夢から始まる物語 4th plane

4th plane・「シオン」と「悪魔」と「天使」

登場人物:
 レオン・・・天界から来た天使と悪魔のハーフの美男子。明日香にレオンと名づけられる。天界ではリファイスによってシオンと呼ばれていた。天使術『マスターオブスペース』で相手を支配する。天使階級は無く、現在最終試験中。
 明日香・・・男の人(父親代わり)が欲しいと願った中1。レオンが天使になれるかどうかは明日香次第。
 美佳・・・明日香の母。未亡人。レオンの天使術でレオンのセックスフレンドに。
 リファイス・・・シオンの婚約者の女性。超美人。天使第5階級。
 フィリシーン・・・堕天使で魔界に住む。ハーフであるシオンを欲する。
 エンカーブレイス・・・シオンの母で天使第8階級。美しく優しく強く、皆の憧れだった。シオンを産んだ際に命を落とす。

≪「前編よ♪」by明日香≫

 この日、明日香は上機嫌で鏡の前に立っていた。
「ふっふ~ん♪」
 そして1回転して笑っている。
 その服装は真新しい制服だ。
「じゃ~ん!今日から私も中学生~。イエーイ!」

 レオンはそっけなく突き放した。
「そうか。よかったな。早く行け」
「む~っ。何かレオン今朝から機嫌悪い~・・・あれ?レオンは一緒に行かないの?」

 レオンは明日香の部屋でくつろいでいる。
「今日は入学式だけで終わりだろ?そんな短時間ですることは何も無いからな」
「ふ~ん。もし虐められたら恨んでやるんだから」
 明日香が意地悪そうに笑うとレオンは再び突き放した。
「バカか。初日だぞ。皆それどころじゃないだろ」
「あっそ。じゃあ行ってくるけど!絶対に日記とか見ないでよ?」
 明日香はむすっとして学校に向かった。

「・・・お前日記なんてつけてないだろうが・・・」

――――――――――天界――――――――――

 とある部屋では老天使達が集まっていた。
「第5階級リファイス・・・今日を以ってそなたを第6階級に任命する」

 リファイスが傅いている。
「はっ。ありがたくお受けいたします!これからも下界人の幸せのために精進いたします!」
 リファイスは第6階級に昇格した。
 任務の正確さとやる気が認められたのだ。

 昇進したリファイスは、クスクスと笑いながら建物内を歩いていた。
(ふふっ。シオンが帰ってきたら驚くわね♪部屋もお風呂付の部屋に引っ越せちゃう♪荷物をまとめないとねっ♪)

 と、正面から女友達が走ってきた。ちなみに彼女はまだ第3階級だ。

「あ、リファイス!!とりあえずおめでとう」
 リファイスに気がついて足を止めたものの、かなり急いでいるようだ。

「あ、ありがとう。どうしたの?そんなに慌てて・・・」
「大変なのよ!!悪魔が天使を強姦しにやって来てるのよ!!」

 悪魔が天使を・・・その言葉にリファイスは敏感に反応した。
「・・・何ですって・・・どっち!?」
「あ、外に出て右に真っ直ぐ・・・あ、ちょっと!相手は・・・」
 リファイスは話を聞き終わる前に急いで駆け出した。

「悪魔が天使を強姦・・・シオンのお母さんと同じ目にはさせないわ!!」
 外に出ると、翼をはためかせて飛び立った。

 そこから離れた場所には傷つき倒れた天使達が横たわっていた。
 そして中央には蹲った女天使。そして悪魔の男。

「くっくっく。やっぱり天使は清潔だけあって犯し甲斐があるぜ」
 全身黒に黒い翼。黒い尻尾。顔には頬に赤の線が入って、赤い瞳をしている。
 悪魔は天使に馬乗りになって高笑いをしている。

「や・・・やめて・・・おねがい・・・」
「くっくっく・・・」
 悪魔が天使の衣を破る。
「きゃああっ!!」
「いいねえ。その恐怖に満ちた顔。俺は悪魔だぜ?そんな顔しても喜ぶだけさ」

-シュッ-

 悪魔を目掛けて羽根が飛んできた。
 悪魔は飛んできた羽根を軽々と避ける。
 投げた人物。リファイスだ。

「待ちなさい!!このケダモノっ!!」

 悪魔はリファイスを見てニヤリと笑った。
「何だあ?お前は。お前も犯して欲しいのかあ?」

(!!悪魔化したシオンに似ている・・・あれが真正の悪魔・・・初めて見る)
 リファイスは手にした羽根を連続で投げつける。
-ヒュヒュヒュッ-
 しかし、悪魔はかるがると避けてみせた。

「威勢のいい奴だ。そう言えば前に犯しに来たときも同じ様に庇いに来た天使が居たっけなあ。あいつの身体は最高だったぜ」
 この悪魔はそうとう自慢話が好きなようだ。

「前に来た時?・・・」
「俺の趣味は天使を強姦する事だ。大変なんだぜぇ?魔界にも門番が居るからなぁ。なかなか天界には来れねえってことよ。だからその分たっぷりと中にな」

 リファイスの脳裏に嫌な予感が浮かんだ。
「あなた・・・まさか・・・前に来た時に・・・子供を・・・」
「子供?ああ、俺は後先なんざ気にしねえ。たっぷりと嫌がる天使に中出ししたからなぁ。それだけは止めてくれってずっと泣き喚いてたぜ」

 そしてリファイスは尋ねた。
「・・・庇って代わりに犯された・・・その天使の名は?」

 悪魔の口から語られたのは、リファイスの望まない答えだった。
「なんつったっけなあ。周りが必死で呼びかけてたから覚えてるぜ。確か・・・『エンカーブレイス』だった」
「っ!!!・・・や、やっぱり・・・シオンの・・・」
 リファイスは驚愕した。犯された天使がシオンの母親なのだ。
 この悪魔がシオンの父親なのだ。
「あいつはよかったぜ。特に締め付けがすげぇんだ。結構位の高い天使だったんだろ?ま、剥いちまえば一緒か。くっくっくっくっく・・・」

(シオンのお母さんは誰かを守ろうとしてこの悪魔に負けた・・・そして強姦され、シオンを孕んだ・・・シオンに罪は無いからと言って周囲の反対を押し切ってシオンを産み、絶命した・・・第8階級のエンカーブレイスさま。彼女は美しく気品に溢れ、それで居て強力で・・・女天使の鏡だったと聞いているわ・・・そんな人が負ける相手・・・わ、私が勝てるわけが無いじゃない・・・)
 リファイスは目の前の残酷な悪魔に勝てる気がしなかった。

 悪魔はそんなリファイスを見透かしたように笑った。
「おいおい。俺の話を聞いて怖気づいたか?そうだ。俺の名は『ブルータル』。子供の名前を決める時に参考にしてくれ。前の時は決める前に死んだらしいな」
「くっ・・・私は負けるわけにはいかないのよ・・・シオンのお母さん・・・そしてシオンのためにも・・・」
 リファイスは上半身を裸にされた天使を見る。
 身体を丸めてガチガチと恐怖に震えている。
 リファイス本人も本当なら逃げ出したかった。
 でも助けたい。そう思う気持ちがリファイスを突き動かしていた。

「天使をなめないで!!」
 リファイスは最大限の魔力を解き放った。
「喰らえっ!!『マスターオブスペース!!フォールマジック!!』」
 リファイスの身体から魔力がほとばしる。
 リファイスの術がブルータルに届く。

 ブルータルはニヤリと笑った。
「ふんっ!!生温いわぁっ!!!『マイティラスト!!』」
 ブルータルに魔力が届く寸前、リファイスの魔力は掻き消された。
「っ!!!?」(ま、まったく効かないなんて・・・)

――――――――――――――――――――

 一方、下界の明日香の部屋には、レオンと一人の女性が対峙していた。
 彼女は堕天使フィリシーン・・・

 彼女は空中であぐらを掻いている。小さな悪魔の翼が生えている。

「ふふっ。あなたを頂きに来たわよ・・・」

 レオンは慌てる様子も無く冷静に尋ねた。
「・・・何故下界に来た・・・誰との取り引きだ・・・」
「取り引き?よく分かってるわね。私は利益無しでは動かない・・・あなたの血が・・・身体が・・・私の取り引きよ・・・」
 フィリシーンが近づく。

 レオンはフィリシーンをキッと睨みつけた。
「・・・帰れ。目障りだ。俺が力を使わないうちにな」
「そんなに焦らないで・・・ちゃんと取り引きしたんだから・・・ほら、これを見て」
 フィリシーンが指を鳴らす。
 扉が開き、虚ろな明日香が入ってきた。

「!!明日香・・・貴様!学校で支配したのか!」
 どうやら完全にフィリシーンの支配下にあるようだ。

「ねえ悪魔くん。断ったらあなたは堕天使同然になるわ・・・だって願い主を殺しちゃうんだもの」
 フィリシーンは無表情の明日香の顔を満足げに指で撫でる。
「さあ、取引しましょう?私の下に来るなら願い主は返してあげる・・・」

 レオンは状況を理解した。どうやら誰かの命令で自分を止めに来たようだ。
 逆らうと明日香の命を取るということらしい。

「・・・だいたい読めてきた・・・そうか。今天界では大変なことが起こってるんだろうな・・・どうりで今朝から嫌な予感がしたわけだ。こんなときリファイスなら実力差も省みずに首を突っ込む・・・あいつは他人の為なら命だって賭けられる・・・」
 レオンはそう呟いた。
「??」

「・・・俺は・・・リファイスを失うわけにはいかない。リファイスを失うなら天使になどなれなくてもいい」
「!!な、何ですって!!追放されればそのリファイスとも逢えなくなるのよ!」

 レオンは何かを決心したようにフィリシーンを見つめた。
「・・・俺と取り引きしろ。お前の条件を飲む・・・俺の全てをお前にやる・・・その代わりに・・・」
「・・・分かってるわよ。この子を解放・・・」
「違う!!・・・リファイスを助けてやってくれ・・・あいつは今頃大変な目に遭っている・・・分かるんだ。俺には」
「っ!!・・・あ、あなた・・・自分が何を言っているか分かってるの!!そんな不確定要素のために私に天界に行けですって!」

 レオンは真剣な表情でフィリシーンと向かい合っていた。
「出来れば俺が行きたい・・・だがジジイは絶対に俺を認めはしない・・・お前は魔界から下界に来たぐらいだ。天界にも行けるんだろ?・・・さすがに追放された天界に行くのは辛いかもしれない。だが・・・頼む・・・」
 フィリシーンの気持ちが揺らぐ。
「あ、あなたは何もわかっていない・・・わ、私が命令された相手・・・ブルータルという悪魔は・・・あなたの父親なのよ・・・」
 フィリシーンの頬を汗が伝った。

 レオンがその事実に驚愕する。
「な、何だと・・・俺の父親が今度は別の天使を・・・まさか・・・リファイスが・・・た、頼む!!俺は何でもする!!俺の血が欲しいのなら命だってくれてやる!!」

 フィリシーンは考え込んだ。やはりシオンを欲しいと言う気持ちのほうが強い。自分もブルータルには嫌な思いばかりさせられている・・・下克上のチャンス・・・

「・・・わ、わかったわよ・・・あなたを手に入れなきゃどうせ私はまた地獄よ・・・」
 フィリシーンはそう言って姿を消した。

 レオンは虚ろな明日香に天使術を使い、ベッドに眠らせた。

――――――――――天界――――――――――

「はあっはあっ・・・な、何をしたの・・・」
 リファイスの身体がガクガクと震えている。
(か、身体が熱い・・・こ、こんな時に・・・発情してる・・・どうして?・・・)
 さっきの『マイティラスト』という術でリファイスは強制的に発情させられていた。

 ブルータルはリファイスにじりじりと近づく。
「悪魔だからな。この術はあらゆる願望を操るのさ。なんなら俺への恋愛感情を植えつけようか?それともお前の大切な人へ殺意を抱かせてやろうか?クックックックック・・・」
 今からリファイスを絶望の底に叩き落す快感。

「!!くっ!」
 リファイスが羽根を投げつける。
「・・・ふっ・・・」
 ブルータルは腕で弾き落とした。

 このままだと喜んでブルータルに抱きつくかもしれない・・・シオンを殺すかもしれない・・・もはや自分の心はこの悪魔の手中にある・・・
「こ、来ないで・・・たすけて・・・」
 初めてリファイスは命乞いをした。それを見たブルータルが高笑いした。
「ふははははっ!!エンカーブレイスもあっけなかったぞ!所詮女なんだよ!!」

 本当はブルータルとエンカーブレイスの戦いは互角で、人質を取って辛うじて勝利を収めたものの、かなりの痛手を負った。だが、リファイスにその事実を知る術は無い。

 ブルータルがリファイスを押し倒す。
「クックック・・・まずは嫌がるところを楽しむか」
「ぐぅぅっ!!・・・ち、ちくしょう!!ちくしょうっ!!!」(私は!!何も守れない!!悔しい!!悔しいよ・・・シオン・・・)
 リファイスの目から涙が溢れる。
 ブルータルはますます悦んだ。

 そこにフィリシーンが息を切らせて現れた。
「待って・・・その娘は放してちょうだい・・・」

「ああん?てめえ・・・裏切る気かよ・・・」
 ブルータルの射るような視線に、フィリシーンの恐怖心が湧き上がる。フィリシーンはなんとか恐怖を抑えながら続けた。
「お願い・・・その蹲ってるひ弱そうな方でいいじゃない・・・最初はそっちが目当てだったんでしょ?」
 フィリシーンが最初に襲われかけた天使を指差す。相変わらず蹲ったまま震えている。

 だが、ブルータルにとってフィリシーンが意見することは気に障るものだった。
「・・・堕天使が悪魔に意見をするなんてな・・・折角息子をやろうと思ってたのによぉ」

 息子と言う言葉にリファイスが反応した。
「息子・・・フィリシーン・・・シオンに何か言われたの?」
「・・・あなたを守って欲しいんだってさ・・・だけど私はブルータルには絶対に叶わない・・・だからあなたを助けるにはこうするしかないのよ・・・震えてる彼女には悪いけど」
 フィリシーンが蹲っている天使を哀れむように見る。

「おい・・・」
「!!?」
 フィリシーンが振り返る。
 ブルータルがフィリシーンの左胸に右手を置いた。

「・・・もう貴様は必要ない・・・大人しく従っていればいいものを・・・」
 ブルータルの右手が淡く光りだす。
「その命、せめて俺が喰ってやるぜ!」

 フィリシーンは自由の利かない身体で自分の最期を悟った。
「そ、そんな・・・わ、私はただ・・・」
-ドクン-
「や、やめて・・・私はそんなので消えたくない・・・」
-ドクンッ-
「せめて・・・まともに殺して・・・魂だけでも・・・」
-ドクンッッ-
「うあ・・・やめ・・・ああ・・・」
-ドクンッッ!-
「ぁ・・・ぁ・・・」
-ドクンッッ!!-

 ブルータルの手の光が消えると、フィリシーンは崩れるように倒れた。
 何が起こったのかわからないリファイスは、フィリシーンに声を掛けた。
「ふぃ、フィリシーン?・・・」

 ブルータルはリファイスの目の前に移動した。
「ムダだ。そいつの魂は俺が喰った」
「!!た、魂・・・を・・・?」
「凄いだろ?俺の中でずうっと苦しみながら漂うんだ・・・死んでなお苦しむんだぜ?」
 リファイスの目にフィリシーンの顔が見えた。
 意思の無い瞳には涙の痕が見えた。リファイスの心の中に怒りが込み上げる。

「あ、あんたは・・・あんたは最低よぉっ!!!はああぁぁっっ!!!」
 リファイスは力を使う。

 怒りに任せて全ての魔力を解放した。
「あんたの『存在』を支配する!!『マスターオブスペース!!』」
「バカめ・・・怒りの感情は負の力・・・悪魔の喜ぶ力だ!!『マイティラスト!!』」

 あっけなく力負けし、リファイスの目から光が消える。
 突きつけた腕が力なくだらんと垂れる。
「ふははははっ!!エンカーブレイスの方がよっぽど耐えてたぜ!!」

 ブルータルが後ろからリファイスの衣を剥ぎ取る。
 形の良い乳房があらわになる。
 そしてシオンの羽根のペンダントも・・・
「さて・・・おまえの『性欲』を高める・・・そして『リリース』」

 リファイスの目に光が戻った。だがその瞳はどんよりと濁っている。
「うぐ・・・ま、まさか・・・私の力を跳ね返すなんて・・・」(そ、そんな・・・何でこんな奴に・・・犯されたい・・・激しく・・・)

 リファイスは胸を押さえて欲求に耐えていた。
(くぅっ!だ、ダメ・・・身体中が熱い!おっぱいが張って・・・あそこが疼く・・・)

 ついに耐え切れなくなり、リファイスはしゃがみ込んだ。
 それをみたブルータルは笑みを浮かべながらリファイスに近づいた。
「じゃあ犯させてもらうぜ・・・」

 ブルータルはリファイスに飛びついた。

「く・・・い、いやあああぁぁっっ!!!!」

 ブルータルはリファイスの背後から胸を鷲掴みにした。
「おらおら!こうされると感じんだろ!お前はもう清純な天使には戻れねえんだよ!」

 ブルータルはリファイスの乳首を強く摘んだ。リファイスの身体中に今まで感じたことが無いほどの強力な快感が走った。
「ああああーっ!!!」

 ブルータルの強引な愛撫にリファイスの快感が一気に高まる。
 ブルータルはズボンを下ろし、大きなペニスを取り出した。
「ふっ。一気に挿れてやる・・・」
「い、いやああっっ!!やめてぇっ!!は、早く挿れてぇっ!ち、違うのぉっ!!欲しいっ!!いやあっ!!だめぇっ!!」
 リファイスは言いようの無い快感と理性で混乱していた。
(シオンッッッ!!!!助けてぇっ!!!!!)

 ブルータルがリファイスのお尻を持って後ろから挿れようとした。

-ビッ-

 何かがブルータルの頬をかすめ、線が入って血が流れる・・・
 頬の赤いラインと重なるように血が流れていた。
「!!??」

 ブルータルはその頬をかすめたものが飛んでいった方向を見る。
「黒の・・・羽根?」

「・・・え?・・・」
 その言葉にリファイスが反応した。
 羽根が飛んできた方向から何かが飛んで来る。

「シ、シオンッ!!」
 今まで地獄を味わっていたリファイスの顔に、一気に期待の色が浮かんだ。

 シオンはブルータルの目の前に下りた。
「・・・待たせたな・・・リファイス・・・」
 シオンはリファイスが犯されていた事を悟った。
 リファイスはぎゅっとお守りの羽根を握り締める。
「ホントにシオンなのね・・・嬉しい・・・でもどうして天界に?」
「意外にもジジイが独断で俺を連れてきてくれたんだ」

 シオンはキッとブルータルを睨みつけた。
「・・・貴様が俺の父親なんだってな・・・そして母の仇でもある」
「ふん。こんな非力そうな奴が俺の息子だとぉ?」
 ブルータルは余裕の笑みを浮かべ、ズボンを上げてシオンと向かい合った。

 リファイスは震える身体でシオンに語りかける。
「き、聞いて、シオン・・・あなたのお母さんは・・・エンカーブレイスさまは・・・天使を庇う為にその男に挑み、負けた・・・誇りに思っていいのよ・・・」

 シオンは歯をぎりぎりとさせて怒りを示した。
「・・・うるせぇ・・・負けたら意味はねぇんだよっ!!」
 そんな様子を見てブルータルが笑った。
「ふはははは!さすがに俺の子だけあってよく分かっている・・・」

「そして・・・負けたのなら何も誇ってはならない・・・」
「その通りだ!いわゆる『勝って支配する』ということだ。さすがに俺の血は濃かったようだな!ふはははは!」

「だから俺はどんな手を使っても貴様を負かす!」
 シオンはスッと片手を突き出すと、一気に魔力を放出した。
『マスターオブスペース!!』

「っ!!?な、何っ!!」
 ブルータルの動きが若干鈍る。

-バギッ-

 シオンが動きの鈍ったブルータルを蹴り飛ばした。

「貴様だけは俺の手でぶっ殺さなければ気がすまん・・・」

「お、俺の動きを鈍らせるほどの魔力・・・」
 ブルータルはダメージも無く平気な顔をしているが、自分の動きを鈍らせたという事実には驚いている。

 シオンは腕に力を込め、悪魔化した。
「うああああぁぁっっ!!!!!!」
 金色の目、天使の羽根を除いてほとんどがブルータルに似ている。

「・・・はあっ!!」
「むっ!!」
 ドガガガッと銃撃戦のような激しい音が鳴り響く。お互いの拳が入る。

 暫らくほぼ互角の戦いが続いていたが、ブルータルが大きく蹴り飛ばされた。
-ドゴッ!-
「ぐおっ!!」

 シオンはじっとブルータルが起き上がるのを待っていた。
「立て・・・そろそろ本気を出したらどうだ。そのまま死んで後悔するなよ」

 ブルータルは薄笑いを浮かべながら起き上がった。
「ま、まさかこれほどの力とは・・・気に入った。俺の息子として魔界で暮らせ!貴様なら鍛えれば王を脅かす存在になれるぞ。名も俺がつけてやる。そうだな・・・『プルート』などどうだ?」

「・・・ふざけんなああっっ!!!」
 シオンが激怒する。

 ブルータルはニヤリと笑った。
「俺に似て強情な奴だ。この力を見ればすぐにでも地獄に来たくなる・・・絶対にな・・・うおおおっっ!!」
 ブルータラスの筋肉が膨れ上がる。
 肩や背中から突起物が現れる。
「く・・・」
 シオンがその気迫に押される。あたりの空気がビリビリと震えた。

 リファイスがシオンを見つめる・・・
「あ、あれが本当の・・・力の解放なのね・・・シオン・・・だ、ダメよ・・・あなたはその力に染まってはダメ・・・シオンは・・・悪魔じゃないわ・・・」

 シオンは戸惑った顔でそれを見ている。何かを悩んでいるように見える。
 悪魔の力の解放・・・シオンはその仕方を知っている。本能的に。

「ち、畜生・・・この場で解放したら恐らくリファイスまで・・・」
 シオンはリファイスを見ると、意を決してそのままブルータルに立ち向かった。
「うおおおおおぉぉっっっ!!!!」
 負けると分かっていても退けなかった。

 ・・・・・・・・・・
 お爺さんによってシオンは天界に連れられた。
 その時に誓った。血を引く俺が責任を持って奴を始末する。と。それが母の命を奪った俺の償いなのだと。
 ・・・・・・・・・・

 ・・・数分後、健闘虚しくシオンは全身血まみれで倒れていた。
 解放状態のブルータルと悪魔化シオンの間には大きな力の差があった。
「お・・・俺が・・・俺がこの手で・・・母さんの仇を・・・こ、このままでは天界がパニックになる・・・被害が拡大する・・・力が・・・力が欲しい・・・」
 シオンは最後の力を振り絞って起き上がろうと試みた。

 リファイスも傷だらけで倒れている。見境無く暴れるブルータルによって痛々しい姿になっていた。
「だ、ダメ・・・シオン・・・悪に染まってはダメ・・・」

「力が無ければ守れない・・・リファイスを護れるだけの力を・・・俺は力が欲しい!!うおおおっっっ!!!」
 シオンの身体が黒いオーラを放つ。解放を始めたのだ。
 本来闘いに徹するために備わった悪魔の能力。
 全身が焼け付くような感覚に、シオンの理性が消えかかる。
(せめて・・・リファイスだけは・・・傷つけないでくれ・・・)

「だめーっ!!」
 シオンの腕に羽根が刺さる。
 リファイスがお守り代わりにしているシオンの羽根・・・シオンの開放が止まった。
「っ!!?・・・り、りふぁいす・・・」

 リファイスは今までに見せたことが無いほどの真剣な表情でシオンを叱り付けた。
「悪魔はシオンが忌み嫌った力よ!!そんな力を使ったらシオンは悪魔になっちゃう!!心が無かったらそれはシオンとは呼べないわ!!だったら私は犯されてもいい!!死んでもいい!!」
「な、なぜ・・・おれは・・・おまえを・・・まもりたいだけ・・・」
「シオンのお母さんは命を落としてでも貴方を産んだじゃない!!それこそが心を持つ天使なのよ!!」
「っ!!!!・・・・」(・・・そうだ・・・母さんは自分の命を落としてでも天使の心を持ち続けた・・・誇りある天使だ・・・なんて馬鹿だったんだ俺は・・・例え負けてでも心だけは、誇りだけは失ってはいけなかった・・・)

 シオンの黒いオーラが消える。
 シオンはその羽根を握り締めた。
「俺は・・・守りたい・・・リファイスを、そしてリファイスの住む天界を守りたい・・・頼む・・・俺に力を貸してくれ・・・母さん・・・」
 シオンの身体が金色のオーラを放つ。

 リファイスはそんな様子をじっと眺めていた。
「シオン?・・・そう・・・ついに見つけたのね・・・本当の強さを・・・シオンは悪魔の力を借りなくても強いんだから・・・」

 シオンの身体が通常時の小麦色になった。
 そして肌色になり、翼が白く変化する。
 その姿はまるで・・・

「・・・こ、これは・・・天使?」
 シオンは自分の身体を見下ろす。
 そしてふっと笑った。勝つ自信が出来たのだ。
「・・・待ってろ!!今片付ける!!」
 シオンは両手をブルータルにかざす。
 ブルータルは理性を失っているため、暴走している。
 シオンの脳裏に女性の声が聞こえた。その声に従って魔力を放出する。

『マスターオブスペース!!ユグドラシル!!』

 シオンの周りの地面が光り輝く。
 その光に包まれたリファイスの身体にも変化が起きた。
「す、凄い・・・体の傷が癒えていく・・・まるで春の日差しみたいに気持ちいい・・・」

 その力は500mにも及んだ。他の天使たちの傷も癒えていく。
 そしてブルータルが天使術の効力により硬直していた。

 シオンは堂々とこう言った。

「おまえの『存在』を支配する・・・消えろ!!」

 ブルータルの身体が細かい光になって消滅していった・・・

 シオンはその様子をじっと眺めていた。
「・・・か、勝った・・・勝ったよ・・・リファイスも守れた・・・母さん・・・」
 シオンはその場で気を失った。すると、身体がハーフの状態に戻っていった。

 シオンが目を覚ます。
「・・・こ、ここは?」

「あ、気がついた?」
 リファイスがシオンに近づく。
 どうやらここはリファイスの自室のようだ。とはいってもまだ5階級用だが。たびたびシオンが遊びに来ていた部屋だ。

 リファイスが自慢げにふふっと笑って見せた。
「私ね~。第6階級になったのよ」
「ほう。お前が・・・凄いじゃないか」

「でもね。凄いのはシオンの方・・・よかったわね・・・『癒しの力』まであるなんて。でも最後の天使の姿はちょっとかっこ悪かったかな~」
 リファイスは僻むようにムッとした後でからかう様に笑った。
「う、うるせえっ!・・・ぐっ?」
 リファイスがシオンにキスをする。

「ん・・・ん・・・む・・・」
「あん・・・は・・・ふ・・・」

「ぷはっ・・・一瞬だけ天使なれたお祝い・・・おめでと。『ユグドラシル』さま」
「ふん。一方的に褒めやがって・・・リファイス。昇格おめでとう」
 シオンがリファイスに黒い羽根のネックレスを返した。
 そのネックレスを首にかけると服の下に隠れた。

 シオンが神妙な面持ちでリファイスに語った。
「リファイス・・・俺はお前をいつまでも愛している・・・」
「え?・・・ど、どうしたの急に・・・そのうち帰ってくるんでしょ?」
 遠くに行ってしまうような台詞にリファイスは困惑した。

「俺は・・・約束を守らなければいけない・・・」
「や、約束って何!!私との婚約は!?」

 そこにフィリシーンが現れた。
「それはね・・・私との取り引きのせい・・・」
「フィリシーン!!貴女・・・」

「その前に・・・ありがとう。あなたの癒しの力のおかげで戻ってくる事が出来た・・・本当にありがとう・・・シオン・・・」
 フィリシーンがシオンを抱きしめ、リファイスが不安な顔をする。いつものような欲情した表情ではなく、とても穏やかな表情だった。
 まるでフィリシーンがシオンを奪ってしまうかのような不安。
 それだけではない。もしかするとリファイスは感づいていたのかもしれない。フィリシーンのシオンに対する恋心に・・・

「・・・ねえ・・・嘘でしょ?」
 困惑するリファイスにフィリシーンは悲しそうに顔を伏せて喋った。
「ごめんなさいね。私・・・堕天使だから・・・どうしても彼の血が必要なの・・・」
「だ、ダメっ!!シオンは私と結婚するんだから!!」
 リファイスとフィリシーンがお互いを睨みつける。

 フィリシーンは真剣なまなざしでリファイスに語りかけた。
「感謝しなさいよ。彼は・・・シオンはあなたを助ける為に自分の全てを私に差し出すと言ったのよ・・・」
「わ、私のため?・・・そ、そんな・・・」

 絶望のそこに落とされたような暗い顔をするリファイスを見て、フィリシーンが少し困った顔をした。
 あまりにもリファイスが純粋すぎる。シオンは欲しいが、本気で取るつもりは無かった。ここで突っかかってくれればすんなり返せたが、彼女からシオンを取るわけには行かない・・・

 フィリシーンは悪戯っぽく笑ってシオンを放した。
「・・・ふふっ冗談よ。だって私はあなたを助けられなかったもの・・・逆に助けられた。取り引きは失敗ね。逆にあげなきゃいけないわ」

 慌ててリファイスがシオンに抱きついた。そしてぎゅっとぎゅっと抱きしめた。

 2人の様子を見て、フィリシーンがぼそっと呟いた。
「・・・私だって・・・本当は・・・」
「・・・え?」
 リファイスがフィリシーンを見る。
「ふふっ・・・元気でね」
 フィリシーンはそういってニッコリと笑うと、くるっと後ろを向いた。

 シオンが声をかけた。
「フィリシーン!リファイスを助けようとしてくれて・・・有難う・・・危険な目にあわせて悪かった・・・感謝してる」

 フィリシーンは少しだけ立ち止まった。
(分かってないのね・・・私が欲しいのはそんな言葉じゃないのに。でも・・・まあ・・・友人ぐらいにはなれるかしら)

「じゃあ今度私が困った時は助けてね。頼りにしてるわよ。シオン」
 フィリシーンは明るく言うと、ゆっくりと立ち去った・・・

 しばらくして、一人の女天使が恐る恐るリファイスの部屋にやってきた。
「あ、あの・・・・・・」
 その天使はブルータルが最初に犯そうとした天使だった。

 天使はシオンに向かって深々と頭を下げた。
「あ、ありがとうございました!シオンさん!あなたがこなければ私・・・私・・・」
「気にするな。俺はリファイスを助けただけ――」
 そっけないシオンの頭をリファイスがバシッとはたいた。
「シオン!そんな言い方しないの!好意は素直に受け取るものよ!」
「お、おう・・・」

 シオンは天使に話しかけた。
「ま、まあ何だ・・・その・・・そんなに堅苦しくしないで気軽にしてくれ、俺の方が年下だろ?」
「で、でも・・・あなたは恩人だし・・・ユグドラシルだし・・・」
「え~っと・・・よし、ちょっと待ってろ・・・」

 シオンはもう一度天使化してみせた。
 そして再びユグドラシルの力を使った。
 天使は目を閉じてその力に浸っていた。

 ハーフに戻ったシオンが、再び天使に話しかけた。
「少しはリラックスできたか?」
「はい」
「そうか。俺がユグドラシルの力を使えるとは思ってもみなかったからなぁ。何にせよこの力が役に立ってよかったぜ」

 天使は少し照れながら言った。
「シオンさ――いえ、シオンくん」
「ん?」
「どうもありがとう!これからは私も誰かの役に立てるように頑張るね!」
 天使の満面の笑顔を見て、シオンはただ驚いていた。
「あ、ああ・・・お、応援してる・・・」

 天使が帰った後・・・しばらくシオンは考え込んでいた。
「なあ、リファイス・・・」

 リファイスはシオンの包帯を巻き直しながら答えた。
「なあに?シオン」

「お前が天使の仕事に誇りを持ってる理由が分かる気がする・・・」
「どうしたの急に・・・さっきの女の子と会ってから変よ?まさかあの子のこと――」
「・・・いいもんだよな・・・誰かの笑顔って・・・」

 リファイスは唖然としてシオンを見つめていた。
「・・・・・・・・・」
「何か言えよ・・・」
「ど、どうしたのシオン?熱でもあるの?」
「お、おかしいか?」

 戸惑うシオンを見て、リファイスが微笑んだ。
「いいえ。シオンがそう思ったならいいんじゃない?」
「何だよそれ・・・」
「とにかく!私はシオンが好きってこと!♪愛してるっ♪」
 リファイスは笑顔でシオンに抱きついた。

 シオンが困惑しながら受け止めた。
「お、おいおい!俺はまだ傷が――」
「時間無いんでしょ?」
「し、仕方ないな・・・満足に動けないぞ?」
「いいわよ。今日は私が動くから」
「やれやれだぜ・・・ほら・・・」

 シオンとリファイスはお互いに向き合い、ゆっくりと顔を近づけ・・・

-ガチャッ-
「邪魔するぞ!」
 そこに入ってきたのはお爺さんだった。
 ついつい慌てて離れてしまうシオンとリファイス。
「な、何だよジジイ!」

「ほっほっほ・・・別にわしに遠慮せんでも良いのだぞ?」
「遠慮するに決まってんだろうがっ!」「遠慮するに決まってるでしょっ!」
「ほっほっほ・・・ツッコミもピッタリだな・・・というのはさておき。シオン!そろそろ帰る時間だ」
「な、何っ?もうかよ!」
「仕方なかろう。わしの単独行動でお前を連れてきたんだからな。後々問題になるのは御免だ」
「く・・・」
「・・・だが、キスするぐらいの時間はあるぞ」

 おじいさんに言われ、シオンは慌ててリファイスと向き合った。
「リファイス・・・」
「シオン・・・私寂しい・・・だってどんなに想っても貴方は・・・ここには居ないもの・・・」
 リファイスはシオンの胸に顔をうずめる。

 シオンはぎゅっとリファイスを抱き寄せた。
「リファイス・・・俺は必ず帰ってくるから・・・お前が居る場所が俺の帰る場所だから・・・」
「・・・シオン。あなたのお母さんはあなたの中で生きてる・・・あなたにはお母さんの血と心が流れている・・・だからきっとすぐに帰って来れるわ」

 あまりに長いのでお爺さんが痺れを切らした。
「いつまでも抱きあってないではよせんかぁっ!」

 シオンとリファイスは熱い口付けを交わした・・・お爺さんが「時間だ」と言うまで。

 リファイスは名残惜しそうにシオンから離れた。

 シオンは最後にリファイスを見つめた。
「じゃあ・・・行って来る・・・そうだ。忘れ物があったんだ・・・『リファイス。愛している』」
 リファイスはその言葉に思わず涙しそうになった。
「!!!・・・ええ!私も!」
 その言葉はシオンが下界に落とされた時に言いたかった言葉・・・

 お爺さんがシオンを今度は自らの手で下界に送っていった。

――――――――――――――――――――

-ブゥゥン-

 レオンは明日香の部屋に戻った。
 お爺さんがレオンに話しかけた。
「『ユグドラシル』になれたお前は、この願いを叶えたら必ず天使に認められるだろう。頑張るんだぞ」
「ふん。勝手に落としておいてよく言うぜ・・・ありがとうな」
 レオンは照れくさそうに言った。
 お爺さんはその言葉に頷くと姿を消した。

 その夜。PM8:00・・・食卓に美佳と明日香が座っている。
「明日香。あんた学校抜け出して何してたの?」
 美佳が明日香に問う。
 明日香が突然女の人に連れられていなくなってしまったのだ。
「わ、わかんない。そこら辺の記憶がごそっと抜け落ちてて・・・」
 当の明日香は首をひねるばかりだ。

 そこへレオンが降りてきて食卓についた。
 美佳がレオンの姿に反応した。
「どうしたのレオン!包帯だらけじゃない!」
 その言葉でレオンは癒しの力について考えていた。
「ん?そういえば俺自身の怪我は治らなかったな・・・他人のみってことか。つくづく天使向きの能力だな。だがこれで誰かを助けられるなら――」

「ん~?何か女の人の匂いがする」
 明日香がレオンの匂いを嗅ぐ。その身体にリファイスの匂いがついていた。

「っ!!来て!レオン!私が巻き直してあげる!!」
 美佳ががたっと席を立つと、レオンの腕を引っ張って部屋に連れ込んだ。嫉妬だ。

「うおっ!!そ、そこは怪我してて・・・あ、そこも傷が痛む・・・お、おい!何を――」
「んもう!!我慢しなさい!!」
「こ、こんなので傷が治るわけ無いだろ!!」
「まあっ!!こんなに腫れちゃって!!」
「な、何をするっ!!」
「唾には殺菌効果もあるのよ。だから・・・」
「うぐっ!!」

「あ~あ~。ま~たエロエロしちゃって~」
 明日香はあきれながら黙々とご飯を食べていた。

≪「後編ね♪」byリファイス≫

 シオンがブルータルを倒し天界を救った。
 あれから1年後、明日香と美佳がお風呂に入っていた時だった。
(美佳が色々と性についてレクチャーしているらしい。)

 1人明日香の部屋に居たレオン。その彼のもとにお客がやってきた。
-ブゥゥン-
 例によって空間が歪む。

「ずっとこのままなんて暢気なもんだな・・・」

 声を発したのは女性の悪魔だ。
 全身艶かしく光った黒。赤い目。頬に赤いライン。灰色の薄い衣。白い髪。尻尾。

「・・・誰だ」
 レオンは座ったまま話しかける。
 対して女悪魔は宙に浮いている。
「なあ。俺にも見せてくれよ。癒しの天使『ユグドラシル』ってやつを」

 レオンは興味なさそうに言った。
「・・・ブルータルの仲間か」
「仲間?ふん。俺はあいつの娘。つまりお前の腹違いの妹だよ!!」
「・・・で、敵討ちに来たって訳か?」
「まあそんなところだな。お前が父親を殺したせいで俺は1人になっちまった!!」
 女悪魔がレオンを睨みつける。
 ようやくレオンは女悪魔に殺気を放ち始めた。

 しばらくして、女悪魔が怪しい笑みを浮かべて床に降り立った。
「・・・というのは嘘だ。あいつは俺なんかすぐに捨てやがった。それに戒律を破って天界に行ったんだ。あんな奴死んで当然だぜ」
 背丈は美佳より少しだけ低い。体格はかなり女らしい。お尻がぷりっとしている。
「俺はハーシブリィ。これからよろしくな!兄貴!」
 そう言ってハーシブリィは握手を求める。

 レオンはただハーシブリィを睨みつけた。
「・・・俺は・・・貴様ら悪魔を絶対許さない!!ふざけるな!!貴様らの身勝手さで俺が生まれ!!戒律は平気で破る。俺が居なかったら今頃天界は・・・」

 ハーシブリィはレオンを冷めた目で睨んだ。
「・・・お前は悪魔の血が流れている・・・それは変えようが無いのさ」

「っ!!!その上今まで会ったこともないお前が妹面をするだと!?」
 レオンはハーシブリィを押し倒す。
 その顔は激しい怒りに満ちていた。

 レオンはしばらくハーシブリィを睨みつける。
「こ、この血をどれだけ憎んだ事か・・・どれだけの人が母の死を悲しんだ事か・・・しかも俺のせいでだ・・・」
 ハーシブリィはじっとレオンを眺めると、こう吐き捨てた。
「・・・弱っちいな。こんな奴が親父を倒したとは・・・がっかりしたぜ。この泣き虫が」

 レオンは手を放してハーシブリィから離れた。
(くそっ・・・分かってるんだ!済んだことを言っても仕方が無いことは!)
 ハーシブリィが挑発する。
「・・・どうした。早く殴れよ。怒りをぶつけろよ」

 レオンは窓から飛び出した。

「お、おいっ!殴れって言ってるだろ!!」

 翼を広げると、ハーシブリィの言葉を無視して高く舞い上がった。

「何を考えているか全く分からん・・・」

 ハーシブリィはとりあえず部屋を物色することにした。
 明日香の真っ白な日記や、無駄な絵の多い手帳を除き見ていく。

 風呂上りのパジャマ姿の明日香が部屋に入ってきた。
「だ、誰っ!?」
 ハーシブリィと鉢合わせする。

「お前が兄貴の願い主か」
 ハーシブリィは明日香を睨みつけた。
「あ、兄貴って・・・もしかしてレオンの妹っ!?」

「レオン?何だそのダサい名前は・・・天界での兄貴の名はシオン・・・兄貴のフィアンセがつけた名前だ」
「レオンはレオンよ!ここでは名前は無いって言ってたもの!!私がつけていいっていってたもの!!」

「ふ~ん・・・」
 ハーシブリィは値踏みするように明日香を見回す。
「な、何?」

「・・・まだまだガキじゃん」
 その台詞に明日香の顔に血の気が上った。
「あ、当たり前でしょ!!まだ成長中だもの!!大きなお世話よ!!」
「まあいいや。お前が兄貴を嫌えばお前から解放させられるだろう・・・」

 ハーシブリィが右手を明日香に向ける。

『マイティラスト!!』

 ハーシブリィの右手から魔力が放たれ、それを受けた明日香の身体が硬直した。その目が虚ろになる。

 ハーシブリィは明日香の耳元に唇を近づけそっと囁き始めた。
「お前はシ・・・え~っと・・・レオンが嫌いだ・・・今すぐに殺してやりたい・・・あんな奴は要らない・・・」
 明日香の身体がビクンと震える。
「想像するだけでイライラする・・・嫌で嫌で仕方ない・・・」

「う・・・ぁ・・・あっ・・・」
 明日香は汗を流しながら震える。
 さすがに様子がおかしい。ハーシブリィも初めて見る反応だった。

「??どうした。落ち着け・・・お前はレオンが憎い・・・殺せ・・・」
「ああっ!!うあああっ!!がああっ!!」
 口を大きく開けて頭を横に振る。

「抵抗しているのか??信じられんな・・・」
「うぐうぅっ!!!ごはっ!!」
 明日香が口から血を吐き出した。
 身体がビクンビクンと痙攣する。
「ちぃっ・・・そこまで兄貴と仲良しか!」
 ハーシブリィはイラつくと、ベッドに蹴りを入れた。

 と、そのときだった。

『マスターオブスペース!!』

「なっ!!?」
 突如ハーシブリィの身体が硬直する。
(く、声も出せない・・・こ、この力は・・・)

 ハーシブリィの後ろから声が聞こえた。
「やってくれたな。明日香に手を出すとは・・・そこまで俺が憎いか」
 レオンが部屋に戻ってくる。翼をたたんで明日香に近づく。

「明日香・・・お前の『状態』と『記憶』、それから『行動』を支配する。お前は何もされていない・・・風呂から上がってから、お前は湯あたりしてリビングに居た・・・」
 レオンが明日香の肩に手を置くと、明日香の身体の痙攣が止んだ。
 そして指で血を拭った。

「ではリビングのソファに座ったらいつもの明日香に戻る・・・ほら、行け」
 明日香はこくんと頷いてゆっくりと階段を下りていった。

 レオンはハーシブリィを睨みつけた。
「言っておくが俺は通常時でも強いぞ。お前の実力は・・・フィリシーンより少し上と言ったところか」

 ハーシブリィは動かない身体でレオンを睨みつける。

 レオンが右手でハーシブリィの視界を遮る。
「・・・俺の力はこんなものではない・・・」
 一瞬ハーシブリィがピクンと身体を強張らせた。
 レオンが手をどけると、ハーシブリィは虚ろな目になっていた。

――――――――――――――――――――

 あ・・・れ?・・・
 兄が俺の視界を掌で塞いで・・・
 そしたら・・・なんか一気に気持ちが楽になった・・・

「・・・お前の『思考』を支配する・・・今から尋ねる事に嘘偽り無く答えるんだ・・・」
 凄い力だ・・・一気に頭の中がぼんやりしてしまった・・・
 気持ち良い・・・質問に答える・・・そうか・・・答えるよ・・・
「・・・はい・・・」

「・・・お前は兄を恨んでいるか?」
 俺は・・・あ、兄を・・・
 い、嫌だ・・・こ、答えたく・・・な、ない・・・
「・・・ぅ・・・ぁ・・・」

「・・・お前の『認識』も支配する・・・お前は質問に答えなければならない・・・質問に答えたいんだ」
 う・・・あ・・・な、なんだよ・・・このちからは・・・
 き、きもちいい・・・だめだ・・・さからえない・・・さからいたくない・・・
 おれは・・・しつもん・・・こたえる・・・こたえたい・・・

「・・・お前の母親はどうした?」
「・・・ちちおやにおれをおしつけた・・・あんたがごうかんしたから・・・あんたがめんどうをみろって・・・」
「・・・母親は嫌いか?」
「き、きらい・・・ちちおやもははおやも・・・だいきらい・・・みんなしねばいい・・・」

「お前は孤独か?」
「こどく・・・こわい・・・こどくいや・・・ずっとひとり・・・わるいこといっぱいした・・・いきるために・・・いつもひとり・・・くるしい・・・」

「もう一度聞く。お前は兄を恨んでいるか?」
「い、いいたくない・・・」
「何故言いたくないんだ?」
「い、いったら・・・ばかにされる・・・いったら・・・わらわれる・・・すてられる・・・」

「では別の聞き方をしようか。何故ここに来た?」
「・・・うわさきいた・・・おやじがてんしをおかした・・・そのこどもが、おやじをたおした・・・ざまあみろっておもった。おれにかぞくがいたこともうれしかった・・・てんしのこころがあるなら、おれのきもちわかってくれる・・・いっしょにいれる・・・そうおもった・・・だからまかいをぬけだして、げかいにきた・・・」

「つまり俺を頼ってきたわけだな。何故明日香に手を出した?」
「・・・あ・・・あにき・・・いっしょがいい・・・もうこどくはいや・・・あすかはじゃま・・・あにきといっしょがいい・・・はやく、あすかからかいほうされてほしい・・・」

(成る程・・・ブルータルが後先考えずに中出しして出来た子供か・・・母親が仕返しにこいつを押し付けた・・・だがブルータルは簡単に捨てた・・・それからずっと孤独でようやく肉親の俺を見つけた・・・勝手に魔界を抜け出したせいでもう帰れない、と)

「だが・・・俺は天界に住んでいる。俺が天界に帰るときが来たらどうする気だ?」
「あにき・・・ちからすごい・・・みんないやす・・・きっとおれをてんかいにおいてくれる・・・」
「・・・成る程な。俺が皆を説得するってことか。そこまで俺のことは噂になってるのか?」
「あにき・・・まかいからもねらわれてる・・・あにきのちからがほしい・・・おう(王)も、そうおもってる・・・」
「俺の『血』か・・・だからいくらでも方法はあると思ったんだな?」
「そうだ・・・あにきがたすけてくれる・・・」

「・・・俺がお前と天界に帰ったら・・・リファイスを殺す気か?」
「わからない・・・ころすかも・・・しれない・・・」
「・・・どうしたものか・・・俺がリファイスと婚約しているのは知っているだろう。去年の一件で、俺は願いを叶えて帰ったら間違いなく天使階級がもらえる・・・」
「わからない・・・なにもわからない・・・どうすればいいかわからない!!」
 むねのおくからあついものがこみあげてきた・・・
 ちくしょう・・・さっきあにきに・・・なきむしっていってたのに・・・
 おれがないてる・・・
 だからいいたくなかった・・・
 あにき・・・せっかくかぞくができたとおもったのに・・・

「・・・ずっと一人で辛かっただろ?・・・お前がリファイスに手を出さないと約束するなら・・・お前は天界で俺たちの妹として暮らせ・・・俺が何とかしてやる・・・」
「ほんとに?・・・やくそく・・・する・・・」
 それでもいい・・・もう・・・こどくはいやだ・・・

『リリース!!』

 あ・・・ようやく物事がしっかり考えられるように・・・
 !!!!!!!!!!い、今・・・凄いことを言わされた気が・・・
「っ!!!な、何をした!!」
 何か兄貴が優しい顔をしている・・・同情してるのか?俺を・・・

「・・・お前の本心を聞いただけだ」
 記憶をたどってみる。
 そうだ。何となく覚えている。
 兄貴に縋ったことも・・・俺が泣いたことも・・・

「な、何だと!!き、きさまっ!!」
 力を使って強引に俺の本心を聞き出すとは!!酷い奴だ!!

「強がるな。もうお前は一人じゃなくていいんだぞ・・・」
 兄貴が俺をぎゅっと抱きしめる。何を・・・
 ・・・あったかい・・・何で?・・・抱きしめられるって・・・こんなあったかいのか?・・・
 な、何だよこの気持ち・・・・・・すっごく安らぐ・・・

「心配するな。俺もずっと孤独だった。きっとお前を信じてくれる者が見つかる・・・」
 兄貴がそう言った途端、今度は嬉しい気持ちと苦しかった過去と、これからのことを思って涙がこみ上げてきた。また泣いてしまう・・・泣き虫だ。俺。
「ば、ばかっ!!はなせっ!!は・・・はなせ・・・ううっ・・・な、何で・・・涙が・・・ち、ちくしょおっ!!あ、兄貴~っ!!うわああ~~ん!!」
 俺は、兄貴に抱きしめられて・・・
 生まれて初めて・・・安心したんだ・・・

――――――――――――――――――――

 翌朝・・・
 ハーシブリィはレオンとひっついて押入れの中で寝ていた。
「・・・兄貴・・・」
 よほど安心したのかあのままウトウトしてしまったハーシブリィは、レオンに背中をさすられると簡単に深い眠りに落ちていった。
 レオンの体温を感じて幸せな表情で眠っていた・・・
 今まで1人きりで眠っていた分、側に誰かがいることが嬉しいようだ。
(う~ん・・・兄貴・・・兄貴?あれ?何で・・・)

 ハーシブリィが目を開けるとすぐ目の前にレオンの顔があった。
「・・・ん?・・・うわああぁっ!!!」
 ハーシブリィが叫ぶ。
-バキィッ!-
 レオンはハーシブリィに蹴り飛ばされた。
 押入れのふすまごとレオンが投げ出される。

「いってぇぇぇっ!!何するんだよ!!」
 レオンがキレながらハーシブリィを見上げる。
 ハーシブリィは鼻元をヒクつかせてなんとも言えない表情をしていた。
「うるせえっ!!力を使って俺の心を聞くなんて最低だ!!お前なんかに頼るものか!」
「何だと?理由も知らずに悪魔のお前を置いておけるかよ!!いきなり押しかけてきておいてなんだその態度は!!」
 レオンとハーシブリィが睨みあう。

「ん~~!!煩いな~・・・何なのよ朝っぱらから~・・・」
 明日香が起きる。
 そしてレオンを見る。
 レオンの視線の先に居る・・・悪魔も見る。
 全身艶かしく光った黒。赤い目。頬に赤いライン。灰色の薄い衣。白い髪。尻尾。
 身長は美佳よりやや低いぐらい。
「・・・うわあああぁぁっっ!!だ、誰よあんたっ!!」

 あのまま寝てしまったので、レオンはハーシブリィを紹介するのを翌日にすることにした。
 と言うわけで明日香も美佳もハーシブリィのことを知らない。(明日香は昨夜のことは記憶にない)

「あん?俺はハーシブリィ。このクソ兄貴の妹だ」
「俺がクソ兄貴だと?だったらお前はクソ妹じゃねえか」
「うるせぇっ!!半分悪魔!!」
「何だと?捨てられっ子!」
「カッチーン!もうあったまきたぜ!表に出ろぉっ!!」
「上等じゃあっ!!てめえは1から教育してやる!!」
 言い争う2人が睨み合う。
 ハーシブリィが翼を広げた。

「へっ、なんだぁ?そのちっぽけな翼は」
 ハーシブリィの翼は背中から少しはみ出るくらいのものだ。
「!!な、言いたいこと言ってくれるじゃねぇか・・・」
 レオンが窓から飛び出して翼を開く。そして上昇する。
「どうだ?俺のはとても室内では開けないな」
「ただデカイだけだろ!!天使の羽根なのに黒いなんてキモイだろ!」
「て、てめぇ・・・言わせておけば!!」
「お、やるか?」
 上空で激しい音が鳴り響く。

「た、大変よ!!母さん!!変なのが増えたわ!!」
 明日香はどたばたと美佳の部屋に飛び込む。
 美佳は恥部から精液を噴き出して眠っていた。
 どうやらレオンはハーシブリィを寝かせた後で美佳とセックスしていたらしい。

「・・・たまには身体を休める日を作れ!!淫乱ババア!!」
 明日香がイラついて怒鳴った。
「・・・う~・・・れおん~・・・もっとぉ・・・」
「起きなさい!!大変なんだから!!」
 明日香は美佳の肩を持ってゆさゆさと振った。

 ボロボロになったレオンとハーシブリィが食卓にやってきた。
 美佳が珍しいものを見るようにハーシブリィを見ていた。
「へぇ~。まあ。悪魔って初めて見たわ」
 レオンに慣れたせいなのか反応はイマイチ。

「当たり前でしょっ!!悪魔や天使と知り合いでたまるもんですか!!ただでさえ数奇な人生だってのに!!」
 明日香がそう言うと美佳はなぜか納得した。

「・・・お前が数奇な人生だからいろんな事が重なるんだろ?」
 レオンがそう言うと美佳は再び納得した。

「あらやだ。じゃあもう1人分食事の用意をしなくちゃ」
「ちょ~っと待った!!」
 明日香が美佳を止める。

「母さん!セックスのし過ぎでボケたんじゃないの?この人は私の願いとは無関係なのよ!一緒に住むなんておかしいの!」
 いつの間にか明日香がツッコミ役になっている。あの人の話を聞かない天然ボケの明日香が・・・これも成長の現われだろうか。
「あら、それもそうね・・・」

 レオンが美佳を説得する。
「こいつは今まで孤独で寂しかったんだ。そして俺の存在を知って探しにやってきた。置いてやってくれ」
 ハーシブリィは恥ずかしくなったのか照れ隠しをした。
「ば、バカ!!俺は一緒に居てやるって言っただけで、兄貴を頼るなんて言ってないだろ!!別にいいさ!じゃあ俺は帰るからな!!」

「強がるなよ。俺はお前の本心を知ってしまった・・・お前には何もしないでおく。明日香と美佳の認識だけ変えておく。それでも逃げたければ勝手に逃げろ」
「に、逃げるだと!!」

「・・・俺は貴様ら悪魔が憎い・・・俺の妹だからなんだって言うんだ。俺に関係は無い。俺にとっては勝手に母親を犯した父親の血だからな。それに会ったことも話をしたことも無い。そうだろ?だが試してやる。お前が本当に妹なのかどうかを」
 レオンにとってもハーシブリィはとても妹とは思っていないようだ。
「・・・わかった・・・俺も少しはお前を試してやる。しばらく一緒に居てやる・・・」
 こうしてレオンとハーシブリィはお互いを認めないままに同居する事になった・・・

 美佳たちが3人が、物置を整理する。
 ここがレオンたちの新しい部屋になる。

「・・・おい!ハーシブリィ!お前も手伝え!!」
 レオンが怒る。
 ハーシブリィはふてくされるように壁に寄りかかっていた。
「ふん!何だって兄貴となんか同じ部屋じゃないといけないんだよ!」
「俺だってこんな悪魔となんか居たくねぇ!!」

「なにぃ!!中途半端悪魔が!!どうせ嫌われ者だったんだろ!!何たって人気者だったエンカーブレイスの命を奪って生まれたんだからな!!」

 その一言でレオンの表情が一転する。
 言ってはいけないことを言ってしまった・・・
 そう思ったハーシブリィだが、どうも素直になれない。
「な、な、何だよ。何か言い返して来いよ!!」
 殴られる・・・そう思ってハーシブリィの頬を冷や汗が伝った。
「・・・この・・・くそったれがぁっ!!」
 レオンの顔が怒りの形相になる。

-パシィン!-

 ハーシブリィの頬を叩いたのは意外にも明日香だった。
 レオンも美佳も驚いている。
 ハーシブリィが怒った。
「な、何しやがる!!」

「あなた・・・レオンの過去を知ってるの?レオンの何を知ってるの?」
「な、何だよ!!俺だってずっと孤独だったんだ!!」
「・・・自分が辛いから相手も同じ辛さ・・・そう思ってるの?」
「・・・意味がわからねぇな」

「私だって、幼い頃に父親を亡くした・・・だからあなたの苦しみがよく分かるわ・・・」
 その言葉を聞いたハーシブリィに怒りの色が浮かぶ。
(お前に俺の何が――・・・あ・・・)

 明日香はそんなハーシブリィの心を見透かした。
「・・・ほら。レオンもおんなじこと思ったんじゃない?」
「・・・く・・・」
 ハーシブリィはばつの悪そうな顔をした。
 そして黙って片づけを手伝い始めた。
 レオンとハーシブリィの間に気まずい空気が流れていた。

「さあ、あとは家具を買いに行きましょう」
 美佳が声をかける。

「・・・俺は・・・いい・・・」
 ハーシブリィが外に出て行こうとする。もう居辛いようだ。
 少なくともこの家にいる限りは素直にならなければいけない。
 だがハーシブリィはそれが出来ない。接し方を知らないから甘えることすら出来ない。
 美佳が尻尾をつかんだ。

「ダメよ!あなたの部屋でもあるんだから!」
「・・・こんな格好じゃ目立つだろ」
「なら私の服を貸してあげるわ。そうだ。お洋服も買っちゃいましょう」
「お、おい・・・俺は行くなんて一言も・・・」
 美佳がハーシブリィの腕を取って自分の部屋に入っていった。

 明日香がレオンに話しかける。
「レオン。あの子は本心で悪口を言ってるんじゃないからね」
「そうだな。何せ半分は俺と同じ血が流れている・・・嫌な血の方だけどな」
「何だ。レオンが一番良く分かってるじゃん」

「でもな・・・あの一言を言われると胸が締め付けられる・・・とてつもなく不安になる・・・俺が一番良く分かってる事だからな・・・母親に代われるような天使にはなれない・・・俺はハーフだから・・・」
 いつになく暗い顔をしたレオンを、明日香が励ました。

「大丈夫!レオンの妹ならきっとレオンのことも大好きになるよ!」
 明日香がレオンの肩を叩く。
「ふっ・・・お前に元気付けられるとは・・・付き人失格だな」

 レオンたちが街中を歩く。
 そして家具屋に入った。
「さて・・・まずはベッドを買わないとね」
 美佳に連れられて4人は寝具のコーナーに移る。

「いらっしゃいませ~」
 店員が熱心に接客する。
「さあ2人とも。どれが良い?」
 レオンとハーシブリィがベッドに目をやる。
「・・・俺はこれがいいかな・・・」
 ハーシブリィが側に居た明日香にしか聞こえない声でぼそっと呟いた。
 落ち着いた色調のシングルのベッドだ。

「・・・これにする」
 レオンが単調な色彩のダブルのベッドを指差した。
「!!あ、兄貴!!何を考えてるんだ!!」
 憤りを隠せないハーシブリィの肩を明日香がつつく。

「レオンが見ていたのは金額よ・・・家、母さんしか稼ぎ手が居ないから・・・」
 ハーシブリィが金額を確認する。
 確かにさっきのシングル2つよりも安い。
「バカ兄貴・・・言ってくれればいいのに・・・」

 レオンはその調子で安いものばかり選んでいった。

 そして4人は服屋に足を運んだ。

「さあ。ハーシー。好きなのを選んでね」
「ん~・・・」
 ハーシブリィは最初は興味が無さそうだったが、興味が沸いてきたのか、次第に服を真剣に見始めた。

「・・・ど、どうだ?」
 ハーシブリィが試着して現れる。
 パーカーに興味を示したようだ。
「いいじゃない。凄く似合ってるわ」
 美佳と明日香が絶賛する。
「そ、そうか?・・・そうだ!ちょっと待っててくれ・・・」
 ハーシブリィはそのままレジの方へ向かう。

「お前は美佳の気持ちを踏みにじる気か?」
 レオンが先回りして止めた。
「あ、兄貴・・・」
「力を使って無料にする気だっただろ」

「な、何だよ!だってお金が・・・」
「それが許されるなら美佳は一切働かなくて良い・・・遠慮せずに買ってもらうんだ」
「わ、わかんねえよ!!どう違うんだよ!!兄貴だって遠慮してただろ!!」

 レオンは呆れたように呟いた。
「・・・やっぱり・・・悪魔なんだな・・・」

「!!な、なんだよ・・・兄貴だって悪魔だろ!?」
 ハーシブリィは少し戸惑いながら言った。

「・・・確かに俺は悪魔の血を引いてる・・・天使化も悪魔化もできるバケモノだ。だが俺には『ユグドラシル』の力があった。俺はこの力でできることをやる・・・お前のその力は何の為にあるんだ?」
「な、何のため?・・・何の為って・・・欲望を叶える為、だろ?」
「その考え方が悪魔だと言っているんだ・・・」
「何だよ偉そうに!!何でそんなこと言われなきゃいけないんだ!!」
「何で?って、俺が兄だからだ」
「っ!!くっ、わかんねえっ!わかんねえよっ!!」
 ・・・・・・・・・・

 結局ハーシブリィはあのパーカーを買ってもらった。
 それを着て明日香の部屋に居る。
「なあ・・・お前はあんなクソ兄貴のどこが良いんだよ」
「ダメよ。そんなふうに言っちゃ。たった一人の家族じゃない」
「家族か・・・やっぱり血の違いは大きかったな・・・」

 明日香はハーシブリィにレオンの話を始めた。
「レオンが言ってた・・・自分は誰とも交わったらダメだと思ってた・・・だけどその考えを変えてくれる人が現れた・・・その人はとてもあつかましかったけど、とっても温かみのある人だった・・・自分は次第に影響されてその人の好意を素直に受け取れるようになったって」

 ハーシブリィは驚いた。あのあつかましいレオンが自分と同じだったことに。
「・・・それがリファイスだってか?」
「そうみたいね。きっと昔のレオンってハーシーにそっくりだったと思うわ」
「あ、兄貴が?」
「誰も信じてくれないから誰も信じない・・・誰も心を開いてくれないから誰にも心を開かない・・・偽りの自分を演じる・・・自分の感情を殺す・・・それって今のハーシーと一緒よ?」
「・・・・・・兄貴が・・・俺と・・・」
 ハーシブリィは考え込んでいた。

 そもそも自分はすれ違いなど最初から覚悟して兄の下に来たのだ。
 きっと兄は優しい。天使の血が流れているから。
 そんなことを利用してやってきたのだ。なんて愚かなんだ。

「レオンは下界に来てからも変わったよ。昔と違って人のことを考えるようになった。天使化もできるようになって怪我人の手当てもできるようになった。そして天使が奉仕することへの意味も分かった・・・変わろうよ。ハーシー。傷つく事を恐れてたらダメ。何も変わらないよ。変わりたくてレオンのところに来たんでしょ?」
「・・・・・・お、俺・・・兄貴と話してくる・・・」
 ハーシブリィは何かを決心したように明日香の部屋を出て行った。
 明日香はそんなハーシブリィを見て多分変われるだろうと思っていた。

 ハーシブリィはレオンと一緒にベッドに腰掛けた。
「・・・あ、兄貴・・・」

「・・・何だ?」
「・・・お、俺に・・・力を使ってくれ・・・本心を聞かせてやる・・・」
「・・・自分の口から言えよ」
「・・・」
「・・・ブルータルに似て強情な奴だ」
 ハーシブリィは目を閉じてその時を待っていた。

『マスターオブスペース!!』

 ハーシブリィが目を開く。
 その目は虚ろで、意思を持っていない・・・ように見える。
「お前の本心を聞かせてくれ・・・お前はどうしたい?」
「俺は・・・兄貴と一緒に暮らしてみたい・・・兄貴みたいに変われるかもしれない」

(ったく。明日香の奴が喋ったな?)
 レオンはお喋りな明日香に少し呆れた。

「兄貴・・・俺・・・口は悪いけど・・・兄貴は兄貴だ・・・認める・・・俺の兄貴だ・・・これから俺、兄貴についてく。一生懸命、妹する・・・」
「そうか。なら俺もお前を妹として認めよう。お前は今日から俺の唯一の家族だ」
「兄貴・・・ありがとう・・・」

『リリース!!』

「兄貴・・・う、嘘じゃないからな・・・」
 そう言って恥ずかしそうに走り去った・・・
 だがその顔には若干の笑みが含まれていた。

 そして・・・階段を踏み外して転ぶ音が聞こえた。
「いってぇぇぇっっ!!!」
「何やってんだお前は。ほら、こっちに来い」
 レオンは早速天使化し、ユグドラシルの力で打撲を治した。

 食卓・・・
「よかったね2人とも」
 明日香がレオンとハーシブリィに言う。
 ハーシブリィはがつがつと箸を進める。

「何で箸が使えるんだよ」
 レオンが疑問をぶつけた。

「何となく使い方が分かったんだよ。それよりこの黄色いのは何だ?」

 美佳が説明する。
「それは玉子焼き。だし巻き玉子よ」
「ふ~ん。だし巻き玉子か・・・」

 レオンが話しかけた。
「美味いって言うんだぞ。そういうときは」
「ん。美味い!おい、それもくれよ!」
「あ、こら!それは俺のだ!行儀が悪いぞ!」
「行儀?行儀って何だ?」
 食事中はずっと笑い声が絶えなかった。

 夜・・・
 レオンは風呂に入る為に風呂場の扉を開けた。
-ガチャッ-
「・・・!!?」
「っ!!!?」
 中には泡だらけのハーシブリィが居た。
 レオンと視線が重なる。
 ハーシブリィの顔が一気に赤くなる。

「ば、バカ野郎!!入ってるよ!!この変態がぁっ!!」
-バキィッ!-
-ガシャアァン-
 レオンが殴られて脱衣かごに突っ込む。
 パサッとハーシブリィの纏っていた衣がかぶさる。

「っ!!!どこまでスケベなんだっ!!」
-ガンッ-
 レオンの頭に石鹸が飛んできた。

 しばらくレオンは一体何が起こったのかを考え込んでいた。
「・・・何でお前が入ってるんだよ!!明日香が『レオン!空いたよ!』って言ってただろ!!お前が入ってるのがおかしいだろ!!」
 そして結論にたどり着いた。自分は悪くない。

「うるせえっ!空いてたから入ったんだ!!」
「入るなら入るって俺に言っておけ!!何で俺が殴られるんだよ!!」
「う、うるせえっ!恥ずかしかったから殴っちまったんだよ!!」

『マスターオブスペース!!』

 ハーシブリィの身体が固まる。
「あっ!!ち、畜生!!何すんだ!!」
「ほら、兄貴の言葉をよく聞いて・・・安心して身を任せろ・・・」
「あ・・・な、何を・・・止めろ・・・また力で強引に・・・」
「頭の中が真っ白になる・・・兄貴の声しか聞こえない・・・でも気分はとても気持ちいい・・・」
「う・・・ぁ・・・」

 レオンは扉を開ける。
 泡だらけのハーシブリィが立ったまま固まっていた。
 手が頭の上に置かれている。髪を洗う途中だったのだろうか。
 泡が垂れて虚ろな瞳に入る・・・だが無反応だ。
 美乳が呼吸に合わせて静かに上下している。

「お前の『深層心理』を支配する・・・お前は兄貴に裸を見られても恥ずかしくない。それどころか兄妹だから見せるのは当然だ。兄貴に自分の身体の隅々まで見て欲しい・・・いいな?」
 ハーシブリィはこくんと力なく頷く。
「兄貴が自分に気付かずに入ってきた。どうせだから一緒に入ろう。兄弟だから平気だな?」
 再び頷く。

『リリース!!』

 ハーシブリィの身体がビクンと跳ねる。
「あ、兄貴・・・何してんだよ。全く。気付かなかったのか?」
「あ、悪かったな。じゃあ出て行く」
「いいよ。面倒だろ?ほら、入れよ」
 ハーシブリィは恥らう様子もなく、身体を洗っていく。
 レオンはそんなハーシブリィの身体をじっと見る。

「な~に見てんだよ。悪魔が珍しいか?」
「まあな。見たこと無かったし」
「へっへ~。実は俺も天使の裸見たこと無いんだ。見せあいっこしようぜ!」
 ハーシブリィが泡を洗い流して裸体を見せる。
 光沢のある黒い身体・・・

「硬いのか?」
 レオンがハーシブリィのお腹を触る。
「そんな事無いだろ?」
「いや、結構弾力があるな。リファイスの身体はもっとふにふにしてたぞ」
「へぇ~。そうなのか?じゃあ下界人はその中間ぐらいか?」
「そうだな~。天使と似ているかな」

 レオンはハーシブリィの身体をあちこちと触っていく。
 そしてついに胸を触ってみる。
「お、すげえ弾力・・・ん?何も感じないか?」
「ん~。悪魔は発情する時が激しくて通常は弱いらしい。ほら、戦闘中に感じたら大変だろ」
「と言うことは発情してから戦闘に入ると感じすぎて上手く戦えないってことか?」
「いや~。発情した相手が敵だったなんてことは前例がないからな」
「へぇ~。じゃあこの尻尾は?」
 レオンがハーシブリィの尻尾を触る。

「相手を刺して、そこから体内にエネルギーを取り込んだりできるんだ」
「・・・まるで漫画みたいだな」

 レオンはハーシブリィの股間に顔をうずめる。
「お、こっちはツルツルなんだな。処女みたいだぞ」
「う・・・実は処女なんだよ・・・相手がいねえから・・・」
 少し照れながらカミングアウトしてくれる妹。
「そっか・・・いつかお前を愛してくれる人が見つかるさ」
「そうだといいな。兄貴にとってのリファイスか・・・」

 レオンは普通に風呂に入った。
「さっすが兄弟そろって美男美女だな~」
 ハーシブリィがレオンと自分の身体を見ながら惚れ惚れしている。

「お前、絶対鏡とかで自分の身体を見ながらオナニーしてるだろ・・・」
 レオンが指摘する。

 分かりやすくハーシブリィが赤面した。
「っ!!?な、何で分かる!!・・・超能力か?」
「ナルシストっぽいからな。お前は」

 一足先に出たハーシブリィは、軽くタオルで全身を拭くと、バスタオルのまま2階に上がる。
「ふう~。下界の風呂は温めだからつい長湯しちまうぜ~」
 顔を火照らせて廊下を歩いていると、明日香と鉢合わせした。
「あ・・・」
 明日香はハーシブリィの身体をじっと見る。

「な、何見てんだよ!!俺だって女だぞ!!恥ずかしいんだよ!!」
「いいじゃない。女同士なんだし」
 ハーシブリィはとっさに右手をかざした。

『マイティラスト!!』

 明日香の顔から表情が抜け落ちる。
「はぁ・・・こんなに恥ずかしいもんなんだな~・・・」
 ハーシブリィは無表情の明日香を眺める。
 そして怪しい笑みを浮かべた。

「明日香。聞け・・・お前はレオンのことが男として好きだ・・・レオンを愛してる・・・」
「わたしは・・・れおんが・・・おとことしてすき・・・あいしてる・・・」
 明日香の頬に血の色が浮かぶ。

「ほう。すんなりと聞き入れたな・・・ほら、レオンを犯したくてたまらない・・・早く1つになりたい・・・そうだろ?」
「わたしは・・・れおんをおかしたい・・・ひとつになりたい・・・」
 明日香の吐息が荒くなる。そして熱くなる。肩で息をしている。
「俺が手を叩いたら元に戻る。そしたらすぐに犯しに行くんだ。わかったな?」
「・・・はい・・・」

-パンッ-
 明日香は身体をビクッと震わせた。
「うあ・・・あ・・・ほ、ほしい・・・れおん・・・」
 ふらふらと夢遊病のように階段を下りていく。

「あはははははっ!楽しみ楽しみ!」
 ハーシブリィがこそこそと後を追う。

 風呂場からレオンが出てくる。
「ん?明日香・・・どうした?様子が変だぞ?」
 明日香はレオンの顔を見る。
「れ・・・おん・・・すき・・・」
 明日香はレオンに抱きつこうとする。
 レオンは明日香の肩をつかんで制止する。

「な、何を考えているんだお前は!!」
「れおん・・・あいしてる・・・わたしれおんがすき・・・ひとつになりたい・・・」
 熱っぽい表情でレオンに迫る。
「ば、バカ!しっかりしろ!」
「れおん・・・れおんがすき・・・ひとつになりたい・・・」
 明日香が力任せにレオンを押し倒す。

「れおん・・・おとことしてすき・・・」
「あ、あす・・・むぐぅっ!?ぐぅ・・・むっ・・・」
 レオンの唇を貪る。
「はあ・・・れおん・・・ひとつになろ?」
 明日香はパジャマを脱ぎだす。
 レオンは激しく抵抗するが、明日香は信じられないほどの力を込めている。
「く・・・な、何だ?この、欲に支配された感じは・・・」
 レオンの視線の先に黒い紐が揺れ動いているのが見えた。
「?あ、あれは・・・尻尾?」

(しまった!!)
 柱の陰に隠れていたハーシブリィは、慌てて尻尾を隠す。
「ハーシブリィ!!貴様かっ!?」

(や、やばいっ!!)
 ハーシブリィは観念して2階に駆け上がる。

『マスターオブスペース!!』

(!!間に合わなかった・・・)
 階段の途中でハーシブリィが固まる。
 バランスを崩して下に落ちる。バスタオルがはだけた。
 それでも硬直は解けない。

 レオンはハーシブリィの側に歩み寄った。
「やってくれるじゃねえか・・・よいしょっと」
 ハーシブリィを抱え上げる。
「お前の力が抜ける・・・どこにも力が入らない・・・」
 ハーシブリィの腕や脚がだらんと垂れる。
「そしてお前の頭の中が真っ白になる・・・ほら、凄く気持ちいい・・・」
 ハーシブリィは僅かに抵抗したが、瞳から意思の色が消えた。
 レオンはハーシブリィの唇に指を這わす。反応しない。
 それを確かめると床に寝かせた。重力に任せて頭が横に向く。
 弾力のある胸はあまり流れることなく上を向いている。

「さて、明日香・・・お前は必要無さそうだな」
 虚ろな表情の明日香の背中に手を置く。
 レオンがやや力を込めてすっと撫でると、明日香の身体から力が抜けた。
 レオンの腕に支えられる。白い首が覗く。
「ほら、すご~くいい気分だ・・・もう何も考えられないし考えたくも無い・・・ただレオンの声に身を任せるのが一番楽だ・・・」
 明日香の半開きの口から涎が伝う。

「明日香、お前は脚に力が入って立ち上がることが出来る。だが気分は今のままだ。何も見えないし何も感じない・・・」
 レオンは明日香の身体を起こして立たせる。
「ほら、自分の力で立つ事が出来る」
 そういいながら手を放す。やや揺れながら立っている。
「さ~て・・・妹にはしつけが必要だな~」

――――――――――――――――――――

 あ~。身体に力が入らない・・・
 また兄貴に力を使われちまった・・・
 俺はこの力が嫌いなんだよな。
 気付かぬままに自分が変えられちまう・・・

 でもよお・・・すげぇ気持ち良いんだよ・・・
 こうして兄貴の言われるままにしてるとさぁ・・・
 なんだか安心するんだ・・・
 わかってるんだぜ?ヤバいんだよ。この状況は・・・
 この力は大嫌いなんだ。こんなので変えられたくない・・・
 なんっつうか・・・そう、浅い眠り?
 それとか・・・眠りにつく瞬間のあのふっと力が抜ける感じか?
 とにかく、身体と心が切り離されてる・・・
 でも身体も気持ち良い・・・心も気持ち良い・・・

 俺たち悪魔も欲望の操作ならできるけど・・・
 天使はもっと色々な操作が出来る・・・
 だから一度つかまったら絶対に逃げ出せない・・・
 逃げようと思ったら相手より強い力で押し返さないと・・・
 ああ・・・気持ちいい・・・
 兄貴・・・すげえよ・・・こんなに気持ち良いのは無いぜ・・・反則だ・・・
 ふっ・・・どうだ?これが俺の兄貴だ・・・
 一度味わってみろよ・・・絶対逆らいたくなくなるぜ・・・
 あんまり俺を変えないでくれよ・・・
 今ならどんな事でも許しちまいそうだから・・・頼むぜ・・・

 兄貴が俺を立ち上がらせた。
「ハーシブリィ・・・お前の目の前に人が見えるな?」
 目の前に人?・・・
 あ、今まで何も見えなかったのに・・・人影が見える・・・
「名前を言ってみろ」
 名前?え~っと・・・明日香?
「そうだ。明日香だ」
 何か嫌な予感がするんだが・・・
「明日香が近づいてくる・・・ドンドン近づく・・・」
 う・・・これは・・・
 向こうが動いてるのか?俺が動いてるのか?
「ほら、抱き合う」
 う・・・逆らえない・・・
 明日香の身体・・・軟弱だな・・・弱弱しい・・・

「明日香の目を見ろ・・・お前が映りこんでいる・・・明日香の中にお前が居る・・・」
 な、何だ?変な感じ・・・
 俺は明日香の中に居る?
「明日香の鼓動を感じろ・・・そして自分自身の鼓動を感じろ・・・」
 感じる・・・落ち着いてるからゆっくりしてる・・・
「お前は明日香の中に居る・・・だからお前の鼓動が明日香のリズムに近づく・・・」
 何だと?・・・う、嘘だろ?そんなことが・・・
「お前の鼓動が明日香の鼓動に合わさった・・・お前は明日香と一体になった・・・」
 俺は明日香と・・・一体・・・

「お前の身体は明日香にあわせるために細かく調整したから凄く敏感になっている・・・」
 ん・・・凄く・・・敏感・・・
「特に明日香は女性だから女性器はものすごく敏感になっている」
 女性だから・・・女性器・・・敏感・・・
「お前は明日香の一部だから明日香と同じ様に動くんだ。それ以外の行動は出来ない」
 明日香の一部・・・それ以外は出来ない・・・

 兄貴がそれからも何かを言っている・・・
 それがどういう意味なのかは分からない・・・

『リリース!!』

「あ、兄貴っ!!今度は何をしたんだ!!」
 俺の目の前に明日香が両足を崩して座っている・・・
 俺も同じ様に座っている。
 一体何を変えられたのか・・・その記憶すらも消されている・・・
 それにしても・・・何で俺は毎度毎度抵抗しねえんだよ・・・

「あ・・・」
 目の前の明日香が腕を動かす。
 いつの間にか明日香は裸になっている。
 腕が明日香の発達途中の胸に伸びる。
 ん?俺の腕が・・・明日香の真似をするように・・・胸に・・・
 そういえば俺の身体が全く動かせない・・・ま、まさか・・・
「あ、兄貴ぃっ!!これかぁっ!!」

 明日香の手が胸に伸びる。
「っあっ!!?」
 な、何だ!?胸に凄まじい快感が・・・
「ちょ、ちょっと待て!!と、止まれ!!動かすな!!」
 明日香は構わずに乳首に・・・
「ああぅぅっ!!?」
 一気に軽くイッてしまった。
 乳首が一気に硬く尖ってくる。
 胸がぴりぴりと張ってくる・・・

 明日香はゆっくりと胸を揉み始める。
「うあああぁぁっ!!?や、やめぇぇっ!!?」
 ま、またイッた・・・
 明日香は無表情のままだ・・・

「あ、兄貴ぃっ!!ゆるさにゃゃぁぁぁっ!!?」
 だ、ダメだ・・・何だこの敏感さは・・・

 あ、明日香の手が腹をさすって・・・下に・・・
 や、止めろ・・・きっとそこに触れたら・・・
 そして・・・弄り始める。

「ぐああぁぁぁっっっ!!!!」
 身体が勝手に飛び跳ねる。
「うあああぁぁぁっっ!!!!」
 あ、頭がバチバチと変な感じに・・・
 だ、ダメだ・・・これ・・・おかしくなる・・・
 くるっちゃう!!やめろ!!しんじゃうっ!!
「ひゃああぁぁぁっっ!!!!」
 あ、あたまが・・・はじけとぶ・・・

――――――――――――――――――――

 レオンはハーシブリィを綺麗にした後で寝かせた。
 ハーシブリィはあまりの絶頂に眼を開いて失神している。レオンが手でそっと瞼を閉じさせた。
 しばらく起きる様子も無い。
 レオンは毛布をかけると美佳の部屋に下りていった。

 翌朝・・・
「ん・・・」
 ハーシブリィが先に目が覚める。
 そして横を見る。
「兄貴・・・」
 ハーシブリィの脳裏に昨日の出来事が甦った。

(!!昨日はしてやられちまったな・・・)
 ハーシブリィは毛布をはがす。
「!!あ、兄貴・・・」
 立ち上がったペニスに視線が向く。
 何かを思いついたように、右手をかざした。

『マイティラスト!!』

「兄貴・・・俺の身体を想像しろ・・・裸を想像するんだ・・・興奮する・・・すっごく興奮する・・・」
「うぐっ・・・ぁ・・・」
 レオンのペニスが脈打つ。
 ハーシブリィは興味深そうにズボンを下ろして直視する。
「ほら、もう我慢できないぞ!!」
「ぐっ!」

 レオンのペニスが大きく膨らんでハーシブリィの顔にかかる。
「うっぷ!!うえぇっ!!くっせぇぇっ!!何だよこれはぁ!!ちくしょうっ!!」
 ハーシブリィが怒る。
 と、レオンがスッと目を開いた。

『マスターオブスペース!!』

「!!?・・・・」
 ・・・・・・

 ハーシブリィはレオンの顔を見つめている。
 虚ろな目をパチパチと瞬きし、ようやく光が戻る。

「あれ?・・・そうだ。ばれないように綺麗に舐めとらなきゃ・・・」
 すらっとした指を伸ばして自分の顔の精液を拭い取る。少し固まりかけている気もするが気のせいだと割り切ったし、性について知らないのでたいした疑問にも思わなかった。
 そしてそれを舐める。
「ん・・・意外と美味い・・・」

 次第に積極的になる。
 匂いも嗅ぐようになる。
「ん・・・なんか良い匂い・・・気分がスッとする・・・」

 ハーシブリィは自分の顔を舐め終えると、レオンのペニスを咥えた。
 残った精液を吸い取っていく。
「っぷはあっ!!何だこれ!美味い!美味すぎる!!もっと出してくれよ!」

 そこでレオンが目を覚ましかける。

「!!うおっ!やべぇっ!」
 慌ててズボンを穿かせ、自分は横に寝た振りをする。
(も、もうじき時計の鳴る時間だ・・・)

-ピピピピピピッ-
 レオンが目を覚ます。
「ふあああぁぁぁっ・・・んん?」
 ズボンの中を覗き込む。
「あれ?出てるような感覚がするのに出てない・・・」
 ハーシブリィはバレたかと思ってひやひやする。

 レオンがハーシブリィの身体をさする。
(ふ・・・バカめ。緊張してる事ぐらいバレバレだ)

「ハーシブリィ・・・」
 レオンはハーシブリィの顔を手前に向ける。
 本人は気付いていないが、自分自身の唾液でべとべとだ。
 レオンは気付かない振りをしてキスをする。
 ハーシブリィの鼓動が跳ね上がる。

「・・・起きろ。朝だぞ」
「ん。ん~~・・・あ、あれ~?も、もう朝か~。あ、ああ、兄貴は早起きだな~」
 顔が真っ赤で声が上ずっている。
 レオンはそんなハーシブリィの態度を面白がりながら食卓に下りた。
「悪戯を仕掛けるなら常に先を想定しないとダメだぞ。妹よ」

< つづく >

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