─prologue─
「? なんだコレ?」
学校の帰り道……俺は近所のパソコンショップにいた。
とはいえ、ここはただのパソコンショップではなく、少しマニアックな周辺機器などを置いている店だ。
──そして、その店の奥にそれはあった。
パッと見、普通のUSBケーブルなのだが、よくよく見ると一端が少し大きい気がした。 さらにそのコードの中心には、携帯電話サイズの機器が取り付けてある。
「おっちゃーん、これなにー?」
普段から親しくさせて貰っている店主を呼び出し、その物体の詳細を尋ねる。
「んー? どれだぃ? ……おぉ、これはたしか……」
「確か?」
何か特別な機器なのだろうか?
好奇心と期待で心がいっぱいになる。
「……なんだっけなぁ?」
「おいおい頼むぜ……」
お約束のパターンにツッコむ気も起きない……
「ちょっと待ってろ……確か説明書っぽいのがここらに……」
ごそごそとカウンター下を漁るおっちゃん。
そんなとこにしまうなよ……間違って捨てたらどうすんだって……
「……お、あったあった。 ……ん~? なんだこれは」
「どうした? 汚くて読めないとか?」
その不思議なケーブルに、少なからず心惹かれていた俺は、早くその使用方法を知りたかった。
「…………おまえさん、外国の文字読めるかい?」
「外国? そりゃあそれなりに。一応帰国子女ですから」
俺は小学生のとき、アメリカとドイツに1年ずつ住んでいたことがある。 そのためか、世間一般の学生よりは英語・ドイツ語を話す事はできる。……まあ、あくまで日常会話で困らない程度だから、専門用語なんて出されたら理解できない。
「ほう……じゃあこれが読めたらそれ、売ってやるよ」
もともと売る気なかったのかよ……
胸中ではそんなツッコミをいれつつ、受け取った小さな冊子を読む。
「…………」
──これ、何語だ?
どう見ても英語・ドイツ語ではない。しかもこれ、地球の言葉かどうかもあやしいぞ……
「どうだ?」
だけどこのまま分からないってのは悔しいな……
無駄とは知りつつも、一応中身も見てみる。
──ボゥ
「……あれ?」
読める。読めるぞ。
開いた途端、鈍く光ったと思うと突然読めるようになった。
文字が理解できるようになったワケはない。この文字がどこのものかさえ、全くわからないままだ。だが、内容が理解できる。まるでその文字が、何かを描写した絵のように、見ただけで理解できる。
「…………読める」
「へぇ……おまえさん、あったまいいんだなー」
何もわかっていないおっちゃんが、感心したようにつぶやいた。
「よし、それじゃあそいつはタダでやろう!」
「え!? ホント!?」
「あぁ、ホントさ。嘘は言わんぞ」
「サンキュ。 ありがたくもらっとくよ」
そう言うと俺は、ケーブルと説明書を持ち、店を出た。
──ふふっ、コイツは楽しめそうだな。
◇ ◇ ◇
俺は『西山聖司』……大学受験なんてあと一年以上あるから大丈夫、なんて気楽に考えている、学園の2年生だ。 全国でもそれなりに有名な進学校である『双創学園(そうそうがくえん)』に通ってはいるが、学力は周りのレベルに比べたら中堅どころ。とは言え、全国的に見たら旧帝大レベルは苦労せずに入れる程度ではある。
両親は『冒険者になる』とか言って、二人して世界を飛び回っている……今でも。それでどうやって生活しているか、ってのは世界77大不思議の一つ。
それでも俺が、一軒家の自宅で何の苦もなく暮らせているのは、祖父の取得した特許や、闇ルートで出回っている意味不明な発明品のおかげである。……祖父がマッドサイエンティストというのも、ベタな展開が大好きな西山家の血なのだろうか。
──カチリ。ガチャ……
「ただいまっと……」
誰もいない家だが、黙って入るのもなんだかアレなので、一応挨拶はする。
我が家の外見は洋風屋敷で、メイドさんでもいそうな雰囲気。もちろんいないが。……けれど、別にメイドの5人や6人いても困らないほど広さはある。むしろそういう人がいないと、俺一人では広すぎる。
「さぁて……」
さっそく先程戴いたUSBケーブルを取り出す……
「それにしても……何度見ても変な形だよなぁ……」
真ん中には変なのついてるし、端っこは……
「……アレ?」
──形が……変わってる?
先程まで、微妙に大きかったはずの一端が、まるで注射針の用に細くなっていた。
「なんで……? ってかあぶねえな……」
とりあえず危険なので、一度しまってから説明書を読もうとした──その刹那。
──ビュッ!!
「え……っ!?」
突然ケーブルの一端……針のように細くなっているほうが、俺の方に高速で向かってきた。
間髪を容れず避けたが、まるで俺を追尾するかのように進路を変え……俺の喉元に、深く刺さった。
「がっ……っは!!」
い、た……い……
やめろ、くるしい…………
「……ひゅー、ひゅー」
口からは、声にならない、微かな息だけが漏れる。
──やめろ……やめてくれ……
「…………っ」
身体中汗が吹き出て、足はおぼつかない。
なんとかこのケーブルを抜こうと、必死の思いでソレを握り、力のかぎり引っ張った。
……だが、それは抜けない。まるで俺の身体に一部になったかのように、堅く外れなかった。
──そして、それはついに…………すべて俺の体内に入った。
< つづく >