この素晴らしくも理不尽な世界に 依存編

-1-

―――異能者:常識では考えられない能力を持つ者達の総称―――

 それは、世界中に五十万以上いると伝えられており、その能力(ちから)は解明されない謎が多く、日々研究が続けられている。
 その能力は様々あり、何の意味もないとされているものから、世界を根底から覆しかねないもの、或いは世界の存在そのものを否定しかねない能力まで存在している。
 その危険性と社会への影響が示唆され、その存在は現在も厳重に隠されている。

 また、異能者のほとんどは、その特異な能力を世間に隠したまま普通に生活しており、彼らが進んで一般の人間にその能力の存在を明かすことは少ない。

 異能者の誕生する経緯は不明である。
 多くの場合その能力にはある日突然開眼しているということ。
 そして、概ね共通していることがある。
 それは―――。

――――この素晴らしくも理不尽な世界に=依存――――

「んあっ」

 席で一人、変な声と共に目を覚ます。
 暑さを避けてファミレスに寄ったのだが、そのまま熟睡してしまったらしい。

(いけね、涎の跡がある、朝に入ったのにもう夜の二時かよ、帰ろ)

 そう思い手でごしごし涎の跡を削りながら立ち上がる。
「おはようございます」
 それを見ていた女店員も何処か安堵の表情を見せて声をかける。

(営業スマイル? 長時間いたからか? まあいい、先トイレ)

 長時間眠っていたので顔をチェックしてから帰ろう、そう思い、伝票を持ってトイレに行き鏡でチェックした。そして顔を洗いトイレも済ませるとそのままレジに向かった。

「―――980円、1000円からのお預かりで、20円のお釣りとレシート、お確かめください、ありがとうございました」

 釣りとレシートを受け取ると、店員が小声で囁いてきた。

「いつもおつかれさまです☆」
 そういって彼女は屈託のない笑顔をアキトに見せた。

(あれ? 何か勘違いされたか……)

 少し引っかかったが、そのままレストランを後にした。

 夏の夜、涼やかな風が住宅街を通り抜ける。

 いつもは車の通りも多い住宅街も今は静かで、夜空にはいつもなら見られない数の大小様々な星が輝いていた。

(たまにはこういうのもいいか)

 大学四年で一人暮らしなのだが、部屋に冷房が無いので涼みに外に出た。そしてファミレスに寄ったのだが、日頃の疲れでもでたのか、そのまま熟睡してしまったのだ。

(そういえば、家主さんが何か言っていたな)

 夜空を眺めながら今朝アパートを出る時に会った家主さんとの会話を思い出した。
 それは新しい入居者が来るということ、それで今日荷物を大量に運び入れるはずだ、と。

 アキトの住まいは古い造りの二階建てで八つの部屋があり、一階は三部屋埋まっている。
 そして二階は、今までアキト一人だった。
 アキトは階段に近いからと、階段側から見て左から二番目の部屋に住んでいるのだが、新しく来る人は二階の一番右に来るとのことだった。

(確か右端だったな、明日一応挨拶しとこう)

 ベランダは吹き抜けになっているので、ベランダから他の人の部屋へ行けるのだ。
 どんな人が来たかわからないが用心しよう、もしかしたらもうベランダから部屋の中を覗かれたかもしれない、これからは色々注意しないと、その他諸々考えながら歩いた。

 そして、石の塀に囲まれた、彼のアパートが見えてきた。
 
(どんな人かな、もう今いるのかな?)

 二階の窓を見ると、一番左の部屋のカーテンが閉まっている、もう入っているようだ。
 しかし今は深夜の二時すぎ、眠っているのだろう。

 背伸びして塀の上から一階をみると、左から二番目の部屋だけ明かりがついていた。

 その部屋の住居人は髪を茶色に染めた乱暴そうな男で、普段何かしているという姿は見ないので、いつも部屋の中で何かしているのだろう。
 挨拶に行ったとき凄く驚かれ、それだけで来るなと頭を強く叩かれたのを覚えている。
 短気で乱暴者、あまり関わりたくない人だ。

 そしてその隣、右から二番目の部屋にも男の人が一人暮らしている。
 こちらは少し小太りで普通のおじさんという感じがしていたのだが、いつも暗い顔していて、たまに見かけると何かをしきりにぶつぶつと呟いていて気味が悪い。
 また、たまに錯乱したかのような振る舞いを見せ、このあいだ電車の中で見かけたときは突然奇声を発したので誰もが驚いた、何かに疲れているのか、こちらもできるだけ接したくない人だ。

「こんばんわ」

 塀越しに眺めていると突然背後から声をかけられた。
 慌ててそちらを向くと、肩からバッグを下げた見知った女の人が立っていた。

「あ、こんばんわ、お疲れ様です」
「そちらもお疲れさま、今帰り?」

 彼女はこちらから見て一番左の部屋の住人。
 引き籠っているのか、滅多に見ない妹と二人で暮らしている。
 面倒見が良く、アキトも何度か世話になっている。事情は知らないが以前何かあって両親二人が亡くなり、以後二人で暮らしているという話だ。
 仕事は、風俗その他諸々、簡単に人に言える仕事ではないようで、本人もあまり乗り気では無さそうなのだが、生活のためと割り切っている感がある。
 
 アキトはそのまま彼女と一緒に歩き、いくつか話しながらアパートの前まで回った。

「それじゃ、またね」
「おやすみなさいレンゲさん、スミレさんにもよろしく」
「ん、わかった、おやすみ」

 そういって彼女は戸の中へ消えていった。
 中から声はしない、元々防音対策はそれなりにしっかりしているのだが、静かなものだ。
 俺も帰って寝よう。
 そう思い部屋に向かおうと思ったのだが、2階への階段に短い髪の女の子が一人、うつむいた姿勢で座っていた。
 見ると体中汚れていて素足、着ているものは薄い布きれみたいなボロボロになったもの一枚だけで、他に何か穿いている気配もなかった。

「君は?」

 声をかけると、虚ろな瞳をこちらに向けた。
 
「………」

 無言でじっとみつめてくる。少し怖い。

「こんばんわ、どうしてここにいるの? 風邪ひくよ」

「………」

「家、追い出されたの?」

「………違う」

「それじゃあ、どうしたの?」

「………」

 じっとこちらを見つめるも、何も答えようとしない。

「えっと、おにいさんの部屋、上の階でね、だからそこ、どいてくれないかな?」

「………」
 
 ……、女の子は無言で立ち上がると、階段から離れた。

「ありがとう……えっと、どうしてここにいるの?」

「………」

 何も答えようとしない、困ったな……。
 夏とはいえ時刻は深夜、寒空にこんな姿で心配しない人はいないだろう。
 とはいえ、なんて声をかけたらいいのか困る。

「………おじさん」

 すると、突然口を開いた。

「家、とめて」

 ……はい?

「え、いや、あの」
「泊めて」
「いや、家の人心配するよ」
「泊めて」
「家族いるでしょ、それに―――」

「泊めて」

「えっと……」

「泊めて」

 ………ずいぶん押しの強い。
 ふぅっと一息つくとアキトは

「今夜だけだよ」

 と、声をかけた。
 すると女の子は頭をコクコクとうなずいてみせた。

「はあ、まあ上だから、ついてきて」

 そういって階段を上がり自分の部屋の鍵を開けて中に入った。

「ただいま」

 と言っても、誰もいないのだけどね。

「ほら、あがって」

 そういうと、女の子は俺の後に続いて部屋にあがろうとした。

「あ、ごめんまった、そのまま上がらないで」

 ふと思い出して風呂場からタオルを一枚持ってくるとお湯で濡らした。

「はい、そのまま入るとまずいから、足拭かせて」

 そういうと、彼女は片足を上げ、アキトはそれに合わせてその足の裏から順に拭いていく。そしてそれが終わるともう片方の足を、アキトもまたそちらの足を丁寧に拭いて行く。
 途中彼女の身体が何度か小刻みに震えるのは暖かいからか、それともくすぐったいからか。

「はい、終わり、もう一枚持ってくるから、それで拭きたいところ拭いて」

 そういって彼女から離れるとそのタオルをそのまま洗濯機に入れ、新しいタオルを持ってくるとまたお湯に浸して、そのままシスに手渡した。

「布団は奥の部屋にあるけどその前に、風呂入るか?」
 アキトは上着をかけながら聞くと、女の子はまたコクコクと頷いていた。

「了解、とりあえずちょっと待ってて」

 そういってタオルで身体を拭いている彼女を台所の前のテーブルの椅子に座らせると、アキトは透明のコップに水を入れ彼女に渡した。

「ん、それとおなかすいてない? 何か食べるか?」

 飲みながら彼女はまたコクコク頷いている。イエスとみて良いだろう。

「了解、といってもインスタントしかないけど、先に風呂沸かしてからね」

 そういって浴室に入り、お湯を入れた。
 そして台所の戸棚からカップラーメンを出した。

「こんなもんしかないけど、良いか?」

 俺の言葉に、タオルで髪や顔なども拭きながらコクコクと頷いた。

 イエスと判断するとカップラーメン二つにお湯を入れて4分をタイマーで計り、彼女の前にもっていき、テーブルの上に置いた。
 そして彼女のテーブル真正面に位置する椅子に座った。

「さてと、色々話してもらっていいか?」

 彼女はカップラーメンに目を輝かせながら、無表情でコクコクといつもより早く頷いた。

「まず、なんであんなところにいたんだ?」

 すると彼女は首をぶるぶると横に振った。

「えっと、言えないってことかな?」

 服の中にタオルを入れて、またコクコクと頷く。

「何で言えないの?」

 またぶるぶると横に振る。

「それも言えない?」

 またコクコクと頷いた。

「俺が声かけなかったら、ずっとあそこにいた?」

 またコクコクと頷いた。

「お家はどこ?」

 そう聞くと彼女は、下を指さした。

「あれ、下の子?」

 この下はおじさんが一人暮らしだったような……。
 と思ったら首をふった。

「あれ、君の家はどこ? 下の階ってこと」

 そう聞いても下を指差しながら首を横に振る。

「どういうことだ?」

 アキトは混乱して、頭を傾けた。そして次何て聞くか悩んだ。
 その前に聞くこともあるだろう、たとえば。

「う~んと、そうだ、君の名前は?」

 そう、それそれ。

「………シス」

「え、シス?」

 短い黒髪、ピンクな肌、どうみても日本人だが、親が外国人なのかもしれない。

「えっと、それミドルネーム? フルネームは?」

「………シス」

「え、いやだから」

「シス………」

「シス、ね、わかった」

 押しのシスにアキトは渋々納得した。
 そして丁度、タイマーの音が鳴り、アキトはそれを止めた。

「よし、食べよう、箸一つしかないから、フォークでいいか?」

 シスはコクンと頷いてアキトの手からフォークをうけとった。

「ん、じゃまあ、いただきますっと」

 そういってアキトはラーメンを食べ出した。
 後に続いてシスもタオルを横の椅子に置くとフォークで黙々と食べ始めた。
 表情は変わらないがときどき目が輝くので、それだけ美味しいと思って良いだろう。

 しばし静寂が続く。
 特に話題があるわけでもないので、二人とも黙々と食事の手を進める。
 そしてアキトが食べ終わるより少し早くシスが一滴残さず食べ終わり、ゆっくりと水を飲んでいた。

「ん、ごちそうさま」

 そうアキトは手を合わせて言うと、片付けを始めた。

「後片付けするから奥の部屋、畳で座布団もあるから、そっち行ってて、タオルも洗濯機入れておくから」

 そう言われるとシスは黙ってイスから立ち上がり、とてて、と奥の部屋のふすままで進み、それを開けて奥の部屋に入っていった。

 アキトは箸とフォーク、食べ終わった容器を洗い終えるとタオルを洗濯機に入れ、お風呂を覗いた。
 お湯を見るとあと五分くらいだろうか、とりあえず着替えを持ってくることにしたが、ここである問題に気がついた。

(シスの着替え、どうする? あれをまた着せるわけにいかないし、俺の服にしても……、本人に選ばせるか)

 そう思いシスが入った部屋のふすまを開けて、中を覗いた。

(…………あ)
 
 アキトは思わず息をのんだ。
 
 部屋は真っ暗で、わずかに窓から射す夜空の光に照らされて写された風景は、真ん中に置かれている無機質なテーブルと四方に置かれた座布団、干しっぱなしの洗濯物というの空間なのだが、うっすら見える人の姿は、なんともいえない独特の雰囲気を醸し出していて、思わず見惚れてしまったのだ。

「え、えっと、お風呂だけどさ……」

 アキトは緊張しながらもその影に話しかける。

「着替えがないから、俺の服貸そうと思って、どれにする」
 
 そういって、アキトは部屋の押し入れを開け、中から服をとり出そうとした。
 すると部屋の中の影は、乾してある一枚に手をかけた。

「これがいい」

「え、それ?」

 予想外の返答に思わず戸惑うアキト。

「……だめ?」

 後光に照らされた人の影は、そういってアキトに向き直っている。

「ダメじゃないけど……じ、じゃあ、それとあとどうしよっか」

「これで良い」

「え、そう? じゃあ、いっか、もう少しで沸くけどはいるか?」

 そう聞くと、ひとつの影は畳に手をつき、そのままごろんと横になった。

「……後でいい、それより、しばらくこうしていて良い?」

「えっと、いや、まあわかった、それじゃあ先入るから、後でな」

 そういうと、アキトはそそくさと部屋から立ち去り、部屋の戸を閉めた。

 ちゃぷん。

 アキトは湯船に浸かり、ぼーっとさきほどの光景を思い出す。
 
 シスがいた部屋を立ち去る時、その場にいてはならないという一種の罪悪感に襲われた。
 
 あの時、窓から入る光が横になった少女の姿を鮮明にアキトの目に届けた。

 それは、ボロボロの服を着た、どこにでもいる少女のそれのはずなのだが、アキトの目には思わず見惚れる程の美しさと、決して侵してはならない神聖なものに感じられた。

「………綺麗だった」

 正直な感想だった。
 突然の光景に思わずそう感じさせられていた、さっきまで何処にでもいる少女という認識だったのに、今は―――。

 ガチャン。

 すると、突然風呂場のガラス戸が開いた。

(まさか……)

 思わずそちらに目をやると、やはり、先ほどの影の張本人が立っていた。

「ちょ、シス! なん!」

 彼女は何も着ておらず、アキトは思わず目を逸らす。

「一緒に入る」

「え、いや、ちょっ、おま!」
「身体、洗うね」

 シスはアキトの反応など意に介さず、そのまま風呂場に入ると、しゃがみこんでそのまま身体を洗い始めた。
 思わず背を向けるアキトの後ろでごしごしと身体を洗っている。

(やばい! 突然のことでどきどきしているだけだ! 落ち着け落ち着け!)

 突然の事態に思わず動揺してしまうアキト、一方シスは身体を丁寧に順番に洗っていき、 アキトの気持ちもお構いなしに、それが終わるとそのままお湯に浸かった。

 ちゃぷ。

(どきっ)

 思わず強く心臓が鼓動する。
 シスはアキトの隣でじっとその横顔をみている。
 
 アキトはちらっとシスの方をみつめる。身体は湯船に浸かっているが、お湯越しにその小ぶりな胸がくっきりと見え、慌てて目をそらす……が、思わず何度もちらちらと見つめてしまう。
 するとその視線に気づいたのか、シスはそのままアキト顔を両手で抑え強引に振り向かせた。

「わっ!」
 その力は少女のそれなのだが、アキトの好奇心や欲望も邪魔してか、少女のされるままとなっていた。

「えっと……」

 面と向かって少女の姿を視界にとらえる。
 汚れていてわからなかったが、まだあどけなさを残しているが整った顔立ち、肌は先ほどまでは確かにところどころに小さな傷があったと思っていたが、今見ると何も残っていなかった。
 そしてその表情は澄んだ瞳でまっすぐにアキトを見つめていて、それがアキトの心の奥底までを見通すかのような透明さと、いいしれぬ背徳感をアキトに味あわせた。

「聞いて」
 そのままの姿勢でシスが語りだす。

「な、なにかな」

 緊張しながらアキトも返す。

「しばらく、家にいさせて」
「な、なんで?」
「お願い」
「いや、あの、家や家族は?」
「家事、やるから」
「え、いや、でも」

「わたし、行くとこない」
「へっ? いや、その……んむ!」

 ほんのりと甘く、みずみずしいモノがアキトの口に触れる。
 柔らかく、甘く吸われ、その気持ちのよさに思わず蕩けてしまいそうになる。
 気づけばシスの両手はアキトの頭を抱え込むようにアキトの後頭部を抑えこんでいた。
 そしてふっとシスの唇がアキトから離れる。

「気持ち、よかった?」
 シスの吐息がかかる距離でそのまま聞いてくる。
「あ、ああ」
 思わず正直に答えるアキト。
「ごめん、お湯汚した」
「え?」

 思わず湯船を見ようとしたら、そのまま至近距離にシスの膨らんだバストを捉え、そこに目が一瞬釘付けになる。

「もっと下」

(もしかして……今ので濡らしたとか……)

 アキトの予想とは裏腹に、目に飛び込んできたのはお湯の中でも存在を主張する濁った液体、それはアキトのペニスから発射されたものである。
 なんとアキトは、キスだけでいってしまったのである、それも無自覚に。

「もう一回」

 そういうと、再びシスはアキトの唇を奪った。
 今度は舌がちろちろと口の中に入ってくる。
 そして、予想外の出来事が起きた。

「(ふあっ)」

 口を塞がれていて声を出せなかったが、アキトはそのままの姿勢で湯船に白濁液を勢いよく放出してしまったのだ。
 そして、それに気付いたシスは、再び唇を離すと―――。

「こっち……」

 お湯が汚れると思ったのか、そういって、アキトから離れアキトの手をとり立ち上がると、そのまま浴槽を出た。
 その手はアキトの手を掴んだまま離さない、アキトにも出てきてほしいという事なのだろう。

「え、いや、でも」
 アキトは戸惑っていた、既に二回だしてしまった、それなのに全然射精した気持ちにならないこと、そしてとても積極的な少女とその無表情でありながら扇情的で見惚れてしまう姿、アキトはそのままぼんやりとしていた。

「きて」
 そういってシスはアキトの手を強く握った。
 するとアキトの身体を電流のような快感が貫いた。

「うわっ!」

 脳が思わず熔けてしまうような快感に導かれ、そのまま湯船の中に射精……してない。

「あ、あれ?」

 気持ちよすぎて、射精していないことに逆に違和感を覚えた。
 
「はやく」

「え、ちょ、うあっ!」

 手を掴まれているだけなのにアキトの全身を凄まじい刺激が走る。
 それらは全て射精を促すには十分な刺激だったのだが、一向に出せない。
 そのためアキトのペニスは、大きく膨らんでいた。

「早く、出て」

「うわ、ちょ、まって!」

 慌てて出ようとするも、湯船の感触だけでもアキトは全身を優しく撫でられるような気持ちになり、一々身体が反応してしまう。

 なんとか無事浴室からでると、シスの目の前に立った。
 すると、シスはそのままアキトを優しく抱きしめた。

「ふぁっ」
 するとアキトの身体を更なる快楽が包み込んだ。
 そして、胸に当たるシスの乳房の気持ちよさは、アキトから平常心を奪うには十分すぎるものだった。

「えっ」
 突然強く抱きしめられ、シスも思わず驚きの声をあげた。
 アキトはシスを強く抱きしめ返すと早くイキたいと、ペニスをシスの身体に何度も強くこすりつけた、しかしその快感はどんどん大きくなるばかりで一向にイクことができなかった。

「射精したい?」
 シスはそう、アキトに訪ねた。
「ああ! 我慢できない!」

 もうアキトは、射精したいという願望一つに心を奪われていた。

「わかった」
「うあっ!」
 そういうとほぼ同時に、ペニスが震え、せき止めていた水を放つような勢いで精液がほとばしる。

「ああっ! あっ! あああーっ!」

 ビュルルッ! ビュルッ! ビュルルッ!

 射精は止まる気配を見せず勢いよく発射され続ける。

「うおっ! うおおおっ!」

 そして、そのまま数分経過し、ようやく収まった。

「はあっ、はあっ、はあっ」

 ようやく収まった射精に、アキトの身体にどっと疲れが溢れてきた
 今アキトは、シスの身体に抱きつくようによりかかることで、なんとか立っているくらい力が入らなくなっていた。

「……まさか、こんなにだすなんて」
 自分で自分がだした量に驚いてしまった、シスがしたのは二回のキスと手を繋ぎ、軽く抱きしめたこと、ここまででおそらく二分かかっていないだろうに、それだけでこの有様であった。

「家、いさせて」

「はあ、はあ……いや、ちょっと待って」

 シスにこたえようと息を切らせながらもなんとか話そうと声を吐き出す。

「はあ、はあ、今の何」

「わたし。帰る場所無い、だから置いて」

 そういうと、シスは抱きついているアキトの身体をゆっくりと床に寝かせ、その横にひざを揃えて座った。

「はあ、はあ、っと、えっと?」

 強い射精の後で、アキトの脳は混濁していた。言葉を返そうとするが、まともに思考が回らず、上手く話せない状態になっていたのである。

「もっと、する?」

 そういうと、お腹を中心に大量に絡みついている精液を指ですくうと、そのまま口に運んだ。

「……したい」

 アキトは思考が働かない頭で思わず正直に答えてしまっていた。

「そう」

 そう聞くと、シスはアキトのペニスを強く握った。

「ぐあっ!」

 再び強烈な快感がアキトのペニスを襲う。
 すっかり元気を失っていたアキトのペニスは、少女の手の中でどんどん大きくなり、いつでも射精できるような状態になった。

 アキトの亀頭をもう一つの手がそっと優しく包みこんだ。
「ふあっ」

 気持ちよさに思わず声をもらしてしまうアキト、そしてそのまま強い射精感に襲われた。
 そして握りしめている手から射精を促すような刺激を感じ、そのまますぐ射精する! と思ったところで、その刺激は止まった。
 そしてシスが話しかける。

「家に置かせて」

「な!」

「ここに、いたい」

「い、いやなにを!」

 突然の言葉と今すぐ射精したい気持ちに困惑してしまうアキト。
 するとシスは、亀頭を包んでいた手で球袋を弄りだし、口をアキトのペニスに近づける。
「ふあっ」

「お願い、ここにいさせて」

「いや、っていうかちょっ、まっ!」

 アキトの返事を待たずにシスはアキトのペニスを口内に飲み込んでいく。

「うあっ!」

 いきなり暖かいお湯の中に侵された感覚に襲われた、そしてシスは口内に収めたまま舌を動かし始める。

「ぐあっ! うぁあっ!」
 唇できゅっとペニスを包み込むと舌先で亀頭を奉仕しだした。

「ひゃあっ! きもちっ! ぐあっ!」

 あまりの気持ちよさに鈍器で強烈に殴られた時以上の刺激が頭を貫いた。
 
「チュッ……ヂュチュルル!」

「ぐあっ、ぐおっ、ぐぁあああ!」

 その舌使いは、男がどうやったら喜ぶかを完全にわかっているかのようで、それらの経験が少ないアキトにはまさに全てを奪われるような破壊力だった。

「ぬあっ! あっ! あっ! ……あれ」

 突然止まった舌の動きに思わず反応してしまうアキト。
 するとシスは口を涎まみれのアキトのペニスから離し、そのままアキトの顔を見つめた。
 その唇は涎がアキトのペニスと真っ直ぐに繋がっていた。

「ここに、いさせて」

 そうシスは再び発した。

「え、あ、え、え、えっと……」

「お願い」
 そういうと、再びシスはアキトのペニスを口に含み、舌で愛撫しだした。

「ぬあああっ!」

 さっき以上の快感がアキトを襲う。

「ぬあっ! あっ?」

 すると、今度はほぼペニスの先、尿道の中に感触が伸びてきた。
「ふあっ、あああっ!」

 その刺激は、中程まで伸びると、そこで前後に出し入れしだした。

「ぬあっ! うあっ!」

 また経験したことない快感がアキトを貫いた。
 更に動きをとめていたシスの両手もそれぞれにアキトを強く刺激しはじめた。

「うあああっ! はっ! はっ! わかった! いていい! いていいから!」

 強烈かつ怒涛の快感の連続に、アキトは頭がおかしくなりそうだった。

「だしたい、ださせて、イかせて、おねがい!」

 ズルズルズリュッ!

「ぐぁっ!」

 すると、強烈な射精感と共に大量の精液がシスの口の中に吐き出された。

 ゴクゴク、ジュル、ジュルルッ!

「ぐぁあああ!」

 その刺激の強さに、そのままアキトは気を失った。

 ………………。

 …………。

 ……。

 ここは?

 目を開けると、真っ暗な天井が視界に飛び込んできた。
 そして肌にあたる感覚から、部屋の布団に裸で眠っていると気付いた。

(あれ、俺どうしていたのだっけ?)

 アキトは冷静に、目を覚ます前に何をしていたかを思い出す。

(えっと、たしか帰ってきたらだれかいて、とりあえず家に入れて、そうだシスだ。一緒に食事したあとで……あ!)
 思わず布団から飛び上がる。
(そうだ、シスとお風呂に入って突然迫られて、凄い気持ち良かった……じゃなくて家にいさせてって言われて)

 順に思い出していく、そしてその時、思わずここにいていいと言ってしまった事を思い出した。

(……勢いで言ってしまったけど、やっぱりまずいよな……、そういえばシスは?)
 先ほどのことを後悔しながらシスを探すと、手を強く握られていることに気付き、その先をみると、布団の横でシスがアキトの右手を強く握りしめたまま眠っていた。
 みるとシスも何も着ていない。

 すると、アキトが目を覚ました拍子に気付いたのか、シスも目をあけた。

「無事?」
 眠たそうに左手でまぶたをこすりながらアキトに訪ねてきた。

「あ、ああ大丈夫、だけどなんでそんなところで眠っているの?」

 シスは布団も毛布もアキトが使っていて、畳の上に素肌でそのまま眠っていたのだ。

「倒れて心配だったから」

「え、あそっか、ごめんな、その、気持ちよすぎて、意識飛んじゃったから」

「良かった、前そのまま目を覚まさなかった人いたから、心配だった」

「え……、目を覚まさない、って本当?」
「ほんとう、だから無事で、良かった」

(あれか、俺は危うく殺されかけていたのか)

 衝撃発言に思わず茫然とするアキトをよそに、シスが言葉を続ける。

「あれも、ほんとうでいい?」

「あれ?」

「ここに、いてもいいって」

 そういうと、シスは若干不安そうな顔をアキトに向けた。

(あれっ? さっきのは別に脅していたわけじゃないのか? 良いって言わないと射精させないみたいな……ひょっとして、ただここに居させて欲しいからって、ただおもいきり奉仕していただけだったりして)

 という予感がアキトの脳裏をかすめた。

「やっぱり、だめ?」

 そう、寂しそうな悲しそうな表情でアキトに語りかける。

 するとアキトはふっと笑うと左手でシスの頬を撫でた。

「こんな冷たくしちゃって、ほら布団入った、こっちで眠ると気持ちいいぞ」

 そういうと、シスの顔に戸惑いの色があらわれた。

「いて、いいの?」

「ああ、ただし、しばらくの間だけな」

 そういうと、頬が少し染まり、安堵の色が現れた。

(何か理由があるのだろうし、これで断って悪い人、下の階の男なんかの場所に行かれたらどうなるかわからない、あんなに熱心に奉仕するってことは、それだけここに居たいって事だろうし)

 そう考え、アキトはしばらく、シスを傍に置くことを決意した。

「とりあえず、今日は遅いから寝よう、詳しくはまた明日な」

「うん」

 そういうと、シスはアキトの布団の中に潜り込んだ、そして―――。

「うわっ!」

 冷たく芯まで冷え切ってしまっている身体をそのままアキトにくっつけた。

「あ、そうだ服は? 俺はともかく、おまえ何も着なかったのか?」

「勝手に着たら、まずいと思って」

「え、いや風呂入る前に着ていいって言っただろ」

「でも、聞かないとまずいと思って」

「あ、そうなの」

 アキトは呆気にとられた、先ほどまでの彼女のイメージと違い、何処にでもいそうでいない、されど常識的な思考の持ち主であり可愛い、そして―――。

「おやすみ」

「あ、ああ、おやすみ」

 アキトもそのまま横になると、安心してシスは目を閉じた。

 少しして、すうっと、寝息が聞こえてきた。
(やばい、俺惚れているかも)
 そして、アキトはまだ今日、それも会って数時間程度の相手に心を奪われていた。

(胸触りたいというか、肌に触れたい、でも勝手に触れるのは……)

 と思っているアキトの心と裏腹に、シスはそのまま、アキトの身体に抱きついてきた。0
 それは、まるで抱き枕を抱きしめるかのようにシスはアキトの身体を抱きしめる。
 
(シスの肌、気持ち良いな)

 二人とも裸ではあるが、アキトは欲情するわけでもなく、そういう意識をすることもなく、ただシスの肌の気持ちよさを感じていた。

(そういえば、風呂場で手を握られただけでの快感とか、射精できないとか、あれはなんだったのだろう?)

 そして、そのままそっと抱きしめるようにシスの身体を包み返すと、そのままアキトも眠りについた。

 異能者の多くに概ね共通していることがある。
 それは、異能者の大半は『不幸』だということである―――。

< 続く >

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