たった一人のための理想郷 第1話

第1話 理想郷の平凡な1日

 朝の爽やかな空気の中、白浜凪は起床時間を知らせる電子音によって目覚めた。
「んー、後五分・・・」
 そう言いながら、再び夢の国に行くために目覚まし時計のスイッチを切ろうと手を伸ばすが・・・その手が届く寸前、目覚まし時計はひょいっと取り上げられてしまった。

「相変わらず、朝に弱いわねぇあんたは」
 目覚まし時計片手に、母が呆れたように言う。その母親の視線は娘の頭から胸、腰と下がっていき・・・股間で停止する。

「股間のモノはあんたと違って、しっかりと起きてるって言うのにさ」
 今年で33歳になったばかりの愛娘の股間で、薄い布団を持ち上げて自己主張している器官・・・ペニスを見てそう皮肉った。

「んんー・・・これは生理現象なの、付いてないお母さんには分からないだろうけどぉ」
「そうねー、それは分からないけど・・・未等部から高等部クラスへの編入日に遅刻するってのは、恥ずかしいだろうなって事は分かるなぁ」
「っ! 忘れてたーっ!」

 遅刻の二文字を聞いた途端、股間のモノに負けない勢いで跳ね起きると、急いで着替えを始めた。パジャマを脱ぎ捨てると、慌てて制服を身につける。
「そうそう急いだ、急いだ。一年は365日しかないんだから。
 それと・・・あんた色気の無いもの着てるね。今度、勝負下着とか選びに行く?」

「友達と行くからいいっ!」
 母親にそう言うと、凪は急いで身支度を整えるとカバンを引っつかんで家から飛び出していった。

 あたし、白浜凪はネオトーキョー在住の33歳。ネオトーキョー聖母養成東校の高等部に今日から編入になる、学生だ。まあ、普段は長いから皆東校って言ってるんだけど。
 ここネオトーキョーでは、学校が東西南北の4校に分けられていてあたしは町の東よりに家があったから、東校に通っている。
 市民階級はB級市民。生まれは人間のフタナリ。まぁ、ごく普通の家庭に生まれたちょっと変わった子ってところかな。

 そして今は、一緒に登校しようと約束した友達との待ち合わせに遅れそうになって、全速力で走っているところ。
 こういう時つくづく思うのは、制服のスカートの丈が短くて良かったって事。普段はちょっと屈んだり風が吹いたりするだけで下着が見えそうになるのは、思春期の女の子の端くれとしては恥ずかしいんだけどこういう時は脚に絡まらず快適に走れる。・・・パンツ見えてるかもしれないけど。

『もう少しゆっくり、慌てず走りなさい』
「すみませーんっ!」
 注意する機人さんに、すれ違いざまに謝るけれど脚は緩められない。なんたって友達を待たせているんだから。

「遅れたーっ! ごめーんっ!」
 走っているうちに見えてきた3人の人影に、あたしは大声で謝った。それにしても、待っていてくれるなんて、さすが未等部からの友達だ。

「遅いっ! 後1分でも遅れていたら、このまま置いていったところだぞっ!」
 あたし達4人組の中で、ぱっと見ると最年少に見える神武涼香が眉を怒らせて叱責する。見かけは人形みたいであたしより2つ上とは思えない、可愛い子なんだけどさすが27聖女の直系だけあってしっかりしてる。未等部の時から優等生なのだ、涼香は。

「まあまあ、良いじゃない。まだまだホームルームが始まる時間には、遠いんだし」
 最年少に見えないけど実は最年少なネオアメリカから来たライカンの留学生、ジーン・レイカーが涼香を宥めてくれる。あたしよりも背が高くておっぱいもあって、やっぱりネオアメリカの子は発育が良いなーって、感じの子。ピコピコ動いてる犬耳やパタパタ動く犬尻尾が、大人びた容姿とアンバランスでとっても可愛いの。・・・当人は、尻尾に触れられるのは嫌っているんだけど。

「それに、ここからなら少し遅れてもひとっ走りすればすぐでしょ?」
「それはあなたがライカンだからだっ! 私だとここからでは間に合わない」
「なぁ、それよりあれなんだ? 近くで犯罪でも起こったのか?」

 言い合う2人に割って入るのは仲良し4人組の最後の一人、アスナ・ザビデイン。ヴァンデル諸島からの留学生で42歳。背は中背だけど、おっぱいもお尻も大きくって未等部の時から評価Aだったんだ。
 ちょっと額やこめかみから生えてる角が硬そうで怖いけど、尻尾はツルツルしてとっても触り心地がいいんだよ。浅黒い肌も、とってもセクシーであたし達以外からも人気は高い。

 その彼女の言う『あれ』とは・・・がっしょんがっしょん音を立てながら、あたしに向かって来るさっきの機人さん。何だか、あたしが注意を聞かなかったことがよっぽど気に入らなかったらしい。
「やばいっ! 皆逃げようっ!」
 とっさにそう言って逃げ出すあたし。捕まってお説教されたら、絶対遅刻だ。

「何をしたんだお前はーっ!?」
 涼香が怒ったような叫び声を上げながら付いてくる。後の2人も、つられて走り出したみたいだ。
 幸いあの機人さんは、そんなに脚は早くないようだ。あたし達に追いつくことが出来ず、あっさりと視界から消えてしまう。

 まぁ、これで遅刻の心配は無いよね。

 走ったおかげもあって、あたし達は無事学校に着くことができた。
 ちなみに、あたし達の通う正式名称ネオトーキョー聖母養成東校について説明しておくと、全校生徒は高等部と未等部合わせて5万人くらい。独自の特色って言うのは・・・ちょっと思いつかないや。北校や西校と、建物の形も施設も遊具も、同じなんだよね。教えている内容ももちろん一緒。

 ジーンやアスナに言わせると、ネオアメリカやヴァンデル諸島の学校とは違うらしい。何でも、ネオアメリカには着物の着付けの授業は無いんだって。だからきっと、ネオホンコンやネオベネチアとかとも違いはあるんだろうけど知らない物は説明できないからね。

 1クラスは45人前後。学年? そんな物は無くて未等部は高等部編入資格が来るまで、高等部は聖母になるまでずっと学生なんだ。だから、実はあたしのお母さんはもちろん、世界中の人はみんな学生なんだよ。高等部は単位制で、お母さんぐらいの歳には皆欲しい単位は取っちゃうから、滅多に学校に行かないんだけど。

 ちなみに制服は夏服冬服合わせて50種類以上。今日は初編入日って事であたし達は、揃ってセーラー服を着て来たんだけど、本当はその50種類以上の制服を好きに選んでいいの。制服のアレンジもアクセサリーも基本はOK。メイクは歳によるけど、これも基本的にはOK。若い時からメイクしたりすると、肌に悪いんだって機人さんが言うから皆あんまりしないけど。

 もちろん下着だって自由。・・・って、言うか逆に手抜きしたりすると校則どころか法律違反なんだよね。あっ、手抜きって言うのは何も『レースの下着以外を着けている』とか『地味な下着しか着ない』とか、そう言うんじゃなくて、『伝染したストッキングをそのままにしている』とかそういう意味。
 お母さんが言ってたんだけど、下着は飾れば良いって訳じゃないんだって。

 だけど、制服には1つだけ校則があってそれが変なのよ。『高等部以上の学生の制服に使う布の量は、学生の年齢身長体重に関わらず一定の物とする』って校則があるの。
 これのせいで、同じセーラー服を着てていも小柄な涼香にはちょっとミニのスカートのセーラー服なんだけど、あたしやジーンには下着が見えそうなスカートに、アスナに至ってははちょっと動いただけで下着が見えちゃうスカートになっちゃうのよ。

 水泳の授業なんか、同じスクール水着でも身長のある子はお尻がTバックみたいになっちゃうんの。だから年に4回の必要登校日の日に学校に来るお母さん達なんか大変。下着なんか殆ど丸見えなんだよ。
 ・・・人によっては色々工夫してるんだけどね。布の厚さを薄くしたり、削る部分を変えたりして。きわどい格好なのは、変わんないけど。

 後、部活動なんかも奨励されてる。特にスポーツは、毎年アルカディアトーナメントが開かれる・・・予定なんだよね。今は、ちょっと事情があって都市大会ぐらいだけど。
 ちなみに、あたし達は部活動はやっていないんだ。スポーツ系は、熱中して痩せすぎちゃって『ダイエット制限法』に引っかかっちゃたって話をよく聞くから。・・・逆に、『体重制限法』に引っかからないように気をつけないといけないんだけどね。

 後、生徒間の恋愛もあるけどもちろんこれも法律を違反しない限りって、制限が付くの。『学生セックス制限法』で処女膜を破っちゃいけない事になってるの。ちなみに、アナルセックスも禁止ね。だけど、フェラやクンニは制限無し。お尻の穴も、指2本までならOKなの。
 この法律、別名『フタナリ制限法』なんて呼ばれてるんだよね。アルカディアでセックスが出来るのって学生じゃあたし達、フタナリだけだから。

 まっ、特色と言える特色はこれぐらいかな? 授業は『歴史』とか『オナニーショウⅠ』とか、『数学』に『ストリップダンス』、『フェラ・パイズリ』とか、いたって普通の内容ばっかりだし。あ、そう言えば『被料理』って授業はネオジャパンにしかないんだったけ? でも、この前ネオホンコンにもあるって聞いたし・・・まっ、どんな授業かは実際受けてみるから、その時説明するね。

 朝のホームルームの時間の前、新しい教室にあたし達は到着した。いやー、思ったよりあたしって足が速かったのね。
「・・・人間、追い詰められると普段以上の力を発揮するもんだよな」
「アスナ、あなたヴァンデルじゃない」
「凪の事だよ」

 そうジーンとアスナが呆れたように言っているけれど、とりあえず聞かなかったことにしよう。・・・涼香は幸いアスナの背中でへばっているし。

 その後あたし達はそれぞれ仕度・・・荷物をロッカーに入れたり、乱れた髪をとかしたり・・・して、その後はあたしが皆、主に涼香に弁解したりしている間にホームルームの時間になった。ホームルームって言っても今日は高等部編入第1日目だから、出席を取ったりはしないで各教室についてるモニターで一斉に『歴史の授業の復習』と『高等部学生の心得』を学習するんだよ。

 普段は黒板のあるスペースに、天井からモニターが降りてきて映像が流れ出す。
『皆さん、おはようございます』
 低い合成音声の主は正体不明な校長先生・・・なんかじゃなくて、この学校を管理してる機人『オモイカネ』さんだよ。オモイカネさんは、アルカディアの教育の殆どを管理してるとっても偉い機人さんで、『機人10使徒』の1人なんだ。

『今日は、めでたく高等学部へ編入になった皆さんに改めてこのアルカディアの歴史を学んでいただくと共に、高等学部としての心得と目指すべき目標を決めていただくことになります』
 そしてまずはこのアルカディアの歴史についての、復習。この辺り、未等部で習ってるんだけど念のためってやつかな?

 ざっと説明すると、このアルカディアは昔高度な文明を築いてとっても繁栄していたんだ。今では考えられないけど、機人さん達に管理されなくても生活できたみたい。あたしには昔の人がどんな生活をしていたのが、想像もできないけど、相当好き勝手が出来たんだろうなって事は分かる。
 昔の人は、その好き勝手をしすぎてこのアルカディアを死の惑星にしちゃったんだ。

 暴力や貧困の果てに、環境は生き物の殆どが死滅してしまうほど悪化してしまったらしい。・・・どうやったらそこまで出来るのか、想像もできないよね。
 その荒廃したアルカディアで何とか生き残っていたのは、27人の人間・・・今で言う『27聖女』だ。彼女達は厳しい環境の中、それでも負けずに助け合って生きていたんだ。このアルカディアを元の美しい惑星にどうやったら戻せるのか、必死で考えながら。

 その時この惑星にやって来たのが、その健気な27聖女に関心した救世主『田中健一』様。田中健一様は『機人10使徒』を率いてやってきて、27聖女に『この荒廃した惑星を捨て、私と一緒に幸せに暮らそう』と誘ったの。だけど27聖女は『私達は、この惑星をここまで荒廃させてしまった責任があります。この惑星を捨てる事は、出来ません』と言って、お誘いを断ってしまう。

 その言葉に感動した田中健一様は、機人8使徒と一緒に荒廃した惑星の再生に乗り出したんだ。緑も水も消えてしまったこの星は、以前よりも豊かな惑星になって復活した。
 これには、田中健一様や27聖母も大変苦労したらしい。神学の授業に色々エピソードが残ってるけど、今は省くね。

 それはともかく、復活したこのアルカディアで今度こそ27聖女に幸せになってもらおうと田中健一様をしたんだけど、その時にはどうにもならないくらい27聖女達の身体は病んでいたんだ。悪化していた環境は、彼女達の身体を蝕んでいて、それはもう田中健一様にもどうにもならなかったんだ。

 死んでしまった27聖女の前で、今度は田中健一様が倒れてしまう。これまでの苦労にあまりの悲しみが重なって身体を壊しちゃったんだ。
 それでも、田中健一様は諦めなかった。機人10使徒が止めるのも聞かないで、27聖母の血や肉から新しい人間達・・・つまりは、あたし達を生み出す神秘の施設を作り上げたんだ。そこで生まれた新しい人間・・・つまりあたし達は、聖母様でも逃れられなかった『原罪』と言うのから開放されているらしい。そのおかげで、寿命も3倍に増えたんだよ。だから、今年で33歳のあたしは前の人間に換算すると1×歳って事になるんだよ。

 おかげでこのアルカディアには再び多くの人間が平和に暮らすようになったんだけど、ついに田中健一様にも限界が来てしまう。再び力を取り戻すために、深い眠りについてしまったんだ。
 主が眠りに付いてしまった10使徒は、主の再生したこの惑星とあたし達を管理して、田中健一様が復活するその時まで繁栄させようとしたわけ。

 こうして現在に・・・何? 何であたしがフタナリだったり、ライカンやヴァンデルが生まれたのかって? ・・・面倒だなぁ。

 田中健一様は27聖母と同じ人間を再生するつもりだったんだけど、その時にはもう力が不完全だったよ。それで27聖母の心に色々影響されちゃったの。田中健一様に憧れる心が強い聖母からは、フタナリが。このアルカディアを再び人々で一杯にしたいと思っていた聖母からは、母乳が妊娠していなくても出る人が生まれたの。まあ、人間の中では、そういう人は珍しいんだけどね。あたしみたいに家系じゃなくて、偶発的に生まれるのはもっと珍しいみたい。
 ちなみに、涼香は母乳の出る家系なんだよ。

 そして、動物が好きだった聖女からはジーン達ライカンが生まれたんの。ライカンは、獣の耳や尻尾を生やしている種族で、ほぼ全員が母乳を出せるの。その代わりフタナリの人は少ないみたい。
 彼女達ライカンは、獣そのもの程ではないけれど耳が鋭かったり、夜目が利いたりするんだ。

 逆に、種族全員がフタナリなのがダコンって種族。彼女達の多くは太陽に愛された褐色の肌をしていて、独自の田中健一様信仰をしているの。そのせいで、あたし達とはしょっちゅう衝突する。彼女達は町には住まずに、古代の遺跡を利用してダコン帝国って国を作っているらしい。

 最後にアスナ達ヴァンデル。ヴァンデルは、聖母様の中でも星を荒廃させてしまった事に対する罪悪感が、強い方から生まれたんだ。彼女達は角や尻尾を生やしていて、生まれてくる全てのヴァンデルはフタナリか母乳が出るかその両方で、アスナはその両方なんだよ。レアだよねー。
 それでヴァンデルはヴァンデル諸島域って所に住んでるんだけど・・・グループ事にやってることがバラバラなんだよね。アスナの所は親人間派だけど、親ダコン派とか独自路線とかに分かれてるの。ちょっとややこしいよね。

 それで現在に至る。まあ、町の建設秘話とかダコン帝国との戦争だとか色々あるけど、それは省くね。興味があるなら図書館でも覗いてみて。

 次に、高等部の心得にオモイカネさんの話は移る。要約すると、皆さんは聖母候補の資格を手に入れたのでがんばりましょうって事かな。
 聖母の資格って言うのは、もちろん子供を産む資格。つまり、初潮が来てるって意味。未等部の生徒は、初潮が来た来月に高等部に編入になるんだ。だから年齢が違うのに、あたし達の同じ日に高等部に編入になった訳。

 学校の目的は、聖母を作ること。それは、今は眠っている田中健一様が目覚めた時に、お慰めする事が出来る人が必要って意味なんだ。あたし達が生きてるのは田中健一様のおかげなんだから、これくらいの恩返しは当然よね。
 聖母を選ぶのは、あたし達でもオモイカネさんでも無くて田中健一様ご本人。だからこの学校で聖母に選ばれるようにがんばろうって事なの。

 それを話し終えたら、『では、皆さん鋭意努力してください』オモイカネさんが締めくくって高等部最初の授業は終了。この後は・・・今日は初日だから午前中の授業が終わったら、放課後になるんだよ。あたし達は昼ごはんを食堂で済ましてから、下校するけどね。

 一時間目、あたしは社会の授業。・・・皆はとっくに単位を取ってるんだけど、あたし試験で居眠りしちゃったんだよね。
 この授業も基本的な事しかやらないから、ちゃんと試験を受けてたら絶対単位取れたんだけどな。例えば、市民ランクについてとか。

 アルカディアでは、市民にランクが付けられてる。まず、一般市民はB級かC級市民。これは単に就いてる職業で区別されてて、B級は芸術活動作詞やダンス歌唱に執筆・・・こういう作業、機人さん達って不得意なんだよね。C級は肉体労働やサービス業で、主に機人さん達のお手伝いとか接客とか。
 ちなみにあたし今の所B級市民。お母さんが服のデザイナーやってるからね。ジーンやアスナもこのランクなんだよ。

 そして、その上にあるのがA級市民。27聖女の直系だけがなれるランクなんだよ。やっていることは・・・みんなのまとめ役とかかな? 機人さん達に、色々提案も直接出来るし何よりすごいのは・・・田中健一様が眠りから目覚めた時に、順番にだけど会いにいけるって事だよ。上手く気に入られれば、そのまま聖母になれちゃうかもしれないし、恵まれてるよね。

 でっ、今は1人もいないけどさらにその上にS級ってランクがあるんだ。これは聖母になった人だけがなれるランクで、各地にある田中健一様の宮殿でそのお世話をする事ができるんだよ。ただお世話できるってだけでも光栄なのに、同じ屋根の下で生活できるなんて贅沢だよね。

 それで最後はD級市民。このランクは、生まれつきにはいなくて重罪を犯した悪い人や、戦争の捕虜なんかがなるランクなんだよ。このランクになっちゃうと、もう市民って言うよりは商品とか物になっちゃうんだよね。セックス禁止令もアナルセックス禁止令も、もちろん対象外。何をやっても良しってお墨付きがついてるみたいなもんだ。近頃は反政府分子も大人しいし戦争も起きてないから、聖母と一緒で1人もいないんだけどね。
 ちなみに、D級市民の所有権は捕まえた人にまず与えられる。それで、捕まえた捕虜を調教して田中健一様に献上しようって考えてる軍人さんもいるみたい。

 そう言う事を流し聞きした後は、『ペニス愛撫実習』の授業。この単位はフタナリの生徒は強制参加なんだよね。もちろん教材としてだけど・・・。
「皆さん、それではペニス愛撫実習を始めます」
 あたしと同じく今回の教材のアスナを教壇の上に連れてきてから、先生(正確には先生のアルバイトをしてる学生)が、まずはあたしとアスナの下着を脱がせながら、そう言う。

 この授業、気持ち良いのは良いんだけど恥ずかしいんだよね。自分達だけ裸で見世物みたいにじろじろ見られて。特にアスナはこの授業すっごく嫌がってるの。

「私達人間に生えるペニスは、田中健一様のペニスに似た器官で構造も感じる感覚もまったく同じです。
 しかし、フタナリの人間の射精する精液は田中健一様の精液と違って、私達を妊娠させる力はありません」
 そう、あたし達の精液には『精子』って言う物が含まれていないから、妊娠させることは出来ないんだ。

「先生、アスナさんのチンチンが凪さんのチンチンと比べて変です」
 生徒の1人が、あたしとアスナのペニスを見比べてそう言う。
 見ている皆はもう気づいているんだけど・・・あたしのペニスはこれから起きる事に期待して、ちょっとはしたないけど大きくなちゃってる。それに比べて、アスナのペニスは大きいんだけど、だらりと垂れ下がって、皮も被ったまんま。

「わっ、悪かったな。あたしのチンポは、どうせ包茎で勃起も射精もまだ出来ない、大きいだけのフニャチンだよ」
 そう、これがアスナがこの授業が嫌いな理由なんだ。アスナって、今年で42なんだけどまだ精通どころか勃起もまだ出来ない、包茎チンポなんだよ。皆、大人っぽいアスナのこう言う所を面白がって色々からかったりするもんだから、コンプレックスになっちゃったんだよ。

「・・・では、以上の事とセックス禁止令を踏まえて、今日の教材になってくれている凪さんとアスナさんをペニスだけで射精させてください。1回5分以内に出来るようになるのが目標だから、がんばってね」
 先生の号令が下った途端、殆どの生徒がアスナに群がるように集まる。・・・相変わらず人気者だなぁ、アスナは。

「待ちなさいっ! そんなに押し寄せたらアスナさんが困っちゃうでしょっ!」
 群がる皆に先生が一括っ! 思わず皆動きを止めちゃう。あっ、先生にアスナが感動の視線を向けてる。・・・それは少し早計だと思うなー、アスナ。

「まず先生がお手本を見せます。皆はそれを見てからアスナさんで練習しなさいっ!」
「先生ずるいっ! 私達アスナちゃんの一番汁狙ってたのにっ!」
「2番以降で我慢しなさいっ!」
 ほらね、アスナは先生にも人気があるんだから。射精できないから透明な汁しか出ないんだけど、そんな事は皆気にならないみたい。

「ぐ・・・グレてやるーっ! うわぁぁぁぁあぁんっ!」
 まっ、観念しなさい。・・・・あたしはあんたが人気者な分暇なんだから。

 次は『被料理』の授業なんだけど・・・これって実は料理される側の授業みたい。つまり、『女体盛り』とか『わかめ酒』を習う実習なんだよね。生徒はまず料理する側と料理される側に分かれて、盛り付けの仕方や女体盛りにはどんな料理が適しているのかを、習うの。

 でっ、あたしは今回は料理される側。あたしを料理するのは・・・涼香達仲良し4人組の残り3人。皆この授業に興味があったみたいだね。

「うーん、凪って胸が歳のわりには大きいから、具を盛り付けにくいな」
 ペタリとネオトーキョー名物お刺身をあたしのおっぱいに載せながら、涼香がそう呟く。
「ぺったんこの涼香の方が、器役には向いてるよね」
 って、思わずあたしが言っちゃったら、ピシリとか聞こえそうな感じで涼香が硬直しちゃう。

 ・・・そう言えば、涼香って母乳が出る家系なのにまだ胸が全然大きくならない事、結構気にしてたんだっけ。
「あっ、ソースの材料が足らないっ! 味付けどうするのよ、これ」
 その時、あたしの隣でサラダ女体盛りを作っていたグループからそんな声が上がった。

「凪・・・困っている人が居たら、助けてあげないとな?」
「涼香、なんかその笑い方怖いんだけど」
「ホワイトソースでよければ、作ってやるぞっ!」
 怯えるあたしに構わずに、隣のグループにそう言う涼香。・・・ホワイトソースって、わざわざ言う辺りにあたしは嫌な予感を感じる。

 もちろんお刺身を作っているあたし達の調理台には、ホワイトソースの材料なんて無い。

「っと、言う訳で凪、お前の精液をホワイトソースとして提供してもらおうか。このボールにな」
「えっと・・・あたしペニス愛撫実習で疲れてるんだけど」
「・・・今朝、全力疾走させられた私も、疲れているんだけどな?」
 ・・・許してくれそうに無い。あたしは助けを求めてジーンとアスナに視線を向けるけど・・・。

「じゃあ、わたしにも仕返しする資格はあるわよね」
「・・・さっきの実習の時、助けてもらった記憶が無いんだよなー」
「はっ、薄情者ーっ! 特にジーン、あんたただ楽しんでるだけでしょっ!」

「問答無用っ! 空になるまで搾り取ってやるから覚悟しろっ!」
 涼香はいきなり調理台に登ると、あたしのペニスを踏みつけるっ! そしてそのままグリグリと、力の強弱をつけながら踏み続ける。

「ちょ、ちょっと、オチンチンをするなら手か口か胸でしょっ!? 何でいきなり踏んで・・・あぐっ、体重かけないでよぉ」
「これは我が神武家に伝わる、対ダコン用拷問方の『足コキ』だ。どうだ、私に踏まれて感じている気分は?」
「感じてなんかぁ・・・」
 感じてなんか無い。って、きっぱり言ってやりたいけど自分でも解るくらいオチンチンを硬くしてたんじゃ、説得力ってものが無いよね。

 くそー、涼香ったら何時の間にこんな技を・・・いつか仕返ししてやるからなーっ。
「くやひぃぃぃぃっ! 足でイクなんてやだよぉーっ!」
 そう叫ぶんだけど、びゅっびゅってあたしのオチンチンは精液を吐き出してしまう。涼香はそれを見て満足げにしているんだけど・・・。

「涼香、それでわたし達はどうやって仕返しすればいいのかしら? あなたが踏んだ凪のディックに」
「まさか・・・口でしろなんて言わないよな?」
「あっ・・・えーと、それはだな・・・」
 涼香の奴、後の事まで考えてなかったみたいだ。ジーンとアスナに迫られて、たじたじとしてる。

「・・・ホワイトソースの材料って、何も精液じゃなくても良いわよね」
「・・・ああ、例えば母乳とかでも代用できるだろうし」
「えっ、それはちょっと・・・って、ちょっと待てっ! 話せば解るっ! コラっ、服を脱がすなぁっ!」

 おー、剥かれてる。でも、協力するって自分が言ったんだから、ちゃんと責任は取らないとダメよね。自業自得だから、観念するんだよー。

 結局、隣のグループは『凪の精液と涼香の母乳のミックスドレッシング』をかけたサラダを作った。・・・協力したおかげで、あたし達はもう少しで授業時間内に完成しないところだったけど。

 それで今日の授業はお終い。後は普通にお昼ご飯を食べたら、皆でDNA登録所に行って手続きを済まして、それからショッピングに行く予定なんだよ。

 学校の食堂は、基本的にビュッフェ方式。だからって、何でも好きなものが好きなだけ食べられる訳じゃない。
 ダイエット制限方とか体重制限法とか、そう言う法律に考慮して食事を選ぶんだ。って、言うと難しそうに聞こえるけど、どんな物を食べて良いのかはカードで決められてるんだ。

 食事用のカードに必要な栄養とかカロリーの制限とかデータが入ってて、あたし達はそれを機会に通してどれをどれだけ食べて良いか、簡単に見れるわけ。もちろん、身長や体格や筋肉量に日々の運動量とかも細かく考慮されていて、とっても便利なんだ。
 これも、機人10使徒の食料担当のマーラさんのおかげだね。

 DNA登録所は、機人さん達が忙しく働いてるのとは反比例にいつも人が少ないんだ。街中にあるんだけど、ここが私達人間を新しく産む『神秘の施設』の一部だって言うのもあって、普段は皆ここを利用しないからね。

 ここは高等部以上の生徒が利用できる施設で、ある授業を受けるために必要な施設なんだ。
 その授業は『子育て』。自然妊娠出来なくなったあたし達に、お母さんとか家系があるのもこの授業のおかげ。学生はある年齢以上になったりすると、この授業を必ず受けなきゃいけない。そして、自分のDNAから分身を作ってもらって、その分身を子供として育てるんだ。

 もちろん、あたしや涼香は母親のそのままのクローンじゃない。あたしのお母さんにオチンチンは、ついてないしね。
 同じDNAの分身を作ってもらう事もできるけど、DNAを他の誰かの物とミックスする事も出来るんだよ。もちろん、相手の了承が必要だけどね。これで一応は自然妊娠できた頃と同じで、DNAが違う子孫を残せるようになっているんだ。

「あたしはここで登録しても、国に帰ったらまた登録しなおさなきゃいけないんだけどな」
 アスナがそう言いながら、腕を摩る。そう言えば、アスナって10年後には故郷に帰るんだっけ。

「じゃあさ、記念にわたし達でミックスさせた子供を作るのってどう? 自分と、3人のDNAを混ぜた子供を3人作って育てるの」
 っと、ジーンがとっぴな事を言い出す。

「ジーン、あたし達まだ取らなきゃいけない単位がたくさんあるんだよ? そんなんじゃ、一度に子供を3人も育てられないって。・・・まあ、どんな子供が出来るのか興味はあるけど」
「・・・・・・私は、やってもいい。私が学校に行っている間は、母上が面倒を見てくれるし」
「って、涼香やるのっ!? そんな事言ってお母さん説得するの大変じゃない?」

「母上は・・・速く作りなさいと、前々から言っているんだ。私に。良い経験になるからと。一度に3人も作るとは思っていないだろうから、驚くだろうが」
 ・・・涼香のおばさん、英才教育にも程があると思う。

「あたしもやってみようかな? 娘達と一緒に帰国、って言うのも良いと思うし」
「アスナまで・・・わかったわよ、あたしもやるっ! でもお母さんを説得して、色々準備してからだからねっ!」
 結局、あたしは折れたのだった。・・・そのすぐ後に、大声を出さないように注意されちゃった。

 子育てに関する本を見に、書店に4人で向かっている途中でビルの壁面に映し出されてるニュースに、緊急ニュースが流れ始めた。
『ライカン解放軍の主な武装である、新型スタンスティックの情報が入りました』

 画面では細くて短めのスタンスティックが、大写しになってる。何でも、軽量化されていて、俊敏なライカンには優れた武装になるんだそうだ。
 ちなみに、あのスタンスティックっていうのは相手に触れた瞬間、電流を流して行動不能にするって言う武器なんだよ。当たったら、確実に動けなくなっちゃうって訳。

「あの人達、ほんとになんで暴れるんだろ?」
 って、不思議そうな顔をしているのはライカンのジーン。ライカン解放軍って言うのは、ライカンを解放するために、って名目で政府に反発してる組織なんだけど・・・なんでだかはあたしにもいまいちわからない。

 あの人達が言うには、ライカンは政府・・・つまり機人さん達の管理下に無くても生きていけるって言うのが代議名文なんだけど、そこでなんでいきなりゲリラ活動になるのかがわからない。
 あの人達のおかげで、何人ものけが人が出てるんだ。中には、腕の骨を折る大怪我をした人もいるんだよ。

 ・・・死者? そんなの出るはず無いじゃん。いくらゲリラだからって言って、ノンリーサルウェポン・・・非殺兵器以外を使うなんて、そんな人道に反する事をするはずが無い。もちろん、取り締まる方のアルカディア軍も使わないのが常識だ。

「この頃反政府分子も大人しいし、ダコン帝国も活動を控えているようだが・・・これが嵐の前の静けさじゃないといいな」
 っと、涼香が呟く。彼女もいつかは戦場に出るんだから、人事じゃないんだろう。

「なあ、ニュースも良いけど何かあったみたいだ。機人さん達が走ってるぜ」
「本当だ。何だろ・・・って、こっちに向かってくるみたいなんだけどっ!?」
 機人さん達は、見る間にあたし達を取り囲むとスタンスティックを『抵抗するな』と言わんばかりに突きつける。

『白浜凪、以下3名注意を聞かなかった罪により拘束し、裁判にかける』
「・・・ええーっ!? だって、あれは・・・」
『口答えも、抵抗とみなす』
「そ、そんなっ!?」

「凪っ! お前と言う奴はーっ!」
「朝のあれね。・・・凪、本当に走ってただけ? わたしの目を見て答えてくれない?」
「・・・凪、罪を償おう。あたしも付き合ってやるからさ」
「ご、ごめんなさーいっ!」

 っと、あたし達はまとめて連行されてしまったのだった。・・・お説教で済むと思ったんだけどなぁ。

『ごめんね、こんなこと本気で思っている訳じゃないんだよ』
『これも法律だからさ、観念してね』
 そんな事を口々に言いながら、自分の娘とその友達4人に集っている善良な市民達を見ながら白浜凪の母、白浜紗江は、ため息をついた。

「まったく、やんちゃしてからに」
「まあまあ、無茶は子供の頃にしておくものですよ」
 涼香の母、麗華がその横で和やかなにそう言う。

「その無茶のせいで、あたし達この年で『着衣禁止刑』一ヶ月で、この先しばらく裸で生活しなきゃならないんだけどね?」
 そう、彼女達2人は衣服をまったく着ないで、立っているのだ。もちろん、ここは街中である。

「親の罪は子に問わず。しかし、子の罪は親にも問う。保護者だから当然ですよ。
 ・・・ところで、同じ着衣禁止刑を貰った者同士と言うことで、ジーンさんやアスナさんのお母さん達と待ち合わせをしているんですけれど、紗江さんもどうです?」
「あんたの奢りなら良いよ。まったく、服のデザイナーが服を着れないなんて、格好がつかないじゃないのさ」

 ペン、それもただのペンじゃなくて『淫語肉体筆記刑』用の特殊ペン。何やっても落ちなくて、そのくせ専用の洗浄液を使えばすぐ落ちて、人体にも無害な優れ物。その優れ物を持った刑執行に協力してくれた人達が、離れたときには、あたし達は体中淫語だらけにされていた。

 この刑って、身体の幾つかに淫語・・・『淫乱メス』とか『スケベマンコ』とか、そういった言葉を書かれるんだけど、今回の場合全身・・・それも同時に『着衣禁止刑』までくらっちゃったから、全身淫語を書かれて、それを隠すことも出来ないんだよね。『着衣禁止刑』って、服はもちろん下着も何も身につけちゃいけないって刑だから。アクセサリーだけはつけても良いんだけど・・・こんな時に目立ってどうするのって話。

 手で隠すことは出来るけど・・・その手にも書いてあるんだよね。『この手でチンポシコってます』って。でもオチンチンに『マゾチンポ』とか書かれてるのを放っておくのもなぁ・・・。その他にも『オナニー大好き』とか『勃起乳首』とか、色々書かれてるし。

「・・・良くこれだけ、書けるものだな」
 感心したように言いながら、『ツルツルマンコ』や『搾乳大好き』とか書かれた自分の身体を涼香が見下ろす。
「きっと、淫語教習の単位をとってる奴が居たんだろ。・・・くそっ、本当の事書くなよなっ!」
 そう答えるアスナの視線の先は、『フニャチン』って書かれた自分のオチンチン。やっぱり、『お豆いじめて』とか『グロマンコ見て』とかより、それが気になるみたい。

「うーん、アスナが4号で涼香が2号で・・・凪が1号か。じゃあ、あたしは3号ね」
 あたし達を後ろから見て、『クンニ名人』と頬に書かれたジーンがそんな事を言い出した。
「気づいてない? あたし達背中に『メス豚』お尻に何号って書かれてるのよ」
「ええっ!? ・・・マジだっ!」

 自分の背中は良く見えないから、涼香のを見てみたら本当に背中に『メス豚』って書かれてて、その下のお尻の左側に『3』右側に『号』って書かれてる。・・・後ろから見たら『メス豚2号』って読めるようになってる。きっとあたしも『メス豚1号』って書かれてるんだろう。

「・・・あいつら、顔は覚えたからなーっ!」
「やめろみっともないっ! それもこれも自分の身から出た錆だろうがっ! いいから、そろそろ放送局へ行くぞ。刑の執行に間に合わなくなる」
「はーい・・・」
 涼香に叱責され、あたしは渋々両手を地面について犬みたいにして学校へ向かった。

 へ? 何で普通に歩かないのかって? それはもちろん『二足歩行禁止刑』も下ってるからだ。刑期を終えるまでこうやって、よっつんばいで犬みたいにして歩かないといけないんだよ。
 何だかみんなの視線がお尻に向かってるみたいに感じて、恥ずかしいなぁ。しかも、お尻に書かれてる文字が歩く度にお尻と一緒に動いて、きっとみんなの印象に残っちゃうだろうし・・・。

 しかも放送局に行ったら、『淫行撮影刑』の執行が待ってる。これは、つまりエッチな事をしている所を撮影されてしかも、テレビで放送されちゃうって刑。しかも、どんな事をされるのかは公募、つまり視聴者のリクエストで決まるんだ。
 SMっぽいのとか、あんまり酷い事されないと良いんだけど・・・。

 このまま一ヶ月・・・うーん、あんまり楽しいことにはなりそうに無いなぁ。
「悪いことって、出来ないもんだよねー」
『お前が言うなっ!』

 それから一ヶ月の間、東校では朝の登校風景にあたし達のお尻とメス豚1~4号の文字があったとか。・・・見に来ないでね。頼むから。

 『神殿』とアルカディアの住人から呼ばれる、ギガホープ管理船のメインルームでプロメテウスは計算と結果を出す事に時間を費やしていた。機人10使徒と住人に呼ばれている、彼と田中健一の作り出した人工知能から送られてくるデータを分析し、指示を出す。
 それがここ半年続いている。

 そう、半年だ。田中健一が新しい身体に生まれ変わるために眠ってから、まだ半年しかたっていない。住人は誰もそれに気がつかないでいる。
 クローン担当人工知能『エキドナ』が、培養したクローンに偽の記憶をする込んでいるためだ。その他にも、彼らと田中健一が設定した偽の法律、偽の神話、偽の歴史・・・様々な物を刷り込む。

 その偽物の情報による、偽の倫理、偽の利害、偽の対立・・・。ダコン帝国もライカン解放軍も反政府分子もヴァンデル諸島も、全て彼らと田中健一の設定通りに動いている。仮に彼女らが戦争を起こしても、全ては手の平の上の出来事だ。

 プロメテウスの計画では、まず住民の数をある程度増やす事が必要だった。もちろん、年代に幅を持たせてだ。そして、全ての住人には区別無く身体の中で老化抑制酵素(年齢によっては成長抑制酵素とも言える)を作れるように改造する。
 この酵素はアルカディアに着いてから、新しく開発した物で地球で使われていたものよりも性能が言い。これを使えば、成長は3分の1のスピードに落ち、老化は殆ど停止すると言っていい。

 これで、むやみに住人を増やさなくて良い事になる。生産を広げすぎて、欠陥を作る危険性を少なくなる訳だ。
 そして、生まれた住人にも管理を施す。教育も経済も食生活も・・・さすがに人工知能に苦手な芸術分野は管理出来なかったが。

 もちろん、軍事も管理している。こちらが設定した対立によって起こされた争いで、勝手に数を減らされてはたまらない。『殺人』に対する強力な忌避感を植え付け、そして兵器は完全にこちらが生産する。もちろん、非殺武器ばかりを。

『プロメテウス、問題があります』
『データを提示してください、アスラ』
 アルカディアの治安維持担当の人工知能、アスラからデータが送られてくる。それは、白浜凪とその友人3名に関しての物だった。

『この4人には、再教育か処分が必要だと思われます』
『何故?』
『こちらの予定外の犯罪を犯しました』
 住民には、時々犯罪を犯すよう睡眠中に刷り込むことがある。簡単に言うと、見せしめのためだ。将来的には田中健一の楽しみのために、刷り込むことになるだろうが。

『・・・監視レベルを強化。その後、この4人を田中健一船団長への献上品リストに載せなさい』
『はい』
 急な環境の変化は、回りにまで影響を与える。それは、新しいトラブルを起こしかねない。なら、当座は見張って機会が来たら、目も手も届く懐で籠の鳥にすればいい。

 それから、暗黒大陸担当の『ロキ』が経過を報告してくる。・・・問題無し。あの大陸の住人には田中健一船団長のための生きるアトラクションになってもらわなくてはならないから、仕掛けには気をつけないといけない。

 エキドナがフタナリの精液や母乳の調整が、順調である事が報告される。住人の精液は、人口のコントロールのために完全に無精子でなくてはならない。そのため、彼女等が体内で作れるのは、擬似精液だけだ。
 また、母乳も本来のそれよりも味を良くしてある。これは主に田中健一が飲むために。

 彼らは、アルカディアの住人が生きていくために、管理する。優秀な畜産家が、美味しい牛乳を得るために乳牛の世話を熱心に行うように。
 そして、それを罪悪だとは全く考えない。優秀な畜産家でも、家畜のために人権運動をしようと考えないのと同じように。

『プロメテウス、通信が入りました』
 宇宙の監視担当の『ルシファー』が、報告をする。
『何処からです?』
『地球からのようです』

『・・・通信内容は?』
 その問いに、すぐスピーカーに音声が再生される。
『・・・第1から第9移民船団に乗った全ての人類に告げる。地球は・・・滅んだ。・・・・人口爆発による、集団ヒステリーがきっかけで・・・地球は死の星になりつつある。そして、生き残った人類は・・・・私だけだろう。いずれ、0になる。
 君達が最後の・・・希望だ。・・・・・・・人類・・・を、たやさな・・・い・・・で』
 最後に、ブツリと声は途絶えて、それっきり。

『その通信は、何年前に発信された物ですか?』
『はい、約500年前だと推測されます』
 500年前・・・すると、田中健一をプロメテウスがこのアルカディアに辿り着いた時には、地球は滅んでいた事になる。

『田中健一様には、この事を報告しますか?』
『不要です。船団長には、お身体を今しばらく休めてもらいます。
 この情報は優先度Cとし、船団長の覚醒後報告する物とします』

 田中健一の身体は、まだ成長しきってはいない。古巣が滅びた程度の事を報告するために、身体の培養を止めるのはあまりに非効率だ。
 そもそもこの情報は、それ程重要ではない。目覚めのジョーク程度にしか役立たないだろう。

『・・・しかし、そう長くは培養に時間を割けないかもしれません』
 住人達に、崇めるべき田中健一が不在だという状況は、想定していたよりも大きいストレスをかけているようだ。
 もうしばらく影響は出ないだろうが、このまま放置しているのはまずい。

 古巣が滅びたと、プロメテウスが冗談代わりに田中健一に報告するのは、そう遠い日では無いだろう。

< つづく >

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