ANTI HERO 第1話

第一話 オペラ座の怪人 ナラクノシハイシャ

「おまえたちは!」
 蜂を擬人化したような、体のラインからかろうじて女性と分かる怪人が、崖の上の五人の戦士を指さして叫ぶ。
「ファイヤー!レェッド!」
 赤の戦士が波打つ刀身の大剣を掲げて叫ぶ。
 剣の名前はプロミネンス。
 烈火のオーラを身にまとい、額に輝くは浄火のルビー。
「オーシャン!ブルー!」
 青の戦乙女が両端に穂がついた槍を振るって叫ぶ。
 槍の名前はメイルシュトローム。
 荒波のオーラを身にまとい。額に輝くは生命のサファイア。
「ランド!イエロー!」
 黄色の巨漢が大金槌を振り下ろす。
 武器の名前はアースクェイク。
 砂嵐のオーラを身にまとい、額に輝くは大地のトパーズ。
「ウィンド!グリーン!」
 緑の剣士が鞭で空を切る。
 鞭の名前はストリーム。
 風のオーラを身にまとい、額に輝くは清風のエメラルド。
「シャイニング!ホワイト!」
 白の戦乙女が盾を持って宙に舞う。
 盾の名前はサンシャイン。
 光のオーラを身にまとい、額に輝くは聖輝のダイヤモンド。
「闇を切り裂く!五芒星!」
 レッドの叫びの後に五人で唱和する。
「星戦士!ジャスティスター!」
 この世界ではあまたのいわゆる悪の組織が、日常的に悪事を行っている。
 人身売買から大量虐殺まで何でもござれだ。
 彼らの持つ超科学力、あるいは暗黒魔法など、常識を無視した戦力に対し、一般の警察、軍隊は無力であった。
 しかし悪あるところ立ち向かう正義あり。
 あるものは鍛えぬいた武勇で、ある者は異能の力で、あるものは正義の科学力で、あるものはその異形の肉体で、敢然と悪に立ち向かう、正義の味方たちが存在するのだ!
 そしてその中で、最強と噂され、市民の圧倒的な支持を誇り、政府ですらその力に期待する、ヒーローの中のヒーロー(一部ヒロイン含む)、それが聖なる宝石に選ばれた「星戦士 ジャスティスター」なのだ!
「パンデモニウムのビークイーン!日本中から蜂蜜を奪い取り、殺人蜂を育てるおまえの計画!」
「天が許してもジャスティスターが許さないわ!」
「地獄で後悔しなさい!」
 レッドを差し置き、大食漢のイエロー、甘いもの好きのブルーとホワイトが蜂の女怪人を糾弾する。
「お、おまえらな~……」
「食べ物の恨みは怖いよ~、いつもまじめなホワイトまでこーだから」
 あきれ返るレッドに、気障な仕草で肩をすくめるグリーン。
「おのれぇ!たわごとを!かかれぇ!」
 部下の戦闘員に命令するビークイーン。往生際の悪い時代劇の悪役と同じのりである。ナイフを持って一斉に飛び上がる黒タイツの男たち。
「いくぞ!みんな!」
「「「「おう」」」」
 気を取り直した、レッドの号令にこたえる4人。
 みなそれぞれ、武器を持って、崖から飛び降りる。
 パンデモニウム。
 それは現在確認されている悪の組織の中でも、最も勢力を誇る組織であり、ジャスティスターの宿敵であり、かつては最大の敵と目された組織だ。新興の組織に押され、その「最大最強の悪の組織」という地位を失いつつあっても、ほかの組織より数段上の組織力を誇る。
 当然その戦闘員の戦闘力も群を抜く。
 しかしジャスティスターにはかなわない。
 プロミネンスの一振りが火炎放射を起こし、メイルシュトロームが唸れば激流を呼ぶ。アースクェイクが地を揺るがし、ストリームが突風を起こす、サンシャインが輝き光線を放って敵をなぎ払う。
 瞬く間に戦闘員は全滅し、残るはビークイーンただ一人。
「ジャッジメント・ペンタグラムだ!」
「「「「おう!」」」」
 レッドの号令にこたえ、ビークイーンを包囲するジャスティスター。
「いくぞ、ホワイト!」
 レッドの額の浄火のルビーから出た光線が、ホワイトの額の聖輝のダイヤモンドに命中して反射する。
「OK、グリーン!」
 今度はその反射した光線がグリーンの清風のエメラルドに命中しまたも反射する。
「へい!イエロー!」
「おっしゃあ、ブルー!」
「いいわよ!レッド!」
 同様にイエローの大地のトパーズに命中して反射、ブルーの生命のサファイアで反射して、レッドの浄火のルビーに戻る。五色の光線が五芒星を描く。
 これがジャスティスターの必殺技ジャッジメント・ペンタグラムだ!
 星の形を描く聖なるエネルギーがあまたの敵を消滅させてきた大技だ。
 今悲鳴を上げるビークイーンもその運命をたどると思いきや!
 バリーン!
 外から飛んで来た鎌のような武器で、光でできた五芒星がガラスのように砕け散った。
「なに!」
「そんな!」
「ジャッジメント・ペンタグラムが」
 驚愕するジャスティスターのメンバー。その彼らに襲いかかる。
「うわあ!」
「きゃあ!」
 力学を無視した方向に吹き飛ばされる五人。
 襲撃者の姿を確認したレッドが叫ぶ。
 そこにいるのは骸骨を思わせる白い仮面をつけた怪人であった。その姿はまるで『オペラ座の怪人』の登場人物である……
「おまえはファントム!」
 そう、彼はファントムと呼ばれている。
 もとはパンデモニウムの怪人だったらしいのだが、組織に反旗を翻したらしく、パンデモニウムの刺客を幾度も退けているのが確認されている。
 かつてそのようなヒーローがいたため、新しい正義の味方かとも思われたのだが、その期待は裏切られた。
 ある時は悪の組織を攻撃し、ある時はヒーローを攻撃する。その行動に全く一貫性がない。
 その行動目的が一切不明のため、正義、悪ともに敵にまわすようになったが、その圧倒的な戦闘能力により、むしろ壊滅した悪の組織と、再起不能になったヒーローが増えただけであった。
「おのれぇ!何の真似だ!」
 猛り狂ったファイアーレッドがファントムに襲いかかる。
 灼熱の炎をまとったプロミネンスが、ファントムの頭上から襲いかかる。
 誰もが真っ二つに斬り割かれ、灰になるまで焼き尽くされるファントムを確信した。
 だが
 轟!
 ファントムの口から衝撃波が放たれ、カウンターとなってファイアーレッドを撃墜する。
「く!」
 地に落ちるファイアーレッド、しかし不屈の魂で立ち上がろうとするが……
「うわ!」
 ファントムの左手からサソリの尾の様な触手が伸び、レッドの足を貫いた。
 痛みで体勢を崩すレッド。
「レッド!」
「危ない!」
 ブルーとホワイトがレッドに駆け寄り、イエローとグリーンが前に出て盾となる。
 それを見て口を開くファントム。
 先ほどの衝撃波を思い出し、守りを固める盾役の二人。
 しかしファントムはここで意外な行動をとった。
 急加速でイエローとグリーンの間をすり抜けたのだ。
「何!」
「フェイントか!」
 振り返れば、両腕から生えたカマキリの鎌のような武器で、レッドたち三人を切り裂いている。
「く!」
 後ろに戻ろうとするが自分たちも血を噴き出す二人。
(さっきすれ違った時にやられたのか)
(あいつ、もしかして口を開けたのは、もしかして……)
 無念に歯噛みする二人の眼の前で、地に伏していたレッドが宙に舞う。
「うわああ!」
 地を転がるレッドを見て再び口を開けるファントム。
 今度こそ衝撃波が来るかと思いきや、何事もなかったかのように悠々と歩み去る。
「くそ、やっぱり、あいつ笑っていやがったんだ、俺達を嘲笑っていやがったんだ」
 普段クールなグリーンが地をこぶしで殴る。
「ファントムウウウ!おまえは何を考えているぅ!復讐か!パンデモニウムの被害者はお前だけじゃないんだぞ!お前の力ならもっと多くの人々を救えるはずだあ!なぜだあ!なぜ正義のために戦わない!」
 慟哭するレッド。敗北の悔しさだけではない。
 初めてファントムを見たとき、なぜか彼は無条件に信じてしまったのだ。
 あれは味方だと。
 きっと自分たちの力になってくれると。
 しかしその思いは、すでに裏切られた。
 なぜか心から信じたものに裏切られた。
 それゆえの慟哭。

 復讐か
 目の付けどころは悪くないよ
 兄さん
 だけどそれだけじゃないんだ
 それだけじゃね

「はっ、私は一体」
 どことも知れぬ闇の中、ビークイーンは目を覚ました。
「あら、お目覚め?」
 横たわった自分の顔の上に、見知った顔が二つ並ぶ。
 眼鏡をかけた白衣のクールビューティーと、黒い着物を着た和風美人だ。
「魔女博士にブラックウィドー……!」
 意識が完全に覚醒する。
 この二人は任務失敗の責を問われ粛清されたはずだ。
「あんたたち死んだはずだよ!ここは地獄かい!」
 飛び上がって体勢を立て直そうとするが、そこで初めて自分が人間の姿で拘束されていることを知る。
「地獄…ね。まあ似たようなものね」
「確かにここは地獄のようなもの」
「しかし、いずれ来る楽園の礎となる」
 三人目の声の聞こえてきたほうに目を向ける。
 黒い羽根飾りをつけた黒いレオタードに身を包んだ、病的に色白の美女だ。眼と唇だけが赤い。
「魔道教団のマスターレイブン!」
 そこに立っていたのは、パンデモニウムと対立する悪の組織、黒魔術を操る本物の魔女、マスターレイブンである。
「貴様ら!パンデモニウムを裏切って、魔道教団についたのか!」
 元同志を糾弾するビークイーン。
 しかし魔女博士とブラックウィドーはそんな彼女を嘲笑う。
(え?)
 違和感を感じるビークイーン。二人とも以前より妖艶さに磨きがかかっているような。同性である自分ですら欲情を誘われるような。
「いろいろと誤解があるようね」
「誤解だと?」
「そう、ここは魔道教団ではないわ」
 そういったのはマスターレイブンだ。
「なに?」
「ここは、我らが組織ネオパンデモニウムの本部、アビスよ」
 ねおぱんでもにうむ?あびす?われらがそしき?
「やはり裏切ったのか!」
「いいえ、ちがうわ。私たちに無能者、不良品という烙印を押して切り捨てたのは組織のほう」
「そんな私たちを救ってくださったのが、ファントム様」
「ファントムだと?」
 わがパンデモニウムが研究していた新型獣鬼兵、確かより強化した獣鬼細胞を使用することにより従来型獣鬼兵の3倍近くの戦闘力を持つとか聞いたが。
 そんなことを考えていると、頬を平手でたたかれる。
「無礼な口をきくと許しませんよ。あなたも私たちと同様ファントム様に救われたのですから」
 唐突に今まで不明だったファントムの目的を理解した。
 なぜ自分たちパンデモニウムだけでなく、ほかの悪の組織を狙うのか。
 なぜ正義の味方たちの妨害をするのか。
「つまり一連の行動は、ヘッドハンティングだったわけか。まさか自分で組織を立ち上げるとはね」
「そう、そしてあなたも選ばれたの、新しい同志としてね」
「ふざけるな!」
 激昂するビークイーン。
「あたしはパンデモニウムの誇り高き戦士ビークイーンだ!あんたらみたいな尻軽の裏切り者と一緒にするな!」
 いきなり拘束がとかれたと思いきや、体が重力に反して宙に浮きあがり、天井にたたきつけられる。
 マスターレイブンの魔法かと思って彼女をにらみつけたところ、彼女は別の歩行を見ていた。うっとりと、顔を紅潮させて、眼をうるませて。
 まるで恋する小娘のように。
 ほかの二人も同様だ。
「!」
 暗闇から亡霊のように、骸骨のような白い仮面が現れる。左右に二人の人影を連れて。
 一人は長い黒髪をポニーテールにした硬質的な美しさの美女だ。男物のスーツに白鞘の日本刀を持った男装の麗人だ。
 もうひとりはまだ幼さの残る三つ編みの少女だ。右手をこちらに向けている。どうやら天井にたたきつけたのはこいつの仕業らしい。
 少女がキンキン声で叫ぶ。
「アンタね!せっかくファントム様が助けてくれたのに、何考えているのよ!この恩知らず!」
「な、なにい!」
 ビークイーンが驚いたのは、小娘に恩知らず呼ばわりされたからではない。小娘が超能力を使ったからでもない。
 その声に聞きおぼえがあったからだ。
 どこにでもいるような少女の姿に、蝶の羽を背負った、ピンクの妖精の様な姿が重なる。
「おまえ、まさかフェアリーマイか?」
 そう彼女の声は超能力を使う少女ヒロイン魔法少女フェアリーマイのものだったのだ。
 しかし小娘は鼻で笑って否定する。
「はずれ~!今の私はファントム様の部下!パピヨンマイだも~ん」
「なにい!」
(そういえばファントムと戦って以来行方不明になったはず……まさか)
 こんどは刀を持った美女に声をかける。
「あんた、まさか…クレセントか?」
 かつて日本刀で悪を切り捨ててきたヒロインの名前で呼んでみる。否定の言葉を期待して。そして当然のように裏切られる。
「昔の名前だ。下衆め。今の私はファントム様にお仕えする月黄泉」
 あぶら汗をかくビークイーン。彼女の脳裏に『洗脳』という文字が浮かぶ。
(く!かくなるうえは!)
 自爆装置を起動させようとするビークイーン。洗脳されるぐらいなら自爆して道連れにしてやる!
 しかし自爆装置は起動しない。魔女博士が嘲笑う。
「ばかね。誰があなたを作ったと思うの?自爆なんかできるわけないでしょう」
「く」
 そう彼女は元パンデモニウム科学班のトップ魔女博士。自分たち獣鬼兵の生みの親。それはすなわち……
「それをいうならファントムだってそうだろうが!なんであんたのほうが従っているんだよ!」
 ビークイーンの問いに余裕を見せつけて答える魔女博士。
「だってファントム様は神なんだもの」
「は?」
 虚を突かれたビークイーン。
「確かに以前の私は愚かだったわ。自分の想像を超えたものが出来てしまったから排除しようだなんて。でも仕方ないわね、まさか自分が神を生み出すなんて思わなかったもの」
「そう、ファントム様は神」
「私たちの救い主」
 ブラックウィドーとマスターレイブンも熱に浮かされたように魔女博士に追随する。
(だめだ、こいつら。完全におかしくなってる)
 歯ぎしりしてファントムを睨みつけるビークイーン。が、ふと思いついたように余裕を取り戻す。
「くぅ、こいつらをここまで洗脳するなんて恐ろしいやつだね、あんた。けどなんで女ばかりなんだ?あんたそんなに女に不自由しているのかい?」
 その言葉にファントムではなく周りの女たちのほうが怒りにもえる。とくに月黄泉は今にも剣を抜きそうだ。
「貴様!」
 それを押しとどめるファントム。
「くくく、図星みたいだねえ。どうせその仮面の下はひどい不細工なんだろ?」
 ビークイーンの考えているのはファントムを怒らせて自分を殺させること、洗脳されるよりはいい。
 しかし彼女の思惑は裏切られる。初めてファントムが声を出す。感情の動きを感じさせない声を。
「その通りだ」
 ファントムが仮面を外す。
「うげ!」
 その素顔を表現するにはどのような言葉を用いるべきか、獣?腐乱死体?悪魔?それらすべてのようであり、すべてに似ていない、それらすべての醜さをかねそなえたおぞましい顔だった。
「御覧の通りだ」
 素顔を嘲笑ってやるつもりだった、ビークイーンだが余りの醜さに恐怖と嫌悪感に震え上がるだけだ。
 しかし五人の女たちは違う。痛ましい顔でファントムに寄り添う。
 月黄泉はファントムの右腕を抱きしめ。パピヨンマイは腰に抱きつく。マスターレイブンは膝をついてその手を取り、魔女博士とブラックウィドーは両足にしがみつく。
「気にしちゃダメだよ、ファントム様」
「私たちはあなたのすべてを受け入れます」
「その悲しい体もやさしい心も」
「すべてを愛します」
「あなたが私たちを愛して下さる限り」
「……ありがとう」
 いきなりファントムが月黄泉の唇を奪う。
 その口からびちゃびちゃと音がする。そして月黄泉の喉が動いていることを考えると、どうやら大量の唾液を飲ませているようだ。
 しばらくして口が離れる。ほうっと息をつきファントムの首にしがみつく月黄泉。
 それを見ていきなりビークイーンが動き出す。
 パピヨンミサがファントムに抱き付いたとき念動が弱まっていたのだ。そして待ち続けていたチャンスがついに来たのだ。体中に女たちが絡まっているような状態では反撃できまい。
「死ねええええ!」
 空中で怪人の姿に変わり肘から生えた毒針で襲いかかる。
 しかしその体は空中で停止した。同時に体中に感じる激痛。思わず変身がとける。
「ぎゃああああああああああああ!」
 なんということか。ファントムの体から生えた無数の触手がビークイーンの体を貫いていたのだ。
 さらに数を増やす触手。それを背後に魔女博士が立ち上がって振り返る。
「愚かね。お前ごときがファントム様にかなうと思っているの」
 勝ち誇る彼女の足元から何本もの触手が這い上がり、しっかりとはめられていたボタンを中から弾き飛ばす。白衣の下にはいっさいの衣類がない。
 白衣の残骸だけを身にまとい、仁王立ちで高笑いを続けていた魔女博士だったが、その高笑いもすぐに止まる。太い触手が彼女を貫いたからだ。
「ああ!ファントム様!すごい!すばらしいですわ!」
 細い触手に支えられ仁王立ちの体勢に支えられたまま、立ったまま胎内を蹂躙される魔女博士。まるでビークイーンに見せ付けているようだ。その顔にはもう『魔女』と恐れられていたときの、邪悪な知性のかけらもない。ただのオスに媚びるメスだ。
 触手に追われるようにパピヨンマイがビークイーンの眼の前に浮遊する。
「バーカ!ファントム様のお仕置きを受けて思い知っちゃえー!」
 舌を出して生意気な声でいうパピヨンマイ。その彼女の子供っぽいショーツを触手がひんむいていく。
 ビークイーンの体から何本かの触手が離れ、パピヨンマイに向かう。
(あ……)
 なぜかビークイーンの脳裏に名残を惜しむような感情が浮かぶ。
 そんな彼女の前でパピヨンマイは両手に触手をもちその先端にキスする。
「ファントムさまぁ、マイすっごくエッチになるからね」
 そう言って触手を股間に導こうとするが、待ったがかかる。
「ああ待って、だめよ、マイあなたはまだ小さいんだから」
「マイ、子供じゃないもん」
「そんなこと言ってるうちはまだ子供よ」
 そんなやり取りの後、触手を股間にはさんだまま、マスターレイブンが宙に浮く。
「ちゃんとここをほぐして濡らしとかないと、裂けちゃうわよ」
「あん」
 マイの恥丘に口づけるマスターレイブン。
「あん、ああん、すごい、すごいよ」
 しばらくして顔を上げるレイブン。
「うふふ、気持ちよかった?マイ」
「…うん」
「やっぱりまだまだ子供ね。これからは魔法だけでなくセックスについてもおしえてあげるわ」
「ほんと?」
「ええ、はうわ!」
 いきなり胎内の触手が動きの激しさを増す。パピヨンマイにも触手が襲いかかる。
「ああ~!ファントム様!」
「好き~!大好き~!ファントム様!」
 ここにいる女たちの中で最も露出が少ないのが月黄泉である。
 パンツの股間のジッパーから太い触手となったファントムの腕が子宮まで貫いている。
 ワイシャツの胸のボタンは外され、背広のVネックから形のいい乳房がこぼれている。谷間にネクタイが挟まっているのがいやらしい。
「だめ、声が、出る、はずかしい、声が、出る」
 乳首から口を放してファントムが月黄泉のうわごとにこたえる。
「出せ、お前のすべてが知りたい」
「いや、はずかしい、おねがい、きかないで」
「出していいんだ!出せ!」
 右手に力を入れるファントム。
「ふあああ!」
 耐えきれずついに声を漏らす月黄泉。
 ブラックウィドーはファントムの足元に膝まずいたままだ。
 その体にも無数の細い触手がからみつき、黒い喪服の襟を広げ裾を持ち上げ、その豊かな尻や乳房をあらわにするばかりか、強調するように締め付ける。
 ファントムの股間から口を放す、するとそこから肉の牙というべきものがそびえたつ。
「ひい!」
 それを見て恐怖の声を上げる、ビークイーン。
(あんなの入れられたら裂けちまう、逃げなきゃ、逃げなきゃ)
 だがそのとき自分の恐怖とともに、まったく別の感情が湧いてくることに気付いた。
(!)
(アアホシイ、ファントムサマ。ホシイ。ワタシハファントムサマノモノニナル。オモイッキリツラヌカレタイ。ムチャクチャニサレタイ。ファントムサマホシイ……)
 愕然として気づく。
(まさかこの触手から何か入ってくるんじゃ…)
(ホシイホシイホシイ)
 自分の体に刺さる触手を見て、さらに自分の体の異変に気づく。
 まずバストとヒップが大きくなり、反対にウエストが細くなった。まるで蜂のようにメリハリのついたからだである。
 そして皮膚が装甲に覆われ、蜂の様な黄色い縞模様が浮かんでいる。乳首と陰核からは針が突き出ている。
「うふふ、ようやく気付いたようね」
 マスターレイブンが指を鳴らすと、ビークイーンの目前に鏡が浮かび上がる。
 そこに映っていたのは、かつての自分より女としての美しさを前面に押し出し、より妖しく、より淫らな姿の蜂女となった自分だった。
「そうそれこそがファントム様のお力で生まれ変わったあなたの姿。より強くより美しくなったあなたよ」
(ああ……)
 鏡の中の自分にうっとりする。
 あのひそかに疎んでいた自分の獣鬼兵としての醜い姿。
(ちがう!あの姿は私の力の象徴!誇りに思っていた!)
(チガウ、ミニクイ、キライダッタ、イマノホウガツヨイ)
(私はパンデモニウムのビークイーンだ!)
(ワタシハファントムサマノモノ、ワタシハファントムサマノモノ、ワタシハファントムサマノモノ。ファントムサマ、ファントムサマ……)
「やめろおお!」
 絶叫するビークイーン。それこそが断末魔の悲鳴。
 ビークイーンの股間から透明な液体がこぼれおちる。
 彼女の精神からも何か決定的なものがこぼれおちた。
 ファントムが醜い顔をゆがめ笑う。
 その瞬間彼女がはじけた。
「ファントム様アアア!」
 触手を振り切ってファントムに襲いかかる。肉の牙で貫かれる。子宮を突き抜け脳天まで激痛と快感が突き抜ける。
「ファントム様アア!」
 ファントムに抱きつく、乳首や陰核の針はファントムに刺さらない。
(ああ、さすがは、ファントム、さま、なんて、雄々しいの)
 腰から響く波に酔いしれ、ファントムも口に食らいつき、唾液を思いいきりすする。
(ああ、この方を醜いなんて思うやつはバカだ。この方はこんなに素晴らしい。この人の唾液も精液もすべて自分のものにしたいいいい!)
 一回目の絶頂。
 だがファントムの腰は止まらない。彼女をつきたてながら、ぐるりと彼女の体を反転させる。
(あん、もっとファントム様のお顔、見ていたいのに)
 180度反対の視覚には、彼女の新しい仲間たちが立っていた。みな股間にファントムの分身を迎え入れ、快楽に酔っている。
 眉根を寄せて快楽に耐えながら、月黄泉が一歩前に出る。
「ようこそ、ネオパンデモニウム、へ、歓迎、す、る、あ、たらしい、同志、よ、ふわあ!」
 その瞬間子宮を叩く熱いほとばしりを感じた。同時に自分も達する。目の前の女たちも股間から白い液体をあふれさせている。
「「「「「「ファントム様アア!」」」」」」
(私のすべてはファントム様のもの、ファントム様のためだけに私は存在する、ああ、なんて幸せなの)

 月夜に蝶が舞う。
 起伏の少ない体つきの少女の背中の羽から、こぼれおちる麟粉が蝶に変化して、タイガーレディの眼をくらませる。
 蝶の群れに隠れて襲いかかる影ひとつ。
「なめるな!」
 今日初めて会う敵にタイガーレディは怒っていた。とくにその怪人たちのデザインに。
 ほとんど全裸の肉体にペインティングをしただけの様なその姿。
 存在そのものがセクハラ、公序良俗の敵。
 女として怒りを感じずにはいられない。
 飛びかかってきた敵に踵落としを見舞うタイガーレディ。しかし足を振り上げた瞬間、体が動かなくなった。
「なに?」
 両手で頭をかばった縞模様の敵がその手を下す。
「おそいわよ、ブラックウィドー」
「ごめんなさい、ちょっと動きが速かったのよ」
「!」
 今まで気づかなかった三人目の敵の声。
 ふりむけば股間以外を網タイツで覆った女が大股開きの体勢で腰掛け、その股間から出ている幾本もの透明な糸が自分に絡みついている。
「し、しまった」
 渾身の力で糸を切ろうとするタイガーレディ。
「無駄よ。その糸は切れないわよ」
「やっぱり猛獣には麻酔弾が必要ね。その引き締まったお尻にチクリと」
「!」
 臀部に鋭い痛みを感じるタイガーレディ。
 全身に奇妙な感覚が走る。
「ひ、あ、ああああ!」
 人の目もかまわずに、強化服を着ていることにもかまわずに、自ら胸をもみしだき、股間をかきむしるタイガーレディ、そして、それ見て笑いながら自分たちもオナニーを始める三人の怪人たち。
「うあああ、かゆいいい!あそこがかゆいいのおお!」
 ついに強化服を脱ぎだし全裸になってオナニーを始めるタイガーレディ。
 その姿を見て嗜虐心を刺激された三人の手も加速され、タイガーレディが絶頂に達したとき三人も絶頂に達した。三人の潮吹きがタイガーレディの体にかかる。
 それでも4人の淫女の手は止まらない。
「ネオパンデニウムにようこそ、タイガーレディ、愛と幸せが貴女を待っているわ」
 
 この日、また一人のヒロインが悪の手に落ちた。

< 続く >

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