第四話 失楽園 ジゴクニムカウモノタチ
そうだ、ずっと、見たかった。
これが見たかったんだ。
もがけ、苦しめ、醜態をさらせ。
今こそ報いを受ける時だ。
星宮学園、特別教室。
そこでは乱闘騒ぎが起こっていた。
「もう一度言ってみろ!ヨウスケ!」
「ああ、何度でも言ってやるよ!昨日負けたのはお前のせいだ!」
「おい、やめろ!ヨウスケ!言いすぎだぞ!」
「どこがいいすぎなんだ。あの骸骨野郎が手ごわいってのは、もうわかっているだろ。なのに向きになって一人で突っ込みやがって。フォーメーションもチームワークもねえや」
「それはお前らがちゃんとフォローしないからだろ。この役立たずどもが」
「おい、それは、どういう意味だ」
「聞き捨てならないですわね」
「本音が出やがったな!地球を自分中心にまわしてんじゃねえ!俺達は手前の引き立て役じゃねえんだ」
「ちょ、ちょっと、ヨウスケ」
「そんなんだから弟がいなくなるんだろ」
「貴様!」
教室の扉を叩き破って、二人の男子生徒が飛び出してくる。
もみ合い、一方が一方の上に馬乗りになって、殴りつけようとする。
その手を止める者がいた。
この学園の女子体育教諭、金山ミサエである。
「やめろ、不破」
「金山先生…」
「いくら特別教室でも限度がある。この件は報告させてもらう」
「…う、わ、わかりました」
彼ら特別教室の生徒は、ジャスティスターとしての活動のため何かと特別扱いを受けている。
そのことが彼らのもう一つの顔を知らない教師たちにとっては面白くない。
目の前の人間もその一人だ。
「どうせ、大した処罰は下るまいと思っているようだが、最近理事長もおかんむりだ。いつまでも勝手が許されると思うなよ」
「く!」
理事長の機嫌が悪い理由。
それはジャスティスターの戦績の不振である。
常にファントムに後れを取っているジャスティスター。
そのスポンサーであり、ジャスティスターを援護すると称して消費者の支持を得ようとしている星宮グループにとって、面白くない状況である。
先日の敗戦について、先ほどもきついおしかりを受けたばかりである。
悔しさに震えながら、立ち上がるタケル。
(次は、次は負けない)
だが彼らは気づかなかった。
その彼らの姿を見て嘲笑を浮かべているツインテールの少女の姿に。
さてそのころ。
星宮学園からさほど離れていない場所でも、再戦と復讐を誓っている戦士がいた。
(ファントム、今日こそお前に勝つ!)
タイガーレディー――大河冴は気合を入れる。
もうすぐ憎いあの男が来る。
自分に恥知らずな淫乱女に洗脳した部下たちをさし向け、媚薬を注射させ、この体を蹂躙したあの男が。
その後も自分を殺すわけでもなく、洗脳するわけでもなく、戦闘訓練の相手と称して、猫がネズミを扱うように自分を弄び、凌辱を重ねていた。
「はう」
思わず声が漏れる。
ファントムにレイプされた瞬間の屈辱と激しい快感、幸福感が脳裏にフラッシュバックしたのだ。
(しっかりしろ冴。快楽に負けてはだめだ)
気合は入れなおすが体は主を裏切り、ファントムを求め、犯されるのを期待している。
(来たな、ファントム)
タイガーレディは、敵に対して構えをとる。
動悸が激しくなり、股間から愛液が垂れるのを必死に無視する。
(違う!私は私は!)
欲情している自分を否定しようと叫びを上げようとする。
しかしその努力は、骸骨のような白い仮面の怪人の姿を見たとき無に帰した。
(ああ!)
胸の中にいとおしさが沸き起こる。
今すぐにもすべてを投げ捨て、その胸に飛び込みたいという衝動が湧く。
構えていた両手が下がる。
「さあ、いくぞ」
ファントムの両腕から牙の様な刃がはえる。
「!」
構えを戻そうとするタイガーレディ。
しかし一瞬早く、ファントムの牙が襲う。
顔と股間に。
「はう!」
タイガーレディの強化服のマスクが砕け、その素顔があらわになる。
釣り上った眼が印象的なきつめの美女だ。
切り裂かれた股間からしぶきがあがる。
血ではなく愛液の。
「まだまだいくぞ」
ファントムの打撃が続けて叩きこまれる。
「あん!ああ!ひい!」
タイガーレディの体に衝撃が走る。
脳天と子宮に。
(し、しっかりしろ!冴!またいつものように…)
もはやファントムに加えられる一撃一撃のすべてが、被虐の快感を呼び起こすトリガーとなっているのだ。
再び愛液が垂れる。
ファントムの足が股間をけり上げた。
「股間」と言えば男の最大の急所と言われているが、女にとっても急所だ。
本来なら悶絶するほどの苦痛が襲ってくるところだが、タイガーレディーを襲ったのは絶頂だった。
「イク~~~~~!」
足を広げてだらしないいわゆるアヘ顔で、倒れるタイガーレディー。
その体は痙攣を続けている。
彼女の意思を裏切って、その体は全身で犯してほしいと言っている。
のしかかるファントム。
その姿をタイガーレディは、期待に胸をふくらませ、恍惚として見ていた。
(ああ、ファントム来て……私をむちゃくちゃにして…だって仕方ないもの……敗者は勝者の意のままになる…)
理性を失い、叩き込まれた肉の欲望のままに獣に堕ちようとしたタイガーレディー。
しかしファントムは立ち上がった。
白衣の妖艶な美女が、ファントムに声をかけたからだ。
「ファントム様、スパイ1号が報告したいことがあるとのことです」
「そうか」
(ああ!)
白衣の女――魔女博士の言葉にうなずき、自分に興味を失ったように立ち上がるファントムに手を伸ばすタイガーレディ。
そのことに気が付き愕然とする。
いくら犯されても心は屈しない。
そう決心していたはずなのに、現実には身も心もファントムに屈服し、肉欲の虜となっている。
(私は私は私は)
惑乱するタイガーレディを無視して、魔女博士と会話するファントム。
「何か面白い情報でもあったか?」
魔女博士の白衣に手を突っ込み、彼女の胸をもみしだきながら質問するファントム。
「あん、いいえ、単にジャスティスターの近況報告だそうですわ」
胸から伝わる刺激に陶然として答える魔女博士。
「ふむ一応聞いてみるかな」
(チャンスよ、冴!油断している今しかないわ)
立ち上がって二人に一撃を加えようとするタイガーレディ。
その闘志を構成する要素には多分に嫉妬が含まれている。
残されたわずかな力を振り絞って飛び上がり、右足を鋭く天に突き上げ、そのまま稲妻のごとく敵の頭上にたたき落とす。
テコンドーの代表的な蹴り技、踵落としである。
このときタイガーレディーは自分の失策に気がついた。
自分の着ている強化服は、今股間が切り裂かれてあらわになっているのだ。
つまりファントムに自分の秘所を見せつけているようなものだ。
「だめぇ!」
彼女のイメージでは、自分の秘所を見るファントムの視線が一本のペニスになって突きたてられたようだ。
羞恥心と快感のイメージでバランスを崩し、頭から落下しようとする。
「ああ!」
床に倒れようとする体が、何者かの力強い腕によって支えられる。
誰の腕かと首をめぐらせれば、それはまさしくファントムのものだった。
「!」
ファントムの腕の中にいる。
そのことを自覚した途端、自制が全く効かなくなった。
母親を見つけた迷子の様にファントムの首にしがみつく。
ファントムに頭をポンポンとたたかれる。
それだけで泣き出してしまった。
「ファントム様~~!」
「うふふ、やっと素直になったようね」
魔女博士が笑う。
嘲笑ではなく、わが子を見守る母の様にだ。
「ようやくわかったでしょう。ファントム様の偉大さが」
その声に泣きながらこくんとうなずくタイガーレディー。
「いいこと、ファントム様はこの世のすべての女の夫であり、ご主人様なの。そして女たちはみなファントム様の妻であり、淫らな肉奴隷であり、忠実な僕なのよ」
何度もうなずくタイガーレディ。
「サ、そんな虚飾と偽善の象徴の様な強化服なんて脱いでおしまい。生まれたままの淫らな姿をファントム様にお見せするのよ」
幼子に言い聞かせるような魔女博士の言葉に一つうなずくと、タイガーレディーは一歩下がって、両手の指を強化服の股間の裂け目にかけて、そのまま力いっぱい引き裂いた。
鍛えられた腹筋に続いて豊かな胸が、ここ数日ファントムに凌辱されるたびに大きくなったような胸があらわになった。
(ああ!気持ちいい!ファントム様に見られて気持ちいい!)
もはやファントムに視姦されるだけで絶頂に達しそうなタイガーレディー。
その彼女をさらに快感が襲う。
ファントムの全身から生えた触手によって。
「あひい!」
触手が女体を締め上げる。その凹凸を引き立てるように。
さらに宿主から分泌される液体、かすかに流れる電流、そして振動が彼女の脳や神経を刺激し、快楽で焼き尽くしていく。
「やだあ!いつもよりイイ!気持ちいいの!」
「あなたが素直になったからよ」
「やだあ、逝く、逝っちゃう、まだ入れてもらってないのに!」
「うふふ、何度でもお逝きなさい。ファントム様は何度でも天国に連れて行って下さるわ」
「ああー!」
潮をふいて気絶するタイガーレディ。
その顎をとらえ、マスクの破損部から舌を差し入れ、彼女の口を犯すファントム。
女体が痙攣を始める。
「ふぐ、むぐ、んんん、んー!」
「あら良かったわね。キスだけで逝かせてもらえるなんて」
プハッと口を放すファントム。
力ない声で哀願するタイガーレディー。
「だめ、休ませて、これ以上逝ったらおかしくなりそう」
その言葉にこたえる魔女博士。
「心配いらないわ。おかしくなるのではなく、本当の自分に帰るだけ。さあ、自分を開放するのよ、淫らな獣の自分を」
その言葉が合図だったように、ファントムの下半身の牙が獲物に突き立てられた。
「~~~~~~~~~~~~~~!」
激しい快感に正気を失ったように喚き始めるタイガーレディー。
空中で下から突き上げられ淫らな舞を踊りだす。
大きな胸が上下に揺れる。
尻が左右に揺さぶられる。
「!!!!!!!!」
もはや言葉も話せない。
「――――――!!」
一声激しい声を上げて失神した。
「うふふ、お疲れ様」
触手から解放されたタイガーレディを優しく抱きとめる魔女博士。
その笑顔はまさにわが子を迎える母のよう。
タイガーレディーの口からあふれる、よだれをすする魔女博士。
まさに子供を世話する母親の顔だ。
その偽りの母娘を再び触手が襲う。
「あらあら」
予想していたのか困ったような声を上げるだけで、触手のなすがままにされる魔女博士。
「今なさるのですか」
「ああ、ちょうどいいところに来たものだ」
触手によってタイガーレディーを組み敷くような、四つん這いの体勢を強いられる魔女博士。
同時にその体を覆う白衣も引きちぎられる。
「白か」
魔女博士の下着の色である。
この女、白衣の下は下着しか着ていない。
最も乳首や秘裂が全く隠されていないデザインで、下着の用をたすかわからない。
何より「白」のイメージは彼女にあっていない。
「黒だと透けて見えま…はう!」
触手が彼女を貫いた。
触手が犯しているのは、彼女の膣や子宮だけではない。
魔女博士の肉体はすでにファントムによって作りかえられている。
彼女の子宮には第二の脳というべき器官があり、本来の脳に接続されその働きを補助しているのだ。
どうやら女は子宮でものを考えるというブラックジョークらしい。
そして今、ファントムの触手はその第二の脳にアクセスしていた。
情報と引き換えに快感を送り込みながら。
「あひい!」
第二の脳を経由して、直接脳に与えられる快感に悲鳴を上げる魔女博士。
「ああ!私の脳!オマンコになってる!皺の一つ一つ!オマンコなのー!」
余りの快感に意味不明なことを喚きだす。
その声を聞いてタイガーレディーも正気付く。
最もすぐに狂気の世界に堕ちるのだが。
「はうあ!」
再びファントムがタイガーレディーを犯し始めた。
上では触手が魔女博士を犯し、下では自前のペニスでタイガーレディーを犯している。
タイガーレディーの眼の前では一人の女が快楽によがり狂い、大きな胸がブルンブルンと揺れている。
彼女から見た自分もそうなのだろう。
そうなるとタイガーレディーの胸中に矛盾する感情が生じた。
嫉妬と同胞意識である。
彼女がいとしくて、また憎らしくて、彼女の揺れる乳首を噛んだ。
「あん!」
すると彼女は自分の顔を、その豊かな胸に押し付けるように抱きついてきた。
(そうだ逝け、逝ってしまえ!今は私だけのファントム様だ)
ファントムが別の女を抱くことに関しては問題ないらしい。
さらに攻撃を加えようとするが、すぐにその余裕がなくなった。
ファントムの腰使いが荒くなり、快楽も激しさを増したのだ。
「!~!~!~!~!」
二人の女が言葉にならない悲鳴を上げる。
「いくぞ!」
「「きて~~!私に頂戴!」」
声と同時にファントムが射精し、女たちも絶頂に達した。
「あひいい!私の脳!精液まみれにぃ!」
「とけるぅ!」
特にタイガーレディーは、今までに感じたことのない、身も溶けるような快感を感じていた。
それも当然である。
実際に溶けていたのだから。
ファントムの精液を受け入れた瞬間、タイガーレディーの全身は、それ自体が精液となったようにどろりと溶けた。
そしてその粘液が新たな形を作り出す。
「がああああ!」
そしてあがる獣の咆哮。
あるいは産声か。
そこにいたのは虎の獣人だった。
全身が縞模様の毛皮で覆われている。
ただし体の前面、胸部から股間までは人間のままで、豊かな乳房、鍛えられた腹筋、そして性器があらわになっている。
顔も人間だった名残を強く残している。というよりほとんど変わらない。
ただ目と耳と歯が、虎のものに変わっただけだ。
「おめでとう」
魔女博士が祝福する。
これもまた母の顔だ。
というより実際に母親のつもりなのだ。
パンデモニウムの尖兵であり、兵器でもある獣鬼兵。
これは南極の氷の中から発見された、未知の生物の細胞から作られた。
この細胞の特徴は他の生物に融合することが可能なことだ。
(それなんてデ〇ルマンなんていわない)
これによってパンデモニウムか人間と獣の合成生物、獣鬼兵を完成させたのだ。
そして獣鬼兵を超える超獣鬼兵として改造されたファントムの能力、改造した魔女博士すら予想していなかったその能力は、他の獣鬼兵の獣鬼細胞を取り込みその力を自らのものとする力であった。
さらにそれだけでなく自らで調整した獣鬼細胞を人間に注入することにより、自分の望む獣鬼兵を作ることができるのだ。
ただし、これには獣鬼細胞に対する詳細な知識が必要となる。
ファントムが魔女博士を捕獲洗脳したのはそのためでもある。
魔女博士としてはファントムと二人で作った子供の様な気でいるのだ。
他にもすでに獣鬼兵となっている者ならば、一度の注入で済むが、生身の人間相手では何度かに分けて行わなければ死ぬこともあるなど、制限も多い。
余談だが他者へ、特に女性への獣鬼細胞の注入には別の効力もある。
細胞の親、すなわちファントムに対する絶対的な帰属心を植え込むこと、そして、唯一の同族の「オス」であるファントムに対し繁殖本能を強烈に刺激される、つまり欲情するのである。
「どう?生まれ変わった気分は?」
新しい娘に問いかける魔女博士。愛しい娘はニヤリと獰猛な笑みを浮かべて答える。
「最高の気分よ」
(ああ、そういえば、笑いってのは、牙を見せて威嚇する行動がルーツだったわね)
益体もないことを考える魔女博士の前で、生まれ変わったタイガーレディーはファントムの前に膝まずく。
「ファントム様、ありがとうございます」
礼を述べながらファントムの股間に目をやる。
「ああ、すごい、まだこんなに元気」
そう言って口に含もうとするが他ならぬファントムの手でさえぎられた。
「なぜですか、ご奉仕させてください!」
抗議するタイガーレディーに、魔女博士がたしなめるように微笑み何事か耳打ちした。
するとタイガーレディーは真っ赤になった。
その後ファントムと魔女博士はネオパンデモニウム基地の別の部屋にいた。
携帯型ゲームで遊んでいた女子校生が跳ね起きるように立ち上がる。
「ファントム様!便所女のチエが報告を持ってまいりました!」
心底誇らしげに声を上げる少女。
その少女はかつてファントムが犯した、タケルの取り巻きの一人だった。
「一体何事なの」
眉をよせて聞く魔女博士。
彼女はこの「頭の悪い娘」が嫌いなのだ。
「はい、タケルのやつら、ひどい様ですよ!内輪もめはするわ、理事長の受けは悪くなるわ」
「ほう」
「それでぇ、直接御覧になりたいかと思ってぇ…」
そう言ってスカートをまくるチエ。
下着が半透明になるほど濡れている。
「ふん。ずいぶんとぬれているようだな」
「だってぇ、ファントム様の顔を見たり、声を聞いたら、それだけでジンと来るんですもん」
「まあいい、こい」
肉の牙がその姿を現す。
「はい!」
チエは椅子に腰かけるファントムの膝に座るようにして、その牙を受け入れた。
「ああ!気持ちいいですぅ!チエはこのために生きているんですぅ!」
「さすが精液便女だな」
「そうですぅ!チエはファントム様専用精液便女です!たっぷり注いでください!妊娠させてぇ!」
もはや恥も尊厳もかなぐり捨てて快楽を貪るチエ。
その姿を見て不快な表情になる魔女博士。
(何よ、若いだけが取り柄のくせに!)
般若の顔の魔女博士の前で、チエの痴態は激しさを増す。
白目をむき、よだれを垂らす。
「あひい!いい!いいの!」
「ふん、そろそろいいか」
知恵の耳の穴に舌を差し込むファントム。
その舌は細長く伸び鼓膜を突き破り、知恵の脳に達する。
本来ならすさまじい激痛が走るが、いまのチエにはそれすら快楽だ。
「あひい!耳のオマンコ、処女膜!開通なの!脳みその!皺!一つ一つ!オマンコなの!気持ちいいの!」
(このメスガキ!それは私だけの!私だけに与えられた!)
「あん!」
般若の顔がさらに迫力を増した魔女博士だが、触手が一本股間に侵入したら忘れたようによがりだすから他愛ない。
そうして二匹の雌獣をよがらせながら、ファントムは知恵の脳から情報を引き出す。
するとファントムの脳に、自分で見てきたように、星宮学園の景色が鮮やかに浮かぶ。
内輪もめするタケル達の姿も
そうだ、ずっと、見たかった。
これが見たかったんだ。
もがけ、苦しめ、醜態をさらせ。
今こそ報いを受ける時だ。
チエを帰らせた後、ファントムは魔女博士にキスをする。
口をたっぷりと犯し、疲労回復効果のある成分を含む唾液を飲ませる。
「あ…ファントム様…」
「キスでお目覚めとは、とんだ眠り姫だな」
「もう、意地悪言わないで」
甘えたようにすねて見せる魔女博士。
その姿からは、人体実験を嬉々として行っていた彼女の姿を想像できまい。
「ところで『伯爵』のほうはどうなっている」
現在ネオパンデモニウムが行っている作戦は『巌窟王作戦』という。
『巌窟王』とはファントム――不破ツトムの愛読書で、簡単にあらすじを言うと、無実の罪で牢に入れられた男が脱獄し、無人島の財宝を発見し、その財宝で『モンテ=クリスト伯』という架空の人物になり、自らを陥れた人間たちに近づき復讐するという物語である。
すなわち『巌窟王作戦』とは、他人に任せておきたくなくなったファントムが、別人になり済まして接近するという、ある意味どうしようもなくわがままな作戦である。
そして『伯爵』とは、そのファントムがなり済ます人物であり、その警戒厳重なジャスティスターに近づいても警戒されない人物であることが望ましい。
「はい、現在ブラックウィドーが条件に合う人物を発見、確保に動いているそうです」
すぐに「仕事モード」の顔になり、報告する魔女博士。
「たしか87番支部だったな」
ファントムがモニターを操作する。
光をともしたモニターからは意外な光景が飛び出て来た。
『ああ!ボウヤ!素敵!素敵よ!』
『でちゃう!でちゃうよ!イトヨさん!』
『いいわ!出して!おばさんが!また元気に!してあげるから!』
そこに映っていたのは、喪服を着た妖艶な熟女が、女の子の様にかわいい少年にまたがり、快楽を貪っている姿だった。
喪服の襟からは白い大きな乳房が顔を出し、裾ははしょり上げられむき出しになっている。
「……なんだありゃ?」
「遺伝子を入手しろと命じたのですが…」
「遺伝子…まあ確かに」
他の男の精液を取り込むのかと、内心げんなりするファントム。
そう言っているうちに、画面の少年は限界に達したようだ。
『出る!』
『ああ!あつい!』
少年は絶頂に達したが女のほうはまだだ。
当然おさまりがつかない。
『うふふ、すぐに元気にしてあげるわね』
体を少年の足元にずらし、先ほどまで胎内に納めていたそれを口に含む。
『はわ!』
熟女の巧みな舌で少年の男根は固さをすぐ取り戻す。
『うふふ、若いっていいわね、さあ来て、今度は坊やがおばさんを犯して』
そう言って脚を広げて少年を誘惑する熟女。
その姿はまさに彼女の本性――獲物を待ち構える蜘蛛のようだ。
少年が熟女に覆いかぶさったところで、ファントムはモニターを切った。
「……とりあえず、あいつはお仕置きだな。趣味に走りやがって」
「……はい」
「まあ、あの餓鬼ももうすぐすべて俺に奪われるんだ。少しぐらいいいめを見せてやってもいいだろう」
こめかみを指でほぐすファントム。
「それからミトラのイベントの準備進めておけよ」
「かしこまりました」
ミトラとは生まれ変わったタイガーレディのことである。
イベントとはいわば彼女の入会式である。
それは6時間後に行われた。
ネオパンデモニウムのミトラとして生まれ変わったタイガーレディー――大河冴は、鏡に映った自分を見て感慨にふけっていた。
戦いに生きていた自分には無縁なものと諦めていたその姿。
『女の子の夢』の定番ともいえる『お嫁さん』――ウェディングドレスの自分を見て、である。
ネオパンデモニウムの一員となることは、ファントムの妻の一人となることということなので、入会式の際はウェディングドレスになるらしい。
あの魔女博士もマスターレイブンも着たそうだ。
それにしても素晴らしいドレスだ。
子供のころに夢想したどんなドレスよりきれいだ。
定番の花嫁のベール。
赤いバラのブーケ。
一切の虚飾を排したドレス。
その下着とほとんど変わらないスタイルは、自分の女としても魅力を程よく引き立ててくれる。
そしてこの純白のドレスはもうすぐ赤く染まる。
自分の破瓜の血で。
肉体を再構成された自分は、処女膜すら再生されたのだ。
いまどき処女の身でバージンロードを歩く女がどれだけいるのだ。
最愛の人に花嫁姿で処女を捧げる。
女として最高の幸せではないか。
いけない想像してきたら濡れてきた。
誓いの言葉ちゃんと言えるかな。おさらいしておこう。
「えーと、わたくしミトラはファントム様の妻となることを誓います。
私の心は永遠にファントム様のものです。
ファントム様だけを愛し、ほかの男を憎み軽蔑することを誓います。
私の肉体はファントム様のものです。
いつでもファントム様のおチンポ様を迎え入れられるよう、オマンコを濡らしておくことを誓います。
私の力はファントム様のものです。
ファントム様のお望みのままに力をふるうことを誓います。
私の命はファントム様のものです。
いかなる命令でも成し遂げて見せます。
愛してますファントム様。
私をあなたのものにしてください。
すべてを捧げます。
ここで、土下座して、足にキス、と」
ああ、まだなの、時間よ早く来て。
ファントム様ミトラはあなたのものです、早く私のすべてを奪って。
顔を紅潮させて歩み寄る、新たな生贄を見ながら、ファントムは内心すべてを嘲笑っていた。
破滅に導こうとする兄たちも。
肉欲に狂った女たちも。
女に惑い、自分にすべてを奪われる少年も。
そして、女を支配するときの征服感なしでは生きていけなくなった自分も。
(行先はまさに地獄。それでも引き返せねえ)
自分の周りにいるのはそんな人間ばかりだ。
< 続く >