった。

「あっ! 飛びそうっ!」

 勢いよく乳首をグリグリすると、その丘をあっけなく飛び越えた。

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」

 千晶さんの声が響いた。千晶さんは乳首だけで軽い絶頂に届いたようだった。V字の布が両胸の内側にずれ、最大級にしこり立った両乳首が、再び晒されている。
 それは、水しぶきと雨のぬめりでてらてらと光ったままだった。
「うあぁ……」
 私は男みたいに無分別ではないけど、仮にも初恋の人の嬌態が目の前にあって、何も感じないほどの不感症ではなかった。快楽に悶える千晶さんの姿から目がどうしても離せなくて、私は茫然としてしまっていた。
 千晶さんが乳房の快感に取り憑かれているのが、手に取るように分かる。まるで千晶さんの気持ちが、私の心に、肌に、体の芯に乗り移っているように。

 ふと、私の乳房に目が行った。
 私の両手がモノキニを横に開いていたので、二つの大きな乳房は丸出しになっている。

 今の私の乳房はHカップだ。Hカップなんか、ファッション雑誌どころか、コンビニにある雑誌の表紙ですら滅多に見ることがない。それが、私の乳房だった。
 Hカップの乳房は、今、何の支えのない状況でさえ、つんと上を向いて、垂れる気配がない。そのくらい張りがある、釣り鐘型の乳房だった。

 見た目が牛みたいで恥ずかしいというのはあったけど、それ以上に今、自分の乳房には興味があった。きっと、頭の中のエッチなスイッチが入ってしまっているからだ。

 いつだったかは忘れたけど、この乳房を、面識のない男の前で、なぜか一回揉んだ記憶がある。この水着姿で。
 記憶に残っているその感覚は、すごかった。
 最初は、特殊素材のクッションを揉んでいるような感覚だった。潰れることはなくて、張りがあるから元に戻る。
 次に感じたのは、マッサージ的な気持ちよさだった。重量感があるから、少し筋肉が張っていたのかな。
 そして来たのが、性感だった。乳房を揉む快楽は、知っているはずだった。でも、今の乳房はなぜか、いつもより快楽神経が太くなっている気がする。その上、大きいおかげで思い切って揉めるので、あっという間に心も身体も盛り上がっていき、鋭く深い快楽に没頭しかかってしまった。そういえば、あのときには邪魔が入ったから中断しちゃったけど、もし邪魔されてなかったら、私は――

 一瞬、あれっ、と思った。

 あのとき、「何が」邪魔したんだっけ。
 もやもやする。何か変だ。
 だけど、私の記憶の中をたどっても、その答えは出てこなかった。というか、さっきも感じたけど、最近何をしていたかすら、ぼんやりとしか思い出せない。
 千晶さんと浅瀬でビーチバレーをしたのは、確かだ。男の前で乳房を揉んだのも、信じられないけど、はっきりと記憶にある。
 でも、他のことが、なかなか思い出せない。と、頭を悩ませていると――

 軽いイキから還ってきたあたしの目に、カナちゃんが映った。
 カナちゃんは胸元を開いたまま、何か考え事をしているのか、あたしから目を逸らしている。

 どくん、と胸が高鳴った。

 カナちゃんの表情は普段と違ってちょっとクールで、ちょっとかっこよかった。
 それなのにおっぱいを丸出しにしていて、いやらしい。
 そして。
 表情に似合わず、カナちゃんが強く発情しているのが「分かった」。なんで分かったかは分からないけど、間違いない、と思った。

 だから、いじめてあげたい、と思った。

 自分の水着を元に戻してから、あたしはカナちゃんにすり寄っていく。カナちゃんはミリアさんの方を見ていて、あたしの動きに気づかなかった。
 カナちゃんの横について、飛びかかった。

「きゃっぐ!?」
 慌てるカナちゃんを押さえ込んで、強引に唇を奪った。
 雨に濡れたカナちゃんの唇はぷにっとしてて、柔らかい。感触が気持ちよかった。
「んっ! 何してるの千晶さ、あっ!」
 カナちゃんとキスをしたあたしの唇は、すぐにカナちゃんの首元を捉えた。「や、ああっ!」
 途端に抵抗が止んで、カナちゃんが全身をびくつかせた。
 滑らかな肌に、唇を這わせるだけなのに、とても気持ちいい。
 首元に口づけするたび、カナちゃんの上げる声が湿っていく。
「やだ、気持ちよくなっちゃう……」
 カナちゃんは口でだけ抵抗していたけれど、全然嫌がる様子もなくなっていた。息が上がっている。むしろ、積極的に首元を差し出して、舐めて、とせがんでいるようだった。
 そこであたしは、唇を離した。
「あ……」
 切なそうな表情で、カナちゃんの瞳ががあたしを見つめる。だけど次の瞬間、恥ずかしそうに笑った。
「どうしたの、千晶さん」
 笑い声を堪えながら訊くカナちゃんにつられて、あたしも笑ってしまう。あたし、女の子なのに、カナちゃんを襲おうとしちゃった。それこそまさに、カナちゃんみたいに。
 ちょっとヘンだと思った。でも、そうしていると、心が温かくなる感じがする。数秒の間、しっとりとした雰囲気が漂って、カナちゃんと気持ちが繋がりかかった気がして、

「お楽しみのところ悪いけど、そろそろよ」
「「えっ?」」

 ミリアさんの声がして、思わずあたりを見渡した。
 すると進行方向に、長屋のような建物が見えた。水路が、長屋の入口部分に繋がっている。
「何ですかあれ」
「すぐわかるわ」
 カナちゃんとミリアさんがやりとりをしている間にも、ボートはどんどん建物に近づいていく。
 そして、入口をくぐると――

(何この匂い……)
 真っ先に、むせそうな、獣のような匂いが鼻をついた。
 そして、気づいた。

 男の人がいる。たくさん。

 建物は横に狭くて、扉も間仕切りもない。水路から数メートルで壁になっている。でも水路の方向には、果てしなく続いている。
 そして、そこには男の人がたくさんいた。全員が水着姿だった。立っている人も、歩いている人も、座っている人も、寝ている人もいる。
 まるで、夏の海岸のよう。違うのは、そこが大きな建物の中で、部屋がそれほど明るくないのと(ライトはあるけど)、そこにいるのが男の人だけだ、ってこと。どれだけ見回しても、女の人は一人もいなかった。

 思わずあたしは、カナちゃんにしがみついた。あたし達に気づいていないのか、男の人達は誰もあたし達を見ていないけれど、反射的に恐怖のような感情を抱いてしまう。
 だけど、

「本当はここで降りる予定だったんだけど、予定が変わったから、ゆっくり通り過ぎるだけにするわ」

 ミリアさんが何か言ってるのに、耳には入らない。だって……カナちゃんの様子ががおかしいことに、気づいてしまった。

 カナちゃんは、未だに胸元を開いたまま、固まっていた。視線は、あたしの方ではなくて、外の方を向いている。
 視線の先には、男の人達の集団があった。多分あたし達と同じ年代くらいで、ただ、遊び慣れているような感じだった。

 カナちゃんの息が上がっていた。さっき、あたしとじゃれていたときと同じか、それ以上に。

「カナちゃん……」
 訳が分からなくて、あたしのしがみつく力が緩むのと同時に、カナちゃんは立ち上がった。

 胸元を開いたまま。

 男の人達の方を向いて。

 それと同時に、集団の人達がこちらに気づき、カナちゃんに視線が集中する。

「あぁぁ……っ」

 カナちゃんは一瞬、びくん、と感極まったように悶えて、大きなおっぱいを突き出した。

(何で!?)
 息が止まりそうなくらい、びっくりした。
 カナちゃんが男の人にエッチなアピールをしている。それがどれだけあり得ないことか、知っている。
 でもカナちゃんは、そんなあたしの驚きを横目に、胸元を開いたまま、おっぱいをなで始めた。カナちゃんの所に、男の人達が寄ってくる。

 カナちゃんは、ものすごく発情していた。頭の中は目の前の男の人達のことで一杯になって、いやらしいことしか考えられなくなっている。見ているだけで、そう「分かる」。

 あたし達はボートの上に乗っているので、ギリギリ手は届かないけど、目と鼻の先まで、カナちゃんと男の人達が近づいた。

(あっ……)
 一際、強い匂いがした。空気がこもっているせいか、一度漂い出すと匂いがなかなか弱まらない。

 それでわかった。というか、思い出した。
 そうか、これ、男の人の匂いだ。

 それに気づいた瞬間、思わずあたしは、自分の身体を抱きしめた。
 匂いが、愛しい。身体が、おっぱいの中が、熱くなっていく。まるで、男の人達の欲求が流れ込んで、あたしの身体に溜まっていくように。

 あたしのアソコは、とっくにとろとろになっている。
 全身からあふれ出しそうな疼きのせいで、ちょっとした刺激だけでも、欲しくなった。
 でも、自分だけでするのはもったいない。
 他の人からの刺激が欲しい。

 例えば、男の人の視線とか。

 頭の中で小さく、ぱちん、と泡が弾ける感触がした。

 ぺろり、と、乾いた唇を舐める。
 なーんだ。男の人なら、今、そこかしこにいるじゃない。

 気づいたときには、カナちゃんとは正反対の側で、カナちゃんに背中を向けて立っていた。
 それだけで、たくさんの視線を感じる。男の人が何人も、あたしを、あたしのおっぱいを見つめていた。
 スリングショットに隠れたおっぱいは、乳首が固く固く尖って、布を目一杯に押し上げている。そのせいで、外からも乳首の形がくっきりと分かる。

 もっと見て。

 そう願って、後ろに手を組んで。
 おっぱいを突き出した。

 ただそれだけで、男の人がたくさん寄ってきた。
「あっ」
 あまりにも視線が気持ちよくて、あたしは身をよじる。アソコがかっと熱くなった。
 Fカップのおっぱいにみんなの目が集中して、まるでおっぱいが視線に触られているみたいな気がした。
「おっぱい、むずむずする……」
 何を口走ったか、自分でも分からない。いつの間にか、身体を揺らして、おっぱいを水着にこすりつけていた。
「あ、いい……」
 雨とかでぬるぬるになってるのに、おっぱいがほんのちょっと擦れるだけで、頭がぼうっとした。何より、おっぱいが動くのに合わせて、男の人の視線が動くのが、楽しくてしょうがなかった。

 気持ちいい。男の人に見られるの、本当に楽しくて、気持ちいい。
「はあぁっ……」
 ドロドロになっていくのを感じる。おっぱいも、アソコも、頭の中も。
「がまん、できない……」
 そう口に出して、我慢なんてしなくていいことに、やっと気づいた。

 もっと反応が欲しくて、前屈みになった。男の人達に、深い胸の谷間を見せつける。それだけで、おおっ、と男の人達が声を上げる。
「あうっ」
 その声だけで、感じる。
 全身が、アソコかお豆のように敏感になってる。脇腹を触るだけで、身体がプルプルして、エッチな声が止まらない。
 水着の上から、下から、おっぱいを撫でる。見てる人はみんな、おじさんもお兄さんも、水着の下のおちんちんを大きく膨らませていた。あたしの痴態を喜んでくれてる、と思うだけで、もっとサービスしてあげたくなる。

「あおぉぉっ、カラダが燃えるううぅっ」

 その時、背後から大きな声がして、あたしは思わず振り返った。カナちゃんのポニーテールが激しく揺れて、その言葉通り、背中が炎のように赤く色づいている。くちゅくちゅ、と下の方から音がしていた。ちゃんと見えないけれど、水着の中に手を突っ込んで、アソコをいじめている。椅子の部分に立ち、右足をボートの縁にかけて、水着越しにアソコを見せつけているようだった。

 いいな、あたしもやってみよう。

 あたしも足下に気をつけながら、椅子の部分に立った。男の人の匂いが近づいて、アソコが火を噴くように熱くなる。その熱さに我慢できなくて、思わず手が触れた。
「あ、あっ!? ……っ!?」
 途端に頭が真っ白になって、快楽の矢が脳天を突き抜けた。ぴゅっ、ぴゅっと断続的に、アソコから液体が溢れるのを感じる。ぼたぼたと、足下に滴が落ちた。

 イッちゃった。潮噴いちゃった。
 水着の上から、アソコに手がぶつかっただけなのに。

 そのことに気づいた途端、アソコで何度もイクことしか考えられなくなった。

「ああイク、イクっぅぅぅぅぅっ」
「おおおおおおおおおほほほほおおおおおお」
 獣のような声がする。自分の口からも、背後からも。水着を脱ぐ暇もなく、あたしはオナをし続けた。
 水着の中で乳首をつまむだけで、何度も高まった。
 水着の上からアソコを擦るだけで、何度もイッた。
 水着を中に指を入れてアソコを直接触ったら、擦ればもちろん、何もしなくても、息をする弾みで何回もイッた。ぐちゅぐちゅぐちゅ、と身体のあちこちで音がする。雨のせいなのか、エッチな液体のせいなのか、もう全然分からない。
「おかしくなる、おかしくなるぅっ、おかしくなっちゃうぅぅっ!」
 譫言のように言葉を漏らして、それでも、あたしは気力で立ち続ける。しゃがんじゃったら、エッチなところを見せられないから。

 一瞬、ちらりと、青い光が見えた気がした。それがきっかけで、あたしは何をしようとしていたかをやっと思い出す。右足をボートの縁にかけて、男の子たちにあたしのアソコを見せよう、と水着のクロッチに手をかけて――唐突に、宴は終わった。

「あ……」
 飽きる程までに呆然として、やっと、何が起こったかを理解した。
 ボートが、長屋を抜けていた。

「お疲れ様。気持ちよかったでしょ?」
 ミリアさんはボートの中で、悠然と立っていた。すっかり忘れていたけど、長屋の中でもずっと一緒にいたはずだった。……いたよね?
 そんなことを考えていると、全身に疲れを感じながらも、思ったより早く、頭の回転が戻ってきた。
「何だったんですか、あれ……」
 息も絶え絶えの中、つぶやくように、カナちゃんが言った。カナちゃんはまだ痙攣が止まってなくて、ぷるぷる震えてる。あ、やっと水着の胸元を元に戻した。
「何って、見ての通りよ。本当はあそこでボートを泊めて、一晩中盛り上がる予定だったんだけどね」
「そうだったんですか……」
 カナちゃんが、今は遠く離れた長屋の方を振り返る。その顔には、残念そうな表情が浮かんでいた。
「気持ちよかった? オトコに見られながらのオナニー」
「……はい、すっごく」
「……うん」
 最高だった。何回、いや何十回も、数え切れないくらいイッた。
「良かったわ。二人とも男の『価値』を分かってくれて」
「価値ですか?」
「そうよ。オトコっていうのは、オンナを気持ちよくして、生きるエネルギーをくれる存在なの。どう? さっきより元気な感じしない?」
「うん」
 ミリアさんの言う通りだった。あれだけイッたのに、体に残っている疲れは、せいぜい適度な運動をしたみたいなさわやかなもので、むしろ全身が高揚しているようだった。長屋の中でも、イッてもイッても、疲れる以上に元気が沸いてきて、どんどん気持ちよくなって、もうずっと、一生こんな風にしてたいって思ってた。
「カナエ? あなたオトコが嫌いだったみたいだけど、そんなのもったいないって分かったでしょ?」
「はい……反省します。男って、いいですね」
 カナちゃんは顔を真っ赤にして、下を向いた。それでも、表情が緩んでいるのが分かった。
「チアキ? あなたもそうよ。もっといろんなオトコを意識しなさい」
「……はい」
 あたしもそう指導されて、恥ずかしくなった。見られるだけでこんなに気持ちいいなら、男の人にもっと視線を向けてもらえるようにするべきだった。
「二人とも、夏なのに私服のガードが固すぎよ。スタイル良くなったんだし、もっと露出の多いファッションをお勧めするわ」
「はぁい……きゃっ」
 ボートが少し揺れて、あたし達は思い出したように腰を下ろした。
「……ん?」
「あれ?」
 だけど、何か違和感がある。おしりが窮屈というか、何か押し潰されているような。
「あ、忘れてた」
 もぞもぞと動くあたし達の様子を見て、ミリアさんは言った。
「え?」
「ちょっと立ちなさい、もう一度。後ろ向いて」
 ミリアさんの言葉に従って、あたし達は同時に立ち上がり、ミリアさんに背を向けた。
「じっとしててね」
 ミリアさんはあたし達の下半身に手をかざして、何かを始めた。すぐに、違和感がなくなる。
「これで大丈夫」
 ミリアさんの声がして、あたしはおしりに手を伸ばした。何か細長いものが指に触れる。
「何これ?」
 カナちゃんから声が上がって、あたしはカナちゃんのおしりを見た。

 そこには、真っ赤な尻尾があった。

 あたし達の尻尾は細くて、お尻から首の近くに届くくらいの長さ。先の部分だけはスペードのような形状になっていた。だけど、あたし達の水着には柄(え)の部分がギリギリ通るくらいの穴しか開いてないみたいだった。
「どうなってるんだろ……」
「そんなことどうでもいいじゃない」
「そうだよ……」
 ミリアさんの言う通り。問題はそこじゃない。
「何で、尻尾が……」
「それは、あなた達が生物として『私と同じ』になったからよ。頭にあったバラのおかげでで」
 そう言ったミリアさんから突然、あたし達と同じ尻尾が現れた。真紅の尻尾が、天に向かって伸びている。

 それを見た瞬間、あたしはミリアさんに感じた親近感の正体が分かった。今ならはっきり分かる。ミリアさんは私と、「イキモノとして同類」なのだ。単に同じ女の人というだけでなく、もっと大事な何かが、同じだと思えた。

「尻尾はすぐに隠せるようになるから、今はそのままで気にしなくて良いわ」
 再び、ミリアさんの尻尾がぱっと消えてなくなった。
「あなた達は私と同じサキュバスになったの。とは言っても、今は一番大事な『儀式』が済んでないから、言ってみれば『仮』なんだけど」
「「サキュバス……?」」
 あたしとカナちゃんの声が重なった。サキュバスって、聞いたことある気がするけど……何だっけ。
「すごく簡単に言うと、セックスにものすごく強くなるわ。とりあえずそれだけ覚えといて」
 ミリアさんはそう言って笑う、
「あれ? バラが……」
 不意にカナちゃんの声がして、カナちゃんの頭上を見ると、バラがしおれていた。もう、色が茶色になり始めている。手を自分の頭上にやると、あたしのバラも、枯れ始めていた。
 それを見たミリアさんは、「ちょっとごめんね」と断ったあと、両手をあたし達の頭上に伸ばした。程なく、ぽき、と頭のバラが根っこからもがれる感触があって、気づいたらミリアさんが、あたしとカナちゃんのバラをボートの外に投げていた。
「あれは、もうお役御免だから……ところで、もうすぐ目的地に到着よ」
 振り向くと、そこには建物があった。
 あたし達が泊まっている、ログハウスのような建物。水路はその裏口にまっすぐ繋がっていた。
 ボートが少しずつ、スピードを落としていく。その様子が、確かにそこが終点だと言っているようだった。

 雨はとっくに上がり、肌も乾きかかっている。

「ボートの旅は楽しかった?」
「はい」
 ミリアさんの問いかけに即答するカナちゃん。あたしもうなずいた。
 するとミリアさんは、あたしを見て言った。
「よかったわ。それなら、次のステップも大丈夫そう」
「……次?」
「ええ」
 ミリアさんは、これまでとは違う、少し凶暴な笑みを浮かべて言った。

「早速だけど、あなたには眷属作りをやってもらうわ」
 その途端、ミリアさんの瞳が、妖しく光った。
(あ……っ)
 一瞬、あたしの意識が、その光に吸い込まれそうになって。
 あたし達が「二人ではなかった」ことを、ちょうどその時、唐突に思い出した。

< つづく >

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