other plane前編・「新婚約者」と「王家」と「純愛」
あらすじ:天界ではブルータルが天使を強姦しに来ていた。ブルータルの命令でシオンの足止めをするフィリシーンだが、逆にシオンからリファイスを助けて欲しいと頼まれる。フィリシーンは意を決してブルータルに立ち向かうことにした。フィリシーンはブルータルを煽りリファイスへの鬼畜に走らせ、激しい性行為中の隙を突いてなんとか殺すことに成功した。シオンは約束どおりフィリシーンと共に魔界に行くことになった。
≪「Aパートだそうね」byディライブ≫
その数時間後・・・魔界・・・
フィリシーンと悪魔化したシオンが魔界に到着した。
「さ、シオン。とりあえず王のもとに行きましょう。報告をしておかないと」
フィリシーンが先に進むが、シオンは足を止めた。
「・・・そこに居る奴。俺に何か用か?」
シオンが振り返る。
「っ!・・・・・・」
女悪魔がこそこそとシオンを見つめていた。
「・・・あ、あの・・・お、俺・・・その・・・お、俺は・・・あ、あ・・・」
ひどく落ち着かない様子でこそこそしている。照れているようだ。
見かねたフィリシーンがその女悪魔をシオンに紹介した。
「彼女はハーシブリィ。あなたと腹違いの妹よ。その子はね。幼い頃に両親に見放されてずっと孤独だったのよ。あなたのことを知って会いに来たみたいね」
「・・・ほう。俺の妹・・・」
シオンがハーシブリィの側に歩み寄る。
ハーシブリィは恐る恐る呟いた。
「!!・・・あ、あの・・・・・・あ、兄貴・・・って・・・呼んでも・・・いい、ですか?・・・」
シオンはふっと笑った。
「・・・俺に似て美形だな。いいぜ。勝手に呼べよ」
「!!あ、兄貴っ!!」
ハーシブリィは喜んでシオンに抱きついた。
「よしよし・・・これからは孤独じゃないぞ」
「うん!」
抱擁を終えたシオンは、フィリシーンと城に向かった。
天使のような黒いふわふわの羽根・・・ハーシブリィはそれを一枚貰って握り締めていた。
(兄貴・・・気をつけてくれ・・・)
魔界の王、デリス城。
王との謁見を許された2人は深々と傅いた。
「陛下・・・こちらにいるのが私の夫となるシオンです・・・」
「ふん。堕天使とハーフ悪魔の夫婦か・・・ぶははははっ!わざわざ報告に来るとはな!わしの時間を無駄にしおって!」
王であろうその人物は他の悪魔より一回り大きい。そしてその横には王女であろう女性が脚を組んで座っている。2人ともシオンには興味がなさそうだ。
「あのブルータラスの息子だと。あのバカは性格は好かんが実力は本物だったな。お前の実力と心がけ次第では城の雑用ぐらいにはしてやるぞ。おい、お前!相手をしてやれ!」
王の側に立っていた兵士がシオンに歩み寄る。
兵士は腰の剣を抜いた。
「失礼します。はっ!」
-ブンッ-
兵士の剣が空を切る。
「遅いっ!!」
-ドガッ!-
シオンが兵士の背中を蹴り飛ばした。
王が驚いてシオンを見ている。
「ほお、なかなかのスピードとパワーだ・・・ブルータルには及ばないようだが」
王女がシオンを見てクスっと笑った。
(・・・へぇ。いい男・・・ふふっ、必ず私のものにしてやるわ)
「・・・そろそろ帰らせてもらう」
そう言ってシオンが帰り、フィリシーンが追いかけて帰った。
シオンが帰った後、王が不適に笑った。
「・・・奴の力、我が王族の物にしたいところだ・・・」
ディライブが嬉しそうに微笑んだ。
「パパ。私、あの人を婿にすることに決めました」
「ほう・・・さすがに王族よ。奴の力を見て心ときめいたか?」
「はい・・・直感で分かります。私はあの人と結婚します・・・そしてさらに力を持った息子達が生まれ、一族は繁栄し・・・その勢力を伸ばすのです」
「ぶははははっ!そこまでプランが描けておるのか!安心せい!お前の美貌で落とせぬ者はおらんわ!」
「もちろんです・・・ふふっ」
フィリシーンの家はとても小さく、ぼろいものだった。フィリシーンは用事があると言って飛び去っていった。
残されたシオンはハーシブリィと共に家の外で地べたに座っていた。
ハーシブリィからシオンに話しかけた。
「どうだ?魔界は快適か?」
シオンは空を見上げた。
「・・・下界には明日香が・・・天界にはリファイスが・・・俺はずいぶん幸せになったらしい。昔よりは・・・また一からやり直しか・・・」
「一からじゃない!!兄貴には俺が居るだろ!!」
シオンはハーシブリィをじっと見つめた。
「・・・本当に兄妹なんだな・・・不思議な感じだ・・・」
2人の顔がゆっくりと近づく・・・
「・・・あに・・・き?・・・」
ハーシブリィはシオンの黄金色の瞳に絡めとられ、固まったように動けにない・・・
シオンがゆっくりと目を閉じ・・・ハーシブリィの肩を掴んで・・・
-とくん、とくん、とくん・・・-
ハーシブリィの顔がほんのりと赤みを帯びる。
自然とハーシブリィも顔を近づける。
「・・・ん・・・あむっ・・・ふっ・・・むあっ・・・」
2人は抱き合ってお互いの唇を貪る。
「・・・あ・・・にき・・・おれ・・・こんなきもち・・・はじめてだよ・・・」
ハーシブリィがとろんとした蕩けた表情を見せる。
ピンク色の唇がてかてかと輝く。
シオンが小さく言った。
「・・・俺にはもう・・・お前しか心を許せる奴が居ない・・・」
「わるくない・・・おれにも・・・あにきしかいない・・・」
再び唇を重ねる・・・
「んむっ・・・はっ・・・」
「・・・どうだ?俺の味は・・・」
「わかん・・・ない・・・もっと・・・」
ハーシブリィはシオンの頬に手を添えた。そして上から乗っかるように押し倒す。
その様子を王女ディライブが目を閉じて透視していた。
「ふ~ん・・・唯一の家族である妹・・・あらばあの術を使えば・・・」
ディライブはにやりと笑みを浮かべ、なにやらぶつぶつと唱え始めた。
その頃、
「んあああぁぁぁっ!!」
ハーシブリィはシオンによって何度も絶頂に導かれていた。
その光沢のある肉体は汗が滲み出て、さらに妖艶に光っている。
「んぁ・・・あにきぃ・・・」
ハーシブリィはシオンを抱きしめたまま放さない。
ハーシブリィの心の奥に声が響いた。
-貴女の身体・・・借りるわよ・・・-
「ん?兄貴、何か言ったか?」
「いや、どうした?」
「何か声が聞こえたような・・・」
-心握術!ネオマイティラスト!!-
「んあっ!!?」
ハーシブリィの身体が固まる。
シオンが話しかける。
「お、おい?どうした?」
ハーシブリィは目を閉じ、ぶるぶると震えていた。
そして震えが止まると、ハーシブリィはニッコリと笑った。
「・・・何でもない。ちょっと感じただけだ・・・」
ハーシブリィは女王によって身体の支配権を奪われていた・・・
ハーシブリィはシオンに見えないようににやりと笑った。
(ふふっ・・・ハーシブリィとやらの肉体は私が支配しています・・・この状態で・・・)
-ズッ-
ハーシブリィの尻尾がシオンの腹を貫いた。
「うぐっ!?・・・」
シオンの力が抜け、その場に倒れた。
ディライブに身体を奪われたハーシブリィがシオンを見下ろす。
「兄貴・・・俺は誰も信じてないんだよ。もちろん兄貴のこともな。兄貴は王女に明け渡して、俺は兵として雇ってもらう・・・」
「は、はーしぶりぃ・・・」
シオンががくっと気絶した。
「ふふふふっ。思った通り美しい身体・・・美しい顔・・・私の婿にふさわしいわ・・・さて、お城に戻って遊びましょうか」
ハーシブリィはそう言ってシオンの身体を舌でぺろぺろと吟味する。
そこにフィリシーンが立ちはだかった。
「待ちなさい!!私の夫をどうするつもり!?」
「ん?兄貴は俺のものだ。どけ」
ハーシブリィの口調で答える。だがフィリシーンはハーシブリィの口元の笑みを見て違和感を感じた。
「・・・あなた・・・ディライブ様ですね?」
ハーシブリィは悪意に満ちた顔に変わった。
「これ以上芝居する意味はない、か・・・そうよ。だからと言ってどうするの?貴女とシオンの間に愛は無い・・・だから私が貰ってもシオンには変わりないはず・・・」
「私はシオンの婚約者を守った!!そしてシオンと婚約した!!それのどこに貴女が関与しているんですか!!」
「・・・口を慎むのね・・・堕天使・・・」
「・・・これだけは譲れません・・・」
ハーシブリィはやれやれと言った表情で言った。
「いいでしょう。相手をしてあげるわ。奪い返してみなさいよ」
「分かりました・・・」
「ふふ・・・そうだ、私は片手だけで闘ってあげましょうか。すこしは楽しめそうですよ?」
フィリシーンはぐっと身構えると、飛び掛った。
「・・・はあっ!!」
「・・・」
結果は目に見えていた。
何せ相手は女王・・・いくらハーシブリィの肉体だからと言っても傷1つ負わせることが出来ない。
片手一本しか使っていないのにフィリシ-ンが追い詰められていた。
「おあっ!!・・・かはっ!!・・・」
「あら~。お話になりませんね~」
「う、うううっ・・・ごほっごほっ・・・シオンーっ!!」
-バキィッ-
「うあああっ!!」
フィリシーンは殴り飛ばされた。
地面に叩きつけられる。
「やはりこの程度でしょうね・・・」
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
息をするのも辛そうなフィリシーンだが、それでもゆっくりと立ち上がる。
「し、おん・・・待ってて・・・いま・・・たすけるわ・・・」
何とか翼をはためかせ、ふらふらとハーシブリィに向かっていく。
「しつっこいのよ!!あんたが勝てるわけ無いじゃない!!」
-ドゴオッ!-
フィリシーンの鳩尾に拳が入った。
「っ!!!がはあっ!!!・・・か、かはっ・・・かはっ・・・」
フィリシーンが吐血する。
「っ!!?」
フィリシーンはハーシブリィの腕をつかんでいた。
「は、放しなさい!!このっ!!」
「か、かえして・・・しおんはわたしの・・・かえしてぇ・・・」
「く、な、何!?こいつは!!」
あまりにも異常なほどに食らい付いてくるので、ハーシブリィは少し気味の悪いものを感じていた。
「しおん・・・わたしがりふぁいすの・・・かわりになる・・・いっしょにくらそ・・・こども・・・やくそく・・・とりひき・・・」
「こ、こいつ・・・意識が飛びかけてるの!?く、いい加減にしなさいっ!!」
ハーシブリィはそのままフィリシーンを地面に叩き付けた。
-ドゴッ!-
「がは・・・ごふっ・・・」
数回この行為を繰り返すと、ようやくフィリシーンの力が抜けた。
フィリシーンの吐いた血がハーシブリィにかかる。
「き、汚らしい・・・」
ハーシブリィはシオンのもとに行こうと急いで飛び立とうとした。
-ガシッ-
脚をつかまれる。フィリシーンだ。
「っ!!?ま、また・・・」
「ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」
呼吸音がおかしい。どうやら肺か気管支がやられたようだ。
そしてその瞳は濁っている・・・
「意識が飛んでいるはず・・・なのに何故!!」
そのやりとりでシオンが気がついた。
「・・・りふぁ・・・いす?・・・」
長時間の戦闘の間に、少しは体力が戻りかけたようだ。
「・・・りふぁいす・・・おれはおまえをまもる・・・」
シオンもまた意識が定かではないようだ。
「うおああぁぁぁあああぁっっ!!!!!」
シオンは本能で悪魔の力を解放した。
-ゴゴゴゴゴゴゴ・・・-
「っ!!!じ、地震!!?何故地獄で!!?ち、違う・・・こ、これは!!悪魔の力の解放!!?ま、まさか!!」
シオンの筋肉が膨れ上がる。
目が白目になる。
尻尾が現れる。
「ぐうぅぅぅ・・・ぐあああああぁぁっ!!!」
-ビリビリビリッ-
「な、なんて迫力・・・こんな迫力のある悪魔はパパ以来だわ・・・こ、ここに居たら危ない・・・に、逃げないと・・・」
シオンが腕を振り抜く。
「ふんっっ!!」
-ブオオォッ!!-
「きゃああぁっ!!」
ハーシブリィが風圧だけで吹き飛ぶ。
「はぁぁぁぁ・・・」
-ブゥゥゥン・・・-
掌に光の球が現れる。
「あ、あれは・・・体内から溢れ出た魔力!?そんな話――」
シオンは光の球をハーシブリィに向かって投げつけた。
「ぐおおぉぉっ!!」
「っ!!ま、待ちなさい!!こ、この身体はあなたの妹の―――」
-カッ!-
強烈な閃光と共にハーシブリィが焦げて落ちる。
かなりの高度から受身を取ることなく墜落した。
同時刻、城内。
「ぱ、パパ・・・」
ディライブは寸前でハーシブリィの支配を解き、王にこのことを報告した。
「む、むうぅ・・・先ほどの地響きは奴の力だと?こ、これはいかなる手を使っても奴の力を我が一族に!!屍にしてからでも良い!!」
「そ、それが・・・私の心は・・・シオンへの愛で一杯なのです・・・殺すなんて・・・」
「むむぅ・・・悪魔の本能は時に難儀よのう・・・まあよい。お前は本能の愛に従えばよいのだ」
「はい・・・」
ディライブは自分の感情に戸惑っていた。
(ど、どうして・・・本来なら種子を絞りつくして殺してしまえば・・・なのになんでこんなに・・・心臓のドキドキが納まらない・・・Hな妄想が止まらない・・・愛おしい・・・こんな、こんなはずじゃなかったのに・・・)
ついにディライブは自慰を始めてしまった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
シオンは極度の疲労から解放を終えていた・・・
そしてとぼとぼと歩く・・・
「り、りふぁいす・・・どこだ・・・」
シオンの目に映ったのはもう瀕死状態のフィリシーンだった・・・
「フィリシーン?・・・そ、そうか・・・おまえなのか・・・」
シオンは口の中を噛む。
そしてフィリシーンに口づけをして血を分け与えた・・・
「・・・う・・・」
フィリシーンは自分の変化に気が付いた。
身体が小麦色から黒に・・・悪魔色に変化している。
そして肌は・・・光沢と弾力がある。
「わ、私は・・・どうなった・・・っ!!?」
フィリシーンの目にはハーフの状態のシオンが映っていた。
「な、何でその状態なの・・・し、シオン?・・・」
恐る恐るシオンの肌に触れる。
「っ!!そ、そんな・・・」
まだ温もりはかすかに残っていた・・・
「い、いやあああああぁぁぁっっ!!!!」
フィリシーンは力の限り叫んだ。
脳裏に恋人がよぎる。奇しくも再び同じ状況になってしまった。
次第に冷たくなっていくシオンを抱きしめていた。
同時刻、城内。
「パパ・・・シオンも・・・死にました・・・」
ディライブは悲しい顔で王に報告した。
「死んだ?ではその屍を持って来い・・・」
「それが・・・シオンは血をフィリシーンに分け与えて・・・ハーフの状態で死んだのです・・・」
「・・・お、おのれ!!フィリシーンとやら!!もうよい!!シオンのことは諦めろ!!忘れるのだ!!」
「・・・」
「返事は!?」
「・・・努力は・・・してみます・・・(できるはずありません・・・だって・・・こんなに苦しい・・・)」
フィリシーンはシオンとハーシブリィに血を飲ませようとしたが、死んだものには効果が無かった・・・
シオンとハーシブリィはベッドに寝かされている。
「参ったな・・・リファイスには・・・どうやって説明しよう・・・」
枯れたはずの涙が溢れてこぼれる。
「シオンっ!!!!」
リファイスが駆けつけてきた。シオンが死んだという話を聞き、門をくぐって会いに来たらしい。
「・・・シオン?・・・何だ・・・寝てるんだよね?・・・」
リファイスはシオンの側にしゃがみ込む。
「シオン・・・ほら、起きて。一緒に天界に帰ろうよ・・・ね?もうこんな危ないところに居なくてもいいじゃない・・・」
優しく・・・とても優しく語り掛ける・・・
「・・・嘘だよね?ドッキリとかでしょ?・・・ほら・・・起きてよ・・・ねえってば・・・」
リファイスの目から涙がこぼれる・・・
「嫌よ・・・そんなの嫌・・・まだ結婚だってしてないじゃない・・・ねえ・・・私を一人にしないで・・・お願い・・・シオンっ!!うわあぁぁぁぁっ!!!!」
リファイスは顔をうずめて泣き崩れた。
「・・・リファイス・・・」
フィリシーンが声をかける。
「・・・許さない・・・あんたが無理やりシオンを連れて行くからよ!!どうしてくれるのよ!!シオンを返してよ!!」
リファイスはフィリシーンの衣をつかむ。
「・・・ご、ごめんなさい・・・」
「何であんたをかばって死ぬのよ!!あんたが力が無いから!!」
「ご、ごめんなさい・・・ほんとうに・・・ごめんなさい・・・」
フィリシーンの俯いた顔から雫が落ちる。
「な、何で泣くのよ!!泣きたいのはこっちなのよおっ!!!!」
2人はシオンの側で泣き続けた・・・
リファイスは落ち着きを取り戻すと、シオンの側に寄った。
「シオンは連れて帰るわよ。さようなら」
「・・・待って!!」
フィリシーンは去ろうとするリファイスを呼び止めた。
「・・・シオン・・・私が生き返らせると言ったら?」
「・・・え?」
「・・・必ずシオンはあなたの元に返す・・・生き返らせる。必ず・・・だからもう少し待って」
「・・・・・・わかったわ・・・だけど誰かの犠牲を必要とするならシオンは喜ばないから」
「・・・そうでしょうね・・・」
リファイスが帰った後、フィリシーンはシオンの亡骸を持ってディライブに会いに来ていた。
ディライブが真剣な顔でフィリシーンに問う。
「・・・本当にそれでいいの?」
フィリシーンは微かに笑みを浮かべて言った。
「・・・その代わり約束して・・・シオンを天界に帰してあげて・・・」
「・・・それは出来ないわ・・・だって私はシオンを愛してるから」
「・・・大丈夫。貴女はきっとシオンを天界に帰す・・・本気で愛してるなら・・・」
フィリシーンは再び微笑した。
「後のこと・・・宜しくね・・・」
ディライブは軽く頷くと、フィリシーンの左胸に手を当てた。
そしてフィリシーンの魂を食べる。
そしてシオンの左胸に手を置いた。
「シオン・・・新しい命よ・・・」
シオンの身体が輝く。
フィリシーンの生命エネルギーがシオンに与えられた。
「生き返れ!!『レイズデッド!!』」
-ドクン・・・-
シオンの心臓が鼓動し始める・・・
そしてシオンは生き返った・・・
王族の女性だけが持つ力・・・誰かの生命エネルギーと引き換えに死者を生き返らせる。
その翌日の天界・・・
リファイスは信じられないといった顔で目の前の人物を見ていた。
「シ、シオン!!?」
「・・・心配かけたな・・・」
「フィリシーンはどうしたの?」
「あいつは・・・下界をうろうろしているそうだ」
フィリシーンは自分の命と引き換えでシオンが生き返ったことを言わせなかった・・・
「シオン・・・これからは一緒に・・・」
「ああ・・・」
シオンとリファイスはようやく抱き合うことができた。
と、そこに・・・
「おい、フィリシーンとの契約が切れたのなら・・・明日香との契約が復活するぞ」
お爺さんがシオンが帰ってきたという噂を聞いて駆けつけた。
「げ・・・ま、マジかよ・・・」
「うむ。大マジ。そら、行ってこい!」
「ちくしょう!!リファイス!!愛してるぞ!!」
「・・・うん。待ってるわ。シオン・・・」
下界・・・
「んもう!どこに行ってたのよ!!レオン!!」
明日香がシオンを怒鳴り散らす。
「・・・ちょっとな」
「??何か悲しいことでもあった?」
「ネンネのお前は知らなくてもいい」
「あ~!また子ども扱いする!!胸だってもうこんなに・・・」
「お前には性欲の1アトグラムも感じない」
「アトって何よ!!」
≪「Bパートなのだ~♪」by明日香≫
レオンはどこか影を落としていた。自分が生き返ったのはフィリシーンの命なのではないかと疑問に感じていたからである。
この頃から、レオンは美佳に対しても抱くことは無くなった。
明日香は大学生になった・・・
奨学金を受けながら私立の大学に自宅から通っている。
将来はデザインの仕事をしたいらしい。
朝・・・今野家食卓・・・
「いっただきま~す!」
レオンは今日も無駄に元気な明日香を見ていた。
「・・・なあ。お前も恋人とか作ったらどうだ?」
「何?そんなに早く帰りたいわけ?」
明日香がムッとする。
「・・・いや・・・」
「だって私にとってレオンは家族なんだから。居なくなって欲しいなんて絶対思わないわよ・・・」
「でもなあ・・・お前もその歳なら初恋ぐらい・・・」
「う~ん・・・そう言えば恋なんて考えたことも無かったな~」
「はあ?」
「わかった。今度じっくり考えてみるね」
どうやら真面目に言っているみたいだ・・・
言っても無駄だと思ったレオンは、食べるのに集中した。
午前中・・・大学構内・・・
明日香は数人の女性と固まって座っていた。
(う~ん・・・恋・・・ねえ・・・)
ふとレオンの言葉を思い出した明日香。
後ろを振り返って皆にこんな質問をした。
「ねえ。皆は初恋の人とか居るの?」
堂々とそう言う明日香・・・そして「初恋はあったか」という質問・・・
「・・・あ、明日香・・・」
皆は完璧に引いていた。
「え?・・・じ、じゃあ今恋してる?」
ストレートな質問に皆が戸惑う。
何気に近くの男たちが聞き耳を立てている。
「ねえ。恋ってどんな気分なの?」
明日香が真顔で迫る。
冗談のほうがよっぽど対応し易かったであろう。
「え?え~っと・・・ま、参ったな・・・あ、そろそろ時間じゃん!」
皆が黙り込んで座ってしまった。
「う~・・・何で教えてくれないの~・・・」
自分だけ知らないのが嫌なのか、半泣きでムッとする。
「べ、別に意地悪してるわけじゃないのよ・・・その・・・恥ずかしいから・・・」
隣の女性が顔を赤くしながら明日香をなだめる。
「恥ずかしい?恋って恥ずかしいものなの?」
「・・・そうじゃなくって・・・え~っと・・・」
「もういいよ。ありがとうね」
明日香はさすがに困惑している相手を気遣って追求をやめた。
ちょっと天然が抜けきらない明日香は、普通に辞書で調べていた。
(え~っと・・・恋・・・一緒に生活できない人や亡くなった人に強くひかれて、切なく思うこと。また、そのこころ。特に、男女間の思慕の情。恋慕。恋愛)
(思慕って何?・・・恋しく、なつかしく思うこと・・・え?結局恋じゃん・・・じ、じゃあ恋慕って・・・こいしたうこと・・・そのままじゃない!何なのよこの説明は!全然分からないじゃない!)
次第にイライラが募ってくる明日香。純粋な分、余計に傷つきやすかったりする。
(恋愛・・・loveの訳語。男女が互いに相手をこいしたうこと。また、その感情。こい・・・また恋に戻る~っ!!どうなってんのよ!!インチキよインチキ!!大体『○○の訳語』なんて説明なら和英辞書があれば自分で辞書作れるじゃない!!)
明日香は頭を抱え、ついにダウンして倒れた。
「明日香~。まだ調べてるの?」
友達が心配して声をかけてくる。
明日香は一度スイッチが入るとなかなか止まらない。
明日香は机に突っ伏したまま喋った。
「う~ん・・・わからない・・・無限ループに突入した~」
「はあ?・・・ねえ、ホントに明日香は恋をしたことがないの?・・・ひょっとして気づいてないだけじゃないの?」
「え?・・・ちょっと!いくらなんでも私そこまで間抜けじゃないわよ!」
「あはははは!ごめんごめん。まあ自分から探さなくても見つかるって」
「ウソだ~・・・」
夜・・・今野家・・・美佳の部屋
「ねえ母さん。母さんが父さんに惚れたのって何で?」
明日香は真顔で尋ねる。
「なあに?突然・・・そうね・・・何となく一緒に居ると楽しかったのかな・・・一緒に居ないと寂しかったり・・・声を聞くと安心したり・・・好きって言ってもらえると嬉しかったり・・・温もりを感じると心地よかったり・・・何気ないことが許せなかったり・・・とても全ては説明できないわ」
思い出すように顔を赤らめる。
「ふうん・・・じゃあ今でも父さんが好きなの?」
「う~ん・・・父さんは好きだけど・・・一番好きなのはレオンかな?」
「え~っ!?な、何で!?」
「そうねえ・・・やっぱり・・・さっき言ったような気持ちになるのよ」
さっきよりも更に顔が赤くなる。
「へぇ~・・・」
明日香の脳裏に友達の言葉が聞こえる。
「ひょっとして気づいてないだけじゃないの?」
明日香の部屋・・・
レオンが片腕で腕立て伏せをしていた。レオンの匂いがする。
「レオンは凄いね~。いっつもいっつも鍛えていて」
フィリシーンの件もあり、レオンは筋トレをするようになった。
明日香にとってはいつもの事なのであまり気にならない。
何より明日香にとっては嫌な匂いではない。もちろん美佳にとっても。
「あ、そうだ。レオン、モデルになって」
「モデル?何の?」
「え~っとね・・・今度提出するコンクール用。レオンならカッコイイから適任じゃない」
「ああ。了解した」
夜中・・・同場所・・・
「ねえレオン。また一緒に寝よっか」
明日香がにっこりとレオンを誘う。
誘うと言っても本当に寝るだけだ。
いつの日かレオンに側に寝てもらうと凄く安らいだので、それからは不安なことや悩みがあると、たびたび一緒に寝ている。
明日香にとってはぬいぐるみのような存在なのだろうか。
(レオン・・・もしレオンが居なかったら・・・私はどんな生活をしていたんだろう・・・)
明日香はレオンをじっと見る。いつも見慣れた顔だ。
「感謝してるよ。いつもありがとう・・・レオン」
明日香はそう呟いてレオンに軽くキスをした。
「おやすみ・・・」
そして明日香も眠りに付いた。
土曜日・・・明日香の友達が4人、明日香の家に来た。
「いらっしゃい。何も出来ないけどゆっくりしていってね」
美佳が出迎える。
美佳は仕事が残っているので部屋に入った。
「うっそ~・・・明日香のお母さんって何歳?」
「ありえないぐらい美人なんですけど~」
こそこそと話をしながら階段を上がる。
そして明日香の部屋をノックする。
「あ、出迎えられなくてごめん!入っていいよ!」
明日香の声を聞いて扉が開く・・・
「え?」
「うっそ~・・・明日香にこんな知り合いが居るなんて・・・」
「ありえないぐらいカッコいいんですけど~」
4人の目がレオンに釘付けになる。
「あ、適当にそこらへんに座って」
明日香はレオンを見ながら真剣にデッサンしている。
「ね、ねえ・・・レオンさんってどこの国の人なの?」
「っていうか何でこんなカッコイイ人と知り合いなのよ?」
「うわ~・・・直視できないって・・・」
「わ、私もうやられちゃったかも・・・」
4人が明日香に詰め寄る。
「「「「・・・」」」」
4人が黙々とデッサンを続ける・・・
「・・・あ、あの・・・少し脚を前に出してくれますか?・・・」
1人がおどおどしながらレオンに注文する。
「こうか?」
「・・・あ、はい。ありがとうございます・・・」
再び沈黙する・・・
「ふう・・・少し休憩する?」
明日香が一息入れて背伸びをする。
「・・・う、うん・・・」
「じゃあ下でおやつでも食べよう」
明日香に連れられて4人が下りた。
「やれやれ。ずっとじっとしているのは疲れるな」
レオンが明日香のベッドに寝転んだ。
食卓・・・
4人は出された冷たい麦茶をごくごくと流し込んだ。
「あ~。もうダメ。心臓バックバク~」
「私も~・・・何か意識しちゃってさ~」
「はぁ・・・逆に憂鬱みたいな?」
「ありえないぐらいドキドキしちゃってるんですけど~」
4人が崩れるようにどっと力を抜いた。
「え?え?レオンがいいの?」
明日香が驚きの声を上げる。
「あ、あんたねえ・・・あんだけ男前と一緒に居てなんとも思わないの?」
「だって子供のときからずっと一緒に住んでたから・・・お風呂だって入ったことあるし、時々一緒に寝たりしてるよ?」
「・・・ぶっ」
1人が鼻血を噴出す。
「ああっ、大丈夫?ティッシュティッシュ!!」
再び明日香の部屋・・・
静寂の中、ペンと紙の音が響く・・・
-パキッ-
「あっ・・・折れちゃった・・・」
次第に4人の集中力が途切れ始める。
「ん・・・」
1人の女性がトイレに駆け込む。
恐らくは・・・しにいったのだろう。
3人は次第にスケッチブックよりレオンを見る時間が長くなる・・・
悪戯に何かを描いては消し・・・レオンをじっと見る・・・
異性への関心あふれる年頃にとって、レオンの美貌はたまらなかった・・・
「わ、わたし・・・かえります・・・」
1人がふらふらと立ち上がる。
「じ、じゃあ・・・わたし、も・・・」
「わたしも・・・そろそろかえる・・・」
「わたしも・・・あ、ありがとうございました・・・」
4人はふらつきながら玄関に向かった。
「ねえ。まだ終わってないんでしょ?」
明日香が素直に思ったことを口に出す。
「ダメ・・・どうにかなっちゃいそう・・・」
「私も・・・惹かれてる・・・」
女性達は顔を赤く染めて俯いている。
「?そう・・・余計なことしちゃったかな?」
明日香ががっくりと肩を落とす。
「そんなこと無い・・・ねえ、また明日・・・来てもいい?」
「え?大丈夫?」
明日香にとっては体調が悪いと思っているのだろう。
「で、でも・・・会いたいし・・・」
会いたいというのはレオンのことなのだが・・・
「うん。いいよ」
4人はまた明日来ると約束して帰っていった。
恐らく彼氏が居る者も居るだろう・・・罪な男だ。
それから、4人はことあるごとにレオンに会いに来た。
そして・・・ある日・・・
「明日香・・・明日香は私達が毎日来て迷惑じゃない?」
1人の女性が申し訳なさそうに尋ねた。
「??どうして?だってレオンは私の持ち物じゃないよ?」
この一言が4人をどう思わせただろうか・・・
「ねえ。もしかしてレオンのことが好きなの?」
明日香の問いに4人は力なく頷いた。
「でもさあ・・・前も言ったと思うけどレオンには婚約者が居るんだよ?」
「そんなの・・・関係ない・・・」
「そうよ・・・だったらなんで明日香はレオンさんと暮らしてるのよ」
4人が想いを口にする。
明日香は4人の報われない想いを哀れに思っていた。
夜・・・明日香の部屋・・・
明日香の横には今日もレオンが眠っていた。
『でもなあ・・・お前もその歳なら初恋ぐらい・・・』
『う~ん・・・そう言えば恋なんて考えたことも無かったな~』
(そうよ・・・私にも初恋はあったのよ・・・)
『はあ?・・・ねえ、ホントに明日香は恋をしたことがないの?・・・ひょっとして気づいてないだけじゃないの?』
『え?・・・ちょっと!いくらなんでも私そこまで間抜けじゃないわよ!』
『あはははは!ごめんごめん。まあ自分から探さなくても見つかるって』
『探さなくても見つかる?・・・』
(気づいてなかっただけ・・・探さなくてもあった・・・)
『そうね・・・何となく一緒に居ると楽しかったのかな・・・一緒に居ないと寂しかったり・・・声を聞くと安心したり・・・好きって言ってもらえると嬉しかったり・・・温もりを感じると心地よかったり・・・何気ないことが許せなかったり・・・とても全ては説明できないわ』
(一緒に居ると・・・)
明日香はレオンを見た。
(そっか・・・この気持ちが恋だったのね・・・な~んだ。ずっと前から恋してたんじゃん・・・)
明日香は悩みが解決して嬉しいのか、クスクスと笑みを浮かべながら布団にもぐりこんだ。
その翌朝・・・
「レオン!私、恋を見つけたよ!」
朝から相変わらずの元気のよさを見せる明日香。
「ほう。それはよかったな。なんなら俺がその恋を叶えてやるぞ」
「え?本当!?じゃあお願いしようかな!」
「で、相手はどんな奴だ?」
「レオンよ!」
「なるほど。俺か・・・・・・・・・・――っ!!!!?」
-ブーッ!!-
レオンが味噌汁を噴出す。
美佳が手際よくふき取る。
「叶えてくれるんでしょ?私の恋」
「む・・・し、しかし・・・」
「大丈夫だって!一緒に居てくれればそれでいいのよ!」
「・・・わ、分かった・・・お前の気の済むまで居てやる・・・」
明日香はその後、レオンと共に生涯を暮らした。
明日香は80で亡くなった。だが美佳はまだ生きていた。
レオンは美佳を独りにするのは本意ではなかったが、強制的に天界へ呼び戻された。
約70年かかったが、シオンに与えられた任務は明日香を幸せにしたことで成功したのであった。
――――――――――魔界――――――――――
デリス城に一人の女性がやってきた。妖艶で豊満な身体の女性だ。
門番が止める。
「待て!そこの!見ない顔だな!何の用だ?」
女性は不敵に笑った。
「私が誰か、ですって?うふふふふ・・・100年ほど留守にしたらこれなのね。情けないわねぇ」
「??な、何だと?」
「そういえば、あの時は貴方はまだ小さかったわね・・・」
「あの時?・・・!!ま、まさか・・・あ、貴女は・・・」
「ふふ・・・思い出した?私のこと」
門番は驚愕した後、深々と頭を下げた。
「あ・・・女王様でしたか!!お、お帰りなさいませ!!」
「ふふっ、た・だ・い・ま~。随分留守にしちゃったわね」
「も、申し訳ありませんでした!お許しください!」
「いいのよ別に。それで、ある天使のことで話があるんだけれど。あの子は居る?」
「ディライブ様でしたらお部屋に居られます」
「ちょっとややこしいことになっているみたいね。天界と。王に伝えなさい、女王プロパールが帰還したと」
「はっ!!」
悪魔の女王『プロパール』は、カツカツと城に脚を進めた。
< つづく >