夢から始まる物語 final plane 後編

final plane後編・「任務」と「友情」と「愛情」

 登場人物:
 レオン・・・天界から来た天使と悪魔のハーフの美男子。天界ではシオンと呼ばれている。『ユグドラシル』の称号を持つ。天使階級は無く、現在最終試験中。
 明日香・・・男の人(父親代わり)が欲しいと願った高2。レオンが天使になれるかどうかは明日香次第。ハーシブリィに敵対心を持っている。
 美佳・・・明日香の母。未亡人。レオンの天使術でレオンのセックスフレンドに。
 リファイス・・・シオンの婚約者の女性。超美人。天使第6階級に昇格した。
 フィリシーン・・・堕天使で魔界に住む。ハーフであるシオンを欲する。
 エンカーブレイス・・・シオンの母で天使第8階級。皆の憧れだった。シオンを産んだ際に命を落とす。
 ブルータル・・・シオンの父で悪魔。趣味は天使を強姦すること。あまりの残忍さに魔界ですら手を焼いていたほど。覚醒したシオンによって命を落とした。
 ハーシブリィ・・・ブルータラスの娘の悪魔。孤独に育った彼女はシオンを求めて下界に。今では兄が大好きな寂しがりや。ジャンクフードとコーラが大好き。愛称はハーシィ。

≪「Aパートだぞ♪」byハーシブリィ≫

――――――――――過去の魔界――――――――――

「うわぁぁぁん」
 俺はずっと孤独だった。近づけば追い返される。嫌われる。

 ずっとこんな地獄みたいな日々が続くのか・・・そう失望していた俺は、天界の事件を知った。
 俺の父親の息子・・・ってことは俺の兄妹なのか・・・兄・・・

 俺はその噂に喰いついた。
 一度でいいから兄という奴に会いたい。魔界全てが敵だった俺にとって最後の希望だったんだ。名も知らぬ兄が。
 天使だったら俺を・・・助けてくれるかも・・・
 俺は魔界の門を通って下界に下りた。もう後戻りはできないその道を。

 それから半年ぐらいはずっと彷徨っていた・・・
 下界で辛かったのは飢えだ。俺はいろんな人間の願いを叶える代わりに体力を吸っていた。その時は魂なんて怖くて吸えなかった・・・

 俺はとある戦争中の国で途方にくれていた。砂漠、荒廃した工場、貧困の土地・・・その国は強大化した軍事力・経済成長が暴走し、自分で自分の首を絞めた国・・・俺の最期に相応しかった。

 見つからない・・・あれは嘘だったのかも・・・何より下界は広すぎる・・・腹も減った・・・もう・・・死にたい・・・

 そう思った俺の前に、一人の女性が現れたんだ。

「あら、私だったらとっくに死んでるわよ。あなたは良くやってるほうだと思うわ」

 彼女は堕天使のフィリシーン。同じく皆から嫌われる存在だ。悪魔をたぶらかして死に追いやった人物・・・という噂だ。

「私は堕天使フィリシーン・・・ちょっと任務でこの近くに来たのよ。何しろ戦渦に巻き込まれた人が多いからね。助けを求める人も多いのよ」

 どうせ俺には関係のないこと・・・そう思って聞いていた俺に、フィリシーンは思わぬことを言った。

「・・・私はあなたの兄と面識がある・・・兄の名はシオン。婚約者が付けた名前よ。そしてシオンは日本に居る」
「・・・あ、あにを・・・しってる?」
 失っていた希望が再び光を取り戻した。そんな気がした。

 フィリシーンは何かを俺に差し出した。
「ええ。ほら、これが日本地図。そしてこれがシオンの周辺の地図。ここに居るから行ってみなさい。きっと助けてくれるわよ、私を助けてくれた人だから」

 兄の場所が分かる!
 よく見ると、そこには若干のお金がはさんであった。
「な、何で・・・そんなに・・・やさしく・・・してくれるんだ?」

 フィリシーンは空を見上げながら優しく言った。

「あなたのお兄さんに命を救われたから・・・それに・・・好きだからよ。世代を超えた友情・・・かな」
「・・・すき?」
「きっとあなたも彼の魅力が分かるわよ。私は任務があるから、元気でね」

 こうして俺は、長い放浪の末に兄貴の元へやって来れたんだ・・・
 想像していた通り、とっても気の会う兄貴だった。
 だから、嫌なんだ。
 対価も貰わずに時間と浪費を費やす、天使の任務ってのが・・・
 だから、分からないんだ。
 関係ない誰かの笑顔のために、何かをするって言う感覚が・・・
 だから、困るんだ。
 そんな兄貴が好きだから・・・困るんだ・・・

――――――――――――――――――――

――――――――――現代の天界――――――――――

 天界の会議室では、お偉いさん達が集まって1つの議題を話し合っていた。
 その結果、ある依頼をリファイスに命じることになった。

 リファイスはその内容について説明された。
「わ、私に?・・・シオンを説得しろと・・・『シオンの妹であるハーシブリィを消去せよ』・・・本当にこの命令が?」
「仕方の無いことだ。このままでは被害が拡大するのだ。シオンには無理だ。お前がやるしかない。このままでは多くの人間が不幸になるぞ」

 リファイスは困った顔でお爺さんを見つめた。
「・・・ですけど・・・天使が殺しなんてやってもいいんですかっ!?それにシオンが妹を殺すのを許せるとは思いません!」
「下界人の命を護る為だ!対価に寿命を求めるなど我々天使が許さぬ!!だからお前が説得するんだ。いいな?・・・他の者がやるよりは・・・お前がやった方がいいだろう?」
「・・・本気・・・なんですね・・・貴方達は昔から・・・自分では何もせずに口ばかり・・・」
「社会が成り立つには律するものは必要だ。それともお前は天使の誇りがないとでも言うのか?」

 リファイスは言ってもだめだということを悟ると、顔を背けた。
「・・・わ、わかり・・・ました・・・」
「よし、では数日後に迎えに来る。準備をしておけ」
「・・・は、はい・・・」

 リファイスはお爺さんが帰った後、この任務の意味を考えていた。
 今回、リファイスに下された任務は・・・ハーシブリィの抹殺。もともとハーシブリィに帰る場所は無いので、この方法が選ばれた。つまりどこからも必要とされていないなら消すほかないと言う結論だ。

 天使が命を奪っても良いものだろうか・・・それが命を護る為なら?
「・・・何か方法があるはずよ。何か・・・」
 リファイスは悩み続けていた・・・

――――――――――下界――――――――――

 そして数日後・・・
 お互いにレオンへの思いをぶつけた明日香とハーシブリィは、あれ以降ライバル心を剥き出しにしていた。ただし、本気で憎みあっていると言うわけではない。あくまでもお友達同士の聖戦なのだ。
 ということで明日香とハーシブリィは冷戦状態に入っていた。

 この日の学校では、ハーシブリィはレオンにぴったりとくっついていた。

「おいおい。そんなにひっついてると明日香が怒るぞ?」
「・・・こ、怖いんだよ・・・前にも言っただろ?欲望に突き動かされるって・・・」
「お前は俺の妹だ。そんなのに負けねえよ」
「兄貴・・・兄貴が悪魔の本能に負けないのは・・・きっと兄貴の中の天使の血が・・・兄貴の母親の血が兄貴を――」

-キーンコーンカーンコーン-

 休み時間を告げるチャイムが鳴った。
 と、そこに血相を変えて明日香が走ってきた。
「ハーシィ!!いい加減にして!!授業時間まで一緒なんて卑怯よ!」
「!!何だと!?そっちが勝手に授業があるんだろ!?」

 2人がまた喧嘩を始めた。

 レオンは隙を見てその場を離れ、屋上に向かった。気配を感じたからである。最もよく知る人物の。

(・・・この気配は・・・まさか・・・何であいつが下界に・・・)

 屋上にはレオンの予想通り、ある人物が居た。
 レオンはその人物に声をかけた。

「・・・久しぶりだな・・・すぐにでも抱きしめたいところだが・・・ただ事じゃなさそうだ・・・」

 レオンの目の前にリファイスが佇んでいた。ゆっくりと振り返り微笑んだ。

「さすがシオン・・・気配で分かるなんてね。愛のなせる技?」

 レオンは真剣な表情で続けた。
「・・・目当てはハーシブリィか?」
「・・・そこまで分かってるのね・・・そうよ・・・私はハーシブリィのことでシオンと話をしに来たの」

「・・・ハーシブリィを殺すように言われたんだろ?」
「・・・」
「隠さなくていい。俺には本当のことを話してくれ・・・俺を愛しているのなら、だろ?」
「それを言われたら仕方ないわね・・・」

 リファイスは観念して真実を喋り始めた。
 そして、ひとつの考えを示した。

「やっぱり魂狩りはやってはいけないことなの。止めさせなきゃ。だから私なりに出した結論を聞いて・・・皆が良い結果になるように考えたの」
「リファイス・・・分かった。聞かせてくれ・・・良い返事を期待する」

「シオン。あなたのユグドラシルの力を使って、ハーシブリィの悪魔としての凶悪な人格を消し去る・・・悪魔の本性が消えても、シオンのことを嫌いになるわけじゃない・・・本当にシオンのことを兄として慕っているなら大丈夫よ」
「・・・続きを聞かせてくれ。そのデメリットを・・・」

「1つ目、悪魔の力の解放ができなくなる・・・2つ目、失敗すれば本来の人格にも影響が出る・・・3つ目、ハーシブリィの苦痛を伴う・・・4つ目、ユグドラシルの魔力の使い方が難しい・・・」

 レオンは中々結論が出せなかった。いずれにせよハーシブリィは苦しむ。

「シオン?・・・あなたが嫌なら別の方法を考えましょう?」

 リファイスがここにいるということは、結論は急がなければならない。

「・・・わ、分かった・・・俺がやる。まずはハーシブリィにその方法について説明させてくれ」
「私が説明する。私も手伝うわ」

 その時だった。

「きゃあああっ!!」

 下から悲鳴が聞こえた。
「「!!??」」
 レオンとリファイスは下に直行した。

 廊下に降り立った2人の目に映ったのは地獄絵図・・・
 数人の学生が、死んではいないがかなり深い傷を負って倒れている。
 そして明日香が壁に追い詰められていた。暴走したハーシブリィによって。
「っ!!・・・ハーシィ・・・」
 レオンがショックを受けていた。ついに他人に直接的な危害が及んだのだ。

 リファイスは覚悟を決めたように身構えた。そして魔力を放出する。
「し、シオン・・・早くやるのよ!私はこれ以上別の人が近づかないように結界を張るから!!もう説明している暇は無いわ!」
「わ、分かった!」

 レオンは天使化し、全身から魔力をほとばしらせる。
 『マスターオブスペース!!ユグドラシル!!』

 レオンは一気にハーシブリィに近づくと、身体を支えた。
「ハーシィ。力を抜け・・・俺に全てを委ねてくれ・・・」
 ハーシブリィの全身から力が抜け、レオンに支えられた。だが、解放はまだ終わっていない。

 レオンはリファイスに助けを求めた。
「リファイス!この状態でやっても問題ないのか!?」
「ま、待って!その状態はダメ!その状態の彼女は自分が消えたいとは思わないから!」

 レオンはハーシブリィを抱きしめた。
「ハーシィ・・・もとのお前に戻ってくれ・・・俺はお前を護って見せる・・・」
「・・・う・・・う・・・あ、あにき・・・あにきっ!!俺のものだ!!他の何人も触れさせない!!」
 ハーシブリィは大声で言うと、身体に力を入れて起き上がった。そしてリファイスを睨みつけた。

「お前が兄貴を惑わすのか!!リファイス!!死ねぇぇっ!!」
 ハーシブリィはレオンを押し倒すと、リファイスに向かっていった。
「待てハーシィ!!約束を忘れたのか!!」
 レオンが止めに入る。だが、ハーシブリィはレオンを思い切り殴り倒した。

 リファイスは辛うじてハーシブリィの攻撃をかわしていく。
「うっ、くっ・・・だ、ダメよ。今の彼女は悪魔そのもの。呼びかけても戻らない」

-ズッ-
「っ!!?」
 リファイスが違和感を感じて下を見ると、わき腹にハーシブリィの尻尾が突き刺さっていた。

「し、しまった・・・伸ばすこともできるのね!」
 リファイスは尻尾を抜こうとした。すると、全身の力が抜け始めた。
「うあ・・・ち、力が・・・入らない・・・力を・・・吸ってる?」
 危機感に汗が噴出す。脚がぷるぷると震え始めた。
(く、も、もうダメ・・・力が・・・入らな・・・)

 その時!!
「止めなさい!!」
-ザクッ-

 と、女性が現れて爪でその尻尾を斬った。ハーシブリィがその痛みで悶える。

 現れたのは堕天使フィリシーン。
「借りは返すわよ!シオン!」

 フィリシーンはリファイスから尻尾の残骸を抜き、リファイスを抱えあげた。
「大丈夫!?ここはシオンに任せて離れるわよ!!」
「だ、だめ・・・私もシオンと・・・シオンーっ!!」

 痛みを押さえ込んだハーシブリィは、今度は倒れている明日香に狙いを定めた。
 シオンは立ち上がり、明日香の前に立ちはだかった。
「待て!ハーシィ!お前の話なら俺が聞いてやる!だからもう少し耐えろ!」

 ハーシブリィはじっとシオンを睨んでいる。
「そこをどけぇぇぇ・・・そいつが居るからいけないんだ・・・そいつは消すべきなんだ!!」
「いい加減にしろ!!・・・俺は・・・お前を殺したくない・・・殺したくないんだよぉぉっ!!!!」
「だったら黙って見てるんだな!このガキが死ぬのを」

 そこに、リファイスを遠くへ置いてフィリシーンが戻ってきた。
「シオン!諦めてはダメよ!あなたは諦めないところがウリでしょ!その母親譲りの諦めの悪さが!!あんたもエンカーブレイスも立派な親子よ!!」
「フィリシーン・・・」
「私は元天使!じゃあ何故今、小麦色の肌で悪魔の翼が生えてると思う!?」
「っ!!?・・・つ、つまり・・・逆も?・・・悪魔をハーフ化することも・・・」
「そうよ!だから――」

 と、ハーシブリィの身体から魔力があふれ出た。
「次から次へとジャマしやがってぇぇぇぇっ!!!!・・・ぐおおぉぉっっっ!!!!『マイティラスト』!!」
「っ!!?」

 レオンは咄嗟に天使術を放ち、何とか相殺した。
 だが、明日香とフィリシーンは別だった。

「あ・・・あ・・・ああ・・・・」
 明日香はただ驚愕した表情で震えている。
 フィリシーンもまた頭を抱えて苦しんでいた。
「く・・・う・・・こ、これは・・・・あ、頭が・・・何かが胸の奥からこみ上げてくる・・・」

 明日香の身体が動いた。ぼんやりとしたその顔からは一切の表情を感じない。
「・・・ぬ・・・・・・い・・・」
「!!?明日香っ!?」
「・・・しぬ・・・しにたい・・・」
 明日香の身体が弾けるように窓に向かって突進した。

-ガシャアン!-
 ガラスを破り、この3階から下に落ちていく・・・

「明日香――っ!!」
 レオンは後を追い、飛び降りた。

 フィリシーンはハーシブリィを睨んでいた。
「う、く・・・な、何てこと・・・悪魔術は欲望の操作・・・・・・あんた・・・私達に自殺願望を・・・」
 ハーシブリィは唸りながら答えた。
「あ・に・き・は・・・おれのもの・・・ほかのやつは・・・きえろ・・・」

(う・・・何?この心の底から沸いて来る感じ・・・言いようの無い嫌な感じ・・・これが・・・死?・・・)
 フィリシーンは最後の力を振り絞ってその力を払いのけた。
「わ、私は生きるっ!!!!それが彼(=恋人)に対する償いのなのっ!!」

 それを見たハーシブリィは一層魔力を増した。
「うおおおおぉぉっっっ!!」
「くぅぅっ!!ま、負けて・・・たまるかっ・・・負けて・・・」
 フィリシーンはそれを何とか跳ね除けようとしていた。

-死ねば愛しい人に会えるわ-

「ぅ!??」
 心の中に響いたその声が、フィリシーンの強固な壁にひびを入れた。
(ち、違う!!惑わされないで!!こんなのはまやかし!!私を生かすためにあの人は・・・)

-これ以上生きて何になるというの・・・-
-誰も堕天使の私など必要としないわ・・・-
-私はあの人のもとに行くの・・・-

「や、やめてっ!!やめ・・・うぅぅぅっ・・・ああぁぁぁっ!!!!」
 フィリシーンが最期の悲鳴を上げた。

「っ!!?」
 外に居たレオンは、天使術を使って明日香を元に戻し、グラウンドに寝かせていた。
「今の悲鳴、フィリシーンか!?くそっ!もうちょい耐えれると思ったのに!」

 レオンは空に飛び上がろうとした。
 が、レオンの手を明日香が掴んだ。
 どっと疲れが押し寄せたような気だるい様子で、ようやく聞き取れる声で言った。
「れおん・・・だめだよ・・・いっちゃだめ・・・そばにいて・・・」
「あ、明日香・・・」
 レオンはただただ困惑していた。

 明日香は何とか微笑むと、呟いた。
「れおん・・・だいすき・・・」
「く・・・あ、明日香・・・聞いてくれ・・・俺はリファイスもハーシィも、そしてフィリシーンも護りたいんだ・・・勿論お前も・・・」
「れ、おん・・・わたし・・・ねがいぬしだよ・・・れおんのじんせいは、わたしが、にぎってるんだよ・・・いうこときいて・・・」
「・・・ゆ、許せ!」

 レオンはそっと明日香の手をほどき、空に舞い上がった。明日香はそれを寂しそうに見つめていた。
「れ・お・ん・・・・・・」

 一方、フィリシーンはもう限界を迎えていた・・・
「・・・・・・もう・・・無理・・・・・・・・・今行くわ・・・」
 尻尾で心臓を突き刺そうと構えた・・・

 が、後ろからレオンに羽交い絞めにされた。
「待て!お前には教えてもらわなければいけないことがある!どうやったらハーシィをハーフ化できるんだ!?」

 フィリシーンは虚ろな瞳で答えた。
「・・・私はもう疲れた・・・死ぬの・・・」
「く、正気に戻れ!『マスターオブスペース!!ユグドラシル!!』」

 レオンは天使術で暗示を解こうとした。
 だがフィリシーンは・・・
「・・・死ぬ・・・」
「!!?ま、まさか・・・ユグドラシルの俺が・・・力負けしているというのか・・・」
「・・・待ってて・・・あなた・・・」
「っ??お、お前・・・恋人の下に行こうとしているのか・・・」

 羽交い絞めにされながらも、尻尾が間を縫って再びフィリシーンの胸の前に構えられた。
 レオンは咄嗟に身体を移し、今度は正面から抱きついた。
(フィリシーンが生きる気力を失っているから解けないのか!!く・・・・・・・・・)

 レオンは言い聞かせる。
「フィリシーン!!お前は生きなければならない!!お前は・・・俺の親友だ!リファイスを除いたら初めての親友なんだよ!お前は!」
「しんゆう?・・・」

 その答えを聞いたレオンは、決意を固めた。
「そうだよ!お前は親友だ!お前が死んだら俺が悲しんでやる!上手く言えないが・・・俺はお前が好きだ!!」
「っ!?シ・オ・ン・・・」

 ハーシブリィが慌てて飛び掛る。
「やめろーーーっ!!せっかく消したそいつの恋心を呼び覚ますなーーーっ!!」
「っ!!?(フィリシーンが俺を!?)」

 レオンはもう一度魔力を放出した。今度はハーシブリィに向けて天使術を放つ。
「もう止めろハーシィ!!いや、ハーシィに巣食う悪魔の本性よ!!」
「煩いっ!!兄貴を手に入れるまでは止まらん!!」
 ハーシブリィも悪魔術を放つ。

-ドォォォン!!-

 2人の魔力がぶつかった。お互いが押し合う。
「ぐぅぅぅっ!!」
「うおおぉぉっ!!」

 フィリシーンはそんなシオンを虚ろな目で見つめていた。
(・・・シオン・・・やっぱり貴方は・・・愛する人に対する想いは格別なのね・・・羨ましい・・・羨ましい?どうして?・・・・・・そう、最初は好奇心だけだったのに・・・ブルータルのときから、貴方は私を・・・そしていつの間にか私は純粋に貴方を・・・エンカーブレイス・・・貴女はいい母よ。貴女が命を賭してシオンを産んだのは正解だった・・・そしてありがとね・・・)

 レオンがフィリシーンに呼びかけた。
「俺がお前の面倒を見てやる!!フィリシーン!!だから孤独に負けるな!!気持ちで魔力は増減するんだ!!・・・生きたいと言えぇぇっ!!!!」

 フィリシーンは呟いた。
「・・・ふ・・・ふふっ、一丁前に言うこと言うじゃない。まだガキのくせしてさ・・・クサイ台詞言っちゃってバッカみたい・・・でも嬉しかったわ。らしくなかったわ私。私もやっぱり天使なのよね・・・」
「フィリシーン・・・」
「お言葉に甘えてシオンの世話になることにするわ・・・これが終わったらあなたの権限で天界に帰して?天使として」
「お安いことだぜ!フィリシーン!!」
「それともう1つ・・・私のことはフィルって呼んで?」
「分かった。手を貸してくれ!フィル!」

 フィリシーンは魔力を溜め、レオンに手を重ねた。
「ちなみにその呼び方をされるのは貴方で2人目よ!!シオン!!」
「な、何っ!?(恋人以来ってことか!?)」

 その様子を見ていたハーシブリィが一層力を増幅した。
「許さんぞっ!!俺以外に兄貴の愛情を注がれることは許さんっ!!兄貴を傷つけてでも手に入れてやる!!その女ぁっ!!砕け散るが良いっ!!はああぁぁっ!!!!」

「・・・それが悪魔の本性か!解放状態でも意志があるんじゃないか・・・今助けるぞ!ハーシィ!!」
「悪魔の本性が前面に出ている今がチャンスよ!シオン!!」
「了解っ!!頼むぜ!フィルっ!!」
「こうなったら私達の心をひとつにして、魔力をあわせて、必殺技を放つのよ!」
「だ、だがフィルは天使術は・・・」
「出来るわ!ううん、してみせる!腐っても天使よ!私!・・・」

 徐々に押されていくレオンとフィリシーン。
「じゃあ行くわよ!ホワイト!」
「ほ、ほわいとぉ?」
「いいから!私の合図で最大限の魔力を!」
「おうっ!」
「・・・今よっ!!」

 フィリシーンが叫ぶ。
 『マスターオブスペース!!マーブルスクリューっっ!!!』

 レオンは後半部分について考えていた。
(まーぶるすくりゅぅ?どの変がマーブルでスクリューなんだ?)

 マーブルと言っているが両方とも天使術のため白色である。
 2つの、黒と白の強大な魔力がぶつかる。
 その強大な力に周りの窓がガタガタと振動し、パリンと綺麗に砕けた。
 そして白い魔力が一気に黒い魔力を飲み込んでいく。

 ハーシブリィは負けを悟った。
「・・・畜生・・・さすが・・・兄貴だぜ・・・・・・兄貴に消されるなら・・・それも・・・」

 そして辺りが強烈な光に包まれた。

-バシュウウゥゥ・・・-
 魔力が消える・・・

 競り勝ったのはレオンとフィリシーンだった。
 ハーシブリィは気を失って倒れている。悪魔の力の解放も終わり、本来の姿に戻っている。

 レオンは倒れたままのハーシブリィを見て、悲しげに叫んだ。
「・・・お前が俺に勝てるわけが無いだろうっ!!偉大な母の血を引く俺に!!・・・くそっ!傷つけたくなかったのに・・・」

 フィリシーンはそんなレオンを勇気付けるように言った。
「シオン!悪魔の本性を消す方法を教えるわ!教室に移動しましょう」

 レオンは気持ちを切り替えた。
「分かってる。俺の力で本性の人格を消すんだろ?」
 だが、当のフィリシーンはキョトンとした顔になっていた。
「え?・・・」

 暫らくして、フィリシーンがぷっと吹き出した。
「本気でそう思ってるの?・・・ぷっ・・・・・・あはははははははっ!!やだちょっと!!何それっ!リファイスの、ははっ、入れ知恵ぇっ?」

 笑い転げるフィリシーンに、レオンが恥ずかしさに顔を赤らめた。
「な、何がおかしい!!殺すよりはずっと――」
「ははははっ・・・ご、ごめんね・・・あまりにも馬鹿げてたから・・・・・・はっきり言うわ。悪魔である限り本性は消えない!!本性だけを消すことはできないわ!!つまりこのままだとハーシィちゃんが再び暴走する!!」
「!!?何・・・だと・・・」
「例えば貴方の中の悪魔の血だけを消すことができないように・・・そうでしょ?」
「あ、ああ。なるほど・・・」

 レオンは困った表情でぶつぶつと考え事をしている。
 フィリシーンはそんなレオンを見て悪戯な笑顔を見せた。
「ねえ。今この場でキスしてくれたら教えてあげる♪いいでしょ?そのぐらい・・・親友の証として」
「う・・・だ、だが親友というのはそういうものなのか?」
「うんうん。キスどころかセックスだってしてもいい関係なのよ」
「そ、そうなのか?」
「そうそう。友達より深い関係なんだから当たり前よ。さ、ほら、濃厚なのを頼むわよ。友情の深さが測れちゃうんだから」
「分かった・・・」

 それからディープキスが3分程続き・・・

 そこにフラフラの状態のリファイスがモップを杖代わりにしてやってきた。

「こ、こらあぁぁーーーっ!!私がダウンしてる間になんてことしてるのよぉぉっ!!!!終わったんなら迎えに来なさいよっ!!」
「いっ!?リファイスっ!!こ、これは友情の証のだな・・・」
「そんなわけあるかあっ!!言い訳無用っ!!」

 リファイスは教室の扉を外し、思い切りレオンの頭に叩きつけた。
-ドゴッ!-

 レオンは床に突っ伏した。
「ぐ、効いた・・・」

「はあっ、はあっ、まったくっ!・・・あぅ・・・」
 リファイスも力尽きて倒れた。

 一人残されたフィリシーン。
「・・・・・・何これ・・・」

≪「Bパートだ・・・」byレオン≫

 フィリシーンとハーフに戻ったシオン、リファイスは、気絶したハーシブリィと共に教室に居た。
 眼鏡をかけ白衣を着たフィリシーンが、黒板にチョークを使って何かを書き、説明している。

「さっきの例えの通り、悪魔の本性だけを消すことはできないわ。わかる?シオン」
「あ、ああ。人物を構成する1つの要素であると言うことだな・・・で?」

「悪魔は皆、攻撃的な性格なの。皆魂狩りが一番の楽しみなの。いい?シオン」
「う、うん・・・そ、そうだな・・・」

「だけど、ハーシィちゃんは違ったわ。ずっと孤独だったからその快感すらも知り得なかったのよ。そうでしょ?シオン」
「な、なるほど・・・知らなかったから本性が現れることもなかった・・・」

 リファイスがシオンの頬をつねった。
「ちょっとシオン?何赤くなってるのよ?」
「な、何でもないっ」
「フィリシーンも!シオンばっかり話しかけてるんじゃないわよ!」

 シオンがフィリシーンを宥める。
「まあまあ。落ち着いてリファイス。折角フィルが説明してくれてるんだ」
「そうよ。イライラはお肌に悪いわよ?」
 レオンとフィリシーンに宥められるリファイス・・・

「ぬぬぬ・・・納得いかない・・・何よ何よ。いつの間にかフィルって・・・バッカじゃないの!?あんたバカぁ?バカばっか・・・バカシオン!!ばかばかばかっ!!」
 思いつくままに有名な台詞を吐き捨てるリファイス。

 肝心のレオンは心当たりがない。
「な、何をそんなに怒ってるんだよ・・・別に良いじゃないか。愛称で呼んだって」
「・・・じゃあ私のこともリファとかリフィって呼んでくれる?」
「何を言ってるんだよ。リファイスはリファイスだろ?別にリファイスと言う名前で好きになったわけじゃないだろ」
「・・・ま、まあ・・・ゆ、許してあげるわ」

 フィリシーンが肩をすくめて呆れていた。

 そしてフィリシーンの講義が再開された。

「で、悪魔にはハーシィちゃんのような、魂狩りに消極的な者への為の処置が施されているの」
「ほう・・・その処置が悪魔の本性か?」
「正解よシオン。悪魔の本性・・・強いものを愛し、強いものを欲する・・・」

 リファイスがようやく喋った。
「ハーシブリィの場合、それがたまたま尊敬すべき兄だったわけね・・・だからこそ余計に取り込まれやすかったわけね」
「正解よリファイス。やれば出来るじゃない」
「・・・そろそろ本題に入って欲しいわ」

 フィリシーンは軽く咳払いした。
「コホン・・・ではここで問題。悪魔の血を引く貴方が、悪魔の本性を感じたことがある?」
「そう言えば一度も無いな・・・リファイスなんて強くも無いし・・・」

 リファイスが僅かに殺気を出した。
「・・シ・オ・ン~?」
「あっ、え~っと・・・リファイスは心が強いんだ・・・と言う割にはブルータルにやられたし・・・」
「シオンっ!!」

「あ~、そこのバカップル。続けて良いかしら?」
 フィリシーンが呼びかけると、とりあえず喧嘩は収まった。

「ズバリ!強くも無いリファイスを愛したシオンには、悪魔の本性は無い。それは何故か・・・ということなのよ」
「・・・・・・何故だ?」
「・・・・・・何で?」

「はい、時間切れ~。正解は・・・『天使の血が悪魔の本性を抑えているから』なのよ。綺麗な言葉で言うと、シオンのお母さんはシオンと共に生きているわけね」
 リファイスは納得して頷いた。
「なるほど。それなら説明がつくわね。私が見た幻影はエンカーブレイス様だったのね」

 一連の説明から自分のやるべきことを把握したレオン。
「・・・で、天使化した俺の血を飲ませればいいわけか・・・」
 リファイスが止めに入る。
「ちょっと待って!ハーフにしようと思ったらかなりの量が必要なんでしょう?だったら純粋な天使の私が・・・」
「いや、ここは兄の俺が・・・」
「ダメ!シオンを危険に晒せない!!」

 フィリシーンは2人を止めた。
「・・・私としてはシオンの気持ちを酌んであげたい。だって兄だもの・・・もしシオンが危なくなったらリファイスがシオンに血を分けてあげればいいわ」

 2対1の状況に、リファイスはしぶしぶ承諾した。
「・・・・・・分かったわ。無理はしないでね」

 レオンはハーシブリィを担ぎ上げた。
「保健室に行こう。ここよりはずっと設備が整っている」
「あ、ハーシィは私が連れて行くわ。シオンは外に置いてきた明日香を――」
「そうか。助かる」

 リファイスはハーシブリィをおんぶした。そしてフィリシーンと共に保健室へ向かった。

 レオンは明日香のもとに来ると、明日香をお姫様抱っこした。
 明日香がぼんやりと目を開けた。
「レオン?・・・どうなったの?」
「ああ。全部終わる。もう少しで」
「そう・・・よかった・・・」
「心配かけて悪かったな」

 保健室に着いたレオンは、明日香をベッドに寝かせ、カーテンを閉めた。これからすることを見えないようにするためである。だが、明日香は心配をよそにすうすうと眠っていた。

 リファイスとフィリシーンが包帯などを用意していた。フィリシーンが注射器を使ってハーシブリィの血を抜く、レオンの量を減らす為だ。
 ハーシブリィの側に立った天使化したレオンは、羽根を腕に当てた。
 そして羽根で腕を切り、ハーシブリィの口に血が垂れるようにした・・・

 ハーシブリィがその違和感に目覚めかけていた。
「う?・・・ん・・・」

 レオンはハーシブリィの頬に片手を置いた。
「ハーシィ・・・お前の中の悪魔の本性は兄貴が止めてやる・・・だから今は安心して眠ってろ・・・」

 その声が届いたのかは定かではないが、ハーシブリィは黙って血を飲み込んでいた・・・

 数時間後・・・
 ハーシブリィが保健室のベッドで目を覚ました。
「・・・ん・・・・・・??ここは?・・・」

 リファイスがハーシブリィの顔を覗き込んだ。
「目が覚めた?ここは学校の保健室よ」
「??・・・お前が・・・兄貴の婚約者か?」
「(さっきのは覚えてないのね)そうよ。貴女のお姉さんになるわね・・・どう?身体の感じは」
「??・・・何か頭がぼ~っとする・・・俺・・・あれからどうなった?」
「ハーシィはシオンのおかげでもう苦しむことはなくなったわ。いいお兄さんね」
「・・・・・・兄貴・・・そうだ、兄貴は?」
「もうすぐ戻ってくるわよ(まさかフィリシーンにも血をあげるなんて・・・シオンったら何を考えてるのかしら)」

 リファイスもレオンに血を分けた。
 しかしそのレオンは、フィリシーンも天使に戻してやろうとしていた。しかしフィリシーンの血を全部抜いてしまうわけにはいかないので、クォーターの状態にすることにした。

 その時、レオンとフィリシーンが保健室に入ってきた。
 フィリシーンはレオンの血によって本来の天使の姿に戻っていた。クォーターだと悪魔の特徴が現れなかった。

「ハーシィちゃん、覚えてる?私、堕天使のフィリシーンよ」
「フィリシーン・・・覚えてるぞ・・・でもどうしてそんな姿に?」
「シオンのおかげよ。それより貴女自分の状態に気がついてる?」
「??・・・」

 リファイスが手鏡を差し出した。
 ハーシブリィは恐る恐るその鏡を覗き込んだ・・・
「・・・ああっ!?肌が!!・・・え?・・・お、俺・・・」
 ハーシブリィは驚愕していた。
 何しろ自分の肌がレオンと同様の小麦色に変わっていたのである。さらには尻尾も失われていた。

 それを見たフィリシーンが呟いた。
「ショックを受けても無理も無いわね。今までと姿が変わってるんだし・・・」

 ハーシブリィは生唾を飲み込んだ。
「お、俺・・・・・・か、可愛い・・・肌も柔らかい・・・うわ、胸もふにふにしてる・・・どうしよう。これ以上可愛くなったら・・・」

 そこに、横で寝ていた明日香が飛び起きてきた。
「そこを気にしとるんかい!!バカハーシィ!!あんた悪魔じゃなくなったのよ!?もっと不安になったりするでしょ?普通は!」

 ハーシブリィは何食わぬ顔で答えた。
「・・・別に・・・俺、兄貴の妹のハーシブリィだし・・・何も変わらないさ」
「大体あんたは自分が何をやったか――」

 ハーシブリィはじ~っと明日香の顔を見つめていた。
 明日香は気持ち悪そうに言った。
「な、何よ・・・私間違ったこと言ってる?」
「・・・明日香・・・ゴメン!」
 ハーシブリィは満面の笑みで謝った。

「な、なななななっ!?ハーシィが・・・謝った!?」
 明日香は驚いて5メートルほど遠ざかった。
(あ、あのハーシィが謝るなんて・・・)

 ハーシブリィはリファイスに照れ笑顔を見せた。
「なあリファイス。俺、リファイスのこと姉貴って呼んでもいいか?」
「ええ。いいわよ勿論」

 明日香はじっとハーシブリィの様子を見ていた。
(何よ何よ・・・あんたバケモノなのよ・・・何なの?全部受け入れてるみたいな態度は・・・あんたがそんな態度を見せたら・・・私もこうするしかないじゃない・・・)

 明日香は小さな声で言った。
「レオン・・・そして皆さん・・・私、今野明日香は・・・これ以上レオンを必要としません」
 皆が明日香に注目する。
「「「「ええっ!?」」」」

「私・・・もうレオンなしでやってくわ・・・今までありがとう・・・だから・・・リファイスさん。長い間借りててごめんなさい」

 リファイスはあまりの突然のことに、再確認した。
「・・・ほ、本当にいいの?ちゃんと冷静になって言ってる?」

「うん・・・ハーシィを見てたら・・・私も強くならなきゃって思ったんだ・・・私だけ何も成長してないから・・・もう十分すぎることを教えてもらった・・・それに、レオンと居てすんごく楽しかった。いっぱい思い出もできた。きっとこんな思いをできたのは世界で私だけだよ・・・」

 レオンは小さく呟いた。
「明日香・・・本当にもう心残りはないのか?」
「うん。大丈夫よ」
「・・・明日香・・・本当のことを言ってくれ・・・お前にはまだやりたいことがある・・・いや、正確には最後だからこそやりたいことがある・・・言ったろ?心の底から満足してくれなければ任務は終わらない、と・・・まだ任務完了が受理されていない。まだ何かあるんだろ?遠慮するなよ。お前らしくないぜ」

 明日香は少しだけ困惑した後、呟いた。
「・・・あの・・・私を・・・抱いて・・・レオンの身体に触れたい・・・いいですか?リファイスさん・・・そして皆さん・・・」

 フィリシーンは笑みを浮かべた。
「ふふっ、私はただのお友達だし・・・いいんじゃない?シオンの全てを知っておきたいのよね?」

 リファイスは小さく頷いた。
「それが貴女の望みなら仕方ないわね。思い出は美しくなくちゃ。『トレイラー心得。思い出は何物にも変えがたい、だから金になる』ってね。シオン、手を抜いたら許さないわよ。女として」
「そんな言葉どこで覚えたんだよ・・・」

 ハーシブリィは少しだけ頬を膨らませた。
「断れるわけ無いだろ・・・お前は兄貴の願い主で、しかも俺のおかげで別れを決意したならな」

 3人は保健室を出た。2人きりにするためだ。
 2人はカーテンを閉め、服を脱いで全裸になった。

 レオンが明日香を抱き寄せる。

 明日香はレオンの胸に顔をうずめた。
「レオンはずっと私を見てたね・・・どう?女らしくなった?」
「・・・バカ。まだまだこれからだろ」
「最後まで変わらないのね・・・厳しい・・・」

 2人は熱いキスを交わす。
「レオン、疲れてるのにゴメンネ・・・」
「要らん気をまわすな」

 レオンは優しく明日香の体を愛撫する。
「レオン・・・」

 最後に・・・そして初めてレオンとのセックスをした。

 翌朝・・・

 明日香と美佳が玄関先までレオンたちを見送りに出ていた。
「元気でね。レオン・・・」
「寂しくなるわね・・・でもこれからは明日香がしっかりしてくれそうよ。本当にありがとう」

 レオンが微笑んだ。
「ああ。お前は俺の願い主第一号だ・・・別れに涙は禁物だ。いつまでも忘れないぜ」

 ハーシブリィが涙ぐんでいた。
「バカ明日香~。お前が居なくたって寂しくなんて無いんだからな~っ。ぐすっ、ぐすっ」

 明日香も思わず涙ぐんだ。
「バカハーシィ!こんな時ぐらい強がるの止めなさいよ!もう会えないんだからね・・・」

 その直後、道路の奥からリファイスとフィリシーンが並んで歩いてきた。
「もうお別れは済んだ?シオン」
「ふふっ、ハーシィちゃんも結局は明日香ちゃんのこと友達と思ってたのね」

 ハーシブリィは慌てて否定した。
「う、うるせえっ!!寂しくないって言ってる!!」

 リファイスが次元移動カードを取り出した。
「さてと・・・4人同時だから魔力の大きいシオンにお願いするわ」

 次元移動は人数が多いほど魔力が必要になる。

「分かった・・・」

 レオンはそのカードを受け取り、4人がレオンの周りに集まった。
 そしてレオンが魔力を放出すると、4人は姿を消した。

「レオン・・・いいえ、シオンさん・・・さようなら」
 明日香が空を見上げながら呟いた。

――――――――――天界――――――――――

 シオンは天界に帰った直後、最高位の第9階級を得た。
 さらにブルータルの件で、1つだけ要望を許されることになった。
 その時にシオンはハーシブリィを天界に置くことを要請した。

 さらには、天使の姿に戻ったフィリシーンを天界に置くよう頼み込んだ。これに関してはシオンの母エンカーブレイスの影響もあり、すんなりと受け入れられた。

 そして、シオンとリファイスは正式に夫婦になった。
 この怒涛の展開に、天界ルナ地区は大騒動が起きた。

 新たなシオン家・・・
 シオンとリファイス、そしてハーシブリィが暮らすことになった。
 フィリシーンは復帰を断り、第1階級からやり直すことに決めた。

 リファイスが照れくさそうにシオンに言った。
「ねえ、シオン・・・」
「ん?どうかしたか?」
「わ、私ね・・・その・・・できちゃったみたい」
「なっ!?」
 シオンは突然の告白に口をパクパクさせて驚愕していた。

 シオンは慌ててリファイスを抱いた。
「お、おい!大丈夫なんだろうな?身体はなんともないのか?気分は悪くないか?寒気とかしないか?えっと、お腹の具合とか平気か?」
「ふふっ、大丈夫よ。心配しないで。この子はお互いが愛し合って出来た子なんだから・・・きっと大丈夫よ」
「ほ、本当だろうな?お、お前に死なれたら俺が困る!」
「大丈夫大丈夫、私にはシオンが居るじゃない。何かあったときは護ってね。あ・な・た♪」
「~~~っ!!」

 シオンは最後まで嬉しさと不安が入り混じっていたが・・・

 その翌日・・・
「ところでシオン。この子の名前何にする?」
「・・・産まれてから決める・・・リファイスは死なない。だから産まれてから決める・・・」
「・・・そうね。だったら絶対に死ねないものね」

 この方法は奇しくも母エンカーブレイスと同じである。

「男の子でも女の子でも、どっちでも大丈夫な名前を考えている」
「あら?決めちゃったらダメなんでしょ?」
「決めてはいない。考えているだけだ」
「・・・ふうん。じゃ、聞かせてよ名前」
「俺たちの子の名前は――」
 ・・・・・・・・・・

 10年後・・・下界・・・

 とある家にお爺さんが来ていた。
「お前さんの願いは何じゃ?」

 お爺さんの問いに、幼い少女が答えた。
「え~っとねぇ・・・お父さんと兄弟が欲しい!」
「お、お父さんじゃと!?」
「う、うん。お父さんは私が生まれたときに死んじゃったの・・・」
「そ、そうか・・・よし、待っておれ」

 夕方、少女の下に2人の人物がやってきた。

「うわあっ!2人も来た~!すっご~い!」
 小さな女の子の前にハーフの男の子とハーフの男が現れる。
「あなたのお名前は?」

「俺はシオン=ユグドラシルだ」
 男が答える。
 少女がびっくりした。そして興味深そうに笑った。
「え~っ!?私も紫苑って言うんだよ!すっごい偶然だね~!じゃあ呼び方はユグちゃんでいい?」

 シオンは少し悩むと、ある考えを思いついた。
「そうか、困ったな・・・だったら・・・俺のことはレオンと呼んでくれ」
「うん、分かった。レオンだね」

「僕はアスカ。よろしく!」
 天使の男の子が答える。レオンの息子らしい。

「レオンにアスカだね。よろしく~」
 紫苑が嬉しそうにまた笑った。

「おかあさーん!!天使さんが来たー!!」
 紫苑が母親のいる食卓に向かう。

「はいはい・・・よかったわね~」
「あ~!信じてないでしょ!今呼ぶから・・・ねえ2人とも、こっち来ていいよ!」
 奥からレオンとアスカが現れる。

 紫苑の母はレオンを見て、手に持っていた皿を落として割ってしまった。
 そしてありえないものを見たという表情で・・・

「っ!!う、嘘・・・れ・・・レオン?」

 そう、紫苑の母は・・・
 レオンはため息をついた。
「・・・やっぱり・・・明日香か・・・面影があったからまさかとは思ったが・・・」

 今野紫苑の母は今野明日香であった。

「う・・・嘘・・・ちょっとお母さん!!レオンが来てる!!」
 明日香は美佳の部屋に走っていった。

 そしてその母の美佳が慌ててやってきた。
「え~っ!!嘘~っ!!まあっ!!本当にレオンだわ!!」
 おばあちゃんになったにもかかわらず、別れた時とさほど変わらない顔と体型である。

 レオンは冷や汗を掻きながら明日香に質問した。
「1つ聞きたいんだが・・・も、もしかして最後の性行為のときに・・・その・・・お、俺の子供が欲しいとか・・・願ったか?」
 レオンは恐る恐る明日香に問う。

「・・・あの後妊娠してるのが分かって・・・貴方の本当の名前がシオンだったから・・・だから紫苑はあなたの子供よ・・・お母さんも理解してくれたの・・・」
「成る程・・・下界人の血が濃いから天使や悪魔の特徴が出ていないんだな・・・」

 その間、紫苑はアスカと一緒に話している。

 レオンは紫苑を見ながらぼそっと言った。
「・・・こいつには黙ってろよ?俺が父親だってこと」
「う、うん・・・死んだことにしちゃってるし・・・でも、感覚で分かるんじゃないかな・・・何たって下界人と天使と悪魔が2:1:1だし・・・」

 紫苑が美佳に喋りかけた。
「おばあちゃん。この男の子はアスカって言うんだよ。私のお母さんと同じだね!」
 アスカはぺこりとお辞儀した。
「これから宜しくお願いします」

 美佳がアスカの頭を撫でた。
「あら、お利口さんね~・・・同じ明日香でも大違いだわ」

 明日香は感慨深そうに言った。
「そう・・・レオンとリファイスさんの子供・・・私の名前なのね・・・嬉しい」
「いや・・・こ、こいつは・・・」
 何故か口篭るシオン。

 と、2階から誰かが下りて来た。
「そ、そいつは俺の子だ!!姉貴の子供は女でリオンって名前なんだよ!・・・下界では詩織って偽名まで使ってるがな!!」
 女悪魔(ハーフ状態)のハーシブリィだ。無論天使階級はなく一般人だ。

 アスカはハーシブリィの側に歩み寄った。
「あ、お母さんも下界に来たの?」
「おうアスカ。このバカ女に虐められてないか?」
「うん。とても良くして貰ってるよ」

 明日香はわかりやすく驚いていた。
「ええええっ!!?こんなに礼儀正しい子がハーシィの子供!!?」
「な、何だよ!文句あるか!?」
「嘘だよ~。だって天使と悪魔が1:3のはずなのに・・・ハーフと変わらないじゃん!むしろ天使の血が濃いじゃん!」

「俺の中にも兄貴の血が入ってるからな!それに天使化して種子を放つと種子も天使化してるらしいんだ。だからクォーターみたいになったんだよ」

 ハーシブリィもレオンと同様に変わりつつあるようだ。
 積極的になった。そして何より笑顔が明るい。

 レオンが呆れたように言った。
「・・・こいつも密かに俺の子を願ってたんだよ。リファイスが妊娠中に自分で性欲処理してくれとか言ってな」
「い、いっておくけど力が欲しかったわけじゃないぞ!兄貴と俺の証が欲しかったんだ」
「それも問題なんだよ!!・・・おかげでリファイスはカンカンだ。しかもハーシィはどうしても産むんだって聞かなくってな。あれは離婚の危機だったぜ」

 レオンはハーシブリィに真剣な表情で諭した。
「いいか?天界にはお前の義理の姉のリファイスも居る・・・リオンも居る・・・そしてフィルも居る・・・寂しくないだろう?」
「で、でも・・・姉貴はリオンにつきっきりだし・・・リオンは俺になつかないし・・・フィル姉さんは相変わらずふらふらしてるし・・・」

 レオンは優しい表情に変わり、ハーシブリィの肩に手を置いた。
「・・・今度は5年以内・・・いや、いっそ今年中に帰る。だからリファイス達のそばにいてやってくれ・・・・・・ハーシィ!!妹のお前が俺の代わりに皆を護るんだ!!」

(いやいや、今年中ってアンタ・・・)by明日香

 ハーシブリィはレオンに頼りにされたことによって、かなりやる気を出した。
「お、俺が・・・兄貴の代わりに護る・・・・・・よし!任せとけ!!」
「お、理解してくれたか・・・」

 だがハーシブリィは肝心なことを思い出した。
「ああ・・・兄貴・・・俺、どうやって帰ればいいんだ?」
「・・・へ?どうやって、って・・・カードは?」
「門から来たから・・・持ってねえや。あはははは。まいったね、こりゃあ。愉快愉快」
「は、はは・・・ははははは・・・誰かが気付いて迎えに来るのを待つか・・・」

「笑ってる場合かお前らぁっ!!一気に3人も増えるなぁっ~」
 明日香が困った表情で叫んだ。
 誰も居ないリビングからはテレビが・・・

 「ライオンズ!逆転に成功しました!!さあ、最終回に入ります!」

――――――――――魔界――――――――――

 王族の住む城、現在は王と王女が住んでいる。その城の名はデリス城・・・

「パパ・・・私がシオンを手に入れてくるわ」
 王女がそう宣言し、城を出た。

「うむ・・・この日のためにお前を鍛えておいてよかった。必ずや奴の力を・・・頼んだぞ、ディライブ」

 王の言葉に王女ディライブは妖艶な笑みを浮かべて下界へと向かった・・・
「全ては悪魔の繁栄の為に・・・」

< Fin >

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