ANTI HERO 第3話

第三話 レ・ミゼラブル  ああ、無情

 因果応報。
 己の行動の報いは必ず自分に返ってくる。
 しかしそもそもの原因。
 それまでも俺の責任か?

(おれはどうしたんだ?)
 記憶が混乱している。
 喉が激しく乾いている。
 水を探す。近くで湿ったにおいがする。
 水たまりを見つけた。
 そこで彼は初めて自分の姿を自覚した。
 獣の様な腐乱死体のような醜い姿。
 同時に記憶も戻る。
「!」
 水たまりに映る自分の顔に、こぶしを突きこみ笑い出す。
「ふふふふ、ははははははは!これがむくいか!」

 ツトムは山奥を目指す。
 この醜い姿をさらしたくなかった。
 しかしこの男とことん運命に嫌われているらしい。
 この行動ゆえ、さらに絶望を味わうことになる。

「!」
 死体を見かけたツトムは後ずさる。
(遺書……ここで自殺したのか)
 雨にぬれてボロボロになった封筒。
 死体に片手拝みで詫び、遺書を読み始める。
 そこには会社の経営に行き詰ったことへの絶望、社員への謝罪、なにより家族への謝罪が書かれていた。
 その遺書の内容はツトムの心に波紋をおこした。
(あがいてもあがいても、どうにもならないことってあるんだよな)
 ツトムの心中に死への欲求が生じた。
 一目家族に会いたいという望みも。
 ツトムは街へ向って歩き出した。

 のちにファントムと名乗ったツトムは考える。
 このときすぐに死んでしまったほうが幸せだったのかもしれない、と。
 絶望にみせかけた自己憐憫に包まれ死を選んでいたほうが、今の自虐と嫉妬と憎悪と真の絶望の火に焼かれる生き地獄より楽だったかもしれない。

 町に出たツトム。
 そこで待っていたのは「化けもの」の一言だった。
 警察に追われ廃ビルに逃げ込むツトム。
(いてえ、いてえ、なんだよ、てんで弱いじゃねかよ、この体)
 警官の銃弾を受けてダメージを受ける怪人なんて聞いたことがない。
「く、くく、ふ~」
 情けなさで涙が出た。
 悪魔に魂を売ってもこの程度とは。
 どうせ死ぬにしても攻めて醜さに比例する力がほしかった。
「う~、うわああ」
 地面をかきむしるようにして嘆く、ツトム。

 そこに白刃がつきたてられた。

「ク、クレッセント」
 白刃をつきたてたのは、黒いライダースーツと黒いヘルメットに身を包んだ女剣士、クレッセントである。
 どうやら超能力の類は持っていないらしいが、その超人的な剣技により怪人を斬殺するヒロインである。
「パンデモニウムの獣鬼兵だな、言え!何をたくらんでいる!」
「くくく、わはははは!」
 詰問するクレッセントを見て、笑いを抑えきれなくなるツトム。
「何がおかしい!」
「いいよ、殺せよ、もう、どうにでもしてくれ!あんたの腕なら苦しまずに死ねそうだ、さあ、さっさと殺せ!」
 彼女の眼の前で大の字になるツトム。
 明らかに自暴自棄になったツトムに戸惑っていたクレッセントだったが、一つうなずくと刀を鞘におさめた。

「馬鹿な事をしたものだな……気持ちは分からないでもないが」
「……その報いはきっちり受けたよ」
 そう言ってマグカップの中身をすする。
 熱々のホットミルクが体にしみわたる。
 ここは、廃ビルの地下室にある、クレッセントのアジトの一つらしい。
 あの後、クレッセントにかくまわれてツトムはここまでやってきた。
 そして今までの身の上をクレッセント、月城サヤカに語り終えたところだ。
「それで君はどうするんだ?」
「どうするったって、何ができるんだよ」
 復讐するために化け物になった、その化け物の体は醜く恐ろしいだけが取り柄で、たいして役に立たない。
「それでも君はまだ生きている。生きている限り何かができるはずだ」
 そう言って彼女は壁に貼り付けられた写真を見る。
 日本刀の様な彼女の瞳が憂いを帯びる。
 そこには今より2,3年若い彼女と、一人の青年が映っていた。刑事ドラマの主役になりそうな男だ。
「恋人か?」
「ああ」
 その返答には余人を立ち入らせないものがあった。
「……もしかして死んだのか?」
「たぶんな」
 さすがにそれ以上は聞けなかった。
「しばらく、ここに隠れていろ、君の身の振り方について私も考えてみよう」
「……どういうことだ?」
「窮鳥懐に入ればなんとやら、だ、殺す気なぞ失せた」
「……そうか」
「さっきも言ったが、君はまだ生きている、絶望するには早い、能力の件だって君が知らないだけかもしれないんだ」
「……あ、ありがとう」
「どういたしまして」
 どのままサヤカは地下室を出て行った。
 その後ろ姿を見送ったあと、壁の写真を見るツトム。
 幸せそうに笑う男女の姿。
 あんなに優しくてきれいな人に愛されているなんて、どんな男だったのだろう。
 その男の姿を見て、胸中に黒い物が湧いてくる。

 このときツトムは気づいていなかったが、彼の全身から牙の様なものが生えていた。

「!」
 胸の中の黒い物ごとホットミルクの残りを飲み込むツトム。すでにそれは冷めていた。
「ふう」
 一息つくと、全身から生えた牙は消えていた。

 その晩、ツトムは安らかに眠った。
 こんなに安らかな夜はいつ以来だろう、化け物になった時、いやその前からずっと、悔し涙に枕を濡らし続けて来たのだ。
 翌日もさわやかな気分で目が覚めた。
 鏡で顔を見るまでは。

「君の家族なんだが、転居したらしい」
 その晩訪ねてきたサヤカは開口一番そういった。
「?」
「詳しくは分からないが、星宮が動いた所を見ると、パンデモニウム対策だと思う」
「……そうですか」
 家族か…
 ツトムがここまで来たのは家族に一目会ってから死にたいという願いからだ。
 だが今は会ってどうするという気になっていた。
 会ったところで元の生活に戻れるわけではない。化け物呼ばわりされるのがおちである。
 なによりもツトムのなかで「死にたい」という気持ちがうせていた。
 そんなツトムを見て微笑むサヤカ。
「どうやら死ぬのはやめにしたらしいな」
「え、あ、いや」
 照れたように頬をかくツトム。
「それでいいんだ、君はまだ終わってなんかいない」
 その笑顔はツトムが今まで見た中で最も美しく尊く見えた。

 それからしばらく穏やかな日々が続いた。
 穏やかといっても、日課に戦闘訓練が含まれていたりするのだが。
 結局のところ、ツトムは単に自分の能力を把握していないから、使えないだけだったらしい。
 何度もサヤカに真剣で浅く斬られているうちに、体を骨の様な装甲で守れるようになった。
「俺にこんな力が……」
「だからいったろう、絶望するには早いと」
「はい!」
 能力が一つ判明したところで、ツトムはまだまだ素人、サヤカに簡単に叩き伏せられる。
 早く強く、もっと強く。
 そして彼女と肩を並べて戦えるようになりたい。
 それがツトムの新しい目標となった。

 しかし穏やかな日々は唐突に終わりを告げた。
「!」
 眠っていたツトムは、悪夢を見て飛び起きた。
 あやしい影がクレッセントの後ろから迫るという夢だ。
 心臓がバクバク言っている。
 携帯に電話しようにもツトムは持っていない。
「くそ!」
 ツトムは地下室を飛び出した。
 何故か彼女の居場所が分かる様な気がしたのだ。
 ビルの上をかけるツトム。
 そして十分もしただろうか、ツトムはサヤカの姿を発見した。
 心臓を貫かれ倒れようとするサヤカの姿を。

「サヤカさん!」
 倒れこむサヤカを支えるツトム。
 しかしサヤカはツトムに目を向けず、自分を刺し貫いた男に向かって手を伸ばす。
「シ、シンゴ」
「!」
 その男は写真に写っていたあの男だった。その右腕は槍のようになっていたが。
「あんたは!」
「うん?見たことないな、新顔か?なぜその女をかばう?」
「!」
 その一言でわかった。この男が自分と同じパンデモニウムによって化け物にされた存在だと。
「シンゴ、会いたかった…」
 驚愕するツトムの腕の中でサヤカが漏らした言葉、それが彼女の最後の言葉だった。
「サ、サヤカさん……」
「おかしなやつだな、なんで敵を気遣う?」
「!」
 目の前が真っ赤になる思いだった。
「あんた!この人のこと覚えていないのかよ!この人は、この人は……」
 恋人の復讐を誓って戦い続けていたのだろうか。
 それとも恋人が本当は生きていると思って探し続けていたのか。
 真実はもう聞くこともできない。
「敵だろ?それで充分じゃないか」
「!うああああああああああ!!!!!!!!!!」
 その一言で最後の理性が消し飛んだ。
 腕をでたらめに振り回して飛びかかる。
「なんだよ、裏切り者か」
 そう言ってシンゴ―かつてサヤカの恋人だった男は、犀の様な獣鬼兵へと姿を変えた。
「ふん」
 獣鬼兵の右腕の一振りで吹き飛ばされるツトム。
「おら、死ね」
 左腕の槍でひと突き、ツトムは串刺しにされた。
「がは!」
「まったく、余計な仕事を増やしやがって……なに?」
 ツトムの体から左腕を引き抜こうとした犀男だが、違和感を感じた。
 腕が抜けない。
 それどころかどんどんツトムの体に飲み込まれていくような。
「!」
 あわてて、渾身の力で腕を抜こうとする犀男。
 しかしその時、さらに異変が生じた。
 ツトムの体から先端が牙の様になった触手が無数に生え、犀男を貫いたのだ。
「!」
 全身の激痛に、声にならない悲鳴を上げる犀男。
 しかし恐怖はこれからだった。
「す、すわれる!」
 触手は彼の体から、エネルギー、水分、栄養、その他もろもろのものをすべて吸いつくそうとしているのだ。
「や、やめろ」
「や、やめろ」
 吸おうとする者、吸われようとするもの、双方から同じ言葉が発せられた。
 その直後。
 犀男は干からびてミイラになった。

「こ、これが、俺の力」
 身震いするツトム。
 全身に残る不快感のためだ。
 自分の体の中に異物が侵入してくる、あの不快感。
 思い出しただけでおぞけが走る。
 震えを抑えようと肩を抱くツトム。
 しかし彼の触手は、再び彼の意思とは関係なしに行動を開始する。
「やめろ!」
 触手たちは、サヤカの死体に襲いかかったのだ。
 その体を貫き、何かを注入してゆく。
「なんだ、今度は逆、なのか」
 呆然とサヤカの体を見るツトム。
「!」
 なんという奇跡か。
 ツトムの眼の前でサヤカの胸の傷がふさがってゆくではないか。
「い、生き返るのか」
 今度は歓喜と期待で震えるツトム。
 まさにサヤカは生き返ろうとしていた。
 体が痙攣し、腹が上下しだした。呼吸が戻ってきたのだ。
 胸の傷が完全にふさがったとき、思わず胸に耳を当てた。

 心音が聞こえた。

「!」
 ツトムは泣き出した。
 今だけはこの世のすべてに感謝したい。
 そんな思いが突き上げてきたのだ。

「ツ…トム?」
「サヤカさん!」

 名前を呼ばれて、ツトムは顔を上げた。
 彼女と目があった。
 彼女のうるんだ目と。
 その時はまだ彼女の異変に気付かなかった。

「サヤカさん、サヤカさん、よかった、本当に良かった」
「ツトム……」
 サヤカの胸にしがみつくように泣きじゃくるツトムの顔を、両手でつかみ上げたサヤカは。

 そのままキスをした。

「!サ、サヤカさん!何を!」
 混乱するツトムは彼女を引き離した。
「ツトム、暑いんだ、君が、ほしい……」
 熱に浮かされたような口調で言い、そのまま体勢を入れ替え、ツトムに馬乗りになる、サヤカ。
「アツイ、暑いんだ」
 そのままライダースーツを脱ぎ始めるサヤカ。
 ライダースーツに隠されていた、はち切れそうな乳房があらわになる。
「あ!」
 それを目の当たりにしてツトムの吐いていたジャージの下を貫いて、牙の様なものがあらわになった。ツトムの変貌したペニスが。
「これは、君の、チンポか、嬉しい、君も、私を求めてくれているんだな」
 サヤカはその異形のペニスを、何のためらいもなく口に含む。
「ああ!」
 初めての快感に耐えられず射精するツトム。
「はやいな、そうか、はじめてか」
 その場で立ち上がり、着衣をすべて脱ぎ去るサヤカ。
 月光に美しい裸身が映える。
 口からあふれた精液をすすりながら、宣言するサヤカ。
「今から君に女を教えてやる」
 そう言って淫らに笑う。
 その顔には、あの優しく、強く、美しい女剣士の面影はない。
 淫らな雌狼の顔だった。
「サ、サヤカさん、やめてよ」
 サヤカに見とれながらも逃げ出そうとするツトム。
「シ、シンゴさんだって、あそこにいるんだ」
 犀男のミイラを指さすツトム。
 たとえ憎まれても元の彼女に戻ってほしい、その思いだったが、裏切られた。
「シンゴなんて、もう、どうでもいい、それより君だ、君がほしい」
 そう言ってツトムに覆いかぶさる。彼女の女陰は狙いたがわずツトムのペニスに食らいついていた。
「ああ、すごい!いい!」
 そのままツトムの上で淫らに踊る。
「ああ、また!」
 再び射精。
「ふふ、また出したのか。いいぞ、何度でも出せ、たっぷり絞ってやる」
 戦闘訓練でも似たようなことを言われたよな……
(何度でも来い)
(たっぷりしごいてやる)
 再び踊りだすサヤカ。
「ああ、そんなにも私を感じてくれているのか、嬉しい、好きだ、ツトム、愛してる!」
 スキダ
 アイシテル
 なんでこんなにうつろに響くんだろう…

 こんなことは望んでいなかったはずなのに。
 自分は彼女の戦友、パートナーになれればそれでよかったのに。

 こうしてツトムの初体験は、セカンドラブの相手に逆レイプされるという形で終わった。

 明け方近くまで、ツトムを犯し続けたサヤカはさすがに体力が限界に達したらしく、眠りこんでしまった。
 アジトに、彼女とシンゴのミイラを運び込んだツトムは、そのままアジトを出た。

 どこに行くあてもない。
 ただここにいたくなかった。
 なにも考えたくなかった。

(うちにいってみるか)
 帰るではなく行くである。
 もう自分に帰るところなんかないのだ。
 こんな化け物に…
 こんな恩人であり好きになった女性を狂わしてしまう化け物に……

 激しい雨が降り出した。
 まるでツトムの心を映したような天気だ。
 アジトから不破家の新居に向かう途中には、星宮学園があった。
 いい思い出などないが、それでも通いたくて努力した場所だ。
 どうでもいいとは思いながら足が向かった。

 曜日の感覚なぞ忘れていたが、今日は土曜日、半ドンだったらしい。
 傘をさして下校する生徒の群れにあたった。
 ツトムはあわてて物陰に隠れる。
 そしてそこで初恋の相手を見た。
 
 自分の兄と一緒に下校するミズキの姿を。
 
 血が凍りついたようだ。
 
 頭を振って冷静さを取り戻し、目立たないように後をつける。
 ついた所はやはり、不破家の新居。
 忍者のように壁に張り付いて登るツトム。
 そしてタケルとミズキの声が聞こえた部屋をのぞいてみた。
 
「!」

 危うく手を滑らせそうになった。

 彼の眼に映ったものは、ミズキにキスをしながら服を脱がそうとしているタケルの姿であった。

「ちょ、やめて、制服皺になっちゃう」
「あ、ごめん」

 その一言が合図だったように、二人は離れて服を脱ぎだす。
 服を脱いだミズキは、タケルのベッドに腰掛け、右手で胸を隠しながら左手でタケルを誘う。

「タケル、来て」
「ミズキ、好きだよ」

 再びキスをしながら、タケルはミズキを押し倒し、左手で乳房を愛撫する。

「ひゃん」
「かわいいよ、ミズキ」

 タケルはそのまま体をミズキの足元へずらし、乳首を口に含む。

「ああ、タケルぅ」

 いとおしそうにタケルの首を抱え込むミズキ。
 その眼が驚愕と恐怖に開く。

「きゃああああ!」
「な、なんだ」

 驚いてタケルが跳ね起きる。

「窓の向こうにお、お化けが」
「お化け?」

 厳しい顔で窓を見るタケル。

「なにもいないじゃないか」
「え?」

 シーツで体を隠し、窓をのぞきこむミズキ。

「あ、ほんとうだ……」
「だいたい、俺たちにかなう化け物なんているわけないって」
「そ、そうか、そうだね」

 若い恋人たちは笑いあった。
 その笑い声はミズキと目があって、本能的に逃げ出したツトムの耳になぜか届いていた。
 その笑い声は、ツトムの心の傷を再び開かせた。
 自分がなぜ悪魔に魂を売ったか思い出したのだ。
 心の傷から血を流しながら走るツトム。

 その傷をさらにえぐることが待っていた。

「タケル様って、やっぱ、青海と付き合っているの」
 聞き覚えのある声を聞いて隠れるツトム。
 あれはタケルの追っかけをしていた三人組の同級生だ。
「やっぱり~、しょっく~」
「しょうがないよ、お似合いだし~」
 叫びだしたいのを必死でこらえるツトム。
 だがその忍耐はすぐに切れた。
「そういえば、知ってた、あの引き立て役、青海狙ってたんだって~」
「え~、ホント、身の程しらず~」
「もしかしてあいついなくなったのって、そのため?」
「そうじゃない?」
「ほんといなくなってよかったわね~」

「貴様らあ!」

 ツトムは全身から触手を生やして、三人娘に襲いかかった。

「ひい!」
「いやあ!化けもの!」
「助けて!」

 悲鳴を聞いて集まってくる人の気配。
 ツトムにわずかに残った冷静な部分が、マンホールのふたを開ける。

「むぐぐぐぐ」

 同時に触手を、大声を上げる三人娘の口に突っ込み、声を封じた。

 異変を感じた人が集まってきたとき、四人の姿は地下に消えていた。

 それから数分後。
 彼ら四人の姿は、公園の公衆トイレの中にあった。
 三人娘はおとなしくしている。
 いや何やら様子がおかしい。
 顔を赤くして股間をうねらせている。
 一人に関してはツトムの触手を熱心にしゃぶっている。
 明らかに欲情している。
 
 (男は吸いつくして殺し、女は淫乱にして犯す。これが俺の能力か)
 
 そう分析するツトム。
 しかしこいつらに限っては犯すことにためらいはなかった。
 いや、むしろ、タケルとミズキのセックスが、そのためらいを消し去っていた、と言えよう。

(こいつらがタケル様なんていうのも、ミズキがタケルに惚れたのも、俺があいつの引き立て役扱いされたのも、もとはと言えば、みんな変な石ころのせいじゃないか)

(だったら、俺がこいつらを、俺の能力で好きにして何が悪い、石のせいで天才になって、人気を集めたタケルと何が違うんだ)

(そうさ、サヤカさんだって、俺はあの男に嫉妬した。戦友なんてごまかしていたけど、俺は彼女がほしかった。あの男から奪い取ってやりたかった)

(つまり、これは俺の願望通りの能力。この化け物の姿こそ、俺の本性)

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 狂ったように笑うツトム。
 自らの心の生み出した闇を受け入れ、欲望に身をゆだね、欲望のままに生きる。
 一つの「悪」の誕生の瞬間だった。

 触手から三人娘を開放する。
 公衆トイレの床に倒れこむ三人。
 その三人の前に、堂々とペニスをさらす。
 眼の色を変えて、群がる三人娘を触手でたたき落とした。

「欲しいか?これが」
「ほしいの!ちょうだい!」
「入れて!入れてよ!」
「あんただってやりたいんでしょ!早くしてよぅ!」

 再び触手で三人を叩く。
 背筋に快感を走る。

(俺をタケルの引き立て役扱いし、汚い物を見るような眼で見ていたやつらが、こんな浅ましい姿で俺に犯されたがってやがる)

「ククク!ハーハハハハッ!」

「そうか、そうか、そんなに俺の精液便所になりたいか。ならその場に土下座して頼んでみろ。『どうか淫乱な私を、ご主人様の精液便所にしてください』ってな」

「え、そんな」
「や、やだ、そんなこと」

 三人娘のうち二人はためらった。
 しかし先ほど、触手を熱心にしゃぶっていた女生徒はためらいなく土下座した。

「ど、どうか淫乱な私を、後、ご主人様の精液便所にしてください」

「ククク!便所の床で土下座とは、精液便所にふさわしい姿だな」

 触手が土下座していた少女を再び襲う。
 服をはぎ、胸と陰部をあらわにして、小便器に腰かけるように張り付けにする。

「おら、お情けをくれてやるよ」

 無慈悲に貫いた。

「ひいいいいい!」

 白目をむいて絶頂に達する女生徒。しかしツトムは腰の動きを止めない。

「あひ!いった、ばかり、なのに、だめえ!かんじちゃうぅ!」
「ふん、そんなに、いいか、精液便所が、いいのか」
「はいい!ご主人様の精液便所、いいですぅ!」
「ようし出してやるぞ、便所女」
「はいい!出して!ご主人様の精液、便所女のチエに出してぇ!」
「ようし!それ!」
「熱いイイ!逝くー!」

 ここでツトムは両足に違和感を感じた。

「ん」

 見れば残りの二人が抱きついている。

「おねがい、わたしも」
「あんなのみてたら、おかしくなっちゃうよ~」

 懇願してくる二人を、触手で払いのける。

「ふん、おねだりの仕方はさっき教えてやttろう」

 あわてて正座する二人に待ったをかける。

「とはいうものの、さっきの通りというのも面白くない。自分なりにアレンジしてみろ」

 片方はすぐに土下座して、口上を述べた。

「どうか淫乱な私を、ご主人様の精液便所にしてください」

 口上を述べ終わると、すぐに後ろを向き、尻を突き上げてこちらに向け、自らショーツを下す。

「ふん、まあ、いいだろう、で、おまえは?」

 もう一人を促す。

「わ、私はご主人様のおチンポがほしくて、マンコを濡らしている淫乱娘です。どうか私にご主人様の精液便所となる名誉を、お授け下さい」

 とたんにツトムの笑いが止まらなくなった。

「名誉、名誉か!いいだろう、次はお前だ、ハハハハハハハハハハ!」

(やってやる、やってやる、ミズキもヒカリもこうして犯してやる、いいや、こんなもんじゃすまさねえ。尊厳だのプライドだのそういったもの全部壊してやる)

(なあ、兄貴。いままでわけのわからん石ころのおかげで、さんざん良い思いしてきたんだ)

(ここですべて失っても)

(十分元は取れているだろう?)

「どうしました?ファントム様?」

 作戦所を目にして目を閉じたファントム――彼女の愛と忠誠、肉体とすべてを捧げる対象――を見て、月黄泉はたずねた。

「いや、ようやくここまで来たんだなと思ってな、あのお前に男にしてもらった日から、もう一年半だ、サヤカ」

 懐かしそうに昔の名前で呼ぶ主君に、昔の様に返す。

「そうだな、あのときはまだ可愛い坊やだったのに、今じゃ何人もの女を泣かせる憎らしい男だ」
「嫌いになった?」
「いいや。それでこそ私が愛し、すべてを捧げた男だ」

 ファントムの股間から牙の様なペニスが飛び出る。
 同時に全身から触手が月黄泉に襲いかかり、その服を乱暴に引きちぎる。

「ん。乱暴だな」
「それがいいんだろ」

 そのまま月黄泉の体をひっくり返し、椅子に座ったまま69の体勢になる。
 ファントムが長い舌で月黄泉の股間をなめ上げる。
 全身を拘束され、唯一自由になる首を動かし、ファントムの股間の牙をなめ上げる。

「なあ、あの時みたいに犯すのと、今みたいに犯されるのと、どっちがいい?」
「と、当然、今のほう、だ。ツトムの、女で、ある、実感が、強い、から、ああん」

 触手がうねり、さらに女体に絡みつく。
 月黄泉の胸の形を強調するように締めあげ、先端で乳首をいじる。
 細長い触手がアナルを貫く。

「ああん」

「ツ、ツトム、お願い、もう、つらいの」
「ああ、責任取ってやる」

「あひいいいいいいいい!」

 息も絶え絶えな獲物に、とどめの牙がつきたてられる。

「ツトム!イイ!好き!愛してる!」
「俺もだ、サヤカ!愛してるぞ!」
「おねがい!誰を犯してもいい!私のこと忘れないで!」
「ああ!お前とは地獄の底まで一緒っだ!」
「うれしいいいいい!」

 全身を精液まみれに、ファントムのマーキングだらけにされた月黄泉をソファーに休ませ、作戦書を確認しなおすファントム。

 作戦書には「巌窟王作戦」と書かれていた。

< 続く >

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