key 第二章の12

第二章の12

 くいなの指輪で探知した所、部屋に満たされたこの鉄の厚さは7メートルもある。
「くいな―――」
「えぇと…この部屋で間違いないはずなんですけど…」
 自信なさ気にくいなが呟く。
 …おそらく、くいなは間違っちゃいない。

「どういうつもりだ」
 俺が虚空に声をあげると部屋に声が響いてきた。
(ごめんごめん、指輪を使ったらペナルティだって言うのを忘れていたよ♪
 だから半分からは指輪の分だけ難易度を上げてみたんだけど。まぁ、これくらい余裕でしょ?)

「ち」

 嘘っぱちだ。
 こちらの破竹の勢いに怖気づいたのか、それとも雪花の抵抗が思いのほか強いのか時間稼ぎが必要になったのだろう。
 普段の佐乃やアスモデウスの剣でなら鉄板や鉄柱程度なら切れる。
 だが、ここにある鉄塊、これでは刃が向こうまで通らない―――

「…っ、くそっ」
 毒づく。ヤツめ、端っから真っ当な勝負をするつもりはなかったらしい。
 あくまで自分が勝つ事が前提のゲームだと言う事か。
 焦る。焦ったら焦った分だけ向こうの思惑にはまる。が、これ以上、時間を―――

……れっはーだれっだーだれったー♪

「ん?」

 そのとき、信じられないものが、現れる。

「ぁれっはーだれっだーだれっだ~♪」
 周囲にこれ以上は版権的にヤバい曲がヤケにデカい音でドップラー効果を伴って段々と近づいてくる。
 明らかに地上数十メートルはあるこの部屋に向かって一直線に、その音は近づいてきて―――

「とおぉぅっ!
 ディヴィルまんっ、参っ上オオオオぉぉぉぉごぶぅっ!」

 科白の後半部分から背後の壁を自分の形にブチ抜いたそれは、勢い良く壁のすぐ向こうにあった鉄塊に自分の姿をスタンプした。

「…………………なんだ、オマエは…」

 本来なら突如として現れたソレ、に驚嘆すべきなのだろうがあまりにもアレな出現だったために二の句がつげない。

 特徴としてまず第一に挙げられるのはその肌の色か。この地上のどの人類にも属していない青緑。しかも衣類は着ていないように見える。股間をはじめとする数箇所に肌着なんだか自毛なんだか分からないモノを纏っていた。 

 ちなみに触れなかったが一応、女の体だ。

「んっ、んんんぅぅっ、んんんっんんんんんんんんっ、悪い子はいねがああぁぁっ!」
 なんかナマハゲが混じってる。

「…だから、誰だオマエは」
 突如として現れたソレ、に警戒すべきなのだろうがあまりにもアレな反応のために呆れることしか出来ない。
「……ん?」
 聞かれたそれ、はようやくこちらを自覚したらしい。
 ばっばっば、と、いちいちポーズを変えてくる。鼻血を流しながら。
 そして、その度にデカい胸がぷるんぷるん震えるのだがその青緑色の肌色が獣欲が起こるのを許さない。

「ん~?誰だオマエは、と、聞かれたからには答えねばなるまい。
 我はディッヴィール!ディッヴィールっっ、まんっ!女だけど、中のヒトというかアクマは男だから、まんッ!」
 指に嵌った指輪を見る限り、というかそんな姿をしているってことは指環使いなんだろうが―――

「帰れ」

「そんなっ!?コトの始まりから向こう3km離れた所からディヴィルアイで透視していたと言うのにっ!?」
「すんな、つーか、そのディヴィルまんが何のようだ」
 漁夫の利を狙っているのなら最上階にいるであろう雁屋との戦いが終わった後に出てくればいい、雁屋と手を組んでいるのならこんな所で現れず、もっと油断しそうなところで奇襲をかければいい。

 詰まる所、コイツの登場した理由が分からない。
「うむ、ワタクシ様の力でしか解決できない状況っぽいので助けにきたわ」
 あ、一応、女言葉で喋るんだ。
「…んならはよ助けにこんかい。そもそもぽいってなんだ。ぽいって。
 そもそもオマエがオレを手助け理由は何だ」

「はっはっは、ヒーローは窮地に陥ったときにやって来るものよ!」
 びしィッとウィンクしながらいちいちポーズをとってワケの分からないことを言ってくる。
 …目の前の相手は話が通じない相手っぽい。
「…まぁ、いいや。やれるもんなら助けてくれ」
 こちらに害意はないらしい。が、いつまでもこんなのを相手にするのも時間のムダだ。とりあえず放置することにした。

 よし、任せなさい、となにか言っているが無視する。
 こんなのに頼るのも馬鹿馬鹿しい、他になにか手は―――

「刮目なさいッ!んっ!んぅうううぅぅぅぅ~~~っ!!ディヴィルヴィ~~~~~~むっ!」

 ちゅぃんっ

「ん?」
 間抜けた叫びの後、やたら健康に悪い肌の色をした女の瞳から小さい閃光が目にも止まらぬ速さで俺たちの間を通過し、鉄壁に直径2センチくらいの穴を開けつつ何もなかったかのように通過する。
 そして―――

 どっっ!! ごおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!

 その奥のずっと奥、はるか海岸線の果てにあるであろう、数十キロ先にある海浜コンビナートが瞬く間に炎上する!

「………は?」

 
 なにが おこったか わからない。

「あら、いゃん。ちょっと出力を出しすぎたわ。再度行くわ。ディッヴィーるっ……」
 分かりたくないが! 俺は瞬時に叫ぶ!

「っ!全っ員っ!部屋から出ろォッ!」

 瞬時に配下の全員がオレの声に従い、羽の生えた人型に空いた穴から部屋を出て行く。そして、最後の俺が出て伏せると同時に

 部屋が、爆砕した。

「ほ――ほっほ!どうっ!?ディヴィルヴィームはぁはぁかいりょくぅっ!」

 ちげぇっ!熱光線だろうっ!口を開けて肺が灼けなければそんなツッコミをしようと思いながら赤く燃えたぎった世界で腰を当てて笑い出す半人半魔を睨む。
 あの爆発の中にいたにもかかわらず、その肌には傷一つついちゃいない。
 …コイツ、バカだ。バカだけど途轍もなく―――強い!

(つまりは手に負えないってコトじゃねーか…)
 あのオカマ…多分、こうなると分かっててコイツに指輪を配りやがったな。
 唸る。

 …ホントなら礼の一つでも言って先に進むべきなんだろうがコイツは放置しておくには危険すぎる。
 仕方ねぇ…しかも相手が相手なだけに手段も選べない。
 周囲の空気が息が出来るようになったのを確認すると俺は息を吸い込み魔王の名前を宣言する。
 俺はポケットの中に入れていた指輪をセェレの指輪と入れ替える!

「―――アスモデウス!」

 ……だが、いつもは瞬時に現われるはずの剣が現れない。
「あぁ?アスモデウスぅ?ねぇ、アスモ、このワタクシ様に、上官のアバターでもあるこのアモン…じゃなかった。ディヴィルまん様に刃を振るうっての?」
 意外なその一言が場を支配する。

「な…っ!?」
(……そういうことだ。滅ぼしたいほどにバカで考えなしでロクでもないがアレでも立場的には無視できない)
「…っ!テメェがそんなタマかよっ!」
(………………)
 そのまま何も聞こえなくなる。

「ちっ」
 毒づく。が、状況としてはかなりマズい。何しろこちらに敵意があると知れたのだ。
 口をつぐんで向こうの出方を見る。が、向こうはただあっけらかんとこっちを見ているだけだった。
「………なんだぁ。ヤらないの?それじゃ行くわ。さよなら少年。機会があったらまた会いましょう。ほーほっほっほ!」

 俺の敵意に毒された様子もなく、そう言って飛び去っていく自称、正義の悪魔。

「あの…ご主人様、私のアスタロスなら…」
 アスタロスが華南に語りかけたのだろう、華南が進言してくる。

(確かに、アスタロスのねェちゃんならアモンのヤツより、階級も、立場も上だな)
 オロバスが語る。

 人間にも言えることだが、王、すなわち魔王以上の階級はない。

(元々、アモンのヤツ自体は唯の侯爵だったんだが…時を経るに連れて上官たちの魔性を吸収しまくって力をつけたんだが…
 どうやらそれ以上にフェニックス同様、この地にはヤツに公爵位かそれ以上の王位と同等の能力を行使できる発条があるらしいねぇ、そこら辺、大将の方が詳しいかもしれんね)
 詰まる所、アスモデウス、セェレの上官でもある魔王の魔性を吸収し、著しく制限を喰らうことになったものの、その力と部下とされる悪魔たちに対しての権限は限定執行できる程度に強化されているらしい。
 この戦いにおいて71柱間の階級は指輪使いに行使されている段階で対等になっている、といえるが、アモンは限外から階級を行使してきた。

 そこで、71柱の中ではなく、地獄において最上位の三公にも数えられるアスタロスならその階級を凌ぐのだが―――そこまで言った華南の申し出を手を振って制する。
「…いい。こうなった以上、今はせっかの方が優先だ。つーかあんなの相手にしてられるか。先に進むぞ」

 幸い、騒ぎにはなっていない。
 マンションの住人の暗示のみならず、周囲の人間に対しても幻視効果を発揮しているらしい。
 おそらく、音に関しても内と外で遮断もされているに違いない。
 あのアモンは当然としてこの建物を構築しているハルファス。存外、侮れない相手かもしれないな。
 部屋に関してもブッ飛んだであろうスプリンクラーのあった位置から水が撒かれ、火の勢いも弱くなりつつあるので延焼の危険性もないだろう。
 今は雪花が最優先だ。そう自分に納得させると未だ火の粉の飛び散る半壊した部屋の奥の階段に駆け出した―――

 それ以降は文字通り、このマンションの真骨頂であろう、人形との戦争となった。
 カラクリ武者から重火器を使用した無数の小型ロボットまで出てきたが、あからさまに時間稼ぎになりそうなトラップは無かった。おそらく、あのディヴィルまんの武力介入を恐れてのことだろう。
 無理もない。あの熱光線を最上階にブチ込まれようモンなら戦争どころの話じゃない。
 問答無用の虐殺だ。指輪ごと蒸発させられかねない。
 それは俺としても御免被る。そんなことになったら雪花の安全が保証されない。
 そして、こうなった以上、形勢は一気にこちらに有利に傾く。
 常軌を逸した妨害であろうと人形相手に指環使いが後れをとることはなかった。

 14F、全身に重火器を内蔵し、おっぱいミサイルを使うキリングドールを粉砕した後、不意にオロバスが自己の指輪から幻影を浮かべた。

(おぅい、ハルファス。本当の人形使いはこちら側にいる。しかも人形を作り上げる人形師はここにはいない。
 そして、こちら側の指環使いはオマエの模造人形を凌駕する……いい加減、最後のツメと行かないか?)

 状況を見かねたのか今日一日の出現権を使ったオロバスが出現して語りかける。と―――どこからともなく声が響いた、
(……騎馬こーし、キバコーシ。それはおゥ族としてのめィれィか?)
(いんや、契約者の元にいる以上、オレっち達の立場は対等だ。
 ただ、人形師の人形を識るモノとしてアンタの拙い技を見るのは忍びなかっただけさな)

 …あぁ、思い出す。オロバスとリンクした精神世界。あの世界でオロバスは幾多もの人形に囲まれていた。
 そう、まるで魂を吹き込まれたかのように動き回る、まるでニンゲンのような―――
(…………)

 すると次の上階、15Fからの妨害がなくなり…というよりも最上階まで届いているであろう螺旋回廊が出現した。

「…人形使いと人形師、ね。人形師はそこそこ予想できるが人形使いってのは…?」
「さてねぇ、ま、その内わかるっしょ。それよりも妹ちゃんトコ行かんと」
 珍しくオロバスがはぐらかす。
「…わかった」
 言う必要がないと判断したのか、それとも言いたくないことなのか、気にはなったがオロバスの言うとおり、今は雪花の事の方が先決だ。
 俺は眼前にあるドアを見据えて頷いた。

 20Fまで辿り着く、ドアはひとつだけ。新築マンションには不釣合いな荘厳な入り口は走査する必要なんかなかった。
 まるで教会の入り口のように誰も拒むわけでなく、ただ、ゆっくりと自分から開いていった―――

 中に入る。

「ようこそ、ボク達の結婚式へ、みんな」

 気安く、まるで旧来の仲間に語りかけるように、親愛の情をもってこちらを見るでくの坊。
 その傍らには椅子に座り、焦点の合っていない目で微笑みながらこちらを眺める妹の姿があった―――

 少しの間別れていた妹は両手は天井から吊り下げられた鎖でつながれ、服も半裸に近い純白のウェディングドレスを身に纏わされていた。
「…っ!ンの野郎…っ!!」
 黒々とした純然たる殺意が俺の中に巻き上がる。
「さ、来賓も着たことだし、結婚式を始めよう、じゃないとせっかたんとの初夜を―――」

「黙れ。これ以上しゃべるな、この豚野郎が」
「……口が悪いお兄たんを持ってせっかたんは可哀相だなぁ。ちょっと待ってて、ケッコンできるお兄たんであるボクが悪いお兄たんを退治してあげるからね」
 いちいちカンに触る物言いをしてこちらを舐めるような視線で眺めてくる。

 にしても…成る程、な。短時間で雪花をここまにできる暗示は本人の最も弱みになる部分を突かなきゃいけない。
 本来なら心も読めないコイツにそこまで出来るハズないんだが…コイツの妄想癖がそいつと合致しちまったらしい。
 それにしても結婚できる兄、ね。なんともまぁ、ウチの妹も負けず劣らず夢見がちだ。

「さ、式の余興だ。お兄たんのカッコいい所を見せてあげるよ」
「…ふん。で? どう相対するつもりだ?
 オマエが頼りにしてる人形は一切通用しない。大人しく指輪を渡すんだったら半殺しで済ませてやる」

「……分かってないのかなぁ。ここが―――どこなのか」

 そう言うと雁屋が優雅に指を鳴らす。

 すると、

「ぐぁ…っ!これは…っ!?」

 これまでのこちらの主力―――華南と夜鷹、それに佐乃が地面に縫い付けられたかのように膝をつく!

「え? なんで…!?」
 無事だったくいなが疑問の声を上げる。
 そう、立っているのは俺とくいなだけだった。
 くいなと他の従者たちとの相違を考えればこの事象の説明はつく。
 指輪の所有数による拘束、か…

「法則による拘束とはな…
 見かけによらずやるじゃねーか」
「そちらこそ、あっという間に見抜くなんて、褒めてあげるよ」
 ちっ、余裕は崩れちゃいない。やっぱ思ったとおり、ハルファスの力はこれ以上の力があるってことか。

「くいな、コレをソイツ等に付けさせろ」

 そういってベリアルの指輪を使って仮契約させた指輪をくいなに3つ放って雁屋と対峙する。

「ふぅん、今まで子分たちに頼ってきた王様にナニが出来るって言うんだい?」
「さて、な……やってみてからの―――お楽しみだ!」

 セェレを使って瞬間移動しようとするが案の定、発動しない。
 この異空間の中においても瞬間移動は使えないってことか。
 なら―――
 俺はダンタリオンの指輪を雁屋の影に打ち付ける!

ばちぃっ!

 コレもムリかっ。

「なにしてんの?何か小細工しているようだけど―――
 なにをしても無駄だよ。
 そう言うと虚空に向かって腕を横に殴りつける!すると―――

がっ!

「ぐぁっ!」
 横から殴りつけられるような衝撃に思わずよろめく。

「ははははっ!もう一発いっておこうか―――!」
「ちぃっ!―――フールフール!」

 カッ  どぅんっ!

 
 閃光が奔ったかと思った後にやってきた耳をつんざくような雷鳴がこのマンションを中心に鳴り響く!
 と同時にここら一帯の電源が負荷に耐え切れず一切の人工光源が消え果てる!

「なっ―――っ!!!」
 そして、この空間がハルファスによるものであったとしても得られる電力は総てこの建物の外で造られているもの。そしてその一切を過負荷によって吹き飛ばす!
 あまりの過負荷に部屋にあった電球が全て弾け、部屋が闇に包まれる。

「まさ、か、これを狙って―――ッ!」
「狙うまでも無い、当たり前の戦略だ。コレでオマエは見えないし、聞こえないっ!」
 予告無しの轟音に耳がイカレないワケがない。
 あとはこの暗闇に乗じて接近し、いつもと同様にダンタリオンの指輪で―――

 が、それもあと数歩、手が届く寸前で雁屋の表情が一変する!

「―――なーんて、言うと思った?」

 と同時に部屋に光源もないのに灯かりが満ちる!

「な――――――っ!?」

 以外にもそれは雁屋が発した言葉だった。
「視えない!?何で!?」
 言っただろう、オマエは[見えない]し、[聞こえない]と。

 笑いながら駆け寄る俺の指にはNo.44のシャックスの指輪が嵌っていた。
 オマエが言ってることなんざ百も承知。
 その状況をオマエが利用することも把握済み。
 聴覚がイカレていようがイカレていまいが、同じ状況を作り出してしまえば良い。
 奏出があの赤い指環使いを撃破して手に入れたあの指輪、その効力は指輪をしていてもその声を聞いた俺に機能した―――!

 あと一歩まで駆け寄る。よし、これで勝ちは貰った!

「くっそおおぉぉぉぉぉぉぉっ!なぁめぇるぅなよぉぉぉぉっっ!!!」」

ずおぉぉぉぉぉっっ

「――――――!!」

やべぇっ!

 雁屋が叫ぶと同時にヤツの周囲の足元の床が変化し、無数の錐状になって俺の脚から膝までを文字通り串刺しにする!

「ぁぐぁっ!」

 そう言ってバランスを崩し手をつく!
 思いがけない激痛によってシャックスの能力が解除されたのか雁屋の目が俺を捉え、再び距離をとる。

「ははっ!お兄ちゃん、なんの為に城なんて持ってるんだい!?
 侵入者を駆逐し、己が身を守るための異界を創り出すためだろう!?
 言わばここはボクの思い通りになる世界!入った時から勝敗は決していたんだよ!
 愚か!なんて愚かなんだ!
 そんなことも分からなかったなんて!はははははははははは!」

 るせぇ…んなこた分かってたんだ…いや、結局こうなっちまったってことは分かってなかったってコト…か…

 …意識が朦朧とする。
「ご主人さまっ!!」
「烏君っ!」
 背後から華南と夜鷹の声が聞こえる。
「んなだって…んな、ちくしょ…っ」
 指輪の力を総動員して傷の治癒に入る…マズい。
 身体が動けるようになる前に雁屋が仕掛ける方が早い…っ!

 そう思ってはっとする。
 …いや、それは思いつきであり、確信だった。

「っ―――!」

ぱぁんっ!

 突如、俺の足に刺さっていた部屋の一部の一切が地表すれすれで切断され、疾風によって払われる。

 そう、漠然とした予想。
 だが、確実にこの状況を打開できるであろうカード。それが、今、雁矢の眼前に起つ―――

「…………」
 目を閉じて全てを遮断するようにただ、佇む少女。
「どうしたの、佐乃たん。
 今更、ボクのお嫁さんになりたいの?どうしてもって言うんだったら許して上げる、だからボクの足を…」
「断る。姫だけではなく、お館様までよくもやってくれたな、貴様」

 既に身内の者を貴様と言った。この声…これまでの佐乃とは違う―――

「なに?まだやる気なの? だぁかぁらぁ、もう決着ついちゃってるんだよ」
「なら、なぜ貴様は某に仕掛けてこない」
「! な…そ、それは……」
「許婚の約束を破ったというのならキサマがまず復讐すべきなのは某だろう。
 なのに何故、某を無力化までしたというのにそれ以上、仕掛けてこなかった?」

「そ…それは旧知だから―――」
「旧知?まだ某の気を引きたいのかは知らんが……
 安心しろ、私が貴様に靡くなど欠片もない可能性だ」

「―――っっ!!
 ……ははっ、ははははははははっははっ! そう…そんなにボクのフィギュアになりたいんだ。だったら望みどおりしてやるよォッ!」
「易いな。だが、落とし前はつけてもらうぞ……お館様」

 振り返らない。ただ這い蹲った俺が見上げたその背中は俺の言葉だけを待っていた。

「…あぁ、好きにしろ」

「はっ」

 佐乃の問いかけに応、と答え、真剣を構え、そびえ立つ。

 …そう、心の中にそれは在った。

 俺に語りかけるように佐乃が想い描いたそれは推進剤となり、佐乃を突き動かす。

 人を殺してでも生きる意味。 佐乃の答えは―――無。

 それこそが佐乃の出した答えだった。
「はは…お館様でも見誤ることがあるのですね。私が剣を振るう理由はここに在り、そしてどこにもない―――」

 そう、人を殺してでも生きる理由など、ない。
 それはまるでこの方達への想いに似ている。
 理由など、ない。ただ、そこに相手がいるだけ、それだけでそれは成立する。

 剣聖、剣王、剣客。言葉にすればどれも美しく聞こえる。
 だが、その本質はどれも同じ―――綺麗なものなんかじゃ、ない。
 ただ、彼等が剣を振るって護った者と彼等に敗れた者達が彼等を評した言葉に過ぎない。

「申し訳ございません。某のそれは貴方の高貴な想いの足元にも及びせんでした」
 もともと不器用な表現しかできなかった。
 初めて好きになったのも普通とは言えない。自分に対して屈託なく笑ってくれた女性(ヒト)だった。
「…あぁ、そうだ。この方たちを守るために私はあるのではなく、剣を振るう自分がただそこに在るだけなのだ」

 剣を振るう、いや、既に身体の一部となったそれを振る。

 切っ先は見えない。それほどに早かった。

 だが、関係ない。空間は依然としてそこにある。

 しかし、それこそが異常だった。
 何故なら佐乃が剣を振るった空間―――そこには俺がいたのだ。

 そして、俺の脚に刺さったままだった床がモノのみが切断され、空いた穴の治癒が開始される。

「なっ!」

 驚く雁屋。だが、当の本人は自分を嘲笑っていた。

「何を…気負って…気取っていたんだろうな、私は、こんな……こんなことで」

 剣を振るい、傷つける。
 剣を初めて握った時、これで強くなった、とは想わなかった。
 師たる祖父に諭されたのはただ一つのこと。
 刀を持つということは誰かを傷つけるということ。

 それが剣客たる遼燕寺家の業なのだと。
 故に、誰かを傷つけるのは当たり前であると。
 傷は癒える。だが、過ぎたそれは命を奪う。
 失った命は消して癒えない。
 それ故に罪深い行為であるのだと。

 師は寂しそうに笑っていた。
 だが、だからこそ。この剣に価値などなく、この剣は何よりも重いと―――

 剣客少女はこの時、初めてその言葉の意味を知った。
 ただ、眼前を見る。
 それは負っていた我武者羅な生真面目さとは違う。
 いや、生真面目さと熱気は在った。
 だが、それまで自己主張するように放っていたそれは水面には現れず、水面の下、佐乃の持つ日本刀の内に秘められていた。
 
 そして、俺と華南、そして夜鷹はこう思う。

 …あぁ、お前もこちら側に来るのか。

 俺達がいるここは高貴な幻想からはほど遠い。
 だからこそ、本当はそちらへ行って欲しかった。
 ここは、ヒトが真に笑える場所じゃない。常に付きまとってくるのは後悔と慙愧の念。
 泥沼の深淵。
 決して、永劫に、癒されず、赦されない。
 こんな場所に来なくていいのなら来ない方がいい。

 だが、少女は選ぶ。

 それが己の誇りとなるのだ、と。
 真っ赤に染まるであろう血まみれの地に突き刺さった刀を取る。
 そして、凜、と刀はそれに応える。

遼燕寺 佐乃 真伝皆伝―――

「この世界が貴様の思い通りになる…?笑わせるな」
「な…なにを……」
 雁屋がうめく。が、何の冗談かそれと同時に佐乃が剣を振るった空間そのものに切れ目が走っていた。

「―――ならば、その一切を切り伏せて見せよう」
 佐乃の眼光が雁矢を射貫く!

「―――マルコシアス卿」
 応、と誇り高き狼頭の魔神が佐乃の背後に幻影となって現れ、まるで乗り移ったかのように佐乃に在るとされる、その回路を蒼白く発光させる!
 それは必要なモノ以外、必要としないようなシンプルさを訴えかけていた。
 細くしなやか手足に走る小さい丸とそれを繋ぐ曲線でできたそれは―――胴には帯留めのように腰回りに小さく走っていた。

 ……もし、これまでの戦において佐乃が全力を出していなかったとしたら、どうなるか。

 …いや、今の言い方には語弊が生じる。
 剣の切っ先だけが音速を超えていたこの少女がもし、人間であるが故の肉体の脆弱さの点でのみ、全力を出せず、壁を超えて戦えていなかったとしたら―――
 そう、あの回路の紋様は千歳の使役する魔神、その身体強化にのみ魔力を費やしたサレオスのそれと酷似している―――!

「いくぞ」

 ―――それが、それから数秒で結末が訪れるまでに聞こえた佐乃の声だった。

 地表にミリも空けない距離で一羽のツバメが滑翔する。
 蒼白い燐光が幾何学模様の軌跡を描き、駆け巡る。
 広大な部屋の中、既に佐乃の姿は捉えられず、次第に部屋に眩いほどの輝きが満ちていく―――!

「うっ!?あっ!?あああぁぁぁぁぁ―――!!!」

 恐慌状態に陥った雁矢が力を放出し、俺の手足を刺し貫いたように部屋中が尖る!だが―――

 佐乃の斬り裂いた空気の衝撃波と打ち出す真空波によってその悉くが発生とほぼ同時に打ち消され、強化された手足に蹴散らされる。
 ただ走るだけで攻防一体の武器と化す。なんてデタラメ。

「くっそおぉぉぉっぉお―――お?」
 目を剥いて虚空を睨みつけていたが、不意に輝きを放つ自分の胸元を観た。

 胸元に、音も感触も無く剣が突き刺さっていた。

「え?あ、あ…」

 光が薄くなり、明るさが戻るものの、若干暗く感じる。
 目を見開いて信じられないものを見るような目で突き刺さったそれの持ち主を見る。
「…一族としてのせめてもの情けだ。苦しまずに逝け」
 すっ…と刀を抜いた佐乃がそう言うとようやく事態を理解したそれは床に倒れ込んだ。

「痛みは、ない。そしてオマエの罪もだ―――佐乃」
 雁屋の指輪を抜きながらダンタリオンの能力を使いうと、雁矢の痛覚が遮断され呼吸が楽になものなる。
「オマエの犯す罪はオレの犯す罪にもなる。それを忘れるな。
 それに、こんなヤツの命をオマエが背負う必要は無い―――せっか」

 そう言うと俺が先ほど、束縛していた鎖を滑昇していた佐乃によって鎖から開放され、俺が催眠状態を解いた妹が指輪を起動していた。

「うん…死んじゃダメ。貴方は償わなきゃいけないの。フェニックスさん」
 雪花が呼びかけると胸に風穴を開けた雁屋の胸に炎が灯り傷を癒していく。
「お館様…姫…」

「やめろ…癒すな…っ!ここで…っ、ここで殺せよぅっ!」
「断る。なんだ、オマエ。オレが同情や思いやりで癒しているとでも思ったのか?
 あいにくだが、オレはそんなに優しくない。オマエは死ぬよりもつらい目に遭わせる、さぁ―――」

 凡人に、成り果てろ

 全ての指輪を抜く―――と、途端、マンションの景色が変わり、建物全体を覆っていた違和感そのものがかき消えた。
「つまらない…あぁ……何一つつまらなくなっていく…」
「…よく聞け。つまらないのはテメェが何一つ見ちゃいないからだ。
 だが、目の前を見ろとは言わない。嘆いていたけりゃ嘆いてろ」

 何一つ行動せず傍観しつづける。それも一つの生き方だ。
「そして、ただ一つだけ言っとく。死にたいなら他人を巻き込むな。手前ェの命は、最期だけは手前ェで責任をもて」
「キミは知らないんだ…あの恐怖を……っ!誰かがいてくれなきゃボクは…っ」

 ダンタリオンの指輪から流れてくるコイツの記憶。

 倒れていく同年代の少年少女(ともだち)
 樹木に包まれていく被害者達(ともだち)
 そして、成り果てた分割遺体(ともだち)

 ………これは、山でも海でもない。まっくらなもりのなか
 コレは…俺のとは違う、まさかこれは―――

 森の少女の―――

 おおかみかくし

 流れ込んでくる画像。

「―――!」

 まて、今のはなんだ。

 今の記憶をもう一度―――

「…………っ!!!」

 ごくり、と生唾を飲む。
 今のは…いや、まさか―――
 思わず意識が否定する。だが、本能はそれが真実だと理解する。
 なん、で―――

 なんで、あなたが、ここにいる。

 幼くても分かる。
 みんなが樹木から逃げ惑う中、戯れるようにうねる杉の枝に乗り、漫然と周囲を見回す少女の姿。
 その少女はこちらを見て―――

 ぷつり、と画像が途切れた。

 その次に見れたのは傷ついて倒れた男の顔。そして大地に突き刺さった、今現在、佐乃の持っている日本刀。
 冷たく、硬くなったその身体に包まれて一晩過ごし―――

 少年は、心の、平静を、失った。

 だが、俺は今の映像による混乱が思考をぼやけさせていた。
 どういうことだか、わからない。
 しかし、これだけは言える。

 貴方は森の少女じゃ、ない。

 いや、それともアイツがダミーで本当の森の少女は―――

 こらんとする意識、だが、次の映像が俺の意識を正気に戻した。

 泣き果たした、佐乃。

 ―――………そう、未曾有の危機に恐怖した。だから、正気を失った。

 理解はしてる。
 …だが、それは免罪符にならない。それでも、いや、それ以上につらいことだって、ある。

「ひっ一人はイヤなんだ。ねぇっ、側にいてよっ!誰でもいいから側にいてよひ―――!」

 胸倉を掴み、正気を失った視線を捉え、正気に戻す。

 そして、
「―――たら、だったら他人に側にいてもらえるようにしたのかよ?
 他人にいてもらいたいのなら―――……」

 力づくで従えるか、従うのか、それとも―――
 …手の力を抜く、とずさっと柳也が崩れ落ちた。

「指輪を使うまでもない。変わるのか変わらないのかはオマエ次第だ。好きにしろ。
 まぁ、それ以前に痛みから逃げ続けようとする人間に誰も付こうとなんざ思わないだろうがな」

 そう言って部屋から出る。

 起きた現実から逃げられない人間だっている。
 刀を持った少女は振り向かない。ただ俺にこれでいいのかと問いかけてくる。
「お館様……」

 止どめはささない。自分の罪も理解できないヤツの罪を背負うほど俺達は軽く、ない。
「行くぞ、必要なモノは手にいれた」
「ですが…」
「放っておけ、どうせもう奴には何もできない」

 確かに、これ以上何もしないのはどこかで奴に対する同情があるのかもしれない。
 だが、これ以上、残酷この上ではないのも事実。
 同情するのならば殺してやるなり記憶を操作するなりしてやればいいのだろうが―――
 そうしなかったのはアイツ自身がそうしていなかったからであり、また、

 あいつも一人の生き方を歪めたから―――

 マンションの階層を下りて行く際に関わりあった全ての住人の記憶と傷を操作し、エントランスに出るとタクシーを2台呼ぶ。

 これ以上、セェレの力を借りる訳にはいかない。というよりもはや指輪を起動させるような気力は残っていない。というよりも、傷が完癒していない。
 表面上、傷口は塞がっているが内部の治癒は今も行われており、歩く度に激痛が走るがもうほとんど歩く必要もないので我慢できるだろう。

 何の因果か再びあの渋い顔のドライバーの運転するタクシーの背もたれに寄りかかりそのまま眠ろうとしたが気にか駆ることがあった。

「……」
「せっか、どうした?」
 俺の隣に座った妹の顔が沈んでいた。

 …まぁ、聞かなくても伝わってくる。
「オマエ達、悪いが少し遠回りするぞ」
「え、あ―――はい」
 気の抜けた返答と共に俺はタクシーの運転手に行き先の変更を告げた。

「着いたぞ」
 タクシーから降りるとそのまま先に進む。
「え?ここは―――」
「見りゃわかんだろ。教会だ」 

「それは分かるけど…」
「知ってるか?こういう所はタダで式を行ってくれるんだぞ」
 まぁ、自分達の教徒のみだが。どこぞの門徒からもがっつり金を取る多門教とは大違いだ。
 にしても…悪魔と契約している俺達がこんな所にくるのも場違いな気がしなくもないがこんな場末の教会にそこまでれっきとした霊験なんぞないだろう。

「あら、いらっしゃい」
 礼拝堂の中には華南と年が同じくらいのシスターがこちらに気付いた。
「すいません、ちょっと結婚式の真似事でいいんですがさせて頂けませんか?」
「お、お兄ちゃん―――っ!?」
「お館様―――!?」
 2人が素っ頓狂な声を上げる。

「なんだ、したくないのか?ならとっととかえ……」
「したい!したいしたいしたいしたい―――!」
 思いがけず連呼する妹を見て少し吹き出した。

「まぁまぁ、ご兄妹ですか」
「まぁ、予行演習、というか真似事なんで、なんとかなりませんかね?」
「えぇ、かまいませんよ。たとえ悪魔使いだろうと来るモノを拒まないのが我が教会兼施療院の売り…じゃなかった。方針ですから」
「…なぜ、それを?」
「あら、当たりですか。ですが、悪意はないんですよね?だからここに来れたんですから」

 ……成程、な。来るモノを選ぶ場所だったか。
「で、どうですか?」
「問題ないですよ。ただ申し訳ありませんが、神父が夜逃げ…じゃなかった。引き継ぎの準備をしていますのでしばらくお待ちくださいね」
 …待て、今なんつった。つーかさっきからいちいち訂正される部分が生々しいんだが。

「よいしょっと、これ、わたくしの使ったまだ誰も手にしてないブーケです。
 あと、これを帰ってくる娘に渡して頂けますか?」
 そう言ってどこからともなくブーケと[玉緒へ]と書かれた封筒を渡して来るシスター。

 …なんつーかここに来たのは間違いだったかもしれない。
「さ、中へどうぞ。花嫁さんはこちらへ~」
 そう言って聖堂への扉を開く。

 なんとなく気が乗らなくなってきたのだが妹がこちらの裾を引いて入りたそうにする。

「………」
「…分かった分かった。ま、連れて来たのはオレだしな。で、オレは?」
「あ、花婿さんはあちらにタキシードがありますんでテキトーに選んでください」
「………」
 …なんだ、この扱いの差は。

「ご、ご主人様、私が手伝わせて頂きます―――」
 慌てたように華南がカバーに入る。
「某達は…」

 所在なさ気に佐乃と夜鷹、くいながシスターを見る。
「あ、付き添いの方はベンチの方に座ってらして下さい。
 時間もあまりかけずに…というより時間がないので10分くらいで準備も済みますから。もし手伝ってくださるんだったらそれはそれで助かります」
「はぁ…」
 まぁ、明日まで時間があるわけじゃない。
「早く準備するぞ、明日に差し支える」

 そう言うと男性用のドレッサールームに入る。
 すると間もなく華南が俺に合うサイズのタキシードを持ってきた。
 俺は煤で汚れた衣類を脱いで腕を伸ばすとそのまま華南が袖を通しだす。

「………」
「どうした、華南」
「ちょっと妬いちゃいます」
「……勘弁してくれ。あんな事でもなけりゃこんな事しない」
「だから、妬いちゃいます。ご主人様に守ってもらえるんですもの」
「……本当に煩わしくなったらどうするか分かってるだろ」
「あら、どうなされるんですか?」
「………どうするんだろうな」

 見捨てるのか、それとも―――

 そう言いながら着付けが終わる。
「さ、終わりました」
「さんきゅ」

 そう言ってドレッサールームから礼拝堂に戻る。と、なにやら騒がしい。件の神父がやってきたのだろう。
 奥の方を見るとやはりそれっぽい格好をした男が立っており、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべてこちらに笑いかけてきた。
「よ、何やら前任の連中がロクに引継ぎもせずに行っちまったが結婚式の真似事でいいのか?結婚式じゃなくて?」

「……………やられた」
 既に逃げてやがった。

「……まぁ、問題ないか。よろしく頼む」
 
てくてくてくてく

「ちょ、ちょっと待って…っ!」
「待つ必要ない、くる」
 そんな声が聞こえて小部屋の向こう側からだぼついた服を着た銀髪のシスター服を着た無表情―――どことなくみなぎに似ている幼女がウェディングドレスの裾を摘まんでその纏い主を引っ張ってくる。ドレスは先ほどから来ているものと同じだが、多段式のヴェール…薄地のローブ、といったほうがいいだろうか、が貞淑さを増していた。

「姫さま…っ!」
 佐乃の浮ついた声が聞こえる。
 それも分かる。時間が無かった為かそれともそれ以上必要ないと判断したのか最低限の薄い化粧しかしていない。にも関わらず、何歳か年上の落ち着きと儚さを表情を称えていた。

「おっ、お兄ちゃん…っ!ど…どう…っ!?」
「ん、あぁ、似合ってる。やけに大人っぽくなって驚いた」
 昨晩の千歳の件がなければ言葉を失っていた所だろう。

「似合ってます、姫さま…っ」
 背後では佐乃が感極まって潤んだ声で謝辞を述べていた。
 くいなは羨望の眼差しを、華南は背後で微笑ましいものを見るように笑っていた。
 夜鷹はどこか遠い目で俺たちを見ていた。おそらく、自分達が果たせなかったモノを自分達を通して見ているんだろう。

「さ、始める」
「始めっか。なに、これでも世界をまたいだ巡回神父やってんだ。ムダにはさせないぜ」

 そういうと自称、巡回神父はいきなり神妙な表情になり、厳かな声をあげ始めた―――

「いい式でした」
「そんなモンか」
 ああいうのはどういうものなのかいまいち分からないから善し悪しなんて分からない。
「それじゃ俺は帰るが―――せっか達のドレスはいいのか?」
 ちなみに明日のドレス、ということだ。流石にウェデングドレスでパーティーにでるワケにもいくまい。
「既に手配してあります」

 流石、抜かりないな。

 一方、当人はというと、
「―――」
 ぼーっ。として未だに上気している。横で佐乃が思いつく限りの賛辞を述べているが生返事にしかしていない。

「それじゃ、ご主人様、私達は先に帰っていますんでゆっくりしていってください。
 さ、佐乃ちゃん」
「え…?え…?」

 そう言ってタクシーを止めると強引に佐乃を連れて夜鷹の乗っている後ろのタクシーに移動してしまった。
「ったく…気を回し過ぎだ」
 と、今さら言っても仕方が無い。
 なにより華南が無言でこの後にすることを示唆してきた。
 そこまでする必要も無いのだが。華南に言わせれば女心が分かっていない、ということにでもなるのだろう。

 仕方ない。
 俺は嘆息するとそのまま行き先を告げた。

「…か、せっか」
「……………はっ」
 ようやく正気を取り戻した妹を真正面で見据える。

「大丈夫か?」
「う…うん…っ、て、ここどこ?」

 マズい。今の今までトリップしていたのかここまでの記憶がないらしい。

「ここは…?」
「ホテルのスィートだ。
 つっても明日のことがあるからな。明日の夜明けには帰るぞ」
「よ、夜明けって今晩はここに…?」
「イヤならとっととかえ―――」
「らない!帰らないよ!むしろここに住みたいくらいっ!」

 急いで俺の言葉を取り消してくる。

「了解」
 それだけ言うと雪花の後ろに手を伸ばしてお姫様抱っこをする。
「きゃっ!?」
 間近に妹の顔がやってきて見つめると瞬く間に顔が赤くなる。

 かーっ、キザだねぇ、大将、というツッコミが指輪から伝わって来たがそのままスルーする。
「このままでいいのか?」
「うんっ!」

 そう元気に返事をすると首に手が回され雪花の顔が更に近くなり―――唇同士が触れ合う。
「んんんっっっ、ふぅ、ホントこういう時だけ積極的だな、オマエは」
「だって、お兄ちゃんだから…っ」

 答えになっていない。が、それ以外に答えが無いように答えて雪花が切なそうにこちらを見上げてくる。
「んじゃま、始めるか」
 赤くなってこくん、と頷く。

「ん…っ」

 再び唇が軽く触れ合い、一度見つめあうと今度はそのまま舌が絡まりあう。

「んんっ、それにしても…初夜まで相手がオレでいいのか?」
「違うの。初めに結婚するのも夜を過ごすのもみんなお兄ちゃんが初めてじゃなきゃイヤなの…っ!」

 必死な顔になって俺に訴えかけてくる。

 そう、それが雪花の顔が曇っていた理由。

「そうすればこれから何があっても頑張れるから……!」

 そう、俺が認めた所でこんな状況が万人に認められる訳がない。
 なにより、社会の法が在る限り、決して俺と雪花は結婚できない。
 それが常に側にいられるという特権を得ている実妹の弱点でもあった。
 そんなの俺は別に構わないのだが―――そういうモノに女は執着するようだ。
 だから、叶える。甘いと言えば甘いのかもしれない。
 だが、仕方ない。ここにいるのは妹であり―――雪花なのだから。

 ―――いつからか、俺が山から還ってきたあの頃からか。
 両親は俺から興味を失ったように接してきた。
 いるけど、いない。いないけど、いた。
 両親ですらそうだったのだ。近所の反応なんて似たようなものか、それ以上だった。

 体は死ななかった。だけど、心が殺されるようだった。

 そんな中、千鳥も千鳥の姉ちゃんもそれまでと同様に接してきてくれた。
 だが、家庭の中までは及ばない。
 千鳥たちも会う度に憔悴していく俺を見て何も出来ずに、泣いた。

 そこで妹が動いた。
 今でこそ病弱であり、人の後ろを付いて歩くような性格だが昔はもう少し元気でもう少し活発で、その、なんというか少しだけ、凶暴だった。
 要は時折、見せるサディスティックな部分が8割方占めていたときってハナシ。
 といっても親に対して暴れた訳ではない。
 ならまだ子供らしい。

 そう、雪花がしたのはただ、ガン無視しただけだ。
 いるけど、いない。いないけど、いた。
 家には俺と雪花しかいないように、同じコトを大人たちに仕返した。
 そうしたら一週間しない内に一ヶ月前と同じようになった。
 少なくとも、妹がいる前では、そうなった。
 まぁ妹の前、といっても一日の内、朝一緒にいて昼は学校にいて放課後は千鳥を含めた3人、時折、4人で遊んでそのまま妹と一緒に帰り、寝るまで一緒に…というか雪花が布団に潜り込んで一緒に寝ていた。
 なので俺の生活は一ヶ月前に戻ったのと同じなのだが。

 そして、そうなったことで相応の立ち回りを身に付け、他の連中よりも一回り早い反抗期に至るまで俺の心は一応の平穏を得た。
 まぁ、そんなワケで雪花と千鳥の言うことには出来るだけ沿うようにしていた。
 自分の傍にいれば巻き添えになる。と判断し、自分からわざとキレて距離を置いて疎遠になった時も[傍にいる]その願い以外はあらかた聞き入れていた。

 そして、妹である雪花の場合。基本、何も言ってこない。
 ただ家では傍にいて欲しい、一緒に遊んで欲しい、一緒に登校したい程度で我侭らしい願いはしてこなかった。
 だから、この妹が本当に望むのであれば今の俺ならほとんど叶えてやれる。

「…ま、こんな事は力を手に入れない限り無理だったけどな。
 手に入れた以上はオマエの願いは大概かなえてやれるよ」
「お兄ちゃん…っ」

 …以上、戯言、終わり。
 今から肉欲を満たすことにする。

 さっきから昂ぶっているのは別に雪花だけじゃ、ない。

「もう初めて…じゃないけどよろしくお願いしますっ」

 …結婚初夜で初体験って憧れるモンなのか?
 昨今のとっとと捨てようとする貞操感と違うな。
 つーかそもそも元凶である俺としては乾いた笑いしか出ない。

「まぁ、アレだ。そう、今までのヤツは婚前交渉ってヤツだ。気にするな」
「こ…こんぜんこうしょう…っ、うん、それならなっとく」

 そう言って赤くなる。うん、単純だとこういう時、助かる。

 ベッドに降ろすとそのまま肌が露出した部分から手を差し込んで手を這わせる。
 こういう目的で着させられた服だと楽でいい。
 と、同時に他の誰かの為に着させられたものだと考えるとイラつく。

「ん…っ、ふあぁ…っ!ぉ…おにぃちゃん、どうしたの…?」
 少し強く胸を揉みしだくと雪花の動きを制限するようにもう片方の手を雪花の手に絡める。

「せっかは―――誰にも渡さない」

 独占欲。
 おそらく、他の侍従に対しても同様の思いを抱くのだろうが。俺のモノが他人に汚されるのは我慢がならない。だから―――

「ん?せっか?」

 妹が目を見開いてフリーズしていた。

「お、おい、せっか」

 頬をぺちぺちと叩いて意識を戻す。

「おっ、おおおぉぉぉぉぉにぃちゃん、ぃぃぃいい今なんて…っ!?」

 今度はすごい形相で問い詰めてくる。

「あ、だから、オマエは―――せっかはオレのモノだ、誰にも渡さない」

「……………っっっ!!!!!!」

 ずっきゅーん。

 と、妹の心の中でナニかが撃ち抜かれた、音がした。
 …はて、何かマズったか。
 なんせ―――スカート部位のスリットに入れていたもう片方の手、布地の上から割れ目を擦っていた指先が湿り気を感じていた。
 言葉でイクようにした覚えはないんだが―――まぁ、都合がいい分には問題ない。

 ぼぅっと少しだけ焦点の合った目の雪花の少しだけ開いた口に舌を挿し入れる。
 未だに意識がはっきりしないのか迎え入れてくるものの、積極的に舌が絡んでこない。
 
「ぬちゅりゅぅ…っ、ぬちゃぁっ、ちぅっ」

ちゅ…っ、ちゅくぅっ…ちゅ、ちゅぷぅ…

「ちゅぷ、ちゅく…んぅ…っ、ちゅ、ちゅぷぅ…っ、んく、ん…っ」

 俺の舌が雪花の口内を蹂躙し、為すがままにされていく。
 が、愛情表現として、そして快感を与えてくれる気持ちいいものとした認識している為か、舌が積極的に絡むことはなかったものの、俺の口内に入るくらい伸ばされていた。

「んっ、んんっ、ん…っ、んふぅ…っっっ!!!」

 ぞくぞくぞくっ、と背筋に走る微電流に身を奮わせ、互いの口のすき間から溢れたよだれがこぼれていく。

 くちゅぅ…つぷ…

 顔が離れるにつれ、互いの口を繋ぐ銀糸が細くなり、妹の口の中に戻っていく。

「んくぅ…んんっ…」

 自分と俺の交じり合った唾液を愛しいモノを味わうように口の中に含むと口内で味わうようにもごもごと動かした後、嚥下し、慈愛に満ちた微笑をこちらに向けてきた。
 ある程度、初心者よろしく手順を踏むべきか…と思ったがここまで出来上がっているといらないな。

 そう考えた俺は胸をはだけさせ、レースの入ったストッキングに包まれた足を持ち上げる。

「ん…っ」

 すると、少しこもった熱気と共にせっか特有の少し甘さを伴った匂いが俺の鼻腔をくすぐる。
 そして、ガーターベルトをしていてもいいようにと履かされていた下着の両脇の結び目を解いて股間を覆っていた布地を取り去る。
 ガーターベルトとストッキングの間になにも身に付けていない無毛の股間はパンティに染みをつけた淫水が妹の股間からとろとろと少しずつ溢れて光っていた。
 準備は完了している。

「………」
 俺は何も言わず、雪花に覆いかぶさって顔を見つめる。すると雪花がこくん、と頷く。

ずっ…ぬぅっ…

「ん、はぁっ、あ…うっ、ふあぁぁぁんっっ!!ひぁ、あ、ぁひっ!ひああぁあああ…っ!」

 挿入された感覚にようやく意識がはっきりすると今度は膣内からくる快感にびくびくっと体を奮わせる。
 挿入している雪花の秘裂も最初は相性が良すぎるだけの名器だったのが牝としての本能に目覚めた今では俺を射精させるためだけに特化した兇器といっても過言じゃない。

 そしてそれは向こうにも言える事で俺の挿入に最も快感を得られるようになった為、一突きするだけで軽く絶頂するようになっている。
 なので最近はそれが少しでも鈍くなる後ろの穴を使っている。
 さすがに初夜にアナルはないだろう、という事でこっちにしたのだが―――

ぬちゅっ、ちゅぱんっ、ちゅぶっ、ぐにゅうぅっ!

「あっ!あはぅっ!んっ、んはぁっ!ひぅっ!くふぅんっ…っ!」

 妹が切なそうな声を上げ、絶頂に身を震わせるとこちらも射精感が強引に押し上げられていく。
 っ、気を抜くとこちらがイかされかねない。
 少しでも余裕があるうちに無心になって妹の膣中に自分の怒張を打ちつけていく。

にゅぷっ、くぷんっ、ちゅくっ!じゅぼっ、ちゅぶっ、ぐちゅぅっ

「あ、ふぁぁぁっっ!!ふぁっっ!!あっ、ああぁぁぁxんっ!んっ、んはぁぁぁぁっっっ!!」

 挿れておくだけで射精に導こうとする妹の凶悪で淫猥な淫裂が狭くキツくなり、俺が強く感じる部位に当るようヒダがうごめく。

「…っ!」

 ヤバい。まるで感じるポイントを激しくしゃぶられる様に吸い付いて射精を促すように収縮してきた。
 少しでも気を紛らわせようと雪花の唇に舌を突き入れると今度は積極的に舌が絡んでくる。

「んむ……ちゅぶぶっ、ふン、ふぅン……んむっ……ちゅぐちゅぐぐ、んぐ……んくっ、んくぅっ!!」
「にちゅれろぉっ、ちゅるちゅる…っぷはっ、ん…ちゅ…っ、ちゅくぅっ…ちゅ、ちゅぷぅ…」

 すでに互いに口を息している状態で互いの息すら交じり合い、媚薬になって俺たちを溶かしていく。

「むぐうぅぅぅ、ぷひぁぁぁぁっ、は、ん、んんんんっ、んぅぅぅぅぅ……!?」

 雪花がぶるぶるっと震えだして止まらなくなる。そろそろ大きいのが来る予兆だ。
 そしてそれは俺が一番、快感を得られる瞬間でもある。

ぬちゅっ、ちゅぱんっ、ちゅぶっ、ぐにゅうぅっ!ぱちゅんっ!

『~~~~~~~~~っっっっっ!!!』

 互いに口付けているため、激しい息遣いがあるものの、言葉にならない。

「ちゅぶっ、ぬちゃっ、れちゅれりっ、べちゃっ、れろれろれろっ、ふぁうぅんっ…ちゅぷ、ちゅく…んぅ…っ、ちゅ、ちゅぷぅ…っ、んく、ん…っ」

 むしろ互いの吐いた息を飲み込むことによって酸欠気味になり、感覚が鋭敏になっていく。
 互いの動きが意図せず相手の快感を高める、他の従僕たちとでは味わえない快楽によって瞬く間にペニスの中を熱い奔流が駆け昇っていく!

びゅ―――っ!びゅるっ!びゅくっびゅくんっ!びゅる、びゅくっ!

 灼けついた白濁が妹の一番深いところに放たれる。
 それどころか妹に膣内射精しながら子宮口をノックするように抽挿を続ける!

「にちゅれろぉっ、ちゅるちゅる…っ、ねちゃねちゅぅっ、ふぁあああっあ、は……っ、く、う、うぁっ、あ!?ふぁぁぁあああ…っっ!!ふぅぅ~~~っ!はぁっ、はぁ…っっ!」

ゅるっ!びゅくっ、びゅぶっ!どくどくどくどくんっ!

「ぺちゃっ、んぅんっ、ぴちゃぴちゃ…っ、んくぅ…っふぁぁぁあああ…っっ!」

 息も絶え絶えになって向かい合いになって重なる。
 舌先に鉄の味が走る。 雪花がイった際に少し舌をかまれたらしい。
 なるべくそれを感じ取らせさせないよう口内の涎を吸ってさらに雪花を絶頂させると再び銀糸を作って口を離す。

 互いに大きく絶頂したことにより、これで終わってもいいんだが―――ベッドに仰向けになって艶やかに息をつく雪花を見ているとまだ足りない、と本能が告げてくる。
 現に雪花の蜜壺に挿れたままの肉棒は硬さを失わず、少し動くたびに妹を喘がせている。
 もっと…もっとだ。もっと雪花を俺のモノにする―――

 そう思うと俺は挿入したまま雪花の後ろに回るとそのままひざ下を持ち上げてベッドから立つ。

「よっ…と」
「ぉ…ぉにいちゃ…きゃふぅ…ぅんっ!ふぁっ!ひぅんっ!」

 雪花が思わず喘ぎ声を上げる。

 なにも特別なことはしていない。ただ歩いたその振動で雪花の一番深いところのくぼみに亀頭が押し込まれるように圧迫して刺激したのだ。

「ぉ…ぉにいちゃ…っ!きゃふ!…ぅんんっ!ひぁうっ!」

 一歩あるく毎の軽い振動でイってしまうくらい敏感になった雪花の膣壁は俺の竿をシゴきあげ快感をもたらしてくる。

じゅぼっ、ちゅぶっ、ぐちゅぅっ、ぬちゅんっ!

「ふぁぁぁあああ…っ、んんっっ…!?」

 ふと、冷たいモノが膝とおでこに触れ、何事かと身を預けていた快感から戻ってくると―――

「きゃっ、おっ、おにいちゃ…っ!」

 雪花が悲鳴を上げる。それもそのはず。
 街を一望できる大窓に自分のあられもない姿が見える形で立てれていた。

「お兄ちゃんっ、はずか―――んくふぅっ!」

 俺がずんっ、と腰を振ると喘ぎ声を出す。

「んっ、たしかにココだと誰かは分からなくても何をしてるかバレるかもな…っ」
「いやぁ…っっ!」
「そうしたら望遠鏡や双眼鏡で覗かれるかもしれないな?」
「ぁっ…!!!」
 想像してあまりの恥ずかしさにイってしまったのか、動かなくてもきゅうぅ…っと元々、俺に最適化されたような蜜壺がキツく締め付けて射精感を高めてくる。

「んんぅ…ダメ…っ、らめぇ…お兄ちゃん見えちゃうよぉ…っ」
「いいじゃないか、オレとせっかが結婚したってコトをみんなに認めてもらおう…っ」

 俺がそう言うとびくんっ、とその言葉がゆっくりと浸透してスイッチの入った雪花のとろん…っとした視線が外へ向けられるようになる。

「……んっ…て………さぃぃっっっ」

 雪花が真っ赤になって何か呟く。

「ん―――?よく聞こえないぞ、せっか」
「んふぁ…っ!みんな…みて…見てくらひゃいぃっっっ…!!!」
 おにいちゃんとケッコンしてつながってるせっかのオマンコぉぉぉ…っっ!
じゅぷじゅぷってお兄ちゃんオチンチン出し入れされて悦んでるせっかの妹オマンコ…みんな見てぇ…っっっ!!!」

 姿なき観客にあられもなく懇願する姿に口端を歪ませるのと同時に俺も抽挿を開始する。
 ずんっずんっ、と亀頭が空気に触れるか微妙なところまで雪花を持ち上げ、勢いよく雪花を降ろす!

ぬちゅっ、ちゅぱんっ、ちゅぶっ、ぐにゅうぅっ!ぱちゅんっ!

「ひあぁっ!くふううっ!あっ、ああぁぁぁんっっ!んふぁぁぁあっ、あうぅぅぅぅんっっっ!!」

 ずんっ!と降ろされるたびに雪花の子宮口と亀頭がキスをして互いのペニスとヴァギナの更に敏感な部位を刺激し合う。
 既に互いの摩れあっている部分が蕩けているんじゃないかと思うくらいに結合部からは強烈な快感しかやってこない。

「恥ずかしい…ハズかしぃけど…っ、見られてる、おにぃちゃんと結婚したの見られて気持ちいいよぅ…っっ!!」

 痴態を見られることで快感を覚えるようになった雪花に更に興奮して俺も更に挿入を激しくする。

ぬちゅっ、ちゅぱんっ、ちゅぶっ、ぐにゅうぅっ!

「ひあぁぁぁっっ!!くふううっっっ!!あっ、ああんっっっ!」

じゅぼっ、ちゅぶっ、ぐちゅぅっ、ぬちゅんっ!

「はぁっ、はっ、はぁぁっ…っっ!!くうぅっ…んっ…だ、だめェ…っっ!!!」
「せっか…っ!そろそろオレもイくぞ…っ!」

 相性の良すぎる妹の膣中にインターバルなく入れていた俺の方も限界が近い。
 というよりもいつ暴発してもおかしくないくらいにいきり立ってせっかの子宮を犯していた。。

「きっ…きてぇっ!おにぃ…おにぃひゃんのぉっっ!おにぃちゃんみぅくで…っっ!!せっかのいもぉとオマンコにびゅくびゅくっていっぱぃらしてぇ…っっ!!!」

びゅ―――っ!びゅるっ!びゅくっびゅくんっ!びゅくんっ!びゅる、びゅっ!ぴゅぴゅっ!!

「――――――っっ!!
 ふぁあああぁっっっ!!
 みんなの前でおにいちゃんのせーえき…っ、受せ…っ、してるのぉぉぉ…っっ!!おにぃちゃんせーえきでいっぱいの妹オマンコぉぉ…っっ!見られ…っ!!!気持ちいいっ、ふぁぁぁぁ…っ!うくっ、ふあぁぁぁぁ~~~っっっ!!!」

 そう言うと同時に激しい絶頂に陥り、壁にぷしゃあっと勢いよく無色の液体が吹き付けられる!

「んっ…!ふぁぁぁ…っ、んんんっっ!!」

 ぴゅぴゅっ、と余韻の潮を吹いて―――せっかは意識を失った。

「ふぁ…ぁ?」
 後始末をした後、ベッドに寝かしつけた雪花が起きたのは日が変わる少し前だった。
「ぁ…おにぃちゃん…」

 布団で口元を隠してこちらを見てくる。

「あぁ、起きたか」
「うん、ごめんなさい」
「ん?なんかあったか?」
「だって、わたし失神しちゃって…」
「あぁ、そんなことか、問題ないよ。まだ日が変わろうとしているくらいだし―――」
 と言ってあることに気付く。

「せっか―――…」

 雪花の額に手を当てる。
 ……熱い。

「…帰るぞ」
「え?」
「ばかたれ、そんなに熱っぽくしておいて放っておけるか」
「ぁう…」

 雪花の体調には気を配っている。
 ここに来る前はハルファスの洗脳の影響や、行為によるものかと思っていたがこの時間になっても熱が下がってない所を見るとどうやら体調を崩したくさい。

「ふぁ…ごめんなさい…」
「だから謝るこっちゃない。それより明日、パーティーに行きたいんだったら今日はこれくらいにしてしっかり休め」

「うん…ぁ、あの、お兄ちゃん」
「ん?」
「あ…ぅ、その…おうちまで、負ぶってってもらって…いぃ?
 あ、やっぱり疲れてるもんね、ムリだよね?」

 慌てて自分のワガママを否定する。

「……いや?別に構わないけど。タクシーとかで帰った方が無難かと思ったんだけどな…」
「あ、そぅだよね…」
「だから、別に構わないぞ?
 その代わり、それで体調を崩して明日いけなくなっても知らないからな」

 7月中盤だけあって外は蒸し暑い。が、朝との温度差は馬鹿にできない。

「うん…いいよ」
 そう言って微笑んでくる。

 俺は雪花が頷くのを見届けるとベッドの横にあった携帯を取って華南の携帯にコールした。

「あぁ、華南か?今から帰る。いや、泊まっては行かない。せっかがなんか熱っぽいし、明日のこともあるしな。
 せっか?あぁ、負ぶって帰ってくれればそれでいいとさ。よくわからん。
 ……笑うな。あぁ、他に関しては滞りないな?分かった」

 そう言って電話を切る。

「お兄ちゃん、準備終わったよ」
 そういうとウェディングドレス姿の妹が戸口のほうに立つ。
「悪いな。急がせちまって」

 一応、ドレスが汚れないようシたし、雪花が気を失ったあとにお湯で湿らせたタオルで清拭しておいたのでこのまま外に問題ないとはいえ、シャワーを浴びたいというのが本音だろう。
 だが、ふるふると首を振る。

「ううん、みんなに迷惑かけちゃったし。それに結婚式、出来たし」
「ん…」

 満足した、とは言っていない。だが、気持ちの整理は付いたようだ。
 普段、甲斐性のない兄としては誠に申し訳ないが聴き分けが良くて助かる。

「それじゃ、ほれ」
 ひざをついて背を向ける。
「え…ホントにいいの?」
 冗談だったのか。…まぁ、ウェディングドレス姿で背負われるのもそれを背負うのもどちらも羞恥プレイには違いない。

「問題ない。これも妹の特権の一つだ」
「いもうと…」
 雪花にとっては何よりも排除したいコンプレックスでありながら他の従僕たちに対するアドバンテージでもある特別なカンケイ。

 いい加減、嘆息して告げる。

「妹でもどろどろの関係になるか淡白な関係になるかは本人たち次第だろ。
 むしろオレの妹ならそれを利用するくらいじゃないと他に目移りしちまうかもな」

 軽口気味に言う。

「だっだめっ!お兄ちゃんはわたしとどろっどろでタンパク質な関係になるの!
 というかそれ以外ないの!」

 そういって俺の首に腕を回しておぶさって…というより首を絞めるように飛びついてきた。
 …いや、お兄ちゃん、そこまで底無し沼なインモラルに走るのはどうかと思う。

「まぁ…そうしたいんだったら、うん、がんばれ?」
 半疑問形になっていうと元気に、うんっ!と首に巻きついた腕に力が込められた。

 ついでに耳に吸い付かれたかもしれない。うん、これ以上、何も言うまい。

「さて…と、帰るか」
 そう言ってそのまま立つと片手で雪花を支えてもう片手でドアを開ける。
「わっ、わわっ」
 移動時の視点が普段よりも高くなり、慌てふためく妹に口端を上げつつ、そのままエレベーターに乗るとそのまま帰途に着く。

 30分くらい歩いたか、ちょうど城との中間地点ですでに雪花は眠りについていた。
「萌えるねー大将」
「萌えとかいうな。友達なくすぞ」
 うっ、と他者との触れ合いに飢えていた騎馬公子がうめく。

「にしてもセェレで帰んなくていいのかい?もう回復したろ?
 それに、ここら辺には指環使いがいるかもしれんのに」
 妹ちゃんも眠っちまって文句もいうまい、と告げてくる。
「良いんだよ。オレがせっかにしてやれるのはこんな事くらいだ。それに今夜は…いや、今日はもう、なにもない」

 指環使いならきっと誰もが感じている。
 今日という日に変わって街の雰囲気ががらっと変わった。もはや別物といってもいい。
 といっても、以前言っていた大神隠しの時のような不穏な雰囲気ではない。
 むしろその逆、ちからあるものが集い、全てを拘束するような、そんな重い空気に包まれていた。
 こんな中で騒ぎを起こそうものならどうなるか、この段階で残っている指環使いなら理解しているだろう。

 だから…そう、だから久しぶりの月下の散歩と洒落こもう。

「ホント―――鬱陶しいくらいに明るい月だ」
「月は嫌いかい?」
「別に?…いや、そうかもな。自分で光らない癖に無駄に明るいのは好きじゃないな。
 それにアレがあるおかげで星が見えない」
「星の方が好きなのかい」
「自分で光って自分の色を出せた方が面白いな」

 なかなかに大将は辛辣だねぇ。そう言うと騎馬公子はそれ以上何も言わなかった。
 俺も何も言うことはなく、それ以降、妹の寝息以外の音はなかった―――

< つづく >

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