魔女見習いは年相応!? 第3話-3

第3話-3

 中心街に向けて自転車を漕いでいると、遠くから汽笛の音が聞こえた。

 《あ、あれ》
 同時に、きゅうっ、と急ブレーキの音が響き、俺も慌ててブレーキペダルを握る。
 ハルカの見た方向に視線を向けると、それは俺が数日前に乗っていた船の姿だった。腕時計に目を落とすと、ちょうど入港する時間である。
 向こうに戻っていた船が再び、こちらにやってきたのだ。
「町の方は賑やかかな」
「そうかもな」
 こちら側に来る観光客を乗せて午前中に港に入り、午後になるとまた、旅を終えようとする観光客を乗せて港を出る。従って、その間が最も島に人がいる時間帯になる。
 たわいの無い会話と共に、ハルカはペダルを踏み、俺もそれに続いた。

 中心街にあり、俺達はトンネル前の交差点にさしかかった。
 このトンネルは確か、戦時中に防空壕として作られたもので、今もショートカットとして生きているものだ。このトンネルを通るか、そうでなくても左側から回っていくと、大通りにたどり着く。
 しかし今、俺達はこの交差点を右に曲がっていった。緩やかな上り坂に迎えられたので、電動アシストに頑張ってもらう。
《ここ右?》
《分からんが、多分》
 左への枝分かれを何度かやり過ごし、団地が現れ始めたところで、また道が右に枝分かれしている。
 そこに入っていくと、さらに急な上り坂が現れた。
《これはきついな》
 さすがにアシストをもってしても厳しく、俺はギアを軽くする。一方のハルカは立ちこぎして、どんどん先に進んでいく。
「筋肉痛になるぞ……」
 思わず独り言を漏らしながら、左カーブを曲がって消えていくハルカを見送った。

「おー……」

 自転車を駐車場に置き、ハルカに追いついた俺の目に入ったのは、島だった。
 見渡す限りに緑生い茂るその島が、俺達の位置から一キロと離れていない場所にある。
 首を回せば全容を見渡せるが、かなり大きい。ざっと三キロメートルくらいはあるだろうか。
 俺はポケットから観光地図を取り出し、位置を確認する。

 俺達が立っているのは、数ある展望台のうち、最北に位置する場所。観光地図には確かにこの辺りが、展望台として記されている。しかし、この場所にある人工物は、道案内の看板だけだった。屋根も、ベンチも、柵もない。踏み固められた遊歩道はあるものの、その周りには木や草が生えていて、所々視界を遮っている。この場所の様子をあらかじめ聞いていなければ、本当にここでいいのか不安に思ってしまう位だ。

 この場所は、今朝、百果さんから推薦された場所だった。

 背中から刺す太陽光が、俺達を炙ろうとしていたので、ほんの少しでも日陰を確保するため、十メートルほど左に行ったところにある小高い場所に動いた。そこには木が一本生えていて、ちょうど良い木陰を作っていた。
 俺が木を背にして立つと、ハルカは俺と同じ向きで俺の胸元に滑り込んだ。横に並んだ二人を守れるほど、日陰は太くなかった。

「あの島いいなあ」
 ハルカが言う。向こう側にある島は無人島で、誰も住んでいない。こちら側の島も緑豊かだが、向こう側は緑と、崖のような岩だけだ。
「お前、ああいうの好きか」
「うん。なんかわくわくする」
 意外に少年のようなことを言うハルカが何となく可愛くて、俺は頭をなでた。泳ぐために固くまとめられたハルカの髪の感触を味わう。少し指に引っかかるような気がするのは、アッシュブラウンのスプレーのせいかもしれない。
「おっと」
 ハルカがゆっくりとこちら側に倒れ込んできて、俺は慌てて抱き留めた。
「危ないぞ」
「いいじゃん」
「良くない。ほんとに危ない」
 俺はほんの少しだけ前に出ることによって、ハルカの姿勢を直した。ここは事実上、柵も何もないただの遊歩道だ。ハルカが倒れてきたのは海とは逆方向だが、万が一足を滑らせる可能性もないことではない。
「けち」
 ハルカは不満を垂れながら、靴で足場を踏みしめなおした。それを見届けてから、俺はハルカを緩く抱きしめ直す。

 びゅう、と強い横風が吹き抜けた。

「あれ船?」
「船だな」
 ハルカの視線をたどると、そこには観光船と思しき船が複数見えた。さっき見た旅客船とは比較にならないほど小さな船達だ。向こうの島の湾に、ブイのようにならんでいる。
「あれが海中公園か」
 さっき開いた地図を思い出す。向こうの島には上陸はできないが、その沖で遊ぶのはツアーの定番であると書いてあった。
「いいなあ」
「もう少し練習な」
「うん」
 今度は素直な返事が来た。ハルカの泳ぎに関しては、不安を覚えているのはハルカ自身も同じである。ぱっと見は大丈夫そうなのだが、深いところで泳ぐのにまだ慣れていない。

「……ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
 俺の返事を待つまでもなく、ハルカはくるりとこちらに向き直るや、俺にしっかりと抱きついた。
 反射的に抱きしめ返し、ふと左右を見渡す。相も変わらず人気はない。十分ほど滞在していたはずだが、今まで誰一人として通らなかった。
「……すぶすぶ」
(ん?)
 擬音を一秒ほど反芻し、内容を理解して、俺はハルカの頭を軽くチョップした。
「いたい」
「溺れてるじゃねえか」
 不吉なこと言うな。
「今日のお兄ちゃん、厳しい」
 言葉とは裏腹に、ハルカは俺の胸板に顔を埋める。
 いくら風が強いし日陰にいるとはいえ、気温は南国の夏そのものだ。だいぶ暑いんじゃないかと思うのだが――かといって振りほどくわけにもいかない。しばらくそのまま抱き留めて、頭をなでてやる。
「お兄ちゃん」
「ん」
「ちゅーして」
「……ん」
 ここでか、と思ったが、人気の全くないこの場所はむしろ最適であると思い直す。念のためもう一度左右を確認してから、俺はハルカのあごに手を差し入れて、身をかがめた。

 今日訪れた海岸は、今泊まっている民宿の近くにあるところだった。沖側を要に見立てると、海岸が扇の縁の形をしていて、天の部分に小屋がある。
 俺は今、その小屋前の砂浜に座り、沖を泳いでいるハルカを眺めていた。
《あ、また魚通った》
 今のハルカは、水面に顔をつけて、ゆっくりと泳いでいる。水面から伸びているのはシュノーケルである。水中メガネとセットで真利奈さんから借りたものだ。かくいう俺もついさっきまで一緒にシュノーケリングをしていたのだが、俺の方がバテた――もとい、ハルカ一人で泳いでいても大丈夫であることを確認するために、先に休憩している。
 髪の毛から落ちる滴がようやくおさまり、俺は頭に手をやって髪を整えた。塩分でギスギスしているが、何もしないよりはマシだ。
《えっ何これもサンゴ? サンゴっぽい変なのあるよお兄ちゃん》
《そうか、後でそこ行くわ》
 沖と浜辺で、喉を介さずに、俺達にしかできない特別な会話を愉しむ。小屋に入らないのは、万が一の時にすぐハルカの元に向かえるようにするためだ。小屋まで離れると、ハルカからのツタの通信が届かない。

 この島に来て四日目になるが、今日のハルカは昨日より楽しそう、というよりはハイになっている感じがする。昼飯を食べているときにはやたらと俺の腕を触ってくると思ったら、さっき別の海岸に寄ったときにはいきなり砂浜を駆けていった(すぐに戻ってきたが)。そういえばハルカがまだ小さい頃には、多少の擦り傷も厭わずにはしゃぐ子だった。海と親しむことで、その頃の感覚に戻っているのかもしれない。とはいえ、砂浜ダッシュで往復した直後、突然足下のヤドカリを拾い上げて、海に投げ込んたのはやり過ぎだったと思う(一応叱った)。元気なのは良いことだが、クソガキになる必要はない。

「すいませぇん」
 ふと女の人の声がして振り向いた。
「ここの人ですかぁ?」
 深い谷間が期せずして真正面にあり、俺は慌てて視線を上げた。
「いえ、旅行客です」
 自分の動揺をごまかすように立ち上がり、声の主の正面に向き直る。
 かわいらしい女性だった。顔立ちからすると多分大学生、というか俺と同い年くらいの人である。ただ背は低い。多分ハルカより低い。肌の白さ具合からして旅行客だ。さらさらとした髪がそよ風になびいている。そして、明るい色のタンキニから、深い谷間が覗いていた。
「ヘアゴム忘れて来ちゃったんですけどぉ、コンビニ知りませんかぁ?」
 ああ、それは……。
「この島コンビニないですよ」
「えっ」
 女の人は意表を突かれたように目を丸くした。
 この島にはコンビニは――少なくとも、コンビニチェーンの店舗はない。あるのは商店で、しかもほとんど中央地区にしかない。この辺にはそもそも店がないのだ。
「ほんとですかぁ」
 その事実を説明すると、女の人は顔に手を当ててショックを表した。まあ知らないなら驚くよな、と思う。事前に聞いていた俺ですら、実際に島に来てびっくりしたし。
「あ、すいませぇん、私、エミリって言いまぁす。お兄さんのお名前はぁ?」
「正人です、けど」
 しかし、女の人――エミリさんが自分の名前を名乗ったときには、先ほどのショックが嘘のように、にこやかな表情になっていた。どうやら、実際にはそんなに驚いていなかったようだ。
 そしてちょうど、会話の中に漂う違和感が像を結び始めたときだった。

「お一人ですかぁ?」
「正人さんっ!」
 エミリさんがそう問いかけたのと、ハルカが叫ぶように声を上げたのはほとんど同時だった。

 振り返った視線の先にいたハルカは、いつの間にか浅瀬まで戻っていて、しっかりと海底を踏みしめて立っていた。少し慌てた様子で水中メガネを外しつつ、こちらに近づいてきていた。シュノーケリングのために着けた足ひれでジャバジャバと水音を立て進んでくる様子が、あたかも大型ロボの動きを思わせた。
 やがて水中メガネを頭から抜き取り、ハルカの視線が俺を射貫いた。顔に張り付いたままの髪の毛が、何故かホラー映画の怨霊を連想させる。
「妹さんですかぁ?」
(ヤバい)
 エミリさんの言葉には、何らの感情も乗っていなかった。ただ、思ったことを口にした、という様子だった。
 しかしその言葉が何をもたらすのかは、火を見るより明らかだった。

 のっそのっそと音がしそうな雰囲気浜辺にたどり着いたハルカは、そのまま俺とエミリさんの間に立ち、言った。

「正人さんの彼女です」

 ハルカの重い声が、俺達に届いた。途端、エミリさんは俺とハルカを見比べるように目配せした。

「……そうなんですかぁ?」
 心持ち厳しい目つきで、エミリさんは俺に確認を求めてきた。
 幸いなことに、その答えを言うための逡巡は、ちょうど終わっていた。
「ええ、俺の彼女です」
 だから俺は即答し、ハルカに歩を進めた。「足下気をつけろ」と軽く声をかけると、ハルカは俺に身を寄せて、腕を繋いできた。

「えみりー!」

 俺の背後、小屋のあたりから声がかかった。振り返ると、女の人が二人、こちらに向かってくる。 

「さーせん、あのマヌケが」
 口に煙草をくわえつつ、やや苦々しい表情で頭を下げているこの女性は、ミヒロと名乗った。浅黒い肌はいかにも色が整っていて、自然日光ではなく日焼けサロン――もちろんこの島にそんなものは存在しない――で焼いたものだと伺わせる。背がだいぶ高いし、胸もそれに応じた大きさがある。
「ミサカイないなー」
「だってぇ」
 その後ろでエミリさんをからかっている人はセリナさんという。ミヒロさんほどではないが、こちらも肌を焼いている。ビキニ姿ではあるが、この距離でもはっきり分かるほど派手なネイルを指に施していた。
 こうして三人並べば、エミリさんが放っていた違和感の正体も分かろうというものだ。「養殖モノ」である。

「私こそごめんなさい」
 ハルカは儀礼的に謝ったが、声色が固い。へそを曲げているのは明らかだった。
「エミリお前ちゃんと謝れぇ!」
「えぇー」
「カノジョの真ん前で逆ナンはギルティっしょ」
「でもぉ。…………ごめんなさい。取る気はないです」
 二人に促され、エミリさんは渋々自分の非を認めた。
「気にしないで下さい」
 今度のハルカの声は、さっきより明るかった。けじめをつけてもらえて納得したのだろうか。
「正人さんがおっぱいに目がないのが悪いんです」
「おい何でだよ!」
 いきなり矛先が俺に向いて、俺は思わず声を上げた。
「俺何にもしてねえぞ」
「よくゆうよ。さっきからずっとちらちら見てんじゃん」
「見てねえよ思い込みだろ!」
 単に視界に入ってるだけだ、この距離じゃ目を逸らした方が不自然だろ!
「でも視線を感じますねぇ」
「チョーシにのんな」
 エミリさんが大きな胸をわざとらしく隠し、標準的な胸のセリナさんがエミリさんの背中をはたく。
《俺、何にも悪くないよな……》
《どうだろ》
《どうだろって何だよ》
《別に》
 俺の嘆きはツタで聞き流され、女子四人の話し声の中に埋もれていった。

 この島で見る星空はどこで見ても綺麗だけど、ここに来ると、まるで宇宙空間に放り出されたような気分になる。普段のテンションなら、オバケが出そうなあの道さえなければ、きっと一人でも来たいと思うだろう。
 お兄ちゃんがゴザを敷いている間、私は一人で空を見上げる。少し頭がぼうっとしていて、何も考えないでいた。ほどいている髪の毛が弱い風に揺れる。

 ここに来るのは、おとといより遅かった。

 何となく「来よう」って気分にならなくて、誘ってくるお兄ちゃんに返事をしなかった。何回か聞かれて、何回も答えないでいると、お兄ちゃんは、「じゃあ、今日も屋上にするか」って言った。

 宿の屋上は、きのうの夜、ここに来る代わりに昇ったところだった。宿のみんなで屋上から天体観賞会をした。他のお客さんと一緒に、飲みながら(私達はジュースだけど)星を見るのも楽しかった。私達以外のお客さんは島での最後の夜で、みんな今日の船に乗って帰って行った。
 だけど、みんなと一緒にいたから、部屋に戻るまで、お兄ちゃんと二人きりにはなれなかった。だからお兄ちゃんは今日、こっちに来ようとしたんだけど、私の機嫌が直ってなかった。だけど、昨日みたいに屋上で過ごして終わりにするのも、ちょっと嫌だった。だから私はツタで一言、こっちのがいい、とだけ言った。

「ハルカ、できてるぞ」
 気付いたらゴザはとっくに敷き終わってて、お兄ちゃんが寝っ転がるところだった。じゃりじゃりという足音と一緒にお兄ちゃんのところに近寄って、空いてるゴザに寝そべった。

 私達はそのまま、星を見続けた。

「昨日の鑑賞会も結構良かったけどな」
 お兄ちゃんがぽつりと言う。
「ハルカと二人だと、やっぱり違うな」
 私の右手が温かくなった。お兄ちゃんが私の手を握っていた。

 お兄ちゃんが私の機嫌をとろうとしているのはもちろんわかってて、またちょっと嫌な気持ちになった。
 お兄ちゃんに、ではない。エミリさんだって、悪いわけじゃない。エミリさんは、お兄ちゃんが彼女連れだって知らなかった。エミリさんは、良い人だ。あの後、機嫌が不安定になっていた私とずっと付き合ってくれた。エミリさん達は私達と同じ宿に泊まっている。さっき夕飯の時にもお話した。

 とにかく、私が嫌なのは、そんなことじゃない。

《まだ怒ってるか?》
 ちょうどお兄ちゃんが、そんなことを言ってきた。
《別に、怒ってないよ》
 お兄ちゃんには、と心の奥で付け加える。そのままお兄ちゃんの手を、ぎゅっと握り返した。
「そっか」
 柔らかい言葉が耳に入ってくる。私は目を閉じて、モヤモヤを心の奥底にしまうことにした。
 そして、お兄ちゃんの手を引っ張って、お兄ちゃんの上に覆い被さった。

「星、見なくて良いのか」
「うーん……もうちょっと」
「そうか」
 もう少しだけこのままでいたくて、私は星よりお兄ちゃんの胸板を選んだ。うつぶせだから星は見えないけど、その代わりにお兄ちゃんの匂いが、ほんの少しだけ、私の鼻をかすめる。

「……やっぱりちょっと、ドキドキする」
「あー……だよな」
 お互いに聞こえるくらいの声でしゃべる。だけど、お兄ちゃんは一昨日の声とは全然違って、落ち着いていた。

「……でも」
「でも?」
「……ちょっとワクワクする」

 実は昨日、日が落ちる前に、この場所の近くにお兄ちゃんと来ていた。この場所からちょっとだけ北の方。
 真利奈お姉さんがいうには、ここは将来、空港になるかもしれないところで、今のうちにちょっと工事して、綺麗にしてるんだって。だけど、島の決まりで工事は夕方までだから、夜はナイトツアーとかで星を見に来る人くらいしかいなくて、しかも明かりが無くて危険だから、こっちには絶対入ってこないんだって言ってた。
 明るい時間に来て、この場所をよく見た私達は、一言だけ言葉を交わした。
「これは、誰も来ないな」
「うん」

「ハルカをそんな女の子に弄った覚えは無いぞ」
 からかうような声で、お兄ちゃんが言う。
「よくゆうよ。恥ずかしいこと大好きにされちゃったのに」
「恥ずかしいことって、そういうことじゃねえよ」
「知ってる」
 私はお兄ちゃんに見られるのが大好きにされただけ。だけど、いざやってみると、こういうところでちょっと恥ずかしい思いをするのも、そんなにいやじゃない。
「私、魔女だもん」
「他の男には見せるなよ」
「わかってるよ。水着だけにしとく」

(……あっ)
 ふと、私の奥の方がムズムズしてるのを感じた。

 ムズムズしているのは、目が覚めてから、何回も。

 ほんの一日、してないだけだった。今まで週二回だったし、それで困ったことはほとんどなかった。

 だけど、今日は違った。

 朝起きたとき、お兄ちゃんの体温が気持ちよくて、なかなかベッドから起きられなかった。
 暑くて汗かいてるのに、展望台でお兄ちゃんから抱きしめてもらったり。しかも、お兄ちゃんのにおいを嗅ぎたくて、すんすんしたり。
 その後もことあるごとに、ほとんど無意識に、お兄ちゃんの腕を組もうとした。

 さっき海岸であんなことがあってからは、少し収まってはいたんだけど。
 お兄ちゃんの匂いを嗅いでたら、やっぱり、ぶり返した。

《お兄ちゃん》
《ん?》
《いいよ?》
《そうか》
 お兄ちゃんを待たせたのに、先に私の方がガマンできなくなったのがちょっと恥ずかしくて、口では言えなかった。
 波の音が、また遠くから聞こえて。
「ハルカ」
 そして。

「服を脱げ」

 どくん、と心臓が跳ね上がって。
 私はたまらなくなって、上半身を起こして、ブラウスに手を掛けた。お兄ちゃんの視線がおなかに突き刺さって、かっと熱くなる。
 それでも私の手は止まらなくて、私の上半身はブラだけになった。キャミをぽいっと捨てる。他に誰もいないと分かっていても、そわそわする。キャミを脱ぐだけなら水着になるのと変わらないのに、その下にあるのが下着に変わるだけで、すごくヘンなことをしてる気分になる。
 いつのまにか、息が荒くなってた。
「お兄ちゃんも、脱いで」
 ブラのホックに手を回しながらお願いすると、お兄ちゃんもごそごそとシャツを脱ぎだした。私がパンツとショーツを引き下ろすのと同じくらいに、お兄ちゃんもトップレスになる。

 暗闇の中、お兄ちゃんの胸板がぼんやり目に入って、キュンとした。

「脱いじゃった」
 お兄ちゃんがパンツを脱ぐのを待って、私はもう一回、お兄ちゃんの上に腰を下ろす。
 自分の胸が目に入った。私のそこは、お兄ちゃんのおかげで、ちょっとずつだけど「一人前」に近づいていた。乳首はもう大きくなって、えっちになってる。

 だけど、まだお兄ちゃんを魅了するには足りない。
 私は、お兄ちゃんが目を離せなくなるくらいの大きさが欲しい、と思う。

「一昨日とはえらい違いだな」
「うん」
 おとといは、もっともっと不安だった。外でえっちするなんて初めてだったし、誰かに見られてるんじゃないかって怖かった。
 だけど、今日は違う。不安はちょっとだけ。それどころか、ここから何してもだいじょうぶって、思っちゃう。
「お兄ちゃん」
 だから、私は。
《……『ぐちゅっ』てして》
 お兄ちゃんに、おねだりした。

《今日は積極的だな》
 お兄ちゃんは少しからかうように言った。お兄ちゃんの手が、私の胸に伸びた。じわっとする気持ちよさが、えっちな気分と一緒に全身に広がっていく。
「もう固くなってる」
「んふっ」
 軽くつままれて、ぴくん、とした。夕ご飯の前、シャワーを浴びたときにも、ちょっとそんな感じだった。お兄ちゃんの匂いを改めて嗅いだ今は、なんかもうダメで、いりぐちもとっくに濡れてる。
《そんなに弄って欲しいか?》
《うん、してほしい》
 ちゃんと伝える。
 おとといは、えっちはしてくれたけど、「ぐちゅっ」とはしてくれなかった。
 だから、今日は「ぐちゅっ」てしてほしい。

「わかった」
 してくれる、っていううれしさと、チクッてされる怖さ。お兄ちゃんの言葉から数秒、私はまるで、注射を待つ子供のようにじっとしていた。
 だけどすぐに、私の首筋に、細いものが触れる。入口を探るように、私の肌を撫でたと思ったら、
「っ」
 ぷすり、と二つ同時に、私の首の後ろに突き立てられた。
 お兄ちゃんのツタが、私の中に入っていく。針のように尖ったツタが首の肉に割り入って、私の大事なところ……本当なら誰にも触らせちゃいけないところを目指していく。
 私は思わず、お兄ちゃんの腕を掴んだ。やっぱり、ちょっと怖かった。でも、止めて欲しいわけじゃなくて、お兄ちゃんもそれを分かってて、ツタをどんどん、私の中に進めていく。
 頭蓋骨の中がほんの少し、もぞりと動いた気がして、やっと私は怖さを諦められた。

「んっ」
 感じるより先に、喉が動く。だけど、ガマンする。
 それは、一人の女の子としての、ささやかな抵抗。
 だって、いきなり声出しちゃったら、私が「これ」されるの、大好きみたいじゃない。
「うっあっあっあっあっ」
 でも、ガマンができるのはホントに一瞬で、あっという間にガマンする気もなくなっちゃう。
 今はもう気持ちよくて、そして、もっと気持ちよくなりたいって思ってる。「ぐちゅっ」ってされてるせいだって知ってるけど、私は逆らわない。だって、気持ちよくなりたいから。
「あっあっあっあっ、あっあっあっ」
 どろっ、と、身体の奥からとろとろがあふれてくるのを感じる。
 あたまを「ぐちゅっ」ってされると、すごくきもちよくて、わたしはお兄ちゃんにさからえないんだ、って思う。
《■■■■■■》
 あっ、ちくびえっちしなきゃ。
 わたしは「あっあっ」っていいながら、指をちくびにあてて、くりくりってした。きゅってするとつんっときもちよくなって、そうしたら、あたまをぐちゅぐちゅされる。
「あっあっあっあっあっあっあっ」
 きもちいいきもちいい。おにいちゃんほめてくれてる。そこで、わたしはお兄ちゃんのメイレイちくびいじってるんだって、やっとわかった。

 お兄ちゃんのメイレイは、気持ちいい。

 あごがいつのまにか上がってて、空が目に入る。でも、にじんでよく見えない。
「あっあっあっ、あっ」
《■■■》
 おにいちゃんの入れなくちゃ。もっとほめてほしい。
 お兄ちゃんのアソコに手を添えて、わたしのいりぐちに近づける。
 おっきい。
 いつも、これがはるかに入ってるんだ、ってびっくりする。でも、入れなくちゃ。いりぐちぬるぬるだから、きっと大丈夫だ。
 一回深呼吸してから、ぐっ、と腰を落とす。
「はいってるっ」
 みちみちっ、とはるかの中を広げて、おにいちゃんのがはいってくる。もうくるしくてきもちよくて、はぁはぁって息が荒くなってた。
「あっあっあっあっあっあっ」
 おくまでいれたら、またおにいちゃんがきもちよくしてくれて、はるかのあたまがまっしろになりそうになった。

「きもちいい」
 私はやっと落ち着いて、お兄ちゃんの上に座り直した。気持ちよくなりながら何度か動かして、やっとぴったりくるところを見つけた。
 お兄ちゃんのは大きすぎて、私がほんのちょっと動くだけでびくんってしちゃって、もっと擦りたくなっちゃったりする。
 だけど今は、これからすることの方が大事だから、ガマンしなきゃいけなかった。頭の中が「お兄ちゃんすきすき」で一杯になっちゃったら、最後まで止まらなくなっちゃう。
 もう一度深呼吸して、お兄ちゃんの手を握る。お兄ちゃんの手のひらは少し湿っていた。

 真っ暗だけど、お兄ちゃんの顔が真剣なのが分かる。きっと、私の身体をツタで変えるのは、結構大変なんだと思う。お兄ちゃん、私の身体を変えるとき、すごく緊張してるから。
 だから私も、真剣になる。ちゃんと変えてもらえるように、お兄ちゃんを邪魔しないように、姿勢を安定させる。

「いくぞ」
「うん。……はんっ」
 頭の奥が、じんっ、って熱くなった。
「はぁ、あ゛あ゛あ゛、おおおお゛お゛」
 あたまのおくをぐちゃぐちゃされて、急にわたしがわたしでいられなくなくなりそうなきもちになった。
 こわくて、こえがとまらなくて、おにいちゃんにつかまる。
「あ゛はぅっ!!」
 ぐんっ! っとおっぱいがつっぱる感じがして、のけぞった。いりぐちがこすれて、あたまがいっしゅんまっしろになった。
「我慢しろ」
 おにいちゃんのこえがするけど、ガマンなんてできない。
 おっぱいが張っていく。
 お兄ちゃんがすきになっていく。
 お兄ちゃんのつごうのいいわたしに、ちかづいていく。
「あ゛ぅっ!!」
 なんかいも、なんかいも。
「お゛ほっ!!」
「もう少しだ」
「お゛お゛お、あ、あひっ、あ゛っひぃぃっ」
 おなかがきゅんとして、おっぱいがハレツしそうになる。いきがくるしくて、だけどそれもきもちよくて。
 わたしが、バラバラになっちゃいそうになって。
「よし、終わりだ」
 おにいちゃんのこえがして、ぴたっと、その感じがなくなった。するすると、あたまのおくからお兄ちゃんが抜けていくような気がして、からだのちからも抜けた。

「どうだ」
「うん、大きくなってる、と思う」
 自分で触ってみて、感じる。
 大きくはなってる。多分。
 だけど、破裂しそうな気分を味わったのは何だったんだろうってくらい、ほんの少しの差だった。一センチも増えてないんじゃないかな。
「今日はこんくらいだな」
 対するお兄ちゃんは満足そうに言う。私は拍子抜けな気持ちを抑えて、「そっか」と答えた。
 おっぱいを大きくしてもらうのは、気持ちいいけど、苦しい。お兄ちゃんはそれを分かってるから、ちょっとずつしてるんだろう。それは分かっているけれど、見返りが少ないことにがっかりするのは、別の問題だ。またすぐして欲しいと思うほどには、この重苦しい気持ちよさに慣れてない。
「よっ」
 お兄ちゃんが上半身を起こす。
「はぅっ」
 私の中のお兄ちゃんも動いて、おなかの奥がじんっと熱くなる。突然の衝撃にちょっと混乱している間に、お兄ちゃんに抱きしめられた。
「順調だぞ、ハルカ。頑張ろう」
 そう言ってお兄ちゃんは、ポンポンと私の頭をなでる。

 お兄ちゃんがそう言ってくれるだけで、私は次も頑張ろう、っていう気分になれる。単純だなって自分でも思うけど、お兄ちゃんの言葉は、ツタのメイレイじゃなくても、私にとっては時々、魔法みたいに感じる。

「お兄ちゃん、好き」
 私もお兄ちゃんを抱き返して、思いを伝える。
「ん、俺も好きだぞ」
 そう言ってお兄ちゃんは、身体を丸めて、私の唇を塞ぐ。
 やっとお兄ちゃんとキスができて、私の心はとろけそうになっていた。私は何回も、お兄ちゃんの唇を求める。
 ちゅっ、ちゅっ。キスの音が仄かに聞こえる。

 つぅ――っ。
「んひゃぁぁぁぁんっ!!!!」
 急にゾクゾクゾクっ! てして、私は飛び上がった。
 お兄ちゃんが背中を撫でていた。日焼けしているせいか、すごくビンカンになってる。
「お兄ちゃんっっ!」
 私は思わずキスを止めて、お兄ちゃんに文句を言った。
「はは、悪い」
 お兄ちゃんは悪びれもしないで、笑っている。そして、

「大きい声を出すと、誰かに見つかるかもしれないぞ?」

 お兄ちゃんに言われて、はっとしてあたりを見回した。
 そうだった、ここ、外だった。

「忘れてた」
「だと思った」
 誰も来ないって信じてたから、いつの間にか忘れちゃってた。

「まだ恥ずかしいか?」
「うん、でも、ちょっと慣れてきたかも」
「だよな」
 外でハダカになって、お兄ちゃんと繋がって、しかもツタを頭に刺して。
 でもやってみると、普段のえっちとほとんど変わんない。
 見られるかもって思ったら、違うんだろうけど。おとといはホントにビクビクしながらえっちしたし。
「ハルカは恥ずかしいのと恥ずかしくないのと、どっちが好きだ?」
「……お兄ちゃん、知ってるくせに」
「はは。ハルカの言葉で聞きたいんだよ」
「いじわる」
 答えは、決まってる。
 だって、私は、お兄ちゃんに、そうされたから。
 私は。
「恥ずかしい方が好きだもん」

 そうしたら、いきなり始まった。

「あっあっあっあっ」
 頭の奥がじんっ、て熱くなって、お兄ちゃんは私を変えていく。
「あっあっあっ、あっ、えっち、えっちはずかしい、はずかしくなっちゃ、なっちゃうっ」
《えっちは恥ずかしい》
 っていう価値観を、私に植え付けようとしているのが分かって。
 それは私の知っている価値観で。でも、えっちに慣れてきて、弱くなってきてる感覚で。
「あっあっあっあ゛っあ゛ぉっ」
 急にすごく気持ちよくなったと思ったら、いつの間にかカラダが動いてお兄ちゃんをぬいたりいれたりしていた。わたしはきっとぐちゅってされて、えっちなうごきさせられてきもちよくなってる。
「お゛っお゛っお゛っお゛っお゛っお゛っお゛っ」
 こえも、こしも、とまらなくなってた。
 あ、もっとしたい。はずかしいえっち、もっともっとしたい。えっちはずかしくて、はずかしいえっちしたい。
「あー、あ゛ー、あ゛ーーー、あ゛ーーー」
 はずかしいのにもっとしたくて、あたまがのぼせていく。

 ――はずかしい、のに?

 おかしい、っておもった。

 はずかしい「から」、もっとしたいんだ。

「あ゛っ、あ゛っ、なりだい! あっ、もっと、あっ、はずかしく、なりだいぃぃ! あっあっあ゛っあ゛っ」
「良いぞ、もっと恥ずかしくなれ」
 なかにはいってるお兄ちゃんに、はるかのいりぐちをぐっと押しつける。
 そういうことするおんなのこは、はずかしい。だから、しちゃう。
「ふんっ」
「あひぁぁぁぁっ!!」
 お、にい、ちゃん、が、ちょうど、つきあげてきて。あたまのなかがばちばちして、とんでいっちゃいそうになった。からだがくがくして、おさまるまで、ちょっとかかった。
「おにいちゃん、いまの、すごい」
「ん? もう一回やるか」
「うん」
 もういっかい、お兄ちゃんにはるかを押しつける。
 おにいちゃんが、つきあげる。
「あひぃぃぃぃんっ!!」
 はるかのあたまが、また、まっしろになって。
「すき、すき、これすき、もっと、もっと」
 きづいたら、お兄ちゃんにおねだりして。
 なんかいも、くりかえして。
「うわー、ヌルヌルだぞお前」
 はるかとお兄ちゃんのつながってるところが、どろどろになっちゃってた。ぎちぎちなのに、すっごくうごきやすい。きもちいい。
「あたま、じんじんする」
 ぎちぎちでぬるぬるなお兄ちゃんをだしいれしてたら、あたまのおくのほうが、とろとろになってくる。
 あ。
「ああ、ああ、ああ、ああ、ああっ」
 ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん。
 だしいれ、だしいれ、だしいれ、だしいれ。
 これ、キそう。
《おにいちゃん》
《ああ、もうすぐ出すぞ》
 えっちなこえがとめられなくて、ツタでしゃべって。
「あ゛あっあ゛っあ゛っああ゛っあ゛っあ゛お゛お゛っ」
 ぱんぱんぱんぱん、お兄ちゃんが、はやくなる。 
 あ、だめ、だめ。
 はるか、とけちゃう。
「あ゛あ、あ゛あ、あ゛あ、あ゛あ゛、あ゛、あ゛」
 おにいちゃんが、うごいて。
 おにいちゃんに、だきついて。

 まっしろ、に、なって。

「あ゛、あ゛、あああ゛あ゛ああ゛ああ゛あああああーーーーーっっ!!!」

 エアコンの効いた部屋の中で髪の毛を乾かしていると、何となく贅沢な気分になるよね――とかいうどうでもいいことを考えながら、洗面台の隣にドライヤーを戻す。
 ドライヤーの音がなくなった部屋はもう静かだった。お兄ちゃんは疲れたのか、スマホもやめて、ベッドに横になってる。時計を見たら、普段寝る時間より遅い時間になってた。あの場所に行くのがやっぱりちょっと遅すぎた。
 私は部屋の電気を消して、お兄ちゃんの胸元に潜り込んだ。お兄ちゃんの体温は熱いけど、エアコンがガンガンに効いている部屋だから、大丈夫。島の夜は蒸し暑くて、このくらいにしないと快適に寝られない。
 お兄ちゃんはまだ寝てなかったみたいで、私が胸元に頭を突っ込むと、手が頭に伸びてきた。

 ――あー、しあわせ。

 頭をなでられながら、お兄ちゃんの匂いに包まれる。匂いのせいで、ちょっとえっちな気分になる。日焼けのせいでお風呂も気持ちよかったし、気持ちいいことがいっぱいだ。今は満たされてるから心地良いのだけど、そのうち、またしたくなっちゃうかも。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「……好き」
 私の言葉に、お兄ちゃんが少し笑う気配がした。
「ああ、俺も愛してるぞ」
 少し擦れた声で、でもはっきりとそう言ってくれて、私も思わず顔が緩んだ。お兄ちゃんの胸元に、ぐりぐりと鼻を押しつける。どうせ暗くてお兄ちゃんに見えないのに。
「どうした、甘え足りないか? ゆっくりできなかったしな」
「……私、子供じゃないもん」
「子供じゃなくても、甘えて良いんだぞ? 彼氏なんだから」

 …………ああ、まただ。

 お兄ちゃんの言葉は嬉しいのに、それと同時に、もやもやとした気持ちが、また復活してきちゃった。

 「嬉しい」と思っている方の私は、お兄ちゃんの顔までずり上がる。僅かな外の明かりで、お兄ちゃんの顔が浮かび上がる。
 私のくちびるを、お兄ちゃんのそこに合わせた。

《おやすみ》

 恋人の儀式を終えて、私達は眠りにつく。
 お兄ちゃんからは、すぐに寝息が聞こえてきた。

 ……こども……

 私は気づいたら、自分のおなかを撫でていた。
 その下には、見えないけどお兄ちゃんのツタがあって、さらにその奥には、赤ちゃんの部屋がある。そこにはさっき、お兄ちゃんが入ってきて、いつも通り、私の中にあったかいのを残していった。シャワーでちゃんと流したけど、きっと、まだ残ってる。

 今日のえっちのとき、お兄ちゃんの興奮がいつもより強くなってるのを感じていた。根拠は、なんとなく。だけど、間違いないって、思える。魔女のカンだ。
 それは、外でしたからかな? それとも、私が「一人前」に近づいたから?

 私は、大人になるのかな。どうしたら、大人になっちゃうのかな。
 おっぱいが大きくなって、お兄ちゃんを魅了できる。それは確かに一人前の魔女だけど、でも、それが大人かっていうと、最近ちょっと違う気がしている。
 同じ学年で、夏休みになる前におっぱいが急に大きくなった子、結構いる。なかには私ほどじゃないけど、年上の男の人と付き合ってる人もいる。身体の成長が早いのはきっと中翼学園にいるからなんだけど、でも、その子たちがオトナかっていうと、多分そうじゃない。おっぱいが大きくても、えっちしてても、そんなには――私が思うほどには、大人には見えなかった。

 そのことに、なんとなく安心してしまう私がいた。

 本当に、私、大人になりたかったのかな。
 それは、今も分からない。

 お兄ちゃんの彼女でいたくて。
 お兄ちゃんの彼女であり続けるためには、早く大人にならなきゃいけなくて。そうしないと、いつかお兄ちゃんを誰かに取られるかもって、不安になっちゃうから。
 でも、お兄ちゃんに頭をなでられると、嬉しくなってしまう「妹」な私は、最近、私の中でむしろ大きくなっている感じがする。

 お兄ちゃんは、本当の「お兄ちゃん」じゃない。
 私が大人になったら、きっと、兄妹ごっこは、辞めないといけない。

 考えるたびに、頭がもやもやして、わからなくなる。

 もし、赤ちゃんができたら?
 赤ちゃんができたら、私は「お母さん」で。
 私が「お母さん」になったら、さすがに大人だと思うんだ。少なくとも、おっぱいが大きくなるよりは、確実に。

 お兄ちゃんとの赤ちゃんは、いつか欲しい。
 でも、やっぱり赤ちゃんが今欲しいかって言うと、ほんとは、別にそうじゃない。きっと大変だろうし。

 だって今は、お兄ちゃんの、お母さんだって――

 あ……っ。

 マズった、と思ったときには手遅れだった。私は、地雷を踏んでいた。
 気持ちがずぅん、と重くなって、心の奥底から、くらい、黒いもやがもくもくと沸いてくる。

 私は深い自己嫌悪にまとわりつかれて、寝苦しい夜を過ごすことになった。

< つづく >

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